説明

超音波診断装置、医用画像処理方法および医用画像処理プログラム

【課題】造影剤に起因する高調波信号と生体に起因する高調波信号とを区別すること。
【解決手段】本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブと、超音波プローブを介して、造影剤を注入された被検体へ向けて第1超音波と第1超音波を所定の比率にて振幅変調させた少なくとも1種類の第2超音波とを送信する送信部と、第1超音波の反射波に基づいて第1受信信号を発生し、第2超音波の反射波に基づいて第2受信信号を発生する受信信号発生部と、第1、第2受信信号に含まれる高調波信号を抽出する高調波信号抽出部と、第1または第2受信信号を用いて、高調波信号から、造影剤に由来する高調波成分を抽出する高調波成分抽出部と、抽出された高調波成分に基づいて超音波画像を発生する画像発生部と、を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被検体に投与された造影剤の非線形特性により発生する信号に基づいて、超音波画像を発生する機能を有する超音波診断装置、医用画像処理方法および医用画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、複数の振動素子を有する超音波プローブを被検体の体表面に接触させ、複数の方向に関する超音波送受信を順次実行する。このとき、超音波診断装置は、得られた反射波に基づいて、画像データおよび時系列データを発生する。超音波診断装置は、発生された画像データおよび時系列データを表示部に表示する。超音波診断装置は、超音波プローブの先端部を被検体の体表面に接触させるだけの簡単な操作で、被検体体内の2次元画像データおよび3次元画像データをリアルタイムで表示することができる。このため超音波診断装置は、各種臓器の形態診断および機能診断等に広く用いられている。
【0003】
近年、被検体に対する低侵襲度の微小気泡を有する超音波造影剤(以下造影剤と呼ぶ)が開発されている。循環器領域および腹部領域における超音波検査では、この造影剤が比検体の心臓内および血管内に注入されることにより、ドプラ効果を用いずに血流の状態を表示することが可能となっている(コントラストエコー法)。血流速度が極めて遅いためにカラードプラ法を適用できない腹部臓器の組織血流に対して、上記コントラストエコー法を適用することにより、腫瘍等の鑑別診断において診断精度の向上が期待されている。
【0004】
造影剤を用いた超音波検査では、血管内等に注入された造影剤の微小気泡(マイクロバブル)が強い超音波反射源となる。このため、血流とともに移動する造影剤からの反射波の検出精度が向上する。従って、微弱な組織血流の情報を感度良く表示することができる。
【0005】
しかしながら、良好なS/N比(Signal to noise ratio:信号対雑音比)を有する画像データを収集するために、造影剤の微小気泡に対して比較的強い超音波を照射することがある。このとき、微小気泡の破砕により造影剤の反射強度が著しく低減するという問題点がある。
【0006】
また、微小気泡に送信超音波を照射した場合、この微小気泡が有する音響的な非線形特性に起因して、比較的大きな高調波成分を有する信号(以下高調波信号と呼ぶ)が発生する。なお、高調波信号の波形の極性は、送信超音波の極性に依存しない。この性質を利用することにより、造影剤の微小気泡に起因した高調波成分を受信信号から抽出するパルスインバージョン法(Pulse Inversion method:以下PI法と呼ぶ)が提案されている。このPI法によれば、受信信号から高調波成分を抽出することが可能となる。さらに、高調波成分の主たる発生源である造影剤の動態を表示することにより、造影剤が投与された血管内の血流情報を提供することができる。例えば、虚血状態(即ち、組織血流が少ない状態)にある腫瘍組織とこの腫瘍組織の周囲に存在する血流に富んだ正常組織とから得られた受信信号において、PI法で高調波成分を抽出することにより、血液とともに造影剤が多量に存在している正常組織と造影剤の存在が少ない組織とを鑑別することが可能となる。
【0007】
しかしながら、上記造影剤と同様に、生体組織は音響的な非線形特性を有する。このため、生体組織から得られる受信信号にも高調波成分が含まれる。特に、腫瘍組織等から得られた受信信号は、多くの高調波成分を含んでいることがある。即ち、造影剤の非線形特性に起因して発生する高調波成分に、生体組織の非線形特性に起因して発生する高調波成分が混入することがある。これにより、造影剤が多量に存在している組織と造影剤の存在が少ない組織とを鑑別することが困難になる問題がある。
