超音波画像表示装置及びその制御プログラム
【課題】脂肪肝の診断などの判断に役立つ情報を提供することができる超音波画像表示装置を提供する。
【解決手段】対象に対して送信された超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部と、マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元とこの最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られるインデックスIn、前記特異性スペクトルの半値幅であるFWHMを表示させる表示制御部と、を備えることを特徴とする。
【解決手段】対象に対して送信された超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部と、マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元とこの最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られるインデックスIn、前記特異性スペクトルの半値幅であるFWHMを表示させる表示制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なう超音波画像表示装置及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像表示装置は、対象に送信された超音波のエコー信号に基づいて作成された超音波画像をリアルタイムで観察することができる。例えば、人体に対して超音波を送信して得られたエコー信号に基づいて作成された超音波画像を表示する超音波画像表示装置においては、超音波画像を観察して、様々な診断が行なわれる。具体的には、特許文献1には、超音波画像に基づいて脂肪肝の診断を行なうことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−233859号公報(第3頁、段落[0004])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、脂肪肝の場合、一般的に肝細胞内への多数の脂肪滴により音響インピーダンスの異なる反射面ができると考えられ、これによりBモード画像の輝度が上昇する。また、肝細胞に沈着した脂肪による超音波の散乱により、深部になるほど超音波の減衰によって輝度が低下する場合もある。従って、このような傾向がないか超音波画像を観察して脂肪肝の診断を行なうが、超音波画像のみでは、脂肪肝であるか否かの判定は困難な場合もある。従って、脂肪肝の診断など何らかの判断を行なう場合に、判断に役立つ情報を提供することができる超音波画像表示装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するためになされた発明は、対象に対して送信された超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部と、マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元と該最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られる指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つを表示させる表示制御部と、を備えることを特徴とする超音波画像表示装置である。
【発明の効果】
【0006】
上記観点の発明によれば、超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析が行なわれる。ここで、例えば脂肪の蓄積量が多い肝臓は、エコー信号の振幅情報(輝度情報)において正常肝臓と大きな違いがなかったとしても、肝細胞に含まれる脂肪滴の影響によって、エコー信号に含まれる信号パターンが正常肝臓とは異なっている。従って、エコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元と該最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られる指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つが表示されることにより、脂肪肝であるか否かの診断など、エコー信号のままでは区別しづらい情報に対する判断に役立つ情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る超音波画像表示装置の実施形態の概略構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す超音波画像表示装置における制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】マルチフラクタル解析を行なう対象となる関心領域が設定された表示部を示す図である。
【図4】マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの一例を示す図である。
【図5】FWHMの値及びインデックスInの値が表示された表示部を示す図である。
【図6】特異性スペクトルが表示された表示部を示す図である。
【図7】第一実施形態の第一変形例において、色画像を有する超音波画像が表示された表示部を示す図である。
【図8】第一実施形態の第一変形例において、ラインを有する超音波画像が表示された表示部を示す図である。
【図9】第一実施形態の第二変形例における制御部の構成を示すブロック図である。
【図10】第二実施形態における制御部の構成を示すブロック図である。
【図11】第二実施形態における複数音線のエコー信号の結合を説明する図である。
【図12】エコー信号の結合をさらに詳細に説明する図である。
【図13】第二実施形態の変形例における複数音線のエコー信号の結合を説明する図である。
【図14】第二実施形態の変形例においてマルチフラクタル解析の対象となる信号を示す概念図である。
【図15】第三実施形態におけるマルチフラクタル解析の対象となる領域を説明するための図である。
【図16】超音波画像における分割領域に色画像が表示された表示部を示す図である。
【図17】マルチフラクタル解析を行なう対象を指定するカーソルが超音波画像に表示された表示部を示す図である。
【図18】制御部の他の構成を示すブロック図である。
【図19】エコー信号の平均化を説明する図である。
【図20】マルチフラクタル解析の対象となる信号を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について図1〜図6に基づいて説明する。図1に示す超音波画像表示装置1は、超音波プローブ2、送受信部3、エコーデータ処理部4、表示制御部5、表示部6、操作部7、制御部8を備える。
【0009】
前記超音波プローブ2は、複数の超音波振動子(図示省略)から対象に対して超音波を送信する。前記超音波プローブ2は、音線順次で超音波の走査を行なって超音波を送信する。また、前記超音波プローブ2は、超音波のエコー信号を受信する。
【0010】
前記送受信部3は、前記超音波プローブ2から所定の走査条件で超音波を送信するための電気信号を、前記制御部8からの制御信号に基づいて前記超音波プローブ2に供給する。また、前記送受信部3は、前記超音波プローブ2で受信したエコー信号について、A/D変換、整相加算処理等の信号処理を行なう。
