説明

超音波測定装置及び超音波測定方法

【課題】偏波保持光ファイバのように偏波方向により屈折率の異なる複屈折性を有する共振器媒質を用いる、安定的に高感度な測定が可能なファブリ・ペロー干渉計を用いた超音波測定装置と方法を提供する。
【解決手段】測定対象物からのレーザビームの反射光である信号光と、測定対象物に照射するレーザビームの一部を分岐して得られる安定化光とを、光スイッチ4で切り替えファブリ・ペロー干渉計6へ入力し、干渉計6からの出力を光検出器を経てサンプル・ホールド部7へ入力し、サンプル・ホールド部7は、干渉計6に安定化光が入力される期間は、光検出器から入力をそのまま出力し、干渉計への入力が安定化光から信号光へ切り換える前に入力された値をサンプル・ホールドし、干渉計に信号光が入力される期間は、ホールドされたレベルで出力することを特徴とする超音波測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファブリ・ペロー干渉計を用いた超音波測定装置に関するものであって、特に、ファブリ・ペロー干渉計を構成する媒質が複屈折性を有する場合において、測定の安定性と感度を向上させたファブリ・ペロー干渉計方式の超音波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超音波が測定対象物体の表面に到達すると、その超音波により、対象物体の表面が振動する。このとき、レーザビームを測定対象物体の表面に照射すると、超音波による物体表面の振動により、その対象物体の表面で反射・散乱された散乱光は、微少ではあるが、照射前の周波数に比べ周波数がシフトする。
【0003】
これは、ドップラーシフトと呼ばれる現象であり、周波数のシフト量は、およそ表面変位の速度、すなわち、超音波による変位の微分量に比例する。この現象を用いて、対象物体に伝達された超音波の特性を測定することができる。
【0004】
ドップラーシフトによる超音波の測定には、ファブリ・ペロー干渉計が広く用いられている。ファブリ・ペロー干渉計は、入力された周波数変調された光を強度変調された光に変換し出力するもので、出力された光を高速光検出器で検出し、高速オシロスコープで観測すれば、超音波の変位速度におよそ比例した、超音波の振動波形が得られる。
【0005】
また、測定対象物体の表面にレーザパルスビームを照射し、アブレーション現象や熱弾性現象を引き起こして、超音波を発生させる方法がある。これらを併せて用いれば、超音波の発生・検出をすべて非接触で行うことができる。
【0006】
このような超音波の測定技術は、レーザ超音波技術として知られており、金属や複合材料など対象物体の機械的特性や微細組織など、材質物性の測定方法として広範囲に用いられる。レーザ超音波技術は非接触での測定を可能とし、その測定方法は、特に高温や狭間部など、超音波の発生や検出に使用するセンサが苦手とする環境下でよく用いられる有効な方法である。
【0007】
非特許文献1には、共振器媒質が空気で、共振器ミラーの焦点が一致するように配置された共焦点型ファブリ・ペロー干渉計を、超音波の検出に用いる方法が記載されている。
【0008】
非特許文献1に記載の方法では、検出用レーザビームの一部を分岐して得られる安定化光と、対象物体からの散乱光である信号光とを、偏光ビームスプリッタなどの偏光素子を利用し、偏波状態を変えて干渉計に入射させる。
【0009】
ファブリ・ペロー干渉計からの光出力には安定化光と信号光が混合されているが、両者の偏波状態の違いを利用して、偏光ビームスプリッタなどの偏光素子を利用して空間的に分離することができる。ファブリ・ペロー干渉計から出力された安定化光の光強度が、最大値の半分になるようにピエゾ素子で干渉計の共振器長を微少量だけ制御することで感度を高くし、安定的にS/Nのよい超音波信号が得られる。
【0010】
しかし、空気を媒質とする共焦点型ファブリ・ペロー干渉計は、共振器長を長くすると振動などの外乱に弱くなり、また調整にも手間がかかるため、実質的に共振器長を長くすることはできない。
【0011】
これに対して、共振器として光ファイバを用いたファブリ・ペロー干渉計では、光ファイバの長さを変えることで、共振器長を変えることができる。
【0012】
