説明

超音波診断装置

【課題】連続波ドプラ法を行なう超音波診断装置において、回路規模の縮小や回路コストの削減を可能とする。
【解決手段】超音波診断装置は、被検体に連続超音波を送信し被検体からの反射波を受信する超音波探触子と、超音波探触子からの受信信号に基づいて複素信号を生成する複素信号生成部20と、生成された複素信号に含まれるドプラ成分を算出するドプラ処理部と、を具備し、複素信号生成部20は、超音波探触子からの受信信号を連続超音波の搬送周波数よりも低い中間周波数帯域に周波数変換する周波数変換回路22と、周波数変換された受信信号を中間周波数に基づくサンプリング周波数で直交サンプリングすることにより複素信号を生成する直交サンプリング部24とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続波ドプラ法(Continuous Wave Doppler Method:以下、CWD法と呼ぶ)による超音波スキャンが可能な超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置を用いた血流計測の方法にドプラ法がある。ドプラ法においては、受信したエコー信号に基づく複素信号を周波数解析することにより、ドプラ偏移周波数を算出する。ドプラ法には、連続超音波を用いたPWD法やパルス波を用いたパルスドプラ法(Pulsed Wave Doppler Method:以下、PWD法と呼ぶ)がある。
【0003】
CWD法によるエコー信号のダイナミックレンジは、PWD法によるエコー信号のダイナミックレンジよりも広い。また、受信遅延加算回路のダイナミックレンジは、A/D変換器のビット数により決定される。そのため、両方のドプラ法を併用する受信遅延加算回路のダイナミックレンジは、CWD法におけるダイナミックレンジに合わせることが望ましいが、コストパフォーマンスを考慮して、通常、10〜12ビット程度の分解能を有するA/D変換器が用いられる。
【0004】
しかし、CWD法の場合、このビット数は不十分である。CWD法に必要なダイナミックレンジを確保する方法に、直交検波を用いる方法である。直交検波方式では、2対の周波数混合器を用いて直交検波処理を行い、低速のA/D変換器を用いてエコー信号をデジタル化し、複素信号を生成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した直交検波方式では、検波以降の信号処理が1チャンネルあたり直交2系統分必要である。また、エコー信号のデジタル化を行なうためのA/D変換器も1系統あたり2器必要である。従って、回路規模が増大し十分な集積度を実現できない。また、それに伴い、必要な部品数が増加するために回路コストが増加してしまう。
【0006】
本発明の目的は、CWD法を行なう超音波診断装置において、回路規模の縮小や回路コストの削減を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある局面に係る超音波診断装置は、被検体に連続超音波を送信し前記被検体からの反射波を受信する超音波探触子と、前記超音波探触子からの受信信号に基づいて複素信号を生成する複素信号生成部と、前記生成された複素信号に含まれるドプラ成分を算出するドプラ処理部と、を具備し、前記複素信号生成部は、前記受信信号を前記連続超音波の搬送周波数よりも低い中間周波数帯域に周波数変換する周波数変換部と、前記周波数変換された受信信号を前記中間周波数に基づくサンプリング周波数で直交サンプリングすることにより前記複素信号を生成する直交サンプリング部と、を有することを特徴とする超音波診断装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、CWD法を行なう超音波診断装置において、回路規模の縮小や回路コストの削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。本実施形態における超音波診断装置は、被検体に連続超音波を送信し、被検体からの反射波を受信し、受信した反射波に基づくエコー信号を周波数解析することにより血流情報を得る。このような連続超音波によるドプラ法は、CWD法と呼ばれている。
【0010】
図1は、CWD法が可能な本実施形態に係る超音波診断装置1の構成を示す図である。図1に示すように、超音波診断装置1は、制御部10を中枢として、送信部12、超音波探触子14、受信部16、複素信号生成部20、ドプラ処理部30、デジタルスキャンコンバータ(Digital Scan Converter:以下、DSCと呼ぶ)32、及びモニター34を有する。
【0011】
