説明

超音波診断装置

【課題】簡単な構成で、画像表示のリアルタイム性を向上させるとともに、浅部から深部まで鮮明な断層像が得られるようにすることができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】最も深い位置に焦点を設定したときの、超音波を送波してから、被検体の内部の最も深い位置で発生した高調波を受信するまでの時間よりも短い時間間隔で、フレーム周期の間に、少なくとも1回、異なる深さ位置に超音波を送波する送波手段を有することを特徴とする超音波診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を低侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の特長を有している。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、および産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
従来、このような超音波診断装置では、超音波の非線形な伝播により生じる高調波成分を取りだし、この高調波成分に基づいて超音波画像を生成し、表示するハーモニックイメージング(HI)法と呼ばれている手法が用いられてきた。
【0004】
上記ハーモニックイメージングは、超音波の受信信号に含まれる高調波成分を検出して、映像化する手法であり(例えば2MHzの超音波を送波し、4MHzの高調波でイメージング)、微小気泡よりなる超音波造影剤をより効率的に検出することを目的として開発された。
【0005】
微小気泡は強い非線形散乱特性を有しており、その散乱信号は生体組織と比べて大きな高調波成分を含んでいる。そこで、この高調波成分のみを検出することにより、通常(基本波)では周囲組織からのエコーに埋もれてしまような微小な血流(パフュージョン)の映像化が可能となる。
【0006】
近年、組織ハーモニック映像法(Tissue Harmonic Imaging;THI)が注目されている。これはハーモニックイメージング法が有する画質改善効果に着目したもので、どのような患者でもノイズの低減された高コントラストのBモード画像が得られ、心内膜等の描出に優れることが特徴である。組織ハーモニック映像法では、送波された超音波が生体内を歪みながら“伝播”するいわゆる伝播の非線形性により発生する高調波を映像化している。
【0007】
この高調波の振幅は、超音波の伝播距離および基本波の音圧の二乗に比例するため、超音波ビームの中心軸上(音圧の高い領域)に集中して発生する。すなわち基本波を用いた場合に比べ、メインローブが細くかつサイドローブレベルが低いシャープな超音波ビームが形成可能である。
【0008】
このように組織ハーモニック映像法ではビーム幅が狭くかつサイドローブレベルの低いビーム形成が可能なため、ビーム幅の低減により方位方向分解能が向上し、またサイドローブレベルの低減によりコントラスト分解能が向上する。
【0009】
また、従来、このような超音波診断装置では、同一ビーム方向の複数の異なる深さ位置にそれぞれ焦点を設定したビーム状の超音波を送波し、送波した超音波の反射波に基づいて生体内の情報を表示する多段フォーカス法が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
多段フォーカス法では、例えば、超音波ビームを収束させる各焦点F1、F2、F3を、F1は近距離、F2は中距離、F3は遠距離というように、深度に応じて互いに異ならせて超音波を送波し、送波した超音波の反射波を各焦点F1、F2、F3に応じてそれぞれ継ぎあわせて1本の走査線データを得ている。
【0011】
このように生体内の深度に応じて超音波ビームが収束する焦点の距離を変更することで、超音波ビームの発散が抑制される結果、生体内の近距離から遠距離までの全領域にわたって分解能の良い画像を得ることが可能になる。
【0012】
しかしながら、従来の多段フォーカス法を用いた場合、n個の焦点を設定すると、1本の走査線データを得るためにn回の送受波を行う必要があるので、1画面形成に必要なフレームレートが約1/nになる。このため、分解能を高めるために焦点の数nを多くする程、画像表示のリアルタイム性が失われてしまい、動きの速い臓器に対して必要な断層像が得られない。
【0013】
このような課題を解決するため、各焦点に応じて互いに異なる駆動電圧および駆動周波数を有する駆動信号を、各々の焦点に応じた時間分だけ遅延させて合成した駆動信号を、所定の圧電素子に印加する超音波診断装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に開示されている超音波診断装置は、受信時には、反射波の信号を周波数に応じて選別するとともに、選別された各反射波の信号を送波の場合と同じ遅延時間分だけ遅延、増幅して全領域にわたって分解能の良い画像を得るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】実開平2−88610号公報