【0008】
生体組織の非線形特性の影響を受けにくい方法として、少なくとも2つの異なる大きさの振幅を有する複数のパルスを使用する振幅変調法(Amplitude Modulation method:以下AM法と呼ぶ)が知られている。AM法によれば、画像に対する線形エコーの寄与を抑制するとともに、造影剤に起因する非線形エコー(高調波成分)を維持する。さらに、生体組織に起因する高調波信号は、基本波帯域に関して抑制される。しかしながら、AM法における上記効果は、送信超音波の振幅変調前後において、送信波形の位相に関する線形性が保たれている場合にのみ有効である。安価な装置構成では、この線形性を保つことが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−18161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
目的は、造影剤に起因する高調波信号と生体に起因する高調波信号とを区別することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブと、前記超音波プローブを介して、造影剤を注入された被検体へ向けて第1超音波と前記第1超音波を所定の比率にて振幅変調させた少なくとも1種類の第2超音波とを送信する送信部と、前記第1超音波の反射波に基づいて第1受信信号を発生し、前記第2超音波の反射波に基づいて第2受信信号を発生する受信信号発生部と、前記第1、第2受信信号に含まれる高調波信号を抽出する高調波信号抽出部と、前記第1または第2受信信号を用いて、前記高調波信号から、前記造影剤に由来する高調波成分を抽出する高調波成分抽出部と、前記抽出された高調波成分に基づいて、超音波画像を発生する画像発生部と、を具備することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す構成図である。
【図2】図2は、第1の実施形態に係り、造影剤(バブル)を注入していない状態において、第1の高調波信号による肝臓画像と第2の高調波信号による肝臓画像とを示す図である。
【図3】図3は、第1の実施形態に係り、バブルを注入したファントム画像を、バブルを注入していないファントム画像とともに示す図である。
【図4】図4は、第1の実施形態に係り、2種の異なる大きさの振幅を有する超音波の送信に基づいて、第2の高調波信号を表示させる手順の概要を示す概要図である。
【図5】図5は、図4の概要図における手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる超音波診断装置を説明する。なお、以下の説明において、略同一の構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。同図に示すように、超音波診断装置1は、装置本体11、超音波プローブ12、装置本体11に接続され、操作者からの各種指示・命令・情報を装置本体11に取り込むための入力装置13、表示部14を有する。加えて本超音波診断装置1には、心電計、心音計、脈波計、呼吸センサに代表される図示していない生体信号計測部およびネットワークが、インターフェース37を介して接続されてもよい。
【0015】
装置本体11は、送信部21、受信信号発生部22、高調波信号抽出部23、信号処理部24、高調波成分抽出部25、制御プロセッサ(中央演算処理装置:Central Processing Unit:以下CPUと呼ぶ)26、画像発生部27、記憶部29、インターフェース(interface:以下I/Fと呼ぶ)37を有する。
【0016】
超音波プローブ12は、圧電セラミックス等の音響/電気可逆的変換素子としての圧電振動子を有する。複数の圧電振動子は並列され、超音波プローブ12の先端に装備される。なお、一つの圧電振動子が一チャンネルを構成するものとして説明する。
【0017】
送信部21は、パルス発生器21A、送信遅延回路21B、パルサ21Cを有する。パルス発生器21Aは、所定のレート周波数で送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。パルス発生器21Aは、例えば5kHzのレート周波数でレートパルスを繰り返し発生する。このレートパルスは、チャンネル数に分配され、送信遅延回路21Bに送られる。送信遅延回路21Bは、チャンネル毎に超音波をビーム状に収束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間を、各レートパルスに与える。なお、送信遅延回路21Bには、図示していないトリガ信号発生器からのトリガが、タイミング信号として供給される。パルサ21Cは、送信遅延回路21Bからレートパルスを受けたタイミングで、超音波プローブ12の振動子ごとに電圧パルスを印加する。これにより、超音波ビームが被検体に送信される。
