説明

超音波診断装置及び方法

【課題】超音波探触子から送受信される超音波の走査線群のうちの屈折のない走査線を簡単に求める。
【解決手段】複数の素子を含む超音波探触子から超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信し、深さの異なる複数の反射点からの受信信号を取得し、前記複数の反射点が存在する各領域における局所音速を算出する。これらの算出した局所音速の深さ方向に対する変化(傾き)を算出し、前記算出した傾きによりゼロ近傍の所定の閾値以内となる走査線を、屈折のない走査線として判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置及び方法に係り、特に超音波走査線の屈折の有無を判定し、その判定結果に基づいて被検体内の一部(診断部位)における音速(以下、「局所音速」という)を精度よく算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
音速が一定の媒質からなる被検体OBJ1内の音速Vは、下記のようにして算出することができる。図12(a)に示すように、被検体OBJ内の反射点(領域)X1ROIから超音波探触子300Aまでの距離をLとすると、反射点X1ROIで超音波が反射されてから反射点X1ROIの直下の超音波トランスデューサ(素子)302A0で受信されるまでの経過時間Tは、T=L/Vである。素子302A0からX方向(素子302Aの配列方向)に距離X離れた位置にある素子302Aiで受信されるまで経過時間をT+ΔTとすると、素子302A0と302Aiとの間の遅延時間ΔTは、下記の[数1]式により表される。
【0003】
【数1】

【0004】
従って、超音波が送波されて反射点X1ROIで時間T後に反射された後、各素子により受信されるまでの経過時間[2T,2T+ΔT]を測定することにより、反射点X1ROIまでの距離Lと速度Vを一意に求めることができる。
【0005】
上記のように、被検体内の音速が一定の場合には、音速Vを求めることが可能であるが、図12(b)に示す被検体OBJ2のように、内部の音速が一定でない場合には、上記の方法では、反射点(領域)X2ROIまでの距離L及び音速V,V´を求めることは困難である。
【0006】
これに対し、被検体内の音速が一定でない場合であっても、局所音速を精度よく算出することができる超音波診断方法が提案されている(特許文献1)。
【0007】
この超音波診断方法は、超音波探触子から超音波走査線を所定の間隔で被検体に出射し、被検体によって反射される超音波を受信して得た受信信号のうち、着目する走査線上の着目領域に設定された格子点(上格子点)での反射の受信信号に基づいて上格子点から超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速(受信時刻)を算出するとともに、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定された各走査線上の格子点(下格子点)での反射の受信信号に基づいて、各下格子点から超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速(受信時刻)を算出し、一方、前記着目領域における仮定音速を仮定し、上格子点から各下格子点までの伝播時間を算出する。
【0008】
また、スネルの法則により前記上格子点から各下格子点に入射する超音波の入射角と、前記着目領域の仮定音速と前記下格子点での反射に関連して算出した環境音速とに基づいて各下格子点から出射する超音波の出射角を算出し、前記下格子点から前記算出した出射角で出射する超音波が入射する前記超音波探触子の素子の位置と該素子に入射するまでの伝播時間とを算出する。
【0009】
そして、超音波探触子の素子の位置における超音波の受信時刻を、前記2つの伝播時間を加算することにより算出し、この算出した受信時刻と前記上格子点での反射の超音波探触子の素子の位置における受信時刻との誤差が最小になるように前記仮定音速を修正し、その修正した仮定音速を着目領域における局所音速として判定するようにしている。
【0010】
また、特許文献2には、超音波画像におけるフォーカス精度に基づき、浅い領域から局所的な音速を順次決定することにより音速分布を求める方法が開示されている。
【0011】
特許文献4には、超音波送波振動子と受波振動子とを所定距離離間して配置し、これらの振動子の送波及び受波角度を変えながら、送波振動子から受波振動子までの超音波の伝播時間を計測し、この計測した伝播時間と、別途仮想音速分布に基づいて計算した送波振動子から受波振動子までの超音波の伝播時間との誤差を求め、この誤差が最小となるように仮想音速分布を修正することにより被検体内の音速分布を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−99452号公報
【特許文献2】特開2009−56140号公報
【特許文献3】特開平5−95946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の超音波診断方法は、局所音速の測定の前提として、着目領域に設定される上格子点に対し、浅い領域に設定される各下格子点の相対的な空間位置が既知でなければならない。
【0014】
しかしながら、各格子点は走査線位置と受信時刻とによりその位置が定義され、空間位置は未知である。これに対し、特許文献1においては、各走査線の空間位置を既知とし、また、同一の受信時刻を同一深さと近似する事で、空間位置を与えている。
【0015】
したがって、走査線方向が屈折により変化すると、各格子点の空間位置が方位方向にも、深さ方向にも変化してしまい、算出される局所音速に誤差が生じるという問題がある。
【0016】
例えば、測定対象が肝臓の場合、それよりも浅い腹壁における屈折により各走査線方向が変化する。
【0017】
また、特許文献2に記載の方法においても、超音波画像におけるフォーカスは音速のみでなく屈折にも依存するため、屈折を求めずに音速分布を求めることはできない。
【0018】
特許文献3に記載の方法は、以下の課題がある。
【0019】
(1)所望の角度で送波・受波できるための専用の装置構成が必要である。
【0020】
(2)多大な送波・受波回数、及び仮想音速分布を探索するための多大な処理時間が必要になる。着目領域のみの音速を求めるためでも、他の全領域を伝播した結果の時間の計測値と計算値とを比較する原理のため、多大な送・受回数及び処理時間が必要なことに変わりない。
【0021】
(3)伝播経路を算出するために、音速場を線型近似した三角形に展開するモデルにて与えているが、実際の音速場はより複雑であり、特許文献3に記載のような近似モデルにて解を得ることは困難である。また、もし複雑な音速場を再現できるモデルを与えたとしても、特許文献3に記載の発明のように限られた送波・受波データから解を得ることは困難である。
【0022】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、順次走査される超音波走査線のうち屈折のない走査線を抽出することができ、また、その抽出した屈折のない走査線のみを使用して着目領域における音速を精度よく算出することができる超音波診断装置及び方法を提供することを目的とする。
【0023】
尚、横波音速計測や横方向のスペックルトラッキング、画像歪み補正など、方位方向の変位情報を要する何れの機能に対しても、屈折のない走査線のみを用いる事により精度改良できるため、これも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記目的を達成するために本発明の一の態様に係る超音波診断装置は、超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する複数の素子を含む超音波探触子と、前記超音波検出信号に基づいて複数の反射点からの受信信号を取得する受信信号取得手段と、前記取得した受信信号に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定する判定手段と、を備えたことを特徴としている。
【0025】
本発明の一の態様によれば、複数本の走査線上の各反射の受信信号に基づいて前記複数本の走査線のうちの屈折のない走査線を抽出するようにしている。
【0026】
本発明の他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号は、複数の素子が受信した信号であることを特徴としている。
【0027】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、複数の異なる深さの反射点からの受信信号を取得し、前記判定手段は、該受信信号に基づいて該複数の反射点における各局所音速を算出する局所音速算出手段を有し、前記算出した局所音速の深さ方向の変化に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定することを特徴としている。
【0028】
走査線上の深さ方向の各領域における局所音速が、深さにかかわらず変動しない場合、その走査線は屈折がないと認められる。そこで、本発明の更に他の態様では、複数の異なる深さの反射点からの受信信号に基づいて複数の反射点が存在する各領域における局所音速を算出し、これらの算出した局所音速の深さ方向の変化に基づいて屈折のない走査線を判定するようにしている。
