説明

車両の前部構造

【課題】本発明は、車両前方衝突時にバンパリインフォース等より高い位置からエンジン補機等に加わる衝突荷重を低減させて、エンジン補機の破損を抑制することことを目的とする。
【解決手段】本発明に係る車両の前部構造は、車両のエンジンルーム5内でエンジン補機29が載置されるトレイ30と、車両の骨格を構成するフロントサイドメンバ10よりも高い位置でそのトレイ30を支え、前記フロントサイドメンバ10に取付けられるトレイ架台40とを備える車両の前部構造であって、フロントサイドメンバ10には、トレイ架台40の後方にフロントサイドメンバ10に対して上方に突出する突起状部材20が固定されており、トレイ架台40には、そのトレイ架台40に対して車両前方衝突時の衝突荷重が加わったときに、トレイ架台40と共に後退し、突起状部材20に当接して変形することで、前記衝突荷重を吸収する衝撃吸収部材50が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンルーム内でエンジン補機が載置されるトレイと、車両の骨格を構成するフロントサイドメンバよりも高い位置でそのトレイを支え、前記フロントサイドメンバに取付けられるトレイ架台とを備える車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータとを駆動源とするハイブリット車両では、図8(A)に示すように、バッテリ電源103で前記モータ101を駆動させるためのインバータ102を備えている(特許文献1)。特許文献1に記載の車両では、図8(B)に示すように、フロントサイドメンバ104に取付けられたインバータ支持具105によりインバータ102を支持できるように構成されている。インバータ支持具105は、インバータ104が載置される載置部105sと、その載置部105sを支える支持部105kとから構成されている。そして、インバータ支持具105の載置部105sがフロントサイドメンバ104の上面とほぼ等しい高さ位置に保持されて、そのフロントサイドメンバ104にボルト止めされている。このため、インバータ102は、フロントサイドメンバ104よりも高い位置に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−35181号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の前方衝突時にバンパリインフォース(図示省略)、及びそのバンパリインフォースを支えるフロントサイドメンバ104より高い位置から衝突荷重が加わると、その衝突荷重が直接的にインバータ102及びインバータ支持具105に加わることがある。これにより、前記インバータ102が飛ばされてサスタワー(図示省略)等に衝突し、大きく破損することがある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、車両前方衝突時にバンパリインフォース等より高い位置からエンジン補機等に加わる衝突荷重を低減させて、エンジン補機の破損を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、車両のエンジンルーム内でエンジン補機が載置されるトレイと、車両の骨格を構成するフロントサイドメンバよりも高い位置でそのトレイを支え、前記フロントサイドメンバに取付けられるトレイ架台とを備える車両の前部構造であって、前記フロントサイドメンバには、前記トレイ架台の後方に前記フロントサイドメンバに対して上方に突出する突起状部材が固定されており、前記トレイ架台には、そのトレイ架台に対して車両前方衝突時の衝突荷重が加わったときに、前記トレイ架台と共に後退し、前記突起状部材に当接して変形することで、前記衝突荷重を吸収する衝撃吸収部材が設けられていることを特徴とする。
【0007】
車両前方衝突時にフロントサイドメンバよりも高い位置からエンジン補機に衝突荷重が加わると、その衝突荷重がエンジン補機、トレイを介してトレイ架台に加わるようになる。
本発明によると、トレイ架台が衝突荷重を受けて後退すると、そのトレイ架台の衝撃吸収部材が前記トレイ架台と共に後退してフロントサイドメンバの突起状部材に当接する。そして、前記トレイ架台の後退に伴って撃吸収部材が変形するようになる。これにより、前記衝突荷重が前記撃吸収部材で吸収され、エンジン補機に加わる衝突荷重が減少する。この結果、前記エンジン補機が破損し難くなる。