【0018】
次に、振幅変調(AM)させて、被検体に超音波を送信する処理について説明する。AM法における超音波は、同じ走査線に対して少なくとも2回送信される。以下、超音波を3回(3レート)送信する場合におけるAM法の処理を説明する。3レート各々の超音波の振幅は、圧電振動子に印加される駆動電圧を変更させることで変調される。例えば、3レート各々における超音波の振幅の比が1対0.5対0.5(以下[1、0.5、0.5]と表す)となるように、レートごとに駆動電圧が変更される。具体的には、1レート目は比率が1の電圧(例えばMI=0.1となる電圧)、2レート目は比率が0.5の電圧(例えばMI=0.05となる電圧)、3レート目は比率が0.5の電圧(例えばMI=0.05となる電圧)で、圧電振動子が駆動される。3レート各々における超音波プローブ12の開口幅は一定である。すなわち、駆動されるチャンネルの数は、一定である。なお、超音波の振幅の比[1、0.5、0.5]の順番と送信される順番とは、任意に変更可能である。MIとは、メカニカルインデックス(Mechanical Index)の略である。MIは、超音波キャビテーション(cavitation)による生体作用の指標である。
【0019】
なお、上記送信においては、電圧制御によって送信超音波の振幅を変調している。これに対し、各超音波送信において印加する電圧は一定とし、超音波プローブ12の使用するチャンネル数を制御することで、送信する超音波の振幅を制御する構成であっても良い。例えば、圧電振動子が1次元状に配列された超音波プローブ12で上記[1、0.5、0.5]の送信を行う場合、0.5の送信で使用するチャンネル数を1の送信で使用するチャンネル数の半分にする。例えば、1レート目の送信は全圧電振動子を使用し、2レート目の送信は1つ飛びの圧電振動子(チャンネル)を使用し、3レート目の送信は2レート目の送信で使用しなかった圧電振動子を使用してもよい。また、1レート目の送信は全圧電振動子を使用し、2レート目の送信は、1次元状に配列された圧電振動子のうち、中点に位置する圧電振動子から端点に位置する圧電振動子までを使用し、3レート目の送信は2レート目の送信で使用しなかった圧電振動子を使用してもよい。電圧制御では、印加電圧とその出力としての送信超音波との間に、電子回路の非線形性のために、各レートに対応する送信超音波の波形の線形性が保てない場合がある。しかしながら、チャンネル数の制御によれば、高い線形性による制御を実現することができる。以下、送信される超音波の振幅の比は、[1、0.5、0.5]とする。
【0020】
受信信号発生部22は、プリアンプ22A、受信遅延回路22B、加算器22Cを有する。プリアンプ22Aは、超音波プローブ12を介して取り込まれた被検体からのエコー信号をチャンネル毎に増幅する。受信遅延回路22Bは、ディジタル信号に変換されたエコー信号に、受信指向性を決定するために必要な遅延時間を与える。加算器22Cは、CPU26からの受信遅延パターンに従って複数のエコー信号を加算する。この加算により受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。この送信指向性と受信指向性とにより超音波送受信の総合的な指向性が決定される(この指向性により、いわゆる「超音波走査線」が決まる)。受信信号発生部22は、送信部21から送信された3レートの超音波にそれぞれ対応する受信信号を発生する。以下、1レート目で発生された受信信号を第1受信信号、2レート目で発生された受信信号を第2受信信号、3レート目で発生された受信信号を第3受信信号と呼ぶ。
【0021】
高調波信号抽出部23は、第1乃至第3受信信号に含まれている高調波信号を抽出する。具体的には、高調波信号抽出部23は、第1受信信号から、第2受信信号と第3受信信号とを減算する(超音波の振幅の比が、[1、0.5、0.5]である場合)。なお、AM法をPI法と組み合わせる場合は、3レート全ての受信信号を加算する。この減算または加算により、高調波信号抽出部23は、高調波信号(以下第1の高調波信号と呼ぶ)を抽出する。各レートの送信波形が、各レート間で線形であれば、被検体の生体組織からのエコー信号は、完全にキャンセルされる。しかしながら、線形性が保たれていないと、被検体の生体組織からのエコー信号は、完全にキャンセルされない(例えば、図2の2A)。
