説明

距離計

【課題】 被測定物までの距離が近い場合の距離計測において、コストの増大を抑制することを目的とする。
【解決手段】 前記測定用信号に同期して繰返し周期T1を有する第1の信号を発生し、又、前記反射信号に同期して繰返し周期T2を有する第2の信号を発生する信号発生手段と、前記第1の信号と第2の信号との位相差を検出する位相差検出手段と、前記第1の信号または第2の信号の繰返し数を計数する計数手段と、前記第1の信号と第2の信号とが同位相になるまでの前記繰返し数n、前記第1の信号の繰返し周期T1、前記第2の信号の繰返し周期T2及び前記送受信時間ΔTに基づいて送受信時間ΔTを算出し、当該送受信時間ΔTに基づき前記被測定物までの距離を求める演算手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、電波式距離計の一種であるパルスレーダ方式距離計は、被測定物へパルス状の送信信号を送信し、当該被測定物により上記送信信号が反射されて受信されるまでの時間に基づき被測定物までの距離を計測するものである。例えば、特開平11−352213号公報には、上記パルスレーダ方式距離計に関し、その計測精度の向上を目的とする技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−352213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようにパルスレーダ方式距離計では、パルス状の送信信号の送受信間の時間を直接測定することで被測定物までの距離を計測している。しかしながら、被測定物までの距離が数m〜数十mという至近距離である場合、上記送信信号の送受信間の時間はnsecオーダとなるため高精度な時間検出器を必要としていた。このような高精度な時間検出器は高価なものであり、距離計のトータルコストが増大するという問題がある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、被測定物までの距離が近い場合の距離計測において、コストの増大を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明では、距離計に係わる第1の解決手段として、被測定物へ測定用信号を送信信号として送信してから前記被測定物により反射され反射信号として受信されるまでの送受信時間ΔTに基づき前記被測定物までの距離を計測する距離計であって、前記測定用信号に同期して繰返し周期T1を有する第1の信号を発生し、又、前記反射信号に同期して繰返し周期T2(T2<T1)を有する第2の信号を発生し、尚且つ前記繰返し周期T1及び繰返し周期T2は前記送受信時間ΔTに対して下記条件式(1)が成立する値で設定されている信号発生手段と、前記第1の信号と第2の信号との位相差を検出する位相差検出手段と、前記第1の信号または第2の信号の繰返し数を計数する計数手段と、前記第1の信号と第2の信号とが同位相になるまでの前記繰返し数n、前記第1の信号の繰返し周期T1、前記第2の信号の繰返し周期T2及び前記送受信時間ΔTに関する下記演算式(2)に基づいて送受信時間ΔTを算出し、当該送受信時間ΔTに基づき前記被測定物までの距離を求める演算手段とを具備する、という手段を採用する。
【0006】
【数1】

【0007】
また、距離計に係わる第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、信号発生手段は、繰返し周期T2=k・T1(0.9≦k<1)を有する第2の信号を発生し、演算手段は、前記第1の信号と第2の信号とが同位相になるまでの前記繰返し数n、前記第1の信号の繰返し周期T1、前記第2の信号の繰返し周期T2=k・T1及び前記送受信時間ΔTに関する下記演算式(3)に基づいて送受信時間ΔTを算出する、という手段を採用する。
【0008】
【数2】

