説明

車両のドリップモールエンド構造

【課題】製造コストの高騰等の弊害を未然に防止した上で、サイドターンシグナルランプの視認性向上とピラーモール下端部からの雨水の飛散防止とを共に実現することができる車両のドリップモールエンド構造を提供する。
【解決手段】フロントピラー8に沿って配設されたピラーモール11bの下端部を、配光を妨げないようにサイドターンシグナルランプ6の上面よりも上方に位置させると共に、ピラーモール11bの下端部にドリップエンドキャップ21を装着して、その内部に形成した案内孔によりピラーモール11bからの雨水の流通方向を変更し、雨水を車体のサイドパネル10に斜めに衝突させてサイドパネル10に沿って流すことで飛散を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のドリップモールエンド構造に係り、詳しくは車両のルーフ等に降った雨水を路面に排水するためのドリップモールの下端部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のドリップモールは、車両のルーフの左右両側からフロントピラーやリヤピラーにかけて延設されており、降雨時にはルーフやフロントウィンドウに降った雨水を集合させて路面に排水することにより、雨水によるサイドウィンドウ等の視界悪化を防止する役割を果たしている。具体的なドリップモールの設置状態としては、例えば図13に示す路線バス用のものを挙げることができ、同図では、車体前部の右側、即ち運転席側のドリップモールの設置状態を示している。
【0003】
ドリップモール11は、車体のルーフ7の右側に沿って前後方向に延設されたルーフモール11a、フロントピラー8に沿って上下方向に延設されたピラーモール11b、及びルーフモール11aの前端とピラーモール11bの上端とを連結するコーナーモール11cから構成されている。ルーフモール11aは上方に開口し、ピラーモール11bは前方に開口し、コーナーモール11cは上方及び前方に開口している。ルーフ7に降った雨水はルーフモール11aに堰き止められた後、コーナーモール11cを経てピラーモール11bを下方に向けて案内されて路面に排水され、車両走行に伴ってフロントウィンドウ1に降った雨水はピラーモール11bにより堰き止められた後、下方に向けて案内されて路面に排水される。
【0004】
ピラーモール11bは、走行風による雨水の飛散を防止するために車体下部まで延設されている。即ち、ピラーモール11b内を案内される雨水は走行風を受けるため、車体上下方向の途中でピラーモール11bが途切れている場合には、その下端部から排水された雨水が走行風により飛散して、自車の右側後方を併走する他車の視界を妨害する虞がある。そこで、ピラーモール11bを車体下部まで延設して雨水の飛散を防止しているのである。
【0005】
ところで、車体前部に設けられたサイドターンシグナルランプ6は、右左折や車線変更等の自車の進行方向を周囲の他車に知らせるという交通安全性の観点から極めて重要な装備であり、近年ではサイドターンシグナルランプ6の視認性、特に斜め後方からの視認性を一層向上させる要望が生じている。しかしながら、図14に示すように、サイドターンシグナルランプ6は車体の角部、即ち上記ドリップモール11のピラーモール11bの直前に設置されているため、サイドターンシグナルランプ6から斜め後方に向かう配光がピラーモール11bにより部分的に遮られてしまった。そこで、サイドターンシグナルランプ6より上方位置でピラーモール11bを切断して、ピラーモール11bによる配光の妨害を解消することも考えられるが、この場合には、上記したピラーモール下端部からの雨水の飛散による不具合が生じてしまう。このように、サイドターンシグナルランプ6の視認性向上とピラーモール下端部からの雨水の飛散防止とはトレードオフの関係となり、従来から両者を共に解消する対策が望まれていた。
【0006】
このような不具合への対策としては、例えば特許文献1に記載された技術を挙げることができる。当該技術では、車体のルーフの前部左右両側にそれぞれ雨水を貯留するためのチャンバを設置し、ドリップモールのルーフモールの前端をチャンバに接続すると共に、フロントピラー内に沿って配設された排水ホースの上端をチャンバに接続し、ルーフモールからの雨水をチャンバに貯留しながら排水ホースを経て路面に排水している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−289538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、雨水を貯留可能なチャンバは製作費用がかかる上に、このチャンバをルーフ部分に設置するために車体側にも大がかりな改造が必要となり、何れも車両の製造コストを高騰させる要因になってしまう。又、元々ルーフ前部の左右両側にはミラー支持用のステーが固定されるため、この箇所にチャンバを設置した場合には、ミラーステーの固定箇所を別に確保する必要が生じ、これもコスト高騰の要因となる。
【0009】
しかも、上記特許文献1の技術は、ルーフモールからの雨水の処理のみを考慮し、ピラーモールの機能については何ら考慮していない点で問題がある。即ち、特許文献1の技術では、チャンバを設置してルーフモールを接続したことにより、従来からのピラーモールが廃止されることになる。しかしながら、上記したようにピラーモールは、フロントウィンドウに降った雨水、或いはワイパーにより左右に掻き分けられた雨水を路面へと案内する重要な役割を果たしており、この機能が損なわれることにより、雨水はフロントウィンドウからサイドウィンドウ側に回り込んで側方への視界を悪化させてしまう。又、この点を鑑みて、従来からのピラーモールを追加した場合には、結果としてフロントピラーの内外に沿ってピラーモールとチャンバ及び排水ホースとを並設することになるため、製造コストを一層高騰させてしまう。
【0010】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、製造コストの高騰等の弊害を未然に防止した上で、サイドターンシグナルランプの視認性向上とピラーモール下端部からの雨水の飛散防止とを共に実現することができる車両のドリップモールエンド構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車体のフロントピラーに沿って配設されて雨水を排水溝により下方に案内し、下端部が車体の前部角部に取り付けられたサイドターンシグナルランプの上面よりも上方に位置するドリップモールと、内部に形成した案内孔の一端を上方に開口させてドリップモールの排水溝に連続させ、排水溝から案内孔内に導入される雨水を一側に開口した案内孔の他端から排水するドリップエンドキャップとを備え、ドリップエンドキャップの案内孔の他端は、排水した雨水を車体の側壁に沿って車体後方向へ流すように開口方向が設定されたものである。
