説明

足場

本発明は、誘導型の組織の再生および修復のための医療機器として用い得る足場に関するものであり、とりわけ、本発明は、約1.2から4.0μmの平均繊維直径を有する繊維を含む足場であって、前記繊維がグリコリドを含む足場を対象としている。本発明はさらに、細胞原料の細胞群の選択的捕捉のための足場の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、「細胞を播種された機器および方法(Cell seeded devices and methods)」という発明の名称の、2006年5月12日に出願された英国仮出願第0609455.1、および、「足場(Scaffold)」という発明の名称の、2007年2月14日に出願された英国仮出願第0702846.7の利益を主張するものであり、それらの内容の全ては参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、誘導型の組織の再生および修復、ならびに細胞原料からの細胞群の選択的捕捉のための医療機器として用い得る足場に関するものである。
【背景技術】
【0003】
足場技術は、慢性および急性の創傷での真皮の再生における使用で知られている。これらの技術の多くは、動物または植物の組織から抽出される、コラーゲン、絹、アルギン酸、キトサン、およびヒアルロン酸といった、比較的純粋な天然ポリマーの生物学的特性を利用する。他の技術は、複数の天然高分子を含む、処理された細胞外基質(脱細胞化された)の材料に基づくものである。そのような足場の一例はOasis(登録商標)(Healthpoint Limited)であり、これは、I型コラーゲン、グリコサミノグリカン、およびいくつかの成長因子を含む、ブタ由来の無細胞性の小腸粘膜下層からなる、生物学的に誘導された、細胞外基質に基づく創傷用製品である。
【0004】
しかし、潜在的な、病原体の伝染、免疫反応、取り扱いの困難性、機械的特性、および制御が不十分な生分解性から、天然ポリマーの使用についての懸念が存在する1
【0005】
エレクトロスピニングの技術は、1930年代の初頭に、産業用または家庭用の不織布製品を製造するために最初に導入された2。近年では、この技術は、組織工学において用いるためのポリマー繊維の足場を形成するために用いられている。この技術は、天然ポリマーまたは合成ポリマーの溶液を毛細管に押し通し、先端にポリマー溶液の滴を形成させ、先端と回収標的との間に大きな電位差を与えることを伴う。電界が液滴の表面張力に勝ると、ポリマー溶液の噴流が始まり、回収標的に向かって加速する。噴流が空気中を移動するにつれ、溶媒は蒸発し、不織ポリマー布が標的上に形成される。平均繊維直径がマイクロメートルまたはナノメートル規模であるそのような繊維布は、組織工学用途において用いるための複雑な三次元の足場を製造するために用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】英国仮出願第0609455.1
【特許文献2】英国仮出願第0702846.7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
科学界において、直径が小さい繊維を有する足場は、細胞の接着および増殖の測定により明らかにされているように、最も優れた生物学的応答をもたらすということが広く認められている3。これは、細胞が接着し、その後増殖し得る、大きな表面積を繊維が有することによるものであると考えられる。繊維の直径と孔径との間に強い相関関係が存在するため、直径が小さい繊維を有する足場は全て、小さい孔径によっても特徴付けされる。しかし、これは足場への細胞の移動に対して負の影響を有しており、足場の周囲を取り囲む代替組織の再生を制限して、足場の中心を実質的に無細胞にする可能性がある。
【0008】
既知のエレクトロスピニングされた足場の多くに関連する予期せぬ問題は、表1に示すように、それらを体温の水溶液内でインキュベートすると直径が不安定になることである。この不安定性は、足場の収縮を顕微鏡で調べること、ならびに最初の繊維構造の喪失および最初の孔径の減少を顕微鏡により調べることにより測定可能である。足場の収縮は、足場の挙動、および細胞環境との足場の相互作用に対する、重要な影響を潜在的に有し得るため、直径が不安定な足場の利用は最小限であろう。
【0009】
驚くべきことに、本発明者らは、細胞の接着、増殖、および移動に最適な構造を有し、一方でまたこれらの最初の細胞プロセスに必要な時間にわたって直径の安定性も示す足場を同定した。
【0010】
血液は、赤血球、白血球、および血小板に分類される、様々な特殊化した細胞型を含む。栓球とも呼ばれる血小板の主要な機能は止血である。血小板は、ECMタンパク質、ならびに成長因子などのサイトカイン、ならびに、セロトニン、ブラジキニン、プロスタグランジン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、およびヒスタミンなどの他の炎症性因子を含む、多くの因子を血液中に放出し、それにより、細胞の増殖、およびその領域への移動を増加させ、血管を拡張し、多孔性にする。
【0011】
ある細胞型の局所投与は、外因性因子の局所投与よりも効果的であるということが示されている。したがって、ある状況下において、特定の治療上有益な細胞のサブセットを血液サンプルから選択的に回収することが望ましい場合がある。例えば、血小板の外部源を創傷部位に迅速に付与して身体の固有の修復メカニズムを強化し得るようにするために、血小板群を血液サンプルから選択的に単離および回収することが望ましい場合がある。
【0012】
さらに、細胞を有さない、移植された足場は、細胞を播種された機器と同一の構造的完全性を示さない。このことにより、機器が真に機能的になるまでの時間が長くなり、その時間の間に機器が機能しなくなり得る。
【0013】
足場のいくつかの医療および/または手術での応用において、細胞の移動は移植後に生じれば十分であり得るが、他の状況においては、既に細胞を含んでいる足場を移植することが望ましい場合がある。
【0014】
足場への播種の既知のプロセスは、バイオリアクター内での細胞群との足場の培養であり、それにより、細胞が徐々に足場に浸潤することが可能になる。しかし、バイオリアクターの使用は高価であり、技術的に困難で、最終生成物を生成するために数週間を要する。
【0015】
移植前の足場への細胞の直接の注入を試みても、足場の全体にわたった適切な分布は得られず、機能の喪失が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、本発明の足場が、移植後の細胞の接着、増殖、および移動に最適な形状を示すことに加え、サンプルから特定の細胞群を優先的に捕捉するために細胞捕捉機器において使用し得るということも見出した。
【0017】
本発明の足場は、約20万〜30万個/mm3の血小板濃度を有する血液サンプルから血小板群を選択的に捕捉する。赤血球は選択的に捕捉されない。血小板の直径が約2〜3μmであり赤血球の直径が約6〜8μmであるため、この選択は特に驚くべきことである。血小板を播種されたこの足場は医療部位および/または手術部位に移植され得る。
【0018】
本発明の足場はまた、約5000〜7000個/mm3の白血球濃度を有する血液サンプルから白血球群を選択的に捕捉する。赤血球は選択的に捕捉されない。