【0022】
第1の高調波信号は、送信された超音波の周波数の高調波成分を有する。高調波成分は、被検体の生体組織、装置本体11、造影剤に含まれる微小気泡などに起因して発生する。被検体に造影剤が注入されている場合、第1の高調波信号は、一般に、被検体の生体組織と装置本体11と造影剤に含まれる微小気泡とにそれぞれ起因する高調波成分を有する。なお、被検体に造影剤が注入されていない場合、第1の高調波信号は、被検体の生体組織と装置本体11とに起因する高調波成分を有する。以下、上記線形性について説明する。例えば、第1乃至第3レートにおける超音波の送信波形をそれぞれA、B、Cとする。超音波の振幅の比が[1、0.5、0.5]であるならば、線形性は、A=2B、A=2Cとして表現される。線形性は、各レートにおける超音波の位相を保持することに対応する。なお、本超音波診断装置1は、送信波形の厳密な線形性を要求しない安価な装置であってもよい。
【0023】
信号処理部24は、受信信号発生部22から出力された受信信号に対して、STC(sensitivity time control)とは異なる所定のゲインを付加する。この所定のゲインとは、−30乃至−60dB程度のゲインである。なお、所定のゲインは、第1乃至第3受信信号における振幅と第1の高調波信号の振幅に基づいて、決定されても良い。また、所定のゲインは、予め後述する記憶部29に複数記憶されてもよい。このとき信号処理部24は、所定のゲインを記憶部29から読み出す。読み出される所定のゲインについては、後の記憶部29で詳述する。信号処理部24は、所定のゲインが付加された受信信号に対して、検波(例えば包絡線検波など)処理などを施す。信号処理部24は、検波処理された受信信号を、高調波成分抽出部25に出力する。なお、信号処理部24は、受信信号に対してSTCを付加し、続いて検波処理を実行することで、信号強度が輝度の明るさで表現されるBモードデータを発生してもよい。発生されたBモードデータは、画像発生部27において、所定の処理を受ける。
【0024】
以下、信号処理部24における処理について、具体的に説明する。信号処理部24は、受信信号発生部22から、第1受信信号を受け取る。以下、説明の便宜上、第1受信信号で説明を進めるが、第2または第3受信信号で以下の処理を実行してもよい。このとき、信号処理部24から高調波成分抽出部25への出力は、第2または第3受信信号から処理されたデータとなる。
【0025】
信号処理部24は、受け取った受信信号に対して、所定のゲインを付加する。信号処理部24は、所定のゲインが付加された第1受信信号を、エコーフィルタ(帯域通過フィルタともいう)にかける。信号処理部24は、エコーフィルタから出力された第1受信信号に対して、検波を実行する。この検波により、第1受信信号に関するデータは、位相情報を取り除いた振幅に関するデータとなる。以下、検波された第1受信信号を第1の振幅データと呼ぶ。第1の振幅データは、後述する高調波成分抽出部25に出力される。なお、信号処理部24は、第1の振幅データに含まれる値のうち「1」未満である数値に対しては、「1」とする閾値処理を実行してもよい。また、信号処理部24は、検波後、対数圧縮された第1の振幅データを、後述する高調波成分抽出部25、画像発生部27、図示していないボリュームデータ発生部に出力してもよい。
【0026】
信号処理部24は、高調波信号抽出部23から、第1の高調波信号を受け取る。信号処理部24は、受け取った第1の高調波信号を、エコーフィルタにかける。信号処理部24は、エコーフィルタから出力された第1の高調波信号に対して、検波を実行する。この検波により、第1の高調波信号に関するデータは、位相情報を取り除いた振幅に関するデータとなる。以下、検波された第1の高調波信号を第2の振幅データと呼ぶ。第2の振幅データは、後述する高調波成分抽出部25に出力される。なお、信号処理部24は、検波後、対数圧縮された第1の高調波信号を、後述する高調波成分抽出部25、画像発生部27、図示していないボリュームデータ発生部に出力してもよい。
【0027】
