説明

超音波診断装置

【課題】オーバーペイントが生じることなく、受信信号に対するゲイン値を自動的に設定することが可能な超音波診断装置を提供することを目的とする。
【解決手段】電子走査アナログ部2は、被検体内における複数のサンプル点に対して超音波を送受信することドプラスキャンを行う。パワー演算部46は、ドプラスキャンによって取得されたドプラ偏移データに基づいて各サンプル点におけるパワー(強度)を求める。演算部61は、各サンプル点のパワーのうちの最大値、又は、各サンプル点のパワーの平均値を求める。ゲイン調整部63は、最大値又は平均値に基づいて受信信号に対するゲイン値を制御する。自己相関演算部43は、ゲイン調整部63によって制御されたゲイン値に従って受信信号を増幅して、周波数解析することで各サンプル点におけるドプラ偏移データを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波のドプラ効果を利用して、被検体内の血流などの運動体の運動情報を求める超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波パルスドプラ法と超音波パルス反射法とを併用することで、1つの超音波プローブで断層像(白黒のBモード画像)と血流情報とを得て、断層像に重ねて血流情報をリアルタイムにカラー表示する超音波診断装置が知られている。
【0003】
この超音波診断装置によって血流情報を測定する原理は次の通りである。被検体である生体内を流れている血流に対して超音波パルスを送信すると、この超音波ビームの中心周波数fc(基準周波数fc)は流動する血球によって散乱されてドプラ偏移を受けて、周波数fdだけ変位する。このため、受信周波数fは、
f=fc+fdとなる。
周波数fc、fdは次式で表される。
fd≒((2・V・cosθ)/c)・fc
なお、Vは血流速度であり、θは超音波ビームと血流とのなす角度であり、cは音速である。この関係式から分かるように、ドプラ偏移周波数fdを検出することによって、血流速度Vを求めることができる。
【0004】
ここで、超音波によるスキャンについて図3及び図4を参照して説明する。図3は、超音波によるスキャンを説明するための模式図である。図4は、従来技術に係る超音波診断装置を示すブロック図である。ドプラ偏移周波数fdを計測するためには、図3に示すように、超音波プローブ1から被検体に対して、まず、A方向に超音波パルスを複数回繰り返し送受信する。次に、B方向に超音波パルスを複数回繰り返し送受信する。以下同様に、Z方向まで順番に複数回ずつ送受信を繰り返す。
【0005】
図4に示す超音波診断装置によって、上記のスキャン制御が行われる。A方向に超音波パルスが複数回送信されると、被検体内の血流でドプラ偏移されて反射されたエコー信号は超音波プローブ1によって受信される。エコー信号は超音波プローブ1によって電気信号に変換されて受信回路100に送られる。エコー信号は、例えば受信回路100にて、操作者によって設定されたゲイン値に従って増幅される。次に、位相検波回路110によってドプラ偏移信号が検出される。このドプラ偏移信号は、超音波パルスの送信方向に沿って設定された例えば256個のサンプル点SPごとに検出される。各サンプル点SPで検出されたドプラ偏移信号は、周波数分析器120にて周波数分析されてDSC(デジタルスキャンコンバータ)130に送られて、DSC130にて走査変換(スキャンコンバージョン)される。走査変換によって生成された画像データは表示部140に送られ、A方向に沿った血流分布像が2次元画像としてリアルタイムに表示部140に表示される。以下、B方向、C方向、・・・の各方向についても同じ動作が繰り返されて、各スキャン方向に対応した血流分布像(カラードプラ像)が表示部140に表示される。
【0006】
しかしながら、従来技術に係る超音波診断装置においては、受信信号に対するゲイン値を操作者が設定していたため、ゲイン値を適切に設定することが操作者の大きな負担になっていた。また、操作者がゲイン値を設定していたため、適切なゲイン値を設定するために時間を要し、その結果、診断に多くの時間を要していた。
【0007】