特許文献1には、共振器として偏波保持光ファイバを用いたファイバ型ファブリ・ペロー干渉計を使用する発明が開示されている。このファブリ・ペロー干渉計は、共振器長となる光ファイバの長さを変えることにより、測定する超音波の帯域に最適な周波数特性を持たせることが可能である。
【0013】
ファイバ型ファブリ・ペロー干渉計は、広帯域のファブリ・ペロー干渉計を容易に構成できる点で、共焦点型ファブリ・ペロー干渉計よりも優れている。
【0014】
ファイバ型ファブリ・ペロー干渉計の共振器である偏波保持光ファイバは、複屈折性を持つので、屈折率の最も小さい速軸方向、又は屈折率が最も大きく速軸方向に直交する遅軸方向に平行に偏波した直線偏光のみを、その偏波状態を変えることなく伝播させることができる。
【0015】
偏波保持光ファイバは、偏波方向により屈折率が異なるため偏波方向により光路長が変わり、干渉計の出力光の透過特性も異なってくる。
【0016】
図6に、それぞれ速軸方向と遅軸方向に平行に偏波した直線偏光をファイバ型ファブリ・ペロー干渉計に入射させ、共振器長である偏波保持光ファイバの長さを変化させた場合の、透過特性の一例を示す。横軸は偏波保持光ファイバの長さの変化量、縦軸は透過率を示している。図6に示すように、透過率が最大値の半分となるファイバの長さ(干渉計の動作点)が、速軸方向と遅軸方向では異なる。
【0017】
このため、ファブリ・ペロー干渉計に偏波の異なる安定化光と信号光を入射した場合、両者の透過特性は異なるものとなる。その結果、干渉計の共振器長を、安定化光の光強度が最大値の半分になる長さに調整しても、安定した感度の高い超音波信号を得ることはできない。
【0018】
また、偏波の異なる安定化光と信号光をファイバ型ファブリ・ペロー干渉計に入射した場合、偏波保持光ファイバ内で偏波モード間の結合が起こり、両者間でエネルギーの交換が行われ、偏波状態を保持することができなくなる。これらの理由により、共焦点型ファブリ・ペロー干渉計のように、その出力を偏波状態により空間的に分離できない。
【0019】
以上のように、偏波方向により屈折率の異なる偏波保持光ファイバを共振器媒質として用いたファイバ型ファブリ・ペロー干渉計では、安定化光と信号光を両方同時に入れて、出力を空間的に分離できないため、安定化が困難であった。
【0020】
上記の問題を解決するために、特許文献1では、物体からの反射散乱光である信号光のみを干渉計に入れ、光検出器で電気信号に変換した後、電気信号を二分岐し、一方は超音波の検出に、もう一方はローパスフィルタを通した後、安定化光として用いている。測定対象物が、反射散乱光の強度がほぼ一定となる表面状態ならば、この方法で安定化が可能であり、超音波信号を感度よく検出可能である。
【0021】
しかしながら、測定対象物体の表面状態によっては信号光の強度が大きく変化するため、動作点の透過光強度の設定が困難であり、また、測定対象物からの反射散乱光が弱い場合には安定化できず超音波信号を検出できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特許第3979961号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】J.-P. Monchalin and R. Heon, “Laser ultrasonic generation and optical detectionwith a confocal Fabry-Perot interferometer,” Mater. Eval., 44 (1986) 1231-1237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、前記の問題点を解決するべく成されたもので、特に、偏波保持光ファイバのように、偏波方向により屈折率の異なる共振器媒質であっても、安定的に高感度な測定が可能な、ファブリ・ペロー干渉計を用いた超音波測定装置、及び、超音波測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、安定して高感度な測定が可能な、ファブリ・ペロー干渉計を用いた超音波測定方法について鋭意検討した。その結果、安定化光と測定対象物からの反射光(信号光)を適切なタイミングで切り替えてファブリ・ペロー干渉計に入力し、安定化光の入力レベルを基に、信号光が入力される際のファブリ・ペロー干渉計の共振器長を制御することで、安定して高感度な測定が可能となることを見出した。
