超音波造影剤を用いる治療評価
造影剤イメージングによって、病変、腫瘍、及び転移などの病理に対する治療の進捗をモニタするための、超音波イメージング装置及び方法が記載される。病変を含んでいる組織に造影剤のボーラスが注入する際に画像のシーケンスが取得される。コントラストwash‐in時間パラメータが、腫瘍及び正常組織の両方に対して計算され、この2つのwash‐in時間パラメータの比(WITRと呼ばれる)が計算され、これは治療モニタリングセッションごとの手順の変動の影響を除去する。病変及び正常組織の時間‐強度曲線の差分曲線も作られ、これは同様に手順の変動に影響されない。呼吸運動の影響は、シーケンスの画像の各々において横隔膜などのランドマークの位置を検出し、プローブに対してランドマークの位置の変化を示すものを処理から切り捨てることによって、考慮されることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2008年1月23日に出願された米国仮出願番号61/022,888の利益を請求し、これは本願明細書に引用により組み込まれる。
【0002】
本発明は、超音波画像診断システムに関し、特に、腫瘍の治療処置の進捗を評価するための超音波画像診断システムの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
国際特許出願公開番号WO 2006/090309(Bruce et al.)は、超音波造影剤を用いて肝臓における病変を検出するための超音波イメージング技術を記載している。造影剤のボーラスが体内に導入され、肝臓への造影剤の到達時間が検出される。造影剤のボーラスが身体の血管を通過し、体内の特定の器官又は位置に現れ始めるとき、画像におけるコントラストの増強は造影剤の"wash‐in"と称される。造影剤の注入が体内の位置でプラトーに達し、そして血液の流れによってこの位置から運び去られるにつれて減少するとき、この減少は造影剤の"wash‐out"と称される。前述の特許公報において、発明者らは、肝臓への血液の流れが2つの起点、肝動脈及び門脈から来るという事実を利用している。血流の第1の、動脈相の間の血液の流れは、最初にHCC及び転移性肝臓病変に灌流するので、発明者らは血流の動脈相及び後期門脈相の間、肝臓への造影剤の到達時間を検出することによってこうした病変を特定する。肝臓への造影剤の早期wash‐inの領域は、病変を示す可能性がある。
【0004】
一旦病変又は転移がこの及び/又は他の手段によって特定されると、通常は治療計画が医師によって指示される。治療は、例えば温熱療法/低体温法、細胞毒性化学療法、又は抗血管新生薬を含み得る。治療は通常、単一セッションで実行されるのではなく、数週間又は数ヶ月間にわたって数セッションで実行される。各治療セッションにおいては、通常、医師が患者に対する治療の効果を判定するために治療の進捗を評価することが望ましい。病変又は転移は、例えばそれが縮小しているかどうかを見るために、診断上撮像され得る。しかし、治療の進捗は遅く、病変又は転移において前のセッションからわずかな変化しか起こっていないことが多い。こうした例においては、腫瘍の特定の特徴を測定することによって定量的に治療の進捗を評価することが望ましい。そのような測定の1つは、腫瘍血管新生の退縮である。病変又は転移がその細胞の壊死とともに縮小するにつれて、病変に栄養を与えるために発達した微小血管系は、より少ない血液供給を病変に与えるようになり、それ自身が縮小し始める可能性がある。1つの定量的方法は、この血管新生の退縮、病変の微小血管系の能力の低下を評価することである。このような定量的測定は、反復可能で、かつ、撮像法による変動、例えば検査日ごとに異なり得る、ボーラス注入、患者心拍出量、及び超音波機械設定の変動などの影響を受けないことが望ましい。こうした変動の影響を除去することは、測定を治療セッションごとに比較することができるようにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、腫瘍の治療の期間中に病変又は転移の血管新生を評価するための新規の改良された技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の原理に従って、治療から生じる腫瘍血管新生を定量化するために、超音波造影剤のwash‐in及びwash‐outの時間‐強度曲線が作られ、使用される。病変又は転移の画像は超音波イメージングシステムによって取得され、観察されている組織又は器官を造影剤がwash‐in及びwash‐outする際、病変が連続的に撮像される。このプロセスの正確な測定のためには、時間‐強度曲線計算のための信号情報が絶えず病変の同じ点から生じるように、造影剤がwash‐in及びwash‐outする際に転移の同じ位置から超音波信号を絶え間なく取得することが望ましい。本発明の第1の態様によれば、呼吸運動の影響は、時間‐強度曲線生成のためのデータ収集の呼吸同期によって除去される。呼吸同期の好適な技術は画像分析によって実行されるものであり、ここでは、画像が時間‐強度曲線処理のために使用されるか否かを決定するために、横隔膜などの画像における解剖学的ランドマークの有無が使用される。
【0007】
本発明のさらなる態様によれば、時間‐強度曲線が、腫瘍からの超音波データ、及び正常組織からの超音波データの両方に対して生成される。wash‐in時間(WIT)パラメータが、時間‐強度曲線ごとに計算される。wash‐in時間比(WITR)がこの2つのパラメータから形成され、これは、ボーラス差、心拍出量、及び超音波システム設定などの要因によるwash‐in時間定量化における変動を軽減する。従ってWITRは治療の進捗の正確かつ比較可能な指標を提供する。
【0008】
本発明のさらに別の態様によれば、腫瘍及び正常組織の時間‐強度曲線は、差分時間‐強度曲線を形成するために相互から減算される。差分時間‐強度曲線の形状及びその経時的変化は、治療の進捗の別の指標である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の原理に従って構成される超音波画像診断システムをブロック図形式で図示する。
【図2】図2は、本発明の原理に従う図1のQLabプロセッサの動作の詳細を図示する。
【図3】図3は、本発明の原理に従う図1のQLabプロセッサの動作の詳細を図示する。
【図4】図4は、本発明の原理に従う画像処理による呼吸同期を図示する。
【図5】図5は、動脈相の間に取得される肝臓の画像における本発明に従う時間‐強度曲線に対するROIの図である。
【図6】図6は、後期門脈相の間に取得される肝臓の画像における本発明に従う時間‐強度曲線に対するROIの図である。
【図7】図7は、転移性病変及び正常実質に対する時間‐強度曲線を図示する。
【図8】図8は、本発明の原理に従う呼吸同期のための超音波画像における横隔膜の識別を図示する。
【図9a】図9aは、本発明の原理に従って差分時間‐強度曲線を形成するための時間‐強度曲線の生成及び減算を図示する。
【図9b】図9bは、本発明の原理に従って差分時間‐強度曲線を形成するための時間‐強度曲線の生成及び減算を図示する。
【図9c】図9cは、本発明の原理に従って差分時間‐強度曲線を形成するための時間‐強度曲線の生成及び減算を図示する。
【図9d】図9dは、本発明の原理に従って差分時間‐強度曲線を形成するための時間‐強度曲線の生成及び減算を図示する。
