説明

超音波水処理装置

【課題】振動をロス少なくホーンに伝播させ、またホーンから放射された音響エネルギーを効率的に利用する。
【解決手段】処理水に振動体が触れる面積を最小限にとどめ、様々な柔らかさの部材を組み合わせて効率的な定在波音場を形成する。さらに高音圧が生じる領域を、十分な剛性をもつ容器で囲い込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波による水処理方法および水処理装置に係り、特にエネルギー消費量を低く抑えつつも高い音圧、および強いキャビテーションの発生が要求される応用分野、たとえば飲料水や循環式浴槽における細菌の殺菌処理などに使用して好適な水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水に強い超音波振動を与えると、音響化学的な酸化作用のほか、キャビテーション崩壊時に発生する強い衝撃波によって細菌の殺菌が可能であることが知られている。現在、特許文献1に記載の例のように、超音波を循環式浴槽での殺菌に適用する水処理装置も開発されている。また、特許文献2には、ボルト締めランジュバン型振動子に結合されて振動する円柱の全体を円筒内に配置し、円柱のほぼ全表面に膜状に流れる水にキャビテーションを発生させる水処理装置が開示されている。その他、超音波によりアメーバや菌のクラスタを分解するなどし、紫外線、オゾンあるいは光触媒などによる殺菌効果を向上させる装置もある。一方でまた、超音波は洗浄の手段としても広く用いられる。これは超音波による水の攪拌効果や、比較的低い音圧下で発生したキャビテーションの放つ弱い衝撃波によって、対象物表面に付着した汚れを剥離させるというものである。その他、超音波診断等の医療分野にも超音波は広く適用されている。
このような超音波水処理装置では、超音波駆動する共振構造を処理すべき水中に浸漬するか、処理水を蓄えるタンクの裏面に振動子を密着させタンク内壁自体を振動させるなどして、処理水に超音波振動が伝えられている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−267640号公報
【特許文献2】特開2001−334264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように超音波の工学的な応用範囲は非常に広いが、経済効率の良い装置運用のためには、実際の目的に適した超音波の発生・利用を行わなければならない。たとえば、さほど音響エネルギー密度を要さない超音波洗浄などの分野と、高い音響エネルギー密度(大きなキャビテーション強度)を要する殺菌などの分野とでは、基本的な装置構造が異なって然るべきである。
【0005】
キャビテーション崩壊時に発生する衝撃波の強度は、Rayleigh-Plessetの式を数値的に解くことによって導かれる。それによれば、超音波によって水中に生じる音圧がおよそ2.5[atm](p-p)以上になると、キャビテーション崩壊時の衝撃圧力が急激に大きくなり、細菌の殺菌効率が大きく改善されると予想される。水中に生じる音圧は、水の固有音響インピーダンスが一定ならば超音波振動子の振幅の大きさに比例するため、より大きな音圧を得るには振動子をより大きく振動させればよい。ところが、一旦水中にてキャビテーションが発生すると、水の固有音響インピーダンスは1/30程度まで減少してしまう。したがって、キャビテーションが生じていないうちは、わずかに振動子を振動させるだけで音圧が大きく上昇するが、水中にキャビテーションが発生するようになると、急に音圧の上昇が飽和傾向を示すようになる。理論的には、進行波音場、大気圧1気圧の環境下にて2.5[atm](p-p)以上の高音圧を得るためには、水中で振動子をおよそ60[μm](p-p)と非常に大きく振動させなければならない。
【0006】
このように大きな振幅によって高音圧を発生させるのは、従来の装置では実現が困難である。大振幅に装置部材自体が耐えられず、またエネルギー消費も甚大となるためである。
【0007】
前記特許文献1や特許文献2では、このような点に関しての配慮が示されていない。例えば、特許文献2では振動体の全体が水中に浸漬されており、振動体を伝播してきた振動エネルギーが水を通してケースへと散逸してしまうほか、水中に余分なキヤビテーションが発生するため、大きなエネルギーロスとなってしまうことが考えられる。