【0026】
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0027】
(1)測定対象物にレーザビームを照射し、該測定対象物中を伝搬する超音波による該レーザビームの反射光のドップラーシフト量を、複屈折性物質を共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計を用いて測定し、該測定対象物中を伝搬する超音波を測定する超音波測定装置において、
前記測定対象物からのレーザビームの反射光である信号光と、測定対象物に照射するレーザビームの一部を分岐して得られる安定化光とを入力して、該信号光と該安定化光とのいずれか一方を出力し、前記ファブリ・ペロー干渉計へ入力する光スイッチと、
前記ファブリ・ペロー干渉計の出力を検出する光検出器と、
前記光検出器の出力を入力するサンプル・ホールド部と、
前記サンプル・ホールド部の出力を入力し、該入力に応じてファブリ・ペロー干渉計の共振器長を調整する信号を出力する安定化回路と、
前記光スイッチの出力光を切り換えるタイミング、及び、前記サンプル・ホールド部のサンプル・ホールド動作のタイミングを制御する制御信号を発生する信号発生部と
を備え、
前記サンプル・ホールド部は、前記光スイッチが安定化光を出力する期間は、前記光検出部から入力された値をそのまま出力し、光スイッチの出力光を安定化光から信号光へ切り換える前に、前記光検出部から入力された値をサンプル・ホールドし、光スイッチの出力が信号光である期間は、該ホールドした値を出力する
ことを特徴とする超音波測定装置。
【0028】
(2)前記ファブリ・ペロー干渉計の共振器媒質が、偏波保持光ファイバであることを特徴とする前記(1)の超音波測定装置。
【0029】
(3)測定対象物にレーザビームを照射し、該測定対象物中を伝搬する超音波による該レーザビームの反射光のドップラーシフト量を、複屈折性物質を共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計を用いて測定し、該測定対象物中を伝搬する超音波の特性を測定する超音波測定方法において、
前記測定対象物からのレーザビームの反射光である信号光と、測定対象物に照射するレーザビームの一部を分岐して得られる安定化光とを光スイッチに入力するステップと、
前記光スイッチから、信号発生部からの制御信号に従い、前記反射光と前記信号光とのいずれか一方を出力するステップと、
前記光スイッチからの出力をファブリ・ペロー干渉計に入力するステップと、
前記ファブリ・ペロー干渉計からの出力を光検出器に入力するステップと、
前記光検出器の出力をサンプル・ホールド部に入力するステップと、
前記信号発生部からの制御信号に従い、前記光スイッチが安定化光を出力する期間は、前記光検出部からの入力をそのまま出力し、光スイッチの出力光が安定化光から信号光へ切り換わる前にファブリ・ペロー干渉計の出力の値をサンプリングし、該サンプリングした値をホールドし、光スイッチの出力が信号光である期間は、該ホールドした値を出力するステップと、
前記サンプル・ホールド部からの出力を安定化回路に入力するステップと、
前安定化回路からの出力に応じて、前記ファブリ・ペロー干渉計の共振器長を調整するステップと
を備えることを特徴とする超音波測定方法。
【0030】
(4)前記ファブリ・ペロー干渉計の共振器媒質が、偏波保持光ファイバであることを特徴とする前記(3)の超音波測定方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ファブリ・ペロー干渉計に偏波方向により屈折率の異なる複屈折性を有する共振器媒質を用いても、安定的に高感度な超音波測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態を概略的に説明する図である。
