説明

車両の前部構造

【課題】新たな補強部材を設けたり、材料板厚を大きくしたりすることなく、サスペンションメンバに固定されるスタビライザー固定用部材の取付剛性を確保する。
【解決手段】左右のサイドメンバに支持され、上側板材2と下側板材3とを接合して中空状に構成されたサスペンションメンバ1と、サスペンションメンバ1上に設けたスタビライザー固定用部材13により、サスペンションメンバ1の上面又は下面の両端部に固定されるスタビライザー5とを備えた車両の前部構造において、サスペンションメンバ1の左右の横側部2aに、車両上面視で波形状に形成される縦壁面部2bを形成し、サスペンションメンバ1の上面又は下面における縦壁面部2bの近傍部分に、スタビライザー固定用部材13を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションメンバにスタビライザーが取り付けられている車両の前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような車両の前部構造として、例えば特許文献1に開示されたものがある。特許文献1に記載のスタビライザーは車幅方向に渡って配設され、その両端にて車輪側のサスペンションリンク等に結合する。また、スタビライザーに設けられた支持部において、スタビライザーはサスペンションメンバに対し回転自在に支持されている。このようなスタビライザーの取付構造は一般的に知られているものである。
【0003】
車両が傾いたときにスタビライザーはトーションバーとして機能し、車両のロールを抑制する。このとき、スタビライザーをサスペンションメンバに対し回転自在に支持している支持部には荷重が集中する。したがって、スタビライザーがトーションバーとしての機能を発揮するためには、支持部の取付剛性が十分に確保されている必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−138946号公報(図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車両の前部構造において、スタビライザーの支持部の取付剛性を大きくするためには、補強部材を設けたり、材料板厚を大きくしたりする方法が考えられる。しかし、近年車両軽量化の要求が高まる中、新たな部材を設けることや板厚を大きくすることは車両軽量化に反するものであり、コストや生産性の面においても得策とは言い難い。
【0006】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたもので、新たな補強部材を設けたり、材料板厚を大きくしたりすることなく、サスペンションメンバに固定されるスタビライザー固定用部材の取付剛性を強化する車両の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の前部構造の第一特徴構成は、左右のサイドメンバに支持され、上側板材と下側板材とを接合して中空状に構成されたサスペンションメンバと、前記サスペンションメンバ上に設けたスタビライザー固定用部材により、前記サスペンションメンバの上面又は下面の両端部に固定されるスタビライザーとを備えた車両の前部構造において、前記サスペンションメンバの左右の横側部に、車両上面視で波形状に形成される縦壁面部を形成し、前記サスペンションメンバの上面又は下面における前記縦壁面部の近傍部分に、前記スタビライザー固定用部材を設けている点にある。
【0008】
第一特徴構成のごとく、サスペンションメンバの横側部に波形状の縦壁面部を形成すると、横側部の縦方向の剛性が向上するとともに、車幅方向の剛性改善も期待できる。したがって、波形状に形成された縦壁面部の近傍部分にスタビライザー固定用部材を設けることにより、スタビライザー固定用部材の取付剛性を強化することができる。また、本構成によれば、スタビライザー固定用部材の取付剛性を強化するために、新たな補強部材を設けたり、材料板厚を大きくしたりする必要がないため、車両軽量化に反することはなく、コストや生産性等の観点からも望ましい構造となる。
【0009】
第二特徴構成は、前記サスペンションメンバにロアアームを支持するサポートブラケットを備え、前記サポートブラケットの一部を前記スタビライザー固定用部材の位置まで延設して固定している点にある。
【0010】
第二特徴構成によれば、スタビライザー固定用部材がサスペンションメンバのみならず、サポートブラケットとともに固定されるので、波形状の縦壁面部及びサポートブラケットにより、スタビライザー固定用部材の取付剛性のさらなる強化が図られる。また、サポートブラケットはロアアームを支持するため従来より用いられている部材であり、新たな部材を必要としないので、車両軽量化、コスト上昇抑制、生産性向上等の点においても有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両の前部構造を示した側面図である。
