説明

車両のエンジン制御装置

【課題】アクセルとブレーキの両方が踏み込まれたときにエンジンの出力を制限する出力制限制御を実行するものにおいて、出力制限制御の実行条件を判定する際に、運転者の要求ブレーキ力を精度良く判定して、出力制限制御の動作信頼性を向上させる。
【解決手段】アクセルセンサ31で検出したアクセル操作量が所定値A1 以上で且つブレーキセンサ32で検出したブレーキ操作量が所定値B2 以上になったときに、運転者の要求ブレーキ力が所定以上であると判断して出力制限制御を実行する。その際、大気圧やエアコンのコンプレッサのオン/オフに応じて所定値B2 を変化させる。これにより、大気圧の変化やコンプレッサのオン/オフよる吸気管負圧の変化によって、ブレーキ操作量とブレーキの制動力との関係が変化して、ブレーキ操作量と運転者の要求ブレーキ力との関係が変化するのに対応して、所定値B2 を変化させて所定値B2 を適正値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセル操作とブレーキ操作の両方が検出された状態(アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態)になったときにエンジンの出力を制限する機能を備えた車両のエンジン制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
運転者が間違えてアクセルペダルとブレーキペダルを同時に踏み込むことに起因する車両の暴走を防ぐことを目的として、例えば、特許文献1(特開2005−291030号公報)には、ブレーキペダルの踏み込み量が所定値(意図的なアクセルペダル及びブレーキペダルの同時踏み込みに対応した値)以上であるときに、エンジンを強制的にアイドル状態にすることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2(特表平2−502558号公報)には、ブレーキとアクセルが同時に操作されたときに駆動出力を所定の小さい値に減少させる安全回路において、ブレーキの操作が検出されても、運転者が新たにアクセルペダルを踏み込んだことをアクセルセンサの出力の時間微分値により検出したときには、安全回路を作動させないようにすることが記載されている。
【0004】
また、特許文献3(US6881174号公報)には、ブレーキとアクセルが同時に操作されたときにそれぞれの操作量に基づいてブレーキ要求がアクセル要求より大きいと判断した場合に、エンジン出力を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−291030号公報
【特許文献2】特表平2−502558号公報
【特許文献3】US6881174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アクセル操作とブレーキ操作の両方が検出された状態(アクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態)になったときにエンジンの出力を制限する出力制限制御を実行する車両において、ブレーキ操作/解除に応じてオン/オフするブレーキスイッチの出力信号に基づいてブレーキ操作を検出するシステムでは、運転者がブレーキを軽く踏んだだけの場合でも、ブレーキスイッチがオンされてブレーキ操作が検出されて、運転者の意図に反して出力制限制御が実行されてしまう可能性がある。
【0007】
このように運転者の意図に反して出力制限制御が実行されることを防止するには、出力制限制御の実行条件を判定する際に、運転者の要求ブレーキ力を精度良く判定する必要がある。しかし、例えば、ブレーキの作動油圧(例えばブレーキマスターシリンダ内の油圧)を検出する油圧センサの出力に基づいて要求ブレーキ力を判定する場合、ベーパーロック発生時には要求ブレーキ力を精度良く判定することができない。
【0008】
そこで、本出願人は、アクセルセンサで検出したアクセル操作量(アクセル開度)が所定値以上で、且つ、ブレーキセンサで検出したブレーキ操作量(例えばブレーキの踏み込み量)が所定値以上になったときに、運転者の要求ブレーキ力が所定以上であると判断して、出力制限制御を実行するシステムを研究しているが、その研究過程で、次のような新たな課題が判明した。
【0009】
一般に、エンジンを搭載した車両は、負圧式のブレーキブースタを搭載したものが多く、エンジンの吸気管負圧をブレーキブースタ内に導入し、その負圧と大気圧との圧力差を利用してブレーキペダルの踏み込み力を増幅してブレーキの制動力を増大させるようになっている。この場合、大気圧や吸気管負圧が変化すると、ブレーキ操作量とブレーキの制動力との関係が変化して、ブレーキ操作量と運転者の要求ブレーキ力(運転者が要求するブレーキ制動力)との関係が変化するため、運転者の要求ブレーキ力が同じでも、それに対応するブレーキ操作量が異なってくる。このため、ブレーキ操作量が所定値(予め設定した固定値)以上になったときに、運転者の要求ブレーキ力が所定以上であると判断するシステムでは、運転者の要求ブレーキ力を精度良く判定できなくなる可能性があり、出力制限制御の動作信頼性を十分に向上させることができない。