【0019】
本発明の一態様によると、約1.2から4.0μmの平均繊維直径を有する繊維を含む足場であって、前記繊維がグリコリドを含む足場が提供される。
【0020】
本発明の実施形態において、平均繊維直径は約1.3から2.9μmである。本発明のさらなる実施形態において、平均繊維直径は約1.5から3.5μmであり、より特徴的には約1.9から2.6μmである。
【0021】
本発明の実施形態において、繊維は90%超のポリマー、95%超のポリマーを含むか、または100%のポリマーで構成される。
【0022】
本発明において用いられるポリマーは、天然、合成、生体適合性、および/または生分解性であり得る。
【0023】
「天然ポリマー」という用語は、天然に存在するあらゆるポリマー、例えば絹、コラーゲンベースの材料、キトサン、ヒアルロン酸、およびアルギン酸を言う。
【0024】
「合成ポリマー」という用語は、例えそのポリマーが天然に存在する生物材料から作られるものであっても、天然では見られないあらゆるポリマーを意味する。例としては、限定はされないが、脂肪族ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレン、シュウ酸、ポリアミド、チロシン由来ポリカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、アミノ基を含むポリオキサエステル、ポリ(無水物)、ポリホスファゼン、およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0025】
「生体適合性ポリマー」という用語は、生物の細胞、組織、または体液と接触した際に免疫反応および/または拒絶反応などの副作用を生じさせない、あらゆるポリマーを言う。
【0026】
「生分解性ポリマー」という用語は、例えばプロテアーゼによって生理環境において分解され得るあらゆるポリマーを言う。生分解性ポリマーの例には、コラーゲン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリジオキサノン(PDO)、トリメチレンカーボネート(TMC)、ポリエチレングリコール(PEG)、アルギン酸、キトサン、またはそれらの混合物が含まれる。
【0027】
本発明の実施形態において、繊維のポリマーの内容物は、85%超のグリコリド、90%超のグリコリド、95%超のグリコリドを含むか、または100%のグリコリドで構成される。
【0028】
ポリグリコリドとも呼ばれるポリグリコール酸(PGA)は、生分解性の熱可塑性ポリマーであり、最も単純な直鎖状の脂肪族ポリエステルである。ポリグリコール酸は、グリコリドの重縮合または開環重合によりグリコール酸から調製することができる。PGAは、骨格におけるエステル結合の存在による加水分解性の不安定性を特徴としており、したがって、生理条件に晒されると、PGAは無作為な加水分解により分解される。分解生成物であるグリコール酸は非毒性であり、トリカルボン酸回路内に入り得、その後、水および二酸化炭素として排出される。ポリマーは4から6カ月の期間に生物によって完全に再吸収されることが示されている4
【0029】
本発明の特定の実施形態において、グリコリドはPGAである。
【0030】
本発明の実施形態において、繊維はグリコリドおよび/またはラクチドおよび/または他の適切なヒドロキシ酸の共重合体を含む。適切な共重合体の例には、乳酸との共重合体である乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)、ε-カプロラクトンとの共重合体であるグリコリドカプロラクトン共重合体(PGACL)、および、トリメチレンカーボネートとの共重合体であるグリコリドトリメチレンカーボネート共重合体が含まれる。
【0031】
本発明の実施形態において、共重合体はラクチドグリコリド共重合体(PLGA)であり、PGA:PLA比は、約85:15、または約85.25:14.75、または約85.50:14.50、または約85.75:14.25、または約90:10、または約90.25:9.75、または約90.50:9.50、または約90.75:9.25、または約91:9、または約92:8、または約93:7、または約94:6、または約95:5、または約96:4、または約97:3、または約98:2、または約99:1である。
【0032】
本発明はさらに、PGAとポリエステルとの混紡も包含する。適切な混紡の例には、ポリ乳酸と混紡されたポリグリコール酸(PGA/PLA)、さらにはポリグリコール酸と混紡されたポリジオキサノン(PDO/PGA)が含まれる。混紡は少なくとも1つの共重合体で構成され得ると想定される。
【0033】
ポリマーの全ての立体異性体が想定される。
【0034】
足場または本発明の足場は、有利なことに、生理条件に晒された場合に直径が安定であることが分かっており、表1に示すように、身体内に移植されると、それらは10%未満、より特徴的には5%未満の最少の収縮を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
この最初の直径の安定性により、表面積および孔径が、足場との細胞の相互作用における最初の段階の間、比較的安定なままとなる。例えば、この安定な孔隙率は、足場の中央への細胞の移動を可能にするために重要である。
【0037】
本発明の実施形態において、足場は不織である。不織布は、織られても編まれてもいないものであり、それらは典型的には、小さな繊維を合わせてシートまたは網状物を形成し、次にそれらを、接着剤を用いて機械的に結合する(フェルトの場合のように、それらを鋸歯状の針と噛み合わせて、繊維間の摩擦により繊維を強くすることによる)か、または熱的に結合する(結合剤(粉末状、ペースト状、またはポリマー溶融物状)を用いて、温度を上げて結合剤を網状物の上に溶融させることによる)ことにより製造される。
【0038】
本発明のさらなる実施形態において、足場は、エレクトロスピニング(溶液エレクトロスピニングまたは溶融エレクトロスピニング)、相分離、メルトブロー、紡績、または自己組織化により製造される。エレクトロスピニングは好ましい製造方法であり、それは、特に医療での応用において使用するための適切なサイズの足場に関して、エレクトロスピニングにより生産を産業レベルにまで拡大することが容易に可能になるからである。
【0039】
生体親和性と、増殖している、かつ/もしくは足場を通って移動している細胞の認識とを高めるため、および/または足場の治療可能性を高めるため、細胞のコロニー形成、分化、管外遊出、および/または移動を促進するための少なくとも1つの作用物質を足場の繊維と組み合わせることが想定される。この少なくとも1つの作用物質は、生物学的な、化学的な、または無機の作用物質であり得、繊維に付着させられ、埋め込まれ、または含浸され得る。
【0040】
適切な作用物質の例は、銀、ヨウ素、またはクロルヘキシジンなどの、抗微生物作用物質である。
【0041】
作用物質は、繊維の形成の前にポリマー溶液内に添加し得る。それに加えて、または代わりに、繊維の形成後に少なくとも1つの作用物質を繊維に組み合わせることができる。
【0042】
薬物送達への応用のための足場の使用もまた提供される。医療用化合物を足場の繊維と組み合わせ得る。
【0043】
