説明

車両におけるステアリングメンバーの固定部構造

【課題】 ステアリングメンバーの固定部分の支持剛性のアップと前面衝突、オフセット衝突の際の入力エネルギーを効率的に車両後方へ流すこと(ロードパス効率アップ)が可能な車両におけるステアリングメンバーの固定部構造の提供。
【解決手段】 フロントピラー1に、インナーパネル12からなる上壁b1及び内側側壁b2と、アウターパネル11からなる外側側壁b3と、ブラケット3からなる下壁b4とで構成される車幅方向縦断面が箱形の箱形部Bが形成され、該箱形部Bの両側壁b2、b3を固定ボルト23が車幅方向に貫通する状態でステアリングメンバー2の固定部分の一部(2箇所)が設けられ、箱形部Bの車両後方に該箱形部Bの下壁b4と軸心部Qが一致する状態でドアビーム5の前部が配置されている構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるステアリングメンバーの固定部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造としては、ステアリングメンバーの両端部を取付ブラケットを介しボルトでフロントピラーに取り付け固定するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−119412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の従来の技術にあっては、ステアリングメンバーの取付ブラケットをフロントピラーの車両外側からボルトで締結固定している構造であり、フロントピラーはボルトを取り付けるアウターパネルとインナーパネルとの間の断面内にスペーサーが介装されているだけであったため、ステアリングメンバーの固定部分の支持剛性、及び、前面衝突、オフセット衝突の際のロードパス効率が劣るという問題があった。
【0004】
本発明は、上述のような従来の問題点に着目して成されたもので、ステアリングメンバーの固定部分の支持剛性のアップと前面衝突、オフセット衝突の際の入力エネルギーを効率的に車両後方へ流すこと(ロードパス効率アップ)が可能な車両におけるステアリングメンバーの固定部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本願請求項1に記載の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造は、フロントピラーに車幅方向縦断面が箱形の箱形部が形成され、該箱形部の両側壁を固定ボルトが車幅方向に貫通する状態でステアリングメンバーの固定部分の少なくとも一部が設けられ、前記箱形部の車両後方に車両後方から見て該箱形部の各コーナーを結ぶ仮想枠内に少なくともその一部がかかる状態でドアビームの前部が配置されていることを特徴とする手段とした。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造では、上述のように、フロントピラーに車幅方向縦断面が箱形の箱形部が形成され、該箱形部の両側壁を固定ボルトが車幅方向に貫通する状態でステアリングメンバーの固定部分の少なくとも一部が設けられている構成としたことで、ステアリングメンバーの固定部分の支持剛性のアップが可能になると共に、箱形部の車両後方に車両後方から見て該箱形部の各コーナーを結ぶ仮想枠内に少なくともその一部がかかる状態でドアビームが配置されている構成としたことで、前面衝突、オフセット衝突の際の入力エネルギーを効率的に車両後方へ流すこと(ロードパス効率アップ)が可能になるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
この実施例の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造は、請求項1〜7に記載の発明に対応する。
【0009】
図1はこの実施例の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造を示す室外側からの斜視図、図2は同室内斜視図、図3は図1のA−A線における拡大縦断面図、図4は図1のB−B線における拡大横断面図、図5は図1のC−C線における拡大横断面図、図6は図1のD−D線における拡大横断面図、図7はブラケットを示す斜視図、図8は図3のE−E線における拡大縦断面図である。
【0010】
この実施例の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造は、フロントピラー1と、ステアリングメンバー2と、ブラケット3と、ドア4と、ドアビーム5と、を備えている。
【0011】
