説明

車両のペダル装置

【課題】車両の前方衝突時に、乗員の足先が踏面板の前端を乗り越えてダッシュパネルと干渉することを防止できる車両のペダル装置を提供する。
【解決手段】車室1内の底面を形成するフロアパネル2から上方に立ち上がったダッシュパネルの車両後方に配設されるとともに、所定の踏み込み操作を行うための踏面部82cを有する踏面板82が、フロアパネル2上に配設された運転席の車両前方において、フロアパネル2により車両前後方向に回動可能に支持されたアクセルペダル8であって、車両の前方衝突時、踏み込み操作により車両前方に回動、傾斜した踏面板82を車両後方に回動させ、フロアパネル2から立設した状態にするソレノイド83を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダッシュパネルの車両後方に配設され、踏面板が、運転席の車両前方において、前記フロアパネルにより車両前後方向に回動可能に支持された車両のペダル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペダル装置としては、車室内の底面を形成するフロアパネルにより踏面板が車両前後方向に回動可能に支持されたいわゆるオルガン式のものが知られている(下記特許文献1参照)。このオルガン式のペダル装置は、上方の支軸により吊り下げ状態で支持されるいわゆる吊り下げ式のものに比べ、乗員の身長差や足のサイズの違い等によって操作性に大きな差が生じないという点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−63510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、オルガン式のペダル装置を採用した場合、例えば、ペダル装置(踏面板)の踏み込み操作中に車両が前方衝突した時、踏面部上を滑って車両前方に移動した乗員の足先が踏面板の前端(上端)を乗り越える虞があり、これによって、前記足先が、ペダル装置の車両前方に位置する車体パネルとしてのダッシュパネルと干渉する懸念があった。
【0005】
ところで、前記特許文献1では、ペダル装置を構成する第1、第2のプレート部材の間にエアバッグ装置を挟持したものが開示されており、車両が前方衝突した時には、上述したエアバッグが展開することによって、ペダル装置を踏み込んだ乗員の足裏に入力される衝撃力を吸収緩和することができるようになっている。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に開示された従来技術では、あくまでも、車両の前方衝突時にペダル装置から入力される衝撃力を吸収緩和するものであり、乗員の足先が踏面板の前端を乗り越えてダッシュパネルと干渉することを防止するものではない。
【0007】
この発明は、車両の前方衝突時に、乗員の足先が踏面板の前端を乗り越えてダッシュパネルと干渉することを防止できる車両のペダル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の車両のペダル装置は、車室内の底面を形成するフロアパネルから上方に立ち上がったダッシュパネルの車両後方に配設されるとともに、所定の踏み込み操作を行うための踏面部を有する踏面板が、前記フロアパネル上に配設された運転席の車両前方において、前記フロアパネルにより車両前後方向に回動可能に支持された車両のペダル装置であって、車両の前方衝突時、踏み込み操作により車両前方に回動、傾斜した前記踏面板を車両後方に回動させ、前記フロアパネルから立設した状態にする移動手段を備えたものである。
【0009】
この構成によれば、車両の前方衝突時、車両前方に回動、傾斜した踏面板を車両後方に回動させ、これをフロアパネルから立設した状態にすることで、乗員の足が車両前方へ移動することを規制できる。これにより、特に、車両の前方衝突時において、踏面板が最大踏み込み位置にある時、乗員の足先が踏面板の前端を乗り越えてダッシュパネルと干渉することを防止できる。
【0010】
この発明の一実施態様においては、前記踏面板が、その踏み込み操作前において、前記フロアパネルから立設した非操作位置に保持されるものであり、前記移動手段は、前記踏面板を前記非操作位置まで移動させるものである。
【0011】
この構成によれば、踏面板の移動を非操作位置までとすることで、踏面板が必要以上に車両後方に回動することを防止できる。これにより、踏面板が車両後方に大きく回動した時に生じ得る足(例えば、足首)への負担を軽減することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、前記踏面板の前端に、乗員の足の移動を規制する規制部を備えたものである。
【0013】
この構成によれば、乗員の足を規制部に当接させることで、足が車両前方へ移動することをより確実に規制できる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記移動手段が、車両の前方衝突を感知する衝突検知手段により衝突が感知されたことに基づいて、前記踏面板を車両後方に回動させ、前記フロアパネルから立設した状態にするアクチュエータにより構成されたものである。