【0008】
請求項2の発明によると、トレイの前端、あるいはエンジン補機の前端は、トレイ架台の前端よりも一定寸法だけ前方に突出して、前記トレイ架台よりも先に衝突荷重を受けることで、前記トレイ架台に対して後退可能な構成であり、前記トレイが前記トレイ架台に対して一定寸法後退することで、そのトレイと前記トレイ架台との連結が解除されるように構成されていることを特徴とする。
このため、最初にトレイ、あるいはエンジン補機に衝突荷重が加わり、そのトレイとトレイ架台との連結が解除された後は前記トレイ架台にのみ衝突荷重が加わるようになる。即ち、エンジン補機には、トレイ架台との連結が解除されるまでの間だけ衝突荷重が加わり、それ以後は衝突荷重が加わらないため、前記エンジン補機が破損し難くなる。
【0009】
請求項3の発明によると、トレイ架台には、そのトレイ架台との連結が解除されたトレイ及びエンジン補機の移動をガイドするガイド部が設けられていることを特徴とする。
このため、エンジン補機等をガイド部によって希望する方向に導くことで、エンジン補機の損傷を防止できるとともに、他の部品の損傷も防止できるようになる。
請求項4の発明によると、トレイの下面とトレイ架台の上面とは、連結部位以外が非接触であることを特徴とする。
このため、トレイとトレイ架台間で振動等が伝わり難くなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、車両前方衝突時にフロントサイドメンバよりも高い位置からエンジン補機に衝突荷重が加わった場合でも、その衝突荷重がある程度吸収されるため、エンジン補機が破損し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態1に係る前部構造を備える車両前部の模式平面図である。
【図2】本実施形態に係る前部構造を備える車両前部の模式縦断面図(図1のII-II矢視断面図)である。
【図3】本実施形態に係る車両の前部構造を表す縦断面図(図2のIII矢視拡大図)である。
【図4】本実施形態に係る車両の前部構造を表す斜視図である。
【図5】本実施形態に係る車両の前部構造を表す分解斜視図である。
【図6】本実施形態に係る車両の前部構造を構成するトレイとトレイ架台との連結構造を表す斜視図(A図)、拡大縦断面図(B図)である。
【図7】前記トレイ架台の撃吸収部材を表す一部破断斜視図である。
【図8】従来の前部構造を備える車両の模式平面図(A図)、車両の前部構造を表す斜視図(B図)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[実施形態1]
以下、図1から図7に基づいて本発明の実施形態1に係る車両の前部構造について説明する。本実施形態に係る車両の前部構造は、自動車の前方衝突時における衝突荷重がフロントサイドメンバよりも高い位置からエンジン補機に加わった場合でも、その衝突荷重を吸収できるようにして前記エンジン補機、及びその周辺機器の損傷を抑制するための構成である。
なお、図中の前後左右及び上下は、自動車の前後左右及び上下に対応している。
【0013】
<自動車の前部概要について>
先ず、図1、図2等に基づいて自動車の前部概要について説明する。
自動車Mのボディ1の前部には、車室2とダッシュパネル3(図2参照)により区分されたエンジンルーム5が設けられており、そのエンジンルーム5の左右両側に車両前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバ10が設けられている。
フロントサイドメンバ10は、自動車Mの骨格を構成する部材であり、図2に示すように、エンジンルーム5内ではほぼ水平に車両前後方向に延びている。また、フロントサイドメンバ10は、エンジンルーム5の後端位置でダッシュパネル3に沿って後方が低くなるように傾斜している。そして、フロントサイドメンバ10の後端部(図示省略)が車室2の床下部分において車両前後方向に延びるフロアアンダリインホースメント(図示省略)に接続されている。
左右のフロントサイドメンバ10の前部には、図2に示すように、下方に突出するブラケット12が設けられており、それらのブラケット12間にフロントクロスメンバ14が渡されている。また、左右のフロントサイドメンバ10の前端部分には、フロントバンパ16のバンパリインフォース16yが取付けられている。
