説明

車両の床下機器温度検知装置

【課題】 既定走行路を走行する車両の周囲環境、特に降雪や降雨あるいは日射等による外乱の影響を効果的に抑制して、車両の外部の地上側から床下機器の発熱部位の温度を適切に検知し得る車両の床下機器温度検知装置を提供すること。
【解決手段】温度検知部11は、ケース111と、該ケース111の内部に収納された放射温度計112と、筒体21とを備える。筒体21は、外筒211と内筒214との二重筒からなり、外筒211の先端側上部には雪除け部材212が立設されている。外筒211と内筒214の前方下半部が斜めに切除されて切り欠き部213が形成されている。外筒211と内筒214の底部には、雨水等を地上に落下させるための複数の小孔が穿たれている。上記二重筒を形成する外筒211と内筒214とは、所定間隔を存して、ケース111に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の床下機器から発する放射熱を検知する装置、より詳細には、車両の床下機器の発熱部位の温度を、外部から非接触で且つリアルタイムで、しかも風雨、降雪、日射等の環境変動に伴う外乱の影響を抑制して、高精度に検出するための車両の床下機器温度検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、旅客列車等の鉄道車両あるいは新交通システム、ガイドウェイ型自動車、モノレール等既定の走行路を走行する車両の床下に配置されている床下機器は、電子化、小型化および静止機器化が進展しており、これらは、省エネルギー、省スペース、信頼性の向上およびメンテナンスの簡易化に寄与するものである。しかしながら、鉄道技術の面から考察すれば、鉄道技術への最新技術の応用はまだ過渡期にあると考えられる。
また、車両の保守管理は、設備や人的資源の運用の面から、将来の動態検査を中心とした方法への転換が必要とされており、車両故障や火災等の予防保全、早期発見のためにも、騒音、振動および機器加熱等の状況をリアルタイムで計測し、正常値と比較することが重要な意味を持つものと考えられている。
このような観点から、従来においても、車両の床下に設置されたモータ、ブレーキ等の発熱部位の温度を検出して、各発熱部位における検出温度から車両の異常を判断することが試みられている。例えば、従来は、車両が停止してから温度検出器を用いて発熱部位の温度を測定することが行なわれていた。また、従来は、各車両の発熱が予測される部位に温度検出器を設置して車両の走行中においても車両の床下に配置されたモータやブレーキ等の発熱部位の温度を測定することも行なわれていた。
【0003】
なお、このような状況にあって、鉄道車両等の車軸を回転可能に支持する車軸軸受けは、旧来の潤滑油等の液体潤滑に依存する滑り軸受けから、固体潤滑を利用した転がり軸受けに変わってきており、信頼性と寿命が各段に向上している。しかしながら、貨物列車の一部には、未だ滑り軸受けも残っており、旅客列車における転がり軸受けについても過熱および焼損等の事故は皆無ではない。
その背景には、鉄道車両等の保守要員の高齢化と技術伝承の問題があり、100%完全な車両保守/整備は今後とも達成することが困難である。一方、軸受け等のいわゆる「走り装置」の故障または損傷は、直接的に走行の安全性を脅かし、車両火災あるいは脱線といったような重大事故につながる要因となる。
従来の車両の外部、つまり地上側からの車両の床下発熱機器の温度検出方式は、走行列車が一旦停止してからでないと発熱部位の温度測定を行うことができないため、発熱部位の温度を正確に且つ即時的に測定することができず、また発熱部位の温度測定を部位毎にその都度行わなければならないため、測定作業に多くの手間と時間を要するという難点がある。
【0004】
一方、従来の車両側に温度検出器を設置して測温する方式にあっては、発熱部位毎に温度検出器を設置しなければならないため、多数の温度検出器およびその出力信号の処理装置が必要となり、各車両にこれらを設置するとなると、膨大な経費が必要となるという難点がある。
また、車両の軸受け等の焼き付きを回避するため、軸受け等の温度を検出する温度センサとして、温度ヒューズを設ける方策も採られることがある。しかしながら、この場合には、測温個所の過熱による溶断以外に振動等による温度ヒューズの切断が生じるなどの誤動作が発生し易く、信頼性に欠けるという難点がある。