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、出力制限制御の実行条件を判定する際に、運転者の要求ブレーキ力を精度良く判定することができ、出力制限制御の動作信頼性を向上させることができる車両のエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車両の駆動源としてエンジンを搭載した車両のエンジン制御装置において、アクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、ブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、アクセル操作量検出手段で検出したアクセル操作量が所定値以上で且つブレーキ操作量検出手段で検出したブレーキ操作量が所定値(以下「ブレーキ判定値」という)以上になったときにエンジンの出力を制限する出力制御手段とを備え、出力制御手段は、車両の外部環境と運転状態のうちの少なくとも一方に応じてブレーキ判定値を変化させるようにしたものである。
【0012】
この構成では、アクセル操作量が所定値以上で且つブレーキ操作量が所定値(ブレーキ判定値)以上になったときに、運転者の要求ブレーキ力が所定以上であると判断して、出力制限制御を実行することができる。その際、外部環境や運転状態に応じてブレーキ判定値を変化させることで、外部環境や運転状態の変化によって、ブレーキ操作量とブレーキの制動力との関係が変化して、ブレーキ操作量と運転者の要求ブレーキ力との関係が変化しても、それに応じてブレーキ判定値を変化させて、ブレーキ判定値を適正値に設定することができる。これにより、出力制限制御の実行条件を判定する際に、ブレーキ操作量に基づいて運転者の要求ブレーキ力を精度良く判定することができるため、運転者の意図に反して出力制限制御が実行されることを防止できると共に、ベーパーロック発生時でも要求ブレーキ力を精度良く判定することができ、出力制限制御の動作信頼性を向上させることができる。
【0013】
この場合、請求項2のように、外部環境として大気圧を用い、該大気圧に応じてブレーキ判定値を変化させるようにしても良い。このようにすれば、大気圧の変化によって、ブレーキ操作量とブレーキの制動力との関係が変化して、ブレーキ操作量と運転者の要求ブレーキ力との関係が変化するのに対応して、ブレーキ判定値を変化させて、ブレーキ判定値を適正値に設定することができる。
【0014】
また、エンジンの動力で駆動される補機(例えばエアコンのコンプレッサ等)が作動すると、エンジン負荷が増大して吸気管負圧が小さく(吸気管圧力が高く)なる。
【0015】
そこで、請求項3のように、運転状態としてエンジンの動力で駆動される補機の作動状態を用い、該補機の作動状態に応じてブレーキ判定値を変化させるようにしても良い。このようにすれば、補機の作動状態(例えばオン/オフ)による吸気管負圧の変化によって、ブレーキ操作量とブレーキの制動力との関係が変化して、ブレーキ操作量と運転者の要求ブレーキ力との関係が変化するのに対応して、ブレーキ判定値を変化させて、ブレーキ判定値を適正値に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の一実施例におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2はエンジン出力制御を説明する図である。
【図3】図3はエンジン出力制御の実行例を説明するタイムチャートである。
【図4】図4は所定値B2 のマップの一例を概念的に示す図である。
【図5】図5は出力制限制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
車両には、駆動源として内燃機関であるエンジン11が搭載されている。このエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
【0018】
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ19が設けられている。また、サージタンク18には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられ、各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ吸気ポートに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各気筒の点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0019】
一方、エンジン11の排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0020】