【図2】車両の前部構造を示した平面図である。
【図3】サスペンションメンバの側端部を示した斜視図である。
【図4】サスペンションメンバの側端部を示した断面図である。
【図5】サスペンションメンバの横側部を示した平面図である
【図6】スタビライザーの固定部を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両の前部構造をFF(フロントエンジン・フロントドライブ方式)車に適用した実施形態について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、車両の前部に左右一対のサイドメンバ4が車両前後方向に延設されている。この左右のサイドメンバ4を橋渡しするように、サスペンションメンバ1は車幅方向に配設されている。サスペンションメンバ1の両端部は、ステー部材7及び連結部材10を介してサイドメンバ4とボルト結合されるとともに、サイドメンバ4から下方に突出した連結部4aとボルト16により結合される。
【0013】
図3に示すように、サスペンションメンバ1は、上面及び側面を構成するアッパメンバ2と、下面を構成するロアメンバ3とからなる。アッパメンバ2及びロアメンバ3は、いずれも板材をプレス加工して製造され、両者を溶接接合することにより中空状のサスペンションメンバ1が構成される。
【0014】
図3に示すように、ステー部材7は断面コの字状の主部材7aと、主部材7a内に配置される副部材7bとから角筒状に構成されており、両部材7a,7b及び後述するロアアーム取付用ブラケット11によって閉空間を形成する。ステー部材7は上下方向に設けられており、主部材7a及び副部材7bの下端部はサスペンションメンバ1やロアアーム取付用ブラケット11と溶接接合され、主部材7aの上端部はサイドメンバ4とボルト結合される。連結部材10は車両前後方向に設けられており、その前端部はロアメンバ3の後端部とボルト結合され、その後端部はサイドメンバ4とボルト結合される。
【0015】
図1〜図3に示すように、前輪20を支持する二股状のロアアーム6は、前側連結部6a及び後側連結部6bにおいてサスペンションメンバ1に連結される。前側連結部6aが取り付けられるロアアーム取付用ブラケット11は略直方体形状であるが、車幅方向外側の側面と底面が開口しており、平面視でコの字状の断面形状を有する。
【0016】
図4に示すように、ロアアーム取付用ブラケット11は、その下端部にてロアメンバ3と溶接接合される。ロアアーム取付用ブラケット11にウェルドナット14が取り付けられており、前後方向のボルト15により、アッパメンバ2に固定される。ロアアーム6の前側連結部6aは、ロアアーム取付用ブラケット11とロアメンバ3とによって形成される空間内に配置され、ボルト15によりロアアーム取付用ブラケット11に対して上下揺動自在に支持されている。
【0017】
次にロアアーム6の後側連結部6bの取付構成について説明する。図3に示すように、アッパメンバ2の後端角部に、L字型の断面を有するサポートブラケット12が配設される。このサポートブラケット12の上面は、アッパメンバ2から車幅方向外側に延出した取付部12aとともに、車両前方向(図3の紙面左方)に延設された延設部12bを有する。
【0018】
図4に示すように、サポートブラケット12の下端部はロアメンバ3に溶接接合される。ロアアーム6の後側連結部6bは、サポートブラケット12の取付部12aとロアメンバ3との間に形成される空間に配置され、サポートブラケット12及びロアメンバ3に対して上下方向のボルト16により固定される。このとき、サポートブラケット12は、連結部4aを介してサイドメンバ4に対してもボルト16により結合される。
【0019】
図2に示すように、スタビライザー5は、サスペンションメンバ1(アッパメンバ2)の左右両端部に一対配置されたスタビライザー固定用部材13により回転自在に支持される。また、スタビライザー5の両端部はロアアーム6又は図示しないナックルに接続される。図4に示すように、スタビライザー固定用部材13は、アッパメンバ2の内面の2箇所に取り付けられたウェルドナット17とボルト18により、アッパメンバ2に固定される。このとき、スタビライザー固定用部材13の位置まで延設されたサポートブラケット12の延設部12bは、スタビライザー固定用部材13とともにボルト18によりアッパメンバ2に共締めされる。
【0020】
本発明の特徴は、図5に示すように、サスペンションメンバ1(アッパメンバ2)の横側部2aに、車両上面視で湾曲した波形状の縦壁面部2bを形成したことにある。なお、図5においては上記特徴を明確に図示するため、サポートブラケット12は省略している。サスペンションメンバ1の横側部2aに湾曲した波形状の縦壁面部2bを形成することにより、サスペンションメンバ1の横側部2aの縦方向の剛性が向上するとともに、車幅方向の剛性改善も期待できる。
