説明

車両の燃料タンク配設構造

【課題】全高の低いコンパクトな車両でも、多人数乗車と、大型の燃料タンクの配設とを両立可能な車両の燃料タンク配設構造を提供する。
【解決手段】フロアパネル3における前席シート21後方のトンネル部3dの車幅方向一方側の第1フロア部3c1を他方側の第2フロア部3c2よりも低くする。かつ、第2フロア部3c2の上方に後席シート22を配設すると共に、第1フロア部3c1の上方に燃料タンク30を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における燃料タンクの配設構造に関し、車両の車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の車室のフロアパネルには、一般に、車幅方向中央において上方へ膨出し、車体前後方向に延びるトンネル部が形成されると共に、該フロアパネルにおけるトンネル部の左右には、前席シートや後席シートが配設され、例えば前後に2名ずつ合計4名が着座可能に構成される。
【0003】
また、車両にはエンジン駆動用の燃料を貯蔵する燃料タンクが設けられるが、この燃料タンクの配設構造として、特許文献1や特許文献2には、車室のフロアパネルにおける後席シートが配設される部分の下方や、後席シート後方のリヤフロアの下方に、燃料タンクを配設した構造が開示されている。また、前記特許文献2には、後席シート後方のリヤフロアの上方に燃料タンクを配設した構造も開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−211169号公報
【特許文献2】特開平5−627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、デザイン上、車体の全高を低くして、全体的にコンパクトにしたい場合があるが、このような車両においては、フロアパネルの高さが低くなると共に、リヤフロア上方の空間が少なくなり、その結果、十分な容量の燃料タンクを設けられない場合が生じ得る。そこで、例えば後席シートを廃止して前席シートのみとし、後席シートが配設されていた空間を利用して燃料タンクを配設することが考えられるが、この場合、乗車定員が例えば4名から2名に半減し、少人数しか乗車できなくなる。
【0006】
そこで、本発明は、例えば前述のような全高の低いコンパクトな車両でも、多人数乗車と、大型の燃料タンクの配設とを両立可能な車両の燃料タンク配設構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0008】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、車室の前部においてフロアパネル上に前席シートが配設されていると共に、該フロアパネルに車幅方向中央において上方へ膨出し、車体前後方向に延びるトンネル部が形成された車両の燃料タンク配設構造であって、前記フロアパネルにおける前記前席シート後方のトンネル部の車幅方向一方側の第1フロア部が他方側の第2フロア部よりも低くされており、かつ、前記第2フロア部の上方に後席シートが配設されていると共に、前記第1フロア部の上方に燃料タンクが配設されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両の燃料タンク配設構造において、前記第2フロア部の下方に、補機が配設されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の車両の燃料タンク配設構造において、前記第2フロア部の下方に、第2の燃料タンクが配設されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両の燃料タンク配設構造において、前記第1フロア部の下方に、補機が配設されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1に記載の車両の燃料タンク配設構造において、前記第1、第2フロア部の下方に、これらのフロア部間に渡って車幅方向に延びる第2の燃料タンクが配設されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両の燃料タンク配設構造において、車室空間を、前記第1フロア部の上方に配設された前記燃料タンクが配設される空間とそれ以外の空間とに区画する隔壁が設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両の燃料タンク配設構造において、前記第1フロア部の上方に配設された前記燃料タンクは水素を貯蔵するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について説明する。