【0012】
従って、ドリップモールの下端部がサイドターンシグナルランプの上面よりも上方に位置しているため、サイドターンシグナルランプからの配光はドリップモールに遮られることなく斜め後方に向かい、後方を走行する他車はサイドターンシグナルランプの点滅状況を容易且つ確実に認識可能となる。
又、特許文献1のようにフロントピラーに沿ったドリップモール(ピラーモール)を廃止していないため、フロントウィンドウに降った雨水、或いはワイパーにより左右に掻き分けられた雨水は確実にピラーモールにより堰き止められて排水され、これにより側方視界の悪化が未然に防止される。又、フロントピラーにはピラーモールが配設されるだけで、このピラーモールと共に特許文献1に記載された排水ホースをフロントピラーに沿って並設する必要はないため、これに起因する製造コストの高騰が防止される。
【0013】
一方、ドリップモールの排水溝を案内された雨水はドリップエンドキャップの案内孔内に導入され、案内孔内を流通して他端の開口部より排水される。排水された雨水は車体側壁から離間することなく、そのまま窓部下方の車体側壁に沿って車体後方向へ流れ落ちる。このため、単にドリップモールを途中で切断した場合のような、ドリップモールの下端部から排水された雨水が走行風を受けて飛散する現象は発生せず、飛散した雨水による他車への視界妨害も未然に防止される。
【0014】
又、案内孔により雨水の排出方向を変更するだけのドリップエンドキャップは簡単に製作可能であり、その設置のために車体側に大がかりな改造を要することもなく、さらにドリップエンドキャップの設置場所には、元々ミラーステー等の別の装備は設置されていないため、ドリップエンドキャップが他の装備の設置を妨げることもない。このため、特許文献1の技術のチャンバを製作及び設置する場合に比較して遥かに安価に実施可能となる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1において、ドリップエンドキャップの案内孔が、他端の開口部周縁の上記車体前側に流路変更壁が突設され、流路変更壁により雨水の排水方向を車体側壁側に変更するものである。
従って、案内孔の開口部周縁に流路変更壁を突設するだけで、雨水を所期の方向に排水可能となる。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、ドリップモールの下端部には係合孔が穿設され、係合孔内にフロントピラー上に立設した係合スタッドが挿通されると共に、係合孔から突出した係合スタッドの先端に係合クリップを係合させることによりドリップモールの下端部がフロントピラー上に固定され、ドリップエンドキャップが、ドリップモールの下端部と重なり合う重合部、及び重合部に穿設されてドリップモールの係合孔と共に係合スタッドが挿通される係合孔を備え、係合スタッドの先端への係合クリップの係合によりドリップモールの下端部と共に重合部がフロントピラー上に共締めされるものである。
【0017】
従って、係合スタッドの先端に係合クリップを係合させることによりドリップモールの下端部と共にドリップエンドキャップの重合部をフロントピラー上に共締めするため、ドリップエンドキャップ専用の固定部材を必要とせず、且つ、組付けの際には、ピラーモールの下端部の固定と同時にドリップエンドキャップの重合部も固定される。
請求項4の発明は、請求項3において、係合クリップが、係合スタッドの軸部が嵌り込む切欠を備えたばね鋼製の板状をなし、係合スタッドの先端に形成された大径部とドリップモールの下端部又はドリップエンドキャップの重合部との間に弾性をもって挿入されて、ドリップモールの下端部をフロントピラー上に固定するものである。
【0018】
従って、組み付けの際には、係合スタッドの大径部とピラーモールとの間に係合クリップを挿入するだけの簡単な操作で行うことができ、一方、装着状態において板状の係合クリップはピラーモール内の排水溝の流路断面積をほとんど縮小せず、雨水の排水を妨げることがない。
請求項5の発明は、請求項1乃至4において、ドリップエンドキャップの案内孔が、上方に開口する一端から下方且つ車両後方に向けて緩やかに湾曲して形成され、他端をドリップエンドキャップの後側面に開口させたものである。
【0019】
従って、ドリップエンドキャップの案内孔内を流通する際の雨水の流通抵抗が最小限に抑制され、雨水のオーバーフロー等の不具合が未然に防止される。しかも、雨水を前方に排水した場合のように、前方に開口した案内孔の厳冬期における凍結、或いは前方に位置するサイドターンシグナルランプへの水かかりや凍結などに起因するサイドターンシグナルランプの視認性の悪化等の不具合を未然に回避可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように請求項1の発明の車両のドリップモールエンド構造によれば、ドリップモールの下端部をサイドターンシグナルランプの上面よりも上方に位置させることにより、サイドターンシグナルランプからの配光がドリップモールにより遮られるのを防止して視認性を向上できると共に、排水ホースの並設による製造コストの高騰を防止した上で、フロントピラーに沿ったドリップモールによりフロントウィンドウからの雨水を堰き止めて側方視界の悪化を防止でき、さらに、ドリップモールの排水溝を案内された雨水をドリップエンドキャップの案内孔を経て窓部下方の車体側壁に沿って流すようにしたため、ピラーモール下端部から飛散した雨水による他車への視界妨害を未然に防止でき、一方、案内孔により雨水の排出方向を変更するだけのドリップエンドキャップは簡単に製作可能であり、その設置に車体側に大がかりな改造を要することもなく安価に実施することができる。
【0021】
請求項2の発明の車両のドリップモールエンド構造によれば、請求項1に加えて、特別なコストを要することなく簡単に流路変更壁を設けることができる。
請求項3の発明の車両のドリップモールエンド構造によれば、請求項1又は2に加えて、ドリップモールの下端部と共に重合部をフロントピラー上に共締めすることにより、ドリップエンドキャップ専用の固定部材を必要とせずに製造コストを一層低減できると共に、組付けの際には、ピラーモールの下端部の固定と同時にドリップエンドキャップの重合部も固定でき、組付け作業を簡略化することができる。
