説明

超音波診断装置

【課題】超音波診断装置において、速度信号に含まれる残留不要成分を効果的に除去する。
【解決手段】ノイズ処理部20から出力される速度信号には残留不要成分が含まれ、それが残留不要成分処理部22によって除去される。具体的には、三値化部28によって各サンプル点の速度値が三値化処理され、その処理結果に基づいて相関値演算部30が相関値を演算する。除去部32は、各サンプル点ごとに、速度値及び相関値の組合せから血流成分と残留不要成分とを弁別し、残留不要信号を除去する処理を実行する。空間的なランダム性に基づいて残留不要成分を効果的に除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に速度信号に含まれる不要成分の除去に関する。
【背景技術】
【0002】
血流画像を形成する超音波診断装置においては、一般に、超音波の送受波により得られた受信信号が、直交検波処理回路を介して、MTIフィルタ(Moving Target Indicator Filter)などによって構成されるウォールモーションフィルタに入力される。そのフィルタにおいては、受信信号に含まれるクラッタ成分(心臓壁などの低域運動体成分)が除去される。フィルタを通過した信号は自己相関回路及び逆正接演算回路などを含む速度演算部に入力され、受信信号が速度信号に変換される。ここで、速度信号は各サンプル点ごとの速度値によって構成されるものである。速度信号はノイズ除去回路などを介して画像形成部へ出力される。ノイズ除去回路については後述する。画像形成部はデジタルスキャンコンバータなどを含み、速度信号に基づいてカラーの二次元血流画像を形成する。上記の自己相関回路は、一般に、同じビームアドレス上において複数の超音波ビームを形成して得られる複数のビームデータ間で自己相関演算を行う回路であり、具体的には、ビーム上の各サンプル点ごとに、時間的に隣接するビーム間で自己相関演算を行って速度値を求めるものである。
【0003】
上記の各サンプル点の速度値からなる速度信号には、ウォールモーションフィルタで除去できなかった残留クラッタ成分が含まれ、また、ノイズ除去回路で除去できなかった残留ノイズ成分も含まれる。残留クラッタ成分及び残留ノイズ成分は残留不要成分(広義の残留ノイズ成分)として定義される。そのような残留不要成分は、血流画像の画質を低下させる要因となるため、その効果的な除去が望まれる。
【0004】
下記の特許文献1には、MTIフィルタ、相関演算器、セレクタなどを有する超音波診断装置が開示されている。当該特許文献1には、MTIフィルタの出力信号のレベルに基づいて、あるいは、MTIフィルタの入力信号と出力信号の差に基づいて、自己相関演算により得られた速度信号を選択的に通過させるセレクタの動作を制御することが記載されている。下記の特許文献2には、自己相関演算器の出力における実数部成分及び虚数部成分の組み合わせに基づいて、不要信号(ノイズ成分及びクラッタ成分)を除去する超音波診断装置が記載されている。下記の特許文献3には、パワー、流速値、及び、分散の組み合わせに基づいて、ノイズ成分とクラッタ成分とを弁別、除去する超音波診断装置が記載されている。しかし、特許文献1乃至3には、空間的な画素値のランダム性(バラツキ)を考慮すること、あるいは、空間的な相関演算については記載されていない。
【0005】
下記の特許文献4には、二値化処理後の窓内の画素値の合計及び画素パターンに基づいて、窓内の注目画素についての処理内容を判定する超音波診断装置が記載されている。下記の特許文献5には、孤立画素あるいは少数個連続した画素をノイズとみなして除去する超音波診断装置が開示されている。特許文献4及び5には、上記特許文献1乃至3と同様に、空間的な画素値のランダム性を考慮すること、あるいは、空間的な相関演算については記載されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−250802号公報
【特許文献2】特開平7−178092号公報
【特許文献3】特開平4−218143号公報
【特許文献4】特開平7−108043号公報
【特許文献5】特開平8−280683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
血流画像の画質を高めるためには、クラッタ成分やノイズ成分、つまり不要成分を効果的に除去することが求められ、そのために、クラッタ成分除去手段及びノイズ成分除去手段が設けられるが、不要成分は血流成分と同じような速度値、パワーなどを有する場合もあり、従来方法では必ずしも効果的に不要信号を除去できない場合がある。特に、クラッタ成分及びノイズ成分の除去処理後に残留する残留不要成分を更に除去することが望まれるが、上記各文献にはそのような後処理を行うための構成は開示されていない。
