説明

超音波検出器を備える燃料電池システム

本発明は、作用流体用の少なくとも1つのチャネルシステム(2)を有する燃料電池システムであって、チャネルシステム(2)内を一方向(23)に流れる作用流体の湿度含有量を調整するためのデバイス(12、22)を有し、デバイス(12、22)が、チャネルシステム(2)内の実際の湿度を示すセンサを含む燃料電池システムに関する。本発明の目的は、実際の湿度の信頼可能で動的な測定が可能な燃料電池システムを開発することである。本発明は、実際の湿度を測定するための超音波検出器(16、17)を設けることで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段部による燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システム、詳細には、モジュラー式に組み立てられた燃料電池を備えるシステムは、流体作動物質の入口、循環、および出口用の少なくとも1つのチャネルシステムを備える。電力を生成する際、高い効率レベルを実現する目的で、少なくとも1つの作動物質の圧力および/または温度および/または湿度および/または組成を制御または調整するためのデバイスが設けられる。制御または調整されるべき変数の特定の実値を検出するために、好ましくは貯蔵タンク上、反応する物質を生成するデバイス上、および/またはチャネルシステムのチャネル上に配置されたセンサが使用される。
【0003】
特許文献1は、固体高分子型燃料電池システム(PEM燃料電池システム)の典型的な構造を示す。PEM燃料電池システムは、カソード極、アノード極およびマトリクスで構成され、これらが一緒に電極接合体(MEA)を形成する。カソード極およびアノード極は、どの場合においても、触媒材料の支持体として機能する導電性の本体で構成される。マトリクスは、カソード極とアノード極の間に配置され、電解質の支持体として機能する。複数の燃料電池が、間に挿入されたセパレータプレートを使用して互いの上に重ねられる。酸化体(酸化剤)、還元体(燃料)および冷却剤の入口、循環および出口は、セパレータプレートを使用して生成されるチャネルシステムを介して続いている。各液体または気体作動媒体に関して、燃料電池スタック内に、供給コレクタチャネル、分配チャネルおよび出口コレクタチャネルが設けられ、これらは、密封手段によって互いから分離される。少なくとも1つの入口コレクタチャネルを介して、スタックのセルに平行して酸化流体、還元流体および冷却剤が供給される。反応生成物と、セルからの余剰の還元流体および酸化流体と、加熱された冷却剤とが、少なくとも1つの出口コレクタチャネルを介してスタックの外に送り出される。分配チャネルは、入口コレクタチャネルと出口コレクタチャネルの間の接続部、および燃料電池の個々のアクティブチャネルを形成する。燃料電池は、電圧を大きくするために、直列に接続されてよい。スタックは、エンドプレートによって閉鎖され、1つの筐体内に収容され、正極と負極は、消費者ユニットまで外部に伝えられる。
【0004】
PEM燃料電池システムにおいて、燃料は、水素を含み、空気と水蒸気の気体混合体が、カソード側に供給される。気体混合体の露点は、好ましくは、気体温度をおよそ5℃下回る必要がある。いずれの所望の作動温度でもこれを実現するために、一定の実値判定を有する湿度制御用のデバイスが設けられてよい。
【0005】
実際の湿度を測定するために、光学または容量センサを使用することが既に提案されてきた。センサ表面上に液体フィルムが形成された場合、これらのセンサの信頼性および測定精度は、損なわれる。
【0006】
付加的に、温度および圧力を測定することによって、実値を間接的に判定することが提案されてきた。このような測定器具は、複雑であり、測定のダイナミックレンジが低い。
【0007】
特許文献2に記載されるように、気体の湿度は、カーボンブラックの層と協働する抵抗測定構造体によって判定することができる。測定速度は、遅く、抵抗測定構造体は、その構造上の大きさにより、燃料電池システムの幅の狭いチャネルでしか使用することができない点で不利である。
【0008】
流れる流体における粒子の濃度または密度、および速度を測定するためのデバイスが、特許文献3から知られている。これらの変数を測定するために、超音波検出器がチャネルの壁上に設けられる。多周波作動で超音波送信器から発せられる音波は、粒子によって反射される。反射した波は、超音波受信器によって受信され、ドップラー原理によって、粒子の運動がもたらした周波数偏移および超音波吸収が評価される。デバイスによって検出可能な粒子は、1μmから1000μmのサイズの範囲である。
【0009】
