説明

超音波診断装置、超音波画像処理装置、超音波画像処理プログラム

【課題】 従来に比して迅速で作業負担が少なく、客観性の高い心臓の形状判定のための指標計算を実行することができる超音波診断装置等を提供すること。
【解決手段】 周期的に変動する組織領域につき、少なくとも一周期以上の期間に亘って超音波走査を実行し、前記期間の各時相に対応する複数の画像データを取得するデータ取得ユニットと、前記複数の画像データの少なくとも一部を用いたトラッキング処理を実行することで、前記期間の少なくとも1つの時相における前記組織領域内の関心領域の位置情報を取得する位置情報取得ユニットと、前記期間内の少なくとも一つの時相における前記関心領域の位置情報を用いて、前記少なくとも一つの時相における前記関心領域内に対応する指標値を計算する指標値計算ユニットと、前記少なくとも一つの時相における前記指標値を出力する出力ユニットと、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の形状を判定するための指標を計算する超音波診断装置、超音波画像処理装置、超音波画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、健常な左心室は細長い回転楕円体形状を有しているが、病気の心臓では左心室が丸くなって球形に近づくことが知られている。拡張型心筋症(DCM)はその典型例である。心エコーを用いて心臓の形状を判定するための指標を計算し、これを用いて心臓を診断する手法が、従来より提案されている。例えば、左室の二次元心尖像に基づく用手的計測による長軸長と所定レベル(例えば、弁輪から長軸長の1/3位置)での短軸径の取得により、長軸と短軸の比などを用いて左室の形状評価が行われている。また、三次元データで同等の比の解析を行うには、MPR表示で左室の二次元心尖像を描出して同上の計測を行う。更に、平均曲率として左室の三次元的な形状情報の評価を行う手法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−502239号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】中坊亜由美他:「左室内腔形態と左室内非同期との関連についての検討」 Jpn J MED Ultrasonics vol.37 No.4 P499~505 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の超音波診断装置を用いて心臓の形状を判定するための指標を計算する場合、操作者による手技を要する計測となるため、利便性及び迅速性に欠ける。特に一心周期を通じての計測値の時間変化は、実質的に解析が困難で評価されていない。また、三次元データでの計測は、MPR断面をどのように選ぶかに依存し、結果が安定しない。更に、上記特許文献1に代表される手法は、表面検出による大局的な情報を取得するものであり、ストレイン(strain)等の局所的な情報を同時に得ることはできない。
【0006】
上記問題に鑑みてなされたものであり、従来に比して迅速で作業負担が少なく、客観性の高い心臓の形状判定のための指標計算を実行することができる超音波診断装置、超音波画像処理装置、超音波画像処理プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る超音波診断装置は、周期的に変動する組織領域につき、少なくとも一周期以上の期間に亘って超音波走査を実行し、前記期間の各時相に対応する複数の画像データを取得するデータ取得ユニットと、前記複数の画像データの少なくとも一部を用いたトラッキング処理を実行することで、前記期間の少なくとも1つの時相における前記組織領域内の関心領域の位置情報を取得する位置情報取得ユニットと、前記期間内の少なくとも一つの時相における前記関心領域の位置情報を用いて、前記少なくとも一つの時相における前記関心領域に対応する指標値を計算する指標値計算ユニットと、前記少なくとも一つの時相における前記指標値を出力する出力ユニットと、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1実施形態に係る超音波診断装置1の構成図である。
【図2】図2は、本形状指標値計算機能に従う処理の流れを示したフローチャートである。
【図3】図3は、長軸長の所定のレベルでの短軸面位置を示す心尖像の模式図である。
【図4】図4は、三次元スペックルトラッキング処理での短軸C曲面と輪郭上の頂点Pとの関係を説明するための図である。
【図5】図5は、三次元スペックルトラッキング処理での短軸C曲面から短軸径を計算する手法を説明するための模式図である。