【図2A】本発明の偏波保持光ファイバを共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計の構成を示す図である。
【図2B】本発明の偏波保持光ファイバを共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計の別の構成を示す図である。
【図2C】本発明の偏波保持光ファイバを共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計の別の構成を示す図である。
【図2D】本発明の偏波保持光ファイバを共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計の別の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の方法の各信号のタイミングと関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例における各信号のタイミングを示す図である。
【図5】本発明の実施例において検出された超音波のスペクトル信号を示す図である。
【図6】偏波保持光ファイバを共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計のファイバの長さを変化させた際の、速軸・遅軸方向における透過特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の、複屈折物質を共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計を用いる超音波測定装置を概略的に説明する図である。
【0035】
超音波検出用レーザ1から出力された、偏波方向が紙面に平行な直線偏光であるレーザビームは、ビームスプリッタ2により、測定対象物体3へ照射される照射光101と、ファブリ・ペロー干渉計6の出力を安定化させるための安定化光102に分岐される。
【0036】
照射光101は、測定対象物体3の表面で、測定対象物体3の内部を伝播する超音波301が測定対象物体3の表面に到達して発生する振動により、周波数シフトされて反射し、信号光103となる。安定化光102と信号光103は、それぞれ集光レンズ201、202により集光され、偏波保持光ファイバ401、402を経て、紙面に平行な偏波方向を有する直線偏光状態を保ったまま、光スイッチ4に入力される。
【0037】
光スイッチ4は、信号発生器5の制御信号Vc1により、入力された安定化光102と信号光103のどちらか一方を出力する。例えば、制御信号Vc1がHighのとき、信号光103を、Lowのときは安定化光102を出力する。光スイッチ4からの出力光は、偏波保持光ファイバ403、コリメータレンズ203を経て、ファブリ・ペロー干渉計6へ入力される。
【0038】
ファブリ・ペロー干渉計6から出力された信号光103は、高速光検出器204で検出され、また、安定化光102は光検出器205で検出する。光検出器205の出力Vinはサンプル・ホールド回路7に入力される。
【0039】
サンプル・ホールド回路は、連続的に変化する信号値を、例えば外部からのトリガーのタイミングにあわせてサンプリングし、サンプリングした値を一定の期間保持するための回路として、一般的に多用されているものである。
【0040】
ここで、安定化光102と信号光103は光スイッチ4によって出力される期間が異なるだけで、空間的には分離できない。したがって、安定化光102が出力されている期間は高速光検出器204でも安定化光102が検出され、また、信号光103が出力されている期間は光検出器205でも信号光103が検出される。
【0041】
サンプル・ホールド回路7は、後述するように、光検出器205に安定化光102が入力される期間は、入力をそのまま出力する。
【0042】
そして、光検出器205に入力される光が安定化光102から信号光103に切り替わる前に、入力されたレベルをサンプリングし、ホールドする。サンプリングは、光検出器205に安定化光102が入力される期間であって、入力される光が信号光103に切り替わるよりも前の時刻において、一度行う。この時刻は、上記の期間内であれば、特に規定するものではない。
【0043】