【0008】
本発明の目的は、速度信号中に含まれる不要成分を効果的に除去することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、クラッタ成分又はノイズ成分の除去処理後においてなお残留する残留不要成分を除去することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、不要成分又は残留不要成分をその空間的な性質を利用して効果的に除去することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、超音波を送受波して得られた受信信号に基づいて、各サンプル点の速度値を演算する速度演算手段と、前記各サンプル点の速度値を三値化処理し、前記各サンプル点ごとに属性値を求める三値化手段と、前記三値化処理後の空間的な属性値配列に基づいて、前記各サンプル点を基準として設定される注目領域について空間的なランダム性を評価するためのランダム性評価演算を実行し、前記各サンプル点ごとに評価値を求める評価手段と、前記各サンプル点ごとの評価値に基づいて、前記各サンプル点の速度値が血流成分であるか不要成分であるかを判定し、不要成分を除去する処理を実行する除去手段と、前記不要信号を除去する処理を実行した後に、血流成分に基づいて血流画像を形成する血流画像形成手段と、を含むことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて各サンプル点の速度値が演算され、その速度値が三値化処理によりいずれかの属性値に規格化される。そして、空間的な属性値配列(属性値集合)における属性値のランダム性が評価値として評価され、その評価値に基づいて不要成分(又は残留不要成分)が判別、除去される。つまり、比較的大きなランダム性をもった信号成分を不要成分として認識し、それが血流画像形成に先立って取り除かれる。
【0013】
一般に、血流部については、それを空間的に見ると、いわゆる折り返し部を除いて、個々の速度値の大きさや符号がある程度連続する傾向にあり、その一方、不要成分は空間的に散在し、その大きさや符号はランダム性を呈する。特に、クラッタ成分除去後且つノイズ成分除去後の速度信号については、そのことが顕著に認められる。その場合、単に注目するサンプル点の速度値を注目するだけでは、そのような空間的な傾向を認識できないが、本発明によれば、注目するサンプル点を基準として注目領域について空間的なランダム性を評価し、その評価結果を不要成分(又は残留不要成分)の判別に利用することができる。
【0014】
上記の三値化処理から除去処理までの一連の処理は、クラッタ成分除去処理及びノイズ成分除去処理がなされた後に行われるのが特に望ましい。つまり、残留不要成分に対する処理であるのが望ましい。ただし、クラッタ成分除去処理及びノイズ成分除去処理の一方又は両方がなされない段階において適用しても、あるいは、それらの処理と並行して適用しても、一定の効果が得られる。クラッタ成分除去処理は公知のMTIフィルタを用いて低速運動体成分を除去する処理であるのが望ましい。ノイズ成分除去処理としては各種の公知方法をあげることができ、例えば、サンプル点のパワー値に対する閾値処理を含む処理などがある。なお、ノイズ成分除去処理の中に上記の一連の処理を組み込んでもよい。
【0015】
上記構成においては、空間的なランダム性の評価に先立って三値化処理が施されており、すなわち速度値が規格化されているので、不要信号の空間的性質に着目して、空間的なランダム性の評価演算を簡略化でき、また評価精度を高められるという利点がある。変形例としては、三値化処理に代替する二値化処理や四値以上の規格化処理をあげることができるが、不要成分を空間的に判別する際には三値化処理が望ましい。上記の注目領域は、一次元領域あるいは二次元領域であるのが望ましいが、三次元領域であってもよい。
【0016】
望ましくは、前記三値化処理では、前記各サンプル点の速度値が第1条件を満たす場合に正属性値が付与され、前記各サンプル点の速度値が第2条件を満たす場合にゼロ属性値が付与され、前記各サンプル点の速度値が第3条件を満たす場合に負属性値が付与される。すなわち、速度軸が3つの区間に区分され、サンプル点の速度値が属する区分が判定される。ここで、第2条件は、速度値がゼロであるという条件であってもよいし、速度値ゼロを挟んだ正負極性にまたがる一定区間に速度値が入るという条件であってもよい。上記の一連の処理の前段でクラッタ成分除去処理及びノイズ成分除去処理を行う場合には不要信号がかなり除去されている筈であり、このため第2条件として、速度値がゼロであるという条件を採用することができる。この三値化処理は、空間的なランダム性を評価するための前処理に相当するものである。
【0017】