【0022】
請求項4の発明の車両のドリップモールエンド構造によれば、請求項3に加えて、係合スタッドの大径部とピラーモールとの間に係合クリップを挿入するだけで簡単に組付可能なため、組付け作業を一層簡略化でき、一方、板状の係合クリップは雨水の排水を妨げることがないため、雨水のオーバーフロー等の不具合を未然に防止することができる。
請求項5の発明の車両のドリップモールエンド構造によれば、請求項1乃至4に加えて、ドリップエンドキャップの案内孔を緩やかに湾曲するように形成して雨水を後方に向けて排水することにより、雨水の流通抵抗を最小限に抑制してオーバーフロー等の不具合を未然に防止できると共に、雨水を前方に排水した場合のような種々の不具合を未然に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態のドリップモールエンド構造が適用された路線バスの右側前部を示す斜視図である。
【図2】同じく路線バスの左側前部を示す斜視図である。
【図3】右側のドリップモールエンド構造を示す拡大分解斜視図である。
【図4】同じく右側のドリップモールエンド構造を右方より見た正面図である。
【図5】同じく右側のドリップモールエンド構造を示す図4のV−V線断面図である。
【図6】同じく右側のドリップモールエンド構造を示す図5のVI−VI線断面図である。
【図7】同じく右側のドリップモールエンド構造を示す図6のVII−VII線断面図である。
【図8】左側のドリップモールエンド構造を示す拡大分解斜視図である。
【図9】同じく左側のドリップモールエンド構造を左方より見た正面図である。
【図10】同じく左側のドリップモールエンド構造を示す図9のX−X線断面図である。
【図11】同じく左側のドリップモールエンド構造を示す図10のXI−XI線断面図である。
【図12】同じく左側のドリップモールエンド構造を示す図11のXII−XII線断面図である。
【図13】従来技術のドリップモールエンド構造が適用された路線バスの右側前部を示す斜視図である。
【図14】同じく従来技術のドリップモールエンド構造におけるサイドターンシグナルランプの配光状態を示す図13のXIV−XIV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を路線バスのドリップモールエンド構造に具体化した一実施形態を説明する。
ここで、本発明のドリップエンド構造は、車体右側、即ち、乗降口を備えない運転席側に適用されるものであるが、本実施形態では、この右側のドリップエンドモール構造に加えて、乗客の乗降口が設けられた車体左側のドリップモールエンド構造に関しても説明している。
【0025】
まず、右側のドリップエンドモール構造について述べる。
図1は本実施形態のドリップモールエンド構造が適用された路線バスの右側前部を示す斜視図、図2は同じく路線バスの左側前部を示す斜視図、図3は右側のドリップモールエンド構造を示す拡大分解斜視図である。
車体の前面上部にはワイパー1aを備えたフロントウィンドウ1が設けられ、図1に示すように車体の右側面の前部には運転席用のサイドウィンドウ2が設けられ、一方、図2に示すように車体の左側前部には乗客用の乗降口3が設けられている。又、車体の前面下部にはフロントバンパ4が設けられ、フロントバンパ4の上側には左右のヘッドライト5が配設されると共に、各ヘッドライト5の外側、即ち車体前面と左右両側面との角部には、ポジションランプンを兼用した左右のサイドターンシグナルランプ6がそれぞれ設けられている。
【0026】
本実施形態の左右のドリップモールの全体的な構成は、図13,14に基づき説明した従来技術と同様であり、右側のドリップモール11を例に挙げて説明すると、ドリップモール11は、車体のルーフ7の右側に沿って前後方向に延設されたルーフモール11a、フロントピラー8に沿って上下方向に延設されたピラーモール11b、及び湾曲した形状をなしてルーフモール11aの前端とピラーモール11bの上端とを連結するコーナーモール11cから構成されている。ルーフモール11aは上方に開口し、ピラーモール11bは前方に開口し、コーナーモール11cは上方及び前方に開口する凹断面形状をなすことでそれぞれ排水溝12を有している。ルーフ7の上面に雨水が溜まらないように、ルーフ7の車幅方向断面の中央部が若干上方へ突出し、複数の半径を持つ円弧を滑らかに連続させた形状になっている。ルーフ7に降った雨水はルーフモール11aに堰き止められた後、コーナーモール11cを経てピラーモール11bを下方に向けて案内され、車両走行に伴ってフロントウィンドウ1に降った雨水はピラーモール11bにより堰き止められた後、下方に向けて案内される。
【0027】
ルーフモール11a、ピラーモール11b及びコーナーモール11cは、長手方向に所定間隔毎に車体側壁に立設された係合スタッド13に対して係合クリップ14により固定されている。係合スタッド13及び係合クリップ14による固定箇所は、図3に示すピラーモール11bに示されており、以下、この箇所を例に挙げて説明する。フロントピラー8は車体のフロントパネル9の右端に位置して上下方向に延びる閉断面構造をなし、その外壁の上下方向中間部分にフロントパネル9の内壁が接合されている。フロントパネル9の右端には右側のサイドパネル10の前端が接合され、これにより車体のフロントから右サイドにかけての外壁が形成されている。
【0028】
ピラーモール11bは、フロントピラー8に沿うようにフロントパネル9上に配設され、ピラーモール11bとフロントパネル9との間にはゴム製のシート状をなすパッキン15が介装されている。尚、パッキン15は必ずしも装着する必要はなく、省略してもよい。前方に開口したピラーモール11bのパッキン15側の面を固定面16と称すると、パッキン15及び固定面16には長手方向に所定間隔をおいて係合孔15a、16aが穿設され、各係合孔15a,16aと対応するようにフロントパネル9には上記係合スタッド13がそれぞれ立設されている。尚、フロントピラー8の上記外壁にフロントパネル9の右端部が接合されている部分において、係合スタッド13はフロントパネル9に固定される(図3)。他の部分において係合スタッド13はフロントピラー8に直接固定されている。本実施形態ではフロントピラー8で総称する。
【0029】