【0008】
本発明は上記課題を解決し、従来よりも少ない消費電力でキャビテーションを発生させることができ、また大きな電力を供給した場合には非常に強いキャビテーションを発生させることもできる、エネルギー効率に優れた超音波水処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の特徴の1つは、振動子と共振構造を有する振動体と、該振動体を支持すると共に水処理部が設けられた容器とを有し、前記振動体を超音波振動させて発生する音波を前記水処理部の処理水に照射して処理する水処理装置であって、前記振動体の振動の節となる部分を前記容器にシール部材を介して保持すると共に、該振動体の主たる振動体表面である反振動子側先端面を振動体処理面として前記水処理部に配置し、前記振動体の該シール部材を挟んで前記振動子側の側面と前記容器との間を空間とし、前記振動体の反振動子側の側面と前記容器との間に隙間を設け、該隙間を前記水処理部と連通させたことにある。
本発明の他の特徴については、以下の説明で述べる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、共振構造を駆動制御し処理すべき水等に超音波振動を与えて液中に強いキャビテーションを発生させるものにおいて、振動体は、振動の節となる部分で容器に保持され、振動体側面が水や容器等と接触する面積が狭くなる。そのため、共振構造で発生した超音波振動が効率良く処理すべき液体にまで伝播され、また処理面より放射された音響エネルギーの損失も少なくできる。そのため、より少ないエネルギー消費量で高音圧および強いキャビテーションを発生させることができ、水等の殺菌、洗浄などの水処理に対して有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による超音波水処理装置とそれを用いた超音波水処理方法の実施形態を図面により詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明における一実施形態による超音波水処理を、水の循環処理に適用した場合のシステム構成図である。図1中、101は超音波水処理装置、102は同装置内における超音波発生部、103はその水処理部、104はローラーポンプ、105は処理水タンク、106は処理水、107は配管系、108は発信器、109は増幅器、110は摺動変圧器、111は電気配線系である。超音波水処理装置101は、超音波発生部102で共振構造を駆動し超音波振動させることにより、水処理部103で飲料水、温泉水などに超音波処理を施す。
【0013】
本システムにおける水の循環系は、図1に実線で示したように、超音波水処理装置101内における水処理部103、ローラーポンプ104、処理水タンク105、配管系107によって構成され、処理水106がこれらを循環する。
【0014】
図1中、処理水タンク105に蓄えられた処理水106は、ローラーポンプ104により加圧されて、配管系107を経て超音波水処理装置101内における水処理部103に導入される。そこで超音波照射により処理された後、配管系107を通って再び処理水タンク105へと戻される。水循環用のポンプとして、たとえばカスケードポンプや渦巻きポンプなど、ローラーポンプ104以外の種類のものを用いることもできるが、そのようなポンプは処理水106中に大きな(直径がmmオーダーの)気泡を巻き込んでしまうため、該ポンプの後段に図示していない脱泡装置を組み合わせ、気泡を除去する必要がある。このような大きな気泡を、以後は粗大気泡と呼ぶ。処理水106中に粗大気泡が残存したまま超音波を照射しても、音響エネルギーが粗大気泡のさらなる粗大化に対し優先的に消費されるため、水処理において有効なキャビテーション(直径がおよそ10μm以下と言われる)の発生が効率的に行えない。さらに粗大気泡自体が定在波音場を乱し、共振を妨げるため、所望する高音圧を発生することができない。特に本装置のように定在波音場を利用する場合、超音波処理に先立ち粗大気泡を除くことは非常に重要である。また、脱泡装置により粗大気泡を除いた後、さらに図示していない真空脱気装置などにより水中の溶存気体量を減らすと、高音圧の発生により有利となる。
【0015】