【図6】図6は、三次元スペックルトラッキング処理での短軸C曲面から短軸径を計算する手法を説明するための模式図である。
【図7】図7は、三次元スペックルトラッキング処理での短軸C曲面から短軸径を計算する手法を説明するための模式図である。
【図8】図8は、三次元スペックルトラッキング処理での短軸C平面から短軸径を計算する手法を説明するための模式図である。
【図9】図9は、指標値を離心率(Eccentricity)として生成された一心周期内時間変化曲線を示した図である。
【図10】図10は、健常者の収縮末期時相(ES)におけるMPR画像示した図である。
【図11】図11は、DCM症例者の収縮末期時相(ES)におけるMPR画像を示した図である。
【図12】図12は、DCM症例者につき生成された、被走査領域を三次元領域とする本形状指標値計算処理により得られた離心率と内膜の面積変化率の時間変化曲線の例を示した図である。
【図13】図13は、健常者につき生成された、被走査領域を三次元領域とする本形状指標値計算処理により得られた離心率と内膜の面積変化率の時間変化曲線の例を示した図である。
【図14】図14は、三次元スペックルトラッキング処理での短軸C曲面から短軸径の詳細な情報を得る変形例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0010】
なお、以下の実施形態では、超音波診断装置に適用例について説明する。しかしながら、これに拘泥されることなく、ワークステーション、パーソナルコンピュータ等の超音波画像処理装置についても適用可能である。また、これらの超音波診断装置及び超音波画像処理装置は、後述する形状指標値計算機能を実現するための超音波画像処理プログラムを装置にインストールすることで、実現するようにしてもよい。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る超音波診断装置1の構成図である。本超音波診断装置1は、超音波プローブ11、送信ユニット13、受信ユニット15、Bモード処理ユニット17、移動ベクトル処理ユニット19、画像生成ユニット21、表示ユニット23、制御ユニット(CPU)31、壁運動パラメータ演算ユニット37、指標値計算ユニット38、記憶ユニット39、操作ユニット41、送受信ユニット43を具備している。なお、超音波画像処理装置に適用する場合には、図1の点線内がその構成要素となる。
【0012】
超音波プローブ11は、送信ユニット13からの駆動信号に基づき超音波を発生し、被検体からの反射波を電気信号に変換する複数の圧電振動子、当該圧電振動子に設けられる整合層、当該圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有している。当該超音波プローブ11から被検体に超音波が送信されると、生体組織の非線形性等により、超音波の伝播に伴って種々のハーモニック成分が発生する。送信超音波を構成する基本波とハーモニック成分は、体内組織の音響インピーダンスの境界、微小散乱等により後方散乱され、反射波(エコー)として超音波プローブ11に受信される。
【0013】
送信ユニット13は、図示しない遅延回路およびパルサ回路等を有している。パルサ回路では、所定のレート周波数fr Hz(周期;1/fr秒)で、送信超音波を形成するためのレートパルスが繰り返し発生される。また、遅延回路では、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間が、各レートパルスに与えられる。送信ユニット13は、このレートパルスに基づくタイミングで、所定のスキャンラインに向けて超音波ビームが形成されるように振動子毎に駆動パルスを印加する。
【0014】
受信ユニット15は、図示していないアンプ回路、A/D変換器、加算器等を有している。アンプ回路では、プローブ11を介して取り込まれたエコー信号をチャンネル毎に増幅する。A/D変換器では、増幅されたエコー信号に対し受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与え、その後加算器において加算処理を行う。この加算により、所定のスキャンラインに対応した超音波エコー信号を生成する。
【0015】
Bモード処理ユニット17は、受信ユニット15から受け取った超音波エコー信号に対して包絡線検波処理を施すことにより、超音波エコーの振幅強度に対応したBモード信号を生成する。
【0016】