係合スタッド13は、軸部13aの先端に大径部13bを有する形状をなし、パッキン15の係合孔15a及びピラーモール11bの固定面16の係合孔16aに挿通されて、その大径部13bをピラーモール11bの排水溝12内に突出させている。ピラーモール11b内には前方より係合クリップ14が挿入配置されており、この係合クリップ14はばね鋼製の板状をなし、その前側には押圧操作面14aが直角に屈曲形成されると共に、後側には係合スタッド13の軸部13aより若干幅が広いU字状をなす切欠14bが形成され、図示はしないが全体として前後方向に僅かに湾曲して弾性変形し得るようになっている。
【0030】
係合クリップ14は、その切欠14bを係合スタッド13の軸部13aに嵌め込みながら、係合スタッド13の大径部13bとピラーモール11bの固定面16との間に弾性をもって挿入されている。尚、大径部13bと固定面16との間に係合クリップ14を挿入する際は、押圧操作面14aを押圧して行う。挿入された係合クリップ14の弾性により、係合スタッド13の大径部13bを基点としてピラーモール11bの固定面16がフロントパネル9側に押圧され、これによりピラーモール11bがパッキン15を介装した状態でフロントパネル9に対して固定されている。
【0031】
重複する説明はしないが、ルーフモール11aやコーナーモール11cについても同様の固定構造が採用されている。尚、ドリップモール構成については、これに限ることはなく任意に変更可能であり、例えばルーフモール11a、ピラーモール11b及びコーナーモール11cを一体で製作したり、排水溝12の断面形状を変更したりしてもよい。
以上のドリップモールの固定構造に関しては、図13,14に基づき説明した従来技術と同様であり、以下に相違点を述べる。
【0032】
従来技術との相違点は、従来技術のドリップモールエンド構造ではピラーモール11bが車体下部まで延設されていたのに対し、本実施形態のドリップモールエンド構造では車体の上下方向の途中でピラーモール11bが切断されており、そのピラーモール11bの下端部にはドリップエンドキャップ21が装着されている点にある。図1に示すようにピラーモール11bの下端部Aは、サイドターンシグナルランプ6の上面Bよりも上方に位置し、且つフロントウィンドウ1及びサイドウインドウ2の下端Cよりも下方に位置している。
【0033】
図4は本実施形態の右側のドリップモールエンド構造を右方より見た正面図、図5は同じく右側のドリップモールエンド構造を示す図4のV−V線断面図、図6は同じく右側のドリップモールエンド構造を示す図5のVI−VI線断面図、図7は同じく右側のドリップモールエンド構造を示す図6のVII−VII線断面図である。
図4,5に示すように、ドリップエンドキャップ21は縦長のブロック状をなし、ゴムを加硫成形して製作されている。尚、材質はゴムに限ることはなく、これに代えて弾性を有するエラストマーで製作してもよい。ドリップエンドキャップ21はピラーモール11bの下側位置に配設され、そのフロントパネル9側の装着面21aを両面テープ22によりフロントパネル9に対して貼着されている。ドリップエンドキャップ21の内部には案内孔23が形成され、案内孔23の一端はドリップエンドキャップ21の上面から上方に開口している。案内孔23の開口部の断面形状はピラーモール11bの前後幅及び左右幅よりも若干小さい略長方形状をなし、この案内孔23内にピラーモール11bの下端部が上方より嵌め込まれると共に、案内孔23内に形成された段差部23aによりピラーモール11bとドリップエンドキャップ21とが上下方向に位置決めされている(図6)。これにより、ピラーモール11bの排水溝12に対してドリップエンドキャップ21の案内孔23が下方に連続し、雨水はピラーモール11bの排水溝12を案内された後にドリップエンドキャップ21の案内孔23内に導入される。
【0034】
図5に示すように、上記パッキン15の下端部は最下端の係合スタッド13の直上位置において切断され、これによりパッキン15の下端部より下方では、フロントパネル9とピラーモール11bの固定面16との間に間隙が形成されている。ドリップエンドキャップ21の装着面21aは上方に向けて延設されて左右方向に所定の厚みを有する重合部24が形成され、この重合部24は、上記フロントパネル9とピラーモール11bの固定面16との上述の間隙内に下方より挿入配置されている。尚、本実施形態ではピラーモール11bの装着安定性のために、パッキン15の厚みに対して重合部24及び両面テープ22の合計厚みを略等しくしているが、これに限ることはなく、重合部24の厚みは任意に設定可能である。
【0035】
重合部24には最下端の係合スタッド13と対応するように係合孔24aが穿設され、係合スタッド13は、パッキン15の係合孔15a及びピラーモール11bの固定面16の係合孔16aと共に重合部24の係合孔24aにも挿通されている。このため、係合クリップ14の弾性によりフロントパネル9とピラーモール11bとの間で重合部24が挟持されると共に、係合スタッド13により重合部24の下方への離脱が防止される。結果としてドリップエンドキャップ21の重合部24はピラーモール11bの下端部と共に、係合スタッド13及び係合クリップ14を利用してフロントパネル9上に共締めされることになり、下部の両面テープ22による貼着と相俟って、ドリップエンドキャップ21はフロントパネル9上に強固に固定されている。
【0036】
尚、ドリップエンドキャップ21の重合部24をフロントパネル9とピラーモール11bの固定面16との間隙に挿入することなく、ピラーモール11bの固定面16上(排水溝12内)に配設し、この重合部24と係合スタッド13の大径部13bとの間に係合クリップ14を挿入するようにしてもよい。
図1において述べたように、ピラーモール11bの下端部Aはサイドターンシグナルランプ6の上面Bよりも上方に位置しているが、その下端Aの位置に装着されたドリップエンドキャップ21がごく小型の部品であることから、ドリップエンドキャップ21自体についてもサイドターンシグナルランプ6の上面Bよりも上方に位置している。後に詳述するが、これら各部材の位置設定は、近接に設置されているサイドターンシグナルランプ6の視認性の向上と側方視界の確保との両立を目的としたものである。
【0037】
一方、図6,7に示すように上記案内孔23は、上方に開口する一端からドリップエンドキャップ21内で略同一断面積を保ちながら下方且つ後方に向けて緩やかに湾曲し、その他端はドリップエンドキャップ21の後側面(車体前後方向後側)に開口している。ドリップエンドキャップ21の後側面において案内孔23の他端は略四角状に開口し(図5に破線で示す)、その開口部周縁の右側、即ちフロントパネル9やサイドパネル10とは反対側には流路変更壁25が突設され、開口部周縁の左側には切欠26が形成されている。これらの流路変更部25及び切欠26が形成されることで、図7に示すように、案内孔23の他端は車両後方より若干サイドパネル10側に向けて開口し、その開口方向はサイドパネル10に対して角度αをなしている。