本発明における一実施形態による超音波水処理システムの電気系統は、図1に破線で示したように、超音波水処理装置101内における超音波発生部102と、発信器108と、増幅器109と、摺動変圧器110と、電気配線系111とにより構成される。超音波発生部102は、摺動変圧器110と増幅器109とを介し、発信器108と電気接続される。
【0016】
図1中、発信器108より所望の周波数(例えば15kHz)の正弦波を出力させ、それを後段の増幅器109で増幅した後、さらに摺動変圧器110を通し超音波発生部102に入力する。超音波発生部102の振動子に入力された電気的な振動は機械的な振動に変換され、振動子に接続された振動体(ホーン)により超音波を得る。前記摺動変圧器により、電源側(1次)と超音波水処理装置101(2次)とのインピーダンス整合が図られる。
【0017】
次に本発明における一実施形態による超音波水処理装置101の構造について、図面を用いてさらに詳しく説明する。
図2は、本発明における一実施形態による超音波水処理装置101の最も基本的な構造のひとつを模式的に示したものである。図2中、201はボルト締めランジュバン型振動子、202は電気端子、203は電気端子(アース)、204は振動体としてのホーンである。205はフランジ、206はホーンを保持する容器としてのケースであり、共に金属材料、例えばステンレス鋼で構成されている。207は水シール用の部材としてのシリコンゴムである。208は吸振用のスポンジである。210は水流ガイド用パイプである。211は筒状の水導入口、212は筒状の水排出口であり、それぞれ円筒状のケース206に接続されている。超音波照射により水を処理する水処理部216は、水導入口211側に設けられた副処理部216Bと、ホーン204の先端が面する主処理部216Aからなる。副処理部216B内にケース206と一体の円柱状の台219が設けられ、その上に円柱状の独立気泡スポンジ209が固定されている。
【0018】
本発明では、ホーン204の表面のうち、装置の中心軸に垂直でかつ処理部216内に位置するホーン面をホーン処理面(振動体処理面)213、ホーン204のその他の面をホーン側面(振動体側面)214と呼び、双方を区別する。またホーン処理面213に対向するケース206の内壁を、特にケース底面215と呼ぶ。また、シリコンゴム207と相対するホーン側面の部分をホーン側面支持部217と呼ぶ。
【0019】
本実施例のホーン204は円柱状になっており、ホーン側面214とその外側の円筒状のケース206の内周面との間に、ホーン処理面213付近で2mm〜3mm程度の半径方向の隙間がある。
【0020】
ホーン204は、軸方向に振動しない振動の節にあたる位置でフランジ205によりケース206に支持されている。また、水をシールするためにゴムなどでホーンを押さえつける必要があるが、振動の腹に近いところでホーンの振動を抑制してしまうと、当然ながら大幅な負荷増大となってしまう。本発明では、振動の節となるホーン側面支持部217をシリコンゴム207で支持し、振動の腹をホーン処理面213としている。また、ホーンの振動子201より遠い側すなわち反振動子側先端面を主たる振動体表面であるホーン処理面213として水処理部216内に配置し、ホーンのシール部材(シリコンゴム207)を挟んで振動子201と同じ側の側面とケースとの間を大気に連通する空間とし、ホーンの反振動子側の部分の側面とケースとの間に隙間を設け、この隙間を水処理部と連通させている。
【0021】
水は水導入口211から導入され、水流ガイド用のパイプ210を通ってホーン処理面近傍へと運ばれる。運ばれた水の大半はホーンの脇を高速で流れる水流の影響によりホーン処理面に沿って流れる。パイプ210は定在波音場を乱さないよう、音響的に透明な材質を用い、できるだけ肉厚を薄くする。例えば、厚さ0.5 mmのアクリル樹脂を使用する。
【0022】
一方、ケース206とホーン204とフランジ205及び水シール用シリコンゴム207で囲まれた領域は、空気の存在する大気圧の空間218となっており、フランジ205と水シール用シリコンゴム207の間でホーン204の側面に接触するものはない。ケース206は、処理部216を構成する部分では厚い高剛性部であり、一方、ケース206のホーン側面支持部217や大気圧室218の外周を構成する部分は、薄い低剛性部となっている。なお、実施例ではケース206を単一の構造物として示しているが、高剛性部と低剛性部とを2個以上の別部材として形成し、これらを一体的に固定あるいは接合してもよい。