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明では、車室の前部においてフロアパネル上に前席シートが配設されていると共に、該フロアパネルに車幅方向中央において上方へ膨出し、車体前後方向に延びるトンネル部が形成されているものにおいて、前記フロアパネルにおける前席シート後方のトンネル部の車幅方向一方側の第1フロア部の上方に燃料タンクを配設し、車幅方向他方側の第2フロア部の上方に後席シートを配設したものである。これによれば、全高が低いコンパクトな車両であっても、車室後部におけるトンネル部の車幅方向一方側のスペースを利用して十分な容量の燃料タンクを配設することができる。また、後席シートも設けられているから、多人数乗車を実現することができる。すなわち、多人数乗車と大型の燃料タンクの配設とを両立することができる。
【0017】
また、前記第1フロア部を第2フロア部よりも低くしたから、第1フロア部の上方の車室空間の高さが第2フロア部の上方の車室空間の高さよりも大きくなる。したがって、第1フロア部の上方に配設される燃料タンクを、該第1フロア部を低くしない場合と比べ、一層大型化することができる。
【0018】
ところで、燃料タンクをフロアパネルの上方に配設したことにより、第1フロア部の下方や第2フロア部の下方に、高さは低いが、空間が生じることとなる。
【0019】
そこで、請求項2に記載の発明においては、前記第2フロア部の下方の空間を有効利用して、車両用の補機を配設し、請求項3に記載の発明においては、前記第2フロア部の下方の空間を有効利用して、第2の燃料タンクを配設し、請求項4に記載の発明においては、前記第1フロア部の下方の空間を有効利用して、第2車両用補機を配設するようにしたものである。ここで、請求項3における第2の燃料タンクは、第1フロア部上方の燃料タンクと同種の燃料を貯蔵するもの、あるいは他種の燃料を貯蔵するもののいずれとして利用してもよく、同種の燃料のときには、燃料の貯蔵量を増大させることができる。また、他種の燃料の場合には、2種類の燃料を利用可能なハイブリッド式エンジン等に対応することが可能となる。
【0020】
また、請求項5に記載の発明においては、前記第1、第2フロア部の下方の空間を有効利用して、これらのフロア部間に渡って車幅方向に延びる第2の燃料タンクを配設するようにしたものである。これによれば、一方のフロア部の下方の空間のみを利用する場合よりも大容量の燃料を貯蔵することができる。なお、この場合においても、第1フロア部上方の燃料タンクと同種の燃料を貯蔵するもの、あるいは他種の燃料を貯蔵するもののいずれとして利用してもよい。
【0021】
また、請求項6に記載の発明によれば、車室空間を、前記第1フロア部の上方に配設された前記燃料タンクが配設される空間とそれ以外の空間とに区画する隔壁が設けられているから、フロアパネルの上方に燃料タンクを配設した場合でも、前記それ以外の空間の安全性を良好に確保することができる。
【0022】
また、請求項7に記載の発明によれば、燃料タンクに水素を貯蔵する場合に、請求項1〜6の効果が得られることとなる。そして、請求項3または請求項5を受けている場合には、フロアパネル下方の燃料タンクに例えばガソリンや軽油等、他の種類の燃料を貯蔵すれば、水素と他種燃料とを利用可能なハイブリッド式エンジンに対応することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る車両の燃料タンク配設構造について説明する。
【0024】
まず、図1により、本実施の形態に係る車両1の車体構造について簡単に説明すると、本実施の形態に係る車両1の車体前部にはエンジンEGが配設されるエンジンルームEが形成され、その後方にはダッシュパネル2を挟んで車室Rが設けられている。ダッシュパネル2の下端部には、車室Rの床面を構成するフロアパネル3の前端部が接合されている。
【0025】
フロアパネル3の後部には、前部のフロントフロア部3aよりも段上げされることによりキックアップフロア部3bが形成され、その後方には、該キックアップフロア部3bよりもさらに段上げされることにより荷物等を載置可能なリヤフロア部3cが形成されている。