【図10】図10は、本発明に従う治療の進捗の評価の臨床結果を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に図1を参照すると、本発明の原理に従って構成される超音波システムがブロック図形式で示される。このシステムは超音波送信ビームによって撮像される身体の二次元又は三次元領域をスキャンすることによって作動する。各ビームが身体を通してその操作された経路に沿って送信されると、ビームは送信された周波数成分に対応する線形及び非線形(基本周波数及び調波周波数)成分を有するエコー信号を返す。送信信号はビームが直面する造影剤微小気泡の非線形応答によって変調され、それによって、調波成分を有するエコー信号を生成する。
【0011】
図1の超音波システムは、体内の散乱体から調波エコー成分を返すために、選択された変調特性の波又はパルスを所望のビーム方向に送信する送信器16を利用する。送信器は、送信ビームの周波数成分、その相対強度又は振幅、及び送信信号の位相又は極性を含む、送信ビームの特性を決定する多くの制御パラメータに応答する。送信器は、送信/受信スイッチ14によって超音波プローブ10のアレイトランスデューサ12の素子に結合される。アレイトランスデューサは、プラナー(二次元)イメージングのための一次元アレイであるか、又は、二次元若しくはボリューム(三次元)イメージングのための二次元アレイであることができる。
【0012】
トランスデューサアレイ12は、トランスデューサ通過帯域内である基本(線形)周波数成分と調波(非線形)周波数成分を含む身体からのエコーを受信する。これらのエコー信号はスイッチ14によってビームフォーマ18に結合され、これは異なるトランスデューサ素子からのエコー信号を適切に遅延させた後、これらを結合して、浅い深さからより深い深さへとビームに沿って線形信号と調波信号のシーケンスを形成する。好ましくはビームフォーマは、近視野から遠視野の画像深さへと離散コヒーレントデジタルエコー信号のシーケンスを作り出すためにデジタル化されたエコー信号に作用するデジタルビームフォーマである。ビームフォーマは、単一送信ビームに応答して多数の空間個別的な受信スキャンラインに沿ってエコー信号の2つ以上のシーケンスを生じるマルチラインビームフォーマであってもよく、これは特に3Dイメージングに役立つ。ビーム形成されたエコー信号はアンサンブルメモリ22に結合される。
【0013】
図1の超音波システムにおいて、多重波又は多重パルスは異なる変調技術を用いて各ビーム方向に送信され、画像フィールドにおいてスキャンされた点ごとに多重エコーの受信をもたらす。共通の空間的位置に対応するエコーは、本明細書ではエコーのアンサンブルと称され、アンサンブルメモリ22に格納され、そこから一緒に読み出されて処理されることができる。アンサンブルのエコーは、所望の非線形つまり調波信号を作り出すために非線形信号分離器24によって様々な方法で結合される。例えば、異なる位相又は極性変調を有する2つのパルスが、画像フィールドにおける各点に送信されることができる。2つのパルスから得られるエコーが超音波システムによって受信され、加算的に結合されると、異なる変調はエコーの基本周波数成分をキャンセルさせ、調波成分を相互に補強し合わせる。これはエコー信号の調波成分を分離して取り出す。あるいは、2つのエコーが相互から減算されると、基本周波数成分が補強され、調波成分がキャンセルする。これは標準Bモード画像の構成のために基本周波数を分離して取り出す。この変調は"パルス反転"と称され、米国特許5,706,819(Hwang et al.)、5,951,478(Hwang et al.)、及び5,577,505(Brock Fisher et al.)に記載されるように、位相、極性、又は振幅変調によってなされることができる。
【0014】
分離された信号は、さらに不要な周波数成分を除去するためにフィルタ30によってフィルタ処理された後、検出器32によってBモード又はドップラ検出を受ける。検出信号は、画像スペックル量を減らすために非線形信号コンバイナ34に結合される。信号はそれから、画像プロセッサ36において、二次元画像、三次元画像、スペクトル画像、パラメトリック画像、又は他の所望の画像の形成のために処理され、そして画像がディスプレイ38に表示される。スペックル低減処理を必要としない検出された基本(線形)信号は、画像形成及び表示のために画像プロセッサ36に直接結合される。
【0015】
本発明の原理に従って、超音波画像データは、時間‐強度曲線及び造影剤wash‐in及びwash‐out特性の生成のためにQLab画像プロセッサ40にも結合される。QLabプロセッサによって生成される時間‐強度曲線及び特性は画像プロセッサへ戻って結合され、ここでこれらは超音波画像とともに数値的に又は図式的にディスプレイ38に表示され得る。時間‐強度曲線の生成に適している標準QLabプロセッサは、マサチューセッツ州アンドーバーのPhilips Healthcareから入手可能である。
【0016】
標準QLabプロセッサは、灌流曲線又は再灌流曲線とも呼ばれる、周知の時間‐強度曲線を生成する。米国特許5,833,613(Averkiou et al.)、国際特許出願公開番号WO 2005/099579(Rafter)、及び国際特許出願公開番号WO 2005/054898(Garg et al.)を参照。これらの公表文献が例示するように、組織中の点(画像中の点)における造影剤の蓄積が、体内の位置への造影剤の到達の間、モニタされる。ある点における造影剤の量は、各点において造影剤微小気泡から返されるエコーの強度によって示され、造影剤が組織へwash‐inする際に低パワー(低MI)送信によって取得される画像のシーケンス内に存在する。時間‐強度曲線は、組織中の各点に対して、このコントラスト強度の増強と、造影剤のwash‐out中のその後の減少から形成されることができ、これはフレームごとにエコーの時間シーケンスを返す。観察される組織全体に対する時間‐強度曲線の定性的表示は、画像中の各点において時間‐強度曲線のパラメータをあらわす色で、解剖学的画像中の各ピクセルに色をつけることによって形成されることができる。Garg et al.の出願は、画像中の各ピクセルの色が、例えば心筋における各点の時間‐強度曲線によって得られるピークレベルをあらわす、心筋のパラメトリック画像の形成を例示する。米国特許6,692,438(Skyba et al.)も参照。
【0017】
本発明の一実施例においては、造影剤が体内の転移の位置に到達し、蓄積し、そしてwash‐outするにつれて、画像のシーケンスにわたって造影剤灌流エコーデータが取得される。従ってエコーの強度値は、造影剤が存在しないベースラインレベルから始まり、そして上昇し、プラトーに達し、造影剤がwash‐outするにつれて減少する。そして曲線フィッティングアルゴリズムが、このデータ変動を次のように定義される誤差関数にフィッティングする。
【数1】
I(t)は時刻tにおける線形強度で、Aはベースラインオフセットを超える最大強度であり、Tはwash‐in時間に線形比例するwash‐in時間パラメータであり(例えば5%から95%)、I0はベースラインオフセットであり、t0は時間オフセットである。wash‐in時間は、好ましくはノイズの多い画像データの代わりに近似曲線から抽出される。好ましくは、データがその取得された線形関係のままであるように、造影剤エコーデータはこの処理の前にデータ圧縮を受けない。別の方法は、(wash‐in部分だけの代わりに)時間‐強度曲線全体を、例えば次のように定義される対数正規分布のような適切な数学モデルにフィッティングすることである。
【数2】
μ及びσは、対数変換が得られた正規分布の平均及び標準偏差である。曲線は、μを変化させることによって水平に拡大縮小されることができ、σを変化させることによって、歪度に関して変化されることができる。曲線下面積はAであり、t0は時間オフセットであり、Cはベースライン強度オフセットである。対数正規近似曲線はwash‐in時間を抽出するために使用される。