【0011】
前記エコーデータ処理部4は、前記送受信部3から出力されたエコー信号のデータに対し、超音波画像を作成するための処理を行なう。例えば、前記エコーデータ処理部4は、対数圧縮処理及び包絡線検波処理等のBモード処理や、直交検波処理及びフィルタ処理等のドプラ(doppler)処理などを行なう。
【0012】
ちなみに、ドプラ処理には、カラードプラ画像を作成するためのカラードプラ処理、パワードプラ画像を作成するためのパワードプラ処理、パルスドプラ法による画像を作成するためのパルスドプラ処理、連続波ドプラ法による画像を作成するための連続波ドプラ処理が含まれる。
【0013】
前記表示制御部5は、前記エコーデータ処理部4で得られたデータを、スキャンコンバータ(scan converter)によって走査変換して超音波画像データを作成する。また、前記表示制御部5は、前記超音波画像データに基づく超音波画像を前記表示部6に表示させる。超音波画像は、Bモード画像やドプラ処理で得られたデータに基づく画像などである。
【0014】
また、前記表示制御部5は、前記超音波画像のほか、後述のマルチフラクタル解析部82によるマルチフラクタル解析(multi−fractal analysis)によって得られた特異性スペクトル(spectrum)Spの半値幅(後述のFWHM)と前記特異性スペクトルSpにおける最大フラクタル次元Dmaxと最大フラクタル次元Dmaxにおける特異性指数hmaxとに基づいて得られる指標値(後述のインデックスIn)、前記特異性スペクトルSpの半値幅及び前記特異性スペクトルSpの少なくとも一つを表示させる(表示制御機能)。前記表示制御部5は本発明における表示制御部の実施の形態の一例であり、前記表示制御機能は本発明における表示制御機能の実施の形態の一例である。
【0015】
なお、特異性スペクトルSpの半値幅、前記最大フラクタル次元Dmax、最大フラクタル次元Dmaxにおける特異性指数hmax、前記指標値(インデックスIn)、前記特異性スペクトルSpについては後述する。
【0016】
前記表示部6は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などで構成される。前記操作部7は、操作者が指示や情報を入力するためのキーボード及びポインティングデバイス(図示省略)などを含んで構成されている。
【0017】
前記制御部8は、特に図示しないがCPU(Central Processing Unit)を有して構成される。この制御部8は、図示しない記憶部に記憶された制御プログラムを読み出し、前記超音波画像表示装置1の各部における機能を実行させる。
【0018】
前記制御部8の詳細構成について説明する。図2に示すように、前記制御部8は、関心領域設定部81、マルチフラクタル解析部82、算出部83を有している。これら各部の機能も、前記記憶部に記憶された制御プログラムにより実行される。これら各部機能の説明は後述する。前記関心領域設定部81は、本発明における範囲設定部の実施の形態の一例である。また、前記マルチフラクタル解析部82は、本発明におけるマルチフラクタル解析部の実施の形態の一例であり、本発明におけるマルチフラクタル解析機能の実施の形態の一例を実行する。さらに、前記算出部83は、本発明における算出部の実施の形態の一例である。
【0019】
さて、本例の超音波画像表示装置1の作用について説明する。人体などの対象に対して前記超音波プローブ2において超音波の送受信を行なうと、得られたエコー信号が前記送受信部3と前記エコーデータ処理部4で処理される。そして、エコーデータ処理部4からの出力信号に基づいて、前記表示制御部5は超音波画像データを作成する。そして、前記表示制御部5は、前記超音波画像データに基づく超音波画像UGを前記表示部6に表示させる。
【0020】
また、前記マルチフラクタル解析部82は、エコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なう。マルチフラクタル解析を行なう前においては、図3に示すように、前記表示部6に表示された超音波画像UGにおいて、マルチフラクタル解析を行なう対象となる関心領域Rを設定する。具体的には、操作者が前記操作部7のポインティングデバイスなどを操作して、マルチフラクタル解析を行なう領域を前記超音波画像UGにおいて指定すると、前記関心領域設定部81は前記指定された領域を前記関心領域Rとして設定する。
【0021】
マルチフラクタル解析の対象となるエコー信号は、前記送受信部3の出力信号でもよく、前記エコーデータ処理部4の出力信号でもよい。前記エコーデータ処理部4の出力信号は、Bモード処理で得られた信号でもよく、直交検波処理後のI信号又はQ信号でもよい。また、これらI信号及びQ信号を足し合わせるなどして組み合わせた信号に対してマルチフラクタル解析を行なってもよい。
【0022】
また、マルチフラクタル解析の対象となるエコー信号は、前記関心領域Rにおける全て又は一部の音線についてのエコー信号である。前記マルチフラクタル解析部82は、各音線のエコー信号についてそれぞれマルチフラクタル解析を行なう。
【0023】
前記マルチフラクタル解析部82は、WTMM(Wavelet Transform Modulus Maxima)法を用いたマルチフラクタル解析を行なう。このWTMM法を用いたマルチフラクタル解析は、Wavelet変換、Modulus maxima lineの抽出、分配関数による処理、ルジャンドル(Legendre)変換を含む処理を行なうものである。
【0024】
マルチフラクタル解析により、図4に示すように特異性スペクトルSpが得られる。この特異性スペクトルSpにおいて、横軸hは特異性指数(リプシッツ・ヘルダー指数)であり、縦軸Dはフラクタル次元(fractal dimension)である。また、Dmaxは前記特異性スペクトルSpにおける極大値、すなわちフラクタル次元Dの最大値(最大フラクタル次元)であり、hmaxは前記特異性スペクトルSpにおいてDmaxにおける特異性指数hの値である。さらに、FWHM(full width at half maximum)は、Dmaxの二分の一であるDhalfにおける特異性スペクトルSpの特異性指数hの幅(半値幅)である。
【0025】
ちなみに特異性指数hは、解析対象であるエコー信号の波形の複雑さの程度を示す指数であり、FWHMはエコー信号に含まれる異なる信号パターンの量に関する値である。例えば、エコー信号に、相似形の信号パターンが多く含まれるほど、FWHMの値は小さくなる。
【0026】
前記算出部83は、前記特異性スペクトルSpが得られると、この特異性スペクトルSpにおける前記Dmax、前記FWHM及び前記hmaxを算出する。また、前記算出部83は、下記(式1)により得られる所定のインデックス(index)Inを算出してもよい。
In=FWHM×(hmax/Dmax)・・・(式1)
このインデックスInは、本発明における指標値の実施の形態の一例である。
【0027】
前記表示制御部5は、図5に示すようにFWHMの値及びインデックスInの値を、前記超音波画像UGと並べて前記表示部6に表示させる。ただし、前記表示制御部5は、FWHMの値及びインデックスInの値のうち、いずれか一方のみを表示させてもよい。また、表示制御部5は、特に図示しないが、Dmaxの値、hmaxの値を前記FWHMの値及びインデックスInの値とともに前記表示部6に表示させてもよい。さらに、前記表示制御部5は、図6に示すように特異性スペクトルSpを、前記超音波画像UGと並べて前記表示部6に表示させてもよい。前記特異性スペクトルSpは、前記FWHMの値及び前記インデックスInの値とともに表示されてもよい。