特許文献4による調理装置において、音速を測定することによって、調理チャンバ内の調理大気の密度が判定され、その結果、そこから水蒸気の含有量、したがって、調理大気の湿度が導き出される。この出願において、調理温度が、調理大気の密度に影響するという事実が考慮される。音速測定は、調理チャンバに大気接続された測定管の中で行うことができる。音速は、超音波送信器および超音波受信器を使用して測定され、それらの間には既知の測定経路が配置され、これらは、単一のユニット内に組み込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第100 47 248 Al号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第101 49 333 Al号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第199 44 047 Al号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第101 43 841 Al号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、チャネルシステム内を一方向に流れる作用流体の湿度含有量を調整するデバイスを備え、実際の湿度の信頼できる動的な測定を可能にする燃料電池システムを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本目的は、請求項1の特徴を有する燃料電池システムによって実現される。有利な展開は、従属項によって明らかになる。
【0013】
本発明によると、実際の湿度を測定するのに、超音波検出器が使用される。本発明は特に、燃料電池システムのカソード側の実際の湿度の測定に適用可能な点で有利である。
【0014】
実際の湿度を測定するために、好ましくは、音速が、チャネルシステムのチャネル内を流れる作用流体内で判定され、そこから、露点温度が導き出される。超音波検出器は、互いから一定の既知の距離に配置された送信器および受信器を備える。同一の温度で、水蒸気内の音速は、乾燥空気よりも高くなる。これは、作用流体の湿度が上昇する際、音速が測定経路に沿って増大することを意味する。水の蒸気圧は、温度が上昇すると急激に増大するため、一方で温度が上がる際、他方で作用流体のそれぞれの露点に達した際、測定原理の精度が増す。
【0015】
本発明を図面中の例示の実施形態を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カソードチャネルシステム内の湿度を調整するためのデバイスを備えた燃料電池システムの線図である。
【図2】空気/水蒸気の混合体の流れの方向を横切るようにその送受信方向が配置された送信器および受信器を備えた超音波検出器を示す図である。
【図3】空気/水蒸気の混合体の流れの方向にその送受信方向が配置された送信器および受信器を備えた超音波検出器を示す図である。
【図4】1つの筐体内の送信器および受信器と一緒に配置された超音波検出器を示す図である。
【図5】湿度測定の精度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、カソードチャネルシステム2内の湿度を調整するためのデバイスを備えた燃料電池システム1の線図を示す。カソードチャネルシステム2に加えて、燃料電池システム1は、冷却チャネルシステム3およびアノードチャネルシステム4を備える。高圧水素タンク6から制御弁5を介して、アノードチャネルシステム4に水素が供給される。冷却水が、ポンプ7、制御弁8および熱交換器9を有する回路内を冷却チャネルシステム3を通って流れる。酸素を含む空気が、送風器10を使用して、制御弁11を介してカソードチャネルシステム2に供給される。水蒸気生成器13からの水蒸気が、制御弁12を介して空気に付加される。温度センサ14、15が、アノードチャネルシステム4およびカソードチャネルシステム2内に配置される。超音波検出器は、カソードチャネルシステム2に連結され、該検出器は、超音波送信器16と超音波受信器17とで構成される。カソード極18およびアノード極19は、電流制御装置20に接続される。自動車の電気モータ21が、電流制御装置20に接続される。ポンプ7、送風器10、弁5、8、11、12、温度センサ14、15、送信器16、受信器17および電流制御装置20は、制御調整デバイス22に接続される。
【0018】
燃料電池システム1の作動中、カソードチャネルシステム2内の空気の湿度は、送信器16および受信器17を使用して絶えず測定される。送信器16から超音波が発せられ、これらは、カソードチャネルシステム2内の湿った空気を突き抜け、受信器17に突き当たる。送信器16および受信器17は、互いから一定の既知の距離にある。音波の伝搬時間、および送信器16と受信器17の間の距離から音速が得られ、これは、その時の空気の湿度に左右される。制御調整デバイス22内の受信器17の信号から判定された実際の湿度は、蓄積された基準湿度と比較される。実際の湿度と基準湿度の差は、制御デバイス22を使用して、弁12の開閉の範囲を大きくしたり小さくしたりすることによって補償される。このようにして、水蒸気生成器13からある程度の水蒸気が、送風器10によって運ばれた空気の中へ送り込まれる。弁12に関する制御変数を決定する際、カソードチャネルシステム2内の温度が考慮される。この温度は、温度センサ15の測定値から得られる。
【0019】
図2から4は、カソードチャネルシステム2内の送信器16および受信器17の配置の変形形態である。
【0020】
図2による変形形態では、湿った、酸素を含む空気は、矢印23の方向にカソードチャネルシステム2を通って流れる。空気が層流式に流れるカソードチャネルシステム2の領域において、送信器16および受信器17は、超音波24が、流れの方向23を横切って通るように配置される。
【0021】