【0038】
角度αは、以下の要件を考慮して設定されている。後述するように角度αに基づく案内孔23の開口方向の設定は、他端から排水した雨水をサイドパネル10に斜めに衝突させてサイドパネル10に沿って流すことにより、走行風を受けたときの雨水の飛散を防止することを目的としたものである。このため、サイドパネル10に衝突した雨水が跳ね返らない程度に角度αを小さくすることが望ましい反面、ドリップエンドキャップ21を回り込んだ走行風を受けて雨水がサイドパネル10に衝突しない事態、即ち、ピラーモール11bを途中で切断した従来技術と同様に走行風により雨水が飛散する事態を防止するには、ある程度の大きさの角度αが必要である。そこで、角度αは、これら両要件を共に満足するように設定されている。
【0039】
次に、左側のドリップモールエンド構造について説明するが、ルーフモール31a、ピラーモール31b及びコーナーモール31cから構成される点、長手方向に所定間隔毎に係合スタッド13及び係合クリップ14により車体側壁に対して固定される点等は、右側のドリップモール11と全く同様である。又、ピラーモール31bを上下方向の途中で切断して、その下側にドリップエンドキャップ32を装着した点、ピラーモール31bの下端部A、サイドターンシグナルランプ6の上面B、フロントウィンドウ1の下端Cの位置関係についても、右側のドリップモール11と全く同様である。
【0040】
右側のドリップモール11との相違点は、ドリップエンドキャップ32の構成、及びドリップエンドキャップ32に応じたフロントピラー8及びフロントパネル9側の構成にある。このように車体の左右でドリップモールエンド構造を相違させているのは、サイドパネル10が前後方向に亘って延びる車体右側に対して、車体左側にはドリップモールエンド構造の直後に乗降口3が配設されており、乗降中の乗客を雨水から保護する必要があるためである。以下、左側のドリップモールエンド構造を詳述する。
【0041】
図8は左側のドリップモールエンド構造を示す拡大分解斜視図、図9は同じく左側のドリップモールエンド構造を左方より見た正面図、図10は同じく左側のドリップモールエンド構造を示す図9のX−X線断面図、図11は同じく左側のドリップモールエンド構造を示す図10のXI−XI線断面図、図12は同じく左側のドリップモールエンド構造を示す図11のXII−XII線断面図である。
【0042】
左側のドリップエンドキャップ32は、基本的に右側のドリップエンドキャップ21と同じく係合孔34aが穿設された重合部34や案内孔33等の構成を備えると共に、その右側面、即ちフロントパネル9への装着面32aにはホース接続部35が突設されている。尚、係合スタッド13、係合クリップ14、パッキン15等の部材については、左右対称の同一構成であるため同一部材番号を付して重複する説明を省略する。
【0043】
図8,10,11に示すように、ホース接続部35は装着面35aから車体内方へ突出すると共に下方に向けて垂下する形状をなしており、このホース接続部35と対応するように、フロントピラー8及びフロントパネル9には上下方向に延びる長孔状の連通孔36が穿設されている。ピラーモール31bと共にドリップエンドキャップ32がフロントパネル9上に固定された状態では、ドリップエンドキャップ32のホース接続部35は連通孔36に挿入されてフロントピラー8内に位置している。
【0044】
図10,11に示すように、ホース接続部35の基端はフロントピラー8及びフロントパネル9の連通孔36と対応しており、連通孔36と略一致する長孔状の断面形状をなしている。ホース接続部35の基端の半円状をなす下側部分には溝35aが形成され、この溝35a内に連通孔36の内周縁が嵌入している(図11に破線で示す)。又、ホース接続部35の基端の半円状をなす上側部分には段差部35bが形成され、この段差部35bは連通孔36の内周縁と対応している。これらの溝35aや段差部35bの箇所を含めて、ホース接続部35の基端外周と連通孔36の内周縁との間には隈無くシーリング剤Sが充填されており、これにより両部材35,36の間の水密が保持されている。
【0045】
結果としてドリップエンドキャップ32は、その上部の重合部24をピラーモール11bの下端部と共に係合スタッド13及び係合クリップ14によりフロントパネル9上に共締めされると共に、下部の溝35aを連通孔36の内周縁に嵌入させることにより、フロントパネル9上に強固に固定されている。
上記案内孔33は、ドリップエンドキャップ32の上面に開口する一端から略同一断面積を保ちながら下方且つ車体内方にクランク状に緩やかに湾曲してホース接続部35内に至り、その他端はホース接続部35の下端部に開口している。ホース接続部35の下端部は案内孔33を中心とした円筒状をなし、その案内孔33内には下方より排水ホース37の上端部が挿入されてホースバンド38により接続されている。排水ホース37はフロントピラー8内に沿って下方に垂下され、図示はしないが、排水ホース37の下端部はフロントピラー8内の最下端まで延設されて、最下端に貫設されたドレン孔を介して路面側と連通している。
【0046】
次に、以上のように構成された路線バスのドリップモールエンド構造の組付け手順を説明する。
まず、右側のドリップモールエンド構造について述べる。予めフロントピラー8上の各係合スタッド13にパッキン15の係合孔15aを嵌め込みながら、パッキン15をフロントピラー8上の所定の装着位置に配設し、一方、ドリップエンドキャップ21の装着面21aには両面テープ22を貼着しておく。そして、ドリップエンドキャップ21の案内孔23内に上方よりピラーモール11bの下端部を挿入すると、案内孔23内の段差部23aによりピラーモール11bの下端部が位置決めされると共に、ピラーモール11bの最下端の係合孔16aとドリップエンドキャップ21の重合部24の係合孔24aとが一致する。
【0047】
