説明

車両の制御装置

【課題】アイドリングストップをより適切に行うことができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】オフセット補正装置30は、バッテリ11の充放電電流値を示す電流センサ信号を電流センサ12から入力する電流センサ信号入力部31と、電流センサ信号に基づいてバッテリ11が充電中か放電中かを判定して判定結果信号を補正指示部34に出力する充放電判定部32と、車両状態情報に基づいてバッテリ11が充電中か放電中かを判定して判定結果信号を補正指示部34に出力する充放電判定部33と、充放電判定部32および33から受信する各判定結果信号に基づいてオフセット誤差補正部35にオフセット補正を指示する補正指示部34と、補正指示部34からオフセット補正指示信号を受信した場合に電流センサ信号のオフセットを補正するオフセット誤差補正部35と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、省エネルギおよび二酸化炭素排出量抑制等の観点から、予め定められたアイドリングストップ実行条件を満足するとエンジンを一時的に停止するアイドリングストップ機能を搭載した車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の車両は、アイドリングストップを実行するため、バッテリの充放電電流の電流値を検出する電流センサを備え、この電流センサの検出値に基づいてアイドリングストップを実行する車両の制御装置を搭載している。
【0003】
この特許文献1記載の車両の制御装置は、電圧センサ、電流センサ、バッテリ監視部、供給可能電流値算出部、エコラン制御部を備えている。
【0004】
バッテリ監視部は、電圧センサおよび電流センサがそれぞれ検出したバッテリの電圧値および電流値をサンプリングするようになっている。
【0005】
供給可能電流値算出部は、バッテリ監視部がサンプリングしたバッテリの電圧値および電流値からバッテリの内部抵抗値を算出してバッテリが供給できる供給可能電流値を算出するようになっている。
【0006】
エコラン制御部は、算出した供給可能電流値が予め定められたアイドリングストップ実行条件を満たすか否かを判定するようになっている。この判定の結果に基づき、エコラン制御部は、供給可能電流値がアイドリングストップ実行条件を満たす場合はアイドリングストップを実行し、満たさない場合はアイドリングストップを実行しないようになっている。このように、従来の車両の制御装置は、アイドリングストップ実行条件に基づいてアイドリングストップを実行するか否かを判断していた。
【0007】
ところで、上述の電流センサとしては、ホール素子を備えたホール式の電流センサや、シャント抵抗器を接続して電流値を検出するシャント式の電流センサが一般に用いられる。これらの電流センサでの検出値には、オフセット誤差が含まれることが知られている。具体的には、ホール式の電流センサでは、ホール素子が鉄心を有しているために、残留磁気およびヒステリシスの影響を受けて、検出値はオフセット誤差を含むものとなる。また、シャント式の電流センサでは、シャント抵抗器の両端電圧を増幅する増幅器や、増幅器の出力をディジタル値に変換するAD変換器においてオフセット誤差が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−191097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような従来の車両の制御装置にあっては、アイドリングストップ実行条件を実際には満たしているにもかかわらず、電流センサの検出値に含まれるオフセット誤差により、電流センサの検出値がアイドリングストップ実行条件を満たさないと判定されてアイドリングストップが実行されないという問題があった。このため、従来の車両の制御装置では、アイドリングストップが適切に行われないという問題があった。