【特許文献2】特開平6−114056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
組織ハーモニック映像法を用いた場合、音線方向についても送波した焦点位置付近の領域にのみ高調波が発生するため、浅部から深部まで良好な画像を得るには、超音波ビームが収束する焦点の数nを多数設定する必要がある。そのため、表示領域を広げるようとするとフレームレートが小さくなり、リアルタイム性が失われ、動きの速い臓器に対して必要な断層像が得られない、という課題がある。
【0016】
一方、特許文献2に開示されている方法では、異なる周波数の超音波を、各々の焦点に応じた時間分だけ遅延させて合成した駆動信号で圧電素子を駆動しているが、このような駆動信号は、実装条件や負荷である圧電素子の帯域幅によって遅延時間等が変動しやすい。そのため、複雑な回路が必要であり、そのような回路を用いても意図したような送波ができず、良好な結果が得られない場合があった。
【0017】
また、受信信号処理においても多数の周波数を選別(フィルタリング)する必要があるために信号処理が複雑化し、超音波診断装置が高価になるという問題があった。
【0018】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、簡単な構成で、画像表示のリアルタイム性を向上させるとともに、浅部から深部まで鮮明な断層像が得られるようにすることができる超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、本発明は以下のような特徴を有するものである。
【0020】
1.複数の圧電素子を配列した超音波探触子に駆動信号を印加して、同一ビーム方向の複数の異なる深さ位置にそれぞれ焦点を設定したビーム状の超音波を所定のフレーム周期で被検体の内部に順次送波し、前記ビーム状の超音波によって焦点を設定した前記深さ位置の近傍から発生した高調波の成分をそれぞれ受信して前記被検体の内部を映像化するように構成された超音波診断装置であって、
最も深い位置に焦点を設定したときの、前記超音波を送波してから、前記被検体の内部の最も深い位置で発生した前記高調波を受信するまでの時間よりも短い時間間隔で、前記フレーム周期の間に、少なくとも1回、前回と異なる深さ位置に前記超音波を送波する送波手段を有することを特徴とする超音波診断装置。
【0021】
2.前記高調波は、
前記駆動信号の基本周波数の3倍の3次高調波であることを特徴とする前記1に記載の超音波診断装置。
【0022】
3.前記送波手段は、
所定の深さ位置に焦点を設定して前記超音波を送波し、前記所定の深さ位置で発生した前記高調波を受信する期間が経過した後、順次異なる深さ位置に焦点を設定して前記超音波を送波することを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0023】
4.前記送波手段は、
所定の深さ位置に焦点を設定して前記超音波を送波した後、前記所定の深さ位置で発生する前記高調波を受信する前に、
超音波を送波することにより発生する高調波を受信する期間が、前記所定の深さ位置で発生する前記高調波を受信する期間と重ならないように異なる深さ位置に焦点を設定して前記超音波を送波することを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、多段フォーカスを行うフレーム周期の間に、少なくとも1回、最も深い位置にフォーカスを設定して超音波を送波してから、生体内の最も深い位置から反射した高調波を受信するまでの時間よりも短い時間間隔で、異なる深さ位置に超音波を送波する。
【0025】
したがって、簡単な構成で、画像表示のリアルタイム性を向上させるとともに、浅部から深部まで鮮明な断層像が得られるようにすることができる超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図2】実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】多段フォーカス法により設定された各フォーカス領域を示す図である。
【図4】超音波を各フォーカス領域の焦点に送波し、受信するまでを模式的に説明する図である。
【図5】送波タイミングを説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0028】
図1は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【0029】