【0009】
また、距離計に係わる第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記測定用信号、前記第1の信号及び前記第2の信号はパルス信号であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被測定物までの距離が短く、送受信時間ΔTが小さい場合であっても、繰返し周期T1を有する第1の信号と繰返し周期T2を有する第2の信号とが同位相になるまでの第1の信号または第2の信号の繰返し数nを求めるだけで上記演算式(2)から送受信時間ΔTを算出することができるので送受信時間ΔTを直接測定する必要がない。従って、高精度な時間検出器を必要とせず、コストの増大を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る距離計の機能構成を示すブロック図である。図1において、符号1は測定用信号発生部、2は振幅変調器、3は送信部、4は送信アンテナ、5は受信アンテナ、6は受信部、7はパルス信号発生部、8は位相差検出回路、9はカウンタ回路10は距離演算部、11は表示部、Sは送信電波、Rは反射電波、Wは被測定物である。
【0012】
測定用信号発生部1は、測定用パルス信号a1と該測定用パルス信号a1に同期すると共に繰返し周期T1を有する第1のパルス信号b1とを生成し、測定用パルス信号a1を振幅変調器2へ出力する一方、第1のパルス信号b1を位相差検出回路8及びカウンタ回路9へ出力する。振幅変調器2は、上記測定用パルス信号a1を被変調信号として自ら発振した所定周波数の搬送波を振幅変調するものであり、当該振幅変調によって生成した振幅変調信号a2を送信部3に出力する。送信部3は、振幅変調信号a2を電力増幅し、送信信号a3として送信アンテナ4に出力する。送信アンテナ4は、送信信号a3を送信電波Sとして被測定物Wに向けて放射する。
【0013】
受信アンテナ5は、上記送信電波Sが被測定物Wに反射して発生する反射電波Rを捉え、
受信信号c1として受信部6に出力する。この受信信号c1は、微弱な振幅を有する信号であり、受信部6はこのような受信信号c1を電圧増幅すると共に復調を行うことにより受信パルス信号c2を生成してパルス信号発生部7に出力する。すなわち、上記受信パルス信号c2は振幅変調信号a2が復調され、測定用パルス信号a1が再生されたものである。パルス信号発生部7は、受信パルス信号c2をトリガ信号とすることによって当該受信パルス信号c2に同期すると共に繰返し周期T2=k・T1(kは係数:0≦k<1)を有する第2のパルス信号b2を発生して位相差検出回路8出力する。
【0014】
位相差検出回路8は、上記第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2との位相差を検出するものであり、当該位相差が零となり第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2とが同位相になるとタイミング信号d1をカウンタ回路9に出力する。カウンタ回路9は、上記第1のパルス信号b1の入力開始からタイミング信号d1が入力されるまでの期間における第1のパルス信号b1のパルス数(パルス信号b1の繰返し数)を計数するものであり、その計数値nを距離演算部10に出力する。
【0015】
距離演算部10は、上記繰返し周期T1、係数k及び下記演算式(3)を記憶すると共に、当該繰り返し周期T1、係数k、下記演算式(3)及び上記計数値nに基づいて測定用パルス信号a1と受信パルス信号c2との時間差ΔT(送受信時間)を算出し、さらに当該送受信時間ΔTと下記演算式(4)に基づいて本距離計と被測定物Wまでの距離Lを算出して表示部11に出力する。なお、下記演算式(4)における定数cは電波(送信電波S及び反射電波R)の伝播速度である。表示部11は、例えば液晶パネルであり、上記距離Lを表示する。
【0016】
【数3】

【0017】
次に、このように構成された本距離計の動作について図2を用いて詳細に説明する。
【0018】
図2は測定用信号a1、第1のパルス信号b1、受信パルス信号c2及び第2のパルス信号b2のタイミングチャート図である。図2のように、測定用信号発生部1は測定用信号a1に同期して繰返し周期T1を有する第1のパルス信号b1を生成し、また、パルス信号発生部7は、受信パルス信号c2に同期して、繰返し周期T2を有する第2のパルス信号b2を発生する。図2に示すように測定用信号a1と受信パルス信号c2との間には、被測定物Wまでの距離Lによって送受信にかかる時間(送受信時間)ΔTが生じることになる。すなわち、第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2とには初期位相差として送受信時間ΔTのずれがある。
【0019】
ここで、繰返し周期T1、T2及び送受信時間ΔTとの間に、T2<T1及び下記条件式(1)が成立するように上記繰返し周期T1、T2の値を設定すると、図2のように第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2とは、ある時間Ts=n・T1で同位相になる。nは同位相になるまでの第1のパルス信号b1のパルス数(計数値)である。また、同位相になるまでの第1のパルス信号b1のパルス数と第2のパルス信号b2のパルス数は同じ値となる。
【0020】
【数4】

【0021】
この時の送受信時間ΔT、繰返し周期T1、T2及び同位相になる時間Tsとの間には下記演算式(2)が成立する。
【0022】
【数5】

【0023】
ここで、繰返し周期T2=k・T1(0≦k<1)とすると、上記演算式(2)式に代入して下記演算式(3)が得られる。
【0024】
【数6】

【0025】
上記演算式(3)に第1のパルス信号b1の周期T1、係数k、第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2とが同位相になる時間Tsまでのパルス数nを代入することによって送受信時間ΔTを求めることができる。このように、上記演算式(3)はノギスの原理を利用している。ノギスの原理とは、本尺よりも小さい副尺を利用して小さい寸法を読み取る方法であり、ここでは本尺が周期T1、副尺が周期T2=k・T1、小さい寸法が送受信時間ΔTに相当する。
【0026】
上記条件式(1)は、第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2とが同位相になるための条件であり、この条件を満たさなければ当該第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2との位相差が同位相になるタイミングが存在しなくなり、上記演算式(3)が成立しなくなってしまう。従って、予め求めたい距離Lから送受信時間ΔTの予想値を算出しておき、当該予想値と上記条件式(1)とに基づいて繰返し周期T1の値を設定しておく必要がある。
【0027】
例えば、送受信時間ΔTを1nsオーダで求めたい場合は、繰返し周期T2をT2=0.9T1(k=0.9)とし、繰返し周期T1を10nsとすると上記条件式(1)を満たすので上記演算式(3)が成立し、第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2とが同位相になるまでのパルス数nから送受信時間ΔTを算出することができる。
【0028】
また、より精度良く送受信時間ΔTを求めるには、繰返し周期T2を繰返し周期T1に極力近づければ良い。例えば、繰返し周期T2をT2=0.95T1(k=0.95)とし、繰返し周期T1を10nsとすると送受信時間ΔTは0.5nsオーダで求めることが可能となる。このように、実用上は測定精度を上げるために0.9≦k<1とすることが望ましい。
【0029】
このように、位相差検出回路8は、繰返し周期T1を有する第1のパルス信号b1と繰返し周期T2=k・T1を有する第2のパルス信号b2とが同位相になる時間Tsまで位相差検出を行い、カウンタ回路9は、この期間、第1のパルス信号b1のパルス数をカウントしていく(ただし、このパルス数に一番目のパルスは含まない)。そして、位相差検出回路8は、第1のパルス信号b1と第2のパルス信号b2とが同位相になると、タイミング信号d1をカウンタ回路9に出力し、当該カウンタ回路9は、タイミング信号d1が入力されるまでの第1のパルス信号b1のパルス数(計数値n)を距離演算部10へ出力する。
【0030】
距離演算部10は、上記計数値nを上記演算式(3)に代入することによって送受信時間ΔTを算出し、さらに被測定物Wまでの距離Lを上記演算式(4)に基づいて算出して距離計測結果として表示部11へ出力する。
【0031】
なお、上記の送受信時間ΔTには測定用信号a1が生成されてから、振幅変調器2、送信部3を経由し、送信アンテナ4から送信電波Sとして放射されるまでの間の処理時間と、受信信号c1として受信され、受信部6を経由して受信パルス信号c2になるまでの処理時間とが含まれることになる。これらの処理時間は距離計測結果の誤差要因となるので、上記距離演算部10は、送受信時間ΔTの算出値から上記処理時間を差し引くことで補正を行っている。
【0032】
以上のように、本距離計によると、繰返し周期T1を有する第1のパルス信号b1と繰返し周期T2を有する第2のパルス信号b2とが同位相になった時間Tsまでのパルス数(計数値n)を求めるだけで送受信時間ΔTを算出することができるので送受信時間ΔTを直接測定する必要がない。従って、高精度な時間検出器を必要とせず、コストの増大を抑制することができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
【0034】
(1) 上記実施形態では距離計測に電波方式を採用したが、これに限定されず、超音波、
光、レーザ等を用いても良い。
【0035】
(2)上記実施形態において、カウンタ回路9は、第1のパルス信号b1のパルス数をカウントしていたが、これに限らず、第2のパルス信号b2のパルス数をカウントしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る距離計の機能構成ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る距離計測原理を示すタイムチャート図面である。
【符号の説明】
【0037】
1…測定用信号発生部、2…振幅変調器、3…送信部、4…送信アンテナ、5…受信アンテナ、6…受信部、7…パルス信号発生部、8…位相差検出回路、9…カウンタ回路、10…距離演算部、11…表示部、S…送信電波、R…受信電波、W…被測定物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物へ測定用信号を送信信号として送信してから前記被測定物により反射され反射信号として受信されるまでの送受信時間ΔTに基づき前記被測定物までの距離を計測する距離計であって、
前記測定用信号に同期して繰返し周期T1を有する第1の信号を発生し、又、前記反射信号に同期して繰返し周期T2(T2<T1)を有する第2の信号を発生し、尚且つ前記繰返し周期T1及び繰返し周期T2は前記送受信時間ΔTに対して下記条件式(1)が成立する値で設定されている信号発生手段と、
前記第1の信号と第2の信号との位相差を検出する位相差検出手段と、
前記第1の信号または第2の信号の繰返し数を計数する計数手段と、
前記第1の信号と第2の信号とが同位相になるまでの前記繰返し数n、前記第1の信号の繰返し周期T1、前記第2の信号の繰返し周期T2及び前記送受信時間ΔTに関する下記演算式(2)に基づいて送受信時間ΔTを算出し、当該送受信時間ΔTに基づき前記被測定物までの距離を求める演算手段と
を具備することを特徴とする距離計。
【数1】

【請求項2】
信号発生手段は、繰返し周期T2=k・T1(0.9≦k<1)を有する第2の信号を発生し、
演算手段は、前記第1の信号と第2の信号とが同位相になるまでの前記繰返し数n、前記第1の信号の繰返し周期T1、前記第2の信号の繰返し周期T2=k・T1及び前記送受信時間ΔTに関する下記演算式(3)に基づいて送受信時間ΔTを算出することを特徴とする請求項1記載の距離計。
【数2】

【請求項3】
前記測定用信号、前記第1の信号及び前記第2の信号はパルス信号であることを特徴とする請求項1または2記載の距離計。


【図1】
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【図2】
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