その後、光検出器205信号光103が入力される期間は、上記のホールドされたレベルでサンプル・ホールド回路7から出力する。
【0044】
サンプル・ホールド回路7の出力Voutは、ローパス・フィルタ8を経て安定化回路9へ入力される。ローパス・フィルタ8は、安定化回路9の出力が発振しないようにするために設けられている。
【0045】
安定化回路9は、入力が目標値に達するようにPI(比例積分型)制御にてファブリ・ペロー干渉計6の共振器長を制御し、ファブリ・ペロー干渉計の出力を安定化する。これによって、安定化した条件で、高速光検出器204の出力を高速オシロスコープやA/D変換ボードへ接続し、超音波の波形を測定できる。
【0046】
図2Aは、ファブリ・ペロー干渉計の共振器媒質として、偏波保持光ファイバを用いる場合の詳細図である。
【0047】
光スイッチ4からの出力は、偏波保持光ファイバ403、コリメータレンズ203を経て、紙面に平行方向の偏波面をもつ水平偏光ビーム104として、偏光ビームスプリッタ601へ入射する。偏光ビームスプリッタ601へ入射した水平偏光ビーム104は、水平偏光を保ったまま偏光ビームスプリッタを通過し、ファラデー回転子602へ入射する。
【0048】
水平偏光ビーム104は、ファラデー回転子602を通過後、偏波面が紙面に平行方向に対し45°傾いた45°偏光ビーム105となり、集光レンズ603で偏波保持光ファイバ604に入射する。ファラデー回転子602は、45°偏光ビーム105が偏波保持光ファイバ604内で直線偏光状態を保持するように、偏波保持光ファイバの速軸又は遅軸方向は、45°偏光ビーム105の偏波方向に平行又は垂直となるようにする。
【0049】
偏波保持光ファイバ604は、部分反射ミラー605、606を両端に有する偏波保持光ファイバ607に、速軸及び遅軸方向が一致するように接続されている。偏波保持光ファイバ607は、ファブリ・ペロー干渉計6の共振器となっており、圧電性を有する円筒型のPZTチューブ608に巻かれている。
【0050】
PZTチューブに印加される安定化回路9の出力により、PZTチューブの径が変化し、偏波保持光ファイバ607の長さ、すなわち、ファブリ・ペロー干渉計6の共振器長が変化する。図6に示すように、光ファイバの長さが0.1μm程度変化すればファブリ・ペロー干渉計の透過強度が変化するので、光ファイバ607の長さは、微小長さだけ変えられればよい。
【0051】
ここでは、共振器長を微小長さだけ変化させるために円筒型のPZTチューブを用いる例を挙げたが、円筒型のPZTチューブの代わりに、偏波保持ファイバを直線型のPZTロッドに接着させ、PZTロッドを伸縮させてもよい。
【0052】
部分反射ミラー606を経て出力される偏波保持光ファイバ607からの出力は、偏波方向が45°のままコリメータレンズ609を経て、45°偏光ビーム106として光検出器205へ入射する。
【0053】
部分反射ミラー605を経て出力される偏波保持光ファイバ607からの出力は、偏波方向が45°のままレンズ603を経て、ファラデー回転子602に入射し45°偏波面が回転して、紙面に垂直な偏波面を有する垂直偏光ビーム107となる。垂直偏光ビーム107は、偏光ビームスプリッタ601で反射後、高速光検出器204で検出される。
【0054】
次に、光スイッチ4とサンプル・ホールド回路7を用いた超音波測定方法について、図1、図2A及び図3を用いて説明する。
【0055】
信号発生器5で発生させたVc1とVc2の2つの制御信号は、それぞれ光スイッチ4とサンプル・ホールド回路7へ入力される。両制御信号は、互いに同期の取れた矩形波とする。ここで、光スイッチ4は、制御信号Vc1に対する応答に一定の遅延があることが一般的であり、その場合には、図3に例示する様に、制御信号Vc2のパルスの幅や、位相、すなわち、パルスの立ち上がり、立ち下がりのタイミングを、制御信号Vc1に対してずらすのがよい。
【0056】
図3では、制御信号Vc1、制御信号Vc2は、繰り返しパルス列として例示されているが、超音波測定の目的によって、例えば、超音波発生と超音波検出とを1度だけ行えばよい場合には、制御信号Vc1、制御信号Vc2は、それぞれ1つだけのパルスであってもよい。その場合、信号発生器5は、例えば、本超音波測定装置の操作者によるパルス発生トリガ信号(図示せず)の入力を受け、その信号によって制御信号Vc1、制御信号Vc2の発生タイミングを制御する。