【0018】
図5は、周囲の肝臓組織における転移50の画像フレームのシーケンスにおける一対の画像を図示する。一対の画像は同じエコーデータから生成され、左の画像は造影剤を強調する二次高調波画像であり、右の画像は同じ生体構造の基本周波数画像である。肝臓が造影剤によって灌流されるとき、灌流された転移50は調波画像においてはっきりと目立ち、その境界はトレーシング52によって輪郭を描かれることができる。トレーシングは手動でなされることができ、又は、自動処理若しくは半自動処理によって、例えば境界検出、閾値化プロセス、若しくは転移の境界上のシード点の表示によって開始される領域成長法によってなされることができる。従って境界トレーシング52は、この境界内で転移の関心領域(ROI)を規定する。造影剤の調波応答はこの表示において抑制されるので、転移50は右側の基本Bモード画像においてはあまりはっきりしないことがわかる。境界トレーシング52によって転移のROIが描写されるので、積分、加算、平均化、又は他の選択された結合法によって境界52内のピクセル値を結合することによって、画像の取得時における転移の造影剤強度が測定されることができる。
【0019】
図5の画像は、肝臓への血流の動脈相の間に取得された。図6は、後期門脈相において取得された、同じ組織と転移50の調波画像及び基本画像のペアである。前述のように、HCC及び転移性肝臓病変は一般に動脈相の間にその血液灌流の大部分を受けるが、図6の左の画像における肝臓のより大きな陰影によって見られるように、肝臓における正常実質は門脈相の間にその血液灌流の大部分を受ける。説明を明確にするため、本願における超音波画像は、従来の白抜きではなく黒抜きのグレースケールレンダリングとして示される。
【0020】
本発明の原理に従って、本明細書においてwash‐in時間比(WITR)と称されるパラメータが、転移の灌流の定量的尺度として計算される。WITRは図2のブロック図によって示されるように計算される。図5及び図6によって示されるような造影剤のwash‐in及びwash‐outの間の転移又は病変の画像の時間シーケンスから、ボックス72によって示されるように、造影剤強度値が転移50のROIMetに対して計算される。前述のように、これらの値はシーケンスの画像ごとに転移ROIのピクセル値を結合することによって計算されることができる。ボックス74において組織の正常実質のROIParに対して強度値が計算される。これは、図5及び図6におけるトレーシング54によって示されるように正常組織の領域をトレースし、この第二のトレーシング内の正常組織灌流ピクセル値を使用することによってなされ得る。従ってこれらの値は正常組織の灌流値である。ボックス76において時間‐強度曲線がROIMetの灌流値にフィッティングされ、ボックス78において時間‐強度曲線がROIParの灌流値にフィッティングされる。フィッティングは必ずしも必要でないが、これはWITRのより良好な評価を与える。WITRはデータから直接測定されることができるが、データにおけるノイズが測定の精度を妨げる可能性があるので、曲線フィッティングが好ましい。図7は、このような2つの時間‐強度曲線、転移のROIからの曲線T‐IMet及び実質に対する曲線T‐IParの図である。wash‐in時間パラメータWITは、例えば上記の誤差関数又は対数正規分布を用いて、各曲線に対して見つけられる。これは、転移及び正常実質の両方に対するwash‐in時間パラメータ、それぞれWITMet及びWITParを決定する。そしてwash‐in時間比WITRが、WITMetをWITParで除することによって、2つのwash‐inパラメータから計算される。正常組織のwash‐in時間パラメータによってWITMetを正規化する効果は、例えば治療セッションごとに異なり得る、ボーラスサイズ、心拍出量、及び超音波システム設定など、手順における変数の影響を軽減又は除去することである。従って、血管新生によって示される転移の成長又は縮小の比較可能な定量的尺度が、患者が治療される数週間又は数ヶ月間にわたって治療セッションごとに作られることができる。
【0021】
ボーラス注入率、患者の心拍出量、又は機械設定における変動の影響を軽減又は除去する、転移血管新生の別の定量化尺度が、図3に図示される。時間‐強度曲線は、ボックス76及びボックス78に示されるように、転移及び実質のROIの各々に対してフィッティングされる。ボックス82及びボックス84において、各時間‐強度曲線の範囲が正規化される。便利な正規化スケールは0から1である。ボックス80において、2つの正規化曲線T‐I曲線Met及びT‐I曲線Parの差として、差分曲線ΔT‐I曲線が計算される。このプロセス及びその結果は図9a乃至図9dに図示される。図9aにおける点は、造影剤のwash‐in及びwash‐outの100秒間にわたって取得された転移(T‐IMet)及び正常実質(T‐IPar)の灌流強度値を図示する。2セットの値は0から1の同じスケールに正規化され、ここで、各データセットのピーク強度値は1つのレベルにスケールされる。これらの曲線は、転移に対する動脈相の間の造影剤の特徴的な早期wash‐inと、門脈相の間の肝実質の後期灌流を図示する。図9bにおいて、曲線92(例えば誤差関数又は対数正規分布)が転移の灌流値にフィッティングされ、曲線94が実質の灌流値にフィッティングされる。図9cは、取得された強度データ値無しで2つの曲線92及び94を濃い線で示す。図9dは、図9cの2つの曲線92及び94の計算された差分ΔT‐I曲線である曲線90を示す。腫瘍治療が成功であり、転移の血管新生が治療によって減少するとき、ΔT‐I曲線は漸進的平坦化を示し、直線に近づく。これは予想される結果である、なぜならば、病変が消失されたとき、体内のその位置は正常実質のように反応し、正常組織と病変位置に対する2つの(今や実質的に同一の)曲線の差はゼロに近づくからである。差分曲線は、差分曲線の最大傾斜などのパラメータ値として表現されることもできる。最大傾斜値がゼロに近づく(傾斜がない)とき、これは差分曲線が直線に近づいていることを示す。
【0022】
図9a乃至図9dのグラフの時間尺度から、造影剤のwash‐in及びwash‐outの典型的期間は100秒間持続し得るということがわかる。これは、各強度値が病変の同じ領域のものであるように、画像データを取得する臨床医が病変の同じ画像を着実に100秒間維持しなければならないことを意味する。例えば取得中にプローブが動く場合、病変が画像面から出てしまう可能性があり、取得されたデータは使用されることができない。たとえプローブが患者の身体に対して安定に保たれたとしても、病変はやはり患者の呼吸運動のためにプローブ視野に対して動いてしまう可能性がある。呼吸運動の影響を克服する1つの方法は、画像取得を呼吸サイクルに同期(gate)させることである。呼吸信号は、患者の胸部周りの歪みセンサ又は圧力センサを有するゴムバンドのような既知の手段によって取得されることができる。別の技術は、患者の胸部にわたるセンサ間に小信号を送信し、患者の胸部インピーダンス変化を測定することである。これらの及びその他の技術は、呼吸サイクルの周期的信号を生じることができ、画像の取得を呼吸サイクルの同じ位相に同期させるために使用されることができる。本発明の別の態様によれば、呼吸同期は、図4のブロック図に示されるように画像処理によって実行される。図5及び図6の右側の基本周波数画像は、各画像の下部において、はっきりと陰影のついた領域60を示す(これは標準的な白抜きのグレースケール超音波画像においては明るい領域となる)。この画像ランドマーク60はこれらの画像における患者の横隔膜である。