ゴム製のドリップエンドキャップ21の弾性によりピラーモール11bの下端部は案内孔23からの離脱を規制され、この状態で各係合孔16a,24aにフロントピラー8上の各係合スタッド13を挿入しながら、ドリップエンドキャップ21及びピラーモール11bを所定の装着位置に配設すると、ドリップエンドキャップ21の装着面21aは両面テープ22によりフロントピラー8に貼着される。次いで、各係合スタッド13の大径部13bとピラーモール11bの固定面16aとの間に前方より係合クリップ14をそれぞれ挿入すると、各係合クリップ14の弾性によりピラーモール11bがパッキン15を介装した状態でフロントピラー8上に固定されると共に、最下端の係合スタッド13にはピラーモール11bと共にドリップエンドキャップ21の重合部24が共締めされ、これによりピラーモール11b及びドリップエンドキャップ21の組み付けが完了する。
【0048】
次いで、左側のドリップモールエンド構造の組付け手順について述べる。まず、右側と同様にパッキン15をフロントピラー8上の所定の装着位置に配設しておく。又、ドリップエンドキャップ32のホース接続部35にホースバンド38により排水ホース37の上端部を接続し、ホース接続部35の基端外周とフロントピラー8及びフロントパネル9の連通孔36の内周縁にはシーリング剤Sを塗布しておく。そして、ドリップエンドキャップ32の案内孔33内に上方よりピラーモール31bの下端部を挿入すると、案内孔33内の段差部33aによりピラーモール31bの下端部が位置決めされると共に、ピラーモール31bの最下端の係合孔16aとドリップエンドキャップ32の重合部34の係合孔43aとが一致し、ドリップエンドキャップ32の弾性により案内孔33からのピラーモール31bの下端部の離脱が防止される。
【0049】
その後、フロントピラー8及びフロントパネル9の連通孔36内に排水ホース37の下端部を挿入して、排水ホース37をフロントピラー8内に垂下させる。この状態でドリップエンドキャップ32のホース接続部35を連通孔36内に嵌め込んで、ホース接続部35の溝35a内に連通孔36の内周縁を嵌入させる。溝35a内への内周縁の嵌入によりドリップエンドキャップ32は上下方向に位置決めされ、且つフロントピラー8外方への離脱が防止される。又、ドリップエンドキャップ32と共にピラーモール31bも上下方向に位置決めされる。従って、そのままピラーモール31bの上端部をフロントピラー8上の所定の装着位置に配設すれば、各係合孔16a,34aにフロントピラー8上の各係合スタッド13が挿入される。その後は右側と同様に、各係合スタッド13の大径部13bとピラーモール31bの固定面16との間に前方より係合クリップ14をそれぞれ挿入すれば、ピラーモール31b及びドリップエンドキャップ32の組み付けが完了する。
【0050】
このように、組み付けの過程では、ホース接続部35の溝35a内に連通孔36の内周縁を嵌入させるだけで、ドリップエンドキャップ32及びピラーモール31bを上下方向に位置決めできるため、そのままピラーモール31bの上端部を装着位置に配設するだけで自ずと各係合孔16a,34aに係合スタッド13を挿入でき、ひいては組付け作業を簡略化することができる。
【0051】
本実施形態の路線バスのドリップモールエンド構造は以上のように構成されており、以下に述べる種々の作用を奏する。
まず、本実施形態のドリップモールエンド構造によるサイドターンシグナルランプ6の視認性への影響を説明する。
上記のように左右何れのドリップモールエンド構造においても、ピラーモール11b,31bの下端部Aがサイドターンシグナルランプ6の上面Bよりも上方に位置し、その下側のドリップエンドキャップ21,32もサイドターンシグナルランプ6の上面Bよりも上方に位置している。このため、図1或いは図2に破線で示すように、サイドターンシグナルランプ6からの配光はピラーモール11b,31bやドリップエンドキャップ21,32に遮られることなく斜め後方に向かうことになり、後方を走行する他車はサイドターンシグナルランプ6の点滅状況を容易且つ確実に認識可能となる。結果として本実施形態によれば、サイドターンシグナルランプ6の視認性を大幅に向上することができる。
【0052】
次に、本実施形態のドリップモールエンド構造による雨水の排水状況を説明する。
まず、右側のドリップモールエンド構造について述べると、ルーフ7に降った雨水はルーフモール11aに堰き止められた後、コーナーモール11cを経てピラーモール11bを下方に向けて案内されてドリップエンドキャップ21の案内孔23内に導入される。又、車両走行に伴ってフロントウィンドウ1に降った雨水はピラーモール11bにより堰き止められた後、下方に向けて案内されてドリップエンドキャップ21の案内孔23内に導入される。これらの雨水は、案内孔23の湾曲に倣って下方から後方へと緩やかに方向を変更しながら案内孔23内を流通し、案内孔23の他端の開口部より後方に向けて排水される。流路変更部25及び切欠26の形成により、案内孔23の開口方向はサイドパネル10に対して角度αをなしているため、排水された雨水はサイドパネル10に斜めに衝突する。一旦サイドパネル10に衝突した雨水はサイドパネル10から離間することなく、そのまま自重によりサイドパネル10に沿って後方斜め下方へと流れて路面に排水される。
【0053】
即ち、単にピラーモール11bを途中で切断した場合のような、ピラーモール11bの下端部から排水された雨水が走行風を受けて飛散する現象は発生せず、飛散した雨水による他車への視界妨害も防止される。特に本実施形態では、サイドパネル10に衝突した雨水の跳ね返り及びドリップエンドキャップ21を回り込んだ走行風の影響を考慮して、角度αを最適設定しているため、これらの要因による雨水の飛散を回避して他車への視界妨害をほぼ完全に防止することができる。
【0054】
又、ピラーモール11bを上下方向の途中で切断しているものの、その下端部はフロントウィンドウ1の下端Cよりも下方に位置しているため、フロントウィンドウ1に降った雨水、或いはワイパー1aにより左右に掻き分けられた雨水を確実にピラーモール11bにより堰き止めて排水できる。よって、特許文献1の技術のような、フロントウィンドウ1からサイドウィンドウ2側への雨水の回り込みは発生せず、この現象による側方への視界悪化を未然に防止することができる。又、フロントピラー8にはピラーモール11bを配設するだけで、このピラーモール11bと共に特許文献1に記載された排水ホースをフロントピラー8に沿って並設する必要はないため、これに起因する製造コストの高騰を抑制することができる。
【0055】
しかも、ドリップエンドキャップ21は加硫成形により簡単に製作可能であり、その設置のためにフロントピラー8やフロントパネル9側に大がかりな改造を要することもなく、さらにドリップエンドキャップ21の設置場所には、元々ミラーステー等の別の装備は設置されていないため、ドリップエンドキャップ21が他の装備の設置を妨げることもない。従って、特許文献1の技術のチャンバを製作及び設置する場合に比較して遥かに安価に実施でき、製造コストの高騰等の弊害を未然に防止することができる。尚、ピラーモール11bの下端部にドリップエンドキャップ21を装着することは、車体の美観向上にも繋がる。