【0015】
この構成によれば、車両の前方衝突時、衝突検知手段の検知に基づいて踏面板をより確実に車両後方に回動させ、前記フロアパネルから立設した状態にすることができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、車両の走行駆動源を操作するアクセルペダルとしたものである。
【0017】
この構成によれば、乗員の足の前方移動に伴う踏み込みに起因して車両が不用意に加速されることを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、車両の前方衝突時、車両前方に回動、傾斜した踏面板を車両後方に回動させ、これをフロアパネルから立設した状態にすることで、乗員の足が車両前方へ移動することを規制できる。これにより、特に、車両の前方衝突時において、踏面板が最大踏み込み位置にある時、乗員の足先が踏面板の前端を乗り越えてダッシュパネルと干渉することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るアクセルペダルを備えた車室前部構造を示す側断面図。
【図2】アクセルペダル及びその周辺を車室内側から見た斜視図。
【図3】アクセルペダルの構造を示す側断面図。
【図4】車両が前方衝突する前の通常運転時の状態を示す側断面図であって、踏面板が最大踏み込み位置にある状態を示す図。
【図5】アクセルペダルの踏み込み操作中に車両が前方衝突した場合を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は、本発明の実施形態に係るアクセルペダルを備えた車室前部構造を示す側断面図である。また、図2は、アクセルペダル及びその周辺を車室内側から見た斜視図、図3は、アクセルペダルの構造を示す側断面図、図4は、車両が前方衝突する前の通常運転時の状態を示す側断面図であって、踏面板が最大踏み込み位置にある状態を示す図である。なお、図中において矢印(F)は車体前方、矢印(R)は車体後方を示す。
【0021】
図1に示す車両には、車室1の底面を形成するフロアパネル2が備えられており、このフロアパネル2の上面が、フロアマット3により覆われている。そして、フロアパネル2の前端からは、車体パネルとしてのダッシュパネル4が上方に立ち上がるように配設されており、このダッシュパネル4により、エンジンルームERと車室1とが区画されている。
【0022】
また、車室1の前部には、図1中二点鎖線で示す乗員Xが着座するための運転席5がフロアパネル2上に配設されるとともに、運転席5の車両前方には、車幅方向に亘ってインストルメントパネル6が配設されている。そして、このインストルメントパネル6から乗員X側に向かって突出するようにステアリングホイール7が配設されるとともに、インストルメントパネル6の下側の空間には、アクセルペダル8やブレーキペダル9(図2参照)といった各種ペダル装置が配設されている。なお、図1では、便宜上ブレーキペダル9の図示を省略している。
【0023】
アクセルペダル8及びブレーキペダル9は、ダッシュパネル4の車両後方に配設されるとともに、乗員Xによる踏み込み操作を可能にすべく運転席5の車両前方に位置している。そして、アクセルペダル8は、図2、図3に示すように、フロアパネル2により車両前後方向に回動可能に支持される一方、ブレーキペダル9は、インストルメントパネル6の内部に配設された図示しないペダルブラケットの支軸により、吊り下げ状態で車両前後方向に回動可能に支持されている。
【0024】
次に、アクセルペダル8の構造について詳細に説明する。アクセルペダル8は、車両の走行駆動源を操作するためのものであり、図1〜図4に示すように、フロアパネル2の前端に固定されたベース部材81と、このベース部材81により支持されるとともに、乗員の踏み込み操作に応じて後端ヒンジ部82aを支点に回動する踏面板82とを備えたいわゆるオルガン式のペダル装置である。
【0025】
踏面板82は、合成樹脂製の板状成形体等からなり、その下端部に薄肉の後端ヒンジ部82aと、ベース部材81の後部上面に係止される係止部82b(図3参照)とを有するとともに、中間部には、乗員Xが自身の足Xaを当接させて所定の踏み込み操作を行うための踏面部82cを有している。
【0026】
踏面板82は、乗員Xによって踏み込み操作がなされていない時は、その下端部に位置する係止部82bがベース部材81に係止された状態で、図3中実線で示すように、フロアパネル2から立設した非操作位置に保持されている。そして、踏面板82は、後端ヒンジ部82aを支点として前記非操作位置から図3中二点鎖線で示すように車両前方に傾斜した最大踏み込み位置まで車両前後方向に回動可能とされている。
【0027】
