説明

車両の自動変速装置

【課題】ロックアップを出来るだけ低車速まで維持しつつ、エンストを防止でき、かつロックアップクラッチを開放する際のショックを低減することができる車両の自動変速装置を提供する。
【解決手段】油圧制御装置6は、前記減速走行時に、車速V検出時点での減速度αから求められるロックアップオフ車速以下となるロックアップオフ車速到達予想時より所定時間だけ前の早出しロックアップオフ車速Vsを演算し、検出車速Vが早出しロックアップオフ車速Vsに達したとき、ロックアップオフ制御を開始し、該ロックアップオフ制御は、前記ロックアップオン圧Ponを、前記早出しロックアップオフ車速Vsに応じて設定された減圧初期圧Psに即座に減圧し、これに続いて少なくとも車速検出時の減速度αに応じて設定された減圧勾配βをもって緩やかに減圧し、検出車速Vが前記ロックアップオフ車速Voに達すると一気にロックアップオフ圧Poffに減圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転を、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して自動変速機に伝達するようにした車両の自動変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータを介してエンジン回転を自動変速機に伝達するようにした自動変速装置では、燃費の改善を図るためにトルクコンバータの入力要素と出力要素とを直結するロックアップクラッチを備えたものが一般的である。定速走行時にはロックアップクラッチをオン(締結)し、アクセル全閉での減速走行時には、エンジン回転数又は車速が所定のロックアップオフ値に低下すると、前記ロックアップクラッチをオフ(解放)するロックアップオフ制御が行われる。
【0003】
しかし前記従来のロックアップオフ制御では、車速がロックアップオフ車速に達すると、ロックアップクラッチへの油圧を急激に低下させているためロックアップクラッチオフ時に大きなショックが発生するという問題があった。
【0004】
そこで、前記ショックを軽減するために、従来、例えば、特許文献1には、減速走行時に、車速が予め設定した第1車速以下になると、ロックアップクラッチへの油圧を、まず第1変化率で、続いて第2変化率で徐々に減圧していくスムースロックアップ制御を行い、車速が第2車速以下になると、前記油圧を一気に解放するロックアップオフ制御を行うものが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、減速走行時において、ロックアップ解除指令後にエンジンから放出されるイナーシャトルクによりロックアップクラッチの解放初期圧を学習し、減速度に応じて初期圧を変化させ、その後スムースロックアップ制御で徐々に解放するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−291250号公報
【特許文献2】特開2005−114069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1では、予め設定された第1車速において、スムースロックアップオフ制御を開始し、第2車速でロックアップオフ圧に解放するように構成されているので、減速度の大きさ如何によってスムースロックアップオフ時間が変動し、燃費の低減効果が減少するという問題がある。
【0008】
また、前記特許文献2では、ロックアップクラッチの開放初期圧を減速度により変更し、実際に前記ロックアップクラッチが解放されるまでの時間のばらつきを低減するものであるが、前記ロックアップクラッチが解放状態となる実車速のばらつきによりエンジンストールを起こしてしまうという懸念がある。
【0009】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、ロックアップを出来るだけ低車速まで維持しつつ、エンストを防止でき、かつロックアップオフ時間のばらつきを低減できるとともに、ロックアップオフ時のショックを低減できる車両の自動変速装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、該トルクコンバータを介してエンジンの回転が伝達される自動変速機と、前記ロックアップクラッチへの油圧を制御する油圧制御弁と、前記油圧制御弁による油圧を、定速走行時には前記ロックアップクラッチが締結されるロックアップオン圧に、エンジンへの燃料カットがなされる減速走行時に検出車速がロックアップオフ車速になると、前記ロックアップクラッチが解放されるロックアップオフ圧に制御する油圧制御装置とを備えた車両の自動変速装置において、前記油圧制御装置は、前記減速走行時に、車速検出時