【0028】
複数音線のエコー信号についてマルチフラクタル解析を行なった場合、各音線についてのFWHMの値及びインデックスInの値を表示してもよいし(すなわち、複数のFWHMの値及び複数のインデックスInの値が表示される)、各音線について平均化したFWHMの値及びインデックスInの値を前記算出部83が算出してこれを表示してもよい。また、各音線についての特異性スペクトルSpを表示してもよいし(すなわち、複数の特異性スペクトルSpが表示される)、各音線について平均化した特異性スペクトルSpを前記算出部83が求めてこれを表示してもよい。平均化することによって、特に前記関心領域Rの音線方向(深度方向)の長さが短く、一音線におけるエコー信号のデータ数が少なくなった場合でも、より適正な結果を表示することができる。
【0029】
ここで、エコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行ない、FWHMの値、インデックスInの値及び前記特異性スペクトルを表示する理由について説明する。例えば、びまん性脂肪肝の場合、Bモード画像全体の輝度(エコー信号の振幅情報)が一律に上がるため、輝度の差として認識しづらく、肝腎コントラストの評価手法に頼らざるを得ない場合もある。しかし、肝腎コントラストの評価手法は腎臓を含めたBモード画像を得る必要があるので、腎臓から離れた部分については用いることができない。一方、脂肪の蓄積量が多い肝臓は、肝細胞に含まれる脂肪滴の影響によって、エコー信号に含まれる信号パターンが正常肝臓とは異なる。従って、エコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なって得られた特異性スペクトルSpは、脂肪の蓄積量が多い肝臓と正常肝臓とで異なる。以上のことから、前記表示部6にFWHMの値、インデックスInの値及び特異性スペクトルSpを表示することにより、操作者は例えば脂肪肝であるか否かを、腎臓を含めた画像からではなくても診断することができる。
【0030】
次に、第一実施形態の変形例について説明する。先ず、第一変形例について説明する。図7に示すように、前記表示制御部5は、前記関心領域Rについて一つ算出されたFWHMの値又はインデックスInの値に応じた色相を有する色画像CGを前記関心領域R内に表示させてもよい。具体的には、前記表示制御部5は、超音波画像UGと色画像CGとを加算し超音波画像UG上の関心領域R内に色画像CGが合成された画像を前記表示部6に表示させる。前記色画像CGは、背景の超音波画像UGが透過して見える状態で表示されている。
【0031】
ただし、FWHMの値又はインデックスInの値に応じた画像であれば、前記色画像CGに限られるものではない。
【0032】
FWHMの値及びインデックスInの値が複数音線について算出される場合、前記表示制御部5は、図8に示すように音線に相当するラインLを前記関心領域R内に表示させ、前記ラインLの色をFWHMの値又はインデックスInの値に応じた色で表示させてもよい。
【0033】
次に、第二変形例について説明する。この第二変形例では、前記制御部8は、図9に示すように、前記関心領域設定部81、マルチフラクタル解析部82、算出部83の他に、前処理部84を有している。この前処理部84は、マルチフラクタル解析を行なう前段階のエコー信号に対する信号処理として、平滑化処理、ハイパスフィルタ(high pass filter)処理、ダウンサンプリング(down sampling)処理又はアップサンプリング(up sampling)処理のいずれかの処理、或いはこれら複数の処理を行なう。
【0034】
平滑化処理、ダウンサンプリング処理、アップサンプリング処理を行なうことにより、マルチフラクタル解析の結果を安定させることができる。また、信号の相似性に関する解析を行なうマルチフラクタル解析においては、信号の振幅の情報は不要であるため、ハイパスフィルタ処理を行なうことによってマルチフラクタル解析に必要な信号成分のみを取り出すことができる。前記前処理部84は、本発明における前処理部の実施の形態の一例である。
【0035】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。ただし、第一実施形態と同一事項についての説明は省略する。
【0036】
本例では、複数の音線におけるエコー信号を結合した信号に対してマルチフラクタル解析を行なう。前記制御部8は、図10に示すように、前記関心領域設定部81、マルチフラクタル解析部82、算出部83の他に、信号結合部85を有している。この信号結合部85は、複数の音線におけるエコー信号を結合する。具体的には、図11に示すように、関心領域R内における複数音線のエコー信号sa,sb,scの音線方向における端部を結合して一つのエコー信号s(信号は単純化して直線で示す)とする。そして、前記マルチフラクタル解析部82は、結合された前記エコー信号sについてマルチフラクタル解析を行なう。
【0037】
ここで、図12に示すように、前記エコー信号sa,sb,scの浅部側(超音波プローブ2に近い側)の端部をan,bn,cn、深部側(超音波プローブ2から遠い側)の端部をaf,bf,cfとする。前記信号結合部85は、隣り合うエコーにおける深度が近い側の端部同士を結合する。すなわち、前記信号結合部85は、前記エコー信号saの端部afと前記エコー信号sbの端部bfとを結合し、前記エコー信号sbの端部bnと前記エコー信号scの端部cnとを結合する。ただし、このような場合に限られるものではない。
【0038】
ここで、関心領域Rの音線方向(深度方向)の長さが短くなるほど、エコー信号のデータ数が少なくなるので、適正なマルチフラクタル解析の結果が得られなくなるおそれがある。しかし、本例によれば、複数音線のエコー信号が結合されたエコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析が行なわれるので、関心領域Rの音線方向の長さが短い場合であっても、適正なマルチフラクタル解析の結果を得ることができる。従って、例えば血管を避けて関心領域Rを設定するような場合に、関心領域Rの音線方向の長さが短くなってしまっても、適正な特異性スペクトルSpを得ることができる。
【0039】
次に、第二実施形態の変形例について図13及び図14に基づいて説明する。図13において、sl−a,sl−b,sl−cは関心領域R(図13では図示省略)内における音線を示している。そして、音線sl−aにおけるエコー信号のデータをa1,a2,a3,・・・、音線sl−bにおけるエコー信号のデータをb1,b2,b3,・・・、音線sl−cにおけるエコー信号のデータをc1,c2,c3,・・・とする。
【0040】
前記信号結合部85は、各音線において音線方向の順に並ぶエコー信号のデータを、複数の音線にわたって超音波の走査方向の順に並ぶように結合したデータ列からなる信号を作成する。具体的には、前記信号結合部85は、図14に示すように、データa1,b1,c1,c2,b2,a2,a3,b3,c3,・・・の順に並ぶデータ列からなる信号sを作成する。
【0041】