本発明のさらなる態様によると、本発明による足場を含む医療用包帯、例えば創傷用の包帯が提供される。
【0044】
身体の広い表面積にわたる火傷には、負傷の後できる限りすぐに表皮様の機能を回復させる専門的な治療が必要である。これらの包帯の主要な目的は、水分を保持し環境障害に抵抗する、身体の能力を回復させることである。これは、多くの市販の製品において、シリコンシートによりもたらされ表皮類似物として作用する、合成表皮としばしば呼ばれる密封包帯を用いて創傷を覆うことにより達成され得る。しかし、これらの密封包帯の真下の治癒速度は依然として次善であり、細胞が適切に応答する追加の層を組み入れることにより著しく向上し得る。
【0045】
1979年にWoodroofにより開発されたBiobrane(登録商標)(Dow Hickam Pharmaceuticals Inc)は、極薄のシリコン膜に機械的に結合した、特注で編まれたナイロン布で構成される。包帯の全体はブタI型コラーゲンペプチドで一様に被覆されており、前記ペプチドは、独立して包帯に共有結合し、真皮類似体として作用する。
【0046】
Transcyte(登録商標)(Smith & Nephew, Plc)は、ポリマー膜と、ナイロンメッシュ上でインビトロで無菌条件下において培養されたヒト新生児の線維芽細胞とから構成される。
【0047】
Biobrane(登録商標)およびTranscyte(登録商標)は共に、ナイロンメッシュ側を創床側にし、シリコン層を一番上にして、火傷に適用される。作用の第1の様式は、シリコン層が合成表皮として作用し、傷ついた表皮からの患者の過度の水分損失を防ぎ、負傷に対する環境障害もまた防ぐというものである。作用の第2の様式は、シリコン層の下に存在するタンパク質が生物学的影響を及ぼし、火傷の表面の上皮再形成を促進し、それにより閉鎖を早めるというものである。
【0048】
病原体の伝染および免疫反応の可能性のため、これらの合成の火傷用包帯における天然ポリマーの使用には懸念が存在する。
【0049】
例えばエレクトロスピニングにより適切な基板上に堆積した場合の本発明の足場は、先行技術の包帯内に存在する生物学的に誘導された材料に関連する問題を克服する、理想的な火傷用包帯を提供することが確認されている。
【0050】
本発明の実施形態において、基板層は、生物材料、合成材料、または混紡材料から構成される。適切な材料には、ポリマー、例えば、ポリセルロース、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、樹脂、ナイロン、シリコン、ポリエステル、ポリオレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、共重合体、およびそれらの混合物が含まれる。
【0051】
シリコン基板は、蒸気および空気に対する透過性に従って分類され得る。密封シリコン基板は蒸気および空気を透過させない。穿孔性のシリコン基板は、穿孔を通しての蒸気および空気の交換が可能であり、一方、透過性のシリコン基板は蒸気および空気を透過させることができる。
【0052】
本発明の特定の実施形態において、シリコン基板はシリコンベースのフィルム、例えばCica-Care(登録商標)(T J Smith & Nephew Limited)である。
【0053】
基板層は、適切な接着剤を用いて、足場に着脱可能に付着し得る。あるいは、足場を基板層に直接エレクトロスピニングすることができる。このことにより、包帯を製造するための比較的低コストの手段が得られる。
【0054】
そのような包帯において、基板層は、過度の水分損失および火傷に対する環境障害を防ぐ。繊維状の足場は上皮細胞の移動および増殖を促進し、したがって上皮再形成および創傷の閉鎖を促進する。上皮再形成が完了すると、半透過性の障壁層が足場から剥がされ、再吸収可能な繊維は創床に残り、時間とともに無害の分解産物に分解する。
【0055】
異なる構造を有する足場の層を、例えばエレクトロスピニングにより、シリコンベースのフィルムなどの基板上に堆積し得るということがさらに想定される。例えば、シリコンベースのフィルムに最も近い層は、直径および孔径が小さい繊維で構成され得、それにより、シリコンベースのフィルムの下での、繊維の表面上でのケラチノサイトの移動が促進される。使用の際に創床内の深くに置かれる足場の層は、直径および孔径が大きめの繊維から構成され得、それにより、線維芽細胞および内皮細胞などの他の細胞型の浸潤が可能になる。
【0056】
活性物質、例えば、傷跡の解消を改善し傷跡の形成を阻害する作用物質、例えばインスリン、ビタミンB、ヒアルロン酸、マイトマイシンC、成長因子(TGFβ)、サイトカイン、コルチコステロイド、および/または上皮再形成を促進する作用物質を足場と組み合わせ得るということもまた想定される。
【0057】
本発明のさらなる態様によると、医療用包帯、例えば、シリコンベースのフィルムなどの基板上に堆積された足場を含む火傷用包帯が提供される。
【0058】
本発明のまたさらなる態様によると、グリコリドを含む繊維を標的上にエレクトロスピニングすることを含む足場の製造方法であって、前記繊維が約1.2から4.0μmの平均繊維直径を有する方法が提供される。
【0059】
本発明の実施形態において、グリコリドはPGAである。
【0060】
足場の製造は研究所または製造工場で行い得る。足場は適切な標的上に紡績し得、梱包し得、滅菌し得る。あるいは、本方法は、エレクトロスピニングされた足場が創床内に直接紡績されるよう、in situで、例えば創傷の部位で行うことができる。これは、手動操作用のエレクトロスピニング機器を用いることにより達成し得る。次に、シリコンベースのフィルムなどの最上の層を、足場の上面に付与し得る。
【0061】
本発明の実施形態において、足場は、シリコンベースのフィルムなどの半透過性の障壁層の一方の側にエレクトロスピニングされた繊維と共に、火傷用包帯の一部を形成する。火傷が治癒すると、半透過性の障壁層は残存している足場から剥がされ、足場は創傷内に生物学的に再吸収される。
【0062】
本発明のさらなる態様によると、創傷用包帯を創傷に付与する段階を含む、創傷における組織再生を促進する方法であって、前記包帯が、ポリグリコール酸を含む繊維を含む足場を含み、平均繊維直径が約1.2から4.0μmである方法が提供される。
【0063】
また、ヒトとヒト以外の動物との両方を含む動物の真皮の疾患を治療するための、半透過性の障壁層上に堆積された本発明の足場を含む医療用包帯の使用も提供される。真皮の疾患とは、動物の皮膚上の火傷であり得る。医療用包帯は、動物の皮膚の少なくとも表皮まで広がっている火傷の治療に用い得る。医療用包帯はまた、動物の皮膚の真皮または皮下脂肪領域まで広がっている火傷の治療にも用い得る。
【0064】
組織欠損の修復に適した足場上に細胞を迅速に播種することを可能にする機器および方法が必要とされている。患者自身の細胞が用いられ、細胞の採取が望ましい自己移植手順には、足場へ細胞を播種することと、細胞を播種された足場を組織欠損へ移植することとを1つの医療手順で行うことが特に重要である。有利には、組織の採取と播種された機器の移植との間の時間は30分以下であるべきである。有利には、この手順は1つの段階からなる手順であるべきである。
【0065】