送信部12は、例えばFM変調された連続波を生成し、この連続波を超音波探触子14の複数の振動子に供給する。超音波探触子14は、送信部12からの連続波の供給を受け、この連続波に対応する所定のキャリア周波数fc Hzを有する連続超音波を発生する。複数の振動子は、単体又は数個で1つのチャンネルを構成する。チャンネル数lは、例えば128である。
【0012】
受信部16は、mチャンネル分の受信回路を備える。ここで、送信部12のチャンネル数lと受信部16のチャンネル数mとは、同数でも異なる数でもよい。各受信回路は、前置増幅器及びバンドパスフィルタ(以下、BPFと呼ぶ)を有している。前置増幅器は、被検体からの反射波に基づいて得られるエコー信号を所定の振幅レベルに増幅する。BPFは、増幅されたエコー信号が有するドプラ成分を含む帯域を抽出し、抽出したエコー信号成分を複素信号生成部20に出力する。
【0013】
図2は、エコー信号に含まれる信号成分の一例を示す図である。図2に示すように、エコー信号には、キャリア周波数fcを有するキャリア成分CAと、生体組織の拍動や心臓弁での反射に起因するクラッタ成分CL、及び血流での反射に起因するドプラ成分DOが含まれる。ドプラ成分DOは、キャリア周波数fcを中心として±50kHzの帯域幅を有する。キャリア周波数fcに比して、ドプラ成分DOの帯域は極めて狭い。
【0014】
キャリア周波数fcは、例えば、1.5MHz、2MHz、3MHz、5MHz或いは8MHzであり、一般的には10MHzを超えることはない。
【0015】
受信部16のBPFは、少なくともキャリア周波数fc±50kHzの帯域のエコー信号成分を通過させ、それ以外の帯域のエコー信号成分を遮断する。なお、キャリア成分CAやクラッタ成分CLは、ドプラ信号に比して10dB(デシベル)〜30dB以上の大きさを有する。
【0016】
複素信号生成部20は、mチャンネル分の複素信号生成回路を備える。各複素信号生成回路は、受信部16の各受信回路から入力したエコー信号に基づいて複素信号を生成する。複素信号は、同相(In-phase)成分及び直交(Quadra-phase)成分から構成され、これら各成分をそれぞれI信号及びQ信号と呼ぶことにする。各複素信号生成回路は、入力したエコー信号を中間周波数帯域にダウンコンバートし、ダウンコンバートしたエコー信号をサンプリング周波数fsで直交サンプリングし、直交サンプリングされたデータをI信号とQ信号とに分離する。各複素信号生成回路にて生成されたI信号及びQ信号は各々加算される。加算されたI信号及びQ信号はドプラ処理部30へ出力される。複素信号生成部20の詳細な説明は後述する。
【0017】
ドプラ処理部30は、入力された複素信号、すなわちI信号及びQ信号を高速フーリエ変換等の周波数解析することによって、ドプラ効果による血流のドプラ信号を算出する。ドプラ処理部30は、ドプラ信号に基づいて、血流の平均速度、速度の分散、ドプラ信号のパワー等に代表される血流情報を算出する。ドプラ処理部30は、算出した血流情報をDSC32へ出力する。
【0018】
DSC32は、入力した血流情報の超音波スキャン走査線信号列をテレビなどの一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換することで、ビデオ信号を生成し、モニター34へ出力する。
【0019】
モニター34は、DSC32からのビデオ信号に基づいて、被検体内の形態学的情報や血流情報を画像として表示する。
【0020】
まず、複素信号生成部20による直交サンプリングの原理を説明する。図3は、CWD法での血流計測処理を説明するための図である。図3に示すように超音波探触子14から連続超音波を送信する。この連続超音波が被検体内の血流に入射すると、ドプラ効果により反射波はドプラ周波数偏移を起こす。ここで、ドプラ偏移周波数fdは、以下の(1)で表される。
fd=(2fc×v×cos(a))/c ・・・(1)
fc:キャリア周波数
v:血流速度
c:生体内における超音波音速(例えば、1560m/sec)
a:超音波ビーム方向と血流速度とが成す角度
例えば、角度a=0、血流速度v=6m/sec、キャリア周波数fc=5MHzとすると、ドプラ偏移周波数fd=38.5kHzとなる。循環器病変における異常血流の最大血流速度は、高々5〜6m/secである。従って、血流計測において必要となるドプラシフト検出帯域は、±50kHz程度あれば十分である。
【0021】
血流計測に必要なドプラ成分を含むエコー信号の角周波数ωは、以下の(2)式で表される。
ωc−ωb≦|ω|≦ωc+ωb ・・・(2)
ωc:キャリア角周波数
ωb:最大ドプラ偏移角周波数(例えば、2π×50kHz[rad/s])
このような周波数成分を含むエコー信号は、一般に以下の(3)式に示すような直交式で表される。
f(t)=X(t)cos(ωc×t)+Y(t)sin(ωc×t) ・・・(3)