【0029】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記判定手段は、前記複数の走査線毎に前記算出した局所音速の深さ方向に対する傾きを算出し、前記算出した傾きによりゼロ近傍の所定の閾値以内となる走査線を、屈折のない走査線として判定することを特徴としている。
【0030】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記判定手段により判定された走査線上の格子点毎に算出された局所音速の平均値を算出する算出手段を備え、前記算出された平均値を前記屈折のない走査線上の反射点を含む着目領域の局所音速とすることを特徴としている。
【0031】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、複数の異なる深さの反射点からの受信信号を取得し、前記判定手段は、該受信信号に基づいて該複数の反射点における各環境音速を算出する環境音速算出手段を有し、前記算出した環境音速の深さ方向の変化に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定することを特徴としている。
【0032】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、複数の異なる走査線位置からの受信信号を取得し、前記判定手段は、該受信信号に基づいて該複数の走査線位置における各環境音速を算出する環境音速算出手段を有し、前記算出した環境音速の走査方向の変化に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定することを特徴としている。
【0033】
連続している複数の走査線に屈折がない場合、これらの屈折のない走査線上の同一の受信時刻に対応する反射点から超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速は、一定になる。そこで、本発明の更に他の態様では、複数の異なる走査線位置からの受信信号を取得し、これらの受信信号に基づいて各走査線位置の環境音速をそれぞれ算出する。そして、算出した環境音速の走査線の走査方向の変動に基づいて屈折のない走査線群を判定するようにしている。
【0034】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記判定手段は、前記算出した環境音速の前記走査線の走査方向の変動が、予め設定された閾値以内となる連続する走査線群を、屈折のない走査線群として判定することを特徴としている。
【0035】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記判定手段は、前記複数の走査線のうちの連続する所定数の走査線群毎に、前記環境音速算出手段により算出した環境音速の標準偏差、分散又は最大値と最小値の差分を算出し、その算出結果に基づいて屈折のない走査線群を判定することを特徴としている。連続する所定数の走査線群毎に算出した環境音速の標準偏差等がゼロに近い場合、その走査線群は屈折のない走査線群として判定される。
【0036】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、複数の走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、前記局所音速算出手段は、前記下格子点での反射の受信信号に基づいて、該下格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する環境音速算出手段と、前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から下格子点までの第1の伝播時間を算出する手段と、スネルの法則により前記上格子点から下格子点に入射する超音波の入射角と、前記着目領域の仮定音速と前記下格子点と前記超音波探触子との間の領域の環境音速とに基づいて前記下格子点から出射する超音波の出射角を算出する手段と、前記下格子点から前記算出した出射角で出射する超音波が入射する前記超音波探触子の素子の位置と該素子に入射するまでの第2の伝播時間とを算出する手段と、前記超音波探触子の素子の位置における超音波の受信時刻を、前記第1の伝播時間と第2の伝播時間とを加算して算出する手段と、前記上格子点での反射の前記超音波探触子の素子の位置における受信時刻と前記算出した受信時刻との誤差が最小となる前記仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定する局所音速判定手段と、を含むことを特徴としている。
【0037】
本発明の更に他の態様は、着目領域に上格子点を設定するとともに、前記上格子点と前記超音波探触子との間に下格子点を設定し、着目領域の音速(仮定音速)を仮定することにより、上格子点から下格子点までの第1の伝播時間を算出する。一方、前記仮定音速と、格子点から超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速とから、上格子点から所定の入射角で下格子点に入射する超音波の出射角(屈折角)をスネルの法則により算出する。尚、スネルの法則は、2つの媒質中における音波のそれぞれの伝播速度と2つの媒質の境界面での入射角・出射角とは一定の関係にあることを表した法則であり、屈折の法則とも呼ばれている。このようにして下格子点での屈折角を求めることができるため、下格子点から超音波が入射する前記超音波探触子の素子の位置と該素子に入射するまでの第2の伝播時間とを算出することができる。そして、前記第1の伝播時間と第2の伝播時間とを加算することにより求めた前記超音波探触子の素子の位置における受信時刻と、前記上格子点での反射の前記超音波探触子の素子の位置における実際の受信時刻との誤差が最小となるときの仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定するようにしている。
【0038】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、複数の走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、前記局所音速算出手段は、前記上格子点及び下格子点での反射の受信信号に基づいて、各格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する環境音速算出手段と、前記上格子点を反射点としたときの第1の受信波を、該上格子点に対応して算出した環境音速に基づいて算出する第1の算出手段と、前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から下格子点までの伝播時間を算出する手段と、前記下格子点からの第2受信波を、該下格子点に対応して算出した環境音速及び前記算出した伝播時間に基づいて算出する第2の算出手段と、前記第1の算出手段により算出された第1の受信波と前記第2の算出手段により算出された第2の成受信波との誤差が最小となる前記仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定する局所音速判定手段と、を含むことを特徴としている。
【0039】
本発明の更に他の態様は、着目領域に上格子点を設定するとともに、前記上格子点と前記超音波探触子との間に下格子点を設定し、着目領域の音速(仮定音速)を仮定し、また、上格子点及び下格子点での反射の受信信号に基づいて各格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する。そして、前記上格子点を反射点としたときの第1の受信波を該上格子点に対応した算出した環境音速に基づいて演算する。一方、前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から各下格子点までの伝播時間を算出し、この伝播時間と下格子点に対応して算出した環境音速とに基づいて、下格子点からの第2の受信波を算出する。そして、前記算出された第1の受信波と第2の受信波との誤差が最小となるときの仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定するようにしている。これは、ホイヘンスの原理により、上格子点からの受信波と、下格子点からの受信波とが一致することを利用している。
【0040】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、前記判定手段により屈折のない走査線が判定されると、該走査線上の反射点に対応する上格子点と下格子点の反射の受信信号を取得し、前記局所音速算出手段は、前記取得した受信信号に基づいて前記着目領域における局所音速を算出することを特徴としている。
【0041】
本発明の更に他の態様によれば、屈折のない走査線上の格子点のみの反射の受信信号を取得することにより、前記局所音速の算出時に誤差のない局所音速を算出することができる。