なお、本実施形態では、薄肉の後端ヒンジ部82aによって支点を形成しているが、必ずしもこれに限定されない。例えば、後端ヒンジ部82aと対応する位置に棒状のヒンジ軸を配設し、ベース部81と踏面板82とをヒンジ軸を介して連結するような構成でもよい。
【0028】
また、本実施形態では、踏面板82が、図1〜図4に示すように、前端に規制部82dを有している。この規制部82dは、踏面部82cの前端から上方且つ後方に向かって直立しており、踏面部82cと規制部82dとの間には、乗員Xの足先(具体的には、靴の先端)の形状に合わせて、図2に示すような略円弧状の段差が形成されている。
【0029】
また、アクセルペダル8のうち、ベース部材81は、図2、図3に示すように、下方のフロアパネル2に向かって凹む第1、第2取付け部81a、81bが形成されるとともに、後端部には、図3に示すように、踏面板82の係止部82bが係合される係合溝を有する係合部81cが形成されている。そして、第1取付け部81aでは、その底部にボルト10の挿通孔が形成されるとともに、第2取付け部81bでは、その底部下面に、下方のフロアパネル2に向かってクリップ係止部81dが突設されている。
【0030】
また、フロアパネル2の前端には、図3に示すように、第1、第2取付け部81a、81bが固定されるハット型の第1、第2被取付け部11、12が配設されるとともに、フロアマット3には、ベース部81の位置に対応して、これを所定位置に設置するための設置孔が形成されている。
【0031】
そして、第1被取付け部11の上壁下面に予め固着されたウェルドナット13に第1取付け部81aのボルト10が螺着されるとともに、第2被取付け部12に形成された係止孔に第2取付け部81bのクリップ係止部81dが挿入されることにより、ベース部材81がフロアパネル2に取付けられている。これにより、アクセルペダル8(踏面板82)は、運転席5の車両前方において、フロパネル2により車両前後方向に回動可能に支持されている。
【0032】
ところで、本実施形態では、車両が、図1に示すように、前方衝突を検知する衝突検知手段としての衝突センサ14を備えており、この衝突センサ14は、例えば、車両に加わる加速度やその方向を検知するGセンサ等により構成されている。そして、この衝突センサ14は、車両のECU15に接続され、前方衝突発生の有無に関連する検知信号をECU15に送信するようになっており、ECU15は、衝突センサ14からの検出信号に基づいて前方衝突の発生を判定することが可能になっている。
【0033】
また、アクセルペダル8では、図1、図2、図4に示すように、踏面板82の下方にアクチュエータとしてのソレノイド83が備えられている。ソレノイド83は、先端が踏面板82の下面(踏面部82cと反対側の面)と対向するように配置されたピン部材83aを有しており、ECU15からピン部材83aを作動させるための制御信号を受信可能としている。
【0034】
また、図4は、踏面板82が最大踏み込み位置にある状態を示しており、ソレノイド83では、ECU15から前記制御信号を受信していない時、図4に示すように、ピン部材83aが最大踏み込み位置にある踏面板82と当接することのない退避位置に保持されるようになっている。
【0035】
次に、図5を参照しながら、アクセルペダル8の踏み込み操作中に車両が前方衝突した場合について説明する。本実施形態では、車両が前方衝突すると、先ず、衝突センサ14からの検知信号に基づき、ECU15が前方衝突の発生を判定し、ソレノイド83に対して制御信号を送信する。
【0036】
そして、ソレノイド83が前記制御信号を受信すると、ソレノイド83は、ピン部材83aを前記退避位置から上方に進出させるようになっている。この時、踏面板82は、ピン部材83aの進出動作によって押し上げられ、図中二点鎖線で示すように車両前方に傾斜した位置から実線で示す非操作位置まで、車両後方に回動するようになっている。
【0037】
ここで、ソレノイド83では、ピン部材83aが前記退避位置から上方に進出した時、押し上げた踏面板82をピン部材83aの先端によって非操作位置に保持できるようピン部材83aのストロークが予め設定されている。
【0038】
このように、本実施形態では、ソレノイド83が、踏み込み操作により車両前方に回動、傾斜した踏面板82を車両後方に回動させ、フロアパネル2から立設した状態にする移動手段(アクチュエータ)として機能している。
【0039】
ところで、アクセルペダル8の踏み込み操作中に車両が前方衝突した場合、アクセルペダル8の踏面板82は、踏み込み操作によって車両前方に傾斜した状態となっており、特に、踏面板82を最大踏み込み位置まで踏み込んだ時には、踏面部82cの向きがより水平方向に近い状態になる。このため、踏面板82を大きく踏み込む程、乗員Xの足Xaは、車両前方のダッシュパネル4に向かって移動し易くなる。
【0040】
そこで、本実施形態では、車両が前方衝突すると、上述したように車両前方に回動、傾斜した踏面板82を車両後方に回動させるようになっている。そして、踏面板82をフロアパネル2から立設した状態に戻すことによって、足Xaが車両前方へ移動することを規制している。これにより、特に、車両の前方衝突時において、踏面板82(アクセルペダル8)が最大踏み込み位置にある時、乗員Xの足先が踏面板82の前端を乗り越えてダッシュパネル4と干渉することを防止できる。