移動ベクトル処理ユニット19は、時相の異なる二つの超音波データ間でパターンマッチング処理(スペックルトラッキング処理)を用いて組織の移動位置を検出し、この移動位置に基づいて各組織の移動量(又は速度)を求める。具体的には、一方の超音波データ内の関心領域について、最も類似性の高い他方の超音波データ内の対応領域を求める。この関心領域と対応領域との間の距離を求めることで、組織の移動量を求めることができる。また、この移動量を超音波データ間の時間差(フレームレート又はボリュームレート)で除することにより、組織の移動速度を求めることができる。この処理を超音波データ上の各位置で行うことにより、各組織の変位(移動ベクトル)又は組織の変位に関する時空間分布データを取得することができる。なお、ここでは、超音波データを、二次元的又は三次元的な位置情報を有する受信信号の集合(すなわち、空間的な情報を持つ受信信号の集合)であると定義する。
【0017】
画像生成ユニット21は、Bモード信号の所定断層に係る二次元分布を表したBモード超音波像を生成する。また、画像生成ユニット21は、演算された壁運動パラメータに基づいて、サーフェスレンダリング、ポーラーマッピング(Polar-Mapping)等の手法を用いて当該壁運動パラメータがマッピングされた二次元画像又は三次元画像を生成する。
【0018】
表示部23は、画像生成ユニット21からのビデオ信号に基づいて、超音波画像、対応する各位置に壁運動パラメータがマッピングされた壁運動パラメータ画像、部位毎の壁運動パラメータの時間変化曲線等を所定の形態で表示する。また、表示部23は、セグメンテーション処理により分割された各部位を、後述する形状指標値計算機能に従って標識化し、所定の形態で表示する。
【0019】
制御ユニット(CPU)31は、情報処理装置(計算機)としての機能を持ち、本超音波診断装置本体の動作を静的又は動的に制御する。特に、制御ユニット31は、記憶ユニット39に記憶された専用プログラムを図示していないメモリに展開することで、後述する形状指標値計算機能を実現する。
【0020】
壁運動パラメータ演算ユニット37は、移動ベクトル処理ユニット19の出力した時空間分布データに基づいて、壁運動パラメータを時相毎に生成する。ここで、壁運動パラメータとは、例えば心壁等の所定組織の所定方向に関する変位、歪み、歪み率、速度、捻れ、捻れ率その他組織運動に関して取得可能な物理情報である。
【0021】
指標値計算ユニット38は、後述する形状指標値計算機能に従って、対象とする組織領域の形状を示す形状指標を計算すると共に、当該形状指標を用いて定義される形状情報を生成する。
【0022】
記憶ユニット39は、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体、及びこれらの媒体に記録された情報を読み出す装置である。この記憶ユニット37には、送受信条件、所定のスキャンシーケンス、各時相に対応する生データや超音波画像データ(例えば、組織ドプラモード、Bモード等によって撮影された組織画像データ)、予め生成された時相毎の超音波データ、移動ベクトルに関する時空間分布データ、後述する形状指標値計算機能を実現するためのプログラム、診断情報(患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、ボディマーク生成プログラム等を記憶する。
【0023】
操作ユニット41は、装置本体に接続され、オペレータからの各種指示、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示、後述する形状指標値計算機能における任意の壁運動パラメータや任意の解析期間、心時相の選択等を行うためのマウスやトラックボール、モード切替スイッチ、キーボード等を有している。
【0024】
送受信ユニット43は、ネットワークを介して他の装置と情報の送受信を行う装置である。本超音波診断装置1において得られた超音波画像等のデータや解析結果等は、送受信ユニット43よって、ネットワークを介して他の装置に転送可能である。
【0025】
(形状指標値計算機能)
次に、本超音波診断装置1が有する形状指標値計算機能について説明する。本機能は、周期的に運動する組織(例えば、心臓の左室等)の形状に関する情報として、少なくとも一心周期以上に亘る長軸長Lと短軸径D(例えば、直径或いは半径)とをトラッキング処理によって自動的に求め、長軸長L、短軸径Dや長軸長Lと短軸径Dで定義される運動する組織の形状を反映する指標値(形状指標値)を計算し、所定の形態で出力するものである。なお、以下の説明においては、説明を具体的にするため、診断対象が心臓の左室である場合を例とする。しかしながら、本形状指標値計算機能は、心臓の左室に限定されず、右心房、左心房、右心室、さらには、血管(頸動脈等)、肝腫瘍、乳腺腫瘍等についても適用可能である。