したがって、本発明のさらなる態様によると、細胞原料からの細胞群の選択的捕捉のための、本発明による足場の使用が提供される。
【0066】
足場は、捕捉された細胞を「播種」されているものであると説明し得る。本発明の実施形態において、足場は有利には有核細胞、例えば血小板および/または白血球を播種されている。
【0067】
血小板および白血球は創傷の治癒において主要な役割を有する。
【0068】
血小板または赤血球は血液中を循環する細胞片であり、血栓の形成をもたらす一次止血の細胞メカニズムに関与する。
【0069】
白血球は、感染症および異物の両方から身体を防御する免疫系の細胞である。創傷部位にある血小板は、白血球を誘引して創傷の治癒に必要な他の化学伝達物質(例えばサイトカイン)の放出を刺激する、血小板由来成長因子などの成長因子を放出する。炎症期は、治癒プロセスのその後の期に対する主要な刺激因子であり、感染した慢性または壊死性の創傷においては長引いて慢性炎症をもたらし得る。白血球のサブセットである単球は、内皮細胞および線維芽細胞などの局所的な細胞を誘引し活性化する成長因子を分泌するマクロファージに分化し、肉芽組織の形成を開始する。炎症が長引くとマクロファージ活性が増大し、それによりサイトカインの放出が増加し、それがさらに炎症プロセスを刺激する。
【0070】
本発明の実施形態において、足場はエレクトロスピニングされた繊維を含み、典型的には、約50nmから5μm、特定すると約1.2から4.0μm、さらに特定すると約1.5から3.5μm、なおさらに特定すると1.9から2.6μmの繊維直径を有する。
【0071】
本発明の実施形態において、足場は、1から25μm、より好ましくは8から12μmの孔径を有する。
【0072】
細胞原料は、例えば骨髄、血液(例えば臍帯血または末梢血)、血漿、血清、尿、羊水、精液、脳骨髄液、リンパ液、または唾液に由来可能である。細胞原料は希釈せずに機器内に導入し得る。あるいは、細胞原料は、希釈し得るか、または、リン酸緩衝生理食塩水、組織培養培地、もしくは当技術分野で知られている他の希釈剤を用いて懸濁液にし得る。あるいは、単離した細胞を細胞原料として用いることができる。適切な細胞には、幹細胞、前駆細胞、骨細胞、軟骨細胞、または線維芽細胞が含まれるが、適切な細胞は、単離され得、修復すべき組織欠損に適している、あらゆる細胞であり得る。細胞は典型的には、本明細書において先述した、適した希釈剤における懸濁液である。
【0073】
細胞原料は、足場に入れる前に、プレフィルターを通して濾過し得る。この濾過前段階は、細胞原料を機器内に導入する前に行い得る。あるいは、細胞原料は、装置内の、足場内へ入る前の任意のポイントに置かれたプレフィルターに通すことができる。プレフィルターは粗フィルター(約70μmのフィルター)であり得る。
【0074】
本発明の実施形態において、足場は細胞捕捉機器内に置かれ、この機器内において足場は、細胞原料が足場を通ってより容易に濾過されることを可能にするように配置される。
【0075】
足場を通しての細胞原料の濾過は、受動濾過または強制濾過によるものであり得る。強制濾過は、細胞原料の濾過の速度を上昇させるため特に有利であり、患者自身の体液から自己細胞を誘導するために手術室において機器を用いる場合は、患者が手術台の上にいる時間を最小限にすることが極めて重要であり、前記速度の上昇は特に有利である。さらに、強制濾過では、捕捉された細胞が実質的に足場の全体にわたって分布する。
【0076】
圧力発生機器は、この強制濾過を可能にするために、前記機器に陰圧または陽圧のいずれかを付与し得る。
【0077】
適切な陰圧発生機器は真空ポンプである。このポンプは、大気圧より少なくとも5mb低い真空を機器に供給するために用い得る。本発明の実施形態において、真空ポンプは、必要に応じて大気圧より最大900mb低い真空を供給し得る。真空は、細胞原料が濾過前室内に導入される前、導入される間、または導入された後に付与され得る。
【0078】
あるいは、細胞含有溶液を足場に押し通すための陽圧を加えるために、陽圧発生機器を用いる。この陽圧は陰圧源の代わりとなり得るか、または陰圧源を補完し得る。適切な陽圧発生機器はシリンジである。
【0079】
陽圧または陰圧が機器に加えられている間に足場が晒される力は、足場の構造にダメージを与える可能性を有し得る。したがって、足場は有利には支持構造体により支持される。この構造体は、圧力に対して足場を支持する一方で、細胞原料の通過を可能にする。適切な支持構造体には、Hollanderメッシュ、ポリエステル、またはナイロンの支持体が含まれる。
【0080】
使用の際に、細胞原料を細胞捕捉機器内の濾過前室に導入し、足場を通して細胞原料を引き込むために陽圧または陰圧を加える。材料内に含まれる第一の細胞群は足場により捕捉され、一方で、第二の細胞群は足場を通過して濾過後室に入る。
【0081】
本発明の実施形態において、第一の細胞群は血小板および/または白血球を含むか、またはそれらにより構成される。
【0082】
本発明の実施形態において、第二の細胞群は赤血球を含むか、またはそれにより構成される。この第二の群は状況によっては「廃棄物」と考えられ、即座に廃棄される。あるいは、この第二の群は場合によっては、少なくとも2回目の濾過サイクルのために濾過前室に戻され得る。
【0083】
本発明の実施形態において、捕捉された細胞群を含む足場は部位に直接移植される。そのような実施形態において、足場は好ましくは生体適合性であり生物学的に再吸収可能である。そのような足場は、移植の際に治療に有益な血小板および/または白血球などの細胞群で構成されている。さらに、足場は、内因性細胞の接着、増殖、および移動の促進に最適な構造を有しており、一方でまた、これらの最初の細胞プロセスに必要な時間にわたって直径の安定性も示す。
【0084】
足場は、足場が治療上有益である、ヒトまたは動物体(すなわちヒト以外の動物)内のあらゆる部位に移植し得る。例えば、足場は軟組織欠損に移植し得る。軟組織という用語は、身体の他の構造および器官を接続し、支持し、または取り囲む組織を言う。軟組織には、筋肉、腱、線維性組織、脂肪、血管、神経、ならびに滑膜組織および皮膚が含まれる。
【0085】
本発明の他の実施形態において、捕捉された細胞群は足場から洗い出し、単離された細胞源として使用する。
【0086】
細胞捕捉機器は好ましくは使い捨て可能であるが、滅菌に適した材料で製造することができる。そのような滅菌方法には、オートクレーブ法、電子ビーム法、エチレンオキシド法、または当技術分野において知られている他の方法が含まれる。
【0087】
本発明によると、細胞を足場上に迅速に播種するための方法であって、細胞原料を足場に付与する段階と、細胞原料が実質的に足場の全体にわたって分布するように陰圧または陽圧を加える段階とを含む方法が提供される。
【0088】
本発明によると、不均一の細胞原料から赤血球を除去するための方法が提供される。この方法は、赤血球が実質的により小さいことにより、この不均一の細胞源における他の構成要素とサイズが大きく異なるということに基づいている。したがって、少なくとも5mbの真空下において、赤血球の大部分は足場の孔を通って他方の側へ出、一方で、他の大きい方の構成要素は依然として捕捉されたままであり、足場の孔を通過することができない。
【0089】