望ましくは、前記評価手段は、前記注目領域とそれを空間的にシフトさせた参照領域との間で、前記ランダム性評価演算を実行する。注目領域と参照領域の形態(大きさ及び形状)は一致させておくのが望ましく、両者間のシフト方向及びシフト量は適宜設定することができる。例えば、シフト量はサンプル点1個であってもよい。注目領域と参照領域とが互いに異なるビームあるいはフレームに存在してもよい。望ましくは、前記ランダム性評価演算は相関演算に相当し、前記評価値は相関値に相当する。
【0018】
望ましくは、前記注目領域はビーム方向に沿った一次元領域であり、前記参照領域は前記注目領域をビーム方向にシフトさせた領域である。一次元領域の場合には、1つのビームに対応する1つの受信信号(時系列信号)を用いてビーム上の各サンプル点についてランダム性の評価演算を行えるので簡便である。望ましくは、前記注目領域はフレーム上の二次元領域であり、前記参照領域は前記注目領域をフレーム上でシフトさせた領域である。シフト方向は水平方向及び垂直方向の一方又は両方である。
【0019】
望ましくは、前記除去手段は、前記各サンプル点ごとに、それが有する速度値とそれについて演算された評価値との組み合わせに基づいて、前記各サンプル点の速度値が血流成分であるか不要成分であるかを判定する。この構成によれば、血流成分と不要成分との間における速度値の差及び評価値の差を利用して、両者を高精度に弁別できる。更に、第3の参照情報を参酌してもよい。望ましくは、前記除去手段は、前記速度値が第1の判定条件を満たし、且つ、前記評価値が第2の判定条件を満たす場合に不要成分であると判定する。
【0020】
(2)本発明は、超音波を送受波して得られた受信信号に含まれるクラッタ成分を除去するクラッタ成分除去手段と、前記クラッタ成分の除去後における受信信号に基づいて、各サンプル点の速度値を演算する速度演算手段と、前記各サンプル点ごとの速度値によって構成される速度信号に含まれるノイズ成分を除去するためのノイズ成分除去手段と、前記各サンプル点の速度値に基づいて、前記各サンプル点ごとに属性値を求める属性値演算手段と、前記属性値演算後の空間的な属性値配列に基づいて、前記各サンプル点を基準として設定される注目領域について空間的なランダム性を評価するためのランダム性評価演算を実行し、前記各サンプル点ごとに評価値を求める評価手段と、前記各サンプル点ごとの速度値及び評価値に基づいて、前記各サンプル点の速度値が血流成分であるか残留不要成分であるかを判定し、残留不要成分を除去する処理を実行する残留不要成分除去手段と、前記残留不要成分を除去する処理を実行した後に、血流成分に基づいて血流画像を形成する血流画像形成手段と、を含むことを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、まず、クラッタ成分除去手段によって受信信号中のクラッタ成分に対する除去処理がなされ、次に、ノイズ成分除去手段によってホワイトノイズなどのノイズ成分に対する除去処理がなされる(その場合、残留クラッタも除去処理の対象となる)。加えて、それらの処理によっても残存してしまう残留不要成分(残留ノイズと残留クラッタの混在体とみなせる)を効果的に除去できる。
【0022】
個々のサンプル点に着目すると、残留不要成分は血流成分と同じような速度値及び符号を有する場合も多く、速度値のみを参酌するだけでは、血流成分と残留不要成分とを弁別するのが困難となるが、空間的にある程度の広がりをもって見れば、血流成分と残留不要成分との間にランダム性の評価値において違いが生じる。そこで、それを血流成分と残留不要成分との弁別に利用できる。ここで、評価値のみを基準として弁別を行うことも場合によっては可能であるが、弁別精度を確保するために、評価値に加えて速度値自体を参酌するのが望ましい。もちろん、それ以外の第3の情報を参酌することもできる。
【0023】
望ましくは、前記属性値演算手段は、前記各サンプル点の速度値が第1条件を満たす場合に正属性値を付与し、前記各サンプル点の速度値が第2条件を満たす場合にゼロ属性値を付与し、前記各サンプル点の速度値が第3条件を満たす場合に負属性値を付与する三値化処理手段である。望ましくは、前記評価手段は、前記注目領域とそれを空間的にシフトさせた参照領域との間で、相関演算に相当する前記ランダム性評価演算を実行する。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、血流画像の画質を向上できる。特に、速度信号中に含まれる不要成分あるいは残留不要信号を効果的に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は超音波の送受波により得られた受信信号に基づいてドプラ情報を抽出し、それに基づいて二次元(あるいは三次元)の血流画像を形成する機能を備えた装置である。
【0027】