点での減速度により求められるロックアップオフ車速以下となるロックアップオフ車速到達予想時より所定時間だけ前の早出しロックアップオフ車速を演算し、検出車速が早出しロックアップオフ車速に達したとき、ロックアップオフ制御を開始し、該ロックアップオフ制御は、前記ロックアップオン圧を、前記早出しロックアップオフ車速に応じて設定された初期圧に即座に減圧し、これに続いて少なくとも車速検出時の減速度に応じて設定された勾配をもって緩やかに減圧し、検出車速が前記ロックアップオフ車速に達すると一気にロックアップオフ圧に減圧することを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両の自動変速装置において、前記油圧制御装置は、油温が所定値以下ときは、前記車速検出時の減速度に応じて設定された勾配を強めることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、車速検出時点での減速度と早出し時間とにより早出しロックアップオフ車速を演算し、検出車速が早出しロックアップオフ車速に達したとき、ロックアップオフ制御を開始するので、減速度の大きさ如何に関わらずロックアップオフ時間が前記早出し時間で略一定となり、ロックアップオフ時間のばらつきを抑制できる。
【0013】
また、ロックアップオフ制御において、前記ロックアップオン圧を、まず早出しロックアップオフ車速に応じて設定された初期圧に即座に減圧し、これに続いて減速度に応じた勾配をもって緩やかに減圧するスムースロックアップオフ制御を行うので、ロックアップオフ時のショックを低減できる。
【0014】
さらにまた、検出車速が前記ロックアップオフ車速に達すると一気にロックアップオフ圧に減圧するので、ロックアップオフ車速において確実にロックアップを解放できる。そしてこの時点で、エンジンへの燃料供給及び点火を復帰することでエンジンストールを確実に防止できる。
【0015】
請求項2の発明によれば、油温が所定値以下のときは、車速検出時の減速度に応じて設定された減圧の勾配を強めるので、低油温におけるロックアップオフ油圧の遅れを防止でき、エンジンストールを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1による車両の自動変速装置の構成説明図である。
【図2】油圧制御装置のロックアップオフ制御における、ロックアップ解放判定,燃料,ロックアップ過渡状況,車速及び油圧と時間との関係を示すタイムチャートである。
【図3】減圧初期圧と車速との関係を示す特性図である。
【図4】作動油の油温をパラメータとする、油圧勾配と減速度との関係を示す特性図である。
【図5】前記油圧制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1ないし図5は、本発明の実施例1による車両の自動変速装置を説明するための図である。
【0019】
図1に示すように、本実施例1に係る自動変速装置10は、ロックアップクラッチ4を有するトルクコンバータ3と、該トルクコンバータ3を介してエンジン1の回転が伝達される自動変速機2と、前記ロックアップクラッチ4に作動油の差圧(締結油圧Pa−解放油圧Pr)を供給する油圧制御弁5と、該油圧制御弁5からの差圧を制御するソレノイド指示電流値Ioを該油圧制御弁5に出力する油圧制御装置6とを有する。
【0020】
前記自動変速機2は、前進・後退切替機構2aと、1対のプーリと金属ベルトとからなる無段変速機(CVT)2bと、該無段変速機2bからの出力により車輪2dを回転駆動するギヤトレーン2cとを有する。
【0021】
前記トルクコンバータ3は、エンジン1の出力軸1aに接続されたポンプインペラ3aと、無段変速機2bの入力軸2eに接続されたタービンランナ3bを有する。
【0022】
また前記ロックアップクラッチ4は、タービンランナ3bと、前記ポンプインペラ3a側に固定されたトルクコンバータカバー3dとを機械的に係脱するように構成されている。具体的には、ロックアップクラッチ4は、これの、一側に設けられた締結油室4aに供給される締結油圧Pa と、他側に設けられた解放油室4bに供給される解放油圧Prとの差圧(Pa−Pr)によって、オン(締結)又はオフ(解放)となる。
【0023】
前記油圧制御弁5は、ロックアップコントロールバルブ5aと、ソレノイドバルブ5bとで構成されている。前記ロックアップコントロールバルブ5aは、元圧.Poが入力され、前記ソレノイドバルブ5bによるソレノイド圧Psを調整することにより、前記差圧(Pa−Pr)を比例的に制御し、ロックアップクラッチ4を、解放状態から締結状態に、またその逆に締結状態から解放状態に切替え制御する。
【0024】