そこで、受信信号に対するノイズレベルを所望の設定値に合わせるように、受信信号に対するゲイン値を設定する方法が提案されている(例えば特許文献1)。この特許文献1に係る方法では、受信信号に対するノイズレベルに基づいてゲイン値を決定して、そのゲイン値に従って受信信号を増幅している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−225238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に係る方法では、受信信号に対するノイズレベルに基づいてゲイン値を決定しているため、受信信号のS/Nが良い条件ではゲイン値が高くなり過ぎてしまい、その結果、血流の表示が断層像(Bモード画像)に多くはみ出して表示されてしまう問題(オーバーペイント)が生じるおそれがある。すなわち、カラードプラ法は血管における血流をカラーで表示する方法であるが、ノイズレベルを基準にしてゲイン値を決定すると、血管のみならず、血管の周辺からの信号のレベルも高くなってしまう。その結果、血管の周辺もカラーで表示されてしまい、あたかも、その周辺に血流があるかのように表示されてしまうおそれがある。
【0010】
この発明は上記の問題を解決するものであり、上記のオーバーペイントが生じることなく、受信信号に対するゲイン値を自動的に設定することが可能な超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、被検体内における複数の観測点に対して超音波を送受信することでドプラスキャンを行うスキャン手段と、前記ドプラスキャンによって取得された前記複数の観測点における受信信号を、ゲイン値に従って増幅して周波数解析を行うことで、各観測点における運動体のドプラ偏移データを求めるドプラ偏移データ演算手段と、前記ドプラ偏移データに基づいて前記運動体の運動情報を求める運動情報生成手段と、前記運動体の運動情報を表示手段に表示させる表示制御手段と、前記運動体の運動情報に基づいて、前記ドプラ偏移データ演算手段に設定される前記ゲイン値を制御するゲイン制御手段と、を有することを特徴とする超音波診断装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、受信信号から得られた運動体の運動情報に基づいて、受信信号に対するゲイン値を制御することで、適切なゲイン値を自動的に設定することが可能となり、その結果、操作者の負担を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【図2】変形例に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【図3】超音波によるスキャンを説明するための模式図である。
【図4】従来技術に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態に係る超音波診断装置について図1を参照して説明する。図1は、この発明の実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【0015】
この実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、電子走査アナログ部2と、直交位相検波部3と、MTI(Moving Target Indicator)演算部4と、表示ユニット5と、コントローラ6とを備えている。
【0016】
(超音波プローブ1)
超音波プローブ1には、複数の超音波振動子が1列に配置された1Dプローブ、又は、複数の超音波振動子が2次元的に配置された2Dプローブが用いられる。超音波プローブ1の形態としては、セクタ対応、リニア対応、又はコンベックス対応などの中から任意に選択される。
【0017】
(電子走査アナログ部2)
電子走査アナログ部2は、基準信号発生器21と、ディレーライン22と、パルサ23と、プリアンプ24と、加算器25と、検波器26とを備えている。電子走査アナログ部2は、超音波プローブ1によって超音波を送信する送信部と、超音波プローブ1を介して超音波エコーを受信する受信部とによって構成されている。送信部は、基準信号発生器21と、レートパルス発生器27と、受信部と共用されるディレーライン22と、パルサ23とによって構成されている。
【0018】
レートパルス発生器27は、予め設定されたパルス繰り返し周波数(PRF)でレートパルスを出力する。このパルス繰り返し周波数(PRF)は、図示しない操作部を介して操作者によって任意に変更できるようになっている。このレートパルスは、ディレーライン22によって超音波の指向性を決めるための遅延を受けて、トリガパルスとしてパルサ23に与えられる。このトリガパルスに同期して、パルサ23から超音波プローブ1の超音波振動子に、基準信号発生器21の基準周波数fcと同じ周波数を有する信号パルスが印加される。