【0042】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、前記判定手段により屈折のない走査線が判定されると、該走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、前記下格子点での反射の受信信号に基づいて、該下格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する環境音速算出手段と、前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から下格子点までの第1の伝播時間を算出する手段と、スネルの法則により前記上格子点から下格子点に入射する超音波の入射角と、前記着目領域の仮定音速と前記下格子点と前記超音波探触子との間の領域の環境音速とに基づいて前記下格子点から出射する超音波の出射角を算出する手段と、前記下格子点から前記算出した出射角で出射する超音波が入射する前記超音波探触子の素子の位置と該素子に入射するまでの第2の伝播時間とを算出する手段と、前記超音波探触子の素子の位置における超音波の受信時刻を、前記第1の伝播時間と第2の伝播時間とを加算して算出する手段と、前記上格子点での反射の前記超音波探触子の素子の位置における受信時刻と前記算出した受信時刻との誤差が最小となる前記仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定する局所音速判定手段と、を更に備えたことを特徴としている。
【0043】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、前記判定手段により屈折のない走査線が判定されると、該走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、前記上格子点及び下格子点での反射の受信信号に基づいて、各格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する環境音速算出手段と、前記上格子点を反射点としたときの第1の受信波を、該上格子点に対応して算出した環境音速に基づいて算出する第1の算出手段と、前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から下格子点までの伝播時間を算出する手段と、前記下格子点からの第2受信波を、該下格子点に対応して算出した環境音速及び前記算出した伝播時間に基づいて算出する第2の算出手段と、前記第1の算出手段により算出された第1の受信波と前記第2の算出手段により算出された第2の成受信波との誤差が最小となる前記仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定する局所音速判定手段と、を更に備えたことを特徴としている。
【0044】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記受信信号取得手段は、前記判定手段により屈折のない走査線が判定されると、該走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、前記判定手段により判定された屈折のない走査線上の上格子点と下格子点との間の超音波の伝播時間を、前記受信信号取得手段により取得した受信信号に基づいて算出する伝播時間算出手段と、前記判定手段により判定された屈折のない走査線上の上格子点及び下格子点の位置と、前記伝播時間算出手段により算出した前記上格子点と下格子点との間の超音波の伝播時間とに基づいて前記上格子点と下格子点との間の着目領域における局所音速を算出する局所音速算出手段と、を更に備えたことを特徴としている。
【0045】
本発明の更に他の態様によれば、屈折のない走査線上の格子点のみの反射の受信信号を取得し、これらの格子点間の位置及び伝播時間を求めることにより前記局所音速を精度よく算出できるようにしている。
【0046】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記伝播時間算出手段は、着目する走査線上の上格子点から前記超音波探触子の各素子までの第1の伝播時間を算出する第1の伝播時間算出手段と、前記上格子点と前記超音波探触子との間の領域に設定された下格子点から前記超音波探触子の各素子までの第2の伝播時間を算出する第2の伝播時間算出手段と、前記超音波探触子の各素子上で、前記算出された第1の伝播時間と第2の伝播時間との時間差が最大となる素子上の時間差を、前記上格子点から下格子点までの超音波の伝播時間として算出する手段と、からなることを特徴としている。
【0047】
本発明の更に他の態様によれば、前記上格子点から前記超音波探触子の各素子までの第1の伝播時間と前記下格子点から前記超音波探触子の各素子までの第2の伝播時間とに基づいて、前記上格子点から下格子点までの超音波の伝播時間を簡単に算出することができる。
【0048】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記超音波探触子から送受信される走査線のステア角を調整するステア角調整手段を備え、前記判定手段は、前記ステア角調整手段によりステア角が調整される毎に前記取得した受信信号に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定することを特徴としている。走査線が異なる媒質の境界面に対してほぼ直交するように入射する場合には、その走査線の屈折は小さくなる。従って、走査線のステア角を調整することにより、走査線の屈折が小さくなる走査線を送信することができる。
【0049】
本発明の更に他の態様に係る超音波診断装置において、前記判定手段により判定された屈折のない走査線を表示する表示手段を更に備えたことを特徴としている。
【0050】
本発明の更に他の態様に超音波診断方法は、複数の素子を含む超音波探触子から超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を取得する工程と、前記取得した超音波検出信号に基づいて複数の反射点からの受信信号を取得する受信信号取得工程と、前記取得した受信信号に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定する判定工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、通常の装置構成により取得可能な超音波探触子の各素子の受信信号に基づいて屈折のない走査線を簡単に判定することができ、また、屈折のない走査線のみを使用することにより、着目領域における音速(局所音速)を精度よく算出することができるという効果、また横波音速計測や横方向のスペックルトラッキングなどの機能において方位方向の変位検出精度を改良できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の実施形態を示すブロック図
【図2】超音波探触子から出射される超音波ビームのステア角等を説明するために用いた図
【図3】被検体の着目領域における局所音速を算出する処理手順の第1の実施形態を示すフローチャート
【図4】被検体の着目領域に設定される各格子点の一例を示す図
【図5】上格子点から下格子点への伝播時間の算出方法を説明するために用いた図
【図6】特許文献1に開示された屈折モデル計算により局所音速を算出する方法を模式的に示した図
【図7】特許文献1に開示されたホイヘンスの原理を利用して局所音速を算出する方法を模式的に示した図
【図8】第1の算出方法または第2の算出方法によって局所音速を算出する場合の変形例を説明するために用いた図
【図9】媒質の異なる生体ファントムの深さ方向に対する局所音速の変化を示すグラフ
【図10】被検体の着目領域における局所音速を算出する処理手順の第2の実施形態を示すフローチャート
【図11】走査線の走査線方向に対する環境音速の変化の一例を示すグラフ
【図12】被検体の媒質(音速)が均一な場合と不均一の場合の超音波探触子での受信時刻を示す図
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、添付図面に従って本発明に係る超音波診断装置及び方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0054】
[装置構成]
図1は本発明に係る超音波診断装置の実施形態を示すブロック図である。
【0055】
図1に示す超音波診断装置10は、超音波探触子300から被検体OBJに超音波ビームを送信して、被検体OBJによって反射された超音波ビーム(超音波エコー)を受信し、超音波エコーの検出信号から超音波画像を作成・表示する装置である。
【0056】
CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)100は、操作入力部200からの操作入力に応じて超音波診断装置10の各ブロックの制御を行う。
【0057】
操作入力部200は、オペレータからの操作入力を受け付ける入力デバイスであり、操作卓202とポインティングデバイス204とを含んでいる。操作卓202は、文字情報(例えば、患者情報)の入力を受け付けるキーボードと、振幅画像(Bモード画像)を単独で表示するモードと局所音速の判定結果を表示するモードとの間で表示モードを切り替える表示モード切り替えボタンと、ライブモードとフリーズモードとの切り替えを指示するためのフリーズボタンと、シネメモリ再生を指示するためのシネメモリ再生ボタンと、超音波画像の解析・計測を指示するための解析・計測ボタンとを含んでいる。ポインティングデバイス204は、表示部104の画面上における領域の指定の入力を受け付けるデバイスであり、例えば、トラックボール又はマウスである。尚、ポインティングデバイス204としては、タッチパネルを用いることも可能である。