ちなみに、この第二実施形態のように、複数音線のエコー信号を結合した信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なうか、第一実施形態のように一音線のエコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なうかを、例えば前記操作部7における入力によって選択することができるようになっていてもよい。
【0042】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態について説明する。ただし上記各実施形態と同一の事項については説明を省略する。
【0043】
本例の前記マルチフラクタル解析部82は、図15に示すように、前記関心領域Rを音線方向に分割した分割領域r1,r2,r3について、マルチフラクタル解析を行なう。この場合、前記各分割領域r1〜r3の各音線についてマルチフラクタル解析を行ないその解析結果を平均化して得られたFWHMの値及びインデックスInの値を前記算出部83が算出し、これを前記各分割領域r1〜r3毎に表示してもよい。また、前記信号結合部85が前記各分割領域r1〜r3における各音線を結合し、結合されたエコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なってもよい。この場合も、前記各分割領域r1〜r3毎に前記FWHMの値及び前記インデックスInの値を表示する。
【0044】
さらに、前記各分割領域r1〜r3について得られたFWHMの値及びインデックスの値に応じた色画像CG1、CG2、CG3を、図16に示すように前記超音波画像UGにおける前記各分割領域r1〜r3に表示してもよい。
【0045】
以上、本発明を前記各実施形態によって説明したが、本発明はその主旨を変更しない範囲で種々変更実施可能なことはもちろんである。例えば、上述の実施形態においては、マルチフラクタル解析を行なう対象を関心領域Rを設定することにより指定しているが、前記関心領域の代わりに、図17に示すようにカーソルC1,C2を用いて指定してもよい。この場合、前記カーソルC1,C2の間のエコー信号がマルチフラクタル解析の対象になる。
【0046】
また、前記送受信部3においてA/D変換を行なう際のサンプリングレート(sampling rate)を調節して、マルチフラクタル解析の結果を安定させることができるようになっていてもよい。
【0047】
また、前記制御部8は、図18に示すように、前記関心領域設定部81、マルチフラクタル解析部82、算出部83の他に、信号平均部86を有していてもよい。この信号平均部86は、エコー信号を複数音線について平均化した信号s′を作成する。具体的に図19及び図20に基づいて説明する。図19に示すように、音線sl−aにおけるエコー信号のデータをa1,a2,a3,・・・,an、音線sl−bにおけるエコー信号のデータをb1,b2,b3,・・・,bn、音線sl−cにおけるエコー信号のデータをc1,c2,c3,・・・,cnとする。前記信号平均部86は、図20に示すように、各音線におけるエコー信号のデータであって、各深度位置におけるデータ(a1,b1,c1)、(a2,b2,c2)、(a3,b3,c3)、(an,bn,cn)を音線方向に平均化して得られたデータx1,x2,x3,・・・,xnのデータ列からなる信号s′を作成する。具体的には、x1=(a1+b1+c1)/3、x2=(a2+b2+c2)/3、x3=(a3+b3+c3)/3、・・・、xn=(an+bn+cn)/3である。
【0048】
そして、前記信号s′についてマルチフラクタル解析を行なうことによって得られ、前記表示制御部5により表示されるFWHMの値及び前記インデックスInの値、前記特異性スペクトルSpは複数音線の平均である。
【符号の説明】
【0049】
1 超音波画像表示装置
5 表示制御部
81 関心領域設定部(範囲設定部)
82 マルチフラクタル解析部
83 算出部
84 前処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、エコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なう超音波画像表示装置及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像表示装置は、対象に送信された超音波のエコー信号に基づいて作成された超音波画像をリアルタイムで観察することができる。例えば、人体に対して超音波を送信して得られたエコー信号に基づいて作成された超音波画像を表示する超音波画像表示装置においては、超音波画像を観察して、様々な診断が行なわれる。具体的には、特許文献1には、超音波画像に基づいて脂肪肝の診断を行なうことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−233859号公報(第3頁、段落[0004])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、脂肪肝の場合、一般的に肝細胞内への多数の脂肪滴により音響インピーダンスの異なる反射面ができると考えられ、これによりBモード画像の輝度が上昇する。また、肝細胞に沈着した脂肪による超音波の散乱により、深部になるほど超音波の減衰によって輝度が低下する場合もある。従って、このような傾向がないか超音波画像を観察して脂肪肝の診断を行なうが、超音波画像のみでは、脂肪肝であるか否かの判定は困難な場合もある。従って、脂肪肝の診断など何らかの判断を行なう場合に、判断に役立つ情報を提供することができる超音波画像表示装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するためになされた発明は、対象に対して送信された超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部と、マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元と該最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られる指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つを表示させる表示制御部と、を備えることを特徴とする超音波画像表示装置である。
【発明の効果】
【0006】
上記観点の発明によれば、超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析が行なわれる。ここで、例えば脂肪の蓄積量が多い肝臓は、エコー信号の振幅情報(輝度情報)において正常肝臓と大きな違いがなかったとしても、肝細胞に含まれる脂肪滴の影響によって、エコー信号に含まれる信号パターンが正常肝臓とは異なっている。従って、エコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元と該最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られる指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つが表示されることにより、脂肪肝であるか否かの診断など、エコー信号のままでは区別しづらい情報に対する判断に役立つ情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る超音波画像表示装置の実施形態の概略構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す超音波画像表示装置における制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】マルチフラクタル解析を行なう対象となる関心領域が設定された表示部を示す図である。