上記ステアリングメンバー2は、ステアリングを支持するもので、図1、2に示すように、左右のフロントピラー1、1間に設定されており、ステアリングメンバー2のパイプ部材21が両フロントピラー1、1の内側に取付ブラケット22、22を介して、車両の外側から室内に向けて固定ボルト23で締結固定されている。
【0012】
上記取付ブラケット22は、パイプ部材21の両端部を差し込み固定可能な円筒部22aの端部にフランジ部22bが備えられ、該フランジ部22bの上縁部2箇所と下縁部1箇所にそれぞれ形成されたボルト挿通孔22cには予めナット24が溶接固定されている。
【0013】
上記フロントピラー1は、図3に示すように、アウターパネル11と、インナーパネル12と、補強部材13とで構成されていて、上記補強部材13はアウターパネル11の内側に沿う状態で配置されている。
【0014】
また、アウターパネル11とインナーパネル12は、図4、5に示すように、その車両前後方向端縁部同士が接続固定されることにより、横断面略箱形に形成されている。
【0015】
また、図3に示すように、インナーパネル12の上端縁部が、三角窓6の底辺に沿ってアウターパネル11及び補強部材13方向へ向けて延長され、該延長部材12aの先端縁部がアウターパネル11及び補強部材13と三角窓フランジ部61で接続されている。
【0016】
また、フロントピラー1の三角窓6の下方には、車幅方向縦断面が箱形の箱形部Bが形成されている。即ち、この箱形部Bは、インナーパネル12の延長部材12aからなる上壁b1と、インナーパネル12からなる内側側壁b2と、アウターパネル11からなる外側側壁b3と、ブラケット3からなる下壁b4とで構成されている。
【0017】
また、アウターパネル11と補強部材13の車両後側端縁部がインナーパネル12方向に向けて延長され、該補強部材13の後側延長部13bがアウターパネル11の後側延長部11aとインナーパネル12との間に挟持された状態で固定されると共に、補強部材13の車両前側端縁部がインナーパネル12方向に向けて延長され、該前側延長部13aがインナーパネル12に固定されることにより、箱形部Bの車両前後両端開口部が閉塞されて六面体に形成されている。
【0018】
上記ブラケット3は、上述のように、箱形部Bの下壁b4を構成すると共に、上記ドア4内に車両前後方向に沿って配置された円筒状のドアビーム5に車両前方からの入力を伝える役目をなすもので、図3に示すように、下壁b4がドアビーム5の軸心部Qと一致する位置になるようにブラケット3が配置されている。
【0019】
そして、箱形部Bの下壁b4には、図3、5、7に示すように、ドアビーム5の上側半円と略一致する上向き半円状のビード31が形成されることにより、ブラケット3の車両前後方向の強度を高め、ロードパスを車両後方のドアビーム5に伝えるのに車両前方からの入力に耐え得るようにしている。
【0020】
また、図3、7に示すように、箱形部Bの下壁b4を構成するブラケット3のアウターパネル11側端部から該アウターパネル11の内面に沿って下方へ延長する延長部32が形成されると共に、箱形部Bの下壁b4と延長部32の車両前後方向端部を繋ぐ前後両側壁33、33が延長部32の車両前後方向両端縁部から延長される状態で備えられている。そして、上記延長部32が補強部材13に対し固定されることにより、該補強部材13に対する結合部と、車両前後方向への稜線の役割を持たせている。
【0021】
また、図1、3、4に示すように、ステアリングメンバー2の取付ブラケット22におけるフランジ部22bの上縁部2箇所に形成されたボルト挿通孔22cに対応する箱形部Bに、その内側側壁b2と補強部材13と外側壁b3を車幅方向に貫通するボルト挿通孔15が2箇所に形成されると共に、フランジ部22bの下縁部1箇所に形成されたボルト挿通孔22cに対応する位置のアウターパネル11と補強部材13とブラケット3の延長部32及びインナーパネル12をそれぞれ車幅方向に貫通するボルト挿通孔16が形成されている。
【0022】
そして、3本の固定ボルト23を車体外側から各ボルト挿通孔15、16、22cに挿通し、ステアリングメンバー2の取付ブラケット22におけるフランジ部22bに予め固定されたナット24にそれぞれ螺合して締結することにより、図2に示すように、ステアリングメンバー2の両端部が両フロントピラー1、1の内側に取付ブラケット22、22を介して取り付け固定されている。
【0023】
また、図3、4、8に示すように、箱形部Bにおける外側壁b3の内側に配置された補強部材13と内側側壁b2との間には、該箱形部Bに配置される2本の固定ボルト23の回りに、カラー71が介装されている。この両カラー71、71は固定ボルト23の締結時にアウターパネル11が変形するのを防止する役目をなすもので、このカラー71、71は、この実施例では一枚の板材7の両端部を略コ字状に折曲させてそれぞれ固定ボルト23の外周を囲むように形成されている。