【0026】
また、図2、図3にも示すように、フロアパネル3の車幅方向中央には、上方に膨出し、車体前後方向でダッシュパネル2とリヤフロア部3cの前端との間において車体前後方向に延びるトンネル部3dが形成されている。トンネル部3dの上面には、車体前後方向に延びるトンネルレインフォースメント4が接合されている。ここで、トンネル部3dの内部には、図1に示すように、エンジンEGの後部に連結された変速機TR、該変速機TRから後方に延び、後輪WRに差動装置DFを介して動力を伝達するプロペラシャフトPSが配設されていると共に、図3に示すように、変速機TRのケースと差動装置DFのケースとを連結するパワープラントフレームPF、エンジンEGの排気管EP(マフラー等を含む)が配設されている。
【0027】
また、図2、図3に示すように、フロアパネル3におけるリヤフロア部3cよりも前方部分の左右両側端部に沿って車体前後方向に延びるサイドシル5,5が接合され(サイドシル5,5は、サイドシルインナやサイドシルアウタにより図3に示すように閉断面体として構成されているが、図2においてはサイドシルインナのみを図示している)、該サイドシル5,5の後部側に連続するようにリヤサイドフレーム6,6が後方に延びている。
【0028】
また、図1、図2に示すように、サイドシル5とトンネル部3dとの間、及び左右のリヤサイドフレーム6,6間には、車体前側から順に、第1クロスメンバ7,7、第2クロスメンバ8,8、第3クロスメンバ9、第4クロスメンバ10が設けられている。第2クロスメンバ8,8は前記キックアップフロア部3bの角部に配設され、第3クロスメンバ9は、前記リヤフロア部3cの角部に配設されている。
【0029】
また、フロアパネル3のフロントフロア部3aの下面には、サイドシル5とトンネル部8との間の車幅方向略中間位置において、車体前後方向に延びるフロアフレーム11が接合されている。なお、フロアフレーム11の前端には、エンジンルームE内の左右両サイドを車体前後方向に延びるフロントサイドフレーム12が連続するように設けられている。
【0030】
そして、フロアパネル3のフロントフロア部3aの上方には、前席シート21,21が配設されている。なお、本実施の形態に係る車両1においては、トンネル部3dの左側の前席シート21(21L)は運転席用、トンネル部3dの右側の前席シート21(21R)は助手席用とされている。
【0031】
ここで、本実施の形態に係る車両1においては、デザイン上、車体の全高を低くし、かつ全体的にコンパクトにするために、フロアパネル2の高さ位置が相対的に低くされると共に、車体後部がスラント形状とされて、リヤフロア部3c上方の車室スペースが少なくなっている。そして、その結果、解決課題で説明したような課題が存在している。
【0032】
そこで、本実施の形態においては、図3に示すように、キックアップフロア部3bの上面の高さをトンネル部3dの左右で異ならせている。より詳しく説明すると、図4、図5にも示すように、助手席用の前席シート21R後方のキックアップフロア部3b(以後、第1キックアップフロア部3b1(特許請求の範囲の第1フロア部に相当する)という)は、前後方向で第2クロスメンバ8とリヤフロア部3cとの間、車幅方向でトンネル部3dとサイドシル5との間において下方へ凹まされており、これにより、運転席用の前席シート21L後方のキックアップフロア部3b(以後、第2キックアップフロア部3b2(特許請求の範囲の第2フロア部に相当する)という)よりも低くされている。したがって、第1キックアップフロア部3b1の上方空間は、第2キックアップフロア部3b2の上方空間よりも大きくなっている。
【0033】
そして、第2キックアップフロア部3b2の上方には、後席シート22が配設され、第1キックアップフロア部3b1の上方には、第1燃料タンク30が配設されている。
【0034】
後席シート22は、図3、図4に示すように、第2キックアップフロア部3b2の上面に取り付けられたシートクッション22Aと、シートバック22Bとで構成されている。シートバック22Bは、リクライニングヒンジピン22B1とリクライニングヒンジブラケット22B2等からなるリクライニング機構を備え、リクライニングヒンジピン22B1を支点として、図4の矢印α方向(前後方向)にリクライニング可能に、かつほぼ水平な状態まで前倒可能に構成されている。そして、シートバック22Bを前倒状態とさせたときには、シートバック22Bの背面と後方のリヤフロア部3cとで拡大荷物載置領域が形成されるようになっている。つまり、補助的な使用が想定される後席シート22のスペースを、荷物載置領域として有効に利用することができるようになっている。