【0026】
図2は、本形状指標値計算機能に従う処理の流れを示したフローチャートである。各ステップにおいて実行される処理の内容について、以下説明する。
【0027】
[所定期間に亘る時系列ボリュームデータ群の取得:ステップS1]
まず、被検体の左心室を少なくとも含む被走査領域(二次元領域又は三次元領域)として、少なくとも一心拍分以上の所定期間に亘る時系列の超音波データ(以下、「時系列超音波データ群」と呼ぶ。)が取得される(ステップS1)。
【0028】
[トラッキング処理:ステップS2]
次に、移動ベクトル処理ユニット19は、取得された所定期間に亘る時系列超音波データ群を構成する1心拍以上の各時相に対応する超音波データのうち、所定の時相における超音波データにおいてユーザからの指示等に基づいて関心領域内の心筋部位を抽出し、抽出した局所的な心筋部位を二次元的又は三次元的なパターンマッチング処理により時間的に追跡するスペックルトラッキング処理を実行することで、時空間的な移動ベクトル情報を演算する(ステップS2)。
【0029】
また、壁運動パラメータ演算ユニット37は、演算された時空間的な移動ベクトル情報を用いて、操作者から操作ユニット41を介して選択された壁運動パラメータ(例えば、歪み(strain)、歪み率(strain rate)、変位、速度、捻じれ(twist)、捻じれ率(twist rate)等)等に代表される壁運動パラメータを演算し、1心拍以上の壁運動パラメータから構成される二次元的又は三次元的な壁運動パラメータ群を生成する。
【0030】
[長軸長L、短軸径Dの推定:ステップS3]
次に、指標値計算ユニット38は、各時相における長軸長L(t)、短軸径D(t)を推定する(ステップS3)。長軸長L(t)、短軸径D(t)は、それぞれ以下のように定義することができる。
【0031】
(長軸長L(t))
被走査領域が二次元領域である場合には、所定の時相(初期時相)において、心尖画像の両弁輪を結ぶ直線の中点と心尖位置との距離であるとする。また、被走査領域が三次元領域である場合には、弁輪部位の短軸C曲面の重心と心尖位置とを結ぶ距離であるとする。ここで、心尖位置とは、拡張末期(ED)では、両弁輪を結ぶ直線の中点から最も遠い輪郭上の位置との距離であるとし、他の時相については、拡張末期(ED)と同じく両弁輪を結ぶ直線の中点から最も遠い輪郭上の位置とするか、或いは拡張末期での心尖点を追跡した位置であるとする。また、被走査領域が二次元領域、三次元領域のいずれの場合についても、弁輪部の点の位置は、輪郭の弁輪部位の平均的な位置を意味する。
【0032】
(短軸径D(t))
被走査領域が二次元領域である場合には、長軸において予め指定されたレベル(例えば、弁輪から1/3位置のレベル、或いは図3に示すような各レベル等)において長軸に対する垂線を引き、輪郭と交差する二点を結んだ距離とする。或いは、長軸上の各レベルにおいて長軸に対する垂線を引き、輪郭と交差する二点を結んだ距離の最大値とする。
【0033】
また、被走査領域が三次元領域である場合には、次の(1)、(2)に従って短軸径D(t)を定義する。
【0034】
(1)初期時相において、ある長軸レベル(h)での短軸C平面を設定する。ここで、短軸C平面とは、短軸方向に関する(短軸方向を含む)任意の平面を意味する。当該短軸C平面の設定は、自動的に、或いは操作ユニット41を介したマニュアル操作によって人為的に実行される。
【0035】
指標値計算ユニット38は、組織の境界面を構成する追跡点群のうち、初期時相において設定された短軸C平面の境界線上(外周上)に存在する各点P(h,d,0)につき、図4に示す様に、ステップS2におけるトラッキング処理の結果を用いて残りの時相における位置P(h,d,t)を追跡することで、各時相において短軸C曲面を設定する。ここで、境界線上の各点につき、hは緯度方向(長軸方向)のアドレスを、Dは経度方向(短軸方向)のアドレスを、dは任意の時相をそれぞれ意味する。
【0036】
指標値計算ユニット38は、設定された各時相における短軸C曲面を用いて、次の(a)〜(c)のいずれかの手法を用いて、各時相における短軸径D(t)を計算する。
【0037】
(a)本手法は、ある長軸レベル(h)での短軸C曲面で一つのD(h,t)を代表値として取得し、これを当該短軸C曲面の境界線上の各点において共有するものである。すなわち、図5に示す様に、各時相において設定された短軸C曲面の境界線上の各点P(h,d,t)の平均位置として重心位置Gを計算し、当該重心位置Gと境界線上で隣り合う2つの点とを頂点とする複数の三角形によって短軸C曲面を分割する。各三角形の面積を例えばその3辺の長さからヘロンの公式等によって求め、全三角形の総和を計算することで、レベルhにおける短軸C曲面の面積S(h)を求める。得られた短軸C曲面の面積Sと円形の形状を仮定する次の式(1)とから、レベルhにおける各時相毎の短軸径D(t)を計算する。