【0010】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、アイドリングストップをより適切に行うことができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)バッテリの充電状態を含む所定条件を満足するとエンジンを一時的に停止する車両に搭載される車両の制御装置であって、前記バッテリの充放電電流を検出する電流センサと、前記車両の状態を検出する車両状態検出手段と、検出した前記車両の状態に基づいて前記バッテリが充電中であるか放電中であるかを判定する第1の充放電判定手段と、前記電流センサの検出値により前記バッテリが充電中であるか放電中であるかを判定する第2の充放電判定手段と、前記第1の充放電判定手段が前記充電中であると判定し、かつ前記第2の充放電判定手段が前記放電中であると判定することを条件に、前記放電中を示す前記電流センサの検出値を前記電流センサのオフセット誤差として補正するオフセット誤差補正手段と、前記オフセット誤差の補正後の前記電流センサの検出値によりアイドリングストップを実行するか否かを判定するアイドリングストップ実行判定手段と、を備える。
【0012】
この構成により、オフセット誤差補正手段が、放電中を示す電流センサの検出値を電流センサのオフセット誤差として補正し、アイドリングストップ実行判定手段が、オフセット誤差の補正後の電流センサの検出値によりアイドリングストップを実行するか否かを判定するので、電流センサの検出値に含まれるオフセット誤差により、電流センサの検出値がアイドリングストップ実行条件を満たさないと判定されることがなくなり、アイドリングストップをより適切に行うことができる。
【0013】
上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記第1の充放電判定手段は、前記車両が前記エンジンを一時的に停止した状態でないこと、かつ前記車両が前記バッテリの充電状態を所定量に制御する充電制御中でないこと、かつ前記車両が有するオルタネータのフィールドコイルに供給される電流のデューティ比が所定値以下であることを条件に前記バッテリが充電中であると判定するものである構成を備える。
【0014】
この構成により、第1の充放電判定手段が、車両の状態からバッテリが充電中であると判定することができる。
【0015】
上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(3)前記電流センサは、ホール素子を有する電流センサである構成を備える。
【0016】
この構成により、第2の充放電判定手段が、ホール素子を有する電流センサの検出値によりバッテリが充電中であるか放電中であるかを判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アイドリングストップをより適切に行うことができる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における車両の制御装置を備えた車両の概略ブロック構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における電流センサのヒステリシス特性の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態における電流センサ信号のオフセット補正の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態における車両の制御装置を備えたものと従来のものとを実車で比較した実験結果を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるオフセット補正処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
まず、本発明に係る車両の制御装置を備えた車両の構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態における車両10は、バッテリ11、電流センサ12、オルタネータ13、スタータモータ14、電気負荷15、エンジン16、エンジンECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)20、オフセット補正装置30を備えている。なお、エンジンECU20およびオフセット補正装置30は、本発明に係る車両の制御装置を構成する。
【0022】
バッテリ11は、例えば鉛蓄電池で構成され、オルタネータ13、スタータモータ14、電気負荷15に接続されている。バッテリ11は、オルタネータ13によって発生された電力を蓄えるようになっている。
【0023】