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、ノッキングを検出するノックセンサ27が取り付けられている。また、クランク軸28の外周側には、クランク軸28が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ29が取り付けられ、このクランク角センサ29の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0021】
エンジン11の吸気管12のうちのスロットルバルブ16の下流側には、負圧式のブレーキブースタ(図示せず)が接続されている。このブレーキブースタは、エンジン11の吸気管負圧をブレーキブースタ内に導入し、その負圧と大気圧との圧力差を利用してブレーキペダル(図示せず)の踏み込み力を増幅してブレーキの制動力を増大させるようになっている。
【0022】
車両には、アクセル操作量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ31(アクセル操作量検出手段)と、ブレーキ操作量を検出するブレーキセンサ32(ブレーキ操作量検出手段)と、車速を検出する車速センサ33と、大気圧を検出する大気圧センサ34等が搭載されている。ブレーキセンサ32は、ブレーキ操作量として、例えば、ブレーキペダルのストローク量(踏み込み量)を検出する。或は、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて変化するブレーキブースタのストローク量(例えばオペレーティングロッドやプッシュロッドのストローク量)を検出するようにしても良い。
【0023】
また、エンジン11の動力で駆動される補機としてエアコンのコンプレッサ(図示せず)が設けられ、このエアコンのコンプレッサがオン(作動)されると、エンジン負荷が増大して吸気管負圧が小さく(吸気管圧力が高く)なる。
【0024】
上述した各種センサやスイッチの出力は、電子制御回路(以下「ECU」と表記する)30に入力される。このECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。その際、ECU30は、アクセルセンサ31で検出したアクセル開度(アクセル操作量)に基づいてスロットル開度(吸入空気量)等を制御してエンジン11の出力を制御する。
【0025】
本実施例では、ECU30により後述する図5の出力制限制御ルーチンを実行することで、アクセルセンサ31とブレーキセンサ32の出力信号に基づいて、アクセルの踏み込みと同時か又はアクセルの踏み込み後にブレーキが踏み込まれてアクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態(アクセル操作と同時か又はアクセル操作の後にブレーキ操作が検出されてアクセル操作とブレーキ操作の両方が検出された状態)になったと判断したときに、エンジン制御用のアクセル開度(エンジン11の制御に使用するアクセル開度)を制限することで、エンジン11の出力を制限する出力制限制御を実行する。
【0026】
以下、図2乃至図4を用いて、本実施例のエンジン出力制御について具体的に説明する。尚、以下の説明で「ブレーキON」はブレーキセンサ32で検出したブレーキ操作量が所定値以上の状態を意味し、「ブレーキOFF」はブレーキセンサ32で検出したブレーキ操作量が所定値よりも小さい状態を意味する。
【0027】
図2及び図3に示すように、ECU30の起動直後は、まず、通常モード(Mode1)に設定される。
(1)通常モード(Mode1)では、実アクセル開度(アクセルセンサ31で検出したアクセル開度)を、そのままエンジン制御用のアクセル開度として採用し、このエンジン制御用のアクセル開度(=実アクセル開度)を用いてエンジン11の出力を制御する。
【0028】
この通常モード(Mode1)の場合には、次の(a) 〜(c) の条件が成立しているか否かを判定する。
(a) 車速が所定値V1 以上であること
(b) 実アクセル開度が所定値A1 よりも大きいこと
(c) ブレーキOFF(ブレーキ操作量が所定値B1 よりも小さい)か又はブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B1 以上)の継続時間が所定時間T1 以下であること
ここで、上記(b) の条件の所定値A1 は、予め設定した固定値としても良いし、車速に応じて設定するようにしても良い。また、上記(c) の条件の所定値B1 は、後述する(d) の条件の所定値B2 と同じ値としても良い。
【0029】
上記(a) 〜(c) の3つの条件が全て成立していると判定された場合、つまり、車速が所定値V1 以上であると判定され、且つ、実アクセル開度が所定値A1 よりも大きい(アクセルが踏み込まれている)と判定され、且つ、ブレーキOFFであるか又はブレーキONの継続時間が所定時間T1 以下であると判定された場合には、その時点t1 (図3参照)で、スタンバイモード(Mode2)に移行する。
【0030】
(2)スタンバイモード(Mode2)では、通常モード(Mode1)と同じように、実アクセル開度(アクセルセンサ31で検出したアクセル開度)を、そのままエンジン制御用のアクセル開度として採用し、このエンジン制御用のアクセル開度(=実アクセル開度)を用いてエンジン11の出力を制御する。