本発明によると、圧力発生手段、送達室、足場室、足場支持構造体、および受容室を含む部品のキットも提供される。このキットは場合によっては、粗濾過手段、例えば70μmのフィルターを有する。このキットは場合によっては、細胞原料を有する。
【0090】
定義
別段の定めがない限り、「含んでいる」および「含む」という用語ならびにそれらの文法上の変形は、「開かれた」または「包含的な」表現を表すことを意図しており、それにより、それらは、列挙された要素を含むだけでなく、追加の列挙されていない要素の包含も可能にする。
【0091】
本明細書において用いる場合、「約」という用語は、ポリマー繊維の構成要素の濃度に関して、典型的には記載された値の+/-5%、より典型的には記載された値の+/-4%、より典型的には記載された値の+/-3%、より典型的には記載された値の+/-2%、より典型的には記載された値の+/-1%、さらに典型的には記載された値の+/-0.5%を意味する。
【0092】
本発明は、添付の図面を参照して、一例として本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の足場の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の足場を通しての細胞の移動を測定するために用いた細胞移動アッセイの概略図である。
【図3】本発明の足場に対する、細胞の生物学的応答を示すグラフである。
【図4】本発明の足場を含む細胞捕捉機器の例を示す図である。
【図5】本発明によるエレクトロスピニングされた足場への、ブタ血液サンプルからの細胞の捕捉の速度を示す図である。
【図6】本発明によるエレクトロスピニングされた足場への、ヒト血液サンプルからの細胞の捕捉の速度を示す図である。
【図7】厚さが100μmのエレクトロスピニングされたPGA足場を様々な溶液で予め湿潤させることによる、ヒト血液サンプルからの細胞の捕捉の速度に対する影響を示す図である。
【図8】厚さが300μmのPGAのエレクトロスピニングされた足場を様々な溶液で予め湿潤させることによる、ヒト血液サンプルからの細胞の捕捉の速度に対する影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
足場、足場の調製方法、および足場の使用の、典型的で非限定的な実施形態を以下に記載する。
【0095】
エレクトロスピニングを用いた、適切な繊維直径を有するPGA足場の作製方法
Lakeshore Biomaterialsにより提供される1.24dL/gの固有粘度を有する1.729gのPGAを、Apollo Scientificにより提供される18.200gのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)内に溶解し、9.5%w/wのPGA溶液を形成した。このポリマー溶液を、孔が10μmで直径が50mmのWhatmanのディスク状のフィルターを通して、0.03ml/分で分注するためのシリンジポンプセット内に存在する10mlのシリンジ内に濾過した。シリンジの出口を柔軟性のあるプラスチックチューブ(内経1.5mm)に取り付け、チューブの他方の端を、先細の部分を取り除くために水平にカットした18ゲージ針に取り付けた。針は、エレクトロスピニングの際の空気の動きを最小にするために用いる箱(内部寸法:幅55cm×高さ60cm×深さ60cm)の中の標的の15cm上に垂直に固定した。標的は、モーターに取り付けられているアルミニウムのマンドレル(直径5cm×長さ10cm)で構成されており、モーターにより標的が50rpmで回転し得、それにより繊維材料の一様な被覆が得られた。標的からの繊維足場の分離を容易にするために、交換可能なベーキングペーパー(12.7×17.5cm)で標的を覆った。
【0096】
エレクトロスピニングのプロセスを開始するために、Glassman電圧発生器を介して針に電圧を加え、一方で標的をアースした。十分な電圧が加えられ、それによりポリマー溶液の液滴が針の先端から落ちるのが止まり、代わりにポリマーの噴流として離れて行くようになった際に、エレクトロスピニングのプロセスを開始した。ポリマーの噴流は多くの小さな噴流に分かれ、この小さな噴流はアースされた回転している標的に向かって加速し、そこで繊維として堆積した。エレクトロスピニングのプロセスを開始するため、および針の先端で安定な液滴を維持するために必要な、最小の電圧を用いた。駆動時間は必要な足場の深さに応じて調節した。
【0097】
残留するHFIP溶媒を最小限にするため、エレクトロスピニングされた足場を室温で少なくとも3日間真空乾燥した。
【0098】
繊維直径の決定
10mmの足場の円を切り出し、それらを10mmの金属の小片に接着し、切り出された足場を真空下で金/パラジウム合金でスパッタコーティングして表面の帯電を減少させることで、足場についての、図1に示すような走査型電子顕微鏡写真(SEM)が得られた。コーティングされた足場を、5kVの加速電圧、210μAのタングステンフィラメントの電流、および15mmの作動距離にセットされた走査型電子顕微鏡(JSM-6400)を用いて画像化した。
【0099】
1つのSEM画像における20個の繊維からなるサンプルの繊維直径を定規で無作為に測定し、スケールバーを用いて実際の繊維直径に変換し、平均および標準偏差を計算することにより、SEM画像から繊維直径を手動で決定した。
【0100】
結果
平均繊維直径は2.42μm±0.35であった。
【0101】
直径の安定性の試験
正方形のサンプル(3×3cm2)を、はさみを用いて足場から切り出した。次に、サンプルをポリスチレン製のペトリ皿に置き、15mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で覆い、37℃のインキュベーターに24時間置いた。湿潤したサンプルを脱イオン水ですすいだ後、全てのサンプルを再び測定し、「縮小%=100×(最初の面積-最後の面積)/最初の面積」として定義される「収縮%」を表すことにより、サンプルの直径を最初の直径と比較した。各タイプの足場を3セット試験した。結果を表1に示す。
【0102】
生物学的応答
様々な構造を有する、エレクトロスピニングされた様々な足場の生物学的効果を、細胞に基づいた3回の独立したアッセイを用いて評価した。細胞の接着、増殖、および足場への移動を測定するためのアッセイを実施した。
【0103】
接着アッセイ
エレクトロスピニングされた足場を様々な濃度のPGA溶液から調製し、約200nmから約3μmの様々な足場構造を得た。直径が約20μmの繊維を有するPGAフェルト(対照サンプル)を同時に評価した。足場/対照を、プレス型抜き機(Samco SB-25)を用いて直径が13mmのディスクに切断し、Minucellクリップ(Minutissue Vertriebs, GmbH)内に置き、Uvasol 400を用いて紫外線下で20分間滅菌した。ヒト真皮の線維芽細胞を13代継代およびそれ以降にわたって用いて、マイコプラズマの感染がないことをDAPI染色(Vector Labs)により確認した。
【0104】