【0038】
D(h,t)=2・(S(h)/π)1/2 (1)
(b)本手法は、短軸C曲面の境界線上の各点毎に固有の半径R(h,d,t)(或いは2倍とした直径D(h,d,t))を取得するものである。すなわち、図6に示す様に、重心位置Gと境界面上の各点P(h,d,t)を結ぶ距離をその点での半径R(h,d,t)と定義し、以下の式(2)によって各時相における位置毎の短軸径D(t)を計算する。
【0039】
( D(h,d,t)=2・R(h,d,t) (2)
(c)本手法は、短軸C曲面の境界線上の各点毎に固有の直径D(h,d,t)を取得するものである。すなわち、図7に示す様に、各時相における境界面上の各点P(h,d,t)毎に、短軸C曲面内で最も遠い位置との距離を計算し、各位置毎の短軸径D(t)と定義する。
【0040】
上記(a)〜(c)のいずれかの手法によって得られた短軸径D(h,d,t)を用いて、被走査領域が二次元領域とする場合と同様に、所定の長軸の所望のレベルに対応するD(h,d,t)、或いは全長軸レベルでのD(h,d,t)から最大値を選択することで、各時相における短軸径を決定することができる。
【0041】
(2)各時相において、長軸の任意レベル(h)において設定される当該長軸を法線とする平面(長軸に垂直な平面)を短軸C平面として設定する。なお、長軸上のどのレベルに短軸C平面を設定するかは、自動的に、或いは操作ユニット41を介したマニュアル操作によって人為的に選択される。
【0042】
指標値計算ユニット38は、設定された各時相における短軸C平面を用いて、上記(a)〜(c)のいずれかの手法を用いて、各時相における短軸径D(t)を計算する。
【0043】
上記(1)における各手法は、トラッキング処理によって求められた各追跡点の位置を用いて、直接的に各時相における短軸径D(t)を推定するものである。すなわち、三次元スペックルトラッキング処理では、任意の点P(h,d,t)の位置は時間と共に追跡されて位置が移動していく。従って、初期時相において設定した短軸C平面は、他の時相において平面であることが保証されず、一般的には曲面になる。短軸径の情報を得る場合には、この任意の点P(h,d,t)上の位置情報をそのまま用いて各C曲面として扱うのが一つの例である。
【0044】
一方、上記(2)における各手法は、トラッキング処理によって求められた追跡点を空間的に補間することで各時相における境界面上の各位置を求め、その結果から各時相における短軸径D(t)を推定するものである。すなわち、図8に示すようなメッシュで表現されている境界面について、任意の各点P(h,d,t)の位置から補間して位置情報を得る。この場合には、長軸L(h,d,t))の長軸長に対する任意の短軸のレベル(h)を定め、長軸を法線ベクトルとするレベル(h)での平面をC平面として定義し、このC平面が境界と交差する位置を補間処理で求めることで、常にC面を平面として扱うことが可能となる。
【0045】
[指標値の計算:ステップS4]
指標値計算ユニット38は、ステップS3において計算された長軸長L(t)、短軸径D(t)を用いて、各時相における心臓の形状指標値を計算する(ステップS4)。形状指標値としては、長軸長L(t)、短軸径D(t)、例えばA=L/2、B=D/2とした場合、離心率=(A−B1/2/A、扁平率=(A−B)/A、楕円率=B/A等を採用することができる。
【0046】
[指標値の出力:ステップS5]
取得された指標値は、表示ユニット23のモニターにおいて所定の形態で表示(出力)される(ステップS5)。指標値の表示形態は、種々のものを採用できる。例えば、各時相に対応するMPR画像と共に、指標値を数値として表示する、或いは、拡張末期における指標値と収縮末期における指標値との差分値、拡張末期における指標値と収縮末期における指標値との比、指標値の一心周期内時間変化曲線のうちの少なくとも一つを含む形状情報を生成し表示するようにしてもよい。
【0047】
また、短軸径D(t)として全てのレベルのD(d,t)から最大の短軸径maxD(d,h)を用いた場合には、どの長軸レベル(h)でmaxD(d,h)が得られたかを画像上で簡単且つ迅速に把握するための表示形態を採用することができる。典型例としては、二次元画像表示においては短軸線分として表示する、三次元画像表示においては短軸C曲面や短軸C平面によるC面として表示する、超音波画像上にマーカで位置を明示的に表示する形態、maxD(d,h)を得た長軸レベル(h)の位置情報(例えば、弁輪から長軸長の何%に相当する等の情報)を併せて表示する、ファイルに数値として出力する等の形態を挙げることができる。