【0035】
ここで、本車両のエンジンEGは、水素及びガソリンの両方を燃料として利用可能なハイブリッドエンジンであり、前記第1燃料タンク30は、水素を貯蔵するためのものであり、ガソリンを貯蔵するための第2燃料タンク60は、キックアップフロア部3b下方の空間を利用して配設されている。以下、これらのタンク30,60の構造等について図3〜図5により順次説明する。
【0036】
まず、キックアップフロア部3b上方の第1燃料タンク30について説明すると、図2、図3、図5に示すように、略球形をしており、例えば100L程度の容量を確保可能なようになっている。該燃料タンク30の外面には、該タンク30の内部と外部との間で燃料の流通を可能とさせるバルブ機構31が突出させて設けられている。このバルブ機構31は、タンク30内部への燃料供給のためのものであり、燃料供給のためにバルブ機構31に外部ホースを接続すると、接続を検出して電気制御弁が開き、該タンク30の内部と外部との間で燃料(液体及び気体の両方を含む)の流通を可能とさせるように構成されている。なお、本発明は、電気制御弁でなく、機械制御弁の場合にも適用可能である。また、タンク30の内部と外部との間で燃料の流通を可能とさせることにより圧力調整を行う圧力調整用バルブ機構等、他の構造のバルブ機構にも適用可能である。
【0037】
また、バルブ機構31は、前記第1燃料タンク30の外面における第1キックアップフロア部3b1に近い方の車体側部15に対向しない部分に設けられている。詳しくは、第1燃料タンク30の下部で、かつサイドシル5及びリヤサイドフレーム6とほぼ同じ高さ位置に、特にサイドシル5に対してはその上下高さ範囲内に収まるように配設されている。
【0038】
第1燃料タンク30は、第1キックアップフロア部3b1の上面に取り付けられた支持部材37上に載置され、第1、第2バンド部材32,32,33,33により車体に固定されている。詳しくは、第1バンド部材32,32は第1燃料タンク30を車体前後方向に巻回し、第2バンド部材33,33は、第1燃料タンク30を車幅方向に巻回している。なお、タンク30の表面には、これらのバンド部材32,32,33,33が嵌り、巻回方向と直行する方向にずれるのを防止する凹溝30a…30aが形成されている。
【0039】
第1バンド部材32,32は、前端部が第1キックアップフロア部3b1の前端部に、後端部がリヤフロア部3cの前端部に、それぞれ締結部材34,34により固定され、第2バンド部材33,33は、車幅方向内端部がトンネルレインフォースメント4に、車幅方向外端部がサイドシル5に、それぞれ締結部材35,35により固定されている。
【0040】
また、第1バンド部材32,32は、金属材により形成されていると共に、冂状に屈曲する変位許容部32a,32aが設けられており、前後の端部間に張力が作用すると、前記変位許容部32a,32aの屈曲が少なくなって、延び変形可能なように構成されている。すなわち、第1燃料タンク30への衝撃荷重の入力時に延び変形し、該燃料タンク30の所定量の変位が許容されるようになっている。なお、第2バンド部材33,33にもそれぞれ、同様の変位許容部33a,33aが設けられている。ここで、所定量は、燃料タンク30の固定が解除されない程度の量である。
【0041】
また、車両1には、図2、図3、図5に示すように、車室R空間を、前記第1燃料タンク30が配設される空間Rtとそれ以外の空間Rpとに区画する隔壁50が設けられている。この隔壁50は、第1燃料タンク30を、側方、前後、及び上方から覆うように、側壁部50aと、前壁部50bと、後壁部50cと、上壁部50dとを有し、側壁部50aの下端部がトンネルレインフォースメント4に、前壁部50bの下端部が第1キックアップフロア部3b1の前壁部3b1kに、後壁部50cの下端部がリヤフロア部3cの前端部近傍に、上壁部50cの車幅方向外端部がフロントドア開口1a後方の車体側部15の内面(インナパネル16)に、それぞれ締結具51…51により固定されている。なお、上壁部50dの高さは、運転席から、図示しない車体後面部の開口や車体側部15の開口1bを介して後方視界を確保可能なように設定されている。
【0042】