時間関数X(t)及びY(t)は、それぞれf(t)のI信号及びQ信号であり、高域が最大ドプラ偏移角周波数(カットオフ周波数)ωbで制限された低周波成分のみを含む信号である。X(t)及びY(t)を実測のエコー信号から得られれば、上述の直交式(3)で表されるエコー信号f(t)を正しく再現できる。
【0022】
そこで、本実施形態に係る複素信号生成部20は、直交サンプリングにより、X(t)及びY(t)を算出する。直交サンプリングは、互いに90°ずれた位相でエコー信号をサンプリングすることである。直交サンプリングによりエコー信号f(t)は、数学的に忠実に再現される。
【0023】
キャリア周期Tc=2π/ωcとし、時刻t=n×Tc/2とすると、(3)式は以下の(4a)式のように表される。
f(n×Tc/2)=(−1)X(n×Tc/2) ・・(4a)
同様に、時刻t=n×Tc/2+Tc/4とすると、(3)式は以下の(4b)式のように表される。
f(n×Tc/2+Tc/4)=(−1)Y(n×Tc/2+Tc/4)・・(4b)
すなわち、サンプル列X(t)及びY(t)は、直交検波を行なわずともf(t)から直接得ることが可能である。X(t)及びY(t)は、f(t)の帯域幅の1/2に等しい周波数ωbで制限された低域周波数信号である。従ってX(t)及びY(t)は、高々2×(ωb/2π)=2×fbのサンプリン周波数fsで再現可能である。そのため、CWD法においては、必要なサンプリング周波数fsは、以下の(5)式のように表される。
fs=2×fb(例えば、=2×50kHz=100kHz) ・・・(5)
キャリア周波数fcは、通常1MHz〜8MHzの範囲内に設定されるので、(5)式により、直交サンプリングにおけるサンプリング周波数fsを例えばfc/8に設定すればよい。fsをfc/8に設定することで、キャリア周波数fcと同程度の速さで高速動作するようなサンプリング回路を用いることなく、直交サンプリングを実現することが可能となる。
【0024】
以下に、fs=fc/8で直交サンプリングを行なう場合おけるX(t)及びY(t)のサンプルデータXn及びYnは、(3)式において時刻t=8×n×Tc及びt=8×n×Tc+Tc/4とすると、それぞれ(6a)及び(6b)のように表される。
Xn=f(8×n×Tc)=(−1)X(8×n×Tc) ・・・(6a)
Yn=f(8×n×Tc+Tc/4)=(−1)Y(8×n×Tc+Tc/4)
・・・(6b)
(6a)式、(6b)式に示すように、実測のエコー信号を時刻t=8×n×Tc及びt=8×n×Tc+Tc/4でサンプリングする(直交サンプリングする)ことにより、サンプルデータXn及びYnが得られる。このように、サンプル周波数fs=fc/8のような低速な直交サンプリングでも、エコー信号f(t)を再現することが可能である。
【0025】
上記の直交サンプリングは、図4に示す構成を有する複素信号生成部20に実行される。図4に示すように、複素信号生成部20は、mチャンネル分の複素信号生成回路20〜20及び単一のクロック信号生成器21を集積実装した半導体集積回路である。
【0026】
クロック信号生成器21は、4fcの基準クロック信号を外部から入力し、各複素信号生成回路20〜20に対して、回路内部動作に要するクロック信号を供給する。つまり、各複素信号生成回路20〜20は、クロック信号を共用している。
【0027】
複素信号生成回路20〜20の動作はチャンネルによって差異はなく、全て同じ動作である。従って、以下、チャンネルk(1≦k≦m)に関する複素信号生成回路20
についてのみ説明する。
【0028】
図4に示すように、複素信号生成回路20は、周波数変換回路(ミクサ)22、ハイパスフィルタ(以下、HPFと呼ぶ)23、A/D変換器24、遅延回路25、デシメーションフィルタ26、IQ分離器27、I信号加算器28I及びQ信号加算器28Qを有する。これら複素信号生成回路20を構成する各構成要素は、チャンネルによって差異がないので、以下、明記する必要がない限り、各構成要素に付した記号「k」を省略する。
【0029】
周波数変換回路22は、クロック信号生成器21から供給されるクロック信号(以下、混合クロック信号と呼ぶ)と、受信部16から供給されるエコー信号とを混合(乗算)する。混合処理が行なわれることにより、混合クロック信号の周波数fh=fc−fiとエコー信号の周波数fcとの差の周波数fiを有する差成分信号及び和の周波数2fc−fiを有する和成分信号とが生成される。換言すれば、周波数変換回路22は、キャリア周波数fcを有するエコー信号を中間周波数fi帯域に周波数ダウンコンバートする。つまり、周波数変換回路22にて、ヘテロダイン検波が行なわれる。
【0030】
例えば、周波数変換回路22は、キャリア周波数fcの信号通過帯域を有するとともに、キャリア周波数fcの分周クロック周波数に同期してサンプル動作を行なうサンプリングアンドホールド回路によって構成される。