【0014】
左右のフロントサイドメンバ10の上面には、図2、図3等に示すように、エンジンマウント20の固定フランジ21がボルト等により固定されており、そのエンジンマウント20にエンジンアッセンブリ24(図1参照)のトランスアクスル25が吊り支持されている。エンジンマウント20は、図3等に示すように、側面略台形状をしたエンジンマウント本体22と、そのエンジンマウント本体22の後側にあって後方が高くなるように構成された傾斜支持部23とから構成されている。そして、エンジンマウント本体22の略上半分と、傾斜支持部23とがフロントサイドメンバ10の上面に対して上方に突出している。
また、エンジンルーム5内には、図2等に示すように、エンジンマウント20の後側に燃料蒸気を吸着するためのキャニスタ27が配置されている。
さらに、エンジンルーム5内には、図1、図2等に示すように、エンジンマウント20の前側に、インバータ29が載置されるインバータ用トレイ30と、そのインバータ用トレイ30を支持するトレイ架台40とが設けられている。
【0015】
<トレイ架台40について>
トレイ架台40は、図4、図5に示すように、左側のフロントサイドメンバ10に固定された状態でインバータ用トレイ30を支持する架台であり、棚状のブラケット部41と、架台本体部43と、その架台本体部43から水平後方に延びるガイド部45とから構成されている。ブラケット部41は、架台本体部43を下から支える棚状部材であり、そのブラケット部41の基端部がフロントサイドメンバ10の上面と内側縦面(右側面)とに溶接等により固定されている。
架台本体部43は、側面形状が略台形状をした架台であり、図7等に示すように、前面側を構成する前板部431と、天井面と左側面とを構成する中央板部432と、後面側を構成する後板部433とから構成されている。前板部431と後板部433とは側面略Z字形に折り曲げられており、その下端位置と上端位置とにそれぞれフランジ部431f,433fが形成されている。そして、前板部431、後板部433の下端位置のフランジ部431f,433fが、図4等に示すように、ブラケット部41に載置された状態で、そのブラケット部41にボルト等により固定されている。また、前板部431、後板部433の上端位置のフランジ部431f,433fに、図7に示すように、中央板部432の天井面が被せられて溶接等により固定されている。さらに、前板部431と後板部433間の側面開口が中央板部432の左側面によって塞がれている。そして、中央板部432の左側面の下端位置に形成されたフランジ部432fが、図4等に示すように、フロントサイドメンバ10の上面にボルト等により固定されている。
【0016】
架台本体部43の上面、即ち、中央板部432の天井面には、図5等に示すように、インバータ用トレイ30に連結される左右一対の前部連結フランジ51が固定されている。前部連結フランジ51は、断面略U字形に折り曲げ成形されて中央位置に前後方向に延びる溝部51mが形成されており、その溝部51mの左右両側に平滑なトレイ支持部51fが設けられている。そして、前部連結フランジ51の溝部51mが架台本体部43の上面にボルトB1により固定されている。また、前部連結フランジ51のトレイ支持部51fがボルトB2により、後記するインバータ用トレイ30の前側裏板34(図6(A)(B)参照)に固定されるようになっている。
【0017】
トレイ架台40のガイド部45は、図5に示すように、架台本体部43の天井面の位置から水平後方に張り出す水平張出し部45hと、その水平張出し部45hの後端位置で後上方が高くなるように滑り台状に傾斜した傾斜部45xとから構成されている。そして、ガイド部45の水平張出し部45h、傾斜部45xが断面略門形に形成されて、図3〜図5等に示すように、左側のフロントサイドメンバ10に固定されたエンジンマウント20の上に被せられている。そして、ガイド部45の傾斜部45xが、図3等に示すように、エンジンマウント20の後側に配置されたキャニスタ27よりも上方を指向している。