超音波診断装置100は、図略の生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送波し、受信した被検体で反射した超音波の反射波(エコー、超音波信号)から被検体内の内部状態を超音波画像として画像化し、モニタ10に表示する。
【0030】
超音波探触子2は、被検体に対して超音波(超音波信号)を送波し、被検体で反射した超音波の反射波を受信する。超音波探触子2は、図1に示すように、ケーブル15を介して超音波診断装置本体14と接続されている。
【0031】
入力部13は、スイッチやキーボードなどから構成され、ユーザが診断開始を指示するコマンドの入力や、後に説明する基本波モードまたは非基本波モードの選択、被検体の個人情報等のデータの入力をするために設けられている。
【0032】
モニタ10は、液晶パネルなどから成り、画像化した超音波画像を表示する。
【0033】
図2は、本実施形態に係る超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【0034】
最初に、図2を用いて全体の構成を説明する。
【0035】
超音波探触子2の先端部分には、電気信号と音響信号とを相互変換するための複数の圧電素子8が配列されている(図2には図示せず)。なお、ここでは、1つの圧電素子が1チャンネルを構成するものとして説明する。超音波探触子2には、送信処理部1が接続されている。
【0036】
送信処理部1は、制御部99により設定されたモードに応じたタイミングで、超音波をビーム状に形成し、また任意の深さで収束させて焦点を形成するように遅延処理をかけた駆動信号を超音波探触子2の各チャンネルに印加する。これにより、各チャンネルの圧電素子は振動し、超音波を発生する。なお、この超音波の周波数スペクトラムは、駆動信号の周波数(基本周波数f)を中心として通常は若干分散している。送信処理部1は、本発明の送波手段である。
【0037】
超音波探触子2で発生した超音波は、被検体に送波され、被検体内部を伝播し、その途中にある音響インピーダンスの不連続面で反射し、エコーとして超音波探触子2に返ってくる。このエコーには、基本周波数fの基本波成分の他に、超音波が被検体(生体)の内部を歪みながら“伝播”する、いわゆる伝播の非線形性により基本周波数f以外の非基本波成分が発生する。非基本波成分のなかでも、基本周波数fの2倍の2次高調波成分、3倍の3次高調波成分などを診断のための画像形成に利用することができる。
【0038】
超音波探触子2に返ってきたエコーは、送波時とは逆に、超音波探触子2に配列された図2には図示せぬ圧電素子8を機械的に振動させ、微弱な電気信号を発生させる。この信号は、受信信号処理部3に取り込まれ、プリアンプで増幅され、送波時と同じ遅延処理を経て加算される。
【0039】
この受信信号は、基本波モード(通常のイメージング法)時には、受信信号から基本波成分を主に抽出するために通過帯域が基本周波数fを中心とした所定の帯域に設定されている基本波用帯域通過型フィルタ(BPF)4を通ってBモード処理部6に送られる。
【0040】
また非基本波モード(組織ハーモニック映像法)時には、受信信号から高調波成分を抽出するために通過帯域が基本周波数fの2倍または3倍の周波数を中心とした所定の帯域に設定されている高調波用帯域通過型フィルタ(BPF)5を通って、Bモード処理部6に送られる。
【0041】
Bモード処理部6は、基本波モード時には基本波用帯域通過型フィルタ4からの基本波成分に基づいて通常のBモード像を生成し、また非基本波モード時には高調波用帯域通過型フィルタ5からの高調波成分に基づいて組織ハーモニック画像を生成する。これらの画像はデジタルスキャンコンバータ(DSC)9によって再構成された後、ビデオ信号に変換され、モニタ10に表示される。
【0042】
制御部99は、CPU98(中央処理装置)と記憶部96等から構成され、記憶部96に記憶されているプログラムをRAM97に読み出し、当該プログラムに従って超音波診断装置100の各部を制御する。記憶部96は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等から構成される。
【0043】
制御部99は、操作者によって入力部13から入力されたモード(基本波モード又は非基本波モード)を送信処理部1と受信処理部3に設定する。
【0044】
なお、本実施形態では、操作者が入力部13でモード切り替え操作したときに基本波モードと非基本波モードとが、切り替わる例を説明するが、例えば、1断面分を1回走査する毎に、または1回送受信する毎に自動的に切り替えるようにしてもよい。
【0045】
次に、図3、図4、図5を用いて本実施形態で行う多段フォーカス法について説明する。
【0046】
