説明

距離変動計測装置

【課題】距離変動計測を行う前に光軸調整を行う機構を備えた距離変動計測装置を得る。
【解決手段】レーザ光による送信系−受信系間の距離変動計測装置であり、送信系が、基準となる変調信号を生成する変調信号発生器1d、変調信号に基づいてレーザ光を照射する光送信器1a−1c、光送信器のレーザ光のビーム方向を変更するビーム方向変更手段3,4、を含み、受信系が、送信系からのレーザ光を受光し受信信号を得る光受信器9a−9c、受信信号の位相検波を行い強度と位相を求める位相検波器9d、光受信器のレーザ光の受光視野を変更する受光視野変更手段11,12、位相検波器で求めた受信信号の強度が所定の閾値以上になるように受光視野変更手段11,12または通信機能により送信系のビーム方向変更手段3,4を制御して受光視野またはビーム方向の調整を行う光学的アライメント調整手段14,6を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ送信機と受信機間の距離を高精度に計測する距離変動計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の距離変動計測装置としては、例えば下記特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
下記特許文献1に記載の従来の距離変動計測装置では、伝播媒質中による受信SN比の劣化を軽減するために、変調をかけたレーザ光を送信する送信機と変調信号の位相を測定する受信機を分担させ、片道でのレーザ測距を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−273350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来技術では、送信機と受信機の距離が離れている場合、光軸調整に時間を要するという問題があった。また、レーザ光に変調をかける発振器と、位相測定を行う際に用いる発振器がそれぞれ独立に構成されており、従って、発振器の周波数揺らぎが距離精度を制限してしまうという問題がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、設置時に送受信の光学的アライメントがとれていないことを想定し、距離変動計測を行う前に光軸調整を行う機構を有する距離変動計測装置を得ることを目的とする。
また、光基準信号を別途伝送し、この基準信号を用いて光受信信号を位相検波することにより、発振器の自身の変動の影響を軽減し、送受間の距離変動を高精度に計測する距離変動計測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、送信系から放射されたレーザ光を受信系で受光し送信系と受信系の間の距離変動を計測する距離変動計測装置であって、前記送信系が、基準となる変調信号を生成する変調信号発生器と、前記変調信号に基づいてレーザ光を照射する光送信器と、前記光送信器のレーザ光のビーム方向を変更するビーム方向変更手段と、を含み、前記受信系が、前記送信系からのレーザ光を受光し受信信号を得る光受信器と、前記受信信号の位相検波を行い強度と位相を求める位相検波器と、前記光受信器のレーザ光の受光視野を変更する受光視野変更手段と、前記位相検波器で求めた前記受信信号の強度が所定の閾値以上になるように前記受光視野変更手段または通信機能により前記送信系のビーム方向変更手段を制御して受光視野またはビーム方向の調整を行う光学的アライメント調整手段と、を含むことを特徴とする距離変動計測装置にある。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、距離変動計測を行う前に光軸調整を行う機構を備えた、また光基準信号を別途伝送し、この基準信号を用いて光受信信号を位相検波することにより、装置自身による位相揺らぎを補正し、送受間の距離変動を高精度に計測する距離変動計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る距離変動計測装置の概略的構造図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る距離変動計測装置のより詳細な構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る距離変動計測装置に設けられる長さ制御機構の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明による距離変動計測装置を各実施の形態に従って図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において、同一もしくは相当部分は同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る距離変動計測装置の概略的構造図である。この発明による距離変動計測装置は、例えば距離変動の計測対象領域の両端に配置される送信系と受信系、およびこれらの間に接続された光ファイバ8からなる。