【0058】
格納部102は、CPU100により超音波診断装置10の各ブロックの制御を制御するための制御プログラム、パラメータ及び本発明に係る屈折のない走査線を抽出し、局所音速を算出するためのプログラムを格納する記憶装置であり、例えば、ハードディスク又は半導体メモリである。
【0059】
表示部104は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ又は液晶ディスプレイであり、超音波画像(動画及び静止画)の表示、本発明に係る走査線方向、局所音速マップ、及び各種の設定画面を表示する。
【0060】
超音波探触子300は、被検体OBJに当接させて用いるプローブであり、1次元又は2次元の超音波トランスデューサアレイを構成する複数の素子302を備えている。複数の素子302は、送信回路402から印加される駆動信号に基づいて超音波ビームを被検体OBJに送信するとともに、被検体OBJから反射される超音波エコーを受信して検出信号を出力する。
【0061】
超音波探触子300の各素子302は、圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極が形成されて構成された振動子を含んでいる。上記振動子を構成する圧電体としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb (lead) zirconate titanate)のような圧電セラミック、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)のような高分子圧電素子を用いることができる。上記振動子の電極に電気信号を送って電圧を印加すると圧電体が伸縮し、この圧電体の伸縮により各振動子において超音波が発生する。例えば、振動子の電極にパルス状の電気信号を送るとパルス状の超音波が発生し、振動子の電極に連続波の電気信号を送ると連続波の超音波が発生する。そして、各振動子において発生した超音波が合成されて超音波ビームが形成される。また、各振動子により超音波が受信されると、各振動子の圧電体が伸縮して電気信号を発生する。各振動子において発生した電気信号は、超音波の検出信号として受信回路404に出力される。
【0062】
尚、超音波探触子300の素子302としては、超音波変換方式の異なる複数種類の素子を用いることも可能である。例えば、超音波を送信する素子として上記圧電体により構成される振動子を用いて、超音波を受信する素子として光検出方式の超音波トランスデューサを用いるようにしてもよい。ここで、光検出方式の超音波トランスデューサとは、超音波信号を光信号に変換して検出するものであり、例えば、ファブリーペロー共振器又はファイバブラッググレーティングである。
【0063】
次に、ライブモード時における超音波診断処理について説明する。ライブモードは、被検体OBJに超音波探触子300を当接させて超音波の送受信を行うことによって得られた超音波画像(動画)の表示、解析・計測を行うモードである。
【0064】
超音波探触子300が被検体OBJに当接されて、操作入力部200からの指示入力により超音波診断が開始されると、CPU100は、送受信部400に制御信号を出力して、超音波ビームの被検体OBJへの送信、及び被検体OBJからの超音波エコーの受信を開始させる。CPU100は、素子302毎に超音波ビームの送信方向と超音波エコーの受信方向とを設定する。
【0065】
また、CPU100は、超音波ビームの送信方向に応じて送信遅延パターンを選択するとともに、超音波エコーの受信方向に応じて受信遅延パターンを選択する。ここで、送信遅延パターンとは、複数の素子302から送信される超音波によって所望の方向に超音波ビームを形成するために駆動信号に与えられる遅延時間のパターンデータであり、受信遅延パターンとは、複数の素子302によって受信される超音波によって所望の方向からの超音波エコーを抽出するために検出信号に与えられる遅延時間のパターンデータである。上記送信遅延パターン及び受信遅延パターンは予め格納部102に格納されている。CPU100は、格納部102に格納されているものの中から送信遅延パターン及び受信遅延パターンを選択し、選択した送信遅延パターン及び受信遅延パターンに従って、送受信部400に制御信号を出力して超音波の送受信制御を行う。
【0066】
送信回路402は、CPU100からの制御信号に応じて駆動信号を生成して、該駆動信号を素子302に印加する。また、送信回路402は、図2に示すように素子302毎に遅延回路τ〜τを有し、CPU100によって選択された送信遅延パターンに基づいて、各素子302に印加する駆動信号を遅延させる。ここで、送信回路402は、複数の素子302から送信される超音波が超音波ビームを形成するように、各素子302に駆動信号を印加するタイミングを調整(遅延)したり、図2に示すように超音波ビームの方向(ステア角α)を調整するように、各素子302に駆動信号を印加するタイミングを調整(遅延)する。尚、複数の素子302から一度に送信される超音波が被検体OBJの撮像領域全体に届くように、駆動信号を印加するタイミングを調節するようにしてもよい。
【0067】
受信回路404は、超音波探触子300の各素子302から出力される超音波検出信号を受信して増幅する。上記のように、各素子302と被検体OBJ内の超音波反射源との間の距離がそれぞれ異なるため、各素子302に反射波が到達する時間が異なる。受信回路404は遅延回路を備えており、CPU100によって選択された音速(以下、「仮定音速」という)又は音速の分布に基いて設定される受信遅延パターンに従って、反射波の到達時刻の差(遅延時間)に相当する分、各検出信号を遅延させる。
【0068】
次に、受信回路404は、遅延時間を与えた検出信号を整合加算することにより受信フォーカス処理を行う。超音波反射源XROIと異なる位置に別の超音波反射源がある場合には、別の超音波反射源からの超音波検出信号は到達時刻が異なるので、上記加算回路で加算することにより、別の超音波反射源からの超音波検出信号の位相が打ち消し合う。これにより、超音波反射源XROIからの受信信号が最も大きくなり、フォーカスが合う。上記受信フォーカス処理によって、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(以下、「RF信号」という)が形成される。
【0069】
A/D変換器406は、受信回路404から出力されるアナログのRF信号をデジタルRF信号(以下、「RFデータ」という)に変換する。ここで、RFデータは、受信波(搬送波)の位相情報を含んでいる。A/D変換器406から出力されるRFデータは、信号処理部502とシネメモリ602にそれぞれ入力される。
【0070】
シネメモリ602は、A/D変換器406から入力されるRFデータを順次格納する。また、シネメモリ602は、CPU100から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記RFデータに関連付けて格納する。
【0071】
信号処理部502は、上記RFデータに対して、STC(Sensitivity Time gain Control)によって、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正をした後、包絡線検波処理を施し、Bモード画像データ(超音波エコーの振幅を点の明るさ(輝度)により表した画像データ)を生成する。
【0072】
信号処理部502によって生成されたBモード画像データは、通常のテレビジョン信号の走査方式と異なる走査方式によって得られたものである。このため、DSC(Digital Scan Converter)504は、上記Bモード画像データを通常の画像データ(例えば、テレビジョン信号の走査方式(NTSC方式)の画像データ)に変換(ラスター変換)する。画像処理部506は、DSC504から入力される画像データに、各種の必要な画像処理(例えば、階調処理)を施す。
【0073】
画像メモリ508は、画像処理部506から入力される画像データを格納する。D/A変換器510は、画像メモリ508から読み出された画像データをアナログの画像信号に変換して表示部104に出力する。これにより、超音波探触子300によって撮影された超音波画像(動画)が表示部104に表示される。
【0074】
尚、本実施形態では、受信回路404において受信フォーカス処理が施された検出信号をRF信号としたが、受信フォーカス処理が施されていない検出信号をRF信号としてもよい。この場合、複数の素子302から出力される複数の超音波検出信号が、受信回路404において増幅され、増幅された検出信号、即ち、RF信号が、A/D変換器406においてA/D変換されることによってRFデータが生成される。そして、上記RFデータは、信号処理部502に供給されるとともに、シネメモリ602に格納される。受信フォーカス処理は、信号処理部502においてデジタル的に行われる。
【0075】
次に、シネメモリ再生モードについて説明する。シネメモリ再生モードは、シネメモリ602に格納されているRFデータに基づいて超音波診断画像の表示、解析・計測を行うモードである。