【0048】
図9は、健常者とDCM症例者とのそれぞれにつき生成された、被走査領域を三次元領域とする本形状指標値計算処理により得られた離心率(Eccentricity)の一心周期内時間変化曲線の例を示した図である。また、図10は、健常者の収縮末期時相(ES)におけるMPR画像を、図11はDCM症例者の収縮末期時相(ES)におけるMPR画像を、それぞれ示している。各図においては、短軸径D(t)を、各C面(短軸C曲面、もしくは短軸C平面)での代表値として面積から円形近似で得た直径の、全C面における最大値で定義した例を採用している。図10、図11のMPR画像表示では、長軸(CenterLength)と、最大短軸径(max_Diameter)の位置を各々線分で表示してある。図9に示す時間変化曲線と図10、図11に示すMPR画像とは、同時に表示してもよいし、選択的に表示するようにしてもよい。
【0049】
図9の時間変化曲線においては、長軸長が最大短軸径よりも大きくて細長い形状の健常例では、より円形に近いDCM症例者よりも離心率の値が心時相を通じて全体的に大きいことが示されている。また、この時間変化曲線から、健常例の離心率は拡張末期よりも収縮末期において増大傾向(↑)を認め、DCM症例者の離心率は反対に減少傾向(↓)を認めることができる。この要因としては、健常例では、収縮期の捻れ運動により最大短軸径が長軸長よりも相対的に減少したこと、ないし短軸径の変化率に相関するcircumferential strain(CS)と長軸長の変化率に相関するlongitudinal strain(LS)について|CS|>|LS|の関係が成り立つ(健常例でのCSは約-30%、LSは約-20%程度であることが知られている)ことが考えられる。
【0050】
一方、DCM症例者では、心筋の収縮能に相関する収縮末期の硬さ(Emax)が減少していて、収縮末期の左室内圧(血圧)に押されることで形状が膨らみ、丸みが増したことが考えられる。
【0051】
また、形状を示す指標値と壁運動情報とを同時に表示することも可能である。図12、図13は、それぞれDCM症例者、健常者につき生成された、被走査領域を三次元領域とする本形状指標値計算処理により得られた離心率と内膜の面積変化率の時間変化曲線の例を示した図である。図12、図13に示す各曲線は、同時に表示してもよいし、選択的に表示するようにしてもよい。なお、三次元トラッキングによる内膜の面積変化率については、発明者らによる公知例(特開2010−274673号公報)等に詳しい。図12、図13の例では、面積変化率[%]を100で割った値で表現している。
【0052】
(変形例1)
左心室や左心房および右心房の形状評価の場合には、形状が回転楕円体に近いため、円形近似による上記(a)の手法でも形状評価が可能である。一方、形状が複雑な右心室の場合には、各々の長軸のレベル(h)における短軸C面内にて、(b)や(c)の例を用いることで、D(h)に関する長径α(h)と短径β(h)といった局所的短軸径を定義し、詳細な形状情報を評価するのが好適である。
【0053】
長径α(h)と短径β(h)としては、各々D(h,d,t)の最大値と最小値といった統計情報で求めても良いし、図14に示すような楕円の形状を仮定して求めても良い。この場合、例えば、上記(a)の手法で示したようにしてC面の面積S(h)を求め、D(h,d,t)の最大値もしくは最小値でC面に関する楕円の長径と短径の一方の径x(h)を規定し、他方の径y(h)をy(h)=S(h)/(π・x(h))によって推定することができる。また、同一C面上の各頂点でのD(h,d,t)の頂点間での分散や標準偏差といった統計情報を用いて詳細な形状情報を評価しても良い。勿論、右心室だけでなく左心室の形状評価に於いても、これらのような詳細な形状情報を用いて評価を行っても構わない。
【0054】
(変形例2)
上記実施形態においては、例えば一心拍内の各時相に対応する(全時相における)画像データを用いてトラッキング処理を実行し、各時相における関心領域内の組織の位置情報を取得して、上記形状指標値計算機能を実行した。しかしながら、必要に応じて、所望の時相(例えば、拡張末期、収縮末期等)や所望の期間(拡張期、収縮期)等の限定的な時相に対応する画像データを用いてトラッキング処理を実行し、全時相における関心領域内の組織の位置情報を取得して、所望の時相や期間に対応する形状指標を取得するようにしてもよい。