次に、キックアップフロア部3b下方の第2燃料タンク60について説明すると、該第2燃料タンク60は、第1、第2キックアップフロア部3b1,3b2の下方に設けられ、これらのフロア部3b1,3b2間に渡って車幅方向に延びる形状をしている。詳しくは、図6にも示すように、第1キックアップフロア部3b1の下方に配置される第1タンク部60aと、第2キックアップフロア部3b2の下方に配置され、高さ方向で第1タンク部60aよりも高く、かつ容量が大きい第2タンク部60bと、これらのタンク部60a,60bの内側上部間を接続する略門形状の連結タンク部60cとを有し、非対称鞍型とされている。ここで、第1、第2タンク60a,60bの後部には、図4〜図6に示すように第1キックアップフロア部3b1の後壁部3b1rの背面に沿って立上がる隆起部60d,60eが一体形成されており、これらの隆起部60d,60eによって、第2燃料タンク60のタンク容量の拡大が図られている。
【0043】
そして、第2燃料タンク60は、図3〜図5に示すように、第1タンク部60a及び第2タンク部60bにおいて、バンド部材61,62によりフロアパネル3に支持されている。バンド部材61,62は、前端部がフロントフロア部3aの後端部に、後端部が第3クロスメンバ9に、それぞれ締結部材63,63により固定されている。ここで、第1タンク部60aと第2タンク部60b部との間には、前述のように排気管EPや、プロペラシャフトPSや、パワープラントフレームPF等が配設されているので、第1タンク部60aと第2タンク部60bとを別部材として構成することも可能であるが、本実施の形態においては、第1タンク部60aと第2タンク部60bとを連結タンク部60cにより連結して一体化したので、これらを2本のバンド部材61,62だけで車体に取り付けることができる。すなわち、第1タンク部60aと第2タンク部60bとを別部材として構成した場合、安定して取り付けるためには、各タンクごとに2本ずつのバンド部材が必要となるが、本実施の形態によれば、合計で2本のバンド部材61,62だけでよいので、車体への支持構造等の簡略化を図ることができると共に、組付け性の向上を図ることができる。
【0044】
次に第1の実施の形態に係る車両の燃料タンク配設構造の作用、効果を説明する。
【0045】
まず、本実施の形態においては、車室Rの前部においてフロアパネル3上に前席シート21,21が配設されていると共に、該フロアパネル3に車幅方向中央において上方へ膨出し、車体前後方向に延びるトンネル部3dが形成されているものにおいて、前記フロアパネル3における前席シート21,21後方のトンネル部3dの車幅方向一方側の第1キックアップフロア部3b1の上方に燃料タンク30を配設したものである。これによれば、全高が低いコンパクトな車両であっても、車室後部におけるトンネル部3dの車幅方向一方側のスペースを利用して十分な容量の燃料タンク30を配設することができる。また、トンネル部3dを挟んで車幅方向他方側の第2キックアップフロア部3b2の上方には、後席シート30を配設したものである。これによれば、多人数乗車を実現することができる。すなわち、本実施の形態によれば、多人数乗車と大型の燃料タンクの配設とを両立することができる。
【0046】
ここで、このような構造を採用した背景には、コンパクトな車体の車両(例えばスポーツタイプの車両)では、実際上1名または2名程度で乗車する機会が多く、2名分の前席シート21,21に加え、1名分の後席シート22を予備として設けておけば実用上ほとんど問題がないという思想が存在している。
【0047】
また、本実施の形態においては、車幅方向一方側の第1キックアップフロア部3b1を、車幅方向他方側の第2キックアップフロア部3b2よりも低くしたから、第1キックアップフロア部3b1の上方の車室空間の高さが第2キックアップフロア部3b2の上方の車室空間の高さよりも大きくなる。したがって、第1キックアップフロア部3b1の上方に配設される燃料タンク30を、該第1キックアップフロア部3b1を低くしない場合と比べ、大型化することができる。
【0048】
ところで、第1燃料タンク30をフロアパネル2の上方に配設したことにより、第1キックアップフロア部3b1及び第2キックアップフロア部3b2の下方に、高さは低いが、空間が生じることとなる。
【0049】