【0076】
操作卓202のシネメモリ再生ボタンが押下されると、CPU100は、超音波診断装置10の動作モードをシネメモリ再生モードに切り替える。シネメモリ再生モード時には、CPU100は、オペレータからの操作入力により指定されたRFデータの再生をシネメモリ再生部604に指令する。シネメモリ再生部604は、CPU100からの指令に従って、シネメモリ602からRFデータを読み出して、画像信号生成部500の信号処理部502に送信する。シネメモリ602から送信されたRFデータは、信号処理部502、DSC504及び画像処理部506において所定の処理(ライブモード時と同様の処理)が施されて画像データに変換された後、画像メモリ508及びD/A変換器510を経て表示部104に出力される。これにより、シネメモリ602に格納されたRFデータに基づく超音波画像(動画又は静止画)が表示部104に表示される。
【0077】
ライブモード又はシネメモリ再生モード時において、超音波画像(動画)が表示されているときに操作卓202のフリーズボタンが押下されると、フリーズボタン押下時に表示されている超音波画像が表示部104に静止画表示される。これにより、オペレータは、着目領域(ROI:Region of Interest)の静止画を表示させて観察することができる。
【0078】
操作卓202の計測ボタンが押下されると、オペレータからの操作入力により指定された解析・計測が行われる。データ解析計測部106は、各動作モード時に計測ボタンが押下された場合に、A/D変換器406又はシネメモリ602から、画像処理が施される前のRFデータを取得し、当該RFデータを用いてオペレータ指定の解析・計測(例えば、組織部の歪み解析(硬さ診断)、血流の計測、組織部の動き計測、又はIMT(内膜中膜複合体厚:Intima-Media Thickness)値計測)を行う。データ解析計測部106による解析・計測結果は、画像信号生成部500のDSC504に出力される。DSC504は、データ解析計測部106による解析・計測結果を超音波画像の画像データに挿入して表示部104に出力する。これにより、超音波画像と解析・計測結果とが表示部104に表示される。
【0079】
また、表示モード切り替えボタンが押下されると、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に局所音速の判定結果を重畳して表示するモード(例えば、局所音速に応じて色分け又は輝度を変化させる表示、又は局所音速が等しい点を線で結ぶ表示)、Bモード画像と局所音速値の判定結果の画像を並べて表示するモードの間で表示モードが切り替わる。これにより、オペレータは、局所音速の判定結果を観察することで、例えば、病変を発見することができる。尚、局所音速の判定結果に基づいて、送信フォーカス処理及び受信フォーカス処理の少なくとも一方を施すことにより得られたBモード画像を表示部104に表示してもよい。
【0080】
また、超音波診断装置10は、上記局所音速を精度よく算出するための前提として、超音波探触子300の各素子302での受信信号に基づいて、超音波ビーム(以下、「走査線」という)のうちの屈折のない走査線を抽出する。尚、屈折のない走査線の抽出方法については、後述する。また、表示部104には、屈折のない走査線を表示することができる。
【0081】
[局所音速測定の第1の実施形態]
図3は、被検体の着目領域における局所音速を算出する処理手順の第1の実施形態を示すフローチャートである。
【0082】
図3に示すように、まず被検体の着目領域を設定する(ステップS1)。この着目領域は、表示部104に表示される超音波画像の静止画上で、オペレータがポインティングデバイスにより設定してもよいし、制御プログラムが自動的に所定位置、所定サイズにて設定してもよいし、超音波画像を二値化処理するとともに、白の部分(又は黒の部分)が連続した画素に同じ番号を割り振るラベリング処理を行い、ラベリングした番号順に自動的に設定してもよい。
【0083】
続いて、前記設定した着目領域内に格子点(上格子点及び下格子点を含む)を設定し、各格子点における環境音速を求める(ステップS2)。各格子点は、走査線位置と受信時刻によって、その位置が定義される。即ち、図4に示すように、超音波探触子300から被検体OBJの着目領域に出射される、所定の間隔の走査線1,2,…,n上の深さの異なる反射点を格子点として設定する。ここで、下格子点A1,A2,A3,…,Anは、各走査線1,2,…,n上の受信時刻が同一の反射点であり、同様に上格子点B1,B2,B3,…,Bn、上格子点C1,C2,C3,…,Cn、…もそれぞれ各走査線1,2,…,n上の受信時刻が同一の反射点である。
【0084】
尚、図4上では、下格子点A、上格子点B,Cは、同じ深さの格子点として図示されているが、実際には各格子点と超音波探触子300との間の領域の音速は均一でないため、空間上では異なる深さの反射点となり、また、リニア走査される各走査線1,2,…,nも走査線の伝播領域の音速の違いにより屈折するため、すべての走査線は必ずしも平行にはならない。
【0085】
また、各格子点の範囲及び個数は予め決めておく。ここで、局所音速演算に使用する格子点の範囲が広いと局所音速値の誤差が大きくなり、狭いと仮想受信波との誤差が大きくなるため、格子点の範囲はこれらの兼ね合いで決める。各格子点のx方向の間隔は、分解能と処理時間の兼ね合いで決定される。格子点のx方向の間隔は、一例で1mmから1cmである。また、下格子点と上格子点のy方向の間隔が狭いと誤差計算における誤差が大きくなり、広いと局所音速の誤差が大きくなる。格子点のy方向の間隔は、超音波画像の画像分解能の設定に基づいて決定され、一例で1cmである。
【0086】
次に、上記のように設定した各格子点における環境音速を以下のようにして算出する。
【0087】
<環境音速の算出>
図12(a)に示したように、ある反射点(格子点)X1ROIから超音波探触子300Aまでの距離をLとすると、格子点X1ROIで超音波が反射されてから格子点X1ROIの直下の素子302Aで受信されるまでの経過時間Tは、T=L/Vである。素子302AからX方向(素子302Aの配列方向)に距離X離れた位置にある素子302Aで受信されるまで経過時間をT+ΔTとすると、素子302Aと302Aとの間の遅延時間ΔTは、下記の式(1)により表される。
【0088】
【数1】

【0089】
従って、超音波が送波されて格子点X1ROIで時間T後に反射された後、各素子により受信されるまでの経過時間[2T,2T+ΔT]を測定することにより、格子点X1ROIまでの距離Lと速度Vを一意に求めることができる。
【0090】
ここで、ある格子点の環境音速とは、その格子点から超音波探触子までの領域の平均音速であり、画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる音速である。従って、環境音速の判定方法としては、例えば、画像のコントラスト、スキャン方向の空間周波数、分散などから判定する方法(例えば、特開平8-317926号公報)を適用することができる。また、環境音速を十分な精度で求められるように、着目領域内にて細密深度間隔にて送信焦点を形成するようにフォーカスをかけることが好ましい。
【0091】
この様にして求めた環境音速から、その格子点からの反射の各素子の受信時刻を得る事ができる。つまり、その格子点からの反射の各素子受信信号に対して、ある音速を仮定して遅延を決定し、その遅延を使用して生成した画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる場合、その遅延が各素子受信時刻に最も近づく事を意味しているため、その音速(環境音速)、つまり遅延を以って各素子受信時刻と見做す事ができる。環境音速の代わりに、位相収差解析などの手法により、各素子の受信時刻を求めて、以降に使用してもよい。
【0092】
<局所音速の算出>
次に、各下格子点A1,A2,A3,…,Anを通る走査線1,2,…,nが屈折しておらず、各走査線の走査方向の位置が既知であるという前提の下で、局所音速を求める(ステップS3)。
【0093】
<局所音速の第1の算出方法>
まず、着目する走査線上の上格子点から、周囲走査線上の各下格子点への伝播時間を求め、その後、各走査線が屈折していないという前提で、着目走査線上の上格子点に対して周囲走査線上の各下格子点の相対的な空間座標を与える事で、上格子点から各下格子点への伝播時間から局所音速を求める。
【0094】
図5に示すように、着目する走査線上の格子点(上格子点)Bから周囲走査線上の格子点(下格子点)A1,A2,A3への伝播時間ΔT1,ΔT2,ΔT3は、次式により算出することができる。
【0095】
[数2]
ΔTn=max(TBi-TAni)
上記[数2]式において、
ΔTn:格子点Bから格子Anまでの伝播時間
TBi:格子点Bから超音波探触子の素子iまでの伝播時間(格子点B反射の素子iでの受信時刻)
TAni:格子点Anから超音波探触子の素子iまでの伝播時間(格子点An反射の素子iでの受信時刻)
である。
【0096】
但し、TBi及びTAniは、伝播経路の片道の伝播時間を示しており、超音波探触子の各素子の受信時刻又は環境音速から往路分の伝播時間(着目走査線上の素子における受信時刻または最短受信時刻の半分)を引くことにより求められる。
【0097】