【0031】
図5は、周波数変換回路22による周波数ダウンコンバート処理を説明するための図であり、図5(a)は、周波数変換回路22による周波数変換前のエコー信号のスペクトルを示す図であり、図5(b)は、周波数変換後のエコー信号のスペクトルを示す図である。
【0032】
図5(a)に示すように、周波数ダウンコンバート前のエコー信号は、キャリア周波数fcを中心とし、ドプラ偏移周波数fdだけ広がりを持った周波数特性を有する。このエコー信号に、周波数fh=|fc−fi|を有する混合クロック信号を混合することで、周波数fiを中心とする差成分信号DEと周波数2fc−fiを中心とする和成分信号UEとが生成される。例えば、キャリア周波数fc=2.0MHzのとき、エコー信号を中間周波数fi=100kHzの帯域にダウンコンバートをとするためには、混合クロック信号の周波数fhは1.9kHz又は2.1kHzとする。なお、この後の処理において、和成分信号UEは除外される。
【0033】
HPF33は、周波数fi−fd以上の周波数を通過させることにより、周波数fi−fd以下の無駄な周波数成分を除去する。
【0034】
A/D変換器24は、クロック信号生成器21から供給されるサンプリング周波数fsを有するクロック信号(以下、サンプルクロック信号と呼ぶ)に同期して、エコー信号を直交サンプリングする。A/D変換器24は、直交サンプリングした信号を量子化しデジタル信号に変換する。A/D変換器24の実効分解能は、14ビット以上の高分解能であることが望ましい。なお、
例えば、A/D変換器24は、ドプラ偏移周波数帯域の信号処理帯域を有するとともに、キャリア周波数fcの分周クロック周波数に同期して動作するシグマデルタ型A/D変換器(以下、ΣΔ型A/D変換器と呼ぶ)で構成される。ΣΔ型A/D変換器は、低速高分解のA/D変換器である。また、ΣΔ型A/D変換器は、フラッシュ型やパイプライン方式のA/D変換器に比して安価である。
【0035】
サンプリング周波数fsは、ナイキスト周波数とエコー信号の周波数特性とを考慮すると2fi+50kHz以上であることが望ましい。また、サンプリング周波数fsは、回路コストを考慮するとΣΔ型A/D変換器の最高サンプリング周波数である2MHz以下が望ましい。この条件を満たす値として、例えばサンプリング周波数fsは上述のfc/8に設定される。
【0036】
なお、サンプリング周波数fsは、2fc−fiよりも十分低いので、周波数変換回路22によって生成された和成分信号UEは、直交サンプリングされずに除去される。A/D変換器24の動作については後述する。
【0037】
遅延回路25は、デジタル化されたエコー信号(以下、デジタルエコー信号と呼ぶ)に対して、各チャネルに応じた受信フォーカシング遅延をかける。遅延回路25は、デジタルエコー信号に対して、デジタル信号領域で遅延処理を行なう。そのため、アナログ高周波領域における遅延回路の周波数帯域特性の不均一性等の問題は発生せず、高精度な遅延加算処理が行なわれる。
【0038】
デシメーションフィルタ26は、遅延を掛けられたデジタルエコー信号から、周波数解析処理等に必要な低周波数帯域の成分を抽出するために、デジタルエコー信号に間引き処理(デシメーション)を行なう。
【0039】
IQ分離器27は、クロック信号生成器21から供給されるサンプルクロック信号に基づいてデジタルエコー信号をI信号とQ信号とに分離する。IQ分離器27の動作については、後述する。
【0040】
I信号加算器28Iは、k−1チャンネルの複素信号生成回路20k−1から入力するI信号と、IQ分離器27から入力するI信号とを加算する。Q信号加算器28Qは、k−1チャンネルの複素信号生成回路20k−1から入力するQ信号と、IQ分離器27から入力するQ信号とを加算する。全チャンネル分加算されたI信号及びQ信号は、複素信号としてドプラ処理部30に出力される。
【0041】
上記構成により、複素信号生成部20は、キャリア周波数fcを有するエコー信号を中間周波数fiにダウンコンバートし、ダウンコンバートされたエコー信号をキャリア周波数fc以下の低速のサンプリング周波数fsで直交サンプリングし、複素信号を生成する。
【0042】
次に、クロック信号に応じたA/D変換器24及びIQ分離器27の動作を説明する。クロック信号生成器21は、例えば、1/4分周器と1/32分周器とにより構成される。これらの分周器は、周波数4fcの基準クロック信号をトリガにして動作する。
【0043】
図6は、クロック信号生成器21により生成されるクロック信号の波形を示す図である。図6(a)は4fcクロック信号、図6(b)はキャリア周波数fc(0°)のクロック信号(以下、キャリアクロック信号Aと呼ぶ)、図6(c)はキャリア周波数fc(90°)のクロック信号(以下、キャリアクロック信号Bと呼ぶ)、図6(d)はA/D変換器24に供給するサンプルクロック信号、図6(e)はサンプリングによって収集されるサンプルデータを示す。