図3は多段フォーカス法により設定された各フォーカス領域を示す図、図4は超音波を各フォーカス領域の焦点に送波し、受信するまでを模式的に説明する図である。図5は本実施形態の送波タイミングを説明するタイムチャートである。
【0047】
本実施形態では、図3に示す生体(被検体)の深さ方向に等間隔の4つのフォーカス領域E1、E2、E3、E4の画像を得る場合を説明する。
【0048】
図4(a)に示すように、超音波探触子2には、電気信号と音響信号とを相互変換するための複数の圧電素子8がアレイ状に配列されている。送信処理部1は、超音波をビーム状に形成し、フォーカス領域E1、E2、E3、E4に焦点を形成するように遅延処理をかけた駆動信号を順次圧電素子8に印加する。フォーカス領域E1の焦点はF1、フォーカス領域E2の焦点はF2、フォーカス領域E3の焦点はF3、フォーカス領域E4の焦点はF4であり、図4(a)の例ではアレイ状の圧電素子8の中心軸上に焦点を形成する。圧電素子8から送波した超音波ビームは、図4(a)のように各焦点の位置で収束した後、また広がっている。
【0049】
図4(b)〜(e)は、非基本波モード(組織ハーモニック映像法)時において、各焦点にそれぞれ超音波を送波してから、焦点位置の付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間を模式的に示している。高調波は、焦点位置付近のフォーカス領域のみで発生し、発生した高調波は基本波より減衰率が高いのでさらに深い領域まで進行して反射することも無い。したがって、最大時間は、送波した超音波の基本波が各フォーカス領域の深い方の境界まで進行し、境界で発生した高調波が、超音波探触子2まで戻るまでの時間である。
【0050】
図4(e)は、最深部の焦点F4に送波した場合であり、フォーカス領域E4の深い方の境界付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間をtとしている。図4(d)は、焦点F3に送波した場合であり、各フォーカス領域は等間隔とすると、フォーカス領域E3の深い方の境界付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間は3/4tである。
【0051】
同様に、図4(c)は、焦点F2に送波した場合、図4(b)は、焦点F1に送波した場合であり、それぞれフォーカス領域E2の深い方の境界付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間は2/4×t、フォーカス領域E1の深い方の境界付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間は1/4×tである。
【0052】
図5(a)は、第1の実施形態の送波タイミングを説明するタイムチャート、図5(b)は、第2の実施形態の送波タイミングを説明するタイムチャート、図5(c)は、基本波モード時の送波タイミングを説明するタイムチャートである。図5の横軸は時間軸であり、送信処理部1で生成されるタイミングパルスを示している。タイミングパルスの立ち上がりで超音波が駆動信号が圧電素子8に送信され、超音波が送波される。
【0053】
送信処理部1は、非基本波モード時では、図5(a)の送波タイミング、または図5(b)の送波タイミングで駆動信号を順次圧電素子8に印加し、基本波モード時では図5(c)に示す送波タイミングで駆動信号を順次圧電素子8に印加する。
【0054】
最初に、図5(a)の第1の実施形態の送波タイミングを説明する。
【0055】
図中、F1で示すタイミングパルスの立ち上がり時に焦点F1に収束するように超音波ビームが送波される。次に、F2で示すタイミングパルスの立ち上がり時に焦点F2に収束するように超音波ビームが送波される。
【0056】
F1で示すタイミングパルスの立ち上がり時と、F2で示すタイミングパルスの立ち上がり時との時間差は1/4×tであり、最も深い位置にフォーカスを設定したときの、超音波を送波してから、被検体の内の最も深い位置で発生した高調波を受信するまでの時間tよりも短い時間間隔である。図4で説明したようにフォーカス領域E1の深い方の境界付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間は1/4×tなので、図中E1で示す期間内にフォーカス領域E1で発生した高調波を全て受信することができる。
【0057】
次に、F2で示すタイミングパルスの立ち上がり時と、F3で示すタイミングパルスの立ち上がり時との時間差は2/4×tである。図4で説明したようにフォーカス領域E2の深い方の境界付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間は2/4×tなので、図中E2で示す1/4×t〜2/4×tの期間内にフォーカス領域E2で発生した高調波を全て受信することができる。