このため、軸受けを収納する軸箱等の温度を外部から測定することによって異常を検知し、事故を未然に防止するシステムの必要性が増大してきた。しかしながら、外部からの温度検出は、走行車両の周囲環境、特に風雨および降雪のような気象状況、並びに列車風等による外乱の影響を受けるため、精度の高い温度計測が容易ではない。このような周囲環境による外乱の影響を低減するためには、温度測定部を収める防護ケースなどが用いられるが、それだけでは外乱の影響を完全に除去することは困難であり、外乱による影響を校正する校正手段を備えることが必要である。
【0005】
このため、例えば、特許文献1に開示された車両の床下機器温度検知装置では、軌道走行車両の周囲環境による外乱の影響を効果的に抑制して、軌道走行車両の外部の地上側から床下機器の発熱部位の温度を適切に検知することを意図し、放射温度計を備えて非接触で温度を検知する温度検知部の側方に校正用発熱体を設置し、全車両の放射熱の測定後に、この校正用発熱体からの放射熱を放射温度計に導いて温度計測を行ない、その結果に基づいて、先に計測された全車両の放射熱の測定結果を校正する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−283298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記背景技術で述べた従来の車両の床下機器温度検知装置にあっては、例えば、前述の特許文献1に開示された車両の床下機器温度検知装置の場合、車両全体の放射熱の温度測定結果を、校正用発熱体からの放射熱の温度測定結果で後から校正するものであるから、測定精度は高いといえる。しかしながら、床下機器からの放射熱を入射させる筒体の構造に由来して、特別の周囲環境、特に風雨および降雪のような気象状況、並びに列車風等による外乱が、この温度検知部に達する以前の経路で物理的に十分に除去されていなければ、放射温度計が外乱の影響をもろに受けてしまうので、後から校正手段によって車両全体の放射熱の温度測定結果に対する校正を行ったとしても、やはり外乱の影響を回避する効果は充分に得られず、正確な測定値が得られないという問題点があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、既定走行路を走行する車両の周囲環境、特に降雪や降雨、日射温度による外乱の影響を効果的に抑制して、車両の側方外部の地上側から床下機器の発熱部位の温度を適切に検知し得る車両の床下機器温度検知装置を提供することを目的としている。
【0008】
本発明の請求項1の目的は、特に、車両が走行する既定走行路の側方から所定の間隔を隔てて配置され、前記車両の床下に配設された機器の放射熱を検知する放射温度計を備えた車両の床下機器温度検知装置において、太陽光の日射温度による前記筒体内の温度上昇を効果的に抑制することができる車両の床下機器温度検知装置を提供することにある。
本発明の請求項2の目的は、特に、筒体の先端部が積雪によって塞がれることによって放射温度計の測定値に誤差が生じたり、測定不能に陥ることを防止することができる車両の床下機器温度検知装置を提供することにある。
本発明の請求項3の目的は、特に、雪や雨等が筒体の内部にまで浸入することを防止し、放射温度計の測定値に誤差が生じることを防止することができる車両の床下機器温度検知装置を提供することにある。
本発明の請求項4の目的は、特に、筒体内に浸入した雪の融水や雨水が溜り、放射温度計にまで達することを抑止し、放射温度計の測定値に誤差が生じることを防止することができる車両の床下機器温度検知装置を提供することにある。
【0009】
本発明の請求項5の目的は、特に、筒体の先端の放射熱入射口が積雪によって塞がれることによって放射温度計の測定値に誤差が生じたり、測定不能に陥ることを簡単且つ安価な構成で効果的に抑制することができる車両の床下機器温度検知装置を提供することにある。
本発明の請求項6の目的は、特に、前記雨水や雪融け水が前記筒体先端側の内部にまで浸入することを防止し、放射温度計の測定値に誤差が生じることを防止することができる車両の床下機器温度検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載した本発明に係る車両の床下機器温度検知装置は、上述した目的を達成するために、車両が走行する既定走行路から側方に所定の間隔を隔てて配置され、前記車両の床下に配設された機器の放射熱を検知する放射温度計を備えた車両の床下機器温度検知装置において、前記放射温度計を収納する本体部と、前記本体部の開口部に取り付けられ、前記放射温度計に前記機器から放射され且つ伝播される放射熱を入射させるための、内側の筒と外側の筒との間隙に空気層を挟んだ二重構造の筒から成る筒体と、を備えたことを特徴としている。