電流センサ12は、例えばホール素子を備え、バッテリ11が充放電する電流値を検出して、検出した電流値を示す電流センサ信号をオフセット補正装置30に出力するようになっている。なお、図1に示すように、バッテリ11に電流が流れ込んでいる場合(充電中)は、電流センサ信号は正の値となり、バッテリ11から電流が流れ出している場合(放電中)は、電流センサ信号は負の値となるものとする。
【0024】
電流センサ12が備えるホール素子は鉄心を有しているため残留磁気が発生し、図2に示すように、ヒステリシス特性により電流センサ12の検出値には検出誤差が生じる。例えば、電流センサ12の被検出電流が−100A(a点)から0A(b点)になったとき(−0A)と、電流センサ12に流れる電流が+100A(c点)から0A(d点)になったとき(+0A)とでは電流センサ12の電流検出値が異なる。検出誤差は、例えば、b点では−0.5A、d点では+0.5Aのオフセット誤差となる。
【0025】
バッテリ11の満充電時や極低温時、または低温時で満充電に近い場合は、バッテリ11に流入する電流は例えば0.5A以下に低下するが、電流センサ12の検出値がマイナス側にオフセットしている場合、例えば−1Aである場合は、電流センサ12の検出値は−0.5Aとなり、充電中であるにもかかわらず放電中と誤認識される。特に電流センサ12がホール素子を備えている場合は、残留磁気の影響で電流センサ12の検出値がマイナス側にオフセットする場合がある。電流センサ12の検出値は、直前に流れた電流が、放電電流の場合はマイナス側にオフセットし、充電電流の場合はプラス側にオフセットする。一般に、車両では、エンジンを停止した状態で消費する電流(暗電流)があり、暗電流の消費後にイグニッションキーの始動があるので、電流センサ12の検出値がマイナス側にオフセットした場合の影響を受けやすい。そのため車両10は、後述するようにオフセット補正装置30を備えている。
【0026】
図1に戻り、構成の説明を続ける。オルタネータ13は、図示しないエンジン16のクランクシャフトに連結されており、エンジン16から伝達される機械的運動エネルギを交流の電気エネルギに変換し、発電を行う発電装置である。
【0027】
具体的にはオルタネータ13は、ステータモータとロータとの間の電磁誘導により交流電流を発生させる交流発電機や、ロータの電磁石(フィールドコイル)に供給する電流(励磁電流)を調節して交流発電機の発電電圧が一定の範囲に収まるよう制御するICレギュレータ、交流電流を直流電流に変換する変換器等を内蔵する。オルタネータ13のロータは、エンジン16のクランクシャフトにベルトやプーリを介して接続される。オルタネータ13のICレギュレータに対する制御信号は、後述するエンジンECU20のオルタネータ駆動部23が出力する。
【0028】
スタータモータ14は、エンジン16を始動させる電動始動手段であり、具体的には例えば直流モータである。スタータモータ14の出力軸は、エンジン16のクランクシャフトにベルトやプーリを介して接続される。スタータモータ14は、後述するエンジンECU20のエンジン制御部26の指示信号に従ってエンジン16の始動のためのクランキング動作を行うようになっている。
【0029】
電気負荷15は、バッテリ11から供給される電力を消費するものであって、例えばエアコンディショナ、オーディオ装置等である。
【0030】
エンジン16は、例えばガソリンやディーゼル等を燃料として駆動力を出力する内燃機関である。エンジン16が出力する駆動力は、オルタネータ13に伝達されて発電に用いられる他、変速機やギヤ機構を介して駆動輪に伝達される。
【0031】
エンジンECU20は、バッテリ状態を検出するバッテリ状態検出部21と、充電制御を実行する充電制御部22と、オルタネータ13を駆動するオルタネータ駆動部23と、所定条件が成立するとエンジン16を一時的に停止するアイドリングストップを実行するアイドリングストップ制御部24と、車両10の状態を検出する車両状態検出部25と、エンジン16を制御するエンジン制御部26と、を備えている。なお、エンジンECU20はエンジン始動時にはバッテリ11から電力供給を受ける。
【0032】
エンジンECU20は、図示しないCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、各種センサが接続される入出力回路等を備えたマイクロコンピュータを含む。エンジンECU20は、ROMに予め格納された制御プログラムを実行させることにより、マイクロコンピュータを、バッテリ状態検出部21、充電制御部22、オルタネータ駆動部23、アイドリングストップ制御部24、車両状態検出部25、エンジン制御部26等の機能部として機能させるようになっている。