【0058】
次に、F3で示すタイミングパルスの立ち上がり時と、F4で示すタイミングパルスの立ち上がり時との時間差は3/4×tである。同様にフォーカス領域E3の深い方の境界付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間は3/4×tなので、図中E3で示す2/4×t〜3/4×tの期間内にフォーカス領域E3で発生した高調波を全て受信することができる。
【0059】
次に、F4で示すタイミングパルスの立ち上がり時と、F1で示すタイミングパルスの立ち上がり時との時間差はtである。同様にフォーカス領域E4の深い方の境界付近で発生した高調波を受信するまでの最大時間はtなので、図中E4で示す3/4×t〜tの期間内にフォーカス領域E4で発生した高調波を全て受信することができる。
【0060】
E1、E2、E3、E4の期間に圧電素子8が受信した信号は、受信処理部3によって送波時と同じ遅延処理を経て加算され、高調波用帯域通過型フィルタ5を通って、高調波成分だけBモード処理部6に送られ組織ハーモニック画像を生成する。
【0061】
このように、第1の実施形態の送波タイミングでは、所定の深さ位置にフォーカスを設定して超音波を送波し、所定の深さ位置で発生した高調波を受信する期間が経過した後、順次異なる深さ位置にフォーカスを設定して超音波を送波している。F1の立ち上がりから次のF1の立ち上がりまでのフレーム周期T1が多段フォーカスを行う1周期であり、この間に各焦点に順次超音波ビームが送波される。フレーム周期T1は、1/4×t+2/4×t+3/4×t+t=10/4×tである。
【0062】
次に、図5(c)の基本波モードの送波タイミングを説明する。
【0063】
基本波は、焦点位置を過ぎても拡散しながら進行し、最も遠いフォーカス領域まで到達して反射する。そのため、最も近い焦点F1に収束するように超音波を送波した場合でも、基本波はフォーカス領域E1を過ぎても拡散しながら進行し、最も遠いフォーカス領域E4の深い方の境界で反射するため、図5(c)にE1で示すフォーカス領域E1からの反射波を受信する期間を過ぎても反射波が戻ってくる。反射波が戻ってくる間は、次の送波ができないため、焦点F4に収束するように超音波を送波した場合と同じtの間、次の送波を待つ必要がある。
【0064】
同様に、焦点F2またはF3に収束するように超音波を送波した場合も次に送波するまでtの間待つ必要がある。そのため基本波モードでは、図中、F1〜F4で示すタイミングパルスの立ち上がり時の間隔は全てtである。
【0065】
E1、E2、E3、E4の期間に圧電素子8が受信した信号は、受信処理部3によって送波時と同じ遅延処理を経て加算され、基本波用帯域通過型フィルタ4を通って、基本波成分だけBモード処理部6に送られBモード像を生成する。
【0066】
F1の立ち上がりから次のF1の立ち上がりまでのフレーム周期T3が多段フォーカスを行う1周期であり、この間に各焦点に順次超音波ビームが送波される。基本波モードのフレーム周期T3は4tである。
【0067】
前述のように、非基本波モードで用いる第1の実施形態の送波タイミングのフレーム周期T1は10/4×tであり、基本波モードの周期T3の4tに比べて37.5%も短縮されている。したがって、フレームレートは1.6倍になるので画像表示のリアルタイム性が向上するとともに、高調波を利用した組織ハーモニック映像法により浅部から深部まで鮮明な断層像が得られる。
【0068】
次に、図5(b)の第2の実施形態の送波タイミングを説明する。
【0069】
図中F4で示すタイミングパルスの立ち上がり時に焦点F4に収束するように超音波ビームが送波されたΔt後、F2で示すタイミングパルスの立ち上がり時に焦点F2に収束するように超音波ビームが送波される。
【0070】
その次に送波するのはF3で示すタイミングパルスの立ち上がり時であり、F4で示すタイミングパルスの立ち上がり時との時間差はtである。フォーカス領域E2の高調波を受信する期間は、F4で示すタイミングパルスの立ち上がり時から1/4×t+Δtと2/4×t+Δtとの間であり、フォーカス領域E4の高調波を受信する期間は3/4×tとtとの間である。Δt<1/4×tにすれば、フォーカス領域E2の高調波を受信する期間とフォーカス領域E4の高調波を受信する期間が重なることはないので、図中E2で示す期間にフォーカス領域E2で発生した高調波を、また図中E4で示す期間にフォーカス領域E4で発生した高調波をそれぞれ受信することができる。
【0071】
次に、F3で示すタイミングパルスの立ち上がり時に焦点F3に収束するように超音波ビームが送波されたΔt後、F1で示すタイミングパルスの立ち上がり時に焦点F1に収束するように超音波ビームが送波される。
【0072】