【0044】
サンプルクロック信号は、キャリアクロック信号A及びはキャリアクロック信号Bに基づいて生成される。ここで、サンプルクロック信号のローレベルからハイレベルへの立ち上がりの時刻を立ち上がり点Lと呼ぶことにする。隣り合う立ち上がり点Lにおいて、キャリアクロック信号A及びキャリアクロック信号Bは、各々位相が90°異なる。従って、この立ち上がり点Lのタイミングで直交サンプリングが行なわれる。上述の(6a)式、(6b)式、図6(e)を参照すると、I信号及びQ信号は交互にサンプリングされることがわかる。図6(e)に示すように、IQ分離器27は、サンプルクロック信号に基づいて、入力されるデジタルエコー信号をI信号とQ信号とに交互に振り分ける。
【0045】
I信号とQ信号とを得るためのサンプリング周波数fsは、A/D変換で必要となる分解能(160dB/Hz)を有するA/D変換器24の最高サンプリング周波数に基づいて決定される。例えば、15ビットのENOB(実効分解能ビット数)を有するA/D変換器24の最高サンプリング周波数が2MHzの場合、サンプリング周波数fsを2MHzとする。
【0046】
中間周波数fiは、サンプリング周波数fsに基づいて決定される。具体的には、サンプリング周波数fsが2fi+50kHz以下となるように決定される。例えば、サンプリング周波数fs=2MHzのとき、中間周波数fiは100kHzや200kHz、500kHz等に設定される。
【0047】
次に複素信号生成部20の効果について説明する。
【0048】
従来のCWDモードにおけるA/D変換器は、図2に示すような極めて広いダイナミックレンジを有するエコー信号を歪みなく取り込んでA/D変換を実現するために、高速(20MHz以上のサンプリング周波数)且つ高分解能(20MHz換算の実効分解能で14ビット以上)である必要がある。
【0049】
この場合に問題となるのは、エコー信号が広いダイナミックレンジを有することである。しかし、上記の(4)、(5)、(6a)、(6b)式に示すように、CWD法においてエコー信号の周波数は数MHzであるのに対し、ドプラ信号成分は数十kHzの成分であるから、本来、直交サンプリングの際に必要なサンプリング周波数は低くてよい。
【0050】
本実施形態においては、周波数変換回路22は、CWD法に由来する極めて広いダイナミックレンジを有するエコー信号を、連続超音波のドプラ偏移成分を維持したまま、数百kHzを中心とする中間周波数帯域へ周波数ダウンコンバートする。このため、エコー信号を、低速のA/D変換器24で歪みなくA/D変換することができる。この際、低速なサンプリングでよいため、A/D変換器24の消費電力は少なくて済み、又、安価なA/D変換器であるΣΔ型A/D変換器を用いることが可能である。
【0051】
なお、通常、PWDモードで収集されたエコー信号はCWD法で収集されたエコー信号に比して低ダイナミックレンジである。そのためPWD法においては、低速且つ低分解能(10〜12ビット)のA/D変換器でも、歪みなくエコー信号をA/D変換できる。上述のように、複素信号生成部20は、低速高分解能で安価なA/D変換器24によって、CWD法に由来する極めて広いダイナミックレンジを有するエコー信号をA/D変換することができる。従ってコストパフォーマンスを考慮しても、複素信号生成部20は、CWDモードとPWDモードとの両モードにおいて最適なダイナミックレンジを確保しつつ、両モードを併用することできる。つまり、PWDモードにおいて必要十分な低ダイナミックレンジの回路で、両モードを併用可能とすることができる。
【0052】
また直交検波方式では、直交検波以降の信号処理回路は1チャンネルあたり2系統必要であり、それに伴い、エコー信号をA/D変換器するためのA/D変換器は1系統あたり2器必要である。しかし本実施形態は直交サンプリング方式を採用するため、複素信号生成回路20〜20は、1チャンネルあたり1系統でよい。そのため、複素信号生成部20は、直交検波方式の回路に比して信号処理系統の数が少なくて済む。その結果、複素信号生成部20は、直交検波方式に比して小規模な回路構成及び低周波領域の速度程度の回路動作が可能な半導体IC回路として容易に高集積化可能である。また、信号処理系統の減少に伴い、回路の製造コストも減少する。
【0053】
かくして本実施形態によれば、CWD法を行なう超音波診断装置において、回路規模の縮小や回路コストの削減が可能となる。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0055】
(変形例)