【0055】
以上述べた本超音波診断装置によれば、少なくとも一心周期以上に亘る長軸長Lと短軸径D(例えば、直径或いは半径)とをスペックルトラッキング処理によって自動的に求め、長軸長L、短軸径Dや長軸長Lと短軸径Dで定義される運動する組織の形状を反映する指標値(形状指標値)を計算し、所定の形態で出力する。従って、簡単且つ迅速に任意の時相での心臓の形状情報を定量化することができる。また、一心周期を通じての離心率といった形状情報の時間変化という新たな病状評価法を提供することが可能となる。
【0056】
また、三次元のスペックルトラッキング処理による形状指標計算処理では、形状情報を簡便かつ一意に安定して定めることが可能となる。従って、二次元のトラッキング処理による形状指標計算処理と比較した場合、全心臓領域を網羅した形状情報を一度に高い再現性を持って取得することができ、画像診断における不確定要素を低減させ、形状評価の精度を向上させることができる。
【0057】
さらに、形状指標計算処理によって得られた指標値を、壁運動情報と共に所定の形態にて表示することができる。従って、観察者は、形状を示す指標値と壁運動情報とを用いた画像診断を特別な負担なく行うことができ、画像診断の質の向上に寄与することができる。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…超音波診断装置、11…超音波プローブ、13…送信ユニット、15…受信ユニット、17…Bモード処理ユニット、19…移動ベクトル処理ユニット、21…画像生成ユニット、23…表示ユニット、31…制御ユニット(CPU)、37…壁運動パラメータ演算ユニット、38…指標値計算ユニット、39…記憶ユニット、41…操作ユニット、43…送受信ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に変動する組織領域につき、少なくとも一周期以上の期間に亘って超音波走査を実行し、前記期間の各時相に対応する複数の画像データを取得するデータ取得ユニットと、
前記複数の画像データの少なくとも一部を用いたトラッキング処理を実行することで、前記期間の少なくとも1つの時相における前記組織領域内の関心領域の位置情報を取得する位置情報取得ユニットと、
前記期間内の少なくとも一つの時相における前記関心領域の位置情報を用いて、前記少なくとも一つの時相における前記関心領域に対応する指標値を計算する指標値計算ユニットと、
前記少なくとも一つの時相における前記指標値を出力する出力ユニットと、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記期間内の少なくとも一つの時相における前記関心領域の位置情報を用いて、前記少なくとも一つの時相における前記関心領域内の組織の運動情報を計算する運動情報計算ユニットをさらに具備し、
前記出力ユニットは、前記少なくとも一つの時相における前記指標値と前記運動情報とを同時に出力すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記組織領域は心臓であり、
前記位置情報取得ユニットは、少なくとも拡張末期時相及び収縮末期における前記組織領域内の関心領域の位置情報を取得し、
前記指標値計算ユニットは、少なくとも拡張末期時相及び収縮末期における前記指標値を計算すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記位置情報取得ユニットは、前記期間内の拡張末期と拡張末期とにおける前記組織領域内の関心領域の位置情報を、前記トラッキング処理を実行することで取得し、
前記指標値計算ユニットは、拡張末期における指標値と収縮末期における指標値との差分値、拡張末期における指標値と収縮末期における指標値との比のうちいずれかを少なくとも含む形状情報を生成し、
前記出力ユニットは、前記指標値と共に、或いは前記指標値に変えて前記形状情報を出力すること、
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記位置情報取得ユニットは、前記期間の各時相に対応する前記複数の画像データを用いたトラッキング処理を実行することで、前記期間の各時相における前記組織領域内の関心領域の位置情報を取得し、
前記指標値計算ユニットは、前記期間に亘る指標値の時間変化曲線を含む形状情報を生成し、
前記出力ユニットは、前記指標値と共に、或いは前記指標値に変えて前記形状情報を出力すること、