【0019】
超音波プローブ1の超音波振動子は、この信号パルスを受けて振動する。これにより基準周波数fcを中心周波数とする超音波パルスが、パルス繰り返し周波数(PRF)で周期的に発生され、被検体に送信される。
【0020】
超音波プローブ1から送信された超音波は被検体内を伝搬し、その途中にある音響インピーダンスの不連続面で次々と反射する。この反射によるエコーは超音波プローブ1により受信され、超音波振動子から電気信号は発生する。
【0021】
超音波プローブ1から発生した電気信号は、電子走査アナログ部2の受信部に出力される。この受信部は、プリアンプ24と、ディレーライン22と、加算器25とによって構成されている。超音波プローブ1から送られた電気信号はプリアンプ24で増幅され、ディレーライン22で例えば送信時とは逆の遅延を受けた後、加算器25で加算される。これにより、受信指向性を持った1つのエコー信号が生成される。このエコー信号は、検波器26と直交位相検波部3とにそれぞれ出力される。なお、超音波プローブ1と電子走査アナログ部2とによって、この発明の「スキャン手段」の1例を構成する。
【0022】
検波器26は、エコー信号を検波して反射成分を取り出し、その反射成分を対数増幅し、包絡線を検波することで、断面における組織を表すBモード画像信号を生成する。このBモード画像信号は、表示ユニット5に出力される。
【0023】
表示ユニット5は、第1のDSC(デジタルスキャンコンバータ)51と、第2のDSC52と、表示処理部53と、マルチプレクサ(MPX)54と、D/A変換器55と、表示部56とを備えている。
【0024】
検波器26から出力されたBモード画像信号は、第1のDSC51によって超音波走査から標準TV走査に走査変換され、マルチプレクサ(MPX)54を介してD/A変換器55に出力される。Bモード画像信号はD/A変換器55でアナログ化され、表示部56にて濃淡(白黒)で表示される。このように、Bモード画像は白黒の階調で表示される。なお、検波器26と第1のDSC51とによって、この発明の「画像生成手段」の1例を構成する。
【0025】
(直交位相検波部3)
また、加算器25にて生成されたエコー信号は直交位相検波部3に出力される。直交位相検波部3は、ミキサ31a、31bと、90°移相器32と、ローパスフィルタ33a、33bとを備えている。
【0026】
加算器25から出力されたエコー信号は、二手に別れてそれぞれミキサ31aとミキサ31bとに入力する。ミキサ31aには、基準信号発生器21から基準信号(基準周波数fc)が入力し、また、ミキサ31bには、基準信号発生器21から90°移相器32を経てミキサ31aに入力した基準信号とは90°の位相差が加えられた基準信号が入力して、それぞれエコー信号と合成される。
【0027】
その結果、ローパスフィルタ33a、33bには、それぞれ基準信号(基準周波数fc)とドプラ偏移信号(周波数fd)とが合成された周波数成分(2fc+fd)が入力される。周波数成分(2fc+fd)のうち高周波成分(2fc)がローパスフィルタ33a、33bで除去される。この直交位相検波により、ドプラ偏移周波数成分(fd)を有するドプラ信号が得られる。そして、ローパスフィルタ33a、33bからMTI演算部4に位相検波出力信号が出力される。
【0028】
(MTI演算部4)
MTI演算部4は、A/D変換器41a、41bと、MTIフィルタ42a、42bと、自己相関演算部43と、平均速度演算部44と、分散演算部45と、パワー演算部46とを備えている。
【0029】
位相検波出力信号は、MTI演算部4では、まずA/D変換器41a、41bでそれぞれデジタル化され、次いでMTIフィルタ42a、42bで心臓壁などの比較的速度の遅い低周波成分(クラッタ成分)が除去され、そして、そして、血流などの比較的速度が速い高周波成分(血流成分)が抽出される。
【0030】