このスタンバイモード(Mode2)の場合には、次の(d) の条件が成立しているか否かを判定する。
(d) ブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B2 以上)であること
【0031】
ここで、上記(d) の条件の所定値B2 (ブレーキ判定値)は、運転者の要求ブレーキ力が所定以上(出力制限制御を実行する必要がある値)であるか否かを判定するためのものであり、例えば、図4に示す所定値B2 のマップを参照して、大気圧センサ34で検出した大気圧とエアコンのコンプレッサの作動状態(オン/オフ)に応じた所定値B2 を算出することで、大気圧やエアコンのコンプレッサの作動状態に応じて所定値B2 (ブレーキ判定値)を変化させるようになっている。
【0032】
大気圧や吸気管負圧が変化すると、ブレーキ操作量とブレーキの制動力との関係が変化して、ブレーキ操作量と運転者の要求ブレーキ力(運転者が要求するブレーキ制動力)との関係が変化するため、運転者の要求ブレーキ力が同じでも、それに対応するブレーキ操作量が異なってくる。
【0033】
このような事情を考慮して、図4に示す所定値B2 のマップは、大気圧が低くなるほど所定値B2 が大きくなると共に、エアコンのコンプレッサがオンされて吸気管負圧が小さく(吸気管圧力が高く)なったときに所定値B2 がコンプレッサのオフ時よりも大きくなるように設定されている。これにより、大気圧の変化やエアコンのコンプレッサの作動状態(オン/オフ)による吸気管負圧の変化によって、ブレーキ操作量とブレーキの制動力との関係が変化して、ブレーキ操作量と運転者の要求ブレーキ力との関係が変化するのに対応して、ブレーキ判定値を変化させる。この所定値B2 のマップは、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU30のROMに記憶されている。
【0034】
上記(d) の条件が成立していると判定された場合、つまり、ブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B2 以上)であると判定された場合には、運転者の要求ブレーキ力が所定以上であると判断して、その時点で、制限制御モード(Mode3)に移行する。これにより、アクセルの踏み込みと同時か又はアクセルの踏み込み後にブレーキが踏み込まれたと判定した時点で、速やかに出力制限制御を開始することができる。
【0035】
尚、上記(d) の条件を「ブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B2 以上)の継続時間が所定のディレイ時間T2 以上であること」に変更しても良い。ここで、ディレイ時間T2 は、車速に応じて設定される。この(d) の条件が成立していると判定された場合、つまり、ブレーキONの継続時間が所定のディレイ時間T2 以上である(ブレーキが踏み込まれたと判定してから所定のディレイ時間T2 以上が経過した)と判定された場合には、その時点t2 (図3参照)で、制限制御モード(Mode3)に移行する。これにより、アクセルの踏み込みと同時か又はアクセルの踏み込み後にブレーキが踏み込まれたと判定してから出力制限制御を開始するまでに、車速に応じた適度なディレイ時間T2 を持たせることができる。
【0036】
一方、上記(d) の条件が不成立であると判定された場合には、次の(e) 又は(f) の条件が成立しているか否かを判定する。つまり、上記(d) の条件よりも次の(e) と(f) の条件の方が優先度が低い。
(e) 実アクセル開度が所定値A2 以下であること
(f) 車速が所定値V2 よりも低いこと
ここで、上記(e) の条件の所定値A2 は、上記(b) の条件の所定値A1 よりも小さい値に設定されている。また、上記(f) の条件の所定値V2 は、上記(a) の条件の所定値V1 よりも小さい値に設定されている。
【0037】
上記(e) 又は(f) の条件が成立していると判定された場合、つまり、実アクセル開度が所定値A2 以下であると判定された場合、又は、車速が所定値V2 よりも低いと判定された場合には、その時点で、通常モード(Mode1)に戻る。
【0038】
(3)制限制御モード(Mode3)では、エンジン制御用のアクセル開度を制限値(例えばアイドル運転時よりも少し大きいアクセル開度)まで減少させる。このエンジン制御用のアクセル開度を用いてエンジン11の出力を制御することで、エンジン11の出力を制限する出力制限制御を実行する。ここで、制限値は、出力制限制御開始時の車速(又は現在の車速)に応じてマップ等により算出する。制限値のマップは、例えば、出力制限制御開始時の車速(又は現在の車速)が低くなるほど制限値が小さくなるように設定されている。
【0039】