【0023】
本発明の一実施形態による超音波水処理装置101のうち、特に超音波発生部102は、ボルト締めランジュバン型振動子201と、電気端子202と、電気端子(アース)203とによって構成される。電気端子202および電気端子(アース)203は、前出図1で示したように摺動変圧器110と増幅器109とを介して発信器108へ接続される。
【0024】
超音波発生部102において発生した超音波は、それに接続されたホーン204と、フランジ205と、ケース206と、水シール用ゴムパッキン207と、スポンジ208とから構成される振動系を通り、水処理部103へと伝播される。ホーン204は、ボルト締めランジュバン型振動子201による振動により、ホーン処理面213が軸方向に30μm程度振動し、処理部216内の処理水106へ超音波を伝達する。
【0025】
本発明の一実施形態による超音波水処理装置101のうち、特に水処理部103は、主に、ケース206と、独立気泡スポンジ209と、水流ガイド用パイプ210と、水導入口211と、水排出口212と、ホーン処理面213とにより構成される。ホーン204を伝播してきた超音波は、ホーン処理面213を通して処理水106へ伝えられ、水中に強力なキャビテーションが発生するなどにより、水処理がなされる。
【0026】
次に超音波発生部102における超音波の発生、およびその伝播機構について詳しく説明する。
本発明における一実施形態による超音波発生装置101では、前述した発信器108により共振周波数付近の周波数を持つ正弦波を発生させ、これを増幅器109で増幅した後、摺動変圧器110で変圧して、これに電気的に接続された超音波発生部102におけるランジュバン型振動子201を駆動する。ランジュバン型振動子201は駆動電圧に応じた振幅で振動し、超音波を発生する。
【0027】
ランジュバン型振動子201にて発生した超音波振動は、ホーン204の各部を経由してホーン処理面213へと伝播される。ホーン204各部の寸法はその中を伝わる基本波の波長を元にして決定され、典型的には、ランジュバン型振動子201からホーン処理面213までの距離が、基本波における波長の整数倍になるように設計される。本発明の一実施形態による振動系においては、ランジュバン型振動子201からホーン処理面213までの距離は基本波における波長の2倍とした。また振動の節となる部分にフランジ205を設け、フランジ205とケース206とをボルト、ナット等で締結することによりホーン204を支持する。この時、フランジ205とケース206との間にスポンジ208等を挟み、フランジ205からケース206への振動伝播を抑制する。一方、径方向への振動モード発生を抑制するため、ホーン204の直径は基本波の波長より短くする必要がある。本発明の一実施形態による超音波発生装置101では、ホーン204の直径は60mmとした。
【0028】
また本発明の一実施形態による超音波発生装置では、図2のように、ホーン204の振動の節となる位置を水シール用シリコンゴム207で強く押さえ、処理水106がそれより上の空間内へ浸入しないようにしている。水シール用シリコンゴム207は断面が長方形をしたリング状で、これを上下からケース206で挟み込み、ボルトで締め付け、圧縮することにより、シリコンゴム207を径方向内側へと押し出させ、この時の圧力でもってシリコンゴム207をホーン側面214へ密着する。シリコンゴム207と相対するホーン側面217の領域には、図示しない市販のシール剤等を塗布し、両者の密着性をさらに向上させた。このように処理水106をシリコンゴム207などで封止し、処理水106がフランジ205やホーン側面214に接触する面積を狭くすることで、負荷を軽減し、余分なキャビテーションの発生を抑制することができ、したがってエネルギー効率良くホーン処理面213を振動させることが可能となる。
【0029】
また、ホーン204の振動の節となる位置を水シール用シリコンゴム207で強く押さえ、処理水106がそれより上の空間内へ浸入しないようにしていることにより、ホーンの振動エネルギーの散逸を大幅に低減できる。フランジ部分ややホーンの側面に水が接触すると、ホーンを伝播してきた振動エネルギーが水を通してケースへと散逸してしまうほか、水中に余分なキヤビテーションが発生するため、大きなエネルギーロスとなってしまう。本発明の構造によれば、ロスを少なくして振動を効率良くホーン先端の処理面へ伝え、水処理部に高密度の音響エネルギーを発生させることができる。