図8において、画像中の横隔膜はトレーシング62によって輪郭を描かれている。図示された実施例において、トレーシング62は画像フレームシーケンスの各画像上の同じ位置において複製される。画像シーケンスが取得される際に画像中の生体構造がプローブに対して動かない場合、横隔膜ランドマーク60は各画像においてトレーシングアウトライン62に存在する。しかしながら呼吸運動は、特に深呼吸すると、横隔膜60をトレーシングの内外に動かし得る。図4の画像プロセッサ100は、同じ位置、図8の実施例においてはトレーシング62である、ROIDにおいて、横隔膜ランドマークを探すことによってこの変化を検出する。横隔膜ランドマーク60が画像においてその予想される位置に見られるとき("はい")、画像は処理及び定量化へと進められる。しかしながら、呼吸運動が横隔膜ランドマーク60を画像におけるその予想されるROID位置から動かす場合("いいえ")、この画像は処理から省略される。このプロセスはシーケンスにおける全画像に適用され、横隔膜の定位置に常に位置合わせされていないこれらの画像を破棄することによって、横隔膜の運動によって示されるような、転移のイメージングに対する呼吸運動の影響が除去されるようになっている。呼吸同期を実行する他の考えられる方法もまた存在する。例えば、時間‐強度曲線は横隔膜の一部に密接に従うROIから形成されることができ、値の閾値が検出される。そして強度値が閾値以下であるいかなる画像も破棄される。他の動き補正ベースのアルゴリズムもまた、呼吸運動を検出しそれに対し同期させることができる。
【0023】
本発明の定量化測定は、3乃至5つの治療セッションにわたる8人の患者の腫瘍治療の結果をモニタするために臨床環境において使用された。WITRの測定値は、治療セッションごとに患者ごとに計算された。良い応答者と悪い応答者に対する結果が図10に図示される。このグラフが示す通り、WITRは各治療セッションで治療に成功した患者では1(unity)に近づいた。最終的に治療に反応しなかったグループの患者(悪い応答者と示される)では、WITRは1から離れていた。このグラフによって、WITR測定が治療の実際の臨床結果とよく相関し、治療生体指標として使用され得ることがわかる。
【技術分野】
【0001】
本願は2008年1月23日に出願された米国仮出願番号61/022,888の利益を請求し、これは本願明細書に引用により組み込まれる。
【0002】
本発明は、超音波画像診断システムに関し、特に、腫瘍の治療処置の進捗を評価するための超音波画像診断システムの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
国際特許出願公開番号WO 2006/090309(Bruce et al.)は、超音波造影剤を用いて肝臓における病変を検出するための超音波イメージング技術を記載している。造影剤のボーラスが体内に導入され、肝臓への造影剤の到達時間が検出される。造影剤のボーラスが身体の血管を通過し、体内の特定の器官又は位置に現れ始めるとき、画像におけるコントラストの増強は造影剤の"wash‐in"と称される。造影剤の注入が体内の位置でプラトーに達し、そして血液の流れによってこの位置から運び去られるにつれて減少するとき、この減少は造影剤の"wash‐out"と称される。前述の特許公報において、発明者らは、肝臓への血液の流れが2つの起点、肝動脈及び門脈から来るという事実を利用している。血流の第1の、動脈相の間の血液の流れは、最初にHCC及び転移性肝臓病変に灌流するので、発明者らは血流の動脈相及び後期門脈相の間、肝臓への造影剤の到達時間を検出することによってこうした病変を特定する。肝臓への造影剤の早期wash‐inの領域は、病変を示す可能性がある。
【0004】
一旦病変又は転移がこの及び/又は他の手段によって特定されると、通常は治療計画が医師によって指示される。治療は、例えば温熱療法/低体温法、細胞毒性化学療法、又は抗血管新生薬を含み得る。治療は通常、単一セッションで実行されるのではなく、数週間又は数ヶ月間にわたって数セッションで実行される。各治療セッションにおいては、通常、医師が患者に対する治療の効果を判定するために治療の進捗を評価することが望ましい。病変又は転移は、例えばそれが縮小しているかどうかを見るために、診断上撮像され得る。しかし、治療の進捗は遅く、病変又は転移において前のセッションからわずかな変化しか起こっていないことが多い。こうした例においては、腫瘍の特定の特徴を測定することによって定量的に治療の進捗を評価することが望ましい。そのような測定の1つは、腫瘍血管新生の退縮である。病変又は転移がその細胞の壊死とともに縮小するにつれて、病変に栄養を与えるために発達した微小血管系は、より少ない血液供給を病変に与えるようになり、それ自身が縮小し始める可能性がある。1つの定量的方法は、この血管新生の退縮、病変の微小血管系の能力の低下を評価することである。このような定量的測定は、反復可能で、かつ、撮像法による変動、例えば検査日ごとに異なり得る、ボーラス注入、患者心拍出量、及び超音波機械設定の変動などの影響を受けないことが望ましい。こうした変動の影響を除去することは、測定を治療セッションごとに比較することができるようにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、腫瘍の治療の期間中に病変又は転移の血管新生を評価するための新規の改良された技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の原理に従って、治療から生じる腫瘍血管新生を定量化するために、超音波造影剤のwash‐in及びwash‐outの時間‐強度曲線が作られ、使用される。病変又は転移の画像は超音波イメージングシステムによって取得され、観察されている組織又は器官を造影剤がwash‐in及びwash‐outする際、病変が連続的に撮像される。このプロセスの正確な測定のためには、時間‐強度曲線計算のための信号情報が絶えず病変の同じ点から生じるように、造影剤がwash‐in及びwash‐outする際に転移の同じ位置から超音波信号を絶え間なく取得することが望ましい。本発明の第1の態様によれば、呼吸運動の影響は、時間‐強度曲線生成のためのデータ収集の呼吸同期によって除去される。呼吸同期の好適な技術は画像分析によって実行されるものであり、ここでは、画像が時間‐強度曲線処理のために使用されるか否かを決定するために、横隔膜などの画像における解剖学的ランドマークの有無が使用される。
【0007】
本発明のさらなる態様によれば、時間‐強度曲線が、腫瘍からの超音波データ、及び正常組織からの超音波データの両方に対して生成される。wash‐in時間(WIT)パラメータが、時間‐強度曲線ごとに計算される。wash‐in時間比(WITR)がこの2つのパラメータから形成され、これは、ボーラス差、心拍出量、及び超音波システム設定などの要因によるwash‐in時間定量化における変動を軽減する。従ってWITRは治療の進捗の正確かつ比較可能な指標を提供する。
【0008】
本発明のさらに別の態様によれば、腫瘍及び正常組織の時間‐強度曲線は、差分時間‐強度曲線を形成するために相互から減算される。差分時間‐強度曲線の形状及びその経時的変化は、治療の進捗の別の指標である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の原理に従って構成される超音波画像診断システムをブロック図形式で図示する。
【図2】図2は、本発明の原理に従う図1のQLabプロセッサの動作の詳細を図示する。
【図3】図3は、本発明の原理に従う図1のQLabプロセッサの動作の詳細を図示する。
【図4】図4は、本発明の原理に従う画像処理による呼吸同期を図示する。