また、ガイド部45の水平張出し部45hの後部には、図5等に示すように、インバータ用トレイ30に連結される後部連結フランジ53が固定されている。後部連結フランジ53は、断面略門形に折り曲げ成形された平板であり、図5、図6(A)に示すように、前後の脚部53fがボルトB3によってガイド部45に固定されている。そして、後部連結フランジ53の中央の平板部53sがボルトB4により、後記するインバータ用トレイ30の後側支持部36(図6(A)参照)に固定されるようになっている。
また、ガイド部45の傾斜部45xは、図3、図7等に示すように、エンジンマウント20の傾斜支持部23に固定されたブラケット23bによって下方から支持されている。
【0018】
<トレイ架台40のバルク50について>
前記トレイ架台40には、図2、図3等に示すように、架台本体部43からガイド部45の水平張出し部45hの前部にかけて筒状の衝撃吸収部材であるバルク50が設けられている。バルク50は、トレイ架台40に加わる衝突荷重を吸収するための部材であり、前記衝突荷重を受けてトレイ架台40が後退したときにトレイ架台40と共に後退して、エンジンマウント20に当接する位置に配置されている。即ち、バルク50は、エンジンマウント20とほぼ等しい高さ位置で、そのエンジンマウント20の前方に配置されており、同軸(前後)に配置された前段バルク52と後段バルク54とから構成されている。そして、前段バルク52が架台本体部43の略中心位置で前後方向に延びるように設けられている。また、後段バルク54がガイド部45の水平張出し部45hの略中心位置で前後方向に延びるように設けられている。
【0019】
<インバータ用トレイ30について>
インバータ用トレイ30は、インバータ29が載置されるトレイであり、上記したトレイ架台40によって支持されている。インバータ用トレイ30は、図4に示すように、インバータ29を載せるトレイ本体部31と、そのトレイ本体部31をトレイ架台40に連結するための前側裏板34(図3、図6(A)参照)、及び後側支持部36(図3、図6(A)参照)とから構成されている。
インバータ用トレイ30の前側裏板34は、トレイ本体部31の前部裏側を覆う鋼板であり、図6(A)(B)に示すように、トレイ架台40の左右の前部連結フランジ51に対応する位置にトレイ本体部31に対して下方に突出するように構成された凹部34eが設けられている。そして、前側裏板34の凹部34eの下面がトレイ架台40の前部連結フランジ51のトレイ支持部51fに面接触するように構成されている。また、インバータ用トレイ30の前側裏板34には、凹部34eからその凹部34eの前側にかけて、図6(A)に示すように、左右の前部連結フランジ51のボルトB1に相当する位置に前後に長い長穴34nが形成されている。
さらに、インバータ用トレイ30の前側裏板34には、凹部34eからその凹部34eの前側にかけて、左右の前部連結フランジ51におけるボルトB2の位置に、図6(A)(B)に示すように、各々のボルトB2が通されるボルト穴34hが形成されている。ボルト穴34hは、図6(B)に示すように、ボルトB2に止められる穴本体部341と、その穴本体部の前側に位置してそのボルトB2が前方に抜けられるように構成された斜め切欠き穴340とから構成されている。このため、インバータ用トレイ30の前側裏板34とトレイ架台40の前部連結フランジ51とがボルトB2により連結されている状態で、例えば、衝突荷重によりインバータ用トレイ30の前側裏板34がトレイ架台40に対して相対的に後退すると、ボルトB2がボルト穴34hの斜め欠き部340から前方に突出して、インバータ用トレイ30の前側裏板34とトレイ架台40の前部連結フランジ51との連結が解除されるようになる。
【0020】
インバータ用トレイ30の後側支持部36は、トレイ本体部31の中央後部に連結されたブラケットであり、図6(A)に示すように、そのトレイ本体部31に対して下方に突出するように構成された左右の一対の凹部36eを備えている。そして、インバータ用トレイ30の後側支持部36の凹部36eの下面がそれぞれトレイ架台40の後部連結フランジ53の平板部53sに面接触するように構成されている。また、後側支持部36の左右の凹部36eには、前側が開放された切欠き状のボルト穴36hが形成されており、その切欠き状ボルト穴36hにトレイ架台40の後部連結フランジ53のボルトB4がそれぞれ通されるようになっている。