【0041】
また、踏面板82の移動を非操作位置までとすることで、踏面板82が必要以上に車両後方に回動することを防止でき、踏面板82が車両後方に大きく回動した時に生じ得る足Xa(例えば、足首)への負担を軽減することができる。
【0042】
また、踏面板82の前端には規制部82dを備えているが、足Xaをこの規制部82dに当接させることで、足Xaが車両前方へ移動することをより確実に規制できる。また、本実施形態では、規制部82dを踏面部82cの車両前方に配設することにより、車両が前方衝突する前の通常運転時に、足Xaが不用意に規制部82dに当接することを防止できる。この場合、乗員Xは、通常運転時に規制部82dの形状を足Xaで感じることがないため、乗員Xは、違和感なく踏面板82を踏み込み操作することができる。
【0043】
また、衝突センサ14による衝突の感知に基づいて踏面板82を車両後方に回動させ、フロアパネル2から立設した状態にするソレノイド83を備えたことで、車両の前方衝突時には、衝突センサ14の検知に基づいて踏面板82をより確実に車両後方に回動させ、フロアパネル2から立設した状態にすることができる。
【0044】
また、本実施形態のように、車両が前方衝突した時、アクセルペダル8を移動させることで、足Xaの前方移動に伴う踏み込みに起因して車両が不用意に加速されることを防止できる。
【0045】
なお、上述した実施形態では、ソレノイド83によって踏面板82を下方から押し上げるような構成となっているが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、適宜の移動手段(アクチュエータ)によって踏面板82を上方から引っ張り上げるような構成にしてもよい。
【0046】
また、本発明は、移動手段(アクチュエータ)としてソレノイド83を用いることに必ずしも限定されない。例えば、空気圧シリンダや、油圧シリンダ、モータ等を用いてもよい。
【0047】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の、ペダル装置は、アクセルペダル8に対応し、
以下同様に、
移動手段及びアクチュエータは、ソレノイド83に対応し、
衝突検知手段は、衝突センサ14に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
例えば、車室の前部に配設されるオルガン式のペダル装置であれば、ブレーキペダルやクラッチペダルに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…車室
2…フロアパネル
4…ダッシュパネル
5…運転席
8…アクセルペダル
14…衝突センサ
82…踏面板
82c…踏面部
82d…規制部
83…ソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の底面を形成するフロアパネルから上方に立ち上がったダッシュパネルの車両後方に配設されるとともに、
所定の踏み込み操作を行うための踏面部を有する踏面板が、前記フロアパネル上に配設された運転席の車両前方において、前記フロアパネルにより車両前後方向に回動可能に支持された車両のペダル装置であって、
車両の前方衝突時、踏み込み操作により車両前方に回動、傾斜した前記踏面板を車両後方に回動させ、前記フロアパネルから立設した状態にする移動手段を備えた
車両のペダル装置。
【請求項2】
前記踏面板は、その踏み込み操作前において、前記フロアパネルから立設した非操作位置に保持されるものであり、
前記移動手段は、前記踏面板を前記非操作位置まで移動させる
請求項1記載の車両のペダル装置。
【請求項3】
前記踏面板の前端には、乗員の足の移動を規制する規制部を備えた
請求項1または2記載の車両のペダル装置。
【請求項4】
前記移動手段は、車両の前方衝突を感知する衝突検知手段により衝突が感知されたことに基づいて、前記踏面板を車両後方に回動させ、前記フロアパネルから立設した状態にするアクチュエータにより構成された
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両のペダル装置。
【請求項5】
車両の走行駆動源を操作するアクセルペダルである
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両のペダル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−238287(P2012−238287A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108542(P2011−108542)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】