高調波成分抽出部25は、第1、第2または第3受信信号を用いて、第1の高調波信号から、造影剤に由来する高調波成分を抽出する。具体的には、造影剤に由来する高調波成分は、第2の振幅データから第1の振幅データを減算することにより抽出される。なお、第1の振幅データは、第1受信信号に由来する振幅データであるが、第1の振幅データの代わりに、第2または第3受信信号に由来する振幅データを用いてもよい。高調波成分抽出部25に入力される第1および第2の振幅データは、被検体の体表面からの距離の変化に対応する振幅の変化を示す信号である。高調波成分抽出部25は、この減算により、被検体の体表面からの距離の変化に応じた振幅の差の変化に関する信号を発生する。なお、被検体に造影剤が注入されていないときには、抽出される高調波成分を最小またはフラットとするように、上記所定のゲインは調整されてもよい。この調整は、入力装置13を介した操作者の指示、または後述するCPU26により実行される。
【0028】
なお、高調波成分抽出部25は、第2の振幅データを第1の振幅データで除算してもよい。高調波成分抽出部25は、この除算により、被検体の体表面からの距離の変化に応じた振幅の比の変化に関する信号を発生する。この除算処理は、対数圧縮された第1、第2の振幅データが信号処理部24から高調波成分抽出部25に出力される場合、第2の振幅データから第1の振幅データの減算に対応する。以下、被検体の体表面からの距離の変化に応じた振幅の差の変化を表す信号、または被検体の体表面からの距離の変化に応じた振幅の比の変化を表す信号を、第2の高調波信号と呼ぶ。
【0029】
高調波成分抽出部25は、抽出された第2の高調波信号に対して、絶対値を計算する。高調波成分抽出部25は、絶対値が取られた第2の高調波信号を対数圧縮し、図示していないボリュームデータ発生部または後述する画像発生部27に出力する。なお、高調波成分抽出部25は、0以下の第2の高調波信号を切り捨てる処理(以下、閾値処理と呼ぶ)を実行しても良い。また、高調波成分抽出部25は、抽出された第2の高調波信号のうち、1以下の信号を1に置換してもよい(以下、置換処理と呼ぶ)。高調波成分抽出部25は、閾値処理または置換処理が実行された第2の高調波信号を対数圧縮し、図示していないボリュームデータ発生部または後述する画像発生部27に出力する。
【0030】
以下、高調波成分抽出部25において、造影剤に由来する高調波成分が抽出される根拠を説明する。被検体に造影剤(バブル)が注入されていない状態において、上記処理が実行されるとき、第1受信信号に付加されるゲイン(以下付加ゲインと呼ぶ)は、第2の高調波信号を最小、またはフラットとするように調整される。これにより、第2の高調波信号は、一定の信号または最小の信号となる。図2は、造影剤(バブル)を注入していない状態において、第1の高調波信号による肝臓画像(2A)と第2の高調波信号による肝臓画像(2B)とを示す図である。図2の2Aは、被検体の組織と装置本体11とに由来する第1の高調波信号による肝臓画像を示している。図2の2Bは、被検体の組織と装置本体11とに由来する第1の高調波信号が低減されて、第2の高調波信号が空間的に均一になっている肝臓画像を示している。
【0031】
次に、被検体に造影剤(バブル)が注入された状態において、上記付加ゲインを用いて上記処理が実行されるときについて説明する。造影剤が注入されていない状態における第1受信信号と、造影剤が注入された状態における第1受信信号とは、位相が大きく異なる。しかしながら、造影剤が第1受信信号の振幅に与える影響は小さい。例えば図3は、バブルを注入したファントム画像を、バブルを注入していないファントム画像とともに示す図である。図3の3Aは、バブルを注入していないファントムの第1受信信号の振幅に基づいた画像を示している。図3の3Bは、バブルを注入したファントムの第1受信信号の振幅に基づいた画像を示している。図3の3Aと3Bとの差異は小さい。これらのことから、第2の高調波信号は、被検体の組織と装置本体11とに由来する高調波成分が低減され、かつ造影剤に由来する高調波成分を有する信号となる。以上のことから、被検体の生体組織と装置本体11と造影剤に含まれる微小気泡とにそれぞれ起因する高調波成分を有する第1の高調波信号から、造影剤に由来する高調波成分を抽出することが可能となる。
【0032】
なお、高調波成分抽出部25は、被検体の組織に由来する高調波信号の強さに応じて、ゲインを第2の高調波信号に付加しても良い。具体的には、高調波成分抽出部25は、前記被検体の組織に由来する高調波成分を一定にさせるゲインを、第1の高調波信号に付加する。続いて、高調波成分抽出部25は、ゲインが付加された第1の高調波信号を、所定のゲインが付加された第1受信信号で除算する。これにより、高調波成分抽出部25は、第1の高周波信号から第2の高調波信号を抽出する。