ドプラ偏移周波数fdを計測するためには、例えば図3に示すように、超音波プローブ1から被検体に対して、まず、A方向に超音波パルスを複数回繰り返し送受信する。次に、B方向に超音波パルスを複数回繰り返し送受信する。以下同様に、Z方向まで順番に複数回ずつ送受信を繰り返す。1回の送受信で得られるエコー信号から直交位相検波によってドプラ信号を取り出し、このドプラ信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングしてMTIフィルタ42a、42bに送る。そして、MTIフィルタ42a、42bは、所定回数繰り返し送信したレートパルスにおける同一サンプル点SP間の位相変化により血流の動きを検出し、クラッタ成分を除去する。
【0031】
自己相関演算部43は、2次元の多点における周波数分析をリアルタイムに行う。自己相関演算部43は、MTIフィルタ42a、42bから出力された血流成分(高周波成分)を、予め設定されたゲイン値に従って増幅する。このゲイン値は、コントローラ6によって決定される。そして、自己相関演算部43は、増幅された血流成分(高周波成分)を対象にして、図3に示す多数のサンプル点SPについて周波数解析を行うことでドプラ偏移周波数fdを求める。なお、自己相関演算部43の出力(ドプラ偏移周波数fd)が、この発明の「ドプラ偏移データ」の1例に相当し、自己相関演算部43が、この発明の「ドプラ偏移データ演算手段」の1例に相当する。自己相関演算部43により求められたドプラ偏移周波数fdは、平均速度演算部44、分散演算部45、及びパワー演算部46に出力される。
【0032】
平均速度演算部44、分散演算部45、及びパワー演算部46は、自己相関演算部43から出力されたドプラ偏移周波数fdに基づいて各々所定の演算を行うことで、サンプル点SPごとの血流情報を求める。具体的には、平均速度演算部44は、各サンプル点SPのそれぞれにおける血流の平均速度を求める。また、分散演算部45は、各サンプル点SPのそれぞれにおける血流速度の分散値を求める。また、パワー演算部46は、各サンプル点SPのそれぞれにおける血流量を反映しているパワー(強度)を求める。血流情報が、この発明の「運動情報」の1例に相当する。また、平均速度演算部44、分散演算部45、又はパワー演算部46が、この発明の「運動情報生成手段」の1例に相当する。
【0033】
このようにして得られた血流の平均速度、分散値、及びパワーなどの血流情報は、表示ユニット5の第2のDSC52に出力される。血流情報は、第2のDSC52によって超音波走査から標準TV走査に走査変換されて、表示処理部53に出力される。表示処理部53は、例えばカラー変換情報を記憶した図示しないメモリを備えている。カラー変換情報には、例えば超音波プローブ1に向かう流れを赤とし、遠ざかる流れを青とし、速度の大小は輝度に反映させ、また、分散は緑の色相でレベル分けするなどの情報が含まれている。表示処理部53は、血流情報をカラー情報に付加する。
【0034】
そして、カラー情報を含む血流情報と、第1のDSC51から出力されたBモード画像とが、マルチプレクサ(MPX)54に入力する。マルチプレクサ(MPX)54は、表示部56にて表示される情報を適宜選択してD/A変換器55に出力する。マルチプレクサ(MPX)54から出力された情報は、D/A変換器55でアナログ化され、表示部56に表示される。これにより、Bモード画像は白黒の階調で表示され、血流情報はカラーで表示される。例えば表示部56には、Bモード画像(白黒像)とカラードプラ像(血流像)とが重畳して表示される。なお、表示処理部53、マルチプレクサ(MPX)54、及びD/A変換器55が、この発明の「表示制御手段」の1例を構成する。
【0035】
(コントローラ6)
コントローラ6は、演算部61と、メモリ62と、ゲイン調整部63とを備えている。この実施形態においては、パワー演算部46は、各サンプル点SPにおけるパワー(強度)を示すパワー情報をコントローラ6に出力する。コントローラ6はパワー情報に基づいて、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を制御する。
【0036】
演算部61は、関心領域(ROI)に含まれる各サンプル点のパワー(強度)を比べて、各サンプル点のパワーのうちの最大値を求める。または、演算部61は、パワーの最大値を求める代わりに、関心領域(ROI)に含まれる各サンプル点のパワーの平均値を求めても良い。演算部61は、パワーの最大値又は平均値をゲイン調整部63に出力する。
【0037】