【図4】マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの一例を示す図である。
【図5】FWHMの値及びインデックスInの値が表示された表示部を示す図である。
【図6】特異性スペクトルが表示された表示部を示す図である。
【図7】第一実施形態の第一変形例において、色画像を有する超音波画像が表示された表示部を示す図である。
【図8】第一実施形態の第一変形例において、ラインを有する超音波画像が表示された表示部を示す図である。
【図9】第一実施形態の第二変形例における制御部の構成を示すブロック図である。
【図10】第二実施形態における制御部の構成を示すブロック図である。
【図11】第二実施形態における複数音線のエコー信号の結合を説明する図である。
【図12】エコー信号の結合をさらに詳細に説明する図である。
【図13】第二実施形態の変形例における複数音線のエコー信号の結合を説明する図である。
【図14】第二実施形態の変形例においてマルチフラクタル解析の対象となる信号を示す概念図である。
【図15】第三実施形態におけるマルチフラクタル解析の対象となる領域を説明するための図である。
【図16】超音波画像における分割領域に色画像が表示された表示部を示す図である。
【図17】マルチフラクタル解析を行なう対象を指定するカーソルが超音波画像に表示された表示部を示す図である。
【図18】制御部の他の構成を示すブロック図である。
【図19】エコー信号の平均化を説明する図である。
【図20】マルチフラクタル解析の対象となる信号を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について図1〜図6に基づいて説明する。図1に示す超音波画像表示装置1は、超音波プローブ2、送受信部3、エコーデータ処理部4、表示制御部5、表示部6、操作部7、制御部8を備える。
【0009】
前記超音波プローブ2は、複数の超音波振動子(図示省略)から対象に対して超音波を送信する。前記超音波プローブ2は、音線順次で超音波の走査を行なって超音波を送信する。また、前記超音波プローブ2は、超音波のエコー信号を受信する。
【0010】
前記送受信部3は、前記超音波プローブ2から所定の走査条件で超音波を送信するための電気信号を、前記制御部8からの制御信号に基づいて前記超音波プローブ2に供給する。また、前記送受信部3は、前記超音波プローブ2で受信したエコー信号について、A/D変換、整相加算処理等の信号処理を行なう。
【0011】
前記エコーデータ処理部4は、前記送受信部3から出力されたエコー信号のデータに対し、超音波画像を作成するための処理を行なう。例えば、前記エコーデータ処理部4は、対数圧縮処理及び包絡線検波処理等のBモード処理や、直交検波処理及びフィルタ処理等のドプラ(doppler)処理などを行なう。
【0012】
ちなみに、ドプラ処理には、カラードプラ画像を作成するためのカラードプラ処理、パワードプラ画像を作成するためのパワードプラ処理、パルスドプラ法による画像を作成するためのパルスドプラ処理、連続波ドプラ法による画像を作成するための連続波ドプラ処理が含まれる。
【0013】
前記表示制御部5は、前記エコーデータ処理部4で得られたデータを、スキャンコンバータ(scan converter)によって走査変換して超音波画像データを作成する。また、前記表示制御部5は、前記超音波画像データに基づく超音波画像を前記表示部6に表示させる。超音波画像は、Bモード画像やドプラ処理で得られたデータに基づく画像などである。
【0014】
また、前記表示制御部5は、前記超音波画像のほか、後述のマルチフラクタル解析部82によるマルチフラクタル解析(multi−fractal analysis)によって得られた特異性スペクトル(spectrum)Spの半値幅(後述のFWHM)と前記特異性スペクトルSpにおける最大フラクタル次元Dmaxと最大フラクタル次元Dmaxにおける特異性指数hmaxとに基づいて得られる指標値(後述のインデックスIn)、前記特異性スペクトルSpの半値幅及び前記特異性スペクトルSpの少なくとも一つを表示させる(表示制御機能)。前記表示制御部5は本発明における表示制御部の実施の形態の一例であり、前記表示制御機能は本発明における表示制御機能の実施の形態の一例である。
【0015】
なお、特異性スペクトルSpの半値幅、前記最大フラクタル次元Dmax、最大フラクタル次元Dmaxにおける特異性指数hmax、前記指標値(インデックスIn)、前記特異性スペクトルSpについては後述する。
【0016】
前記表示部6は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などで構成される。前記操作部7は、操作者が指示や情報を入力するためのキーボード及びポインティングデバイス(図示省略)などを含んで構成されている。
【0017】
前記制御部8は、特に図示しないがCPU(Central Processing Unit)を有して構成される。この制御部8は、図示しない記憶部に記憶された制御プログラムを読み出し、前記超音波画像表示装置1の各部における機能を実行させる。
【0018】
前記制御部8の詳細構成について説明する。図2に示すように、前記制御部8は、関心領域設定部81、マルチフラクタル解析部82、算出部83を有している。これら各部の機能も、前記記憶部に記憶された制御プログラムにより実行される。これら各部機能の説明は後述する。前記関心領域設定部81は、本発明における範囲設定部の実施の形態の一例である。また、前記マルチフラクタル解析部82は、本発明におけるマルチフラクタル解析部の実施の形態の一例であり、本発明におけるマルチフラクタル解析機能の実施の形態の一例を実行する。さらに、前記算出部83は、本発明における算出部の実施の形態の一例である。
【0019】
さて、本例の超音波画像表示装置1の作用について説明する。人体などの対象に対して前記超音波プローブ2において超音波の送受信を行なうと、得られたエコー信号が前記送受信部3と前記エコーデータ処理部4で処理される。そして、エコーデータ処理部4からの出力信号に基づいて、前記表示制御部5は超音波画像データを作成する。そして、前記表示制御部5は、前記超音波画像データに基づく超音波画像UGを前記表示部6に表示させる。
【0020】
また、前記マルチフラクタル解析部82は、エコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なう。マルチフラクタル解析を行なう前においては、図3に示すように、前記表示部6に表示された超音波画像UGにおいて、マルチフラクタル解析を行なう対象となる関心領域Rを設定する。具体的には、操作者が前記操作部7のポインティングデバイスなどを操作して、マルチフラクタル解析を行なう領域を前記超音波画像UGにおいて指定すると、前記関心領域設定部81は前記指定された領域を前記関心領域Rとして設定する。
【0021】