ヒト真皮の線維芽細胞を、100μlのDMEM+10%FCS(Sigma)内で、足場当たり10万個の細胞の密度でサンプルおよび対照に播種し、37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。最大でウェル当たり1×105個の細胞、最少で0.3×104個の細胞の密度で(全容量400μL)線維芽細胞を組織培養ウェルに直接播種することにより、標準曲線も作成した。インキュベーション期間の後、無菌のPBSに全ての足場を浸して、付着していない細胞を除去し、足場を新たな24ウェルプレートに移した。400μLのDMEM+10%FCSを各足場に添加し、40μLのWST-1(Roche diagnostics)を全てのウェル(標準曲線のウェルを含む)に添加した。プレートを+37℃、+5%CO2でさらに1時間インキュベートした。次に、各ウェルからの100μlの培地を96ウェルプレートに移した(3重で)。450nm(参照波長655nm)での吸光度は各サンプルで存在する生存細胞の数に比例し、Multiskan Ascentプレートリーダーを用いて読み取った。標準曲線を用いて吸光度の値を細胞数に変換し、これらの値を用いて結果を表した。
【0105】
実験は3つの独立した実験で3重に行った。
【0106】
増殖アッセイ
エレクトロスピニングされた足場を様々な濃度のPGA溶液から調製し、約200nmから約3μmの様々な足場構造を得た。直径が約20μmの繊維を有するPGAフェルト(対照サンプル)を同時に評価した。足場/対照を、プレス型抜き機(Samco SB-25)を用いて直径が13mmのディスクに切断し、Minucellクリップ(Minutissue Vertriebs, GmbH)内に置き、Uvasol 400を用いて紫外線下で20分間滅菌した。ヒト真皮の線維芽細胞を13代継代およびそれ以降にわたって用いて、マイコプラズマの感染がないことをDAPI染色(Vector Labs)により確認した。
【0107】
ヒト真皮の線維芽細胞を、100μlのDMEM+10%FCS(Sigma)内で、足場当たり4万個の細胞の密度でサンプルおよび対照に播種し、37℃、5%CO2で1時間接着させた。サンプルを培養条件下で、1時間(基準の付着の測定を行うため)または48時間(経時的な細胞増殖を測定するため)インキュベートした。最大でウェル当たり1×105個の細胞、最少で0.3×104個の細胞の密度で、線維芽細胞を組織培養ウェルに直接播種することにより、各時点で標準曲線を作成し、細胞の測定の前に1時間付着させた。細胞を足場に1時間付着させた後、無菌のPBSに全ての足場を浸して、付着していない細胞を除去し、足場を新たな24ウェルプレートに移した。次に、1時間(基準)の測定を行うために用いたサンプルを400μLのDMEM+10%FCS+40μLのWST-1(Roche diagnostics)内に移した。次に、プレートを、37℃、5%CO2でさらに1時間インキュベートした。48時間の時点を測定するために用いたサンプルをPBSに浸し、400μLのDMEM+10%FCS内の24ウェルプレートに移し、プレートをさらに48時間インキュベートした。48時間後、新たな細胞の標準曲線を上記のように作成し、細胞数を上記のようにWSTを用いて測定した。WST-1とのインキュベーションの後、各ウェルからの100μlの培地を96ウェルプレートに移した(3重で)。450nm(参照波長655nm)での吸光度は各サンプルで存在する生存細胞の数に比例し、Multiskan Ascentプレートリーダーを用いて読み取った。標準曲線を用いて吸光度の値を細胞数に変換し、これらの値を用いて結果を表した。実験は3つの独立した実験で3重に行った。
【0108】
移動アッセイ
細胞が試験サンプルの足場内に移動する能力、および前記足場を通って移動する能力を評価するためにアッセイを実施した。実験の機構を図2に示す。
【0109】
(a)細胞が播種されたナイロンディスク-図2に示すサンドイッチ構造の最下層
ヒト真皮の線維芽(HDF)細胞を直径が13mmのナイロンディスク上に播種した。簡潔に説明すると、700万〜1200万個の細胞を、25個のナイロンディスクおよび50mLのDMEM+10%FCS(TCM)を含む、シリコン処理したTechneフラスコに添加し、次に15分ごとに24時間、45rpmで5分間撹拌した(37℃で5%CO2)。ナイロンディスクを、各々が2mLのTCMを含む、非組織培養用のプラスチック製の24ウェルプレートのウェル内に個々に移し、細胞がコンフルエントになるまで、5%CO2において37℃でさらに3日間インキュベートした。
【0110】
(b)試験サンプル-図2に示すサンドイッチ構造の中間層
エレクトロスピニングされた足場を様々な濃度のポリグリコール酸(PGA)溶液から調製し、約200nmから約3μmの様々な足場構造を得た。直径が約20μmの繊維を有するPGAフェルト(対照サンプル)を同時に評価した。足場/対照を、プレス型抜き機(Samco SB-25)を用いて直径が13mmのディスクに切断し、Uvasol 400を用いて紫外線下で20分間滅菌した。
【0111】
(c)おとり層-図2に示すサンドイッチ構造の最上層
無菌のナイロンディスク(直径13mm)をラット尾部のコラーゲンで無菌状態で被覆し、空気乾燥させた。コラーゲンで被覆されたナイロンディスクを図2に示す最上層として用いた。
【0112】
アッセイの手順
上述した3つの層を13mmのMinucellクリップ(13mmのMinusheet、参照1300、Minucell and Minutissue Vertriebs, GmbH)内に共に挟んだ。minucellの組立品を、各々が2mLのDMEM/10%FCS(Sigma)を含む、非組織培養用のプラスチック製の24ウェルプレートのウェルに移した。プレートを37℃/5%CO2で2日間インキュベートした。この時間の後、minucellの組立品を解体し、層を分離して、400μLのDMEM/10%FCSを含む24ウェルプレートの個々のウェル内に移した。40μLのWST-1試薬(Roche diagnostics)を各ウェルに添加し、プレートを5%CO2において37℃で1時間インキュベートした。100μLの体積を3重で96ウェルプレートに移し、Multiskan Ascentプレートリーダーで、655nmの参照波長で、450nmでの吸光度を読み取った。細胞数に対する吸光度の標準較正曲線を、実施した各アッセイの試験プレートについて作成し、サンドイッチ構造の各層に存在する細胞数を概算するために用いた。全細胞数を各サンドイッチ構造について計算し(3つの層全てについての細胞数の合計)、中間層および最上層に存在する細胞を全細胞数に対するパーセンテージとして概算した。
【0113】
実験は、3回の独立した実験で3重に実施した。全般的な生物学的応答としてデータを表すために、各アッセイのデータを、この場合はPGAフェルトである共通の対照からのパーセンテージの変化に変換した。フェルトに対する生物学的応答を0として表す。組み合わせた結果を図3に示す。このグラフは、約2.5μmの繊維での効率の明確なピークを示している。このグラフはまた、グラフ上の点が平均である、足場の各バッチで得られた繊維直径の範囲(x軸の誤差のバー)を示す。
【0114】
細胞捕捉機器
図4を参照すると、送達室20は足場室40と通じており、足場室40は受容室70と通じている。粗フィルター30は送達室20内に位置している。足場支持構造体50は足場室40内に位置している。足場60は足場支持構造体50の最上部上に位置している。真空ポンプ80は受容室70に操作可能に接続している。細胞原料10は送達室20に導入され、真空により、粗フィルター30を通って足場室40内に引き込まれ、その後、足場60を通って引き込まれ、足場には細胞原料の一部が保持され、一部は通過して受容室70内に入る。