【図5】図5は、動脈相の間に取得される肝臓の画像における本発明に従う時間‐強度曲線に対するROIの図である。
【図6】図6は、後期門脈相の間に取得される肝臓の画像における本発明に従う時間‐強度曲線に対するROIの図である。
【図7】図7は、転移性病変及び正常実質に対する時間‐強度曲線を図示する。
【図8】図8は、本発明の原理に従う呼吸同期のための超音波画像における横隔膜の識別を図示する。
【図9a】図9aは、本発明の原理に従って差分時間‐強度曲線を形成するための時間‐強度曲線の生成及び減算を図示する。
【図9b】図9bは、本発明の原理に従って差分時間‐強度曲線を形成するための時間‐強度曲線の生成及び減算を図示する。
【図9c】図9cは、本発明の原理に従って差分時間‐強度曲線を形成するための時間‐強度曲線の生成及び減算を図示する。
【図9d】図9dは、本発明の原理に従って差分時間‐強度曲線を形成するための時間‐強度曲線の生成及び減算を図示する。
【図10】図10は、本発明に従う治療の進捗の評価の臨床結果を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に図1を参照すると、本発明の原理に従って構成される超音波システムがブロック図形式で示される。このシステムは超音波送信ビームによって撮像される身体の二次元又は三次元領域をスキャンすることによって作動する。各ビームが身体を通してその操作された経路に沿って送信されると、ビームは送信された周波数成分に対応する線形及び非線形(基本周波数及び調波周波数)成分を有するエコー信号を返す。送信信号はビームが直面する造影剤微小気泡の非線形応答によって変調され、それによって、調波成分を有するエコー信号を生成する。
【0011】
図1の超音波システムは、体内の散乱体から調波エコー成分を返すために、選択された変調特性の波又はパルスを所望のビーム方向に送信する送信器16を利用する。送信器は、送信ビームの周波数成分、その相対強度又は振幅、及び送信信号の位相又は極性を含む、送信ビームの特性を決定する多くの制御パラメータに応答する。送信器は、送信/受信スイッチ14によって超音波プローブ10のアレイトランスデューサ12の素子に結合される。アレイトランスデューサは、プラナー(二次元)イメージングのための一次元アレイであるか、又は、二次元若しくはボリューム(三次元)イメージングのための二次元アレイであることができる。
【0012】
トランスデューサアレイ12は、トランスデューサ通過帯域内である基本(線形)周波数成分と調波(非線形)周波数成分を含む身体からのエコーを受信する。これらのエコー信号はスイッチ14によってビームフォーマ18に結合され、これは異なるトランスデューサ素子からのエコー信号を適切に遅延させた後、これらを結合して、浅い深さからより深い深さへとビームに沿って線形信号と調波信号のシーケンスを形成する。好ましくはビームフォーマは、近視野から遠視野の画像深さへと離散コヒーレントデジタルエコー信号のシーケンスを作り出すためにデジタル化されたエコー信号に作用するデジタルビームフォーマである。ビームフォーマは、単一送信ビームに応答して多数の空間個別的な受信スキャンラインに沿ってエコー信号の2つ以上のシーケンスを生じるマルチラインビームフォーマであってもよく、これは特に3Dイメージングに役立つ。ビーム形成されたエコー信号はアンサンブルメモリ22に結合される。
【0013】
図1の超音波システムにおいて、多重波又は多重パルスは異なる変調技術を用いて各ビーム方向に送信され、画像フィールドにおいてスキャンされた点ごとに多重エコーの受信をもたらす。共通の空間的位置に対応するエコーは、本明細書ではエコーのアンサンブルと称され、アンサンブルメモリ22に格納され、そこから一緒に読み出されて処理されることができる。アンサンブルのエコーは、所望の非線形つまり調波信号を作り出すために非線形信号分離器24によって様々な方法で結合される。例えば、異なる位相又は極性変調を有する2つのパルスが、画像フィールドにおける各点に送信されることができる。2つのパルスから得られるエコーが超音波システムによって受信され、加算的に結合されると、異なる変調はエコーの基本周波数成分をキャンセルさせ、調波成分を相互に補強し合わせる。これはエコー信号の調波成分を分離して取り出す。あるいは、2つのエコーが相互から減算されると、基本周波数成分が補強され、調波成分がキャンセルする。これは標準Bモード画像の構成のために基本周波数を分離して取り出す。この変調は"パルス反転"と称され、米国特許5,706,819(Hwang et al.)、5,951,478(Hwang et al.)、及び5,577,505(Brock Fisher et al.)に記載されるように、位相、極性、又は振幅変調によってなされることができる。
【0014】
分離された信号は、さらに不要な周波数成分を除去するためにフィルタ30によってフィルタ処理された後、検出器32によってBモード又はドップラ検出を受ける。検出信号は、画像スペックル量を減らすために非線形信号コンバイナ34に結合される。信号はそれから、画像プロセッサ36において、二次元画像、三次元画像、スペクトル画像、パラメトリック画像、又は他の所望の画像の形成のために処理され、そして画像がディスプレイ38に表示される。スペックル低減処理を必要としない検出された基本(線形)信号は、画像形成及び表示のために画像プロセッサ36に直接結合される。
【0015】
本発明の原理に従って、超音波画像データは、時間‐強度曲線及び造影剤wash‐in及びwash‐out特性の生成のためにQLab画像プロセッサ40にも結合される。QLabプロセッサによって生成される時間‐強度曲線及び特性は画像プロセッサへ戻って結合され、ここでこれらは超音波画像とともに数値的に又は図式的にディスプレイ38に表示され得る。時間‐強度曲線の生成に適している標準QLabプロセッサは、マサチューセッツ州アンドーバーのPhilips Healthcareから入手可能である。
【0016】
標準QLabプロセッサは、灌流曲線又は再灌流曲線とも呼ばれる、周知の時間‐強度曲線を生成する。米国特許5,833,613(Averkiou et al.)、国際特許出願公開番号WO 2005/099579(Rafter)、及び国際特許出願公開番号WO 2005/054898(Garg et al.)を参照。これらの公表文献が例示するように、組織中の点(画像中の点)における造影剤の蓄積が、体内の位置への造影剤の到達の間、モニタされる。ある点における造影剤の量は、各点において造影剤微小気泡から返されるエコーの強度によって示され、造影剤が組織へwash‐inする際に低パワー(低MI)送信によって取得される画像のシーケンス内に存在する。時間‐強度曲線は、組織中の各点に対して、このコントラスト強度の増強と、造影剤のwash‐out中のその後の減少から形成されることができ、これはフレームごとにエコーの時間シーケンスを返す。観察される組織全体に対する時間‐強度曲線の定性的表示は、画像中の各点において時間‐強度曲線のパラメータをあらわす色で、解剖学的画像中の各ピクセルに色をつけることによって形成されることができる。Garg et al.の出願は、画像中の各ピクセルの色が、例えば心筋における各点の時間‐強度曲線によって得られるピークレベルをあらわす、心筋のパラメトリック画像の形成を例示する。米国特許6,692,438(Skyba et al.)も参照。
【0017】
本発明の一実施例においては、造影剤が体内の転移の位置に到達し、蓄積し、そしてwash‐outするにつれて、画像のシーケンスにわたって造影剤灌流エコーデータが取得される。従ってエコーの強度値は、造影剤が存在しないベースラインレベルから始まり、そして上昇し、プラトーに達し、造影剤がwash‐outするにつれて減少する。そして曲線フィッティングアルゴリズムが、このデータ変動を次のように定義される誤差関数にフィッティングする。