マルチフラクタル解析の対象となるエコー信号は、前記送受信部3の出力信号でもよく、前記エコーデータ処理部4の出力信号でもよい。前記エコーデータ処理部4の出力信号は、Bモード処理で得られた信号でもよく、直交検波処理後のI信号又はQ信号でもよい。また、これらI信号及びQ信号を足し合わせるなどして組み合わせた信号に対してマルチフラクタル解析を行なってもよい。
【0022】
また、マルチフラクタル解析の対象となるエコー信号は、前記関心領域Rにおける全て又は一部の音線についてのエコー信号である。前記マルチフラクタル解析部82は、各音線のエコー信号についてそれぞれマルチフラクタル解析を行なう。
【0023】
前記マルチフラクタル解析部82は、WTMM(Wavelet Transform Modulus Maxima)法を用いたマルチフラクタル解析を行なう。このWTMM法を用いたマルチフラクタル解析は、Wavelet変換、Modulus maxima lineの抽出、分配関数による処理、ルジャンドル(Legendre)変換を含む処理を行なうものである。
【0024】
マルチフラクタル解析により、図4に示すように特異性スペクトルSpが得られる。この特異性スペクトルSpにおいて、横軸hは特異性指数(リプシッツ・ヘルダー指数)であり、縦軸Dはフラクタル次元(fractal dimension)である。また、Dmaxは前記特異性スペクトルSpにおける極大値、すなわちフラクタル次元Dの最大値(最大フラクタル次元)であり、hmaxは前記特異性スペクトルSpにおいてDmaxにおける特異性指数hの値である。さらに、FWHM(full width at half maximum)は、Dmaxの二分の一であるDhalfにおける特異性スペクトルSpの特異性指数hの幅(半値幅)である。
【0025】
ちなみに特異性指数hは、解析対象であるエコー信号の波形の複雑さの程度を示す指数であり、FWHMはエコー信号に含まれる異なる信号パターンの量に関する値である。例えば、エコー信号に、相似形の信号パターンが多く含まれるほど、FWHMの値は小さくなる。
【0026】
前記算出部83は、前記特異性スペクトルSpが得られると、この特異性スペクトルSpにおける前記Dmax、前記FWHM及び前記hmaxを算出する。また、前記算出部83は、下記(式1)により得られる所定のインデックス(index)Inを算出してもよい。
In=FWHM×(hmax/Dmax)・・・(式1)
このインデックスInは、本発明における指標値の実施の形態の一例である。
【0027】
前記表示制御部5は、図5に示すようにFWHMの値及びインデックスInの値を、前記超音波画像UGと並べて前記表示部6に表示させる。ただし、前記表示制御部5は、FWHMの値及びインデックスInの値のうち、いずれか一方のみを表示させてもよい。また、表示制御部5は、特に図示しないが、Dmaxの値、hmaxの値を前記FWHMの値及びインデックスInの値とともに前記表示部6に表示させてもよい。さらに、前記表示制御部5は、図6に示すように特異性スペクトルSpを、前記超音波画像UGと並べて前記表示部6に表示させてもよい。前記特異性スペクトルSpは、前記FWHMの値及び前記インデックスInの値とともに表示されてもよい。
【0028】
複数音線のエコー信号についてマルチフラクタル解析を行なった場合、各音線についてのFWHMの値及びインデックスInの値を表示してもよいし(すなわち、複数のFWHMの値及び複数のインデックスInの値が表示される)、各音線について平均化したFWHMの値及びインデックスInの値を前記算出部83が算出してこれを表示してもよい。また、各音線についての特異性スペクトルSpを表示してもよいし(すなわち、複数の特異性スペクトルSpが表示される)、各音線について平均化した特異性スペクトルSpを前記算出部83が求めてこれを表示してもよい。平均化することによって、特に前記関心領域Rの音線方向(深度方向)の長さが短く、一音線におけるエコー信号のデータ数が少なくなった場合でも、より適正な結果を表示することができる。
【0029】
ここで、エコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行ない、FWHMの値、インデックスInの値及び前記特異性スペクトルを表示する理由について説明する。例えば、びまん性脂肪肝の場合、Bモード画像全体の輝度(エコー信号の振幅情報)が一律に上がるため、輝度の差として認識しづらく、肝腎コントラストの評価手法に頼らざるを得ない場合もある。しかし、肝腎コントラストの評価手法は腎臓を含めたBモード画像を得る必要があるので、腎臓から離れた部分については用いることができない。一方、脂肪の蓄積量が多い肝臓は、肝細胞に含まれる脂肪滴の影響によって、エコー信号に含まれる信号パターンが正常肝臓とは異なる。従って、エコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なって得られた特異性スペクトルSpは、脂肪の蓄積量が多い肝臓と正常肝臓とで異なる。以上のことから、前記表示部6にFWHMの値、インデックスInの値及び特異性スペクトルSpを表示することにより、操作者は例えば脂肪肝であるか否かを、腎臓を含めた画像からではなくても診断することができる。
【0030】
次に、第一実施形態の変形例について説明する。先ず、第一変形例について説明する。図7に示すように、前記表示制御部5は、前記関心領域Rについて一つ算出されたFWHMの値又はインデックスInの値に応じた色相を有する色画像CGを前記関心領域R内に表示させてもよい。具体的には、前記表示制御部5は、超音波画像UGと色画像CGとを加算し超音波画像UG上の関心領域R内に色画像CGが合成された画像を前記表示部6に表示させる。前記色画像CGは、背景の超音波画像UGが透過して見える状態で表示されている。
【0031】
ただし、FWHMの値又はインデックスInの値に応じた画像であれば、前記色画像CGに限られるものではない。
【0032】
FWHMの値及びインデックスInの値が複数音線について算出される場合、前記表示制御部5は、図8に示すように音線に相当するラインLを前記関心領域R内に表示させ、前記ラインLの色をFWHMの値又はインデックスInの値に応じた色で表示させてもよい。
【0033】
次に、第二変形例について説明する。この第二変形例では、前記制御部8は、図9に示すように、前記関心領域設定部81、マルチフラクタル解析部82、算出部83の他に、前処理部84を有している。この前処理部84は、マルチフラクタル解析を行なう前段階のエコー信号に対する信号処理として、平滑化処理、ハイパスフィルタ(high pass filter)処理、ダウンサンプリング(down sampling)処理又はアップサンプリング(up sampling)処理のいずれかの処理、或いはこれら複数の処理を行なう。
【0034】
平滑化処理、ダウンサンプリング処理、アップサンプリング処理を行なうことにより、マルチフラクタル解析の結果を安定させることができる。また、信号の相似性に関する解析を行なうマルチフラクタル解析においては、信号の振幅の情報は不要であるため、ハイパスフィルタ処理を行なうことによってマルチフラクタル解析に必要な信号成分のみを取り出すことができる。前記前処理部84は、本発明における前処理部の実施の形態の一例である。
【0035】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。ただし、第一実施形態と同一事項についての説明は省略する。
【0036】