【0033】
エンジンECU20に接続されるセンサとしては、バッテリ11の出力電圧を検出する電圧センサ41、バッテリ11の液温を検出する液温センサ42、車両10の移動速度を検出する車速センサ43、ブレーキペダルに対する踏力を測定するブレーキセンサ44がある。その他、図示を省略したが、クランク角センサ、スロットル開度センサ、アクセル開度センサ、吸入空気量センサ、吸気温度センサ、冷却水温度センサ等がエンジンECU20に接続されている。
【0034】
電圧センサ41は、検出したバッテリ11の電圧値を電圧情報としてエンジンECU20に出力するようになっている。液温センサ42は、検出したバッテリ11の液温を温度情報としてエンジンECU20に出力するようになっている。なお、バッテリ11の電流値は、オフセット補正装置30を介して電流センサ12から入力するようになっている。
【0035】
車速センサ43は、例えば車両10の走行速度に応じたパルス信号を生成するパルス生成回路からパルス信号を入力し、車両10の移動速度を検出するようになっている。
【0036】
ブレーキセンサ44は、ブレーキペダルに対する運転者の操作踏力に応じたマスターシリンダ圧の変化あるいは操作ストロークを測定するようになっており、測定された踏力に応じたブレーキ踏力信号をエンジンECU20に出力するようになっている。
【0037】
バッテリ状態検出部21は、電圧センサ41および液温センサ42からそれぞれバッテリ11の電圧情報および温度情報を入力するとともに、オフセット補正装置30を介してバッテリ11の電流値を入力するようになっている。また、バッテリ状態検出部21は、バッテリ11の電流情報および電圧情報に基づいてバッテリ11の充電量および内部抵抗を、公知の手法により検出するようになっている。ここで、バッテリ11の充電量は、バッテリ11の充電容量に対する充電残量の比率として定義され、以下「SOC(State Of Charge)」という。
【0038】
バッテリ11のSOCは、例えば、バッテリ11に流れ込む電流を積算し、またバッテリ11から流れ出す電流を積算することによって算出される。
【0039】
また、バッテリ11の内部抵抗は、例えば、クランキング前後におけるバッテリ電圧と、クランキング中の最大電流との比から算出される。
【0040】
バッテリ11のSOC、内部抵抗および温度の情報を含むバッテリ状態情報は、バッテリ状態検出部21によって所定の時間間隔ごとに検出されるようになっており、このバッテリ状態情報は、図示しないメモリに記憶されるようになっている。
【0041】
充電制御部22は、例えば、バッテリ11のSOCの目標値が一定値または一定の範囲になるようにバッテリ11の充放電を制御し、バッテリ11のSOCを最適化することにより、無駄な燃費消費を抑えることができるように機能する。具体的には、充電制御部22は、加速中にオルタネータ13により発電してしまうとオルタネータ13を駆動させる分、エンジン16に負担がかかり、無駄なガソリンを消費することになるので、燃費を消費するタイミングでの充電を行わず、減速時等の燃料を消費しないところでオルタネータ13により発電し、減速エネルギを無駄なく使って燃料消費を抑えるよう制御するようになっている。
【0042】
オルタネータ駆動部23は、オルタネータ13のフィールドコイルに流す駆動電流(フィールド電流)を制御して、発電電圧を制御するようになっている。ここで、オルタネータ13の発電電圧の制御においては、バッテリ電圧が所定の目標電圧となるように、オルタネータ13のフィールドコイルに対する通電がフィールドデューティ比にて制御される。フィールドデューティ比は0〜100%の間で変動し、大きな値となるほどオルタネータ13の発電量が多くなる。フィールドデューティ比は、オルタネータ13におけるバッテリ11への充電能力を規定するものである。フィールドデューティ比が、採り得る範囲の最大値(100%)である状態が継続している場合には、最大能力で発電を行っているもののバッテリ電圧が目標電圧を下回っている、すなわちバッテリ11が放電中であると考えられる。これに対し、フィールドデューティ比が最大値(100%)未満である場合には、最大能力で発電を行わなくてもバッテリ電圧が目標電圧に収束していることから、バッテリ11が充電中であると考えられる。
【0043】