【0033】
CPU26は、操作者により入力装置13から入力されたモード選択、ROI設定、受信遅延パターンリストの選択、送信開始・終了に基づいて、記憶部29に記憶された送受信条件と装置制御プログラムを読み出し、これらに従って、本超音波診断装置1を制御する。
【0034】
画像発生部27は、対数圧縮された第1の振幅データに基づいて、第1の超音波画像を発生する。画像発生部27は、対数圧縮された第2の振幅データに基づいて、第2の超音波画像を発生する。画像発生部27は、第2の高調波信号に基づいて、第3の超音波画像を発生する。画像発生部27は、第2の超音波画像に第3の超音波画像を重ね合わせた画像を発生する。なお、画像発生部27は、第1乃至第3の超音波画像のうち少なくとも二つを重ね合わせた画像を発生しても良い。以下、画像発生部27における処理を具体的に説明する。以下、説明を簡単にするため、対数圧縮された第1、第2の振幅データ、第2の高調波信号を、Bモードデータと呼ぶ。
【0035】
画像発生部27は、Bモードデータを、位置情報に従って専用のメモリに配置(配置処理)する。続いて、画像発生部27は、超音波走査線間のBモードデータを補間する(補間処理)。配置処理と補間処理とによって、複数のピクセルから構成される超音波画像データが発生される。各ピクセルは、由来するBモードデータの強度(振幅)に応じたピクセル値を有する。なお、画像発生部27へ入力される前のデータを「生データ」と呼ぶ。
【0036】
図示していないボリュームデータ発生部は、入力された第2の高調波信号に基づいて、ボリュームデータを発生する。発生されたボリュームデータは、図示していない3次元画像データ発生部でレンダリング処理などを受ける。レンダリング処理されたボリュームデータは、表示部14に出力される。
【0037】
記憶部29は、フォーカス深度の異なる複数の受信遅延パターン、本超音波診断装置1の制御プログラム、診断プロトコル、送受信条件等の各種データ群、画像発生部27で発生されたBモードデータおよび超音波画像、図示していないボリュームデータ発生部で発生されたボリュームデータ、複数の所定のゲイン、後述する高調波成分抽出機能を実現するための専用プログラム等を記憶する。なお、複数の所定のゲインは、第1乃至第3受信信号における振幅および第1の高調波信号の振幅に対応付けられていても良い。このとき、第1乃至第3受信信号における振幅および第1の高調波信号の振幅に基づいて、所定のゲインが信号処理部24に出力される。
【0038】
インターフェース(I/F)37は、入力装置13、ネットワーク、図示していない外部記憶装置および生体信号計測部に関するインターフェースである。本超音波診断装置1によって得られた超音波画像等のデータおよび解析結果等は、インターフェース37を介して、ネットワークを介して他の装置に転送可能である。
【0039】
入力装置13は、インターフェース37に接続され操作者からの各種指示・命令・情報・選択・設定を本超音波診断装置1に取り込む。入力装置13は、図示していないトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード等の入力デバイスを有する。入力デバイスは、表示画面上に表示されるカーソルの座標を検出し、検出した座標をCPU26に出力する。なお、入力デバイスは、表示画面を覆うように設けられたタッチパネルでもよい。この場合、入力装置13は、電磁誘導式、電磁歪式、感圧式等の座標読み取り原理でタッチ指示された座標を検出し、検出した座標をCPU26に出力する。また、操作者が入力装置13の終了ボタンまたはFREEZEボタンを操作すると、超音波の送受信は終了し、本超音波診断装置1は一時停止状態となる。
【0040】
表示部14は、画像発生部27からのビデオ信号に基づいて、画像を表示する。表示部14は、第1乃至第3の超音波画像のうち、少なくとも二つの画像を表示することも可能である。表示部14は、レンダリング処理されたボリュームデータの出力に基づいて、画像を表示する。
【0041】
(高調波成分抽出機能)
高調波成分抽出機能とは、第1または第2受信信号を用いて、第1の高調波信号から、造影剤に由来する高調波成分を抽出させる機能である。以下、高調波成分抽出機能に従う処理(以下、高調波成分抽出処理と呼ぶ)を説明する。
【0042】