【0012】
送信系は、光送信部1、光学窓2、仰角走査部3、方位角走査部4、基準信号送信部5、データ通信部6、DC電源部7、スリップリング16で構成される。送信系は、光受信部9、光学窓10、仰角走査部11、方位角走査部12、基準信号受信部13、データ通信部14、DC電源部15、スリップリング17で構成される。
【0013】
送信系において、DC電源部7、基準信号送信部5、データ通信部6と、仰角走査部3、光送信部1とがスリップリング16を介して電気的に接続される。同様に、受信系において、DC電源部15、基準信号受信部13、データ通信部14と、仰角走査部11、光受信部9とがスリップリング17を介して電気的に接続される。また、送信系と受信系とが光ファイバ8により接続される。
【0014】
図2はこの発明の実施の形態1に係る距離変動計測装置のより詳細な構成図である。送信系の光送信部1は、送信光学系1a、LD(レーザダイオード)1b、LDドライバ1c、変調信号発生器1dにより構成される。基準信号送信部5は、LD5a、LDドライバ5bにより構成される。また受信系の光受信部9は、受信光学系9a、PD(フォトダイオード)9b、TIA(Trans Impedance Amplifier)9c、位相検波器(デジタル式)9dにより構成される。基準信号受信部13は、PD13a、TIA13bにより構成される。
【0015】
図2において、光送信部1の変調信号発生器1dは、TTL(Transistor-Transistor Logic)レベルのデジタル信号の基準クロック信号及びこのクロックに同期したアナログ正弦波の変調信号を発生する。LDドライバ1cは、変調信号を入力信号とし、DC成分が重畳された駆動電流を出力する。LD1bは注入された駆動電流に対しレーザ光を発光させる。送信光学系1aはビーム形状を整形し、媒質中にレーザ光のビームを照射する。
【0016】
基準信号送信部5のLDドライバ5bは、光送信部1の変調信号発生器1dの基準クロック信号に同期した駆動電流を出力する。LD5aは注入された駆動電流に対しレーザ光を発光させる。
【0017】
光ファイバ8は、基準信号送信部5で発生させた基準信号光(レーザ光)を受信系の基準信号受信部13のPD13aに伝送する。基準信号受信部13のPD13aは、受信光を電気信号に変換する。TIA13bはPD13aからの電気信号を増幅し、TTL(Transistor-Transistor Logic)レベルのデジタル信号の基準クロック信号すなわち基準信号を出力する。
【0018】
光受信部9の受信光学系9aは、光送信部1において照射されたレーザ光を受信し、PD9b上に集光する。PD9bは、受信光を電気信号に変換する。TIA9cはPD9bからの電気信号を増幅する。位相検波器9dは、基準信号受信部13で得られた基準信号(基準クロック信号)を用いて光受信部9で得られた受信信号の位相検波を行い、受信信号の強度と、基準信号と受信信号の位相の差に相当する電気信号(受信強度・位相信号)を出力する。
【0019】
受信系のデータ通信部14は、受信強度信号と位相信号を無線または有線にて所望の場所に送信する。また、受信強度値を予め定めた閾値と比較し、受信系の仰角走査部11および方位角走査部12へ制御信号を出力したり、送信系のデータ通信部6に対して送信系の仰角走査部3および方位角走査部4を駆動させるための指令信号を出力する。
【0020】
送信系のデータ通信部6は、受信系のデータ通信部14からの指令信号を受けると、該指令信号に従って送信系の仰角走査部3および方位角走査部4を駆動させるための制御信号を出力する。
【0021】
つぎに、この実施の形態1に係る距離変動計測装置の動作について説明する。この装置は、光軸合わせ(ステップ1)と距離変動計測(ステップ2)の2つの動作ステップがある。
【0022】
最初に、ステップ1の光軸合わせについて説明する。変調信号発生器1dから、基準クロック信号およびこのクロックに同期したアナログ正弦波信号が発生される。アナログ正弦波はLDドライバ1cを介しDC成分が重畳された電流信号に変換され、この信号でLD1bが駆動される。送信光学系1aからの出力光は正弦波で強度変調されたものとなる。基準クロック信号はスリップリング16を介して基準信号送信部5に送られ、LDドライバ5bを介してこの信号でLD5aの出力光が変調される。この変調された基準信号光は光ファイバ8を介し受信系へ伝送される。
【0023】