【0030】
本発明の一実施形態による超音波発生装置では、我々が開発した従来の開放系超音波発生装置に比べて、負荷インピーダンスを従来比1/2〜1/4の200Ω(消費電力300W時)に低減すると共に、同消費電力における振幅も従来比2倍以上に改善することができた。
【0031】
本発明の一実施形態に示したように、高音圧の発生するホーン近傍などでは、ホーンとケースとの隙間を3mm以下と狭くすることにより、音庄の低下を抑えることができる。図3はホーンとケースとの隙間と音庄の関係についてのシミュレーション結果を示す図である。これは、ホーン処理面からその法線方向へ1mm離れた水中での音圧分布を示したもので、横軸はホーン中心軸からの半径距離r(mm)、縦軸は隙間1mm時の値で規格化した音圧である。なお、グラフ背景の1/4円によりホーンの大きさを示し、またグラフ右方のハッチにより、それぞれの場合におけるケース内壁の位置を示した。図3によれば、隙間が3mm以下では音圧の分布に大きな変化はなく、ホーン全面に渡ってほぼ均一に音圧が維持されているが、隙間が5mm、10mmになると全体的に、特にホーン周辺部にて音圧が低下している。
【0032】
図4のように、本発明の一実施形態による超音波発生装置では、ホーン側面の一部301とそれに相対するケースの一部302との間に処理水の薄い層303が形成される。
【0033】
このような処理水の薄い層303が存在する領域では、水が音響的に硬く見えるため、ホーン204内における超音波の効率的な伝播を妨げる可能性がある。しかしこの時、ホーン側面の一部301に相対するケースの一部302の材質を比較的柔らかいものにし、またその肉厚もごく薄くすることで、処理水の薄い層303およびケースの一部302まで含めた局所構造全体が共振するように設計することができ、ホーン処理面213の振動がより効率的に行えるようになる。ここで、ケースの一部302の肉厚は、その材質中における基本波の波長の1/160以下(例えば、ステンレス鋼では約2mm以下)とした。
【0034】
次に水処理部103の構造について、図面を用いてより詳しく説明する。
本発明の一実施形態による超音波発生装置では、図5のように、ホーン処理面213からこれに対向するケース底面215までの距離L1を、基本波の1/4波長の整数倍とする。本実施例においては50mmとした。これは水中における基本波(周波数15kHz)の半波長分に相当する。またケース底面215の肉厚は厚いところで20mm以上あり、したがってホーン処理面213とケース底面215は音響定在波における固定端として作用する。
【0035】
これにより、図5のグラフ中の太い実線で示したように、ホーン処理面213近傍とケース底面215近傍が音圧の腹となる定在波401が形成され、原理上、発生する音圧を高くすることができる。ただし、実際は気泡などによる振幅の減衰が生じるため、ケース底面215近傍での発生音圧P1'は、ホーン処理面213近傍での音圧P1よりも小さくなる。本装置においては、強力な超音波であることから、液体中には多数の高調波成分(15,30,45,----kHz)が発生する。そこで、特に、ホーン処理面(最も音響エネルギーが多く放射される面)213からこれに対向するケース底面215までの距離L1を、水中を伝わる基本波(15kHz、波長λ=100mm)の半波長の整数倍とすることにより、これを1/4波長とする構成とは異なる効果が期待される。
【0036】
すなわち、このように距離L1を半波長の整数倍に設定すると、ホーン処理面213とこれに対向するケース底面215の双方において全高調波成分による音圧が同位相にて加算されるため、発生する定在波音圧を高くすることができる。一方、水流ガイド用パイプ210の内側領域においては、ホーン処理面213と独立気泡スポンジ209との間隔L2が、基本波の3/4波長に等しい75mmとなるように設計されており、また独立気泡スポンジ209は定在波の自由端としておおよそ作用する。
【0037】