プローブ10は超音波の送受波を行う送受波器であり、本実施形態においてはプローブ10内に複数の振動素子からなるアレイ振動子が設けられている。アレイ振動子によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームが電子走査されて走査面が形成される。電子走査方式としては電子リニア走査、電子セクタ走査などをあげることができる。血流画像の形成のために、一般に各ビームアドレスごとに複数回の超音波パルスの送信が行われる。プローブ10上にいわゆる2Dアレイ振動子を設け、これによって三次元データ取込領域を形成するようにしてもよい。プローブ10は一般に体表面上に当接して用いられるものであるが、それが体腔内に挿入されるものであってもよい。
【0028】
送受信部12は送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能する。すなわち送受信部12は、送信時において、複数の送信信号を所定の遅延関係をもって複数の振動素子に供給する。これによって送信ビームが形成される。一方、体内からの反射波は複数の振動素子にて受波され、それによって得られた複数の受信信号が送受信部12に入力される。送受信部12はそれらの受信信号に対して整相加算処理を適用し、これによって整相加算後の受信信号を得る。すなわちこのような整相加算処理により電子的に受信ビームが形成される。送受信部12は受信信号をサンプリングするA/D変換部を有する。
【0029】
直交検波部14は、入力される受信信号を複素信号に変換する機能を有する。本実施形態において、直交検波部14は受信信号に対して参照信号を混合する一対のミキサ回路を備えている。もちろん、受信信号を複素信号に変換できる限りにおいて各種の回路構成を採用することができる。直交検波後の受信信号(複素信号)はMTIフィルタ部16に入力される。このMTIフィルタ部16は実数部用のMTIフィルタ及び虚数部用のMTIフィルタによって構成され、受信信号に含まれる低速運動体成分(クラッタ)を除去する。すなわち、このMTIフィルタ部16は複素ウォールモーションフィルタとして機能するものである。ちなみに、血流ではなく心臓壁などの運動組織を画像化する場合にはこのMTIフィルタ16を経由しない受信信号が後段の速度演算部18へ入力される。
【0030】
速度演算部18は自己相関演算器及び速度演算器を有する。自己相関演算器は公知のように同じビームアドレス上において得られた時間的に隣接する複数の受信信号間において自己相関演算を実行する。それにより得られた自己相関結果は速度演算器に入力され、その演算結果から血流についての速度値(平均流速)が得られる。具体的には各サンプル点ごとに速度値が得られ、それらは速度信号を構成するものである。速度演算部18が速度値の演算機能の他、パワーを演算する機能、分散値(各サンプル点ごとの時間軸上の速度分散値)を演算する機能などを具備していてもよい。
【0031】
ノイズ処理部20は、速度信号中に含まれるホワイトノイズ上のノイズを除去するための回路である。MTIフィルタ部16によって除去仕切れなかった残留クラッタ成分についてもノイズ処理部20によってその除去が図られている。ノイズ処理部20は例えばパワー値と一定の閾値とを比較してノイズレベルの信号を除去する回路として構成され、あるいは速度値、パワー値、分散値などの複数の情報の組合せにしたがって不要信号を除去する回路として構成される。例えば、上記の特許文献1〜特許文献5などに掲げた回路を利用してもよい。
【0032】
本来的には、上記のMTIフィルタ部16及びノイズ処理部20によって受信信号中に含まれるクラッタ成分やノイズ成分はすべて除去されるはずであるが、実際にはノイズ処理部20の後段においても若干ながら不要成分が存在する。その不要成分(残留不要成分)は、MTIフィルタ部16及びノイズ処理部20によって除去仕切れなかった残留クラッタ成分、及び、ノイズ処理部20によって除去仕切れなかったホワイトノイズ状の残留ノイズ成分、などを含むものである。そのような残留不要成分が速度信号中に含まれると血流画像を形成した場合においてその画質を低下させることになるため、その効果的な除去が望まれる。そのために本実施形態においては残留不要成分処理部22が設けられている。
【0033】
それについて具体的に説明すると、ノイズ処理部20から出力される速度値velは三値化部28及び除去部32に出力されている。三値化部28は、本実施形態において、vel>0の場合にはvel’=+1とし、vel<0の場合にはvel’=−1とし、vel=0の場合には属性値vel’=0とする。すなわち、後の相関値演算の前処理として速度値velを規格化処理し、各サンプル点ごとに属性値vel’を求めるものである。このような前処理により後の相関演算を簡略化でき、しかも、血流成分と不要信号成分とをそれぞれの空間的な性質に基づいて効果的に弁別することが可能となる。