例えば、図7に示すように変形例1に係る複素信号生成部40は、HPF23とA/D変換器24との間にLPF29を設けている。LPF29は、周波数fi+fd以上の周波数成分を遮断し、周波数fi−fd以下の周波数成分を通過させる。このような構成により、fi+fd以上の無駄な周波数を直交サンプリングされなくなる。従って、複素信号生成部40により、和成分信号UEをサンプリングできるような高速なA/D変換器24を用いる場合にも本実施形態が可能となる。
【0056】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す図。
【図2】図1の受信部にて受信されるエコー信号の信号成分を示す図。
【図3】本実施形態に係る血流計測処理を説明するための図。
【図4】図1の複素信号生成部の構成を示す図。
【図5】図4の周波数変換回路による周波数ダウンコンバート処理を説明するための図。
【図6】図4のクロック信号生成器から発生されるクロック信号のタイミングチャート。
【図7】本実施形態の変形例に係る複素信号生成部の構成を示す図。
【符号の説明】
【0058】
1…超音波診断装置、10…制御部、12…送信部、14…超音波探触子、16…受信部、20…複素信号生成部、20…複素信号生成回路、21…クロック信号生成器、22…周波数変換回路、23…ハイパスフィルタ(HPF)、24…A/D変換器、25…遅延回路、26…デシメーションフィルタ、27…IQ分離器、28I…I信号加算器、28Q…Q信号加算器、29…ローパスフィルタ(LPF)、30…ドプラ処理部、32…デジタルスキャンコンバータ(DSC)、34…モニター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に連続超音波を送信し前記被検体からの反射波を受信する超音波探触子と、前記超音波探触子からの受信信号に基づいて複素信号を生成する複素信号生成部と、前記生成された複素信号に含まれるドプラ成分を算出するドプラ処理部と、を具備する超音波診断装置において、
前記複素信号生成部は、
前記受信信号を前記連続超音波の搬送周波数よりも低い中間周波数帯域に周波数変換する周波数変換部と、
前記周波数変換された受信信号を前記中間周波数に基づくサンプリング周波数で直交サンプリングすることにより前記複素信号を生成する直交サンプリング部と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記周波数変換部は、前記搬送周波数と前記中間周波数とに基づく周波数を有する信号を、前記受信信号に混合することにより前記周波数変換を行うことを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記周波数変換部は、前記搬送周波数の信号帯域を有するとともに前記搬送周波数の分周クロック周波数に同期して前記サンプリング周波数に基づくサンプル動作を行なうサンプリングアンドホールド回路を有することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記サンプリング周波数は、前記搬送周波数以下であることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記直交サンプリング部は、
前記周波数変換された受信信号を、前記サンプリング周波数で直交サンプリングし量子化することにより前記エコー信号をデジタル化するA/D変換器と、
前記デジタル化されたエコー信号に含まれる同相成分と直交成分とを分離することで複素信号を生成するIQ分離器と、
を有することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記A/D変換器は、シグマデルタ型A/D変換器であることを特徴とする請求項5記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記複素信号生成部は、複数チャンネル分の回路を集積化した半導体集積回路であり、
前記複数チャンネル分の回路は、内部回路動作に要する基準クロック信号を共有化すること、
を特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記超音波診断装置は、連続波ドプラ法とパルスドプラ法とを併用可能であることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−115364(P2010−115364A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291235(P2008−291235)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】