アイドリングストップ制御部24は、予め定められたアイドリングストップ実行条件が成立するとエンジン16を自動的に停止させるアイドリングストップ機能を実現するようになっている。また、アイドリングストップ制御部24は、車速センサ43から車両速度情報を、ブレーキセンサ44からブレーキ踏力情報を、バッテリ状態検出部21からバッテリ11のSOC情報を、それぞれ、入力するようになっている。このアイドリングストップ制御部24は、本発明に係るアイドリングストップ実行判定手段を構成する。
【0044】
より具体的には、交差点での赤信号で車両10が一時的に停止した場合において、アイドリングストップ実行条件が満足されると、アイドリングストップ制御部24は、自動的にエンジン16を停止させる。このアイドリングストップ実行条件には、車両速度、ブレーキ踏力、バッテリ11のSOC等がある。特に、バッテリ11のSOCは、エンジン16の再始動時にスタータモータ14に電力を供給してエンジン16を再始動しなければならないこと、エンジン16の停止中に電気負荷15に電力を供給しなければならないことから、アイドリングストップ条件の重要な条件の1つである。
【0045】
車両状態検出部25は、アイドリングストップ制御部24からの情報により、車両10がエンジン16を一時的に停止した状態か否かを検出するようになっている。また、車両状態検出部25は、充電制御部22からの情報により、車両10がバッテリ11の充電状態を所定量に制御する充電制御中であるか否かを検出するようになっている。さらに、車両状態検出部25は、オルタネータ駆動部23からの情報により、オルタネータ13のフィールドコイルに供給される電流のフィールドデューティ比が所定値以下であるか否かを検出するようになっている。そして、車両状態検出部25は、検出した結果情報を車両状態情報としてオフセット補正装置30に出力するようになっている。なお、車両状態検出部25は、本発明に係る車両状態検出手段を構成する。
【0046】
エンジン制御部26は、エンジン16を制御するものであって、スタータモータ14や、図示を省略したが、燃料噴射弁、燃料噴射ポンプ、点火プラグ、気流制御弁等も制御するようになっている。
【0047】
上述の構成により、本実施の形態におけるエンジン16は、エンジンECU20により運転状態に応じて各部の駆動が制御されるようになっている。すなわち、エンジンECU20は、入出力回路に接続された種々のセンサが検出するクランク角、スロットル開度、アクセル開度、吸入空気量、吸気温度、吸気圧、エンジン冷却水温、エンジン回転数等のエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量、噴射時期、点火時期等を決定し、インジェクタおよび点火プラグを駆動して燃料噴射および点火を行うようになっている。
【0048】
オフセット補正装置30は、図示しないCPUと、ROMと、RAMと、電流センサ12およびエンジンECU20に接続される入出力回路等を備えたマイクロコンピュータを含む。オフセット補正装置30は、ROMに予め格納された制御プログラムを実行させることにより、マイクロコンピュータを、電流センサ信号入力部31、充放電判定部32および33、補正指示部34、オフセット誤差補正部35の機能部として機能させるようになっている。
【0049】
電流センサ信号入力部31は、バッテリ11の充放電電流値を示す電流センサ信号を電流センサ12から入力するようになっている。
【0050】
充放電判定部32は、電流センサ信号入力部31が入力した電流センサ信号に基づいて、バッテリ11が充電中か放電中かを判定し、判定した結果を示す判定結果信号を補正指示部34に出力するようになっている。具体的には、充放電判定部32は、電流センサ信号の平均値が正の値の場合はバッテリ11が充電中であると判定し、電流センサ信号の平均値が負の値の場合はバッテリ11が放電中であると判定するようになっている。なお、充放電判定部32は、本発明に係る第2の充放電判定手段を構成する。
【0051】
充放電判定部33は、エンジンECU20から受信する車両状態情報に基づいて、バッテリ11が充電中か放電中かを判定し、判定した結果を示す判定結果信号を補正指示部34に出力するようになっている。具体的には、充放電判定部33は、車両10がアイドリングストップ中ではなく、かつ車両10が充電制御中ではなく、かつオルタネータ13のフィールドデューティ比が所定値以下である場合はバッテリ11が充電中であると判定するようになっている。具体的には所定値は85%〜97%程度である。なお、充放電判定部33は、本発明に係る第1の充放電判定手段を構成する。