更に、この出力制限制御を実行する際には、出力制限制御開始時の車速に応じた減算量をマップ等により算出する。ここで、減算量のマップは、例えば、出力制限制御開始時の車速が低くなるほど減算量が小さくなってエンジン制御用のアクセル開度の変化速度(減少速度)が遅くなるように設定されている。そして、エンジン制御用のアクセル開度が制限値に減少するまで、所定の演算周期毎に前回のエンジン制御用のアクセル開度(初期値は実アクセル開度)から減算量だけ減算して今回のエンジン制御用のアクセル開度を求める処理を繰り返すことで、出力制限制御開始時の車速に応じた変化速度(減少速度)でエンジン制御用のアクセル開度を制限値まで減少させる。
【0040】
この制限制御モード(Mode3)の場合には、次の(g) 又は(h) の条件が成立しているか否かを判定する。
(g) 実アクセル開度の所定時間当りの増加量が所定値ΔA3 よりも大きいこと
(h) ブレーキOFF(ブレーキ操作量が所定値B3 よりも小さい)こと
ここで、上記(h) の条件の所定値B3 は、上記(d) の条件の所定値B2 と同じ値としても良い。
【0041】
上記(g) の条件が成立していると判定された場合、つまり、出力制限制御の実行中に実アクセル開度の所定時間当りの増加量が所定値ΔA3 よりも大きいと判定された場合には、その時点で、運転者が意図的にアクセル開度を増加させた(アクセルを踏み込んだ)ため、エンジン出力を抑制する必要はないと判断して、復帰制御モード(Mode4)に移行して、復帰制御を実行する。
【0042】
また、上記(h) の条件が成立していると判定された場合、つまり、出力制限制御の実行中にブレーキOFF(ブレーキ操作量が所定値B3 よりも小さい)と判定された場合には、その時点で、運転者が意図的にブレーキの踏み込みを解除したため、エンジン出力を抑制する必要はないと判断して、復帰制御モード(Mode4)に移行して、復帰制御を実行する。
【0043】
尚、上記(h) の条件を「ブレーキOFF(ブレーキ操作量が所定値B3 よりも小さい)の継続時間が所定時間T3 以上であること」に変更して、この(h) の条件が成立していると判定された場合、つまり、ブレーキOFFの継続時間が所定時間T3 以上である(ブレーキの踏み込みが解除されたと判定してから所定時間T3 以上が経過した)と判定された場合には、その時点t3 (図3参照)で、復帰制御モード(Mode4)に移行して、復帰制御を実行するようにしても良い。
【0044】
一方、上記(g) と(h) の条件が両方とも不成立であると判定された場合には、次の条件(i) が成立しているか否かを判定する。つまり、上記(g) と(h) の条件よりも次の(i) の条件の方が優先度が低い。
(i) 実アクセル開度が所定値A3 よりも小さいこと
ここで、上記(i) の条件の所定値A3 は、上記(b) の条件の所定値A1 よりも小さい値に設定されている。上記(i) の条件が成立していると判定された場合、つまり、実アクセル開度が所定値A3 よりも小さいと判定された場合には、その時点で、通常モード(Mode1)に戻る。
【0045】
(4)復帰制御モード(Mode4)では、エンジン制御用のアクセル開度を実アクセル開度に戻す復帰制御を実行し、このエンジン制御用のアクセル開度を用いてエンジン11の出力を制御する。
【0046】
更に、この復帰制御を実行する際には、復帰制御開始時の車速(又は出力制限制御開始時の車速)に応じた加算量をマップ等により算出する。ここで、加算量のマップは、例えば、復帰制御開始時の車速(又は出力制限制御開始時の車速)が低くなるほど加算量が小さくなってエンジン制御用のアクセル開度の変化速度(増加速度)が遅くなるように設定されている。そして、エンジン制御用のアクセル開度が実スロットル開度に増加するまで、所定の演算周期毎に前回のエンジン制御用のアクセル開度に加算量だけ加算して今回のエンジン制御用のアクセル開度を求める処理を繰り返すことで、復帰制御開始時の車速(又は出力制限制御開始時の車速)に応じた変化速度(増加速度)でエンジン制御用のアクセル開度を実アクセル開度まで増加させる。その際、エンジン制御用のアクセル開度を実アクセル開度まで増加させるときの変化速度を所定の上限値で制限する。
【0047】
この復帰制御モード(Mode4)の場合には、次の(j) の条件が成立しているか否かを判定する。
(j) ブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B4 以上)であること
ここで、上記(j) の条件の所定値B4 は、上記(d) の条件の所定値B2 と同じ値としても良い。
【0048】
上記(j) の条件が成立していると判定された場合、つまり、復帰制御の実行中にブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B4 以上)であると判定された場合には、その時点で、制限制御モード(Mode3)に戻って、出力制限制御を実行する。
【0049】
尚、上記(j) の条件を「ブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B4 以上)の継続時間が所定時間T4 以上であること」に変更して、この(j) の条件が成立していると判定された場合、つまり、ブレーキONの継続時間が所定時間T4 以上である(ブレーキが踏み込まれたと判定してから所定時間T4 以上が経過した)と判定された場合には、その時点で、制限制御モード(Mode3)に戻って、出力制限制御を実行するようにしても良い。