そこで、第1キックアップフロア部3b1及び第2キックアップフロア部3b2の下方の空間を有効利用して、これらのフロア部3b1,3b2間に渡って車幅方向に延びる第2燃料タンク60を配設するようにしたものである。これによれば、一方のキックアップフロア部の下方の空間のみを利用する場合よりも大容量の燃料を貯蔵することができる。また、本実施の形態においては、第2燃料タンク60には、第1燃料タンク30とは他種の燃料を貯蔵するようにしており、2種類の燃料を利用可能なハイブリッド式エンジンに対応することができる。なお、燃料がガソリンや軽油である場合には、第1燃料タンク、第2燃料タンクの両方を利用することも可能であり、この場合、燃料の貯蔵量を増大させることができる。
【0050】
また、車室Rの空間を、前記第1キックアップフロア部3b1の上方に配設された第1燃料タンク30が配設される空間Rtとそれ以外の空間Rpとに区画する隔壁50が設けられているから、フロアパネル2の上方に第1燃料タンク30を配設した場合でも、前記それ以外の空間Rpの安全性を良好に確保することができる。
【0051】
また、バルブ機構31は、第1燃料タンク30の外面における第1キックアップフロア部3b1に近い方の車体側部15に対向しない部分に設けられているから、該車体側部15に他車両の側突等があって車体側部15が車室側へ変位した場合でも、バルブ機構31への当接が回避される。したがって、バルブ機構31の破損等が抑制されることとなる。
【0052】
また、前記バルブ機構31は、第1燃料タンク30の下部にフロアパネル2に対向して設けられているから、車体の第1キックアップフロア部3b1側の車体側面部15に側面衝突等があった場合でも、フロアパネル2自体の車幅方向剛性により、第1燃料タンク30におけるバルブ機構31が設けられた下部側が保護される。したがって、バルブ機構31の破損等が良好に抑制されることとなる。
【0053】
また、フロアパネル2の前記第1キックアップフロア部3b1側の側部に車体前後方向に延びる閉断面体のサイドシル5(フレーム)が設けられているから、該フロアパネル2の車体前後方向に対する剛性が向上する。そして、前記バルブ機構31は、サイドシル5とほぼ同じ高さ位置に配設されているから、車体の第1キックアップフロア部3b1側に側面衝突等があった場合に、第1燃料タンク30におけるバルブ機構31が設けられた下部側がより良好に保護されて、バルブ機構31の破損等が一層良好に抑制されることとなる。
【0054】
また、燃料タンク30は、該タンク30の外面に巻回され、端部が車体に固定されたバンド部材32,33により車体に固定されているから、該燃料タンク30の第1キックアップフロア部3b1に対する微小な変位が許容される。したがって、急減速、急加速時や他車両との衝突時に、燃料タンク30に局部的に大きな変形応力が生じるのが抑制され、該燃料タンク30が破損するのが防止されることとなる。また、急減速、急加速時や他車両との衝突時に、燃料タンク30が大きく振動、変位するのが抑制されることとなる。このように本実施の形態によれば、燃料タンク30を、第1キックアップフロア部3b1の上方に、急減速、急加速時や他車両との衝突時における安全性を確保して配設することができる。
【0055】
また、バンド部材32,33は複数設けられ、燃料タンク30を車体前後方向及び車幅方向に巻回しているから、急減速、急加速時や他車両との衝突時における燃料タンク30の振動、変位を良好に抑制することができる。
【0056】
ところで、他車両との衝突時、特に高速走行時における衝突時には、燃料タンク30に生じる慣性力(衝突時に生じる慣性力は、衝突により燃料タンク30に間接的に入力される衝撃荷重ということができる)が大きいので、バンド部材32,33の端部と車体(トンネルレインフォースメント35,サイドシル35等)との締結部材34,35による固定部に大きな引っ張り応力が発生し、この応力により前記固定部の破損が生じる虞がある。
【0057】
しかし、本実施の形態によれば、バンド部材32,33に、燃料タンク30への衝撃荷重の入力時に延び変形し、図7に示すように、該燃料タンク30の所定量の変位を許容する変位許容部32a,33aを設けたものであり、これによれば、衝突時に燃料タンク30に生じた慣性が大きいときには、変位許容部32a,33aが延び変形し、これによりバンド部材32,33の端部と車体との固定部に大きな引っ張り応力が発生するのが防止されることとなる。したがって、バンド部材32,33の端部と車体との固定部の破損が防止されることとなる。 なお、このように燃料タンク30が変位した場合でも、バンド部材32,32,33,33は凹溝30a…30aに嵌っているので、脱落せず、燃料タンク30が確実に保持されることとなる。