光送信部1からの出力光は光受信部9の受信光学系9aで受光され、PD9b、TIA9cで電気信号の受信信号に変換された後、位相検波器9dへ送られる。位相検波器9dでは、光ファイバ8を介し送られてきた基準信号光の電気信号である基準信号(光ファイバ8からの基準信号光が基準信号受信部13で復調された後、スリップリング17を介し位相検波器9dへ送られた基準クロック信号)を用い、光受信部9で電気信号に変換された受信信号の位相検波が行われる。この検波により、変調信号発生器1dの位相揺らぎの影響を軽減した受信信号の強度と位相が検出される。検出した強度・位相はスリップリング17を介してデジタル信号としてデータ通信部14に送られる。
【0024】
データ通信部14では、ステップ2の距離変動計測に先立ち、光受信部9から得られる受信信号の強度値を予め定めた閾値と比較し、閾値以上であれば、送信系の光送信部1の送信光学系1aの光軸と受信系の光受信部9の受信光学系9aの光軸が所望の程度に一致したものとして、距離変動計測のステップに進む。閾値未満であれば、両者の光軸が所望の程度に一致していないものとして、受信系の仰角走査部11および方位角走査部12に制御信号を与えて送信光学系1aの光軸を動かして再度受信強度計測を行うか、もしくは、送信系のデータ通信部6へ光軸の修正を指示する指令信号を有線または無線で送り、送信系のデータ通信部6から送信系の仰角走査部3および方位角走査部4に制御信号を送らせて受信光学系9aの光軸を動かして再度受信強度計測を行う。これを受信信号の強度が閾値以上になるまで繰り返し行い、光軸合わせのステップを終了する。
【0025】
次に、ステップ2の距離変動計測について説明する。光軸合わせの完了後に行われる距離変動計測では、位相検波器9dからの受信信号の位相出力を計測する。その際、基準信号受信部13からの基準信号を用いて受信信号の位相検波をすることで、基準信号と受信信号の位相の差φを算出し、受信信号の位相変動から送信系と受信系の間の距離変動ΔLを算出する。さらに、送信系側の変調信号発生器1dにおける周波数揺らぎによる位相の揺らぎを取り除く。これに基づき送信系と受信系の間の距離変動ΔLは以下の式により求める。
【0026】
ΔL=c/(2fm)×Δφ/(2π)
Δφ=φ−φ
但し
c:光速
fm:変調周波数
Δφ:検出位相の初期値からの変動
φ:検出位相の初期値(初回の、基準信号を用いて受信信号を位相検波して得られる基準信号と受信信号の位相の差)
φ:検出位相の現在値(今回の、基準信号を用いて受信信号を位相検波して得られる基準信号と受信信号の位相の差)
【0027】
なおデータ通信部14は、検出位相の初期値φ等のデータを記憶しておく記憶部を含む。
【0028】
この発明の実施の形態1に係る距離変動計測装置では、固定長の光ファイバ8を介した基準信号を用い、受信信号との位相差を計測することで、(距離の絶対値計測はできないものの)距離の変動計測が可能となる。また送信ビーム方向および受信視野を走査する機構を有し、設置後、自動光軸アライメントができるため、マニュアルでの光軸合わせが困難な深海での距離変動計測にも適用できる。
【0029】
また、光軸合わせを速やかに行うため、高速に方位走査をする際には一方向のエンドレス回転が必要であるが、この際必須となるスリップリング16,17での電力および電気信号伝送では、接触ノイズの混入が問題となる。この発明では、スリップリング16,17を介した伝送経路を全て信号のデジタル化および給電のDC化を行っているため、この問題を回避できる。
【0030】
さらに、この発明における距離変動計測装置では、図3に示すような光ファイバ8の長さを制御する長さ制御機構80を別途有する構成とし、周囲温度変動に依存することなく長さを一定に保持すれば、距離変動計測精度がさらに向上する。
【0031】
図3の長さ制御機構80では、基準信号送信部5から送信された基準信号光が光ファイバ8に挿入された部分反射鏡83で一部が反射され、この反射された信号光が同様に光ファイバ8に挿入されたサーキュレータ81で抽出される。サーキュレータ81で抽出された信号光はPD84で電気信号に変換された後、位相検波器85に入力し、光送信部1の変調信号発生器1dで生成される基準クロック信号との位相の差を検出する。サーボ回路86では、検出位相が初期に検出した位相となるよう光ファイバ8に設けられたファイバストレッチャ82を駆動する。なおサーボ回路86は、検出位相の初期値のデータを記憶しておく記憶部を含む。
【0032】
なお、この発明における距離変動計測装置では、スリップリングを介する部分がDC給電およびデジタル信号であれば、図2の構成に限るものではない。例えば、変調信号発生器1dからアナログ正弦波を発生させているが、この部分もデジタルであってもよい。変調効率が低下しSN比が低下するが、この構成にすることで変調信号発生器1dおよびLDドライバ1cをスリップリング16より下に置くことができ、方位回転部を軽量化することが可能となる。また、変調信号は正弦波でなく、パルスでもよい。この場合、受信系の光受信部9では、送信系から受信系までのパルスの到達時間の計測になるため、位相検波器9dのかわりに、例えば時間差計測回路となる。