【0050】
一方、上記(j) の条件が不成立であると判定された場合には、次の条件(k) が成立しているか否かを判定する。つまり、上記(j) の条件よりも次の(k) の条件の方が優先度が低い。
(k) エンジン制御用のアクセル開度が実アクセル開度以上であること
上記(k) の条件が成立していると判定された場合、つまり、エンジン制御用のアクセル開度が実アクセル開度以上であると判定された場合には、その時点t4 (図3参照)で、復帰制御を終了して、スタンバイモード(Mode2)に戻る。これにより、エンジン制御用のアクセル開度を確実に実アクセル開度まで増加させることができる。
【0051】
更に、上記(k) の条件が不成立であると判定された場合には、次の(l) の条件が成立しているか否かを判定する。つまり上記(k) の条件よりも次の(l) の条件の方が優先度が低い。
(l) 実アクセル開度が所定値A4 よりも小さいこと
ここで、上記(l) の条件の所定値A4 は、上記(b) の条件の所定値A1 よりも小さい値に設定されている。上記(l) の条件が成立していると判定された場合、つまり、実アクセル開度が所定値A4 よりも小さいと判定された場合には、その時点で、通常モード(Mode1)に戻る。
【0052】
以上の処理により、上記(a) 〜(d) の4つの条件を出力制限制御の実行条件とし、アクセルの踏み込みと同時か又はアクセルの踏み込み後にブレーキが踏み込まれてアクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態(アクセル操作量が所定値A1 以上で且つブレーキ操作量が所定値B2 以上の状態)になったときに、エンジン制御用のアクセル開度を車速に応じた制限値にすることで、エンジン11の出力を制限する出力制限制御を実行する。
【0053】
以上説明した本実施例のエンジン出力制御のうちの制限制御モード(出力制限制御を実行するモード)への移行に関する処理は、ECU30によって図5の出力制限制御ルーチンに従って実行される。以下、このルーチンの処理内容を説明する。
【0054】
図5に示す出力制限制御ルーチンは、ECU30の電源オン中に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう出力制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、通常モード(Mode1)であるか否かを判定する。
【0055】
このステップ101で、通常モード(Mode1)であると判定された場合には、ステップ102に進み、次の(a) 〜(c) の条件が成立しているか否かを判定する。
(a) 車速が所定値V1 以上であること
(b) 実アクセル開度が所定値A1 よりも大きいこと
(c) ブレーキOFF(ブレーキ操作量が所定値B1 よりも小さい)か又はブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B1 以上)の継続時間が所定時間T1 以下であること
【0056】
このステップ102で、上記(a) 〜(c) の3つの条件が全て成立していると判定された場合には、ステップ103に進み、スタンバイモード(Mode2)に移行する。
スタンバイモード(Mode2)に移行した後は、上記ステップ101で「No」と判定されて、ステップ104に進み、スタンバイモード(Mode2)であるか否かを判定し、スタンバイモード(Mode2)であると判定されれば、ステップ105に進み、次の(d) の条件が成立しているか否かを判定する。
(d) ブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B2 以上)であること
【0057】
ここで、上記(d) の条件の所定値B2 (ブレーキ判定値)は、図4に示す所定値B2 のマップを参照して、大気圧センサ34で検出した大気圧とエアコンのコンプレッサの作動状態(オン/オフ)に応じた所定値B2 を算出する。
尚、上記(d) の条件を「ブレーキON(ブレーキ操作量が所定値B2 以上)の継続時間が所定のディレイ時間T2 以上であること」に変更しても良い。
【0058】
このステップ105で、上記(d) の条件が成立していると判定された場合には、運転者の要求ブレーキ力が所定以上であると判断して、ステップ106に進み、制限制御モード(Mode3)に移行する。この制限制御モード(Mode3)では、エンジン制御用のアクセル開度を制限することで、エンジン11の出力を制限する出力制限制御を実行する。
【0059】