請求項2に記載した本発明に係る車両の床下機器温度検知装置は、請求項1に記載の走行車両の床下機器温度検知装置であって、前記二重構造の筒の、外側の筒の先端上部に、さらに雪除け部材を取り付けたことを特徴としている。
請求項3に記載した本発明に係る車両の床下機器温度検知装置は、請求項1または請求項2記載の走行車両の床下機器温度検知装置であって、前記二重構造の筒の先端下部に、斜め上方から降下する雪および/または雨滴を前記筒体内に浸入しにくくするための切り欠き部を形成したことを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載した本発明に係る車両の床下機器温度検知装置は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の走行車両の床下機器温度検知装置であって、前記二重構造の筒の下部面に、液体を地上に落下させるための複数個の貫通孔を形成したことを特徴としている。
請求項5に記載した本発明に係る車両の床下機器温度検知装置は、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の走行車両の床下機器温度検知装置であって、前記雪除け部材が、帽子の鍔状を呈し、前記外側の筒の先端上部において、鉛直方向または鉛直方向に対し所定の角度範囲内で、前傾方向または後傾方向に向けて設置されることを特徴としている。
請求項6に記載した本発明に係る車両の床下機器温度検知装置は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の走行車両の床下機器温度検知装置であって、前記二重構造の筒の少なくとも下部内面に、傾斜を持たせて、前記筒体部の内面に吹き込んだ水分を前記筒の先端側に向かって流して地上に落下させるように構成してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1の床下機器温度検知装置によれば、既定走行路を走行する車両の周囲環境、特に、降雪、降雨、外気温度等による外乱の影響を効果的に抑制して、床下機器の発熱部位の温度を適切に検知し得る車両の床下機器温度検知装置を提供することができる。
すなわち本発明の請求項1の床下機器の温度検知装置によれば、車両が走行する既定走行路から側方に所定の間隔を隔てて配置され、前記車両の床下に配設された機器の放射熱を検知する放射温度計を備えた車両の床下機器温度検知装置において、
前記放射温度計を収納する本体部と、
前記本体部の開口部に取り付けられ、前記放射温度計に前記機器から放射され且つ伝播される放射熱を入射させるための、内側の筒と外側の筒との間隙に空気層を挟んだ二重構造の筒から成る筒体と、
を備えるので、太陽光等による周囲温度の大きな変化に対し、二重構造の筒体内の前記空気層によって外気温を遮断し、前記筒体内の温度上昇を効果的に抑制乃至は軽減することができる。
【0013】
また、本発明の請求項2の車両の床下機器温度検知装置によれば、前記二重構造の筒の、外側の筒の先端上部に、雪除け部材を取り付けることによって、降雪や降雨等の外乱伝播によって放射温度計の測定値に誤差が生じることを防止することができる。
また、本発明の請求項3の車両の床下機器温度検知装置によれば、前記二重構造の筒の先端下部に、斜め上方から降下する雪および/または雨滴を前記筒体内に浸入しにくくするための切り欠き部を形成して、雪や雨等を、この切り欠き部において直接地上に落下させることができるので、雪や雨水が筒の内部にまで浸入することを防止し、放射温度計の測定値に誤差が生じることを防止することができる。
また、本発明の請求項4の車両の床下機器温度検知装置によれば、前記二重構造の筒の下部面に、雨水等を地上に落下させるための複数個の貫通孔を形成することにより、筒内に浸入した雨水や雪の融水が放射温度計にまで達することを防止し、放射温度計の測定値に誤差が生じることを防止することができる。
【0014】
また、本発明の請求項5の車両の床下機器温度検知装置によれば、前記雪除け部材は、帽子の鍔状を呈し、前記外側の筒の先端上部において鉛直方向または鉛直方向に対し所定の角度範囲内で前傾方向または後傾方向に向けて設置されるので、筒内に浸入した雨水や融雪水が放射温度計にまで達することを帽子することができる。