【0056】
一方、このように雨水をサイドパネル10に斜めに衝突させてサイドパネル10に沿って流すには、ドリップエンドキャップ21の案内孔23の他端を若干サイドパネル10側に向くように角度αをもって開口させる必要がある。このために本実施形態では、案内孔23の開口部周縁に流路変更壁25及び切欠26を設けているが、これらの流路変更壁25及び切欠26はドリップエンドキャップ21の加硫成形時に同時に成形可能なため、特別なコストを要することなく雨水を所期の方向に排水して上記作用効果を得ることができ、この要因も製造コスト抑制に貢献する。尚、案内孔23の開口部の形状はこれに限ることはなく、例えば切欠26を省略して、開口部周縁に流路変更壁25のみを形成してもよく、この場合でも同様の作用効果が得られる。
【0057】
尚、フロントパネル9の水平断面部の形状によっては、ピラーモール11b及びドリップエンドキャップ22の後側に発生する空気流の負圧により雨水が車体外壁に付着するので、上述の角度αを0°に設定することも可能である。
又、ドリップエンドキャップ21の重合部24をピラーモール11bの下端部と共に係合スタッド13及び係合クリップ14でフロントパネル9上に共締めする構成を採っている。このため、ドリップエンドキャップ21専用の固定部材を必要とせずに製造コストを一層低減できると共に、組付けの際には、ピラーモール11bの下端部の固定と同時にドリップエンドキャップ21の重合部24も固定でき、組付け作業を簡略化することができる。
【0058】
但し、本発明の趣旨からは、必ずしもドリップエンドキャップ21とピラーモール11bとを共締めする必要はなく、ピラーモール11bの下端部とは別個に独立してドリップエンドキャップ21の重合部24を別の固定手段で固定するようにしてもよい。又、ドリップモール11側の固定手段についても係合スタッド13及び係合クリップ14を利用したものに限ることはなく、別の固定手段を適用してもよい。
【0059】
加えて、係合クリップ14は、その切欠14bを係合スタッド13の軸部13bに嵌め込みながら、係合スタッド13の大径部13aとピラーモール11bの固定面16との間に弾性をもって挿入されることで、ドリップエンドキャップ21とピラーモール11bとを共締めしている。このため、組み付けの際には、係合スタッド13の大径部13bとピラーモール11bの固定面16との間に係合クリップ14を挿入するだけの簡単な操作で行うことができ、組付け作業を一層簡略化することができる。又、図5から明らかなように、装着状態において板状の係合クリップ14はピラーモール11bの固定面16に重なるため、ピラーモール11bの排水溝12の流通断面積を縮小させる要因、ひいては雨水の流通抵抗を増大させる要因にはほとんどならない。よって、雨水の排水が妨げられてピラーモール11bの排水溝12の最下端からオーバーフローする等の不具合を未然に防止することができる。
【0060】
又、案内孔23をドリップエンドキャップ21内で下方且つ後方に向けて緩やかに湾曲させているため、案内孔23内を流通する際の雨水の流通抵抗についても最小限に抑制できる。よって、この要因も雨水のオーバーフロー等の不具合防止に貢献する。しかも、このように雨水を後方に向けて排水することは、後方に連続するサイドパネル10に雨水を沿わせるために好都合なだけでなく、案内孔23の開口部の凍結やサイドターンシグナルランプ6の視認性の悪化を防止する点でも望ましいものである。即ち、例えば雨水を前方に向けて排水する場合、前方に開口した案内孔23は走行風に晒されて厳冬期に凍結する虞がある上に、排水された雨水が直前に位置するサイドターンシグナルランプ6に降りかかって視認性を悪化させてしまい、特に雨水がランプ6上で凍結すると視認性は極端に悪化してしまう。ドリップエンドキャップ21の案内孔23から雨水を後方に排水することにより、このような種々の不具合を未然に回避することができる。
【0061】
但し、雨水の排水方向は必ずしもこれに限ることはなく、下方に排水するようにしてもよい。何れの排水方向であっても、雨水をサイドパネル10等の車体回壁に沿わせることで走行風による雨水の飛散は確実に防止することができる。
次に、左側のドリップモールエンド構造による雨水の排水状況を述べると、右側と同様にルーフモール31aやピラーモール31bを経てドリップエンドキャップ32の案内孔33内に導入された雨水は、案内孔33の湾曲に倣って右方から下方へと緩やかに方向を変更しながら案内孔33内を流通して排水ホース37に至り、この排水ホース37内を下方に流通した後、フロントピラー8の最下端のドレン孔を経て路面に排水される。
【0062】
即ち、ドリップエンドキャップ32の案内孔33内に導入された雨水は、再び車体外壁側に出ることなくフロントピラー8内の排水ホース37を下方へと流通して路面に排水される。よって、右側のドリップエンドキャップ21とは構成は相違するものの作用効果については同様であり、単にピラーモール31bを途中で切断した場合のような、ピラーモール31bの下端部から排水された雨水が走行風を受けて飛散する現象は発生せず、飛散した雨水による他車への視界妨害を未然に防止することができる。
【0063】
又、左側のドリップモールエンド構造の直後には乗降口3が位置しているため、右側のドリップモールエンド構造のように雨水をサイドパネル10に沿って流すと、乗降中の乗客に降りかかったり乗降口3のステップ等に溜まったりする不具合を生じるが、上記のようにフロントピラー8内を経て排水しているため、走行風による雨水の飛散を防止した上で、これらの不具合についても未然に防止することができる。
【0064】
さらに、右側のドリップモールエンド構造と同じく、ピラーモール31bを上下方向の途中で切断しているものの、その下端部はフロントウィンドウ1の下端Cよりの下方に位置しているため、フロントウィンドウ1からの雨水を確実にピラーモール31bで堰き止めて排水でき、側方への視界悪化を未然に防止することができる。
又、右側に比較して左側のドリップモールエンド構造では、ドリップエンドキャップ32の形状が若干複雑になると共に、フロントピラー8及びフロントパネル9側に連通孔36を穿設し、且つフロントピラー8内に排水ホース37を配設する必要があるものの、チャンバの製作及び設置を要する特許文献1の技術に比較すれば遥かに安価に実施できる。よって、製造コストの高騰等の弊害を未然に防止することができる。