以上説明した本実施例では、アクセル操作量が所定値A1 以上で且つブレーキ操作量が所定値B2 (ブレーキ判定値)以上になったときに、運転者の要求ブレーキ力が所定以上であると判断して、出力制限制御を実行する。その際、大気圧やエアコンのコンプレッサの作動状態(オン/オフ)に応じて所定値B2 を変化させるようにしたので、大気圧の変化やエアコンのコンプレッサの作動状態(オン/オフ)よる吸気管負圧の変化によって、ブレーキ操作量とブレーキの制動力との関係が変化して、ブレーキ操作量と運転者の要求ブレーキ力との関係が変化しても、それに応じて所定値B2 を変化させて、所定値B2 を適正値に設定することができる。これにより、出力制限制御の実行条件を判定する際に、ブレーキ操作量に基づいて運転者の要求ブレーキ力を精度良く判定することができるため、運転者の意図に反して出力制限制御が実行されることを防止できると共に、ベーパーロック発生時でも要求ブレーキ力を精度良く判定することができ、出力制限制御の動作信頼性を向上させることができる。
【0060】
尚、上記実施例では、外部環境として大気圧を用い、大気圧センサ34で検出した大気圧に応じて所定値B2 を変化させるようにしたが、これに限定されず、例えば、ナビゲーション装置から取得した標高データ又はその標高データから推定した大気圧に応じて所定値B2 を変化させるようにしても良い。
【0061】
また、上記実施例では、運転状態としてエンジンの動力で駆動されるエアコンのコンプレッサの作動状態(オン/オフ)を用い、エアコンのコンプレッサの作動状態(オン/オフ)に応じて所定値B2 を変化させるようにしたが、これに限定されず、例えば、エンジン11の動力で駆動される他の補機(例えばポンプやファン等)の作動状態に応じて所定値B2 を変化させるようにしたり、吸気管負圧(吸気管圧力)やブレーキブースタ内の圧力に応じて所定値B2 を変化させるようにしても良い。また、外気温、吸気温、油温、冷却水温等に応じて所定値B2 を変化させるようにしても良い。
【0062】
また、上記実施例では、外部環境(例えば大気圧)と運転状態(例えば補機の状態)の両方に応じて所定値B2 を変化させるようにしたが、これに限定されず、外部環境と運転状態のうちの一方のみに応じて所定値B2 を変化させるようにしても良い。
【0063】
また、上記実施例では、アクセルの踏み込みと同時か又はアクセルの踏み込み後にブレーキが踏み込まれてアクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態(アクセル操作量が所定値A1 以上で且つブレーキ操作量が所定値B2 以上の状態)になったときに出力制限制御を実行するシステムに本発明を適用したが、これに限定されず、例えば、アクセルとブレーキの踏み込み順序に拘らずアクセルとブレーキの両方が踏み込まれた状態(アクセル操作量が所定値A1 以上で且つブレーキ操作量が所定値B2 以上の状態)になったときに出力制限制御を実行するシステムに本発明を適用しても良い。
【0064】
その他、本発明は、図1に示すような吸気ポート噴射式エンジンに限定されず、筒内噴射式エンジンや、吸気ポート噴射用の燃料噴射弁と筒内噴射用の燃料噴射弁の両方を備えたデュアル噴射式のエンジンにも適用して実施できる。
【符号の説明】
【0065】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、16…スロットルバルブ、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、23…排気管、30…ECU(出力制御手段)、31…アクセルセンサ(アクセル操作量検出手段)、32…ブレーキセンサ(ブレーキ操作量検出手段)、33…車速センサ、34…大気圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源としてエンジンを搭載した車両のエンジン制御装置において、
アクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段と、
ブレーキ操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、
前記アクセル操作量検出手段で検出したアクセル操作量が所定値以上で且つ前記ブレーキ操作量検出手段で検出したブレーキ操作量が所定値(以下「ブレーキ判定値」という)以上になったときに前記エンジンの出力を制限する出力制御手段とを備え、
前記出力制御手段は、車両の外部環境と運転状態のうちの少なくとも一方に応じて前記ブレーキ判定値を変化させることを特徴とする車両のエンジン制御装置。
【請求項2】
前記出力制御手段は、前記外部環境として大気圧を用い、該大気圧に応じて前記ブレーキ判定値を変化させることを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記出力制御手段は、前記運転状態として前記エンジンの動力で駆動される補機の作動状態を用い、該補機の作動状態に応じて前記ブレーキ判定値を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122349(P2012−122349A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271517(P2010−271517)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】