【0034】
相関値演算部30は、走査面に対応するフレーム上において注目するサンプル点を中心として注目領域を設定し、また、その注目領域を一定方向にシフトした同形状の領域として参照領域を設定する。そして、注目領域と参照領域との間において後に詳述する相関値演算を実行し、その演算結果である相関値Rを評価値として除去部32へ出力する。
【0035】
フレーム上における各サンプル点ごとに相関値Rが求められ、それが除去部32へ出力されることになる。このような相関値の演算を行うために三値化部28と相関値演算部30との間に必要に応じてラインメモリあるいはフレームメモリが設けられる。相関値演算部30の具体的な作用については後に詳述する。
【0036】
除去部32は、各サンプル点の速度値ごとに、それが血流成分であるか、残留不要成分であるかの判定を行って、残留不要成分を除去する処理を実行する。具体的には、後に詳述するように、速度値velに対して設定されている閾値Vthと相関値Rに対して設定されている閾値Rthとを用いて、二次元の閾値判定を行うことにより血流成分と残留不要成分を弁別し、その弁別結果に基づいて残留不要成分の除去を行っている。残留不要成分の除去を行った場合、必要に応じてダミーデータが挿入される。そのようなダミーデータの挿入は以下に説明する表示処理部24の作用として行わせてもよい。
【0037】
いずれにしても、MTIフィルタ部16及びノイズ処理部20の作用によってある程度のクラッタ成分除去及びノイズ成分除去が達成されているが、上記のような残留不要成分処理部22を更に設けることにより、残留不要成分を効果的に除去して高品質の二次元血流画像を形成することが可能となる。本発明者による実験によれば、二次元血流画像の画質をかなり改善できることが確認されている。すなわち、本実施形態においては血流成分と残留不要成分の空間的な性質の違いを利用したため、従来のクラッタ処理及びノイズ処理とは異なる観点から不要成分の除去を行ったため、単に二段階の不要成分除去を行う場合よりも、より効果的な不要成分除去を達成できている。
【0038】
表示処理部24は本実施形態においてデジタルスキャンコンバータ(DSC)を含むものである。そのDSCは座標変換、補間処理機能などを有している。表示処理部24によって残留不要成分処理部22から出力される速度信号に基づいて二次元血流画像が形成される。この場合においては必要に応じて残留不要信号の除去によって消失したデータが補間値によって補われる。表示部26には血流画像が表示される。
【0039】
図1には図示されていないが、二次元血流画像と一緒に二次元断層画像を表示するため、二次元断層画像形成部が設けられる。上記実施形態においては、MTIフィルタ部16及びノイズ処理部20の後段に残留不要成分処理部22が設けられていたが、MTIフィルタ部16及びノイズ処理部20の一方あるいは両方を設けない場合においても、当該構成を採用することができ、そのような場合によっても一定の効果を得ることができる。
【0040】
以下に相関値演算部30の作用について詳述する。上記のように相関値演算部30は、三値化処理後の属性値vel’の集合(本実施形態では一次元配列)に基づいてランダム性の評価値として相関値(あるいはそれに相当する値)を演算する。具体的には、図2におけるW1は、注目するサンプル点jを中心としてビーム上で上下均等に広がった一次元の注目領域を示しており、その垂直方向(ビーム方向)のサイズはNである。図2におけるW1’は、注目領域W1を垂直方向へnだけシフトさせることによって定義される参照領域を示している。ここでnは1以上の整数(ピクセル数)である。nは例えば1であるが、その値を状況に応じて可変設定するようにしてもよい。注目領域W1と参照領域W1’との間で以下に説明する相関値(評価値)の演算が実行される。ここで、注目領域W1と参照領域W1’との間における相関係数(自己相関係数)をRj(n)とすると、以下の(1)式によってそれが定義される。
【数1】

【0041】
残留不要成分についての速度値の空間分布は上述したようにランダム性が強いので、注目領域W1と参照領域W1’との間における相関係数Rj(n)は、血流成分のそれに比べて小さくなる。その性質を利用して、個々のサンプル点の相関係数Rj(n)が閾値Rth以下となる場合には、残留不要成分である可能性が大きいことを認識できる。但し、いわゆる信号処理上の折り返し現象によりモザイク状となった血流部が不要成分であるとして不必要に除外されてしまうことを防止するため、注目するサンプル点の速度値velの絶対値がある閾値Vthよりも高い場合には除去対象から除外するようにする。上記の2つの条件の組み合わせが図3に示されており、ここで横軸は速度値を示しており、縦軸は相関値を示している。ハッチングが付された領域100が残留不要成分として除去される範囲を示している。