本例では、複数の音線におけるエコー信号を結合した信号に対してマルチフラクタル解析を行なう。前記制御部8は、図10に示すように、前記関心領域設定部81、マルチフラクタル解析部82、算出部83の他に、信号結合部85を有している。この信号結合部85は、複数の音線におけるエコー信号を結合する。具体的には、図11に示すように、関心領域R内における複数音線のエコー信号sa,sb,scの音線方向における端部を結合して一つのエコー信号s(信号は単純化して直線で示す)とする。そして、前記マルチフラクタル解析部82は、結合された前記エコー信号sについてマルチフラクタル解析を行なう。
【0037】
ここで、図12に示すように、前記エコー信号sa,sb,scの浅部側(超音波プローブ2に近い側)の端部をan,bn,cn、深部側(超音波プローブ2から遠い側)の端部をaf,bf,cfとする。前記信号結合部85は、隣り合うエコーにおける深度が近い側の端部同士を結合する。すなわち、前記信号結合部85は、前記エコー信号saの端部afと前記エコー信号sbの端部bfとを結合し、前記エコー信号sbの端部bnと前記エコー信号scの端部cnとを結合する。ただし、このような場合に限られるものではない。
【0038】
ここで、関心領域Rの音線方向(深度方向)の長さが短くなるほど、エコー信号のデータ数が少なくなるので、適正なマルチフラクタル解析の結果が得られなくなるおそれがある。しかし、本例によれば、複数音線のエコー信号が結合されたエコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析が行なわれるので、関心領域Rの音線方向の長さが短い場合であっても、適正なマルチフラクタル解析の結果を得ることができる。従って、例えば血管を避けて関心領域Rを設定するような場合に、関心領域Rの音線方向の長さが短くなってしまっても、適正な特異性スペクトルSpを得ることができる。
【0039】
次に、第二実施形態の変形例について図13及び図14に基づいて説明する。図13において、sl−a,sl−b,sl−cは関心領域R(図13では図示省略)内における音線を示している。そして、音線sl−aにおけるエコー信号のデータをa1,a2,a3,・・・、音線sl−bにおけるエコー信号のデータをb1,b2,b3,・・・、音線sl−cにおけるエコー信号のデータをc1,c2,c3,・・・とする。
【0040】
前記信号結合部85は、各音線において音線方向の順に並ぶエコー信号のデータを、複数の音線にわたって超音波の走査方向の順に並ぶように結合したデータ列からなる信号を作成する。具体的には、前記信号結合部85は、図14に示すように、データa1,b1,c1,c2,b2,a2,a3,b3,c3,・・・の順に並ぶデータ列からなる信号sを作成する。
【0041】
ちなみに、この第二実施形態のように、複数音線のエコー信号を結合した信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なうか、第一実施形態のように一音線のエコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なうかを、例えば前記操作部7における入力によって選択することができるようになっていてもよい。
【0042】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態について説明する。ただし上記各実施形態と同一の事項については説明を省略する。
【0043】
本例の前記マルチフラクタル解析部82は、図15に示すように、前記関心領域Rを音線方向に分割した分割領域r1,r2,r3について、マルチフラクタル解析を行なう。この場合、前記各分割領域r1〜r3の各音線についてマルチフラクタル解析を行ないその解析結果を平均化して得られたFWHMの値及びインデックスInの値を前記算出部83が算出し、これを前記各分割領域r1〜r3毎に表示してもよい。また、前記信号結合部85が前記各分割領域r1〜r3における各音線を結合し、結合されたエコー信号を対象にしてマルチフラクタル解析を行なってもよい。この場合も、前記各分割領域r1〜r3毎に前記FWHMの値及び前記インデックスInの値を表示する。
【0044】
さらに、前記各分割領域r1〜r3について得られたFWHMの値及びインデックスの値に応じた色画像CG1、CG2、CG3を、図16に示すように前記超音波画像UGにおける前記各分割領域r1〜r3に表示してもよい。
【0045】
以上、本発明を前記各実施形態によって説明したが、本発明はその主旨を変更しない範囲で種々変更実施可能なことはもちろんである。例えば、上述の実施形態においては、マルチフラクタル解析を行なう対象を関心領域Rを設定することにより指定しているが、前記関心領域の代わりに、図17に示すようにカーソルC1,C2を用いて指定してもよい。この場合、前記カーソルC1,C2の間のエコー信号がマルチフラクタル解析の対象になる。
【0046】
また、前記送受信部3においてA/D変換を行なう際のサンプリングレート(sampling rate)を調節して、マルチフラクタル解析の結果を安定させることができるようになっていてもよい。
【0047】
また、前記制御部8は、図18に示すように、前記関心領域設定部81、マルチフラクタル解析部82、算出部83の他に、信号平均部86を有していてもよい。この信号平均部86は、エコー信号を複数音線について平均化した信号s′を作成する。具体的に図19及び図20に基づいて説明する。図19に示すように、音線sl−aにおけるエコー信号のデータをa1,a2,a3,・・・,an、音線sl−bにおけるエコー信号のデータをb1,b2,b3,・・・,bn、音線sl−cにおけるエコー信号のデータをc1,c2,c3,・・・,cnとする。前記信号平均部86は、図20に示すように、各音線におけるエコー信号のデータであって、各深度位置におけるデータ(a1,b1,c1)、(a2,b2,c2)、(a3,b3,c3)、(an,bn,cn)を音線方向に平均化して得られたデータx1,x2,x3,・・・,xnのデータ列からなる信号s′を作成する。具体的には、x1=(a1+b1+c1)/3、x2=(a2+b2+c2)/3、x3=(a3+b3+c3)/3、・・・、xn=(an+bn+cn)/3である。
【0048】
そして、前記信号s′についてマルチフラクタル解析を行なうことによって得られ、前記表示制御部5により表示されるFWHMの値及び前記インデックスInの値、前記特異性スペクトルSpは複数音線の平均である。
【符号の説明】
【0049】
1 超音波画像表示装置
5 表示制御部
81 関心領域設定部(範囲設定部)
82 マルチフラクタル解析部
83 算出部
84 前処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に対して送信された超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部と、
マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元と該最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られる指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つを表示させる表示制御部と、
を備えることを特徴とする超音波画像表示装置。
【請求項2】