【実施例1】
【0115】
細胞捕捉装置において用いるためのエレクトロスピニングされた足場の製造方法
エレクトロスピニングされた足場を、ポリグリコリド(PGA)、ポリラクチドグリコリド共重合体(PLGA)、ポリグリコリドトリメチルカーボネート(PGA-co-TMC)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(D-ラクチド)(PDLA)、およびポリ(L-ラクチド)(PLLA)を用いたエレクトロスピニングのプロセスにより作製した。ポリマー溶液を、所望の速度でポリマーを分注するように設定されているシリンジポンプ内に存在する10mlのシリンジ内に入れた。次に、シリンジの先端をチューブ(内径1.5mm)に取り付け、チューブの他方の端を、先細の部分を取り除くために水平にカットした18ゲージ針に取り付けた。針は、エレクトロスピニングの際の空気の動きを最小にするために用いる箱(内部寸法:幅55cm×高さ60cm×深さ60cm)の中の標的の10から20cm上に垂直に固定した。標的は、モーターに取り付けられている、マンドレルとして知られている金属ローラーで構成されており、モーターを最大2000rpmで回転させ、それによりナノ繊維材料の一様な被覆を得た。金属表面からの足場の分離を容易にするために、交換可能なベーキングペーパーでマンドレルを覆った。エレクトロスピニングのプロセスを開始するために、針に電圧を加え、一方で標的をアースした。十分な電圧で、ポリマー溶液が針の先端から落ちるのが止まり、代わりに小さなポリマー噴流として、アースされた回転している標的に向かって離れて行き、そこでナノ繊維として堆積した。
足場の繊維の直径:
標準:2.41±0.25μm、2.41±0.22μm
極厚:2.43±0.60μm、2.40±0.19μm
【実施例2】
【0116】
骨髄細胞懸濁液の単離
サンプル採取の日に食肉処理場から入手した処分したばかりのブタの2つの大腿骨頭から、骨梁を取り除いた。大腿骨を膝から取り外し、全ての筋肉、軟骨、腱、および、骨髄サンプルを汚染し得る他のあらゆる組織を除去した。大腿骨頭を糸のこぎりを用いて細かくして骨梁を露出させ、それを無菌条件下で穿孔機を用いて除去した。
【実施例3】
【0117】
細胞懸濁液の希釈および最適濃度
大腿骨頭の骨髄から単離した細胞は、最初はメッシュを通過しない固体画分であるため、細胞を希釈して流体画分とした。骨髄を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、血漿、または新鮮なブタ血液で、1ml当たり1×107個の白血球(WBC)の濃度まで希釈した。細胞懸濁液の100μlのアリコートを取り、Coulterカウンター(Beckman Coulter Ac.T 5 diff. Counter)で計数した。Beckman Coulterカウンターは、サンプルに含まれている白血球および赤血球の両方のカテゴリーの数を、サイズおよび粒度の両方に基づいて計数し、それにより、様々な細胞の最初のおよび最終的な細胞濃度の測定を行うことが可能となり、その結果、足場上に捕捉された単核細胞のパーセンテージを計算することが可能となった。
【実施例4】
【0118】
異なる細胞型を調査した
細胞播種機器は、ヒト骨髄、ブタ骨髄、ブタ骨髄間質細胞、および真皮の線維芽細胞を含む、様々な異なる細胞原料で用いられている。ヒト骨髄を、骨髄穿刺液としてヒトドナーから直接得た。ブタ骨髄間質細胞およびヒト真皮の線維芽細胞を、組織培養で増殖させた源から得た。これらの細胞源は流体として得、実施例3で記載した固体骨髄画分のように希釈した。結果は、異なる細胞原料の間で同等かつ再現性のあるものであり、類似の単核細胞画分が、エレクトロスピニングされた足場上に捕捉された。
【実施例5】
【0119】
エレクトロスピニングされた足場上への細胞の播種の方法
5mlの前記細胞懸濁液を、細胞播種機器の最上部にある送達室内に真空下で添加した。この室には、あらゆる大きな粒子、例えば骨の小片を捕捉するための、最初の70μmのフィルターが存在する。流体のほとんどは、ステンレス鋼製のHollanderメッシュ上に支持されているエレクトロスピニングされた足場を含む足場室内に素通りした。大きい単核細胞画分のほとんどは、エレクトロスピニングされた足場の上または内部に捕捉され、小さい画分はメッシュを通って受容室内に引き込まれた。細胞が播種された足場を取り除き、受容室内の不要な細胞を廃棄した。
【0120】
エレクトロスピニングされた足場(12+/-4μmの孔径を有する)は90%超の有核細胞を捕捉し、高いパーセンテージの赤血球を除去した。
【0121】
【表2】

【実施例6】
【0122】
孔径の調査
エレクトロスピニングされた足場は、7〜15μmの孔径を有する場合に、有核細胞の選択的な捕捉について最も効果的であった。
【0123】
【表3】

【実施例7】
【0124】
足場の材料のタイプに対する調査
PGAおよびPLGAのエレクトロスピニングされた繊維の両方で同一の結果が得られた。
【0125】
【表4】

【実施例8】
【0126】
エレクトロスピニングされた足場と不織メッシュとの間の比較
エレクトロスピニングされた足場をまた、支持メッシュの収量と組み合わせて、他の不織メッシュと比較し、データは、これらのエレクトロスピニングされた足場により、特に単核細胞群の捕捉に関して良好な結果が得られることを示す。
【0127】
【表5】

【実施例9】
【0128】
エレクトロスピニングされた足場上への血球の捕捉
PGA足場は標準で100μmであり、極厚の深さのもので300μmである。
【0129】
【表6】

【0130】
方法
ボランティアからのインフォームドコンセントを得て、約17mlの新鮮なヒト血液を、静脈穿刺により、2つのACD-Aバキュテナー内に回収した。あるいは、ブタ血液を、4%(w/v)のクエン酸3ナトリウム溶液を1:9の割合(クエン酸ナトリウム対血液)で含む瓶内に回収した。白血球、血小板、および赤血球の数を、Beckman Coulter Ac.T 5 diff.カウンターを用いて測定した。
【0131】
機器を、大気圧よりも100mBar低く設定した真空ポンプ(ILMVAC)に接続した。30mmのPGAのエレクトロスピニングされた足場を、同様に直径が30mmの、250μmの金属メッシュにより支持して、所定の箇所に固定した。エレクトロスピニングされたPGA足場を、紫外線に20分間晒すことにより滅菌した。血液を濾過する前に、5mlの無菌PBSを濾過することで各足場を事前に湿潤させた。
【0132】
3人のヒトまたは3頭のブタのドナーから得た5mlの血液の3セットを、事前に湿潤させた足場を通して濾過した。Coulterカウンターを用いて濾液を計数し、元の血球数と比較して、各細胞型についての捕捉率を決定した。
【0133】
結果は、図5および6を参照のこと。
【実施例10】
【0134】
血球の捕捉率に対する、様々な溶液での異なる事前の足場の湿潤の影響
方法