図5には、格子点Bの反射の超音波探触子の各素子iでの受信時刻を示す曲線と、格子点A1,A2,A3の反射の超音波探触子の各素子iでの受信時刻を示す曲線とが示されている。ホイヘンスの原理によれば、格子点Bからの受信波(受信時刻を示す曲線)と、格子点A1,A2,A3…からの受信波を、格子点Bからそれぞれの格子点までの伝播時間だけ遅延させて仮想的に合成した仮想合成受信波(各受信時刻を示す曲線の包絡線)とは一致する。上記[数2]式により算出されるΔTnは、格子点Bからの受信波と、格子点A1,A2,A3…からの仮想合成受信波とが一致するために必要な格子点Bから格子点Anまでの伝播時間を示す。又は、[数2]式の様に各伝播時間ΔTnを独立に求める代わりに、下格子点A1,A2,A3・・・の位置を仮想的に既知として、特許文献1に開示されている方法によって上格子点Bと下格子点A1,A2,A3・・・との間の局所音速を仮想的に求めても良い。仮想的に決めた下格子点A1,A2,A3・・・の位置および求めた局所音速に基き、各伝播時間ΔTnを求める事ができる。
【0098】
ここで、着目走査線および周囲走査線が屈折していないという前提の下、上格子点Bおよび各下格子点A1,A2,A3・・・の走査方向の位置が与えられている。そして着目走査線において上格子点から下格子点までの伝播時間が与えられているため、上格子点と下格子点との間の局所音速を仮定する事によって上格子点と下格子点の深さ方向の距離が与えられ、従って上格子点Bから各下格子点A1,A2,A3・・・までの伝播時間を求める事ができる。この各伝播時間と上記で求めた各伝播時間ΔTnを比較し、誤差が最小となるときの仮定した局所音速を真の音速(局所音速)として判定する。
【0099】
走査線毎に上記の処理を繰り返すことにより、走査線毎に局所音速を算出することができる。また、上格子点Bの替わりに、深さ方向の異なる上格子点C、D、…からの受信信号を使用し(図4参照)、上記と同様にして深さ方向の異なる格子点における局所音速を算出する。
【0100】
<局所音速の第2の算出方法>
特許文献1に開示されている手法において、各走査線が屈折していないという前提で下格子点に空間座標を与えた上で、着目走査線上の各上格子点について演算を繰り返して局所音速を求める。
【0101】
図6は、特許文献1に開示された屈折モデル計算により局所音速を算出する方法を模式的に示した図である。
【0102】
以下の説明では、超音波探触子300の各素子302が配置された素子面S2に平行な方向をX方向とし、X方向に垂直な方向(被検体OBJの深さ方向)をY方向とする。
【0103】
図6に示すように、被検体OBJJ内の領域A内の着目領域ROIを代表する上格子点をBROIとし、下格子点をA1,A2,…,An,…とする。これらの格子点の空間座標は、各走査線が屈折していないという前提で与えられている。
【0104】
下格子点A1,A2,…,An,…を連結した境界面S1と被検体OBJ内の上格子点BROIとの間の領域を領域Aとし、境界面S1と超音波探触子300の素子面S2との間の領域を領域Bとする。領域Aと領域Bの中における音速はそれぞれ一定と仮定する。
【0105】
下格子点A1,A2,…から超音波探触子300の素子面S2に至る領域の音速(環境音速)が略同じ場合、又は格子点A1,A2,…からの受信波が互いに同じ場合、又は該受信波が近似的に同じと見なせる場合、又は該受信波がゆるやかに変化する場合に、図6に示すように、上格子点BROIと下格子点A1,A2,…との間の領域Aにおける音速(局所音速)と領域Bにおける環境音速に基づいて、スネルの法則に従って領域AとBとの境界面で屈折する音線を追跡することにより各素子302における受信時刻を求める。
【0106】
具体的には、着目領域の仮定音速をVとし、上格子点BROIから或る下格子点X’に入射する音線の入射角をΘとすると、下格子点X’を通る音線の出射角(屈折角)Θ’は、スネルの法則により、次式で表すことができる。
【0107】
[数3]
sinΘ/sinΘ’=V/V
各格子点の空間座標は既知であるため、入射角Θも既知であり、仮定音速Vを仮定することにより、下格子点X’を通る音線の屈折角Θ’を、上記[数3]式により求めることができる。
【0108】
これにより、下格子点X’を通る音線が入射する、超音波探触子300上の素子302の位置X”と、下格子点X’から素子302の位置X”までの音線の伝播時間を算出することができる。
【0109】
また、上格子点BROIから下格子点A1,A2,…までの伝播時間を算出する。この伝播時間は、各格子点間の距離を求めることができるため、仮定音速Vを仮定することにより算出することができる。
【0110】
上記のように音線を追跡することにより、上格子点BROIから各下格子点A1,A2,…を通過し、超音波探触子300のどの素子の位置に、どの伝播時間(受信時刻)で受信されるかをそれぞれ算出することができる。
【0111】
一方、格子点BROIでの反射の超音波探触子300の各素子302の位置における実際の受信時刻は、ステップS2で測定してあるため、前記算出した受信時刻と測定した受信時刻との誤差が最小となるときの仮定音速を、着目領域における真の音速(局所音速)として判定する。
【0112】
走査線毎に上記の処理を繰り返すことにより、走査線毎に局所音速を算出することができる。また、上格子点Bの替わりに、深さ方向の異なる上格子点C、D、…からの受信信号を使用し(図4参照)、上記と同様にして深さ方向の異なる格子点における局所音速を算出する。
【0113】
<局所音速の第3の算出方法>
図7は、特許文献1に開示されたホイヘンスの原理を利用して局所音速を算出する方法を模式的に示した図である。
【0114】
図7(b)に示すように下格子点A1,A2,…からの受信波(それぞれWA1,WA2,…)の(伝播時間T及び遅延時間ΔT)を既知として、格子点BROIと格子点A1,A2,…の位置関係から格子点BROIにおける局所音速を求める。具体的には、ホイヘンスの原理により、上格子点BROIからの受信波Wと下格子点A1,A2,…からの受信波を仮想的に合成した受信波WSUMとが一致することを利用する。
【0115】
ここで、上格子点BROI、下格子点A1,A2,…の空間座標は、各走査線が屈折していないという前提により与えられている。
【0116】
図7に示すように、上格子点BROIにおける環境音速Vに基づいて上格子点BROIを反射点としたときの受信波Wの波形を算出する。また、上格子点BROIから各下格子点A1,A2,…までの伝播時間をそれぞれ算出する。これらの伝播時間は、各走査線が屈折していないという前提により、下格子点A1,A2,…の空間座標が与えられているため、仮定音速Vを仮定することにより算出することができる。
【0117】
各格子点A1,A2,…における環境音速に基づいて下格子点A1,A2,…を反射点としたときの受信波WA1,WA2,…を算出する。そして、これらの受信波WA1,WA2,…を、各格子点A1,A2,…毎に算出した上格子点BROIからの伝播時間だけ遅延させて合成することにより、仮想的な合成受信波WSUMを算出する。
【0118】
次に、上記受信波Wと合成受信波WSUMの誤差を算出する。受信波Wと合成受信波WSUMの誤差は、互いの相互相関をとる方法、受信波Wに合成受信波WSUMから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法、又は逆に合成受信波WSUMに受信波Wから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法により算出される。ここで、受信波Wから遅延を得るには、格子点BROIを反射点とし、音速Vで伝播した超音波が各素子に到着する時刻を遅延とすればよい。また、合成受信波WSUMから遅延を得るには、隣り合う素子間での合成受信波の位相差から等位相線を抽出し、その等位相線を遅延とするか、又は単に各素子の合成受信波の最大(ピーク)位置の位相差を遅延としてもよい。また、各素子からの合成受信波の相互相関ピーク位置を遅延としてもよい。位相整合加算時の誤差は、整合加算後の波形のpeak to peakとする方法、又は包絡線検波した後の振幅の最大値とする方法により求められる。
【0119】
上記受信波Wと合成受信波WSUMの誤差は、仮定音速Vによって変化する。そして、誤差が最小(位相整合加算時には最大)となるときの仮定音速を、着目領域における真の音速(局所音速)として判定する。
【0120】
走査線毎に上記の処理を繰り返すことにより、走査線毎に局所音速を算出することができる。また、上格子点Bの替わりに、深さ方向の異なる上格子点C、D、…からの受信信号を使用し(図4参照)、上記と同様にして深さ方向の異なる格子点における局所音速を算出する。
【0121】
尚、第1〜3の算出方法において算出した上格子点B、C、D、・・・における局所音速は、それぞれの上格子点と下格子点A1、A2、…との間の領域の局所音速に相当し、つまり下格子点を共通として各領域に重なりがあるが、各領域が重ならない様に、それぞれの上格子点に対して下格子点を別に設定しても良い。この時、それぞれの上格子点に対して基準となる深さにそれぞれの上格子点共通の格子点を別途設定し、この格子点における環境音速が一致するように、それぞれの上格子点における局所音速を算出しても良い。
【0122】