このため、インバータ用トレイ30の後側支持部36とトレイ架台40の後部連結フランジ53とがボルトB4により連結されている状態で、例えば、衝突荷重によりインバータ用トレイ30の後側支持部36がトレイ架台40に対して相対的に後退すると、ボルトB4が切欠き状ボルト穴36hから前方に突出して、インバータ用トレイ30の後側支持部36とトレイ架台40の後部連結フランジ53との連結が解除される。
インバータ用トレイ30の前側裏板34と後側支持部36とは、トレイ架台40の前部連結フランジ51と後部連結フランジ53とにそれぞれボルト止めされた状態で、インバータ用トレイ30の先端位置が、図3等に示すように、トレイ架台40の前端位置から一定寸法だけ前方に突出するように、前記インバータ用トレイ30のトレイ本体部31に対する配置が設定されている。
【0021】
<車両の前部構造の動作について>
次に、前方衝突時における車両の前部構造の動作について説明する。
例えば、車両前方衝突時にバンパリインフォース16y、フロントサイドメンバ10よりも高い位置からインバータ29及びインバータ用トレイ30に対して衝突荷重が加わると、インバータ用トレイ30等はトレイ架台40に対して後退する。即ち、インバータ用トレイ30の前側裏板34と後側支持部36とが衝突荷重によりトレイ架台40の前部連結フランジ51と後部連結フランジ53に対してそれぞれ後退する。これにより、トレイ架台40のボルトB2がインバータ用トレイ30の前側裏板34のボルト穴34hから外れ、トレイ架台40のボルトB4がインバータ用トレイ30の後側支持部36の切欠きボルト穴36hから外れるようになる。この結果、インバータ29及びインバータ用トレイ30がトレイ架台40から外れて、そのトレイ架台40上を後方に滑り、図3の二点鎖線に示すように、トレイ架台40のガイド部45によって後上方に導かれる。これによって、インバータ29及びインバータ用トレイ30がエンジンマウント20の後側に位置するキャニスタ27に衝突することがなくなる。
【0022】
さらに、インバータ29及びインバータ用トレイ30とトレイ架台40との連結が解除された後、衝突荷重がトレイ架台40に加わると、前記トレイ架台40が後退する過程でバルク50の後端(後段バルク54の後端)がエンジンマウント20に当接する。そして、衝突荷重によりトレイ架台40が後方に移動(変形)する過程で、前段バルク52と後段バルク54とが軸方向に潰れ、前記衝突荷重が吸収される。このため、インバータ29及びインバータ用トレイ30とトレイ架台40との連結が解除された後は、衝突荷重がインバータ29及びインバータ用トレイ30に加わらなくなる。
このように、インバータ29には衝突初期に衝突荷重が加わり、それ以後は衝突荷重が加わらないため、インバータ29が損傷し難くなり、漏電等を防止できるようになる。さらに、インバータ29がキャニスタ27に衝突することがないため、キャニスタ27の破損を防止できる。
即ち、前記インバータ29が本発明のエンジン補機に相当し、インバータ用トレイ30が本発明のトレイに相当する。また、バルク50が本発明の衝撃吸収部材に相当し、エンジンマウント20が本発明のフロントサイドメンバの突起状部材に相当する。
【0023】
<本実施形態に係る車両の前部構造の長所について>
本実施形態に係る車両の前部構造によると、車両前方衝突時にフロントサイドメンバ10よりも高い位置からインバータ29(エンジン補機)に衝突荷重が加わると、その衝突荷重がインバータ29(エンジン補機)、インバータ用トレイ30(トレイ)を介してトレイ架台40に加わるようになる。
本発明によると、トレイ架台40が衝突荷重を受けて後退すると、そのトレイ架台40のバルク50(衝撃吸収部材)がフロントサイドメンバ10のエンジンマウント20(突起状部材)に当接する。そして、トレイ架台40の後退に伴ってバルク50が変形するようになる。これにより、前記衝突荷重がバルク50で吸収され、インバータ29に加わる衝突荷重が減少する。この結果、前記インバータ29が破損し難くなる。
【0024】
また、インバータ用トレイ30の前端は、トレイ架台40の前端よりも一定寸法だけ前方に突出して、前記トレイ架台40よりも先に衝突荷重を受けることで、トレイ架台40に対して後退可能な構成である。そして、インバータ用トレイ30がトレイ架台40に対して一定寸法後退することで、そのインバータ用トレイ30とトレイ架台40との連結が解除される。このため、インバータ用トレイ30とトレイ架台40との連結が解除された後はトレイ架台40にのみ衝突荷重が加わるようになる。即ち、インバータ29には、トレイ架台40との連結が解除されるまでの間だけ衝突荷重が加わり、それ以後は衝突荷重が加わらないため、前記インバータ29が破損し難くなる。