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記指標値計算ユニットは、前記関心領域内の組織の長軸長、短軸径、長軸長及び短軸径を用いて定義される定量値を前記指標値として計算することを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記指標値計算ユニットは、前記組織領域を心臓とした場合に、心臓の4つの房室のいずれかの部位における平均的な弁輪部位の位置と尖部の位置とを用いて、前記長軸長を計算することを特徴とする請求項6記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記指標値計算ユニットは、前記組織領域を心臓とした場合に、前記長軸上の所定の位置における心臓の短軸方向の径の代表値を用いて、前記短軸径を計算することを特徴とする請求項6記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記指標値計算ユニットは、前記長軸上の所定の位置、又は前記代表値の最大値を得る位置において得られる局所短軸径の統計情報を用いて、前記短軸径を計算することを特徴とする請求項8記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記指標値計算ユニットは、前記統計情報として、前記局所短軸径の最大値、最小値、標準偏差のうち少なくとも一つを含む前記統計情報を用いて、前記短軸径を計算することを特徴とする請求項9記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記指標値計算ユニットは、前記短軸の方向に設定される曲面又は平面の面積を基準として、前記短軸径を計算することを特徴とする請求項4乃至10のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記指標値計算ユニットは、前記短軸の方向に設定される曲面又は平面の重心位置と輪郭上の各点との間の距離を用いて、前記短軸径を計算することを特徴とする請求項4乃至10のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記指標値計算ユニットは、前記短軸の方向に設定される曲面又は平面の輪郭上の各点につき、当該輪郭上の最も遠い点との距離を用いて、前記短軸径を計算することを特徴とする請求項4乃至10のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項14】
前記出力ユニットは、前記短軸径の計算に基準とされる位置に関する情報を前記指標値と共に出力することを特徴とする請求項4乃至13のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項15】
周期的に変動する組織領域につき少なくとも一周期以上の期間に亘って超音波走査を実行して得られた、前記期間の各時相に対応する複数の画像データを記憶する記憶ユニットと、
前記期間の各時相に対応する複数の画像データの少なくとも一部を用いてトラッキング処理を実行し、前記期間の少なくとも1つの時相における前記組織領域内の関心領域の位置情報を取得する位置情報取得ユニットと、
前記期間内の少なくとも一つの時相における前記関心領域の位置情報を用いて、前記少なくとも一つの時相における前記関心領域内に対応する指標値を計算する指標値計算ユニットと、
前記少なくとも一つの時相における前記指標値を出力する出力ユニットと、
を具備することを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項16】
コンピュータに、
周期的に変動する組織領域につき少なくとも一周期以上の期間に亘って超音波走査を実行して得られた、前記期間の各時相に対応する複数の画像データの少なくとも一部を用いて、トラッキング処理を実行させ、前記期間の少なくとも1つの時相における前記組織領域内の関心領域の位置情報を取得させる位置情報取得機能と、
前記期間内の少なくとも一つの時相における前記関心領域の位置情報を用いて、前記少なくとも一つの時相における前記関心領域に対応する指標値を計算させる指標値計算機能と、
前記少なくとも一つの時相における前記指標値を出力させる出力機能と、
を実現させることを特徴とする超音波画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−254219(P2012−254219A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129532(P2011−129532)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】