例えば、操作者は表示部56に表示されているBモード画像を参照し、図示しない操作部を用いて、Bモード画像上に関心領域(ROI)を指定する。操作者によって関心領域が指定されると、関心領域の位置を示す位置情報が、図示しない操作部からコントローラ6に出力される。演算部61は、図示しない操作部から出力された関心領域の位置を示す位置情報を受けて、ある時間における関心領域に含まれる各サンプル点SPのパワーのうちの最大値を求める。または、演算部61は、ある時間における関心領域に含まれる各サンプル点SPのパワーの平均値を求める。例えば、操作者が図示しない操作部によってゲイン値の自動設定の指示を与えると、その指示を示す情報が操作部からコントローラ6に出力される。演算部61は、その指示が与えられたタイミングにおける関心領域に含まれる各サンプル点SPのパワーのうちの最大値、又は各サンプル点SPのパワーの平均値を求める。そして、演算部61は、パワーの最大値又はパワーの平均値をゲイン調整部63に出力する。
【0038】
ゲイン調整部63は、パワーの最大値が予め設定された所定範囲内に含まれるように、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を制御する。この最大値の所定範囲を示す情報は、メモリ62に予め記憶されている。パワーの最大値の所定範囲は、オーバーペイントが発生せずにカラードプラ像が操作者にとって見やすく表示される範囲であり、予め決定されている。
【0039】
ゲイン調整部63は、パワーの最大値が所定範囲の下限値よりも低い場合には、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を上げる。例えば、ゲイン調整部63は、所定範囲の中央値とパワーの最大値との差分を求め、その差分に比例して、自己相関演算部43に設定されているゲイン値を上げる。具体的には、ゲイン調整部63は、差分に比例してゲイン値を上げるための制御値を自己相関演算部43に出力する。自己相関演算部43は、その制御値に従ってゲイン値を上げて、MTIフィルタ42a、42bから出力される血流成分(高周波成分)を増幅し、周波数解析を行うことでドプラ偏移周波数fdを求める。
【0040】
一方、ゲイン調整部63は、パワーの最大値が所定範囲の上限値よりも高い場合には、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を下げる。例えば、ゲイン調整部63は、所定範囲の中央値とパワーの最大値との差分を求め、その差分に比例して、自己相関演算部43に設定されている現在のゲイン値を下げる。具体的には、ゲイン調整部63は、差分に比例してゲイン値を下げるための制御値を自己相関演算部43に出力する。自己相関演算部43は、その制御値に従ってゲイン値を下げて血流成分を増幅し、周波数解析を行うことでドプラ偏移周波数fdを求める。
【0041】
また、ゲイン調整部63は、パワーの最大値が所定範囲内に含まれている場合には、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を変えない。
【0042】
また、演算部61によってパワーの平均値が求められた場合には、ゲイン調整部63は、パワーの平均値が予め設定された所定範囲内に含まれるように、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を制御する。この平均値の所定範囲を示す情報は、メモリ62に予め記憶されている。パワーの平均値の所定範囲は、オーバーペイントが発生せずにカラードプラ像が操作者にとって見やすく表示される範囲であり、予め決定されている。
【0043】
ゲイン調整部63は、パワーの平均値が所定範囲の下限値よりも低い場合には、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を上げる。例えば、ゲイン調整部63は、所定範囲の中央値とパワーの平均値との差分を求め、その差分に比例して、自己相関演算部43に設定されているゲイン値を上げる。具体的には、ゲイン調整部63は、差分に比例してゲイン値を上げるための制御値を自己相関演算部43に出力する。自己相関演算部43は、その制御値に従ってゲイン値を上げて、MTIフィルタ42a、42bから出力される血流成分(高周波成分)を増幅し、周波数解析を行うことでドプラ偏移周波数fdを求める。
【0044】