【数1】
I(t)は時刻tにおける線形強度で、Aはベースラインオフセットを超える最大強度であり、Tはwash‐in時間に線形比例するwash‐in時間パラメータであり(例えば5%から95%)、I0はベースラインオフセットであり、t0は時間オフセットである。wash‐in時間は、好ましくはノイズの多い画像データの代わりに近似曲線から抽出される。好ましくは、データがその取得された線形関係のままであるように、造影剤エコーデータはこの処理の前にデータ圧縮を受けない。別の方法は、(wash‐in部分だけの代わりに)時間‐強度曲線全体を、例えば次のように定義される対数正規分布のような適切な数学モデルにフィッティングすることである。
【数2】
μ及びσは、対数変換が得られた正規分布の平均及び標準偏差である。曲線は、μを変化させることによって水平に拡大縮小されることができ、σを変化させることによって、歪度に関して変化されることができる。曲線下面積はAであり、t0は時間オフセットであり、Cはベースライン強度オフセットである。対数正規近似曲線はwash‐in時間を抽出するために使用される。
【0018】
図5は、周囲の肝臓組織における転移50の画像フレームのシーケンスにおける一対の画像を図示する。一対の画像は同じエコーデータから生成され、左の画像は造影剤を強調する二次高調波画像であり、右の画像は同じ生体構造の基本周波数画像である。肝臓が造影剤によって灌流されるとき、灌流された転移50は調波画像においてはっきりと目立ち、その境界はトレーシング52によって輪郭を描かれることができる。トレーシングは手動でなされることができ、又は、自動処理若しくは半自動処理によって、例えば境界検出、閾値化プロセス、若しくは転移の境界上のシード点の表示によって開始される領域成長法によってなされることができる。従って境界トレーシング52は、この境界内で転移の関心領域(ROI)を規定する。造影剤の調波応答はこの表示において抑制されるので、転移50は右側の基本Bモード画像においてはあまりはっきりしないことがわかる。境界トレーシング52によって転移のROIが描写されるので、積分、加算、平均化、又は他の選択された結合法によって境界52内のピクセル値を結合することによって、画像の取得時における転移の造影剤強度が測定されることができる。
【0019】
図5の画像は、肝臓への血流の動脈相の間に取得された。図6は、後期門脈相において取得された、同じ組織と転移50の調波画像及び基本画像のペアである。前述のように、HCC及び転移性肝臓病変は一般に動脈相の間にその血液灌流の大部分を受けるが、図6の左の画像における肝臓のより大きな陰影によって見られるように、肝臓における正常実質は門脈相の間にその血液灌流の大部分を受ける。説明を明確にするため、本願における超音波画像は、従来の白抜きではなく黒抜きのグレースケールレンダリングとして示される。
【0020】
本発明の原理に従って、本明細書においてwash‐in時間比(WITR)と称されるパラメータが、転移の灌流の定量的尺度として計算される。WITRは図2のブロック図によって示されるように計算される。図5及び図6によって示されるような造影剤のwash‐in及びwash‐outの間の転移又は病変の画像の時間シーケンスから、ボックス72によって示されるように、造影剤強度値が転移50のROIMetに対して計算される。前述のように、これらの値はシーケンスの画像ごとに転移ROIのピクセル値を結合することによって計算されることができる。ボックス74において組織の正常実質のROIParに対して強度値が計算される。これは、図5及び図6におけるトレーシング54によって示されるように正常組織の領域をトレースし、この第二のトレーシング内の正常組織灌流ピクセル値を使用することによってなされ得る。従ってこれらの値は正常組織の灌流値である。ボックス76において時間‐強度曲線がROIMetの灌流値にフィッティングされ、ボックス78において時間‐強度曲線がROIParの灌流値にフィッティングされる。フィッティングは必ずしも必要でないが、これはWITRのより良好な評価を与える。WITRはデータから直接測定されることができるが、データにおけるノイズが測定の精度を妨げる可能性があるので、曲線フィッティングが好ましい。図7は、このような2つの時間‐強度曲線、転移のROIからの曲線T‐IMet及び実質に対する曲線T‐IParの図である。wash‐in時間パラメータWITは、例えば上記の誤差関数又は対数正規分布を用いて、各曲線に対して見つけられる。これは、転移及び正常実質の両方に対するwash‐in時間パラメータ、それぞれWITMet及びWITParを決定する。そしてwash‐in時間比WITRが、WITMetをWITParで除することによって、2つのwash‐inパラメータから計算される。正常組織のwash‐in時間パラメータによってWITMetを正規化する効果は、例えば治療セッションごとに異なり得る、ボーラスサイズ、心拍出量、及び超音波システム設定など、手順における変数の影響を軽減又は除去することである。従って、血管新生によって示される転移の成長又は縮小の比較可能な定量的尺度が、患者が治療される数週間又は数ヶ月間にわたって治療セッションごとに作られることができる。
【0021】
ボーラス注入率、患者の心拍出量、又は機械設定における変動の影響を軽減又は除去する、転移血管新生の別の定量化尺度が、図3に図示される。時間‐強度曲線は、ボックス76及びボックス78に示されるように、転移及び実質のROIの各々に対してフィッティングされる。ボックス82及びボックス84において、各時間‐強度曲線の範囲が正規化される。便利な正規化スケールは0から1である。ボックス80において、2つの正規化曲線T‐I曲線Met及びT‐I曲線Parの差として、差分曲線ΔT‐I曲線が計算される。このプロセス及びその結果は図9a乃至図9dに図示される。図9aにおける点は、造影剤のwash‐in及びwash‐outの100秒間にわたって取得された転移(T‐IMet)及び正常実質(T‐IPar)の灌流強度値を図示する。2セットの値は0から1の同じスケールに正規化され、ここで、各データセットのピーク強度値は1つのレベルにスケールされる。これらの曲線は、転移に対する動脈相の間の造影剤の特徴的な早期wash‐inと、門脈相の間の肝実質の後期灌流を図示する。図9bにおいて、曲線92(例えば誤差関数又は対数正規分布)が転移の灌流値にフィッティングされ、曲線94が実質の灌流値にフィッティングされる。図9cは、取得された強度データ値無しで2つの曲線92及び94を濃い線で示す。図9dは、図9cの2つの曲線92及び94の計算された差分ΔT‐I曲線である曲線90を示す。腫瘍治療が成功であり、転移の血管新生が治療によって減少するとき、ΔT‐I曲線は漸進的平坦化を示し、直線に近づく。これは予想される結果である、なぜならば、病変が消失されたとき、体内のその位置は正常実質のように反応し、正常組織と病変位置に対する2つの(今や実質的に同一の)曲線の差はゼロに近づくからである。差分曲線は、差分曲線の最大傾斜などのパラメータ値として表現されることもできる。最大傾斜値がゼロに近づく(傾斜がない)とき、これは差分曲線が直線に近づいていることを示す。
【0022】