【0057】
光スイッチ4は、例えば、制御信号Vc1がHighの時に信号光103を、Lowの時に安定化光102を出力し、ファブリ・ペロー干渉計6へ入力する。ファブリ・ペロー干渉計6の光出力は、光検出器205で検出され、サンプル・ホールド回路7の入力信号Vinとなる。
【0058】
サンプル・ホールド回路7からの出力信号Voutは、光スイッチ4の出力が安定化光102の期間は、光検出器205からの入力をそのまま出力した信号である。
【0059】
そして、安定化光102から信号光103に切り替わる前に、サンプル・ホールド回路7へ入力される制御信号Vc2がHighとなった時に、光検出器205からの入力をサンプリングし、ホールドする。
【0060】
光スイッチの出力が信号光103の期間は、安定化光102が光検出器205から出力されない。この間は、制御信号Vc2がLowとなるまで、上記のホールドされたレベルでサンプル・ホールド回路7から出力信号Voutを出力する。
【0061】
サンプル・ホールド回路7からの出力信号Voutは、ローパス・フィルタ8を経て、安定化回路9へ入力され、超音波信号が安定的に高感度に検出できるように、ファブリ・ペロー干渉計6の共振器長が制御される。
【0062】
光スイッチ4の出力が信号光に切り換わっている期間に、パルスレーザなどで測定物体3中に超音波を発生させ、高速光検出器204に高速オシロスコープやA/D変換ボードを接続して、高速光検出器204からの出力を取り込めば、発生した超音波の波形を観測できる。
【0063】
本実施形態では、サンプル・ホールド回路7によりサンプル・ホールド部の一例が実現される。また、信号発生器5により信号発生部の一例が実現される。
【0064】
本発明の方法によれば、共振器媒質として偏波保持光ファイバを用いることによって、小型でかつ振動などの外乱に強く、特別な光学素子などの調整作業が不要となるので、厳しい環境の作業現場に容易に適用可能である。同時に、偏波保持光ファイバの長さを調整することによって、所望の帯域、特に長くすることによって、広帯域の超音波測定が可能となる。
【実施例】
【0065】
本実施例では、超音波発生用パルスレーザ(図示せず)として、波長1064nmのYAGパルスレーザレーザを用い、超音波検出用レーザ1として波長532nmのグリーンYAGレーザを用いた。光スイッチ4には、入力2ポート、出力1ポートで、波長532nm対応の、ファイバ接続型の光スイッチを用いた。
【0066】
ファブリ・ペロー干渉計6の共振器媒質として偏波保持光ファイバ607を用いて、図2Aに示す、反射型ファブリ・ペロー干渉計を構成した。部分反射ミラー605、606は、偏波保持光ファイバ607の両端を反射率95%の反射コーティングを施して形成した。偏波保持光ファイバ607は、圧電性を有するPZTチューブの外周に巻き、安定化回路9の出力を印加して、共振器長であるファイバの長さの調整を行った。
【0067】
信号発生器5には、2CHの位相同期が可能なものを用い、1CH目を光スイッチ4の制御入力へ、2CH目をサンプル・ホールド回路7の制御入力へ接続した。また、信号発生器5の制御信号に同期したトリガ出力を、信号発生器5から遅延パルス発生器(図示せず)に入力し、遅延パルス発生器から出力されたトリガ出力である超音波発生制御信号を、超音波発生用パルスレーザに入力し、超音波の発生タイミングを制御した。
【0068】
図4に、光スイッチ4でスイッチングしたときの光検出器205で検出した安定化光の出力Vs、光スイッチの制御信号Vc1、サンプル・ホールド回路の制御信号Vc2、及び超音波発生制御信号Vgのタイミングを示す。t1rとt1fは、光スイッチの制御信号Vc1の立上りと立下りのタイミング、t2rとt2fは、サンプル・ホールド回路の立上りと立下りのタイミングをそれぞれ示す。
【0069】