また、トレイ架台40には、そのトレイ架台40との連結が解除されたインバータ用トレイ30等の移動をガイドするガイド部45が設けられている。このため、インバータ用トレイ30等をガイド部45によって希望する方向に導くことで、インバータ29の損傷を防止できるとともに、他の部品の損傷も防止できるようになる。
また、インバータ用トレイ30の下面とトレイ架台40の上面とは、連結部位以外が非接触であるため、インバータ用トレイ30とトレイ架台40間で振動等が伝わり難くなる。
【0025】
<車体前部構造の変更例>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、衝突荷重でトレイ架台40が後退したときにバルク50をエンジンマウント20によって受ける例を示した。しかし、エンジンマウント20の代わりにフロントサイドメンバ10の上面に段差状の突起を形成し、前記突起により前記バルク50を受ける構成でも可能である。
また、本実施形態では、バルク50を筒状に形成する例を示したが、筒状のバルク50の代わりに、トレイ架台40を前後方向に延びる平板でハニカム構造状に仕切る構成でも可能である。
また、トレイ架台40のガイド部45を滑り台状に形成する例を示したが、前記ガイド部45を塀状に形成して前記インバータ用トレイ30を横方向にガイドする構成でも可能である。
また、エンジン補機としてインバータ29を例示したが、インバータ29以外のエンジン補機に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
5 エンジンルーム
10 フロントサイドメンバ
20 エンジンマウント(突起状部材)
29 インバータ(エンジン補機)
30 インバータ用トレイ(トレイ)
40 トレイ架台
45 ガイド部
50 バルク(衝撃吸収部材)
52 前段バルク
54 後段バルク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンルーム内でエンジン補機が載置されるトレイと、車両の骨格を構成するフロントサイドメンバよりも高い位置でそのトレイを支え、前記フロントサイドメンバに取付けられるトレイ架台とを備える車両の前部構造であって、
前記フロントサイドメンバには、前記トレイ架台の後方に前記フロントサイドメンバに対して上方に突出する突起状部材が固定されており、
前記トレイ架台には、そのトレイ架台に対して車両前方衝突時の衝突荷重が加わったときに、前記トレイ架台と共に後退し、前記突起状部材に当接して変形することで、前記衝突荷重を吸収する衝撃吸収部材が設けられていることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の前部構造であって、
前記トレイの前端、あるいは前記エンジン補機の前端は、前記トレイ架台の前端よりも一定寸法だけ前方に突出して、前記トレイ架台よりも先に衝突荷重を受けることで、前記トレイ架台に対して後退可能な構成であり、
前記トレイが前記トレイ架台に対して一定寸法後退することで、そのトレイと前記トレイ架台との連結が解除されるように構成されていることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項3】
請求項2に記載された車両の前部構造であって、
前記トレイ架台には、そのトレイ架台との連結が解除された前記トレイ及び前記エンジン補機の移動をガイドするガイド部が設けられていることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された車両の前部構造であって、
前記トレイの下面と前記トレイ架台の上面とは、連結部位以外が非接触であることを特徴とする車両の前部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−206627(P2012−206627A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74233(P2011−74233)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】