【0021】
したがって、スタビライザー固定用部材13を上記縦壁面部2bの近傍に配置すれば、スタビライザー固定用部材13の取付剛性が強化され、スタビライザー5の固定部に集中する荷重に対してより耐久性のある構造となる。このような構成は、新たな補強部材や材料板厚の増大を必要としないため、車両軽量化に寄与すると同時に、コストや生産性等の観点からも望ましい構造となる。
【0022】
本実施形態においては、図5に示すように、縦壁面部2bに形成した車幅方向中央側に入り込む凹部2cが、スタビライザー固定用部材13を固定している前後2つのボルト18(ウェルドナット17)の間に入り込むように、換言すれば、凹部2cの前側及び後側にボルト18が位置するように構成している。このように構成すると、ボルト18が縦壁面部2bに一層近接することとなり、スタビライザー固定用部材13の取付剛性の向上に寄与する。
【0023】
また、図6に示すように、スタビライザー固定用部材13の位置まで延設されたサポートブラケット12の延設部12bを、スタビライザー固定用部材13とともにアッパメンバ2に共締めしているため、スタビライザー固定用部材13の取付剛性のさらなる向上が図られる。この構成についても、新たな部材を必要としないので、車両軽量化、コスト上昇抑制、生産性向上等の課題が解決可能である。
【0024】
本実施形態においては、図5に示すように縦壁面部2bに形成した凹部2cが、スタビライザー固定用部材13を固定している前後2つのボルト18(ウェルドナット17)の間に入り込むように構成したが、凹部2cに代えて、車幅方向外側(図5の紙面左方)に突出する凸部を備えて波形状の縦壁面部2bを構成してもよい。また、車両上面視で湾曲した波形状の縦壁面部2bを形成した例を示したが、波形状として屈曲したもの、例えば車両上面視で波形状の山部分又は谷部分がV字状又は台形状に屈曲したものを採用してもよい。
【0025】
本実施形態においては、図4に示すようにアッパメンバ2の内面(下面)にウェルドナット17を取り付け、ボルト18によりスタビライザー固定用部材13をアッパメンバ2に取り付ける構成としたが、図4及び図5に示すウェルドナット17の位置から真下に位置するロアメンバ3の内面(上面)の部分にウェルドナット17を取り付け、ボルト18によりスタビライザー固定用部材13をロアメンバ3の下側に取り付ける構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、サスペンションメンバにスタビライザーが取り付けられているFF車の前部構造だけでなく、同様の構造を有するFR(フロントエンジン・リアドライブ方式)車の前部構造に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 サスペンションメンバ
2 アッパメンバ(上側板材)
2a 横側部
2b 縦壁面部
2c 凹部
3 ロアメンバ(下側板材)
4 サイドメンバ
5 スタビライザー
6 ロアアーム
7 ステー部材
12 サポートブラケット
13 スタビライザー固定用部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のサイドメンバに支持され、上側板材と下側板材とを接合して中空状に構成されたサスペンションメンバと、
前記サスペンションメンバ上に設けたスタビライザー固定用部材により、前記サスペンションメンバの上面又は下面の両端部に固定されるスタビライザーとを備えた車両の前部構造において、
前記サスペンションメンバの左右の横側部に、車両上面視で波形状に形成される縦壁面部を形成し、前記サスペンションメンバの上面又は下面における前記縦壁面部の近傍部分に、前記スタビライザー固定用部材を設けていることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記サスペンションメンバにロアアームを支持するサポートブラケットを備え、前記サポートブラケットの一部を前記スタビライザー固定用部材の位置まで延設して固定していることを特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−93347(P2011−93347A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246770(P2009−246770)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(597044391)ナミコー株式會社 (7)
【Fターム(参考)】