【0024】
また、図3、8に示すように、ブラケット3の延長部31とアウターパネル11との間には、該延長部31に配置される1本の固定ボルト23の回りに、カラー8が介装されている。このカラー8は、図7に示すように、ブラケット3の延長部31の車両後方側端縁部から車両後方側壁33にかけて形成された略U字状切欠部のU字に沿って一体に組み付け固定されたU字状部材で構成されている。
【0025】
また、図3、6に示すように、アウターパネル11、補強部材13及び延長部31を貫通するボルト挿通孔17が形成されると共に、該挿通孔17に対応する延長部31の内側にはナット91が予め固定されていて、ドア4を開閉自在に軸支するドアヒンジ9に形成されたボルト挿通孔92及びボルト挿通孔17に差し込んだ固定ボルト93をナット91に螺合締結することにより、ドアヒンジ9が、ブラケット3の延長部31とアウターパネル11に対し取り付け固定されている。
【0026】
次に、実施例の作用・効果について説明する。
【0027】
この実施例の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造では、上述のように、フロントピラー1に、インナーパネル12からなる上壁b1及び内側側壁b2と、アウターパネル11からなる外側側壁b3と、ブラケット3からなる下壁b4とで構成される車幅方向縦断面が箱形の箱形部Bが形成され、該箱形部Bの両側壁b2、b3を固定ボルト23が車幅方向に貫通する状態でステアリングメンバー2の固定部分の一部(2箇所)が設けられている構成としたことで、ステアリングメンバー2の固定部分の支持剛性のアップが可能になると共に、箱形部Bの車両後方に該箱形部Bの下壁b4と軸心部Qが一致する状態でドアビーム5が配置されている構成としたことで、前面衝突、オフセット衝突の際の入力エネルギーを効率的に車両後方へ流すこと(ロードパス効率アップ)が可能になるという効果が得られる。
【0028】
また、ドアビーム5の上側半円と一致する上向き半円状のビード31が形成されることで、ロードパス効率をさらに高めることができるようになる。
【0029】
また、アウターパネル11の内面に沿って補強部材13が配置され、該補強部材13の車両前後方向両端縁部がインナーパネル12方向に向けて延長され、該両延長部12aで箱形部Bの車両前後両端開口部が閉塞されて六面体に形成されたことで、箱形部Bの剛性が高められ、これにより、ステアリングメンバー2の固定部分の支持剛性及びロードパス効率をさらに高めることができるようになる。
【0030】
また、ブラケット3のアウターパネル11側端部が該アウターパネル11の内面に沿って下方へ延長され、該延長部13aとアウターパネル11に対しドアヒンジ9が固定ボルト93によって締結固定することで、ブラケット3の延長部31でドアヒンジ9における受けプレートのフランジを兼ねさせることができるため、ロードパス効率アップとドアヒンジ固定部の耐久性アップを一体で行うことができ、従って、開発工数、コスト、重量削減を行うことができるようになる。
【0031】
また、フロントピラー1に対し固定ボルト23で締結固定されるステアリングメンバー2の固定部分の1箇所がブラケット3の延長部31に配置されることにより、ステアリングメンバー2の固定部分の支持剛性のアップが可能になる。
【0032】
また、ブラケット3は、箱形部Bの下壁b4と延長部31の他に該箱形部Bの下壁b4と延長部31の車両前後方向端部を繋ぐ前後両側壁b2、b3が備えられた構成とすることにより、ブラケット3の剛性が高められ、これにより、ステアリングメンバー2の固定部分(1箇所)の支持剛性をさらに高めることができるようになる。
【0033】
また、固定ボルト23の外周に配置されるカラー8が前記ブラケット3と一体に備えられることで、部品点数の削減が可能になる共に、カラー8の組み付け工程を省略できるようになる。
【0034】
また、一枚の板材7の両端部を略コ字状に折曲させてそれぞれ固定ボルト23の外周を囲むカラー71、71としたことで、カラーの組み付け工程を省略できるようになる。
【0035】
以上、本発明の実施例を図面に基づき説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0036】