【0058】
また、変位許容部32a,33aは、各バンド部材32,33に設けられているから、各バンド部材32,33において、バンド部材32,33の端部と車体との固定部の破損の防止効果が得られることとなる。
【0059】
次に、他の実施の形態について説明する。
【0060】
まず、第2の実施の形態として、第1燃料タンクのバルブ機構の配設位置を変更したものについて説明する。なお、符号は、第1の実施の形態と同一のものを用いる。
【0061】
すなわち、図8に示すように、この実施の形態においては、バルブ機構31は、第1燃料タンク30におけるトンネル部3d側の側部に設けられている。より詳しくは、バルブ機構31は、トンネル部3d及びトンネルレインフォースメント4の上方に位置するように該タンク30に突設されている。
【0062】
この第2の実施の形態によれば、バルブ機構31は、第1キックアップフロア部3b1側の車体側部15に側面衝突等があった場合に該車体側部15から最も遠い位置に設けられていることとなるので、衝突による影響が極力抑制され、またトンネル部3dの上方に位置していることにより、バルブ機構31がトンネル部3dと当接するのが防止され、バルブ機構31の破損等が良好に抑制されることとなる。
【0063】
なお、第1、第2の実施の形態は、バルブ機構31の配設位置の一例を示しており、本発明は、これら以外にも、タンク30の外面における第1キックアップフロア部3b1に近い方の車体側部15に対向しない部分に設けられているものを広く含む。ここで、この対向しない部分について一例として説明すると、図9(a)(車体前後方向からの側面図)に示すように、タンク30′が直方体の場合には、車体側部15のインナパネル16に平行(またはほぼ平行)な面30a′を除く面30b′(ハッチングを入れている面)である。また、図9(b)(車体前後方向からの側面図)に示すように、タンク30″が球形の場合には、タンク30″の外面における車体側部15のインナパネル16側の外面のうち、該タンク30″の中心を通る水平線Lhを挟んで上下に角度α以内の部分30b″(ハッチングを入れている)である。なお、このαは、想定する衝撃荷重の程度やタンク30″の大きさ等を考慮して、側突時にバルブ31とインナパネル16とが当接することがない値に設定すればよい。なお、図9(a)、(b)は車体前後方向からの側面図として説明したが、平面図ととらえて、前記説明を適用可能である。この場合、図9(b)の水平線Lhは車体前後方向線と考えればよい。
【0064】
次に、第3の実施の形態について説明する。
【0065】
すなわち、図10に示すように、この実施の形態においては、第2キックアップフロア部3b2の下方には、第2の燃料タンク81が配設され、第1キックアップフロア部3b1の下方には、車両用の補機82が配設されている。ここで、この補機82は、例えば、油圧アクチュエータ、バッテリ、リヤサスペンションコントロールユニット等である。
【0066】
第3の実施の形態によれば、前記第2キックアップフロア部3b2の下方や、第1キックアップフロア部3b1の下方の空間を有効利用して、第2の燃料タンク81や、補機82を配設することができる。なお、第1キックアップフロア部3b1の下方、及び第2キックアップフロア部3b2の下方の空間の利用方法は、これに限らず、第1キックアップフロア部3b1の下方に第2の燃料タンクを、第2キックアップフロア部3b2の下方に補機を、あるいは、これらの両フロア部3b1,3b2の下方にそれぞれ独立した第2、第3の燃料タンクを、または第1、第2の補機を配設するようにしてもよい。また、第1キックアップフロア部3b1の下方に、燃料タンクと補機との両方を配設してもよい。第2キックアップフロア部3b2において同じ。なお、補機として、サイレイサや、排気管を配設することも可能である。
【0067】
なお、本実施の形態においては、フロアパネル3上方の第1燃料タンク30は、水素を貯蔵するものであるが、ガソリンや軽油等の燃料を貯蔵するものとして利用することも可能である。
【0068】