前記油圧制御装置6は、スロットル開度、車速V、減速度α、作動油の油温t等が入力され、前記油圧制御弁5による差圧(Pa−Pr)を、定速走行時には前記ロックアップクラッチ4が締結されるロックアップオン圧Ponに制御し、ロックアップクラッチ4をオン(締結)することによりトルクコンバータ3のスリップをなくして燃費の改善を図る。
【0025】
そして前記油圧制御装置6は、エンジン1への燃料噴射及び点火が停止される減速走行時には、ロックアップオフ制御を行う。以下、このロックアップオフ制御を、主として、車速,差圧等のタイムチャート(図2)及び制御フローチャート(図5)に沿って説明する。
【0026】
前記油圧制御装置6は、まず、スロットル開度,車速V,減速度αが入力され(ステップS1)、スロットル全閉の減速走行時である場合には、早出しロックアップオフ車速Vsを求める(ステップS2)。
【0027】
前記早出しロックアップオフ車速Vsは、予め設定されたロックアップオフ車速Voに、早出し車速vs(=減速度α×予め設定された早出し時間ts)を加算すること、つまりVs=Vo+vs、により求められる。
【0028】
ここで、本実施例では、前記ロックアップオフ車速Voは、12km/hに設定されている。なお、ロックアップオフ車速Voは、作動油の油温tに応じて、例えば油温が高いほどが高速に設定しても良い。
【0029】
また前記早出し時間tsは、500msに設定されている。なお、この早出し時間tsについては、前記500msに限定するものではなく、適宜設定することも可能である。
【0030】
また、前記早出しロックアップオフ車速Vsの求め方としては、以下の方法も採用可能である。
【0031】
即ち、図2に示すように、前記減速走行時に、車速検出時点での減速度αにより求められるロックアップオフ車速Vo以下となるロックアップオフ車速到達予想時Toより所定の早出し時間tsだけ前の早出しロックアップオフ時Tsの早出しロックアップオフ車速Vsを演算する。より具体的には、前記検出車速V及び減速度αからロックアップオフ車速Voに達するロックアップオフ車速到達予想時Toを演算する。そしてこのロックアップオフ車速到達予想時Toより前記所定の早出し時間tsだけ前の早出しロックアップオフ時Tsを演算し、同時に該早出しロックアップオフ時Tsにおける早出しロックアップオフ車速Vsを演算する。なお、この場合には、前記求めたロックアップオフ時Tsになった時点で後述のスムースロックアップオフ制御を開始することができる。
【0032】
そして、前記油圧制御装置6は、前記減速走行時の検出車速Vが、前記早出しロックアップオフ車速Vs以下となり(ステップS3)、かつロックアップオフ車速Vo以下となっておらず(ステップS4)、またエンジン回転数とタービン回転数の差回転が所定値以上でなく(ステップS5)、ジャダ状態になっておらず(ステップS6)、さらにロックアップオフ制御規定時間以上となっておらず(ステップS7)、さらにまたロックアップオフ圧Poff以下となっていない(ステップS8)場合は、スムースロックアップオフ制御を開始する(ステップS9)。
【0033】
前記ステップS9におけるスムースロックアップオフ制御では、具体的には、前記油圧制御装置6は、図2に示すように、前記油圧制御弁5からの差圧を、前記ロックアップオン圧Pon、から前記早出しロックアップオフ車速Vsに応じて設定された減圧初期圧Psだけ減圧し、これに続いて前記減速度α及び油温tに応じて設定された減圧勾配βでも持って緩やかに減圧する。
【0034】
ここで、前記減圧初期値Psは、図3に示すように、前記早出しロックアップオフ車速Vsが高速ほど高い圧に設定される。
【0035】
また、前記減圧勾配βは、図4に示すように、前記車速検出時の減速度αが大きいほど大きい値(急勾配)設定される。また、減速度が一定の場合、前記作動油の油温tが低いほど油圧の応答速度が低下する傾向がある。そこで本実施例では、油温tが所定温度(例えば80℃)以下の場合は、前記減速度αに応じて設定された減圧勾配βをさらに急勾配側に補正している。
【0036】
そして、前記油圧制御装置6は、図2に示すように、前記差圧を、前記減圧勾配βにより徐々に減圧していき、検出車速Vが前記ロックアップオフ車速Voに達すると、この時点での差圧Po′の大きさ如何に関わらずロックアップオフ圧Poffまで減圧し、ロックアップクラッチ4を完全に解放させる。
【0037】
ここで、前記差圧(Pa−Pr)は、前記ロックアップクラッチ4がロックアップ締結状態及び解放過渡状態にある場合には、プラスの範囲で、つまり締結圧Paが解放圧Prより大きい状態に制御されるが、前記ロックアップオフ時には、マイナスとなるように、つまり解放圧Prが締結圧Paより大きくなるように制御される。これにより前記ロックアップクラッチ4を確実に解放している。