さらに、本発明の請求項6の車両の床下機器温度検知装置によれば、前記二重構造の筒の少なくとも下部面に雨水等が流れることができる傾斜を持たせて、前記雨水等を前記筒の先端から地上に落下させるように構成したので、雪融け水や雨等が筒の内部にまで浸入することを防止し、放射温度計の測定値に誤差が生じることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る軌道走行車両の床下機器温度検知装置の全体のシステム構成を示す模式図である。
【図2】図1の軌道走行車両の床下機器温度検知装置の列車通過中におけるA−B線に沿う要部の断面を列車前方側から見た矢視断面図である。
【図3】図1の温度検知部11全体を側面から見た構成を示す透視図である。
【図4】図1の温度検知部11の側面と後面とを重点的に示した外観図である。
【図5】図1の温度検知部11の正面構造を示す正面図である。
【図6】図3に示す本実施形態に係る車両の床下機器温度検知装置の温度検知部11における二重筒構造の筒体の温度の測定位置を示す説明図である。
【図7】車両の床下機器温度検知装置における一重筒構造の筒体の温度の測定位置を示す説明図である。
【図8】一重筒と二重筒のそれぞれの温度測定点における測定温度を経過時間の時系列で示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に基づき、図面を参照して本発明の既定走行路としての軌道(以下、「線路」と称することがある)を走行する車両の床下機器温度検知装置を詳細に説明する。
なお、本発明に係る車両とは、軌道上を走行する鉄道車両のほか、新交通システム、ガイドウェイ型自動車、モノレール等、既定の走行路を走行する車両を包含するが、ここでは鉄道車両を代表例として説明することとする。
図1は、本発明の実施の形態に係る鉄道車両の軸箱温度検知に適用した軌道走行車両の床下機器温度検知装置が配置された全体のシステム構成を模式図である。図2は、図1の主要部の列車通過中におけるA−B線に沿う要部の断面を列車前方側から見た矢視断面図である。
図1および図2に示す床下機器温度検知装置は、温度検知部11(11A,11B)、校正用発熱体12(12A,12B)、発熱コントローラ13(13A,13B)、到来車輪検知部14(14A,14B)、計測車輪検知部15(15A,15B)、通過車輪検知部16(16A,16B)、接続箱17および制御処理装置18を具備している。但し、校正用発熱体12(12A,12B)および発熱コントローラ13(13A,13B)は、本実施形態に係る車両の床下機器温度検知装置の必須の構成要素ではなく、省略することも可能である。
【0017】
鉄道車両の場合、走行軌道は線路RTであり、図示のように、ほぼ平行に敷設された2本のレールRTAおよびRTBで構成されている。鉄道車両は、図示矢印TR方向に走行する。温度検知部11は、線路RTの両側方に2つの温度検知部11Aおよび11Bとして、それぞれレールRTAおよびRTBに対応する側に、設けられており、各々放射熱を検出する放射温度計、並びにその放射温度計の放射熱の入射部の近傍に配置されて放射熱の伝播路を偏向するための可動ミラー(省略可能)を有し、入射される放射熱を高精度に検出する。この種の温度検知部11における放射温度計としては、熱源から発熱に伴って発生する赤外線を高精度に検出する赤外線放射温度計を用いることが望ましい。
校正用発熱体12および発熱コントローラ13(13A,13B)は、本発明の必須の校正要素ではないが、温度検知部11Aおよび11Bの各々の近傍にそれぞれ対応して2つの発熱体12Aおよび12Bとして設けられる。発熱コントローラ13は、発熱体12Aおよび12Bにそれぞれ接続されるコントローラ13Aおよび13Bとして設けられ、各々対応する発熱体12Aおよび12Bを校正のための所定の温度で発熱させる。
【0018】
到来車輪検知部14は、レールRTAおよびRTBにおいて車両の車輪Wのそれぞれ車輪WAおよびWBを検知する到来車輪検知部14Aおよび14Bとして設けられ、温度検知部11の位置よりも所定距離だけ前方、すなわち車両の進入到来側に配置されて、温度検知部11の位置に到達する以前に車輪Wの到来を検知する。計測車輪検知部15は、レールRTAおよびRTBにおいて車両の車輪Wのそれぞれ車輪WAおよびWBを検知する計測車輪検知部15Aおよび15Bとして設けられ、温度検知部11の位置にほぼ対応して配置されて、車輪Wの温度検知部11の位置への到達を検知する。通過車輪検知部16は、レールRTAおよびRTBにおいて車両の車輪Wのそれぞれ車輪WAおよびWBを検知する通過車輪検知部16Aおよび16Bとして設けられ、温度検知部11の位置よりも所定距離だけ後方、すなわち車両の通過退出側に配置されて、車輪Wが温度検知部11の位置を完全に通過したことを検知する。これら車輪検知部14、15および16は、いずれも電磁式近接スイッチのような非接触近接スイッチを用いて構成され、車輪Wが近づくとそれを検知して検知信号を発生する。