【0042】
以上の処理がフレームを構成する各サンプル点(あるいはピクセル点)ごとに実行され、フレーム内に含まれる残留不要成分が効果的に取り除かれた情報を利用して血流画像を形成することが可能となる。ちなみに、残留不要成分を取り除いた後に別のダミーデータを補間処理によって補填するようにしてもよい。そのような補間処理は、デジタルスキャンコンバータにおける変換処理に委ねることもできる。
【0043】
上記の(1)式に代えて、以下の(2)式又は(3)式を用いることもできる。それらの式は厳密には相関値を求める演算式ではないが、それと等価な値を求めることができる式である。
【数2】

【0044】
注目領域W1と参照領域W1’との間で相関関係を求めることが可能であれば上記以外の計算式を利用することができる。更に、上記の(2)式及び(3)式におけるRj(0)以下の(4)式に示すものとしてもよい。
【数3】

【0045】
上記の(2)式を用いた場合には、図3に示した判定条件と同じものを利用することができ、上記の(3)式を用いた場合には、ランダム性が大きい信号であるほどRj(n)が大きくなるため、図4に示すような判定条件が利用される。図4において、横軸は速度値を示しており、縦軸は係数を示している。係数Rj(n)が閾値Rth以上で、且つ、速度値velの絶対値が閾値Vth以下の場合には不要成分であると判定される。それがハッチングが付された領域102として示されている。その領域102に該当するサンプル点の速度値は除去され(ゼロに修正され)、それ以外の領域に該当するサンプル点の速度値はそのまま保存される。
【0046】
上記においては、注目領域及び参照領域がビーム方向に沿った一次元の領域であったが、ビーム走査方向に一次元の注目領域及び参照領域を設定することもできるし、以下に説明するように二次元の注目領域及び参照領域を設定することもできる。図5においては、注目するサンプル点Pを中心として注目領域W2が定義され、それを水平方向へm且つ垂直方向へnだけシフトした領域として同一形態の参照領域W2’が定義されている。ここで、m,nはいずれも1以上の整数である、なお、Bはビームライン(音線)を示している。図6においては、注目領域W3とそれに対して水平方向にmだけシフトした参照領域W3’とが定義され、図7においては、注目領域W4とそれに対して垂直方向にnだけシフトした参照領域W4’とが定義されている。ここで、mは1以上の整数であり、nも1以上の整数である。このように二次元の領域のシフトを利用して相関値を演算することもできる。
【0047】
ここで、図5の場合における相関係数Ri,j(m,n)は、領域の大きさをM×Nとして、以下の(5)式のように求められる。これは上記(1)式に対応したものである。
【数4】

【0048】
また、同様に上記(2)式及び(3)式に対応する式は以下の通りである。
【数5】

【0049】
この場合においても、(7)式及び(8)式に含まれるRi,j(0,0)を以下のように置き換えることができる。
【数6】

【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、MTIフィルタ部16及びノイズ処理部20によって除去仕切れなかった残留不要成分を効果的に除去して二次元血流画像の画質を高めることが可能である。すなわち、残留不要成分についての空間的な性質に着目してそれを血流成分と精度良く弁別して残留不要成分を速度信号中から精度良く除外することができる。ちなみに、三値化部28における規格化処理においては、三値化処理に代えて二値化処理や四値化処理などを採用することもできるが、残留不要成分の弁別という観点及び演算の簡略化の観点から言えば、三値化処理を行うのが望ましい。また相関値演算部30において採用する演算式としては空間的なランダム性を評価できる限りにおいて上記で掲げた計算式以外の計算式を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】一次元の注目領域及び参照領域を示す図である。
【図3】不要信号判定条件の一例を示す図である。
【図4】不要信号判定条件の他の例を示す図である。
【図5】水平方向及び垂直方向にシフトした関係にある二次元の注目領域及び参照領域を示す図である。
【図6】水平方向にシフトした関係にある二次元の注目領域及び参照領域を示す図である。
【図7】垂直方向にシフトした関係にある二次元の注目領域及び参照領域を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
16 MTIフィルタ部、20 ノイズ処理部、22 残留不要成分処理部、28