図3によると、2組の送信器16.1、16.2と、受信器17.1および17.2とが、層流を有するカソードチャネルシステム2の一部に設けられる。送信器16.1、16.2から発せられる超音波24.1、24.2は、カソード気体混合体の流れの方向23に、およびこの方向と反対に進む。湿度を測定する際、測定誤差を回避するために、空気/水蒸気の混合体の流れの方向23の、およびこの方向と反対の音速が、受信器17.1、17.2からの信号から判定される。2つの音速信号の差は付加的に、混合体の流量を判定するのに使用することができる。
【0022】
図4は、超音波送信器16および超音波受信器17が、共通の筐体内でカソードチャネルシステム2の片側に配置された変形形態を示す。空気/水蒸気の混合体の音速または湿度の測定は、流れの方向23から独立している。共通の筐体内に配置された結果として、超音波検出器は、製造および設置の費用が安く、検出器は、わずかな量の構造上の空間しか占めない。送信器16および受信器17に面するカソードチャネル2の壁は、超音波反射体25の形態を取る。送信器16から超音波24.1が発せられ、反射体25に突き当たる。反射体25から戻るように反射された波24.2は、受信器17によって受信される。
【0023】
図5に示されるグラフは、80℃の作用流体温度および2.2バールの絶対気圧で、燃料電池システムの作用流体における露点温度、および相対湿度を判定したときのそれぞれ精度の従属関係を示す。曲線26、27は、超音波検出器によって、作用流体内の音速を測定したときの異なる精度から得られる。上記に記載するように、測定湿度値は、測定音速値から導き出される。曲線26は、結果として測定精度1m/sとなる。曲線27は、測定精度0.5m/sに適用される。60%から100%の相対湿度レベルで、露点温度を判定する際の誤差は1℃を下回ることが、曲線27から明らかである。したがって、いずれの場合においても、湿度調整によって、作用流体の露点が、常に作用流体温度を、所定の分量、例えば5℃下回ることを保証することが可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 燃料電池システム
2 カソードチャネルシステム
3 冷却チャネルシステム
4 アノードチャネルシステム
5 弁
6 高圧水素タンク
7 ポンプ
8 弁
9 熱交換器
10 送風器
11、12 弁
13 水蒸気生成器
14、15 温度センサ
16 超音波送信器
17 超音波受信器
18 カソード極
19 アノード極
20 電流制御装置
21 電気モータ
22 制御調整デバイス
23 矢印
24 超音波
25 超音波反射体
26、27 曲線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用流体用の少なくとも1つのチャネルシステム(2)を有し、前記チャネルシステム(2)内を一方向(23)に流れる前記作用流体の湿度含有量を調整するためのデバイス(12、22)を有し、前記デバイス(12、22)が、前記チャネルシステム(2)内の実際の湿度を示すセンサを含む燃料電池システムであって、実際の湿度を測定するために、超音波検出器(16、17)が設けられることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記超音波検出器が、主要な送信方向を有する超音波送信器(16)と、主要な受信方向を有する超音波受信器(17)とで構成され、前記主要な送信方向と主要な受信方向とが、前記作用流体の前記流れの方向(23)を横切るように配置されることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記超音波検出器が、主要な送信方向を有する超音波送信器(16)と、主要な受信方向を有する超音波受信器(17)とで構成され、前記主要な送信方向と主要な受信方向とが、前記作用流体の前記流れの方向(23)に平行に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
2つの超音波検出器(16.1、17.1;16.2、17.2)が、対向する送信方向および受信方向を有して設けられることを特徴とする、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記超音波検出器が、共通の筐体内に配置された超音波送信器(16)と超音波受信器(17)とで構成されることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記超音波送信器(16)および前記超音波受信器(17)から所定の距離に超音波反射体(25)が設けられることを特徴とする、請求項5に記載の燃料電池システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−517229(P2010−517229A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546674(P2009−546674)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000283
【国際公開番号】WO2008/089903
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【出願人】(509072180)フォード グローバル テクノロジーズ エルエルシー (9)
【Fターム(参考)】