したがって、図5のグラフにおいて点線で示したような定在波402がホーン処理面213と独立気泡スポンジ209との間に形成されることとなり、前述と同様、ホーン処理面213近傍における発生音圧P2が高くなる。十分に脱気した処理水106を用い、また流量を大きくするなどして粗大気泡を速やかに除去すれば、キャビテーションはホーン処理面213近傍とケース底面215近傍の両方において発生する。
【0038】
また本発明の一実施形態による超音波発生装置101では、直径60mmのホーン処理面213外周とそれを囲うケース206の内壁(内径64mm)との隙間が狭い。例えば、この隙間は、2mmでしかない。一方で、ホーン処理面213を囲うケース206の材質にはステンレス鋼を用い、さらにその肉厚は20mm以上と厚くしてある。
【0039】
以上述べた通り、本実施例によれば、効率の良い振動系を構築することにより、低エネルギーで強いキャビテーションを発生する超音波水処理装置を製作することができる。
【0040】
既に述べたことから明らかな通り、ケースは、ホーンとの位置関係に応じて、その厚みを調節するのが望ましい。すなわち、ホーン処理面の近傍など高音圧の発生する領域では、ケースの材質を硬くするとその肉厚も厚くして剛性を高め、逆にホーン支持部近傍の剛性は相対的に低くするのがよい。
【0041】
図6は、ホーンを取り囲むケースの肉厚に対する、ホーンから1mm離れた水中に発生する音圧の依存性を示した図である。横軸はケースの肉厚(mm)、縦軸は音圧(arbitrary unit)である。ここで、音圧は、ケースが理想的な剛体であると仮定したときの値により規格化した。また、図6中、囲みの中には計算に用いた構造モデルの模式図を示す。ケースの材質はステンレス鋼(SUS304)である。この図から、ケースの材質がSUS304の場合、ケースの肉厚が10mm以下では、発生音圧が弱くなっていることがわかる。単一ホーンで高音圧を得るために、実用上ケースの肉厚は20(mm)以上とする必要がある。
【0042】
このように、定在波音場によって高い音圧が発生するホーン処理面213近傍の領域を、その材質中における基本波の波長の1/17以上の肉厚を持つ、十分な剛性のケース206で囲うことにより、ホーン処理面213の全面に渡って比較的均一に高音圧を発生させることができるようになるほか、特に水の固有音響インピーダンスが減少していないキャビテーション発生前においてのエネルギー効率が改善され、キャビテーション発生に要するまでの消費電力を低く抑えることができる。
【0043】
また、前に述べたように、ホーン側面とケースとの間に、厚さがおよそ4mm以下となるような薄い水の層が存在すると、その部分で水が音響的に硬く見え、ホーンにおける効率的な振動伝搬が妨げられる可能性がある。その場合、図4のように、薄い水の層に隣り合うケースの材質を柔らかいものとし、またその肉厚も薄くして剛性を下げることで、薄い水とケースまで含めた部分をまとめて共振構造として設計することができる。
【0044】
以上示した各特徴を満たすことにより、エネルギー効率良く振動エネルギーをホーン処理面まで伝搬させ、キャビテーションを発生させることができる。一例として、本発明の一実施形態による超音波発生装置101では、前記キャビテーション発生のための所要電力を、開放系での実施例に比べて1/5以下の約0.35W/cmに抑えることができた。
【0045】
次に、本発明の一実施形態による水処理部103における処理水106の流れの例について、図7及び図8により詳しく説明する。
まず、図7に処理水の流れの一例を示す。水導入口211から導入された処理水106は、図7中の矢印501で示したように、水流ガイド用パイプ210を通って水処理部216のホーン処理面213近くまで運ばれる。運ばれた処理水106の大部分は、ホーン側面214を高速で流れる水に引っ張られることにより、ホーン処理面213に沿って流れ、したがって超音波によって効率的に処理される。ホーン処理面213近傍で生成した気泡も、処理水106の流れによって押し流され、常に気泡核を多く含む新たな水が水流ガイド用パイプ210を通してホーン処理面213へ供給される。超音波処理された水はさらに水排出口212から図示しない外部配管系へと流れる。
【0046】