【0052】
充放電判定部33が判定に用いる判定条件は、放電中となり得る条件を除いたものである。すなわち、アイドリングストップ中は、電気負荷15に電力を供給するためバッテリ11が放電する。また、充電制御中もバッテリ11のSOCが大きい場合は、オルタネータ駆動部23がオルタネータ13の発電電圧を下げるのでバッテリ11から放電し得る。
【0053】
アイドリングストップも充電制御も行っていない場合でも、そのときのエンジン16の回転数におけるオルタネータ13の発電能力よりも電気負荷15での消費電力が大きいときは不足分の電力がバッテリ11から消費されるので、バッテリ11から放電することとなる。そこで、オルタネータ13の発電能力はフィールドデューティ比で示されるため、オルタネータ13の発電能力に十分余裕があるとみなせるフィールドデューティ比=85%〜97%(さらに好ましくは90%〜95%)程度以下の場合は充電中であるとしている。
【0054】
補正指示部34は、充放電判定部32および33から受信する各判定結果信号に基づいて、オフセット誤差補正部35にオフセット補正を指示するようになっている。具体的には、補正指示部34は、充放電判定部32がバッテリ11の放電中と判定し、かつ充放電判定部33がバッテリ11の充電中と判定した場合は、オフセット誤差補正部35にオフセット補正を指示するオフセット指示信号を出力するようになっている。
【0055】
オフセット誤差補正部35は、補正指示部34からオフセット補正指示信号を受信した場合、電流センサ信号入力部31が入力した電流センサ信号のオフセットを補正するようになっている。このオフセット誤差補正部35は、本発明に係るオフセット誤差補正手段を構成する。以下、図3を参照しながら、電流センサ信号のオフセットの補正について説明する。
【0056】
図3(a)において、バッテリ11の平均電流は電流変動を考慮して0.2A±1Aとし、電流センサ12のオフセット誤差を−0.5Aとしている。この場合、電流センサ12の検出値は、平均値で−0.3A±1Aとなる。この状態では、バッテリ電流の平均値は−0.3Aとなるので、バッテリ電流値を30分間積算すると容量変化は−540Asecとなって、例えば、JIS規格D5301(始動用鉛蓄電池)に規定する55D23形(12V48Ah)電池では0.3%の放電と認識されてしまう。
【0057】
そこで、オフセット誤差補正部35は、バッテリ電流のマイナス側のオフセットを補正した値(補正後バッテリ電流)を、電流センサ12の検出値(電流センサ検出値)から電流センサ12の検出値の平均値(電流センサ平均値)を減算して求める。図3(a)に示した例では、オフセット誤差補正部35は、[数1]により補正後バッテリ電流を求める。なお、電流センサ平均値は、例えば5秒間の平均値である。
【0058】
[数1]
補正後バッテリ電流 = 電流センサ検出値 − 電流センサ平均値(−0.3A)
= 電流センサ検出値 + 0.3A
【0059】
その結果、図3(b)に示すように、バッテリ平均電流は0Aとなってバッテリ電流値を30分間積算しても容量変化は0Asecである。すなわち、オフセット誤差補正部35によってバッテリ電流のマイナス側のオフセットが補正され、補正されたバッテリ電流を示す信号がオフセット補正装置30からエンジンECU20に出力されることとなる。したがって、本実施の形態における車両10では、電流センサ12の検出値に含まれるオフセット誤差により、電流センサ12の検出値がアイドリングストップ実行条件を満たさないと誤判定されることを回避できる。
【0060】
次に、実車での実験結果について図4を参照しながら説明する。
【0061】
図4(a)は、従来の車両において、アイドリング状態でのバッテリ電流、バッテリ平均電流、電流積算値の時間的変化を示した図である。図4(a)に示すように、従来の車両では、電流センサの検出値に含まれるオフセット誤差によりバッテリ平均電流がマイナス値になる期間を含んでいる。そのため、従来の車両では、時間の経過とともに電流積算値が徐々に低下し、アイドリングストップ実行条件を満たさないと判定されて、アイドリングストップ禁止となる。その結果、従来の車両では、エンジンがアイドリング状態となった際に速やかにアイドリングストップが実行されないので、運転者に違和感を与えたり、車両の異常と誤認識させたりすることになる。