【0065】
一方、ドリップエンドキャップ32の案内孔33を流通した雨水をフロントピラー8内に直接流すことなく、ピラー8内に配設した排水ホース37を経て排水している。このため、フロントピラー8の内壁に雨水が付着することによる腐食を抑制でき、ひいては車両の耐久性を向上することができる。
ピラーモール31bとドリップエンドキャップ32との共締め、及び係合クリップ14の形状に関する作用効果は、上記右側のものと同様であるため簡単な説明に止めるが、共締めすることにより、ドリップエンドキャップ32専用の固定部材を必要とせず、且つ組み付けの際にはピラーモール31bの下端部とドリップエンドキャップ32の重合部34とを同時に固定でき、又、係合クリップ14の簡単な挿入操作だけでフロントパネル9上にピラーモール31bとドリップエンドキャップ32とを固定できると共に、図10に示すように板状の係合クリップ14は雨水の流通抵抗をほとんど増大させず、流通抵抗の増大に起因する雨水のオーバーフロー等の不具合を未然に防止することができる。
【0066】
又、左側のドリップエンドキャップ32についても、雨水の流通抵抗の増大を抑制すべく案内孔33を極力緩やかに湾曲させており、この要因も雨水のオーバーフロー等の不具合防止に貢献する。
ここで、以上の説明から明らかなように、乗降口3を備えた車体左側に対して右側のドリップモールエンド構造を適用することは、乗降中の乗客への雨水の影響を鑑みて避けるべきであるが、逆に左側のドリップモールエンド構造を車体左側と共に右側にも適用することは可能であり、この場合でも上記右側のドリップモールエンド構造を奏する種々の作用効果が得られる。但し、左側に比較して右側のドリップモールエンド構造は構成が簡単であることから、製造コストの観点からは、本実施形態のように車体右側には右側のドリップモールエンド構造を適用し、車体左側には左側のドリップモールエンド構造を適用することが最も望ましい。
【0067】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、路線バスのドリップモールエンド構造に具体化したが、対象となる車両はこれに限る趣旨ではなく、例えばトラック等の他車両に適用してもよい。
又、上記実施形態では、運転席が設けられた車体右側のドリップエンドモール構造に加えて、乗降口3が設けられた車体左側のドリップモールエンド構造についても述べたが、左側に関してはこれに限ることはなく、例えば特許文献1に記載の構成を適用してもよい。
【0068】
又、上記実施形態に記載した左側のドリップモールエンド構造では、フロントピラー8内に配設した排水ホース37を経て雨水を排水したが、例えばフロントピラー8内が十分に防錆処理されている場合には、このような構成を採る必要は必ずしもなく、排水ホース37を省略してフロントピラー8内に直接的に雨水を流すようにしてもよい。尚、この場合には、連通孔36の内周縁が嵌入する溝35aを残してホース接続部35を省略し、案内孔33の他端をフロントピラー8内に開口させればよい。
【符号の説明】
【0069】
6 サイドターンシグナルランプ
8 フロントピラー
10 サイドパネル(車体側壁)
11b ピラーモール(ドリップモール)
12 排水溝
13 係合スタッド
13a 軸部
13b 大径部
14 係合クリップ
14b 切欠
16a 係合孔
21 ドリップエンドキャップ
23 案内孔
24 重合部
24a 係合孔
25 流路変更壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフロントピラーに沿って配設されて雨水を排水溝により下方に案内し、下端部が車体の前部角部に取り付けられたサイドターンシグナルランプの上面よりも上方に位置するドリップモールと、
内部に形成した案内孔の一端を上方に開口させて上記ドリップモールの排水溝に連続させ、該排水溝から上記案内孔内に導入される雨水を一側に開口した該案内孔の他端から排水するドリップエンドキャップとを備え、
上記ドリップエンドキャップの案内孔の他端は、排水した雨水を上記車体の側壁に沿って上記車体後方向へ流すように開口方向が設定されたことを特徴とする車両のドリップモールエンド構造。
【請求項2】
上記ドリップエンドキャップの案内孔は、上記他端の開口部周縁の上記車体前側に流路変更壁が突設され、該流路変更壁により上記雨水の排水方向を上記車体側壁側に変更することを特徴とする請求項1記載の車両のドリップモールエンド構造。
【請求項3】
上記ドリップモールの下端部には係合孔が穿設され、該係合孔内に上記フロントピラー上に立設した係合スタッドが挿通されると共に、該係合孔から突出した上記係合スタッドの先端に係合クリップを係合させることにより該ドリップモールの下端部が上記フロントピラー上に固定され、
上記ドリップエンドキャップは、上記ドリップモールの下端部と重なり合う重合部、及び該重合部に穿設されて上記ドリップモールの係合孔と共に上記係合スタッドが挿通される係合孔を備え、該係合スタッドの先端への上記係合クリップの係合により上記ドリップモールの下端部と共に上記重合部がフロントピラー上に共締めされることを特徴とする請求項1又は2記載の車両のドリップモールエンド構造。
【請求項4】
上記係合クリップは、上記係合スタッドの軸部が嵌り込む切欠を備えたばね鋼製の板状をなし、上記係合スタッドの先端に形成された大径部と上記ドリップモールの下端部又は上記ドリップエンドキャップの重合部との間に弾性をもって挿入されて、該ドリップモールの下端部を上記フロントピラー上に固定することを特徴とする請求項3記載の車両のドリップモールエンド構造。
【請求項5】
上記ドリップエンドキャップの案内孔は、上方に開口する一端から下方且つ車両後方に向けて緩やかに湾曲して形成され、他端を上記ドリップエンドキャップの後側面に開口させたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の車両のドリップモールエンド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−195073(P2010−195073A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39256(P2009−39256)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】