具体的には、以下の手順により算出する。図8に示す様に、上格子点をB、下格子点を点A1、A2、…とした時に、仮の下格子点A’1、A’2、…を別の基準深さに設定する。次に、仮の下格子点A’1、A’2、…における環境音速を仮定する。すると上格子点B、および下格子点A1、A2、…、それぞれに対し第1の算出方法または第2の算出方法によって、下格子点A’1、A’2、…までの領域の局所音速を算出することができる。ここで、上格子点Bに対する局所音速と下格子点A1、A2、…に対する局所音速が一致する場合の局所音速および下格子点A’1、A’2、…における環境音速を真値と見做す事ができる。この様にして、それぞれの上格子点B、C、D、・・・における局所音速を算出することができる。
【0123】
<着目領域の局所音速算出>
次に、各走査線について、深さの異なる格子点(領域)における局所音速の深さ方向の変化に基づいて屈折のない走査線を抽出し、着目領域の局所音速を求める(図3のステップS4)。
【0124】
図9(a)〜(c)は、生体ファントムの各深さにおいて、着目走査線および周囲走査線が屈折していない前提で局所音速を測定した結果を示すグラフであり、それぞれ測定点より浅い領域において異なる音速媒質を、その境界面の形状を変えて設置している。尚、これらのグラフにおいて、振幅が大きく振れているのはノイズによる影響である。
【0125】
生体ファントムと異なる音速媒質の境界面を探触子面と平行にし各走査線を屈折させない場合、図9(a)に示すように、局所音速の深さ方向に対する傾きはゼロ近傍となる。
【0126】
一方、境界面形状を変えて各走査線を深さと共に閉じてゆく様に屈折させた場合、または開いてゆく様に屈折させた場合、それぞれ図9(b)及び(c)に示すように、局所音速の深さ方向に対する傾きは単調増加又は単調減少する。
【0127】
そこで、走査線毎に局所音速の深さ方向に対する傾きを求め、その傾きがゼロ近傍の走査線を抽出することにより、屈折のない走査線を抽出することができる。尚、屈折のない走査線が連続している走査線群を抽出することが好ましい。
【0128】
そして、上記のように屈折がないと判定した走査線上の各局所音速の平均値を算出し、この算出した平均値を着目領域における局所音速とする。
【0129】
また、屈折がないと判定した走査線上の上格子点及び下格子点からの受信信号のみを使用し、改めて特許文献1に開示された局所音速の算出方法を適用して局所音速を算出するようにしてもよい。このとき、屈折のない各走査線の環境音速を平均化し、その深さプロファイルに基づいて局所音速を求めてもよいし、受信信号又はフォーカス指標を平均化して、それに基づき環境音速を求め、更に局所音速を求めてもよい。
【0130】
[局所音速測定の第2の実施形態]
図10は、被検体の着目領域における局所音速を算出する処理手順の第2の実施形態を示すフローチャートである。尚、図3に示した第1の実施形態と共通する部分には、同一のステップ番号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0131】
図10に示すように、第2の実施形態は、ステップS3’、S4’の処理が、第1の実施形態のステップS3、S4の処理と相違する。
【0132】
ステップS3’では、ステップS2で求めた走査線毎の環境音速に基づいて所定の走査線幅における走査方向の環境音速の変動を算出する。このとき、走査線の深さ方向に求めた複数の環境音速を平均し、その平均した環境音速の変動を算出するようにしてもよい。
【0133】
図11は走査線の走査線方向に対する環境音速の変化の一例を示すグラフである。
【0134】
ステップS3’の処理は、予め設定した走査線数分の連続する環境音速の標準偏差、分散、又は最大値と最小値の差分を、連続する環境音速の変動情報として算出する。このとき、着目領域の格子点における走査線方向の環境音速の変動のみでなく、浅い領域の走査線方向の環境音速の変動を含めるようにしてもよい。
【0135】
ステップS4’では、ステップS3’で求めた環境音速の変動が、予め設定した閾値以下となる走査線群を抽出し、この走査線群を屈折のない走査線群として判定する。このようにして屈折のない走査線が抽出されると、屈折のない走査線上の上格子点及び下格子点からの受信信号のみを使用し、特許文献1に開示された屈折モデル計算、ホインヘンスの原理等を使用して局所音速を算出する。
【0136】
<その他の実施形態>
超音波探触子300から送出される複数の走査線と着目領域との位置関係によっては、屈折のない走査線群が存在しないことが考えられる。この場合には、超音波探触子300から着目領域に向けて出射する走査線のステア角αを、図2に示すように各素子への遅延時間を調整し、着目領域への走査線の入射角を変更する。
【0137】
このステア角αの調整は、送信回路402から超音波探触子300の素子iに印加する駆動信号を、次式に示す遅延時間Δτだけ遅らせることにより行うことができる。
【0138】
[数4]
Δτ=(i−1)p・sinα/V
但し、p:素子のピッチ、V:音速(例えば、皮下脂肪等における既知の音速)
また、受信時には、ステア角αの方向の各深さにおいて焦点を形成する様に受信フォーカスを実施し、各格子点の環境音速を求める。ここで、各格子点の環境音速を精度良く求めるために、送信時にもステア角αの方向の各深さに送信焦点を形成するようにフォーカスをかける事が好ましい。
【0139】
この様にして、着目領域への走査線の入射角を変更する毎に、第1の実施形態又は第2の実施形態の方法を適用して、屈折のない走査線群又は屈折の小さい走査線群を求めることができる。
【0140】
また、着目領域を小さくとることにより音速一様でない対象へも適用可能である。各領域において独立に局所音速を求めてもよいが、超音波探触子に近い領域(浅い領域)の結果を活用してもよい。例えば、浅い領域における走査線の屈折なしの判定結果を含めて屈折なしの走査線群を判定してもよい。
【0141】
また、抽出した屈折のない走査線方向を示す各走査線を表示部104に表示させてもよい。
【0142】
また、<環境音速の算出>で述べたように超音波走査線上のある反射点(格子点)からの受信信号とその格子点における環境音速とは一定の関係にあるため、本発明における「受信信号」は環境音速を含む概念である。また、屈折のない走査線とは、走査線が全く屈折しない場合に限らず、屈折の小さい走査線も含み、要求される局所音速の精度にもよるが、例えば、走査線方向の変化が1度程度以下の走査線をいう。
【符号の説明】
【0143】
10…超音波診断装置、100…中央処理装置(CPU)、102…格納部、104…表示部、106…データ解析計測部、200…操作入力部、202…操作卓、204…ポインティングデバイス、300…超音波探触子、302…超音波トランスデューサ(素子)、400…送受信部、402…送信回路、404…受信回路、500…画像信号生成部、502…信号処理部、506…画像処理部、508…画像メモリ、510…D/A変換器、600…再生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を出力する複数の素子を含む超音波探触子と、
前記超音波検出信号に基づいて複数の反射点からの受信信号を取得する受信信号取得手段と、
前記取得した受信信号に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記受信信号は、複数の素子が受信した信号であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記受信信号取得手段は、複数の異なる深さの反射点からの受信信号を取得し、
前記判定手段は、該受信信号に基づいて該複数の反射点における各局所音速を算出する局所音速算出手段を有し、前記算出した局所音速の深さ方向の変化に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記判定手段は、複数の走査線毎に前記算出した局所音速の深さ方向に対する傾きを算出し、前記算出した傾きによりゼロ近傍の所定の閾値以内となる走査線を、屈折のない走査線として判定することを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記判定手段により判定された走査線上の反射点毎に算出された局所音速の平均値を算出する算出手段を備え、前記算出された平均値を前記屈折のない走査線上の反射点を含む着目領域の局所音速とすることを特徴とする請求項3又は4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記受信信号取得手段は、複数の異なる深さの反射点からの受信信号を取得し、
前記判定手段は、該受信信号に基づいて該複数の反射点における各環境音速を算出する環境音速算出手段を有し、前記算出した環境音速の深さ方向の変化に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記受信信号取得手段は、複数の異なる走査線位置からの受信信号を取得し、