光スイッチ4の出力は光スイッチの制御信号Vc1に対して立上り(又は立下り)の遅延があるため、制御信号Vc1のパルス幅は、立上り(又は立下り)時間の3倍以上になるように設定した。また、安定化光の出力Vsが立ち下がり始める前から再び立ち上がり終わるまでの期間をカバーするように、サンプル・ホールド回路7の制御信号Vc2のパルス幅と位相を調整した。超音波の発生タイミングは、安定化光の代わりに信号光が光スイッチ4から出力される期間に入るように、超音波発生制御信号Vgのタイミングを設定した。
【0070】
本実施例では、測定対象物体3として、鋼種SS400の厚み2mmの鋼板を用いた。測定対象物体3に発生させる超音波は、発生位置の鋼板内部に長く滞留し、発生効率が高く鋼材等の材質計測に有用な、群速度0の板波(ラム波)の対称1次モード(S1モード)とした。
【0071】
測定対象物体3上で、超音波発生用パルスレーザと検出用YAGレーザ1の集光スポットが一致するように、両方のレーザビームの照射位置を調整し、超音波発生用パルスレーザを鋼板に照射して、熱弾性効果で板波を発生させた。
【0072】
発生した板波の時間波形を、高速光検出器204にバンドパス・フィルタ及びアンプを接続し、出力を高速オシロスコープに接続して観測した。高速オシロスコープで得られた時間波形を高速フーリエ変換して周波数領域のスペクトルを得たところ、図5に示すように、S1モードに相当するピークを、安定的に高感度に検出することができた。
【0073】
以上、ファブリ・ペロー干渉計6から出力される信号光と安定化光を、別々の光検出器204、205で検出し、信号光をファブリ・ペロー干渉計6の入射方向と同じ側から取り出す、反射型のファブリ・ペロー干渉計の実施の形態を示した。他に、以下に例を示すように様々な変形例が可能である。
【0074】
図2Bに、図2Aの安定化光検出用の光検出器205と、超音波検出用の高速光検出器204の配置を入れ替えた例を示す。このように安定化光をファブリ・ペロー干渉計の入射方向と同じ側から取り出し、信号光を入射方向と反対側から取り出す透過型のファブリ・ペロー干渉計とすることも可能である。
【0075】
図2Cに示すように、光検出器204を使わず、高速光検出器205の出力を電気的に二分岐し、一方を安定化のための信号としてサンプル・ホールド回路7に入力し、他方を超音波信号として高速オシロスコープ11で観測する、反射型の配置とすることも可能である。
【0076】
図2Dに、光スイッチ4の偏波保持ファイバ403と偏波保持ファイバ604の速軸又は遅軸方向を一致させて、ファイバ・コネクタ610で直結した透過型ファブリ・ペロー干渉計の例を示す。安定化光と信号光を同じ高速光検出器204で検出した後、電気的に分岐し、一方を安定化ための信号としてサンプル・ホールド回路7に入力し、他方を超音波信号として高速オシロスコープ11で観測することも可能である。
【0077】
実施例においては、超音波発生手段としてYAGパルスレーザを用いたが、ローレンツ力や磁歪効果、圧電効果で超音波を発生させてもよい。
【0078】
制御信号Vc1とVc2、及び超音波発生制御信号Vgの発生タイミングは、信号発生器5の内部で設定可能な、周期が一定のタイミングでもよいし、信号発生器5に外部トリガを入力し任意のタイミングでもよい。
【0079】
実施例として、偏波保持光ファイバを複屈折性を有する共振器媒質とするファイバ・ファブリペロー干渉計を用いる超音波測定装置について説明したが、複屈折性を有する共振器媒質として光導波路を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、ファブリ・ペロー干渉計に偏波方向により屈折率の異なる複屈折性を有する共振器媒質を用いても、安定的に高感度な超音波測定が可能となり、本発明は、非接触での材料物性の測定方法などに適用できるので、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0081】
1 超音波検出用レーザ
2 ビームスプリッタ
3 測定対象物体
4 光スイッチ
5 信号発生器
6 ファブリ・ペロー干渉計
7 サンプル・ホールド回路
8 ローパス・フィルタ
9 安定化回路
11 高速オシロスコープ
101 検出用レーザからの照射光
102 安定化光
103 信号光
104 水平偏波した直線偏光
105、106 45°偏波した直線偏光
107 垂直偏波した直線偏光
