説明

超音波診断装置

【課題】バブルの破壊や検出を抑える超音波の送信技術を実現する。
【解決手段】コントラスト画像の形成には(I)の通常送信波形が利用される。通常送信波形は、正側の振幅と負側の振幅がほぼ同程度の大きさである。これに対し、ファンダメンタル画像の形成には(II)の変形送信波形が利用される。変形送信波形は、正側の振幅よりも負側の振幅が小さい。通常送信波形は、バブルを振動させてバブルから高調波を発生させるのに適している。一方、変形送信波形は、バブルの振動や高調波の発生をなるべく抑え、バブルの周囲に存在する組織からの基本波を得るのに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、超音波の送信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置に関する技術として、例えば特許文献1に記載されているように、造影剤を利用した画像形成技術が知られている。この技術では、造影剤に含まれるバブルから得られる高調波成分を利用して造影剤を画像化することにより、造影剤が投与された例えば血管などを映し出したコントラスト画像が形成される。但し、コントラスト画像には、主に造影剤に含まれるバブルが映し出されるものの、周囲の組織などが映し出されないため、バブルが組織中のどの部位に存在しているのかがわかりにくい場合がある。
【0003】
そこで、コントラスト画像と共に、受信信号に含まれる基本波成分を利用したファンダメンタル画像も形成し、周囲の組織を映し出したファンダメンタル画像とバブルを映し出したコントラスト画像を合成して表示する装置が知られている。ファンダメンタル画像を形成する際には、バブルをなるべく破壊しないことやバブルをなるべく検出しないことが望ましい。
【0004】
送信信号の強さ(送信音圧)を小さくすると、バブルの破壊や検出を抑えることができる。しかし、組織から得られる受信信号が小さくなってしまう。もちろん、送信音圧を大きくしてしまうと、バブルの破壊や検出を引き起こしてしまう。
【0005】
このように、単に送信音圧を調整することのみにより、ファンダメンタル画像を良好に得ることは困難であった。ちなみに、特許文献2には、超音波診断装置やバブルに関する技術ではないものの、弾性パルスの波形を調整する旨の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−136626号公報
【特許文献2】特許第2578638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況のもと、本願の発明者は、バブルを利用した超音波の画像化技術について研究開発を重ねてきた。特に、超音波とバブルとの間の相互作用に注目して研究開発を重ねてきた。
【0008】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、バブルの破壊や検出を抑える超音波の送信技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、バブルを含む診断領域に対して超音波を送受するプローブと、正側の振幅よりも負側の振幅を小さくした変形送信波形で超音波を送波するようにプローブを制御する送信制御部と、プローブにより受波される超音波に対応した受信信号を得る受信処理部と、受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、を有することを特徴とする。
【0010】
望ましい具体例において、前記変形送信波形の負側の振幅の大きさを調整する波形調整部と、前記波形調整部における振幅の調整量に応じて、前記変形送信波形を利用して得られる受信信号のゲインを調整するゲイン調整部と、をさらに有することを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記送信制御部は、正側の振幅と負側の振幅を実質的に等しくした通常送信波形と前記変形送信波形とを利用してプローブを制御し、前記画像形成部は、前記通常送信波形を利用して得られる受信信号に基づいてバブルを対象としたバブル画像を形成し、前記変形送信波形を利用して得られる受信信号に基づいて組織を対象とした組織画像を形成する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記画像形成部は、前記通常送信波形を利用して得られる受信信号に含まれる高調波成分に基づいて前記バブル画像を形成し、前記変形送信波形を利用して得られる受信信号に含まれる基本波成分に基づいて前記組織画像を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、バブルの破壊や検出を抑える超音波の送信技術が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】通常送信波形と変形送信波形を示す図である。
【図3】通常送信波形と変形送信波形によるバブルの振動を示す図である。
【図4】バブルが放射する音圧波形を示す図である。
【図5】バブルが放射する音圧波形の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好適な実施形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。図1に示す超音波診断装置は、造影用のバブル(マイクロバブルやナノバブルなどの微小気泡)を含んだ造影剤を利用した画像の形成に適している。