【0062】
これに対し、本実施の形態における車両10では、電流センサ12の検出値に含まれるオフセット誤差が上述のように補正されるため、図4(b)に示すように、バッテリ平均電流はマイナスにはならないので電流積算値は低下しない。したがって、本実施の形態における車両10では、アイドリングストップ禁止にはならないので、従来のものとは異なり、運転者に違和感を与えたり、車両の異常と誤認識させたりすることを回避することができる。
【0063】
次に、本実施の形態におけるオフセット補正装置30の動作について図1および図5を参照して説明する。
【0064】
電流センサ信号入力部31は、バッテリ11の充放電電流値を示す電流センサ信号を電流センサ12から入力する(ステップS11)。
【0065】
充放電判定部33は、エンジンECU20から受信する車両状態情報に基づいて、バッテリ11が充電中か放電中かをステップS12〜S14の処理により判定する。
【0066】
ステップS12において、充放電判定部33は、車両10がアイドリングストップ中であるか否かを判定する。ステップS12において、充放電判定部33が、アイドリングストップ中であると判定した場合は後述するステップS17に進み、アイドリングストップ中ではないと判定した場合はステップS13に進む。
【0067】
ステップS13において、充放電判定部33は、車両10が充電制御中であるか否かを判定する。ステップS12において、充放電判定部33が、充電制御中であると判定した場合は後述するステップS17に進み、充電制御中ではないと判定した場合はステップS14に進む。
【0068】
ステップS14において、充放電判定部33は、オルタネータ13のフィールドデューティ比(f_duty)が所定値以下であるか否かを判定する。ステップS14において、充放電判定部33が、フィールドデューティ比が所定値以下でないと判定した場合は後述するステップS17に進み、フィールドデューティ比が所定値以下であると判定した場合はステップS15に進む。ここで、ステップS15に進む場合は、充放電判定部33により、バッテリ11が充電中と判定されたことを意味する。この場合、充放電判定部33は、バッテリ11が充電中であることを示す判定結果信号を補正指示部34に出力する。
【0069】
充放電判定部32は、電流センサ信号入力部31が入力した電流センサ信号に基づいて、バッテリ11が充電中か放電中かを判定する(ステップS15)。具体的には、充放電判定部32は、電流センサ信号の平均値が正の値の場合はバッテリ11が充電中であると判定し、電流センサ信号の平均値が負の値の場合はバッテリ11が放電中であると判定する。
【0070】
ステップS15において、充放電判定部32が、バッテリ11が放電中ではないと判定した場合は後述するステップS17に進む。
【0071】
一方、ステップS15において、充放電判定部32は、バッテリ11が放電中であると判定した場合は、その旨を示す判定結果信号を補正指示部34に出力し、オフセット誤差補正部35が、電流センサ12の検出値に含まれるオフセット誤差を補正する(ステップS16)。具体的には、オフセット誤差補正部35は、[数1]に基づいて、電流センサ検出値から電流センサ平均値を減算することにより補正後バッテリ電流を算出する。
【0072】
オフセット誤差補正部35は、オフセット誤差を補正した場合はオフセット誤差の補正後の電流センサ信号をエンジンECU20に出力し、オフセット誤差を補正しなかった場合はステップS11において入力した電流センサ信号をエンジンECU20に出力する(ステップS17)。
【0073】
その結果、本実施の形態における車両10では、電流センサ12の検出値がアイドリングストップ実行条件を満たさないと判定されることがなくなり、アイドリングストップをより適切に行うことができる。
【0074】
なお、上述の実施形態において、バッテリ11の充放電電流を検出する手段としてホール素子を備えた電流センサ12を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上述のようなオフセット誤差が発生し得る電流センサ、例えば、シャント式の電流センサであってもよい。シャント式の電流センサの場合、シャント抵抗器の両端電圧を増幅する増幅器や、増幅器の出力をディジタル値に変換するAD変換器においてオフセット誤差が発生する場合があるので、このオフセット誤差を上述の実施形態と同様に補正することにより同様な効果が得られる。