三値化部、30 相関値演算部、32 除去部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受波して得られた受信信号に基づいて、各サンプル点の速度値を演算する速度演算手段と、
前記各サンプル点の速度値を三値化処理し、前記各サンプル点ごとに属性値を求める三値化手段と、
前記三値化処理後の空間的な属性値配列に基づいて、前記各サンプル点を基準として設定される注目領域について空間的なランダム性を評価するためのランダム性評価演算を実行し、前記各サンプル点ごとに評価値を求める評価手段と、
前記各サンプル点ごとの評価値に基づいて、前記各サンプル点の速度値が血流成分であるか不要成分であるかを判定し、不要成分を除去する処理を実行する除去手段と、
前記不要信号を除去する処理を実行した後に、血流成分に基づいて血流画像を形成する血流画像形成手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記三値化処理では、前記各サンプル点の速度値が第1条件を満たす場合に正属性値が付与され、前記各サンプル点の速度値が第2条件を満たす場合にゼロ属性値が付与され、前記各サンプル点の速度値が第3条件を満たす場合に負属性値が付与されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記評価手段は、前記注目領域とそれを空間的にシフトさせた参照領域との間で、前記ランダム性評価演算を実行することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記ランダム性評価演算は相関演算に相当し、
前記評価値は相関値に相当することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項3記載の装置において、
前記注目領域はビーム方向に沿った一次元領域であり、
前記参照領域は前記注目領域をビーム方向にシフトさせた領域であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項3記載の装置において、
前記注目領域はフレーム上の二次元領域であり、
前記参照領域は前記注目領域をフレーム上でシフトさせた領域であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、
前記除去手段は、前記各サンプル点ごとに、それが有する速度値とそれについて演算された評価値との組み合わせに基づいて、前記各サンプル点の速度値が血流成分であるか不要成分であるかを判定することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記除去手段は、前記速度値が第1の判定条件を満たし、且つ、前記評価値が第2の判定条件を満たす場合に不要成分であると判定することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
超音波を送受波して得られた受信信号に含まれるクラッタ成分を除去するクラッタ成分除去手段と、
前記クラッタ成分の除去後における受信信号に基づいて、各サンプル点の速度値を演算する速度演算手段と、
前記各サンプル点ごとの速度値によって構成される速度信号に含まれるノイズ成分を除去するためのノイズ成分除去手段と、
前記各サンプル点の速度値に基づいて、前記各サンプル点ごとに属性値を求める属性値演算手段と、
前記属性値演算後の空間的な属性値配列に基づいて、前記各サンプル点を基準として設定される注目領域について空間的なランダム性を評価するためのランダム性評価演算を実行し、前記各サンプル点ごとに評価値を求める評価手段と、
前記各サンプル点ごとの速度値及び評価値に基づいて、前記各サンプル点の速度値が血流成分であるか残留不要成分であるかを判定し、残留不要成分を除去する処理を実行する残留不要成分除去手段と、
前記残留不要成分を除去する処理を実行した後に、血流成分に基づいて血流画像を形成する血流画像形成手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項10】
請求項9記載の装置において、
前記属性値演算手段は、前記各サンプル点の速度値が第1条件を満たす場合に正属性値を付与し、前記各サンプル点の速度値が第2条件を満たす場合にゼロ属性値を付与し、前記各サンプル点の速度値が第3条件を満たす場合に負属性値を付与する三値化処理手段であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項11】
請求項9記載の装置において、
前記評価手段は、前記注目領域とそれを空間的にシフトさせた参照領域との間で、相関演算に相当する前記ランダム性評価演算を実行することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate