説明

路面状況判定方法及びシステム

【課題】
路面状況を正確に把握する。
【解決手段】
本方法は、監視対象道路において計測された路面温度の時系列データが蓄積されている計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、第1の所定時間内に、予め定められた低下判断閾値以上の路面温度の低下が発生したか判断する第1判断ステップと、第1判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、路面温度の低下後所定の条件を満たした路面温度の上昇が発生したか判断する第2判断ステップと、第2判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力するステップとを含む。このようにすれば薬剤散布後に出現する現象を間違いなく検出することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面状況判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
北国や高地などの積雪寒冷地域では、路面が降雪のために圧雪状態になったり、寒気のために凍結状態になったりする。このような路面状態が原因で、走行車両がスリップ事故を起こしたり、雪溜まりにはまって走行不能(スタック)に陥ったりすることで渋滞が発生する。また、路面が圧雪のために凸凹になることで、乗り心地が悪くなったり走行速度が落ちたりすることで、旅行時間が長くなるなどの悪影響が発生する。
【0003】
道路管理者は、冬季には、除雪や凍結抑制剤(薬剤)の散布を行うことで、このような路面状態の悪化を未然に防いだり、路面の状態を良好に保ち道路利用者の利便性、安全性を高める業務を行っている。この冬期の路面管理業務において、路面状態を良好に保つために凍結抑制剤を散布することは重要な作業であるが、当該薬剤散布の効果は長時間持続することは無く、走行車両により薬剤がはね飛ばされたり、新たな降雪による雪解け水により薄められたりすることで数時間で効果が無くなり、再凍結することが知られている。この再凍結は道路管理上大変危険な状態であり、再度の薬剤散布が必要になる。しかしながら、従来の路面管理手法では再凍結を正確に予測することは不可能で、パトロールを一定時間毎に行って路面を直接確認することが必要になっている。
【0004】
例えば特開平11−21834号公報には、凍結防止剤が散布された場合であっても、正確に路面の凍結状況を判定するための路面凍結判定方法が開示されている。具体的には、道路表面温度を検知する温度センサとその道路表面の濡れ状態を検知する濡れセンサを設置し、これらの測定値の時間的推移を計測して路面の凍結の有無を判定するものである。より詳しくは、凍結防止剤を散布した場合には、0℃からその散布量に応じた温度下がった温度が所定時間維持されるのでこの状態を検出し、さらに濡れセンサによって凍結の有無を確認する。
【0005】
また、特開2003−35686号公報には、以下のような技術が開示されている。降雪を検知した状態において、路面温度計の温度が急激に低下した時に融雪剤や凍結防止剤を散布したと判断し、また、路面温度計からの路面温度が地熱や塩分の希釈によって時系列的に上昇し、上昇した温度が予め設定した温度であるか否かにより路面凍結可能性があるか否かを判断する。
【0006】
さらに、特開2003−287577号公報には、以下のような技術が開示されている。すなわち、路面センサで計測した路面温度の絶対値、路面温度勾配、および路面温度の絶対値が所定値を所定時間以上継続したか否かから、精度良く路面の凍結判定を行う。凍結状態は水分が液体から固体へと相変化するため、凝固熱(非凍結状態への変化時には融解熱)など潜熱が必要となる。このことから、路面温度変化を時系列で計測することで相変化を検出し検出精度を高めると共に、凍結防止剤の散布量の規定から防止剤の効果が無くなると想定できる路面温度以下の状態が長時間持続した場合は凍結と判定する。
【特許文献1】特開平11−21834号公報
【特許文献2】特開2003−35686号公報
【特許文献3】特開2003−287577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上で述べた特開平11−21834号公報では、凍結防止剤を散布した場合には0℃からその散布量に応じた温度下がった温度が所定時間維持されると凍結の可能性ありと判定されるが、この公報における技術によれば、凍結防止剤が散布されたか否かの判断と凍結の可能性の判定とが同時になされることになり、路面状況の把握としては十分ではない。
【0008】
また、特開2003−35686号公報では、路面温度計により温度が急激に低下した時に融雪剤や凍結防止剤を散布したと判断している。しかし、周囲気温の急激な降下による路面温度の降下であっても、同じ変化を示す場合が多いため、実際の薬剤散布による路面温度の降下と周囲気温の急激な降下による路面温度の降下とを識別することが難しい。
【0009】
さらに、特開2003−287577号公報では、温度、及び温度勾配を用いて判断するが、特に凍結防止剤の散布を特定することは行われていない。
【0010】
従って、本発明の目的は、凍結防止剤などの薬剤の散布を正確に検出するための技術を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、凍結防止剤などの薬剤の散布が行われた後における再凍結を正確に検出するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る路面状況判定方法は、監視対象道路において計測された路面温度の時系列データが蓄積されている計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、第1の所定時間内に、予め定められた低下判断閾値以上の路面温度の低下が発生したか判断する第1判断ステップと、第1判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、路面温度の低下後所定の条件を満たした路面温度の上昇が発生したか判断する第2判断ステップと、第2判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力する第1判定ステップとを含む。
【0013】
このようにすれば薬剤散布後に出現する現象を間違いなく検出することができるようになる。特に、第2判断ステップによって多くの他の現象を誤検出することがなくなる。
【0014】
また、監視対象道路の路面状態の観測結果から監視対象道路の路面が湿潤状態であるか判断する第3判断ステップをさらに含むようにしてもよい。その際、第1判定ステップにおいて、さらに第3判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合に、監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力するようにしてもよい。路面が湿潤状態であることを別の手段をもって確認することにより、薬剤散布検出の確度を高めることができる。
【0015】
さらに、第1判定ステップにおいて監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号が出力された後に、計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、路面温度の上昇が停止したか判断する第3判断ステップと、第3判断ステップの判断結果が肯定的であった場合、監視対象道路の再凍結検出を表す信号を出力する第2判定ステップとをさらに含むようにしてもよい。このように、薬剤散布の次のタイミングを知ることができるようになる。
【0016】
本発明に係る方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブル・ディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体又は記憶装置に格納される。また、ネットワークを介してディジタル信号にて頒布される場合もある。なお、処理途中のデータについては、コンピュータのメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、凍結防止剤などの薬剤の散布を正確に検出することができる。
【0018】
また、本発明の他の側面によれば、凍結防止剤などの薬剤の散布が行われた後における再凍結を正確に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1に本発明の一実施の形態に係るコンピュータ・システムの一例を示す。ネットワーク1には、複数のセンサ(図ではセンサA、センサB、センサCのみを示す)と、本実施の形態における主要な処理を実施する路面状況判定装置5とが接続されている。センサは、監視が必要となる道路の所定位置に設置される。そして、路面状態観測部31と、例えば放射温度計である路面温度計測部32と、例えば定期的に又は任意のタイミングで観測データ及び計測データなどをネットワーク1を介して路面状況判定装置5に送信する機能(図示せず)とを有する。必要であれば、センサにも観測データ及び計測データを格納する記憶装置が設けられる。図1では代表してセンサAのみ路面状態観測部31及び路面温度計測部32を示しているが、他のセンサについても同様の構成を有する。
【0020】
路面状況判定装置5は、ネットワーク1を介してセンサからデータを受信するデータ受信部51と、センサから受信した路面状態の観測データなどを格納する路面状態データ格納部52と、センサから受信した路面温度データなどを格納する路面温度データ格納部53と、路面状態データ格納部52に格納されたデータを用いて路面状態を判定する路面状態判定部54と、路面温度データ格納部53に格納されたデータを用いて予め定められた路面温度変化を検出する温度変化検出部55と、温度変化検出部55の検出結果及び路面状態判定部54の判定結果に基づき凍結防止剤などの薬剤散布の有無を判断する薬剤散布検出部56と、薬剤散布検出部56により薬剤散布有りと判断された場合に路面温度データ格納部53に格納されたデータを用いて路面の再凍結の有無を判定する再凍結判定部57と、薬剤散布検出部56の検出結果、再凍結判定部57の判定結果などを出力装置に出力する出力部58とを有する。
【0021】
次に、図2乃至図5を用いて図1に示したコンピュータ・システムの動作を説明する。まず、各センサの路面温度計測部32は、担当する道路の路面温度の計測を行い、各センサは、時刻データと共に計測結果である路面温度データをネットワーク1を介して路面状況判定装置5に送信する。これに対して路面状況判定装置5のデータ受信部51は、センサから時刻データ及び路面温度データを受信し、路面温度データ格納部53に格納する(ステップS1)。路面温度データ格納部53には、センサ毎に路面温度データ及び時刻データが対となって蓄積される。本実施の形態では、センサから随時路面温度データ及び時刻データが送信され、路面温度データ格納部53に蓄積されるものとする。なお、路面状態観測部31も観測処理を行って観測データを生成し、路面状況判定装置5にデータを送信しているが、必ずしも路面温度計測部32と同期して観測処理が行われるわけではない。また、観測結果はネットワーク1を介して路面状況判定装置5に送信され、データ受信部51により路面状態データ格納部52に格納されるが、本実施の形態では直ぐに処理に用いられるわけではない。
【0022】
温度変化検出部55は、凍結防止剤などの薬剤散布が行われた場合に最初に発生する路面温度の急激な低下を検出するために、路面温度データ格納部53に蓄積されている路面温度データ及び時刻データとから、予め定められた第1の所定時間内に、予め定められた低下判断閾値以上の温度低下が発生しているか判断する(ステップS3)。
【0023】
凍結した路面に対し凍結防止剤などの薬剤を散布すると路面温度は急激に低下する。これは薬剤が、氷が有するエネルギーを利用して当該氷を溶かすためである。図3(a)に、路面温度の変化の一例を示す。△(黒)印は計測結果を示す。図3(a)のグラフにおいて、縦軸は路面温度を、横軸は時刻を表す。時刻aにおいて薬剤が散布されると、路面温度は時刻bまでに急激に低下する。薬剤散布により路面温度が急激に低下するのは、路面状態がシャーベットや凍結状態の時であり、湿潤時や新雪時では路面温度が低下しないことがわかっている。従って、路面が凍結していないときに行われた薬剤散布(事前散布)を検出することは難しいが、路面が凍っているかシャーベット状態である時に行われた薬剤散布(事後散布)はこの急激な路面温度低下を捉えることで検出できる。従って、ステップS3では、このような急激な路面温度の低下を検出する。
【0024】
但し、図3(a)を見ても分かるように、薬剤散布後、路面温度は急激に低下しその後緩やかに上昇する傾向がみられる。これは、急激に低下した路面温度と気温の差を均衡にしようとする作用が働くためである。実際に路面温度を計測してみると、薬剤散布以外の状況での温度急落は頻繁に起こっており、急落だけを捉えても薬剤散布を検出することは不可能である。本実施の形態では、このような特徴を捉えることで薬剤散布を検知する。従って、ステップS3において急激な路面温度の低下を検出しても、「薬剤散布」の検出信号を出力することはない。
【0025】
なお、ステップS3では、最も最近計測された路面温度を第1の所定時間前の路面温度から差し引いた値が低下判断閾値以上となっているかを判断するようにしても、最も最近計測された路面温度を第1の所定時間前までの最高路面温度から差し引いた値が低下判断閾値以上となっているか判断するようにしてもよい。さらに、第1の所定時間前までの最高路面温度が特定温度以下であって且つ当該最高路面温度から最も最近計測された路面温度を差し引いた値が低下判断閾値以上となっているか判断するようにしても良い。
【0026】
ステップS3において、第1の所定時間内に低下判断閾値以上の温度低下が発生していないと判断された場合には、ステップS1に戻る。一方、ステップS3において第1の所定時間内に低下判断閾値以上の温度低下が発生していると判断された場合には、急激な路面温度低下を検出したという第1の状態に遷移して、次の処理に移行する。なお、各センサの路面温度計測部32は、担当する道路の路面温度の計測を行い、各センサは、時刻データと共に計測結果である路面温度データをネットワーク1を介して路面状況判定装置5に送信する。路面状況判定装置5のデータ受信部51は、センサから時刻データ及び路面温度データを受信し、センサ毎に路面温度データ格納部53に格納する(ステップS5)。
【0027】
そして、温度変化検出部55は、路面温度データ格納部53に格納された路面温度データを用いて、路面温度の下限値を検出したか判断する(ステップS7)。すなわち、路面温度が上昇を開始したか判断する。まだ路面温度の低下が継続している場合にはステップS5に戻る。但し、例えば第1の状態に遷移した後一定時間内に路面温度が上昇を開始しない場合には、第1の状態を維持せずステップS1に戻るようにしても良い。
【0028】
一方、路面温度の上昇が検出されると、路面温度の下限値及び当該下限値を計測した時刻を特定する。また、以下の処理で路面温度の上昇率を用い、且つ当該上昇率=路面温度上昇幅/路面温度低下幅と定義される場合には、低下判断閾値以上の温度低下が発生した時刻から例えば第1の所定時間前までの最高路面温度と上記路面温度の下限値との差を路面温度低下幅として算出しておく。ステップS7において路面温度の下限値を検出した場合には、次の処理に移行する。なお、各センサの路面温度計測部32は、担当する道路の路面温度の計測を行い、各センサは、時刻データと共に計測結果である路面温度データをネットワーク1を介して路面状況判定装置5に送信する。路面状況判定装置5のデータ受信部51は、センサから時刻データ及び路面温度データを受信し、センサ毎に路面温度データ格納部53に格納する(ステップS9)。
【0029】
その後、温度変化検出部55は、路面温度データ格納部53に格納された路面温度データを用いて、下限値が検出された時刻(図3(a)の例では時刻b)から第2の所定時間後に、温度上昇が所定条件を満たすか判断する(ステップS11)。図3(a)に関連して上で述べたように、薬剤散布後には路面温度は急激に低下した後に緩やかに上昇する。本実施の形態では、路面温度の「緩やかな上昇」を検出する。具体的には、路面温度の上昇率(=路面温度上昇幅/路面温度低下幅)が予め定められた範囲内(下限値から上限値まで)に入っているか判断する。路面温度上昇幅については、下限値が検出された時刻から第2の所定時間後の路面温度と下限値との差である。図3(a)の例では、時刻cにおいて路面温度の上昇率が予め定められた範囲内に入っていると判断される。なお、所定の条件については、上で述べた上昇率についての条件だけではなく、場合によっては例えば上昇幅を用いて判断するようにしてもよい。
【0030】
ステップS11において温度上昇が所定条件を満たさないと判断された場合には第1の状態を維持せずステップS1に戻る。一方、ステップS11において温度上昇が所定の条件を満たすと判断された場合には、第2の状態に遷移して、温度変化検出部55は、路面温度に基づく薬剤散布検出信号を薬剤散布検出部56に出力する。さらに、薬剤散布検出部56は、路面状態判定部54に処理を指示する。
【0031】
センサの路面状態観測部31は、予め定められた周期で又は路面状況判定装置5等からの指示に応じて、路面状態を観測し、当該観測データをネットワーク1を介して路面状況判定装置5に送信する。路面状況判定装置5のデータ受信部51は、観測データを受信し、路面状態データ格納部52に格納する(ステップS13)。ここでは、第2の状態に遷移したことに応じて、薬剤散布検出部56、路面状態判定部54等がセンサの路面状態観測部31に現在の路面状況を観測させるようにするか、既に路面状態データ格納部52に格納されている最新の観測データを用いる。
【0032】
そして路面状態判定部54は、路面状態データ格納部52に格納されているデータを用いて、路面が湿潤状態であるか判断する(ステップS15)。本実施の形態では、路面の状態を判定する様々な方式を採用できるが、例えば画像を用いた判定方法(例えば特開2002−140789号開示の方法)を用いる。この判定方法では、路面状態観測部31はカメラであって、カメラによって撮影された画像データが観測データとしてネットワーク1を介して路面状況判定装置5に送信される。路面状態判定部54は、画像データを、色相画像、彩度画像、明度画像に変換する。そして、色相画像、彩度画像、明度画像の路面検出範囲より、色相、彩度、明度それぞれの平均値、及び分散値を算出する。さらに、算出された平均値及び分散値により路面の乾燥、湿潤、水膜状態等を判定する。
【0033】
例えば、図4(a)は路面状態観測部31により撮影された画像の一例を示す。この画像は、薬剤散布直前の路面状態を表す画像である。路面状態判定部54が、上で述べた公報記載の技術に係る処理を行えば、図4(b)のような画像を生成する。図4(b)の画像において、路面検出範囲Xでは白の部分と黒の部分に塗り分けられている。黒の部分が車両が走行することによって積雪が融解している部分である。この黒の部分の面積は比較的狭く、湿潤状態とは判定されない。一方、図4(c)のような画像を得た場合には、路面状態判定部54が、上で述べた公報記載の技術に係る処理を行えば、図4(d)のような画像を生成する。図4(d)の画像において、路面検出範囲Yでは白の部分と黒の部分に塗り分けられているが、図4(b)と比較すると黒の部分が増加している。このように黒の部分の面積が十分に増加したと判断された場合には路面は湿潤となったと判定される。
【0034】
なお、上で述べたような方式だけではなく、偏向フィルタを備えた可視画像センサを使って路面状態の反射光の違いにより乾燥、湿潤、積雪、凍結の4事象を検知するようにしてもよい。さらに、光波式センサにより近赤外線を放射して路面高さを計ることで積雪を判定したり、反射光の受光光量から乾燥か湿潤かを判定するようにしてもよい。
【0035】
さらに、センサ内の路面状態観測部31が路面状態の判定を行って、当該判定結果を路面状況判定装置5に送信するようにしてもよい。その場合、路面状態データ格納部52には、路面状態の判定結果が格納されているので、路面状態判定部54は当該データを確認するだけとなる。
【0036】
ステップS15では、いずれの方式を採用するにしても、路面が「湿潤」であるか判断して、路面が湿潤ではないと判断された場合には第2の状態を維持することなく、ステップS1に戻る。本実施の形態では、このように路面の温度変化からは薬剤散布が検出されても、実際に湿潤状態になっていなければ薬剤散布の効果が現れていないため、薬剤散布とは判定しない。但し、例えば現在の気象状態に関する他のデータに基づき、路面の温度変化が薬剤散布を示していると判断できる場合には、薬剤散布を検出したものとして取り扱う場合もある。
【0037】
一方、ステップS15で路面が湿潤であると判断された場合には、路面状態判定部54は、薬剤散布検出部56に路面状態が湿潤であることを表す信号を出力する。薬剤散布検出部56は、温度変化検出部55から路面温度に基づく薬剤散布検出信号を受信し、路面状態判定部54から路面状態が湿潤であることを表す信号を受信した場合には、出力部58に薬剤検出を例えば表示装置などの出力装置へ出力させる(ステップS17)。また、薬剤散布検出部56は、再凍結判定部57に対して再凍結判定のための処理を開始するように指示する。
【0038】
これによりユーザは、路面を直接見ることなく自動的に薬剤散布が行われたことを把握することができるようになる。なお、出力内容は、薬剤散布検出を表すメッセージだけではなく、例えば路面状態データ格納部52に格納されている薬剤散布検出時の画像データ(路面状態判定部54により生成された処理後の画像も含む)と、路面温度データ格納部53に格納されている所定時間内の路面温度データから生成される路面温度変化を表すグラフなどを含むようにしても良い。
【0039】
処理は端子Aを介して図5の処理に移行する。なお、第2の状態から第3の状態に遷移する。また、各センサの路面温度計測部32は、担当する道路の路面温度の計測を行い、各センサは、時刻データと共に計測結果である路面温度データをネットワーク1を介して路面状況判定装置5に送信する。路面状況判定装置5のデータ受信部51は、センサから時刻データ及び路面温度データを受信し、センサ毎に路面温度データ格納部53に格納する(ステップS19)。
【0040】
そして、再凍結判定部57は、路面温度データ格納部53に格納されているデータを用いて、最も新しい計測結果に係る路面温度と当該最も新しい計測結果に係る時刻から第2の所定時間前の時刻における路面温度との比較で温度上昇が終了しているか判断する(ステップS21)。温度上昇の終了とは、最も新しい計測結果に係る路面温度と当該最も新しい計測結果に係る時刻から第2の所定時間前の時刻における路面温度とが変化していない場合と、前者の方が後者より低い場合とである。なお、第2の所定時間ではなく、第4の所定時間を新たに定義して用いるようにしても良い。さらに、最も新しい計測結果に係る時刻から第2の所定時間前までの間の最大路面温度より最も新しい計測結果に係る路面温度が低い又はそれらが同じ場合に、温度上昇が終了していると判断しても良い。
【0041】
温度上昇が終了していないと判断された場合には第3の状態を維持してステップS19に戻る。一方、温度上昇が終了していると判断された場合には、再凍結判定部57は、路面温度データ格納部53に格納された路面温度データを用いて、さらに温度上昇停止が第3の所定時間以上継続しているか判断する(ステップS23)。例えば第2の所定時間内においてその後半部分のみで路面温度が低下している場合には、温度上昇が停止したとは言えない場合もあるため、ここでは第3の所定時間以上温度上昇停止が継続しているか否かを付加的に判断する。
【0042】
第3の所定時間以上温度上昇が停止していると判断されない場合には第3の状態を維持してステップS19に戻る。まだ路面温度は上昇しているものと見なされる。一方、第3の所定時間以上温度上昇が停止していると判断された場合には、再凍結判定部57は、再凍結が開始されたと判断して、出力部58に、再凍結検出を表示装置などの出力装置へ出力させる(ステップS25)。
【0043】
凍結した路面に薬剤を散布すると薬剤は均等に分散しないため部分的に薬剤の濃度は非常に高くなる。これにより、路面温度は薬剤の濃度から算出される凝固点よりもさらに低い温度まで低下する。路面は部分的に湿潤となり、車両の通過とともに全体的に湿潤になっていく。路面が湿潤になると薬剤の濃度は水分で薄くなる。また路面と大気との温度差を均衡にしようとする作用で路面温度は緩やかに上昇する。昼に薬剤が散布された場合は、気温の上昇により雪の融解や、車両の通過等の影響により薬剤の濃度は次第に薄まっていく。しかし、夜に薬剤が散布された場合は、薬剤散布により急低下後緩やかに上昇した路面温度はやがて一定を保つか下降をはじめ、その過程で路面は再凍結する。再凍結は薬剤が溶けている水溶液の水の部分からはじまるため、水溶液の濃度は次第に濃くなっていく。これは、薬剤散布後の路面は水が凍ったときのようなつるつる状態にはならずに、氷と溶液が入り混じったシャーベットのような凍結状態になることを意味する。本実施の形態では、このような特徴を捉えることで薬剤散布後の再凍結を検出する。
【0044】
ステップS25における出力内容は、再凍結検出のメッセージを出力するようにしても良いし、さらに例えば路面状態データ格納部52に格納されている再凍結検出時の画像データ(路面状態判定部54により生成された処理後の画像も含む)と、路面温度データ格納部53に格納されている所定時間内の路面温度データから生成される路面温度変化を表すグラフなどを含むようにしても良い。
【0045】
図3(a)の場合には、時刻dにおいて再凍結が検出される。時刻dより第2の所定時間前の時刻eから温度上昇が停止している。第3の所定時間についてはどのような長さに設定するかは監視対象の道路によって異なるが、例えば図3(a)の1観測期間(隣接する2つの△(黒)印の間の期間)であるとすると、全く変化していないので路面温度の上昇は停止していると判断できる。
【0046】
以上の判断結果をまとめると図3(b)に示すようになる。図3(b)において、縦軸は「凍結」「積雪」「湿潤」「乾燥」といった路面状態を表しており、横軸は時刻を表す。図3(b)において、×印は本路面状況判定装置5による判定結果(出力)、○印は実際の状況(真値)を表す。図3(b)では、時刻aにおいて実際に薬剤散布が行われており、その際に真値は「積雪」状態である。真値はその後、時刻bにおいて「凍結」状態、時刻cにおいて「積雪」状態、時刻cより後は「湿潤」状態、そして時刻dで再度「凍結」状態と遷移している。一方、判定結果は、時刻aにおいて「積雪」状態、時刻bで「凍結」状態と遷移している。ここまでの判定結果は本実施の形態とは別の機構にて判断された結果を表している。一方、時刻cにおいては上で述べたように「湿潤」状態、すなわち薬剤散布が行われたことが検出される。時刻c以降時刻dになるまで「湿潤」状態と判定され、上で述べたように時刻dに再度「凍結」と判定される。時刻cにおける真値と判定結果とは異なるが、時刻cより後では真値と判定結果は一致しているので、本実施の形態における処理により適切な判定がなされていると言える。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態によれば、薬剤散布から再凍結までを路面温度と路面状態観測機構から自動的に判定することができる。このようなシステムを凍結の危険性のある箇所に設置することにより、道路管理者は現場に出向くことなく点在する凍結危険箇所において「薬剤散布がなされた」状態及び「薬剤散布の効果が無くなり再凍結の危険性が増した」状態を把握でき、適切な薬剤の再散布などの路面管理作業を行うことができる。
【0048】
以上本発明の一実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば図1に示した機能ブロック図は、必ずしも実際のプログラムモジュールと対応しない。また、処理フローにおいて用いられている閾値や所定の値は、監視すべき箇所の地域、環境、その他によって適宜調整されるべきものである。
【0049】
(付記1)
監視対象道路において計測された路面温度の時系列データが蓄積されている計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、第1の所定時間内に、予め定められた低下判断閾値以上の路面温度の低下が発生したか判断する第1判断ステップと、
前記第1判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、路面温度の低下後所定の条件を満たした路面温度の上昇が発生したか判断する第2判断ステップと、
前記第2判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力する第1判定ステップと、
を含み、コンピュータにより実行される路面状況判定方法。
【0050】
(付記2)
前記監視対象道路の路面状態の観測結果から前記監視対象道路の路面が湿潤状態であるか判断する第3判断ステップ
をさらに含み、
前記第1判定ステップにおいて、さらに前記第3判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合に、前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力する
ことを特徴とする付記1記載の路面状況判定方法。
【0051】
(付記3)
前記第1判定ステップにおいて前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号が出力された後に、前記計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、前記路面温度の上昇が停止したか判断する第3判断ステップと、
前記第3判断ステップの判断結果が肯定的であった場合、前記監視対象道路の再凍結検出を表す信号を出力する第2判定ステップと、
をさらに含む付記1又は2記載の路面状況判定方法。
【0052】
(付記4)
前記所定の条件を満たした路面温度の上昇が、所定範囲内に収まる路面温度の上昇率を有する上昇であることを特徴とする付記1記載の路面状況判定方法。
【0053】
(付記5)
付記1乃至4のいずれか1つ記載の路面状況判定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【0054】
(付記6)
監視対象道路の路面温度の計測を行うセンサ装置と、
前記センサ装置とネットワークを介して接続する路面状況判定装置と、
を有し、
前記路面状況判定装置は、
前記監視対象道路において前記センサ装置により計測された路面温度の時系列データが蓄積されている計測結果データ格納部と、
前記計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、第1の所定時間内に、予め定められた低下判断閾値以上の路面温度の低下が発生したか判断する第1判断手段と、
前記第1判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、路面温度の低下後所定の条件を満たした路面温度の上昇が発生したか判断する第2判断手段と、
前記第2判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力する第1判定手段と、
を有する路面状況判定システム。
【0055】
(付記7)
前記センサ装置が、前記監視対象道路の路面状態を観測する手段を有し、
前記路面状況判定装置は、
前記監視対象道路における路面状態の観測結果から前記監視対象道路の路面が湿潤状態であるか判断する第3判断手段をさらに含み、
前記第1判定手段が、さらに前記第3判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合に、前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力する
ことを特徴とする付記6記載の路面状況判定システム。
【0056】
(付記8)
前記第1判定手段により前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号が出力された後に、前記計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、前記路面温度の上昇が停止したか判断する第3判断手段と、
前記第3判断ステップの判断結果が肯定的であった場合、前記監視対象道路の再凍結検出を表す信号を出力する第2判定手段と、
をさらに有する付記6又は7記載の路面状況判定システム。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態の機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る処理フロー(第1部分)を示す図である。
【図3】(a)及び(b)は、温度計測結果及び判定結果を表すグラフを示す図である。
【図4】(a)は薬剤散布前の画像、(b)は薬剤散布前の処理済み画像、(c)は薬剤散布後の画像、(d)は薬剤散布後の処理済み画像の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る処理フロー(第2部分)を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ネットワーク 31 路面状態観測部 32 路面温度計測部
5 路面状況判定装置
51 データ受信部 52 路面状態データ格納部
53 路面温度データ格納部 54 路面状態判定部
55 温度変化検出部 56 薬剤散布検出部
57 再凍結判定部 58 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象道路において計測された路面温度の時系列データが蓄積されている計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、第1の所定時間内に、予め定められた低下判断閾値以上の路面温度の低下が発生したか判断する第1判断ステップと、
前記第1判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、路面温度の低下後所定の条件を満たした路面温度の上昇が発生したか判断する第2判断ステップと、
前記第2判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力する第1判定ステップと、
を含み、コンピュータにより実行される路面状況判定方法。
【請求項2】
前記監視対象道路の路面状態の観測結果から前記監視対象道路の路面が湿潤状態であるか判断する第3判断ステップ
をさらに含み、
前記第1判定ステップにおいて、さらに前記第3判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合に、前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の路面状況判定方法。
【請求項3】
前記第1判定ステップにおいて前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号が出力された後に、前記計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、前記路面温度の上昇が停止したか判断する第3判断ステップと、
前記第3判断ステップの判断結果が肯定的であった場合、前記監視対象道路の再凍結検出を表す信号を出力する第2判定ステップと、
をさらに含む請求項1又は2記載の路面状況判定方法。
【請求項4】
請求項1乃至4のいずれか1つ記載の路面状況判定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項5】
監視対象道路の路面温度の計測を行うセンサ装置と、
前記センサ装置とネットワークを介して接続する路面状況判定装置と、
を有し、
前記路面状況判定装置は、
前記監視対象道路において前記センサ装置により計測された路面温度の時系列データが蓄積されている計測結果データ格納部と、
前記計測結果データ格納部に格納されたデータを用いて、第1の所定時間内に、予め定められた低下判断閾値以上の路面温度の低下が発生したか判断する第1判断手段と、
前記第1判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、路面温度の低下後所定の条件を満たした路面温度の上昇が発生したか判断する第2判断手段と、
前記第2判断ステップにおける判断結果が肯定的であった場合、前記監視対象道路における薬剤散布の検出を表す信号を出力する第1判定手段と、
を有する路面状況判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−46969(P2007−46969A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230471(P2005−230471)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】