201、202、203 コリメータレンズ
204 高速光検出器
205 光検出器
301 超音波
401、402 光スイッチの入力側偏波保持光ファイバ
403 光スイッチの出力側偏波保持光ファイバ
601 偏光ビームスプリッタ
602 ファラデー回転子
603、609 コリメータレンズ
604、607 偏波保持光ファイバ
605、606 部分反射ミラー
608 PZTチューブ
610 ファイバ・コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物にレーザビームを照射し、該測定対象物中を伝搬する超音波による該レーザビームの反射光のドップラーシフト量を、複屈折性物質を共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計を用いて測定し、該測定対象物中を伝搬する超音波を測定する超音波測定装置において、
前記測定対象物からのレーザビームの反射光である信号光と、測定対象物に照射するレーザビームの一部を分岐して得られる安定化光とを入力して、該信号光と該安定化光とのいずれか一方を出力し、前記ファブリ・ペロー干渉計へ入力する光スイッチと、
前記ファブリ・ペロー干渉計の出力を検出する光検出器と、
前記光検出器の出力を入力するサンプル・ホールド部と、
前記サンプル・ホールド部の出力を入力し、該入力に応じてファブリ・ペロー干渉計の共振器長を調整する信号を出力する安定化回路と、
前記光スイッチの出力光を切り換えるタイミング、及び、前記サンプル・ホールド部のサンプル・ホールド動作のタイミングを制御する制御信号を発生する信号発生部と
を備え、
前記サンプル・ホールド部は、前記光スイッチが安定化光を出力する期間は、前記光検出部から入力された値をそのまま出力し、光スイッチの出力光を安定化光から信号光へ切り換える前に、前記光検出部から入力された値をサンプル・ホールドし、光スイッチの出力が信号光である期間は、該ホールドした値を出力する
ことを特徴とする超音波測定装置。
【請求項2】
前記ファブリ・ペロー干渉計の共振器媒質が、偏波保持光ファイバであることを特徴とする請求項1に記載の超音波測定装置。
【請求項3】
測定対象物にレーザビームを照射し、該測定対象物中を伝搬する超音波による該レーザビームの反射光のドップラーシフト量を、複屈折性物質を共振器媒質とするファブリ・ペロー干渉計を用いて測定し、該測定対象物中を伝搬する超音波の特性を測定する超音波測定方法において、
前記測定対象物からのレーザビームの反射光である信号光と、測定対象物に照射するレーザビームの一部を分岐して得られる安定化光とを光スイッチに入力するステップと、
前記光スイッチから、信号発生部からの制御信号に従い、前記反射光と前記信号光とのいずれか一方を出力するステップと、
前記光スイッチからの出力をファブリ・ペロー干渉計に入力するステップと、
前記ファブリ・ペロー干渉計からの出力を光検出器に入力するステップと、
前記光検出器の出力をサンプル・ホールド部に入力するステップと、
前記信号発生部からの制御信号に従い、前記光スイッチが安定化光を出力する期間は、前記光検出部からの入力をそのまま出力し、光スイッチの出力光が安定化光から信号光へ切り換わる前にファブリ・ペロー干渉計の出力の値をサンプリングし、該サンプリングした値をホールドし、光スイッチの出力が信号光である期間は、該ホールドした値を出力するステップと、
前記サンプル・ホールド部からの出力を安定化回路に入力するステップと、
前安定化回路からの出力に応じて、前記ファブリ・ペロー干渉計の共振器長を調整するステップと
を備えることを特徴とする超音波測定方法。
【請求項4】
前記ファブリ・ペロー干渉計の共振器媒質が、偏波保持光ファイバであることを特徴とする請求項3に記載の超音波測定方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−257365(P2011−257365A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134278(P2010−134278)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】