【0019】
接続箱17は、それぞれケーブル等を適宜介して、温度検知部11、発熱コントローラ13、到来車輪検知部14、計測車輪検知部15および通過車輪検知部16、すなわち温度検知部11Aおよび11B、発熱コントローラ13Aおよび13B、到来車輪検知部14Aおよび14B、計測車輪検知部15Aおよび15B、並びに通過車輪検知部16Aおよび16Bに接続され、これらを、やはりケーブル等を適宜介して制御処理装置18に接続する。もちろん、これらの接続は、ケーブル接続に限らず、無線送受信機を用いた無線通信路による接続としてもよい。制御処理装置18は、到来車輪検知部14、計測車輪検知部15および通過車輪検知部16による車輪の検知状況に応じて、温度検知部11における温度検知処理および内蔵のミラーによる放射熱の伝播路の偏向制御、並びに発熱コントローラ13を介しての校正用発熱体12の発熱温度制御を行なう。
【0020】
図3は、図1の温度検知部11の側面から見た詳細構成を示す透視図である。また、図4は、図1の温度検知部11の側面と後面とを重点的に示した外観図である。
図3および図4に示す温度検知部11は、本体部としてのケース111と、ケース111の内部に収納されて放射熱の温度を計測する放射温度計112と、放射熱の伝播路(入射路)を形成する筒体21と、を備えて構成される。
筒体21は、外側の筒(以下、「外筒」という)211と内側の筒(以下、「内筒」という)214とからなり、外筒211には、本発明の特徴的な構成要素である雪除け部材212が付設され、さらに外筒211と内筒214の下半部は、先端側から基部側の途中に至るまで約45°前後の傾きをもって切り欠き部213が形成されている。雪除け部材212は、外筒211の最前端に帽子の鍔のように立てられて設置されており、風雪(風、雨、雪等)を受けても倒れることがないようにリブ状の支持部2121によって外筒211に固着され、支持されている。
筒体21および雪除け部材212並びに支持部2121を構成する素材の材質は、風雪に耐えられる丈夫なものでありさえすれば任意の適当な材質が可能であり、例えば、金属、プラスチック等を使用することができるが、可能な限り雪が付着し難く、耐腐食性のある材質が好ましい。
【0021】
筒体21の外筒211および内筒214の底面には、雨水等の液体を地上に落下させるための複数の小孔が穿設されている。
また、筒体21は、外筒211と内筒214とを備え、前記外筒211が前記内筒214を内包すると共に、内筒214の外周面と外筒211の内周面とは、直接的に接触することなく、その基端は、熱遮蔽板113およびケース111の正面側に穿設された開口部111Aを貫通し、ケース111に取付けられている。内筒214と外筒211とは、所定の空気間隙を存して互いに保持された二重筒構造として形成されている。
雪除け部材212の形状は、積雪が内筒214の内部に浸入することを阻止できる形状でありさえすれば、任意の適当な形状が可能であり、例えば、半円形、楕円形、あるいは角形の形状であってもよい。
以下、本実施の形態に係る車両の床下機器温度検知装置の機能について説明する。
本発明に係る車両の床下機器温度検知装置では、前述のとおり、温度検知部11の放射熱の入射路を形成する筒体21の構成を、空気間隙を存して互いに離間された外筒211と内筒214とを有する構成としたので、前記外筒211が接する外気温度および照射される日射等に起因する温度上昇の影響が前記内筒214に直接的に伝播されることが抑止され、これにより、内筒214内部の温度上昇が抑制される。これにより、放射温度計112が、特に夏の日差しの強い日射等の外乱の影響を受けて温度上昇することを抑止することができ、延いては、車両の床下機器の発熱部位の温度を的確に検出することができるようになる。
【0022】
また、温度検知部11の外筒211は、前述のとおり、本発明に特徴的な構成要素である雪除け部材212を備えており、これにより、外筒211の上部に積った雪が筒体21の先端開口(放射熱の入射口)を一部塞いでしまい、ひいては、放射温度計112の測定値に影響を及ぼしたり、場合によって測定不能となるのを防止することができる。なお、雪除け部材212の外筒211に対する傾斜角度を、ここでは鉛直として示しているが、鉛直方向に対し、適宜の角度範囲で、前傾させ、あるいは後傾させてもよい。