深さが100μm(標準)および300μm(極厚)のPGA足場を、エレクトロスピニングし、かつ上述のように30mmのディスクに切断することで作製した。3つの異なるドナーから得た、4%(w/v)のクエン酸3ナトリウム溶液を1:9の割合(クエン酸ナトリウム対血液)で含む、5mlのブタ血液の3セットを、機器と、大気圧よりも100mBar低い真空とを用いて、足場を通して濾過したが、足場は、250μmの金属メッシュにより支持されており、(i)5mlの水、(ii)5mlのPBS、(iii)5mlのDMEM+10%FCSのいずれかを濾過することで事前に湿潤させているか、または(iv)乾燥したままのものである。濾液内の白血球、赤血球、および血小板の数をBeckman Coulter Ac.T 5 diff.カウンターを用いて測定し、元の血液サンプル内の細胞数と比較した。
【0135】
結果は、図7および8を参照のこと。
(参考文献)

【符号の説明】
【0136】
10 細胞原料
20 送達室
30 粗フィルター
40 足場室
50 足場支持構造体
60 足場
70 受容室
80 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約1.2から4.0μmの平均繊維直径を有する繊維を含む足場であって、前記繊維がグリコリドを含む足場。
【請求項2】
平均繊維直径が約1.5から3.5μmである、請求項1に記載の足場。
【請求項3】
平均繊維直径が約1.9から2.6μmである、請求項1または2に記載の足場。
【請求項4】
繊維が90%超のポリマーを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の足場。
【請求項5】
繊維が95%超のポリマーを含む、請求項4に記載の足場。
【請求項6】
繊維が100%のポリマーで構成される、請求項4または5に記載の足場。
【請求項7】
ポリマーが85%超のグリコリドを含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の足場。
【請求項8】
ポリマーが95%超のグリコリドを含む、請求項7に記載の足場。
【請求項9】
ポリマーが100%のグリコリドで構成される、請求項8に記載の足場。
【請求項10】
グリコリドがポリグリコール酸である、請求項1から9のいずれか一項に記載の足場。
【請求項11】
繊維がグリコリドとヒドロキシ酸との共重合体を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の足場。
【請求項12】
ヒドロキシ酸がラクチドである、請求項11に記載の足場。
【請求項13】
共重合体がラクチドグリコリド共重合体である、請求項12に記載の足場。
【請求項14】
構造が不織である、請求項1から13のいずれか一項に記載の足場。
【請求項15】
繊維がエレクトロスピニングされている、請求項1から14のいずれか一項に記載の足場。
【請求項16】
グリコリドを含む繊維を標的上にエレクトロスピニングする段階を含む足場の製造方法であって、前記繊維が約1.2から4.0μmの平均繊維直径を有する方法。
【請求項17】
平均繊維直径が約1.5から3.5μmである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
平均繊維直径が約1.9から2.6μmである、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
繊維が90%超のポリマーを含む、請求項16から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
繊維が95%超のポリマーを含む、請求項16から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
繊維が100%のポリマーで構成される、請求項16から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ポリマーが85%超のグリコリドを含む、請求項16から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ポリマーが95%超のグリコリドを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ポリマーが100%のグリコリドで構成される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
グリコリドがポリグリコール酸である、請求項16から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
繊維がグリコリドとヒドロキシ酸との共重合体を含む、請求項16から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
ヒドロキシ酸がラクチドである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
共重合体がラクチドグリコリド共重合体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
繊維が基板上にエレクトロスピニングされている、請求項16から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
基板がシリコンベースのフィルムである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1から15のいずれか一項に記載の足場を含む医療用包帯。
【請求項32】
包帯が創傷用包帯である、請求項31に記載の医療用包帯。
【請求項33】
細胞原料からの細胞群の選択的捕捉のための、請求項1から15のいずれか一項に記載の足場の使用。
【請求項34】
約1.9から2.6μmの平均繊維直径を有する繊維を足場が含む、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
約7〜15μmの平均孔径を有する繊維を足場が含む、請求項33に記載の使用。
【請求項36】
細胞原料の付与の前に足場を湿潤させるために塩溶液が用いられる、請求項33から35のいずれか一項に記載の使用。
【請求項37】
細胞原料が生体液である、請求項33から36のいずれか一項に記載の使用。
【請求項38】
捕捉された細胞群が血小板および/または白血球を含む、請求項33から37のいずれか一項に記載の使用。
【請求項39】
捕捉された細胞群を含む足場がヒトまたは動物体内の部位に移植される、請求項33から37のいずれか一項に記載の使用。
【請求項40】
部位が軟組織欠損である、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
添付の実施例を参照して本明細書に実質的に記載されている、足場、方法または使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−536842(P2009−536842A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508489(P2009−508489)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001713
【国際公開番号】WO2007/132186
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】