図4は、2種の異なる大きさの振幅を有する超音波の送信に基づいて、第2の高調波信号を表示させる手順の概要を示す概要図である。超音波は被検体に対して3レート送信される。1レート目の超音波の振幅と2レート目の超音波の振幅と3レート目の超音波の振幅との比は、1対0.5対0.5とする。1レート目の超音波の送信に対応する受信(第1の受信)に基づいて、第1受信信号が発生される。2レート目の超音波の送信に対応する受信(第2の受信)に基づいて、第2受信信号が発生される。3レート目の超音波の送信に対応する受信(第3の受信)に基づいて、第3受信信号が発生される。第1受信信号から第2、第3受信信号を減算することにより、第1の高調波信号が、高調波信号抽出部23で発生される。
【0043】
第1受信信号には、STCによるゲイン(図4におけるα)と所定のゲイン(図4におけるβ)とが付加される。所定のゲイン(β)の付加により、第1受信信号の振幅と第1の高調波信号の振幅とが、同等のレベルとなる。所定のゲイン(β)が付加された第1受信信号は、エコーフィルタにかけられ、検波される。第1の高調波信号には、STCによるゲイン(図4におけるα)が付加される。STCによるゲイン(α)が付加された第1の高調波信号は、エコーフィルタにかけられ、検波される。以上の処理は、信号処理部24で実行される。
【0044】
STCによるゲインと所定のゲインとが付加された第1受信信号を用いて、第1の高調波信号から、第2の高調波信号が抽出される。抽出された第2の高調波信号には、閾値処理に続いて対数圧縮が実行される。対数圧縮された第2の高調波信号は、画像発生部27に入力される。画像発生部27は、入力された第2の高調波信号に対して、後処理を実行し、超音波画像を発生する。発生された超音波画像は、表示部14で表示さえる。
【0045】
図5は、図4の概要図における手順を示すフローチャートである。
被検体に対する超音波送受信に先立って、入力装置13を介した操作者の指示により、患者情報の入力、送受信条件、種々の超音波データ収集条件の設定および更新などが実行される。これらの設定および更新は、記憶部29に保存される。これらの入力/選択/設定が終了したならば、操作者は超音波プローブ12を被検体体表面の所定の位置に当接する。次いで送信部21が、ECG波形と同期しながら複数心拍に亘って、第1振幅を有する第1超音波と第1超音波の第1振幅を所定の比率で振幅変調させた第2超音波とを、被検体に向けて送信する。なお、この同期は、心音波形、脈波波形および呼吸曲線などとの同期でもよい。第1振幅と第2振幅との比は、1対0.5である。第2超音波は、被検体へ向けて2回送信される(ステップSa1)。
【0046】
送信された超音波に対応する反射波の受信(すなわち超音波スキャン)に基づいて、受信信号が発生される。具体的には、第1超音波に対応する第1受信信号が、受信信号発生部22で発生される。第2超音波に対応する第2受信信号が、受信信号発生部22で発生される(ステップSa2)。第1、第2受信信号は、信号処理部24と高調波信号抽出部23とへ出力される。第1、第2受信信号に含まれる第1の高調波信号が、高調波信号抽出部23で抽出される(ステップSa3)。抽出された第1の高調波信号は、信号処理部24へ出力される。
【0047】
信号処理部24へ出力された第1受信信号は、所定のゲインが付加される。所定のゲインが付加された第1受信信号を検波することにより、第1の振幅データが発生される。信号処理部24へ出力された第1の高調波信号を検波することにより、第2の振幅データが発生される(ステップSa4)。
【0048】
信号処理部24で発生された第1、第2の振幅データが、高調波成分抽出部25へ出力される。第1の振幅データを用いて、第2の振幅データから、造影剤に由来する高調波成分が抽出される(ステップSa5)。具体的には、第2の振幅データから第1の振幅データが減算される。この減算により発生された第2の高調波信号に対して絶対値が計算される。絶対値が計算された第2の高調波信号に基づいて、超音波画像が発生される(ステップSa6)。
【0049】
以上に述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
本超音波診断装置1によれば、受信信号の振幅データを用いて、AM法により抽出された第1の高調波信号の振幅データから、造影剤に由来する高調波成分を抽出することができる。これにより、本超音波診断装置1は、造影剤からの高調波信号と被検体の組織に由来する高調波信号とを明確に区別することができる。従って、造影剤からの信号を表示することが可能となる。また、焼灼治療の効果などの判定精度が向上する。さらに、上記区別は位相情報ではなく振幅信号に基づいているため、本実施形態の技術的思想は、送信波形の厳密な線形性を要求しない安価な超音波診断装置にも適用可能である。