また、温度検知部11の外筒211と内筒214には、前述のとおり、本発明に特徴的な構成要素である切り欠き部213が形成されており、これにより、筒体21の斜め上部から降る雪や雨等は、内筒214の内部にまで浸入することなく、即ち、前記の雪や雨等は、この切り欠き部213を通過して直接地上に落下するので、内筒214の内部にまで浸入することが防止され、ひいては、放射温度計112が、筒体21の斜め上方から降る雪や雨等の外乱の影響を受けて測定不能に陥ったり、温度の測定値に誤差を生じることを防止することができる。なお、この切り欠き部213の外筒211に対する傾斜角度(即ち切り欠き角度)は、筒体21の横方向の長さとも関係するが、斜め上方から降る雪や雨が容易に筒体21の内部に入り込まない適当な角度(例えば45°前後)とすることが望ましい。
【0023】
さらに、温度検知部11の筒体21は、前述のとおり、外筒211および内筒214下底部において雨水等を地上に落下させるための複数の小径の貫通孔が穿設されているので、内筒214の底面部に浸入した雨水や、雪の融水は、放射温度計112まで達することなく、地上に落下するので、放射温度計112が、外筒211の内部にまで浸入した雨や雪等の外乱の影響を受けて測定値に誤差を生じることを防止することができる。
図5は、図1の温度検知部11の正面構造を模式的に示す正面図である。
同図に示すように、温度検知部11を収納する本体部としてのケース111の側面には、放熱手段として、熱交換機311と換気のためのフード312とを備えることが可能であり、ケース111の内部に籠った熱を、フード312と熱交換機311とを介して外部に逃がすことができる。また、ケース111の底部を除く、5面、即ち、上面、正面、背面、右側面および左側面には、ケース111と所定の空隙を存して、熱遮蔽版113が取り付けねじまたは溶接等の手段によって取り付けられている。これら複数の熱遮蔽板113により、ケース111が日光等の直射を受けて温度上昇することが抑止され、ひいては床下機器から入射させる放射熱の計測に極力影響を受けないようにしている。
【0024】
以下、本発明に係る車両の床下機器温度検知装置を実施した結果を、一実施形態として説明する。
この実施形態においては、図1〜5に示す車両の床下機器温度検知装置の標準的な構成について、筒体21における太陽光の照射による温度変化を測定した。
図6は、図3に示す本実施形態に係る車両の床下機器温度検知装置の温度検知部11の筒体を二重筒構造とした場合における温度の測定位置を示す説明図であり、図7は、比較のために示す筒体を一重筒構造とした場合における温度の測定位置を示す説明図である。
図7で示した一重筒構造の筒対21の温度の測定位置には、当該位置を示す符号としてアルファベットの小文字を付し、図6に示す二重筒構造の筒体21の温度の測定位置の内、前記図7に示す測定位置に対応する位置については、図6に示す符号と同じ符号(即ちアルファベットの小文字)を付し、前記図7に示す測定位置に対応してしいない位置については新たにアルファベットの大文字を付して示している。
【0025】
図6に示すように、筒体21の温度の測定位置として、筒体21(二重筒)において、外筒211の上部外面である外面aと、二重筒の内筒214の上部内面である内周面Bと、内筒214の中央付近である内部空間Cと、外筒211の下部外面である外面eと、二重筒の内筒214の下部内面である内周面Dと、を選んだ。
これに対し、比較のために図7で示した、一重筒構造の温度の測定位置は、筒体21(一重筒)において、外筒211の上部外面である外面aと、外筒211の上部内面である内周面bと、外筒211の内部中央付近である内部空間cと、外筒211の下部外面である外面eと、外筒211の下部内面である内周面dと、を選んだ。
図8は、上記の温度測定点における測定温度を経過時間の時系列で示したグラフ図である。
同図において、グラフ表示に使用した線種は前記の各温度測定点毎に異なるものを使用すると共に、前記各線種のサンプル表示に対して前記温度測定点の符号を付記することにより、前記の各温度測定点に対応するグラフを示している。
【0026】
図8に示すグラフ図からは、
(1) 一重筒の内部空間cと二重筒の内部空間Cとの温度差は、最大で4℃であり、内部空間の温度のバラツキは、二重筒(図6に示す実施形態)の方が少なく、安定して計測を行うことができる。