図9a乃至図9dのグラフの時間尺度から、造影剤のwash‐in及びwash‐outの典型的期間は100秒間持続し得るということがわかる。これは、各強度値が病変の同じ領域のものであるように、画像データを取得する臨床医が病変の同じ画像を着実に100秒間維持しなければならないことを意味する。例えば取得中にプローブが動く場合、病変が画像面から出てしまう可能性があり、取得されたデータは使用されることができない。たとえプローブが患者の身体に対して安定に保たれたとしても、病変はやはり患者の呼吸運動のためにプローブ視野に対して動いてしまう可能性がある。呼吸運動の影響を克服する1つの方法は、画像取得を呼吸サイクルに同期(gate)させることである。呼吸信号は、患者の胸部周りの歪みセンサ又は圧力センサを有するゴムバンドのような既知の手段によって取得されることができる。別の技術は、患者の胸部にわたるセンサ間に小信号を送信し、患者の胸部インピーダンス変化を測定することである。これらの及びその他の技術は、呼吸サイクルの周期的信号を生じることができ、画像の取得を呼吸サイクルの同じ位相に同期させるために使用されることができる。本発明の別の態様によれば、呼吸同期は、図4のブロック図に示されるように画像処理によって実行される。図5及び図6の右側の基本周波数画像は、各画像の下部において、はっきりと陰影のついた領域60を示す(これは標準的な白抜きのグレースケール超音波画像においては明るい領域となる)。この画像ランドマーク60はこれらの画像における患者の横隔膜である。図8において、画像中の横隔膜はトレーシング62によって輪郭を描かれている。図示された実施例において、トレーシング62は画像フレームシーケンスの各画像上の同じ位置において複製される。画像シーケンスが取得される際に画像中の生体構造がプローブに対して動かない場合、横隔膜ランドマーク60は各画像においてトレーシングアウトライン62に存在する。しかしながら呼吸運動は、特に深呼吸すると、横隔膜60をトレーシングの内外に動かし得る。図4の画像プロセッサ100は、同じ位置、図8の実施例においてはトレーシング62である、ROIDにおいて、横隔膜ランドマークを探すことによってこの変化を検出する。横隔膜ランドマーク60が画像においてその予想される位置に見られるとき("はい")、画像は処理及び定量化へと進められる。しかしながら、呼吸運動が横隔膜ランドマーク60を画像におけるその予想されるROID位置から動かす場合("いいえ")、この画像は処理から省略される。このプロセスはシーケンスにおける全画像に適用され、横隔膜の定位置に常に位置合わせされていないこれらの画像を破棄することによって、横隔膜の運動によって示されるような、転移のイメージングに対する呼吸運動の影響が除去されるようになっている。呼吸同期を実行する他の考えられる方法もまた存在する。例えば、時間‐強度曲線は横隔膜の一部に密接に従うROIから形成されることができ、値の閾値が検出される。そして強度値が閾値以下であるいかなる画像も破棄される。他の動き補正ベースのアルゴリズムもまた、呼吸運動を検出しそれに対し同期させることができる。
【0023】
本発明の定量化測定は、3乃至5つの治療セッションにわたる8人の患者の腫瘍治療の結果をモニタするために臨床環境において使用された。WITRの測定値は、治療セッションごとに患者ごとに計算された。良い応答者と悪い応答者に対する結果が図10に図示される。このグラフが示す通り、WITRは各治療セッションで治療に成功した患者では1(unity)に近づいた。最終的に治療に反応しなかったグループの患者(悪い応答者と示される)では、WITRは1から離れていた。このグラフによって、WITR測定が治療の実際の臨床結果とよく相関し、治療生体指標として使用され得ることがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍治療の進捗を評価するための超音波画像診断システムであって、
腫瘍及びその隣接組織の超音波画像のシーケンスを、造影剤が前記組織に灌流する際に取得するための超音波プローブと、
腫瘍及び正常組織に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する時間‐強度パラメータ計算機と、
前記腫瘍のwash‐inパラメータと前記正常組織のwash‐inパラメータの比率を計算する比率計算機とを有する、超音波画像診断システム。
【請求項2】
前記超音波画像のシーケンスが造影剤エコーデータを含み、
前記時間‐強度パラメータ計算機がさらに曲線を前記造影剤エコーデータにフィッティングする、請求項1に記載の超音波画像診断システム。
【請求項3】
前記wash‐inパラメータが曲線パラメータである、請求項2に記載の超音波画像診断システム。
【請求項4】
前記時間‐強度パラメータ計算機がさらに前記造影剤エコーデータを誤差関数にフィッティングする、請求項2に記載の超音波画像診断システム。
【請求項5】
前記wash‐inパラメータが前記誤差関数のパラメータである、請求項4に記載の超音波画像診断システム。
【請求項6】
前記時間‐強度パラメータ計算機が前記造影剤エコーデータを数学モデルにフィッティングする、請求項2に記載の超音波画像診断システム。
【請求項7】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、手動で特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記腫瘍に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項1に記載の超音波画像診断システム。
【請求項8】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、画像処理によって特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記腫瘍に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項1に記載の超音波画像診断システム。
【請求項9】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、手動で特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記正常組織に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項1に記載の超音波画像診断システム。
【請求項10】
腫瘍治療の進捗を評価するための超音波画像診断システムであって、
腫瘍及びその隣接組織の超音波画像のシーケンスを、造影剤が前記組織に灌流する際に取得するための超音波プローブと、
腫瘍及び正常組織に対する前記造影剤の時間‐強度曲線を計算する時間‐強度曲線計算機と、
腫瘍及び正常組織の時間‐強度曲線の差分曲線を計算する差分曲線計算機とを有する、超音波画像診断システム。
【請求項11】
前記超音波画像のシーケンスが造影剤エコーデータを含み、
前記時間‐強度パラメータ計算機がさらに曲線を前記造影剤エコーデータにフィッティングする、請求項10に記載の超音波画像診断システム。
【請求項12】
wash‐inパラメータが曲線パラメータである、請求項11に記載の超音波画像診断システム。
【請求項13】
前記時間‐強度パラメータ計算機がさらに前記造影剤エコーデータを誤差関数にフィッティングする、請求項11に記載の超音波画像診断システム。
【請求項14】
前記wash‐inパラメータが前記誤差関数のパラメータである、請求項13に記載の超音波画像診断システム。
【請求項15】
前記時間‐強度パラメータ計算機が前記造影剤エコーデータを数学モデルにフィッティングする、請求項11に記載の超音波画像診断システム。