【0033】
また、送信光学系1a,LD1b,LDドライバ1cが光送信器を構成し、仰角走査部3,方位角走査部4がビーム方向変更手段を構成し、受信光学系9a,PD9b,TIA9cが光受信器を構成し、仰角走査部11,方位角走査部12が受光視野変更手段を構成し、データ通信部6,データ通信部14が光学的アライメント調整手段を構成し、データ通信部14が距離変動測定手段を構成する。
【0034】
また、送信系のスリップリング16の下側の例えば図1で方位角走査部4,基準信号送信部5,データ通信部6,DC電源部7が収納されて示されている方形状部分、および受信系のスリップリング17の下側の例えば図1で方位角走査部12,基準信号受信部13,データ通信部14,DC電源部15が収納されて示されている方形状部分をそれぞれ固定セクション、送信系のスリップリング16の上側の例えば図1で光送信部1,光学窓2,仰角走査部3が含まれるドーム形状部分、および受信系のスリップリング17の上側の例えば図1で光受信部9,光学窓10,仰角走査部11が含まれるドーム形状部分をそれぞれ可動セクションとする。
【符号の説明】
【0035】
1 光送信部、1a 送信光学系、1b LD、1c LDドライバ、1d 変調信号発生器、2 光学窓、3 仰角走査部、4 方位角走査部、5 基準信号送信部、5a LD、5b LDドライバ、6 データ通信部、7 DC電源部、8 光ファイバ、9 光受信部、9a 受信光学系、9b PD、9c TIA、9d 位相検波器、10 光学窓、11 仰角走査部、12 方位角走査部、13 基準信号受信部、14 データ通信部、15 DC電源部、16,17 スリップリング、80 制御機構、81 サーキュレータ、82 ファイバストレッチャ、83 部分反射鏡、85 位相検波器、86 サーボ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信系から放射されたレーザ光を受信系で受光し送信系と受信系の間の距離変動を計測する距離変動計測装置であって、
前記送信系が、
基準となる変調信号を生成する変調信号発生器と、
前記変調信号に基づいてレーザ光を照射する光送信器と、
前記光送信器のレーザ光のビーム方向を変更するビーム方向変更手段と、
を含み、
前記受信系が、
前記送信系からのレーザ光を受光し受信信号を得る光受信器と、
前記受信信号の位相検波を行い強度と位相を求める位相検波器と、
前記光受信器のレーザ光の受光視野を変更する受光視野変更手段と、
前記位相検波器で求めた前記受信信号の強度が所定の閾値以上になるように前記受光視野変更手段または通信機能により前記送信系のビーム方向変更手段を制御して受光視野またはビーム方向の調整を行う光学的アライメント調整手段と、
を含むことを特徴とする距離変動計測装置。
【請求項2】
前記送信系が、
前記変調信号に基づいて基準信号光を発生する基準信号送信部と、
前記基準信号光を前記受信系に伝送する固定長の光ファイバと、
を含み、
前記受信系が、
前記光ファイバからの基準信号光を電気信号の基準信号に変換する基準信号受信部を含み、
前記位相検波器が前記基準信号を用いて受信信号を位相検波して基準信号と受信信号の位相の差を求め、
前記光学的アライメント調整手段で前記受信信号の強度が所定の閾値以上の時に、前記基準信号と受信信号の位相の差の変動に基づき位相揺らぎを補正した送信系と受信系の間の距離変動を求める距離変動測定手段をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の距離変動計測装置。
【請求項3】
前記光ファイバの長さを一定に保つ長さ制御機構をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の距離変動計測装置。
【請求項4】
前記送信系と受信系がそれぞれ固定セクションと、ビーム方向または受光視野の変更のために前記固定セクションに対して可動な可動セクションとからなり、前記前記固定セクションと可動セクションの間でスリップリングを介してデジタル信号伝送と直流の給電を行うことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の距離変動計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−21878(P2012−21878A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159844(P2010−159844)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】