一方、ゲイン調整部63は、パワーの平均値が所定範囲の上限値よりも高い場合には、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を下げる。例えば、ゲイン調整部63は、所定範囲の中央値とパワーの平均値との差分を求め、その差分に比例して、自己相関演算部43に設定されている現在のゲイン値を下げる。具体的には、ゲイン調整部63は、差分に比例してゲイン値を下げるための制御値を自己相関演算部43に出力する。自己相関演算部43は、その制御値に従ってゲイン値を下げて血流成分を増幅し、周波数解析を行うことでドプラ偏移周波数fdを求める。
【0045】
また、ゲイン調整部63は、パワーの平均値が所定範囲内に含まれている場合には、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を変えない。
【0046】
なお、自己相関演算部43に設定されるゲイン値の最大値を予め決めておいても良い。例えば、ゲイン値の最大値は、オーバーペイントが生じない程度の値とすることが好ましい。この場合、ゲイン調整部63は、この最大値を上限としてゲイン値を制御する。
【0047】
従来においては、受信信号に対するゲイン値が小さい場合、血流情報が十分に表示されない問題が生じる。また、受信信号のS/Nが良い条件では、ゲイン値が高すぎる場合、血流の表示がBモード画像に多くはみ出して表示されてしまう問題(オーバーペイントの問題)が生じる。そこで、この実施形態では上述したように、自己相関演算部43の出力信号に基づいてゲイン値の制御を行うことで、オーバーペイントの発生を抑えつつ適切なゲイン値を自動的に設定する。
【0048】
上述した実施形態では、ゲイン値を自己相関演算部43に設定しているが、プリアンプ24や他の部分に与えても良い。また、コントローラ6は、パワー演算部46によって求められたパワーに限らず、表示処理部53の出力やマルチプレクサ(MPX)54の出力に基づいてゲイン値を制御しても良い。また、コントローラ6は、平均速度演算部44によって求められた血流の平均速度や、分散演算部45によって求められた血流速度の分散値に基づいてゲイン値を制御しても良い。なお、コントローラ6が、この発明の「ゲイン制御手段」の1例に相当する。
【0049】
コントローラ6は、CPUなどの情報処理装置と、ROM、RAM、HDDなどの記憶装置とによって構成されていても良い。この場合、記憶装置には、コントローラ6の機能を実行するためのプログラムが記憶されている。このプログラムには、演算部61の機能を実行するための演算プログラムと、ゲイン調整部63の機能を実行するためのゲイン調整プログラムとが含まれている。CPUが各プログラムを実行することで、各部の機能が実行される。
【0050】
(動作)
次に、この実施形態に係る超音波診断装置による一連の動作について説明する。
【0051】
まず、超音波プローブ1と電子走査アナログ部2とよって、予め設定された領域をBモードスキャンすることで、その領域における被検体の組織を表すBモード画像を取得する。このBモード画像は表示部56に表示される。
【0052】
操作者は表示部56に表示されているBモード画像を参照して、図示しない操作部を用いてBモード画像上に関心領域(ROI)を設定する。関心領域(ROI)の位置を示す位置情報が、操作部からコントローラ6に出力される。電子走査アナログ部2はコントローラ6の指示に従って、関心領域(ROI)を対象にしてドプラスキャンを実行する。そして、直交位相検波部3とMTI演算部4とによって、関心領域(ROI)におけるパワーなどの血流情報が求められる。表示部56には、血流情報を表すカラードプラ像とBモード画像とが重畳して表示される。
【0053】
そして、操作者が図示しない操作部によってゲイン値の自動設定の指示を与えると、その指示を示す情報が操作部からコントローラ6に出力される。コントローラ6は、その指示が与えられると、電子走査アナログ部2に対して1フレーム分のスキャンを行うことを命令する。電子走査アナログ部2は、コントローラ6の命令に従って、1フレーム分のスキャンを実行する。すなわち、操作者がゲイン値の自動設定の指示を与えたタイミングで、電子走査アナログ部2は1フレーム分のスキャンを実行する。そして、直交位相検波部3とMTI演算部4とによって、関心領域(ROI)におけるパワーなどの血流情報が求められる。
【0054】