また、本実施の形態においては、エンジンはハイブリッドエンジンであるが、本発明に係る燃料タンクの配設構造は、水素専用、ガソリン専用のエンジンにも適用可能である。そして、この場合においても、第1キックアップフロア部3b1、及び第2キックアップフロア部3b2の下方に、同種の燃料を貯蔵する第2のタンクを設けてもよく、こうすることにより、燃料の貯蔵量を増大させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、全高の低いコンパクトな車両でも、多人数乗車と、大型の燃料タンクの配設とを両立可能な車両の燃料タンク配設構造を提供することができ、自動車産業に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の燃料タンク配設構造が適用された車両の側面図である。
【図2】同車両の平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】図2のC−C断面図である。
【図6】第2燃料タンクの単体斜視図である。
【図7】バンド部材による作用、効果の説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る車両の燃料タンク配設構造についての図3相当の断面図である。
【図9】第1燃料タンクの外面における車体の側部と対向しない部分の説明図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る車両の燃料タンク配設構造についての図3相当の断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 車両
3 フロアパネル
3b1 第1キックアップフロア部(第1フロア部)
3b2 第2キックアップフロア部(第2フロア部)
3d トンネル部
5 サイドシル
21 前席シート
22 後席シート
31 バルブ機構
32,33 バンド部材
32a,33a 変位許容部
30 第1燃料タンク(燃料タンク)
50 隔壁
60 第2燃料タンク(第2の燃料タンク)
R 車室
Rt 燃料タンクが配設される空間
Rp それ以外の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前部においてフロアパネル上に前席シートが配設されていると共に、該フロアパネルに車幅方向中央において上方へ膨出し、車体前後方向に延びるトンネル部が形成された車両の燃料タンク配設構造であって、
前記フロアパネルにおける前記前席シート後方のトンネル部の車幅方向一方側の第1フロア部が他方側の第2フロア部よりも低くされており、
かつ、前記第2フロア部の上方に後席シートが配設されていると共に、
前記第1フロア部の上方に燃料タンクが配設されていることを特徴とする車両の燃料タンク配設構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の車両の燃料タンク配設構造において、
前記第2フロア部の下方に、補機が配設されていることを特徴とする車両の燃料タンク配設構造。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の車両の燃料タンク配設構造において、
前記第2フロア部の下方に、第2の燃料タンクが配設されていることを特徴とする車両の燃料タンク配設構造。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両の燃料タンク配設構造において、
前記第1フロア部の下方に、補機が配設されていることを特徴とする車両の燃料タンク配設構造。
【請求項5】
前記請求項1に記載の車両の燃料タンク配設構造において、
前記第1、第2フロア部の下方に、これらのフロア部間に渡って車幅方向に延びる第2の燃料タンクが配設されていることを特徴とする車両の燃料タンク配設構造。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両の燃料タンク配設構造において、
車室空間を、前記第1フロア部の上方に配設された前記燃料タンクが配設される空間とそれ以外の空間とに区画する隔壁が設けられていることを特徴とする車両の燃料タンク配設構造。
【請求項7】
前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両の燃料タンク配設構造において、
前記第1フロア部の上方に配設された前記燃料タンクは水素を貯蔵するものであることを特徴とする車両の燃料タンク配設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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