【0017】
信号発生部12は、超音波のパルス波を送波するための送信信号を出力し、波形調整部14は、信号発生部12から出力された送信信号の振幅を調整する。図1の超音波診断装置は、バブルを映し出すのに好適なコントラスト画像と組織を映し出すのに好適なファンダメンタル画像を形成する。そして、コントラスト画像の形成には通常送信波形が利用され、ファンダメンタル画像の形成には変形送信波形が利用される。つまり、信号発生部12から出力された送信信号がその形状のまま通常送信波形として利用され、一方、信号発生部12から出力された送信信号が波形調整部14において調整されて変形送信波形として利用される。なお、通常送信波形と変形送信波形の2つの波形を予め用意しておき、2つの波形を使い分けるようにしてもよい。
【0018】
図2は、通常送信波形と変形送信波形を示す図である。図2(I)は、通常送信波形を示しており、横軸を時間軸として縦軸に振幅の大きさを音圧(kPa:キロパスカル)で示している。通常送信波形は、例えば、中心周波数が1.8MHz程度のガウスパルス形状である。そして、通常送信波形は、正側の振幅と負側の振幅がほぼ同程度の大きさである。例えば、図2(I)の波形例では、正側の音圧が150kPa程度であり、負側の音圧が−150kPa程度である。
【0019】
これに対し、図2(II)は、変形送信波形を示しており、横軸を時間軸として縦軸に振幅の大きさを音圧(kPa)で示している。変形送信波形は、通常送信波形の負側の振幅を調整して形成され、正側の振幅よりも負側の振幅が小さい。例えば、図2(II)の波形例では、正側の音圧が150kPa程度であり、負側の音圧が−50kPa程度である。
【0020】
図1に戻り、送信ビームフォーマ(送信BF)16は、波形調整部14から得られる送信信号(通常送信波形または変形送信波形)に基づいて、プローブ20が備える図示しない複数の振動素子を制御することにより送信ビームを形成する。
【0021】
プローブ20は、造影剤が投与された生体内の診断領域に対して超音波を送受する。プローブ20は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が送信ビームフォーマ16によって送信制御されて送信ビームが走査される。この走査により、二次元的な走査面が形成される。なお、送信ビームが立体的に走査されて三次元的な走査領域が形成されてもよい。
【0022】
また、プローブ20が備える複数の振動素子が生体から反射された超音波を受波し、これにより得られた信号が受信ビームフォーマ(受信BF)22へ出力される。なお、送信と受信を異なる振動子で行うようにしてもよい。
【0023】
受信ビームフォーマ22は、プローブ20から得られる信号を処理することにより、送信ビームに対応した受信ビームを形成する。こうして、受信ビームに沿って得られた受信信号が信号処理部24へ出力される。
【0024】
本実施形態においては、通常送信波形に基づいて形成される走査面によりコントラスト画像が形成され、変形送信波形に基づいて形成される走査面によりファンダメンタル画像が形成される。通常送信波形は、バブルを振動させてバブルから高調波を発生させるのに適している。一方、変形送信波形は、バブルの振動や高調波の発生をなるべく抑え、バブルの周囲に存在する組織からの基本波を得るのに適している。
【0025】
図3は、通常送信波形と変形送信波形によるバブルの振動を示す図であり、半径1.3μm(マイクロメートル)のバブルが各送信波形を受けた場合に、そのバブルの半径がどのように変化するのかをシミュレートした結果を示している。図3において、横軸は時間軸であり縦軸はバブルの半径である。
【0026】
図3(I)は、図2(I)の通常送信波形を当てた場合におけるバブルの半径の時間変化であり、図3(II)は、図2(II)の変形送信波形を当てた場合におけるバブルの半径の時間変化である。図3に示すように、通常送信波形の場合に比べて、変形送信波形の場合にバブルの振動半径が小さくなっている。つまり、変形送信波形の場合にバブルが壊れにくい。
【0027】
この現象は、送信波形の負圧(負側の音圧)の方がバブルの振動に大きく関与しているためと考えられる。送信波形の負圧は、送信波形がバブルを引く力、つまり、バブルを膨張させる力である。バブルは収縮に比べて膨張させた場合に振動が大きくなる。そのため送信波形の負圧を小さくすることにより、バブルが振動しにくくなる。
【0028】
図4は、バブルが放射する音圧波形を示す図である。図4において、横軸は時間軸であり縦軸はバブルが放射する音圧(kPa)である。図4(I)は、図2(I)の通常送信波形を当てた場合にバブルが放射する音圧の時間変化であり、図4(II)は、図2(II)の変形送信波形を当てた場合にバブルが放射する音圧の時間変化である。図4に示すように、通常送信波形の場合に比べて、変形送信波形の場合に、バブルから放射される音圧が低くなっている。つまり、変形送信波形の場合にバブルが検出されにくい。
【0029】
図5は、バブルが放射する音圧波形の周波数特性を示す図である。図5において、横軸は周波数であり縦軸は各周波数成分の大きさである。図5(I)は、通常送信波形に対応した図4(I)の音圧波形に関する周波数特性であり、図5(II)は、変形送信波形に対応した図4(II)の音圧波形に関する周波数特性である。
【0030】