演算部61は、指示が与えられたタイミングにおける関心領域に含まれる各サンプル点SPのパワー(強度)のうちの最大値、又は各サンプル点SPのパワーの平均値を求める。ゲイン調整部63は、演算部61によって求められたパワーの最大値又は平均値に基づいて、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を制御する。これにより、血流情報に基づくゲイン値が自己相関演算部43に設定される。
【0055】
自己相関演算部43は、ゲイン調整部63によって制御されたゲイン値に従って、MTIフィルタ42a、42bから出力された血流成分(高周波成分)を増幅し、周波数解析を行うことでドプラ偏移周波数fdを求める。
【0056】
以上のように、この実施形態に係る超音波診断装置によると、血流情報に基づいて受信信号に対するゲイン値を制御することで、オーバーペイントが生じることなく血流情報を増幅することが可能なゲイン値を自動的に設定することが可能となる。そのことにより、操作者にとって見やすいカラードプラ像を表示することが可能となる。また、ゲイン値が自動的に設定されるため、操作者の負担が軽減されて、診断時間を短縮することが可能となる。
【0057】
なお、ゲイン値を制御する場合に、1フレーム分の走査範囲をすべてスキャンすると時間を要するため、電子走査アナログ部2は、その走査範囲の略中央に位置する数本の走査線をスキャンし、コントローラ6は、そのスキャンによって得られたパワー(強度)に基づいてゲイン値を制御しても良い。また、ゲイン値を制御する場合に、電子走査アナログ部2は、複数のフレームをスキャンしても良い。この場合、コントローラ6は、各フレームについてパワー(強度)の最大値又は平均値を求め、さらに、パワーの最大値又は平均値の平均を求め、その平均によってゲイン値を制御する。
【0058】
[変形例]
次に、上述した実施形態に係る超音波診断装置の変形例について図2を参照して説明する。図2は、変形例に係る超音波診断装置を示すブロック図である。変形例に係る超音波診断装置は、マルチプレクサ(MPX)54の出力に基づいてゲイン値を制御する。変形例に係る超音波診断装置の各部の構成は、上述した実施形態に係る超音波診断装置の構成と同じである。
【0059】
マルチプレクサ(MPX)54は、カラー情報を含む血流情報を表示処理部53から受け、Bモード画像を第1のDSC51から受ける。そして、マルチプレクサ(MPX)54は、各画素における血流情報とBモード画像の各画素の画素値とに基づいて、各画素に、血流情報又はBモード画像の画素値のいずれかを選択して割り当てて、D/A変換器55に出力する。例えば、マルチプレクサ(MPX)54は、カラー情報を含む血流情報とBモード画像の画素値とを比べて、血流速度が予め設定された第1の閾値以上で、かつ、Bモード画像の画素値(輝度値)が予め設定された第2の閾値未満となる画素については、血流情報を割り当ててD/A変換器55に出力する。一方、マルチプレクサ(MPX)54は、血流情報が割り当てられた画素以外の画素に対しては、Bモード画像の画素値を割り当ててD/A変換器55に出力する。すなわち、マルチプレクサ(MPX)54は、血流速度が一定の速度以上(第1の閾値以上)で、かつ、Bモード画像の輝度が一定の輝度未満(第2の閾値未満)の領域については、血流情報を割り当てる。血流速度に対する第1の閾値と輝度に対する第2の閾値とは、マルチプレクサ(MPX)54に予め設定されている。なお、血流速度及び輝度に対する閾値(第1の閾値及び第2の閾値)は、撮影対象の部位によって異なる値を設定することが好ましい。マルチプレクサ(MPX)54から出力された情報は、D/A変換器55でアナログ化され、表示部56に表示される。これにより、表示部56には、Bモード画像(白黒像)とカラードプラ像(血流像)とが重畳して表示される。
【0060】
また、マルチプレクサ(MPX)54は、関心領域(ROI)において血流情報が割り当てられた各画素(各サンプル点)の血流情報を、コントローラ6の演算部61に出力する。演算部61は、上述した実施形態と同様に、関心領域(ROI)に含まれる各サンプル点の血流情報のうちの最大値、又は各サンプル点の血流情報の平均値を求める。ゲイン調整部63は、上述した実施形態と同様に、血流情報の最大値又は平均値が予め設定された所定範囲内に含まれるようにゲイン値を制御する。例えば、ゲイン調整部63は、所定範囲の中央値と、血流情報の最大値又は平均値との差分を求め、その差分に基づいて、自己相関演算部43に設定されるゲイン値を制御する。自己相関演算部43は、ゲイン調整部63によって制御されたゲイン値に従って血流成分を増幅し、周波数解析を行うことでドプラ偏移周波数fdを求める。