前記特異性スペクトルにおいて、前記半値幅、前記最大フラクタル次元及び該最大フラクタル次元における特異性指数を算出する算出部を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波画像表示装置。
【請求項3】
前記エコー信号に基づいて作成される超音波画像において、前記マルチフラクタル解析を行なう対象となる範囲を設定する範囲設定部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波画像表示装置。
【請求項4】
前記表示制御部により表示される前記指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルは、複数音線の平均であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、前記指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つを、複数音線について表示させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項6】
前記マルチフラクタル解析部は、複数の音線におけるエコー信号を結合した信号に対してマルチフラクタル解析を行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項7】
前記マルチフラクタル解析部は、複数の音線におけるエコー信号の端部同士を結合してなる信号に対してマルチフラクタル解析を行なうことを特徴とする請求項6に記載の超音波画像表示装置。
【請求項8】
前記マルチフラクタル解析部は、各音線におけるエコー信号のデータを複数の音線にわたって超音波の走査方向の順に並ぶように結合してなる信号に対してマルチフラクタル解析を行なうことを特徴とする請求項6に記載の超音波画像表示装置。
【請求項9】
前記マルチフラクタル解析を行なう前の前記エコー信号に対して、平滑化処理、ハイパスフィルタ処理、ダウンサンプリング処理又はアップサンプリング処理のいずれかの処理を行なう前処理部を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項10】
前記表示制御部は、前記指標値又は前記特異性スペクトルの半値幅の値に応じた画像を、前記エコー信号に基づく超音波画像上に表示させることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項11】
コンピュータに、
対象に対して送信された超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析機能と、
マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元と該最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られる指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つを表示させる表示制御機能と、
を実行させることを特徴とする超音波画像表示装置の制御プログラム。
【請求項1】
対象に対して送信された超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析部と、
マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元と該最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られる指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つを表示させる表示制御部と、
を備えることを特徴とする超音波画像表示装置。
【請求項2】
前記特異性スペクトルにおいて、前記半値幅、前記最大フラクタル次元及び該最大フラクタル次元における特異性指数を算出する算出部を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波画像表示装置。
【請求項3】
前記エコー信号に基づいて作成される超音波画像において、前記マルチフラクタル解析を行なう対象となる範囲を設定する範囲設定部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波画像表示装置。
【請求項4】
前記表示制御部により表示される前記指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルは、複数音線の平均であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、前記指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つを、複数音線について表示させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項6】
前記マルチフラクタル解析部は、複数の音線におけるエコー信号を結合した信号に対してマルチフラクタル解析を行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項7】
前記マルチフラクタル解析部は、複数の音線におけるエコー信号の端部同士を結合してなる信号に対してマルチフラクタル解析を行なうことを特徴とする請求項6に記載の超音波画像表示装置。
【請求項8】
前記マルチフラクタル解析部は、各音線におけるエコー信号のデータを複数の音線にわたって超音波の走査方向の順に並ぶように結合してなる信号に対してマルチフラクタル解析を行なうことを特徴とする請求項6に記載の超音波画像表示装置。
【請求項9】
前記マルチフラクタル解析を行なう前の前記エコー信号に対して、平滑化処理、ハイパスフィルタ処理、ダウンサンプリング処理又はアップサンプリング処理のいずれかの処理を行なう前処理部を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項10】
前記表示制御部は、前記指標値又は前記特異性スペクトルの半値幅の値に応じた画像を、前記エコー信号に基づく超音波画像上に表示させることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の超音波画像表示装置。
【請求項11】
コンピュータに、
対象に対して送信された超音波のエコー信号に対してマルチフラクタル解析を行なうマルチフラクタル解析機能と、
マルチフラクタル解析によって得られた特異性スペクトルの半値幅と前記特異性スペクトルにおける最大フラクタル次元と該最大フラクタル次元における特異性指数とに基づいて得られる指標値、前記特異性スペクトルの半値幅及び前記特異性スペクトルの少なくとも一つを表示させる表示制御機能と、
を実行させることを特徴とする超音波画像表示装置の制御プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−210317(P2012−210317A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77335(P2011−77335)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】
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