【0050】
加えて、実施形態に係る機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…超音波診断装置、11…装置本体、12…超音波プローブ、13…入力装置、14…表示部、21…送信部、22…受信信号発生部、23…高調波信号抽出部、24…信号処理部、25…高調波成分抽出部、26…制御プロセッサ(CPU)、27…画像発生部、29…記憶部、37…インターフェース(I/F)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブと、
前記超音波プローブを介して、造影剤を注入された被検体へ向けて第1超音波と前記第1超音波を所定の比率にて振幅変調させた少なくとも1種類の第2超音波とを送信する送信部と、
前記第1超音波の反射波に基づいて第1受信信号を発生し、前記第2超音波の反射波に基づいて第2受信信号を発生する受信信号発生部と、
前記第1、第2受信信号に含まれる高調波信号を抽出する高調波信号抽出部と、
前記第1または第2受信信号を用いて、前記高調波信号から、前記造影剤に由来する高調波成分を抽出する高調波成分抽出部と、
前記抽出された高調波成分に基づいて、超音波画像を発生する画像発生部と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記高調波成分抽出部は、
前記高調波信号から所定のゲインを付与した前記第1または前記第2受信信号を減ずることにより、前記高調波成分を抽出すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記高調波成分抽出部は、
前記高調波信号を所定のゲインを付与した前記第1または前記第2受信信号で除することにより、前記高調波成分を抽出すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記高調波成分抽出部は、
前記抽出された高調波成分に対して絶対値を計算すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記高調波成分抽出部は、
前記抽出された高調波成分に値に対して、1以下の値を1に置換すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記高調波成分抽出部は、
前記被検体の組織に由来する高調波成分を一定にさせるゲインを、前記高調波信号に付加し、
前記第1または第2受信信号を用いて、前記ゲインが付加された高調波信号から、造影剤に由来する高調波成分を抽出すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記画像発生部は、
前記高調波信号に基づいて画像を発生し、
前記発生された画像に、前記超音波画像を重ね合わせた画像を発生すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項8】
コンピュータに、
第1超音波に対応する第1受信信号と、前記第1超音波を所定の比率にて振幅変調させた少なくとも1種類の第2超音波に対応する第2受信信号とを記憶させる受信信号記憶機能と、
前記第1、第2受信信号に含まれる高調波信号を抽出する高調波信号抽出機能と、
前記第1または第2受信信号を用いて、前記高調波信号から、造影剤に由来する高調波成分を抽出する高調波成分抽出機能と、
前記抽出された高調波成分に基づいて、超音波画像を発生させる画像発生機能と
を実現させることを特徴とする医用画像処理プログラム。
【請求項9】
第1超音波に対応する第1受信信号と、前記第1超音波を所定の比率にて振幅変調させた少なくとも1種類の第2超音波に対応する第2受信信号とを記憶させることと、
前記第1、第2受信信号に含まれる高調波信号を抽出させることと、
前記第1または第2受信信号を用いて、前記高調波信号から、造影剤に由来する高調波成分を抽出させることと、
前記抽出された高調波成分に基づいて、超音波画像を発生させることと、
を特徴とする医用画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−135516(P2012−135516A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290991(P2010−290991)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】