【0061】
以上のように、マルチプレクサ(MPX)54から出力される血流情報に基づいてゲイン値を制御する場合であっても、オーバーペイントが生じることなく血流情報を増幅することが可能なゲイン値を自動的に設定することが可能となる。そのことにより、操作者によって見やすいカラードプラ像を表示することが可能となる。また、ゲイン値が自動的に設定されるため、操作者の負担が軽減されて、診断時間を短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 超音波プローブ
2 電子走査アナログ部
3 直交位相検波部
4 MTI演算部
5 表示ユニット
6 コントローラ
43 自己相関演算部
44 平均速度演算部
45 分散演算部
46 パワー演算部
61 演算部
62 メモリ
63 ゲイン調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内における複数の観測点に対して超音波を送受信することでドプラスキャンを行うスキャン手段と、
前記ドプラスキャンによって取得された前記複数の観測点における受信信号を、ゲイン値に従って増幅して周波数解析を行うことで、各観測点における運動体のドプラ偏移データを求めるドプラ偏移データ演算手段と、
前記ドプラ偏移データに基づいて前記運動体の運動情報を求める運動情報生成手段と、
前記運動体の運動情報を表示手段に表示させる表示制御手段と、
前記運動体の運動情報に基づいて、前記ドプラ偏移データ演算手段に設定される前記ゲイン値を制御するゲイン制御手段と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記ゲイン制御手段は、前記被検体に対して予め設定された関心領域に含まれる各観測点の運動情報の平均値を求め、前記平均値が予め設定された所定範囲内に含まれるように前記ゲイン値を制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記ゲイン制御手段は、前記運動情報の平均値と、前記所定範囲内に含まれる所望の値との差分を求め、前記差分に基づいて前記ゲイン値を制御することを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記ゲイン制御手段は、前記被検体に対して予め設定された関心領域に含まれる各観測点の運動情報のうちの最大値を求め、前記最大値が予め設定された所定範囲内に含まれるように前記ゲイン値を制御することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記ゲイン制御手段は、前記運動情報の最大値と、前記所定範囲内に含まれる所望の値との差分を求め、前記差分に基づいて前記ゲイン値を制御することを特徴とする請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記被検体内の組織を表すBモード画像を生成する画像生成手段を更に有し、
前記スキャン手段は前記ドプラスキャンを行い、さらに、予め設定された領域を超音波で走査することでBモードスキャンを行い、
前記画像生成手段は、前記Bモードスキャンによって取得された受信信号に基づいてBモード画像を生成し、
前記表示制御手段は、前記ドプラスキャンによって取得された前記運動情報と、前記Bモードスキャンによって取得された前記Bモード画像の画素値とに基づいて、前記運動情報が示す前記運動体の速度が予め設定された第1の閾値以上であり、かつ、前記Bモード画像の画素値が予め設定された第2の閾値未満となる画素については、前記運動情報を選択して前記表示手段に表示させ、
前記ゲイン制御手段は、前記表示制御手段によって選択された前記運動情報に基づいて、前記ドプラ偏移データ演算手段に設定される前記ゲイン値を制御することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−101715(P2011−101715A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257597(P2009−257597)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】