【0075】
以上のように、本実施の形態における車両の制御装置は、オフセット誤差補正部35が、放電中を示す電流センサ12の検出値を電流センサ12のオフセット誤差として補正するので、電流センサ12の検出値に含まれるオフセット誤差により、電流センサ12の検出値がアイドリングストップ実行条件を満たさないと判定されることがなくなり、アイドリングストップをより適切に行うことができる。
【0076】
また、本実施の形態におけるオフセット誤差補正部35が、電流センサ12のオフセット誤差を補正することにより、充電制御部22がより適切に充電制御を実行することができる。
【0077】
また、本実施の形態におけるオフセット誤差補正部35が、電流センサ12のオフセット誤差を補正することにより、例えば、暗電流消費時にバッテリ容量が所定の閾値以下になったと判定したときにオーディオ装置やナビゲーション装置等の電源を切断するシステムにおいて、バッテリ容量の誤判定により、使用者が予めメモリに設定した内容が失われてしまうということを回避することができる。
【0078】
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、アイドリングストップをより適切に行うことができるという効果を有し、アイドリングストップ実行条件を満足するとエンジンを一時的に停止するアイドリングストップ機能を搭載した車両の制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0079】
10 車両
11 バッテリ
12 電流センサ
13 オルタネータ
14 スタータモータ
15 電気負荷
16 エンジン
20 エンジンECU(車両の制御装置)
21 バッテリ状態検出部
22 充電制御部
23 オルタネータ駆動部
24 アイドリングストップ制御部(アイドリングストップ実行判定手段)
25 車両状態検出部(車両状態検出手段)
26 エンジン制御部
30 オフセット補正装置(車両の制御装置)
31 電流センサ信号入力部
32 充放電判定部(第2の充放電判定手段)
33 充放電判定部(第1の充放電判定手段)
34 補正指示部
35 オフセット誤差補正部(オフセット誤差補正手段)
41 電圧センサ
42 液温センサ
43 車速センサ
44 ブレーキセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの充電状態を含む所定条件を満足するとエンジンを一時的に停止する車両に搭載される車両の制御装置であって、
前記バッテリの充放電電流を検出する電流センサと、
前記車両の状態を検出する車両状態検出手段と、
検出した前記車両の状態に基づいて前記バッテリが充電中であるか放電中であるかを判定する第1の充放電判定手段と、
前記電流センサの検出値により前記バッテリが充電中であるか放電中であるかを判定する第2の充放電判定手段と、
前記第1の充放電判定手段が前記充電中であると判定し、かつ前記第2の充放電判定手段が前記放電中であると判定することを条件に、前記放電中を示す前記電流センサの検出値を前記電流センサのオフセット誤差として補正するオフセット誤差補正手段と、
前記オフセット誤差の補正後の前記電流センサの検出値によりアイドリングストップを実行するか否かを判定するアイドリングストップ実行判定手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1の充放電判定手段は、前記車両が前記エンジンを一時的に停止した状態でないこと、かつ前記車両が前記バッテリの充電状態を所定量に制御する充電制御中でないこと、かつ前記車両が有するオルタネータのフィールドコイルに供給される電流のデューティ比が所定値以下であることを条件に前記バッテリが充電中であると判定するものであることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記電流センサは、ホール素子を有する電流センサであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−92140(P2013−92140A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236207(P2011−236207)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】