ホーン処理面213と前記水流ガイド用パイプ210の口との間隔は、水流ガイド用パイプ210の内径によって主に決定される。本発明の一実施形態による超音波水処理装置では、水流ガイド用パイプ210の内径が16mm、ホーン処理面213と水流ガイド用パイプ210の口との間隔は4mmである。また水流ガイド用パイプ210はアクリル樹脂製で、肉厚も0.5mmと薄くしてあり、定在波音場への影響が極力小さくしてある。
【0047】
次に、図8により流れの他の例を示す。処理水106は、図8の矢印601で示したように、図7の矢印501とはそれぞれ逆向きに流しても構わない。水導入口603から導入された処理水106は、矢印601で示したように、ホーン側面214を高速で流れ水処理部216のホーン処理面213近くまで運ばれ、超音波によって効率的に処理される。超音波処理された水はさらに水排出口604から図示しない外部配管系へと流れる。なお、水流を水処理部216のホーン処理面213近傍へガイドするための薄い板材602などを付け、処理水106がホーン処理面213近傍を多く流れるようにすると良い。
【0048】
また、本発明の処理方式により細胞膜に損傷を受けた細菌は時間と共に自己回復することがあるが、これに飲料水、温泉水などの液体に塩素、光触媒、オゾン、紫外線を印加する構成(図示せず)を併用することにより、殺菌効果を飛躍的に増大することが可能となる。
【0049】
以上述べたように、本発明では、次のような特徴がある。
まず、振動体の振動の節となる部分を容器にシール部材を介して保持すると共に、処理水に振動体が触れる面積を最小限にとどめ、様々な柔らかさの部材を組み合わせて効率的な定在波音場を形成する。さらに高音圧が生じる領域を、十分な剛性をもつ容器で囲い込む。
【0050】
本発明によれば、従来の超音波発生装置に比べて、負荷インピーダンスを1/2〜1/4にするとともに、同消費電力での振幅を2倍以上にすることができる。これによりキャビテーション発生までの消費電力が1/5になり、大電力を入れることで強力なキャビテーションを起こすことができる。
【0051】
なお、本発明によれば、以下のような特徴もある。
(1)水処理部のホーン処理面に対向するケース底面を、超音波の波長に応じて音響的に硬い物質からなる領域と音響的に柔らかい物質からなる領域とを組み合わせて設けることにより、音圧の空間分布が均一になるようにしている。
(2)共振構造を駆動制御し、処理すべき水等に超音波振動を与えて液中に強いキャビテーションを発生させる機構において、振動体を支持するフランジ部および振動体側面に対し、処理すべき水等との接触面積を小さくした構造を備えており、これにより、ホーンから放射された音響エネルギーを、効率よく利用できる。
(3)共振構造を駆動制御し、処理すべき水等に超音波振動を与えて液中に強いキャビテーションを発生させる機構において、水処理部のホーン処理面からこれに対向するケース底面までの距離を、水中を伝わる基本波の半波長の整数倍とし、かつ、高音圧発生部を囲う容器の剛性を高める構造を有しており、これによりホーンから放射された音響エネルギーを、定在波音場によって効率よく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態による超音波水処理システムの構成を示す図。
【図2】本発明の一実施形態による超音波水処理装置の構造を示す図。
【図3】ホーンとケースとの隙間と音庄の関係についてのシミュレーション結果を示す図。
【図4】本発明の一実施形態による超音波水処理装置において、ホーン側面とケースとの間に一部処理水の薄い層ができる領域があり、そのような状況では該当するケース部分の剛性を下げることが有効であることを示す図。
【図5】超音波定在波によってホーン処理面付近とケース底面付近が高音圧になることを示す図。
【図6】ホーンを取り囲むケースの肉厚に対する、ホーンから1mm離れた水中に発生する音圧の依存性を示した図。
【図7】本発明の一実施形態による超音波水処理装置において、処理水の流れの一例を示す図。
【図8】本発明の一実施形態による超音波水処理装置において、処理水の流れの他の例を示す図。
【符号の説明】
【0053】
101‥超音波水処理装置、102‥超音波発生部、103‥水処理部、104‥ローラーポンプ、105‥処理水タンク、106‥処理水、107‥配管系、108‥発信器、109‥増幅器、110‥摺動変圧器、111‥電気配線系