コントラスト画像を形成する場合には、通常送信波形が利用され、バブルから放射される高調波成分が抽出される。図5(I)に示すように、通常送信波形の場合には、バブルから放射される高調波成分が比較的大きい。そのため、通常送信波形の場合にバブルが検出されやすい。ちなみに、図5(II)に示すように、変形送信波形の場合には、バブルから放射される高調波成分が比較的小さい。
【0031】
このように、正側の振幅よりも負側の振幅を小さくした変形送信波形を利用することにより、バブルが壊れにくくなり、またバブルが検出されにくくなる。その一方で、正側の振幅を、例えば従来のファンダメンタル画像に利用した送信波形と同じ程度の大きさとすることにより、バブル以外の組織から得られる基本波への悪影響を小さく抑えることができる。
【0032】
図1に戻り、受信ビームフォーマ22において受信ビームに沿って得られた受信信号は信号処理部24へ出力される。信号処理部24は、通常送信波形を利用して得られるコントラスト画像用の受信信号から高調波成分を抽出する。例えば、受信信号から3次以上の高調波成分を抽出する。なお、高調波成分の抽出にあたっては、特許文献1に記載されるフェーズインバージョン法(またはパルスインバージョン法)の原理を利用してもよい。また、信号処理部24は、変形送信波形を利用して得られるファンダメンタル画像用の受信信号から基本波成分を抽出する。
【0033】
ゲイン調整部26は、信号処理部24において抽出された信号のゲインを調整する。例えばファンダメンタル画像用の基本波成分が増幅される。このゲイン調整においては、波形調整部14における負側の振幅の調整量に応じて、ゲイン調整部26におけるゲインの大きさが制御される。波形調整部14における負側の振幅は、例えばスライダなどの操作デバイスを利用してユーザにより調整される。そして、その調整量に応じて、制御部40により、ゲイン調整部26におけるゲインの大きさが制御される。例えば、負側の振幅が小さく設定されたためにファンダメンタル画像用の基本波成分が小さくなってしまった場合においても、基本波成分の増幅量を大きくすることにより、ファンダメンタル画像が暗くならないように制御することが可能になる。
【0034】
画像形成部30は、通常送信波形に対応した受信信号から抽出された高調波成分に基づいて、コントラスト画像の画像データを形成する。先に説明したように(図5参照)、通常送信波形の場合には、バブルから放射される高調波成分が大きいため、バブルが良好に検出される。また、画像形成部30は、変形送信波形に対応した受信信号から抽出された基本波成分に基づいて、バブル以外の組織を映し出したファンダメンタル画像の画像データを形成する。
【0035】
こうして形成されたコントラスト画像とファンダメンタル画像が表示部32に表示される。例えば、コントラスト画像とファンダメンタル画像が並べて表示される。また、コントラスト画像とファンダメンタル画像を合成して、バブルとその周囲の組織の両方を明瞭に映し出す合成画像を形成してもよい。
【0036】
なお、コントラスト画像用の走査面とファンダメンタル画像用の走査面は、例えば交互に形成される。また、バブルの移動を観測する場合には、例えば、コントラスト画像用の走査面を連続的に複数枚形成してからファンダメンタル画像用の1枚の走査面を形成し、これを繰り返すようにしてもよい。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0038】
12 信号発生部、14 波形調整部、24 信号処理部、26 ゲイン調整部、30 画像形成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バブルを含む診断領域に対して超音波を送受するプローブと、
正側の振幅よりも負側の振幅を小さくした変形送信波形で超音波を送波するようにプローブを制御する送信制御部と、
プローブにより受波される超音波に対応した受信信号を得る受信処理部と、
受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記変形送信波形の負側の振幅の大きさを調整する波形調整部と、
前記波形調整部における振幅の調整量に応じて、前記変形送信波形を利用して得られる受信信号のゲインを調整するゲイン調整部と、
をさらに有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波診断装置において、
前記送信制御部は、正側の振幅と負側の振幅を実質的に等しくした通常送信波形と前記変形送信波形とを利用してプローブを制御し、
前記画像形成部は、前記通常送信波形を利用して得られる受信信号に基づいてバブルを対象としたバブル画像を形成し、前記変形送信波形を利用して得られる受信信号に基づいて組織を対象とした組織画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記画像形成部は、前記通常送信波形を利用して得られる受信信号に含まれる高調波成分に基づいて前記バブル画像を形成し、前記変形送信波形を利用して得られる受信信号に含まれる基本波成分に基づいて前記組織画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−235018(P2011−235018A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111155(P2010−111155)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】