【0038】
また、前記差圧のロックアップオフ圧Poffへの減圧と同時に、前記エンジン1への燃料噴射及び点火が再開され、該エンジン1はアイドリング運転を開始する。
【0039】
また前記ステップS5,S6,S7,S8において、差回転が規定値以上である、ジャダ状態である、ロックアップオフ制御規定時間以上である、ロックアップオフ圧Poff以下である、の何れかの場合には、前記ロックアップクラッチ4への差圧は、直ちにロックアップオフ圧Poffに減圧され、ロックアップオフ制御は終了する(ステップS10,S11)。
【0040】
さらにまた、前記ステップS4において、車速Vがロックアップオフ車速Vo以下となった場合において、実ロックアップオフ制御時間が規定時間より短い場合(ステップS12)には、ロックアップオフ学習制御を禁止し(ステップS13)、ロックアップオフ圧Poffに減圧し(ステップS14)、ロックアップオフ制御を終了する(ステップS11)。
【0041】
以上のように、本実施例では、車速検出時点での減速度αにより、早出しロックアップオフ時Tsにおける早出しロックアップオフ車速Vsを演算し、検出車速Vが早出しロックアップオフ車速Vs以下になったとき、ロックアップオフ制御を開始するので、減速度αの大きさ如何に関わらずロックアップオフ時間が前記早出し時間tsで略一定となり、ロックアップオフ時間のばらつきを抑制できる。
【0042】
また、ロックアップオフ制御において、前記ロックアップオン圧Ponを、まず早出しロックアップオフ車速Vsに応じて設定された減圧初期圧Psだけに即座に減圧し、これに続いて減速度αに応じた減圧勾配βをもって緩やかに減圧するスムースロックアップオフ制御を行うので、ロックアップオフ時のショックを低減できる。
【0043】
さらにまた、検出車速Vが前記ロックアップオフ車速Vo以下になると、一気にマイナスのロックアップオフ圧Poffに減圧するので、ロックアップオフ車速Voにおいて確実にロックアップクラッチ4を解放できる。そしてこの時点で、エンジン1への燃料供給及び点火を復帰することでエンジンをアイドリングに戻すことができ、エンジンストールを確実に防止できる。
【0044】
また、油温tが所定値以下のときは、車速検出時の減速度αに応じて設定された減圧勾配βを急勾配側に補正するようにしたので、低油温におけるロックアップオフ油圧の遅れを防止でき、エンジンストールをより一層確実に防止できる。
【符号の説明】
【0045】
1 エンジン
2 自動変速機
3 トルクコンバータ
4 ロックアップクラッチ
5 油圧制御弁
6 油圧制御装置
10 自動変速装置
Pon ロックアップオン圧
Poff ロックアップオフ圧
Ps 減圧初期圧
Toロックアップオフ車速到達予想時
Ts 早出しロックアップオフ時
ts早出し時間
V 検出車速
Vo ロックアップオフ車速
Vs 早出しロックアップオフ車速
α減速度
β 減圧勾配

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、
該トルクコンバータを介してエンジンの回転が伝達される自動変速機と、
前記ロックアップクラッチへの油圧を制御する油圧制御弁と、
前記油圧制御弁による油圧を、定速走行時には前記ロックアップクラッチが締結されるロックアップオン圧に、エンジンへの燃料カットがなされる減速走行時に検出車速がロックアップオフ車速になると、前記ロックアップクラッチが解放されるロックアップオフ圧に制御する油圧制御装置とを備えた車両の自動変速装置において、
前記油圧制御装置は、前記減速走行時に、車速検出時点での減速度から求められるロックアップオフ車速以下となるロックアップオフ車速到達予想時より所定の時間だけ前の早出しロックアップオフ車速を演算し、検出車速が早出しロックアップオフ車速以下となったとき、ロックアップオフ制御を開始し、
該ロックアップオフ制御は、前記ロックアップオン圧を、前記早出しロックアップオフ車速に応じて設定された初期圧に即座に減圧し、これに続いて少なくとも車速検出時の減速度に応じて設定された勾配をもって緩やかに減圧し、検出車速が前記ロックアップオフ車速以下になったとき一気にロックアップオフ圧に減圧する
ことを特徴とする車両の自動変速装置。
【請求項2】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両の自動変速装置において、前記油圧制御装置は、油温が所定値以下ときは、前記車速検出時の減速度に応じて設定された勾配を強めることを特徴としている。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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