その次に送波するのはF4で示すタイミングパルスの立ち上がり時であり、F3で示すタイミングパルスの立ち上がり時との時間差は3/4×tである。フォーカス領域E1の高調波を受信する期間はΔtと1/4×t+Δtとの間であり、フォーカス領域E3の高調波を受信する期間は2/4×tと3/4×tとの間である。Δt<1/4×tであれば、フォーカス領域E1の高調波を受信する期間とフォーカス領域E3の高調波を受信する期間が重なることはないので、図中E1示す期間にフォーカス領域E1で発生した高調波を、また図中E3で示す期間にフォーカス領域E3で発生した高調波をそれぞれ受信することができる。
【0073】
E1、E2、E3、E4の期間に圧電素子8が受信した信号は、受信処理部3によって送波時と同じ遅延処理を経て加算され、高調波用帯域通過型フィルタ5を通って、高調波成分だけBモード処理部6に送られ組織ハーモニック画像を生成する。
【0074】
このように第2の実施形態の送波タイミングでは、所定の深さ位置に焦点を設定して超音波を送波した後、所定の深さ位置で発生する高調波を受信する前に、超音波を送波することにより発生する高調波を受信する期間が、所定の深さ位置で発生する高調波を受信する期間と重ならない異なる深さ位置に焦点を設定して超音波を送波している。F4の立ち上がりから次のF4の立ち上がりまでのフレーム周期T3が多段フォーカスを行う1周期であり、この間に各焦点に順次超音波ビームが送波される。フレーム周期T3は、t+3/4×t=7/4×tであり、基本波モードの周期T3の4tに比べて56.3%も短縮されている。また、第1の実施形態の送波タイミングと比べても30%短縮されている。
【0075】
フレームレートは基本波モードの約2.3倍になるので画像表示のリアルタイム性がさらに向上するとともに、高調波を利用した組織ハーモニック映像法により浅部から深部まで鮮明な断層像が得られる。
【0076】
特に、本発明を、非基本波モードで3次高調波を用いる場合に適用すると、3次高調波は音圧の高い焦点位置の近傍に集中して発生するので、各フォーカス領域のより鮮明な画像が得られ、これを合成することにより浅部から深部までさらに鮮明な断層像が得られる。
【0077】
以上このように、本発明によれば、簡単な構成で、画像表示のリアルタイム性を向上させるとともに、浅部から深部まで鮮明な断層像が得られるようにすることができる超音波診断装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 送信処理部
2 超音波探触子
3 受信処理部
4 基本波用帯域通過型フィルタ
5 高調波用帯域通過型フィルタ
6 Bモード処理部
8 圧電素子
9 デジタルスキャンコンバータ
10 表示部
13 入力部
14 超音波診断装置本体
15 ケーブル
96 記憶部
98 CPU
99 制御部
100 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電素子を配列した超音波探触子に駆動信号を印加して、同一ビーム方向の複数の異なる深さ位置にそれぞれ焦点を設定したビーム状の超音波を所定のフレーム周期で被検体の内部に順次送波し、前記ビーム状の超音波によって焦点を設定した前記深さ位置の近傍から発生した高調波の成分をそれぞれ受信して前記被検体の内部を映像化するように構成された超音波診断装置であって、
最も深い位置に焦点を設定したときの、前記超音波を送波してから、前記被検体の内部の最も深い位置で発生した前記高調波を受信するまでの時間よりも短い時間間隔で、前記フレーム周期の間に、少なくとも1回、前回と異なる深さ位置に前記超音波を送波する送波手段を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記高調波は、
前記駆動信号の基本周波数の3倍の3次高調波であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記送波手段は、
所定の深さ位置に焦点を設定して前記超音波を送波し、前記所定の深さ位置で発生した前記高調波を受信する期間が経過した後、順次異なる深さ位置に焦点を設定して前記超音波を送波することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記送波手段は、
所定の深さ位置に焦点を設定して前記超音波を送波した後、前記所定の深さ位置で発生する前記高調波を受信する前に、
超音波を送波することにより発生する高調波を受信する期間が、前記所定の深さ位置で発生する前記高調波を受信する期間と重ならないように異なる深さ位置に焦点を設定して前記超音波を送波することを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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