(2) 一重筒の内周面bと二重筒の内周面Bとの温度差は、最大で12.8℃であり、二重筒の方が、内周面の温度のバラツキは少ない。
(3) 一重筒の場合、外面aと内周面bとの温度差が1℃であるのに対し、二重筒の場合、外面aと内周面Bとの温度差は最大で12.7℃であり、二重筒の方が断熱効果がはるかに大きい。
(4) 一重筒の上部内周面bと下部内周面dとの温度差は、14.3℃であるのに対し、二重筒の上部内周面Bと下部内周面Dとの温度差は、3.2℃であり、二重筒の方が温度差が小さく筒内部の温度が安定している。
以上のことから、結論として、二重筒の方が筒内温度の上昇が小さく且つ温度のバラツキが少ないので、外乱に影響されにくく、安定して計測を行えることが理解される。
【0027】
なお、上述の実施の形態では、筒体21をケース111に対し、水平方向に伸びる直円筒体のものを例示したが、先端に行くにつれて拡がる、メガホン型あるいはラッパ型のような筒体とすることができる。このように構成した場合、底部に小穴を設けなくても、筒内部に一旦浸入した雨水等が、傾斜面に沿って落下させることができる。また、筒体21の形状としては、内筒に限らず、例えば、四角筒、五角筒等の角筒であってもよい。
また、上述の実施の形態においては、軌道車両の床下機器温度検知装置を示したが、軌道車両に限らず、新交通システム、ガイドウェイ型自動車、モノレールなどのように、既定の走行路上を走行(移動)する車両にはすべて本発明が適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
11(11A,11B) 温度検知部
21 筒体
111 ケース(本体部)
111A 開口部
112 放射温度計
113 熱遮蔽版
211 外筒
212 雪除け部材
213 切り欠き部
214 内筒
311 熱交換機
312 フード
RTA、RTB レール
RT 線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する既定走行路から側方に所定の間隔を隔てて配置され、前記車両の床下に配設された機器の放射熱を検知する放射温度計を備えた車両の床下機器温度検知装置において、
前記放射温度計を収納する本体部と、
前記本体部の開口部に取り付けられ、前記放射温度計に前記機器から放射され且つ伝播される放射熱を入射させるための、内側の筒と外側の筒との間隙に空気層を挟んだ二重構造の筒から成る筒体と、
を備えたことを特徴とする車両の床下機器温度検知装置。
【請求項2】
前記二重構造の筒の、外側の筒の先端上部に、雪除け部材を取り付けたことを特徴とする請求項1記載の車両の床下機器温度検知装置。
【請求項3】
前記二重構造の筒の先端下部に、斜め上方から降下する雪および/または雨滴を前記筒体内に浸入しにくくするための切り欠き部を形成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両の床下機器温度検知装置。
【請求項4】
前記二重構造の筒の下部面に、液体を地上に落下させるための複数個の貫通孔を形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両の床下機器温度検知装置。
【請求項5】
前記雪除け部材は、帽子の鍔状を呈し、前記外側の筒の先端上部において鉛直方向または鉛直方向に対し所定の角度範囲内で前傾方向または後傾方向に向けて設置されることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の車両の床下機器温度検知装置。
【請求項6】
前記二重構造の筒の少なくとも下部内面に傾斜を持たせて、前記筒の内部に吹き込んだ前記水分を前記筒基端側から先端側に向かって流して地上に落下させるように構成してなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両の床下機器温度検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−169599(P2010−169599A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13707(P2009−13707)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000142067)株式会社共和電業 (52)
【Fターム(参考)】