例えば、実施例では、箱形部Bの車両後方に該箱形部Bの下壁b4と軸心部Qが一致する状態でドアビーム5が配置されている構成としたが、箱形部Bの車両後方に車両後方から見て箱形部Bの各コーナーを結ぶ仮想枠H内(図3参照)に少なくともその一部がかかる状態でドアビーム5が配置されていれば、前面衝突、オフセット衝突の際の入力エネルギーを効率的に車両後方へ流すこと(ロードパス効率アップ)が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造を示す室外側からの斜視図である。
【図2】実施例の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造を示す室内側からの斜視図である。
【図3】図1のA−A線における拡大縦断面図である。
【図4】図1のB−B線における拡大横断面図である。
【図5】図1のC−C線における拡大横断面図である。
【図6】図1のD−D線における拡大横断面図である。
【図7】ブラケットを示す斜視図である。
【図8】図3のE−E線における拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
B 箱形部
Q ドアビームの軸心部
H 仮想枠
b1 上壁
b2 内側側壁
b3 外側側壁
b4 下壁
1 フロントピラー
11 アウターパネル
11a 後側延長部
12 インナーパネル
12a 延長部
13 補強部材
13a 前側延長部
13b 後側延長部
15 ボルト挿通孔
16 ボルト挿通孔
17 ボルト挿通孔
2 ステアリングメンバー
21 パイプ部材
22 取付ブラケット
22a 円筒部
22b フランジ部
22c ボルト挿通孔
23 固定ボルト
24 ナット
3 ブラケット
31 ビード
32 延長部
33 側壁
4 ドア
5 ドアビーム
6 三角窓
61 三角窓フランジ部
7 板材
71 カラー
8 カラー
9 ドアヒンジ
91 ナット
92 ボルト挿通孔
93 固定ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントピラーに車幅方向縦断面が箱形の箱形部が形成され、該箱形部の両側壁を固定ボルトが車幅方向に貫通する状態でステアリングメンバーの固定部分の少なくとも一部が設けられ、前記箱形部の車両後方に車両後方から見て該箱形部の各コーナーを結ぶ仮想枠内に少なくともその一部がかかる状態でドアビームの前部が配置されていることを特徴とする車両におけるステアリングメンバーの固定部構造。
【請求項2】
前記フロントピラーの箱形部が、インナーパネルからなる上壁及び内側側壁と、アウターパネルからなる外側側壁と、ブラケットからなる下壁とで構成され、
前記ドアビーム前部の少なくとも一部が車両後方から見て前記ブラケットにかかる状態で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造。
【請求項3】
前記アウターパネルの内面に沿って補強部材が配置され、
該補強部材の車両前後方向両端縁部が前記インナーパネル方向に向けて延長され、該両延長部で前記箱形部の車両前後両端開口部が閉塞されて六面体に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造。
【請求項4】
前記ドアビームの少なくとも一部がかかる前記ブラケット部分にビードが形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造。
【請求項5】
前記ブラケットの前記アウターパネル側端部が該アウターパネルの内面に沿って下方へ延長され、
該ブラケットの延長部と前記アウターパネルに対しドアヒンジがボルトによって締結固定されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造。
【請求項6】
前記ブラケットは、前記箱形部の下壁と延長部の他に該箱形部の下壁と延長部の車両前後方向端部を繋ぐ前後両側壁が備えられていることを特徴とする請求項5項に記載の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造。
【請求項7】
前記フロントピラーに対し固定ボルトで締結固定されるステアリングメンバーの固定部分の一部が前記ブラケットの延長部に配置され、
前記固定ボルトの外周に配置されるカラーが前記ブラケットに備えられていることを特徴とする請求項5または6に記載の車両におけるステアリングメンバーの固定部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−132848(P2008−132848A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319809(P2006−319809)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】