【請求項16】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、手動で特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記腫瘍に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項10に記載の超音波画像診断システム。
【請求項17】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、画像処理によって特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記腫瘍に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項10に記載の超音波画像診断システム。
【請求項18】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、手動で特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記正常組織に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項10に記載の超音波画像診断システム。
【請求項1】
腫瘍治療の進捗を評価するための超音波画像診断システムであって、
腫瘍及びその隣接組織の超音波画像のシーケンスを、造影剤が前記組織に灌流する際に取得するための超音波プローブと、
腫瘍及び正常組織に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する時間‐強度パラメータ計算機と、
前記腫瘍のwash‐inパラメータと前記正常組織のwash‐inパラメータの比率を計算する比率計算機とを有する、超音波画像診断システム。
【請求項2】
前記超音波画像のシーケンスが造影剤エコーデータを含み、
前記時間‐強度パラメータ計算機がさらに曲線を前記造影剤エコーデータにフィッティングする、請求項1に記載の超音波画像診断システム。
【請求項3】
前記wash‐inパラメータが曲線パラメータである、請求項2に記載の超音波画像診断システム。
【請求項4】
前記時間‐強度パラメータ計算機がさらに前記造影剤エコーデータを誤差関数にフィッティングする、請求項2に記載の超音波画像診断システム。
【請求項5】
前記wash‐inパラメータが前記誤差関数のパラメータである、請求項4に記載の超音波画像診断システム。
【請求項6】
前記時間‐強度パラメータ計算機が前記造影剤エコーデータを数学モデルにフィッティングする、請求項2に記載の超音波画像診断システム。
【請求項7】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、手動で特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記腫瘍に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項1に記載の超音波画像診断システム。
【請求項8】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、画像処理によって特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記腫瘍に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項1に記載の超音波画像診断システム。
【請求項9】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、手動で特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記正常組織に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項1に記載の超音波画像診断システム。
【請求項10】
腫瘍治療の進捗を評価するための超音波画像診断システムであって、
腫瘍及びその隣接組織の超音波画像のシーケンスを、造影剤が前記組織に灌流する際に取得するための超音波プローブと、
腫瘍及び正常組織に対する前記造影剤の時間‐強度曲線を計算する時間‐強度曲線計算機と、
腫瘍及び正常組織の時間‐強度曲線の差分曲線を計算する差分曲線計算機とを有する、超音波画像診断システム。
【請求項11】
前記超音波画像のシーケンスが造影剤エコーデータを含み、
前記時間‐強度パラメータ計算機がさらに曲線を前記造影剤エコーデータにフィッティングする、請求項10に記載の超音波画像診断システム。
【請求項12】
wash‐inパラメータが曲線パラメータである、請求項11に記載の超音波画像診断システム。
【請求項13】
前記時間‐強度パラメータ計算機がさらに前記造影剤エコーデータを誤差関数にフィッティングする、請求項11に記載の超音波画像診断システム。
【請求項14】
前記wash‐inパラメータが前記誤差関数のパラメータである、請求項13に記載の超音波画像診断システム。
【請求項15】
前記時間‐強度パラメータ計算機が前記造影剤エコーデータを数学モデルにフィッティングする、請求項11に記載の超音波画像診断システム。
【請求項16】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、手動で特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記腫瘍に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項10に記載の超音波画像診断システム。
【請求項17】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、画像処理によって特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記腫瘍に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項10に記載の超音波画像診断システム。
【請求項18】
前記時間‐強度パラメータ計算機が、手動で特定される前記画像のシーケンスにおけるROIから前記正常組織に対する前記造影剤のwash‐inパラメータを計算する、請求項10に記載の超音波画像診断システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【公表番号】特表2011−509789(P2011−509789A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543613(P2010−543613)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【国際出願番号】PCT/IB2009/050276
【国際公開番号】WO2009/093211
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(510196822)
【出願人】(510196833)
【出願人】(510196844)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【国際出願番号】PCT/IB2009/050276
【国際公開番号】WO2009/093211
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(510196822)
【出願人】(510196833)
【出願人】(510196844)
【Fターム(参考)】
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