前記判定手段は、該受信信号に基づいて該複数の走査線位置における各環境音速を算出する環境音速算出手段を有し、前記算出した環境音速の走査方向の変化に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記判定手段は、前記算出した環境音速の前記走査線の走査方向の変動が、予め設定された閾値以内となる連続する走査線群を、屈折のない走査線群として判定することを特徴とする請求項7に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記判定手段は、前記複数の走査線のうちの連続する所定数の走査線群毎に、前記環境音速算出手段により算出した環境音速の標準偏差、分散又は最大値と最小値の差分を算出し、その算出結果に基づいて屈折のない走査線群を判定することを特徴とする請求項7に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記受信信号取得手段は、複数の走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、
前記局所音速算出手段は、
前記下格子点での反射の受信信号に基づいて、該下格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する環境音速算出手段と、
前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から下格子点までの第1の伝播時間を算出する手段と、
スネルの法則により前記上格子点から下格子点に入射する超音波の入射角と、前記着目領域の仮定音速と前記下格子点と前記超音波探触子との間の領域の環境音速とに基づいて前記下格子点から出射する超音波の出射角を算出する手段と、
前記下格子点から前記算出した出射角で出射する超音波が入射する前記超音波探触子の素子の位置と該素子に入射するまでの第2の伝播時間とを算出する手段と、
前記超音波探触子の素子の位置における超音波の受信時刻を、前記第1の伝播時間と第2の伝播時間とを加算して算出する手段と、
前記上格子点での反射の前記超音波探触子の素子の位置における受信時刻と前記算出した受信時刻との誤差が最小となる前記仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定する局所音速判定手段と、を含むことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記受信信号取得手段は、複数の走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、
前記局所音速算出手段は、
前記上格子点及び下格子点での反射の受信信号に基づいて、各格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する環境音速算出手段と、
前記上格子点を反射点としたときの第1の受信波を、該上格子点に対応して算出した環境音速に基づいて算出する第1の算出手段と、
前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から下格子点までの伝播時間を算出する手段と、
前記下格子点からの第2受信波を、該下格子点に対応して算出した環境音速及び前記算出した伝播時間に基づいて算出する第2の算出手段と、
前記第1の算出手段により算出された第1の受信波と前記第2の算出手段により算出された第2の成受信波との誤差が最小となる前記仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定する局所音速判定手段と、を含むことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記受信信号取得手段は、前記判定手段により屈折のない走査線が判定されると、該走査線上の反射点に対応する上格子点と下格子点の反射の受信信号を取得し、
前記局所音速算出手段は、前記取得した受信信号に基づいて前記着目領域における局所音速を算出することを特徴とする請求項10又は11に記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記受信信号取得手段は、前記判定手段により屈折のない走査線が判定されると、該走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、
前記下格子点での反射の受信信号に基づいて、該下格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する環境音速算出手段と、
前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から下格子点までの第1の伝播時間を算出する手段と、
スネルの法則により前記上格子点から下格子点に入射する超音波の入射角と、前記着目領域の仮定音速と前記下格子点と前記超音波探触子との間の領域の環境音速とに基づいて前記下格子点から出射する超音波の出射角を算出する手段と、
前記下格子点から前記算出した出射角で出射する超音波が入射する前記超音波探触子の素子の位置と該素子に入射するまでの第2の伝播時間とを算出する手段と、
前記超音波探触子の素子の位置における超音波の受信時刻を、前記第1の伝播時間と第2の伝播時間とを加算して算出する手段と、
前記上格子点での反射の前記超音波探触子の素子の位置における受信時刻と前記算出した受信時刻との誤差が最小となる前記仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定する局所音速判定手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項14】
前記受信信号取得手段は、前記判定手段により屈折のない走査線が判定されると、該走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、
前記上格子点及び下格子点での反射の受信信号に基づいて、各格子点から前記超音波探触子までの領域の平均音速である環境音速を算出する環境音速算出手段と、
前記上格子点を反射点としたときの第1の受信波を、該上格子点に対応して算出した環境音速に基づいて算出する第1の算出手段と、
前記着目領域における仮定音速を仮定し、前記上格子点から下格子点までの伝播時間を算出する手段と、
前記下格子点からの第2受信波を、該下格子点に対応して算出した環境音速及び前記算出した伝播時間に基づいて算出する第2の算出手段と、
前記第1の算出手段により算出された第1の受信波と前記第2の算出手段により算出された第2の成受信波との誤差が最小となる前記仮定音速を、前記着目領域における局所音速として判定する局所音速判定手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項15】
前記受信信号取得手段は、前記判定手段により屈折のない走査線が判定されると、該走査線上の反射点に対応する格子点であって、所望の着目領域に設定される上格子点と、前記上格子点と前記超音波探触子との間に設定される下格子点の反射の受信信号を取得し、
前記判定手段により判定された屈折のない走査線上の上格子点と下格子点との間の超音波の伝播時間を、前記受信信号取得手段により取得した受信信号に基づいて算出する伝播時間算出手段と、
前記判定手段により判定された屈折のない走査線上の上格子点及び下格子点の位置と、前記伝播時間算出手段により算出した前記上格子点と下格子点との間の超音波の伝播時間とに基づいて前記上格子点と下格子点との間の着目領域における局所音速を算出する局所音速算出手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項3から9のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項16】
前記伝播時間算出手段は、
着目する走査線上の上格子点から前記超音波探触子の各素子までの第1の伝播時間を算出する第1の伝播時間算出手段と、
前記上格子点と前記超音波探触子との間の領域に設定された下格子点から前記超音波探触子の各素子までの第2の伝播時間を算出する第2の伝播時間算出手段と、
前記超音波探触子の各素子上で、前記算出された第1の伝播時間と第2の伝播時間との時間差が最大となる素子上の時間差を、前記上格子点から下格子点までの超音波の伝播時間として算出する手段と、
からなることを特徴とする請求項15に記載の超音波診断装置。
【請求項17】
前記超音波探触子から送受信される走査線のステア角を調整するステア角調整手段を備え、
前記判定手段は、前記ステア角調整手段によりステア角が調整される毎に前記取得した受信信号に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定することを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項18】
前記判定手段により判定された屈折のない走査線を表示する表示手段を更に備えたことを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項19】
複数の素子を含む超音波探触子から超音波を被検体に送信するとともに、該被検体によって反射される超音波を受信して超音波検出信号を取得する工程と、
前記取得した超音波検出信号に基づいて複数の反射点からの受信信号を取得する受信信号取得工程と、
前記取得した受信信号に基づいて走査線が屈折しているか否かを判定する判定工程と、
を含むことを特徴とする超音波診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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