201‥ボルト締めランジュバン振動子、202‥電気端子、203‥電気端子(アース)、204‥ホーン、205‥フランジ、206‥ケース、207‥水シール用シリコンゴム、208‥スポンジ、209‥独立気泡スポンジ、210‥水流ガイド用パイプ、211‥水導入口、212‥水排出口、213‥ホーン処理面、214‥ホーン側面、215‥ケース底面、301‥ホーン側面の一部、302‥ケースの一部、303‥処理水の薄い膜、401‥定在波(パイプの外側)、402‥定在波(パイプの内側)、501‥処理水の流れ、601‥処理水の流れ、602‥水流ガイド用の薄い板材、603‥水導入口、604‥水排出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と共振構造を有する振動体と、該振動体を支持すると共に水処理部が設けられた容器とを有し、前記振動体を超音波振動させて発生する超音波を前記水処理部の処理水に照射して処理する水処理装置であって、
前記振動体の振動の節となる部分を前記容器にシール部材を介して保持すると共に、該振動体の主たる振動体表面である反振動子側先端面を振動体処理面として前記水処理部に配置し、
前記振動体の該シール部材を挟んで前記振動子側の側面と前記容器との間を空間とし、前記振動体の反振動子側の側面と前記容器との間に隙間を設け、該隙間を前記水処理部と連通させたことを特徴とする超音波水処理装置。
【請求項2】
振動子と共振構造を有する振動体と、該振動体を支持すると共に水処理部が設けられた容器とを有し、前記振動体を超音波振動させて発生する超音波を前記水処理部の処理水に照射して処理する水処理装置であって、
前記振動体の主たる振動体表面である反振動子側先端面を振動体処理面として前記水処理部に配置し、
前記水処理部の振動体処理面に対向する前記容器の底面を、超音波の波長に応じて音響的に硬い物質からなる領域と音響的に柔らかい物質からなる領域とを組み合わせて設けることにより、音圧の空間分布が均一になるように構成したことを特徴とする超音波水処理装置。
【請求項3】
振動子と共振構造を有する振動体と、該振動体を支持すると共に水処理部が設けられた容器とを有し、前記振動体を超音波振動させて発生する超音波を前記水処理部の処理水に照射して処理する水処理装置であって、
前記振動体の主たる振動体表面である反振動子側先端面を振動体処理面として前記水処理部に配置し、
前記振動体処理面からこれに対向する前記容器の底面までの距離を、水中を伝わる基本波の半波長の整数倍としたことを特徴とする超音波水処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の超音波水処理装置において、前記容器の前記水処理部を構成する部分の剛性を高くしたことを特徴とする超音波水処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の超音波水処理装置において、前記振動体の表面近傍を囲む前記容器の肉厚を、該容器部分の材質中における基本波の波長の1/17以上としたことを特徴とする超音波水処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波水処理装置において、前記振動体の前記シール部材を挟んで反振動子側の部分の表面と前記容器との間隙を1 mm〜4mmとし、該間隙部分に対応する前記容器部分の剛性を低くしたことを特徴とする超音波水処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波水処理装置において、前記間隙部分に対応する前記容器部分の肉厚を該容器部分の材質中における基本波の波長の1/160以下としたことを特徴とした超音波水処理装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の超音波水処理装置において、塩素、光触媒、オゾン、または紫外線を印加する構成が併設されていることを特徴とする超音波水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−43622(P2006−43622A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230273(P2004−230273)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】