車両ガード装置
【課題】一般的な車両や自動運転車両に広く適用が可能な車両ガード装置を提供する。
【解決手段】前輪2L,2Rより前方に配備される第1フロントガード輪11L,11Rと、前記第1フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第1伝達手段7、8,10,20と、前記第1フロントガード輪より車両前後方向における後方側で、前輪より前方側に配備される第2フロントガード輪23L,23Rと、前記第2フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第2伝達手段21L,21Rとを備える車両ガード装置GDであって、前記第1フロントガード輪が前記第2フロントガード輪よりも車両1の左右方向における中心側に設置してある、タイプが異なる2系統のフロントガード輪を備えることにより異なる衝突形態に広範囲に対処できる。
【解決手段】前輪2L,2Rより前方に配備される第1フロントガード輪11L,11Rと、前記第1フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第1伝達手段7、8,10,20と、前記第1フロントガード輪より車両前後方向における後方側で、前輪より前方側に配備される第2フロントガード輪23L,23Rと、前記第2フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第2伝達手段21L,21Rとを備える車両ガード装置GDであって、前記第1フロントガード輪が前記第2フロントガード輪よりも車両1の左右方向における中心側に設置してある、タイプが異なる2系統のフロントガード輪を備えることにより異なる衝突形態に広範囲に対処できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や乗員の保護のため車両に搭載されるガード装置に関する。より詳細には、車両が走行中に道路側壁などに接触したときに、適切に対処して車両の損傷を抑制あるいは防止する車両ガード装置に関する。また、電気的な装備を備えて自動操舵される車両(以下、自動運転車両)にも好適である車両ガード装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行中に側壁などと接触する状況となったときに、これに適切に対処するための車両ガード装置が従来から種々検討され、或いは提案されている。また、近年、博覧会などで自動運転車両システムが提供できる環境が整い多数の観客によって利用される状況になっている。
【0003】
特許文献1は、自動運転車両システムで使用される自動運転車両について開示している。この自動運転車両は、車幅より少し広めに設定した専用のガイドウエイ(専用道路)内を自動走行するもので、車両は前後には左右一対の案内輪を備えている。そして、自動運転車両は案内輪が対向するガイド壁に当接したときに応答情報を出力する応答手段と、この応答手段が応答情報を出力したときに案内輪がガイド壁から離れるように操舵機構を制御する制御手段とを備えている。このような自動運転車両は、安全性が十分に確保されて乗り心地のよい車両として今後の提供が期待される。
【0004】
【特許文献1】特開2000−264196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来の自動運転車両の技術には、側壁に当接(接触)したときに操舵機構を制御してガイドウエイを安全に案内するものがある。この技術は、車両が走行中に側壁などに接触したときの保護装置となる車両ガード装置にも応用が可能なようにも思われる。
【0006】
しかしながら、特許文献1の自動運転車両はそもそも専用のガイドウエイをスムーズに案内走行することを目的とするもので、案内輪をガイドウエイに当接させながら走行させることを前提している。よって、特許文献1で開示の技術を、一般公道を走行する車両の車両ガード装置に、そのまま適用することは困難である。例えば、側壁への車両の衝突角が大きい場合や、高速で走行する車両が側壁に接触した場合には衝突(接触)によるダメージが大きくなる。車両ガード装置はこのような状況に応じて車両を保護することが求められる。しかし、特許文献1ではこのような点については考慮していないので、開示の技術は結果としてガイドウエイを走行する車両に限定されてしまう。
【0007】
したがって、本発明の目的は、一般的な車両や自動運転車両に広く適用が可能な車両ガード装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、前輪より前方に配備される第1フロントガード輪と、
前記第1フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第1伝達手段と、前記第1フロントガード輪より車両前後方向における後方側で、前輪より前方側に配備される第2フロントガード輪と、前記第2フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第2伝達手段とを備える車両ガード装置であって、前記第1フロントガード輪が、前記第2フロントガード輪よりも車両左右方向における中心側に設置してある、ことを特徴とする車両ガード装置により達成できる。
【0009】
本発明の車両ガード装置は、タイプが異なる2系統のフロントガード輪を備えることにより異なる衝突形態に広範囲に対処できるので、接触角度が大きな衝突などにも対処して確実なフェールセーフを実行できる。
【0010】
そして、前記第1伝達手段が伝達するステアリング力が、前記第2伝達手段が伝達するステアリング力よりも大きく設定してあるのが望ましい。このように設定しておくと、接触角度が大きくなる衝撃の強い衝突時に、タイヤの切れ角を大きくして車両を側壁から速やかに遠ざける操舵を行って衝突ダメージを軽減できる。
【0011】
また、前記第2フロントガード輪に対して、キングピンを間にして、車両後方側に配備される第3フロントガード輪を更に備え、前記第3フロントガード輪の横変位力もステアリング力として前記第2伝達手段に伝達されると共に、前記第2フロントガード輪と前記第3フロントガード輪とは前輪の側面と略平行に設置されている構造を採用してもよい。この場合、接触角度が小さい衝突形態のときには車輪の前後にガード輪を備えることで、張り付き状態を形成して跳ね返りを防止できる。
【0012】
また、後輪の近傍に配備したリアガード輪を更に備え、前記第1フロントガード輪の横変位力または前記第2フロントガード輪の横変位力を、逆向き横変位力として前記リアガード輪に伝達する第3伝達手段を更に備える構造を採用するのがより好ましい。この場合、車両の後輪に更にリアガード輪を備え、前側のガード輪が衝突したときに逆向き横変位力により突出させることで車両の跳ね返りを抑止できる。
【0013】
また、前記第1フロントガード輪の横変位力を車両制動装置を作動させる油圧に変換する第1の停止補助手段を更に備えた構造としてもよい。この場合、衝突発生時に、積極的に車両の速度を減速、さらに停止へと誘導して、フェールセーフを確実に行える。機械、油圧系で車両を減速、停止させるので、電気系統が故障しても確実にフェールセーフを実行できる。
【0014】
また、急激な操舵を抑制する急操舵抑制手段を更に備え、前記急操舵抑制手段は操舵軸に発生する回転力を受けるビスカスカップリングと、前記ビスカスカップリングの回転を車両制動装置を作動させる油圧に変換する第2の停止補助手段とを含む構造としてもよい。この場合、操舵装置に急激な回転力が作用したときには、これを抑制しつつ積極的に車両の速度を減速、さらに停止へと誘導して、フェールセーフを確実に行える。この場合も機械、油圧系で車両を減速、停止させるので電気系統が故障しても確実にフェールセーフを実行できる。
【0015】
また、前記フロントガード輪を車両速度に基づいて出没させる車速感応出没手段を更に備えていることが望ましい。一般公道などを車両が低速で走行するときには、フロントガード輪を収納状態にできるので、歩行者の保護も図るより好ましい装置として提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、一般的な車両や自動運転車両に広く適用が可能な車両ガード装置を提供することができる、
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る車両ガード装置について説明する。この車両ガード装置は、車両が道路を走行して側壁やガードレールなど(以下、単に、側壁という)に接触したときに、乗員の保護、車両の破損防止、隣のレーンへの跳び出しの防止などのため車両に搭載されるものである。そして、より好ましい形態の車両ガード装置は、車両が高速走行しているときに側壁へ衝突した場合、減速あるいは停止させて乗員の保護を図るものである。このような車両ガード装置は、一般的な車両だけでなく、電気的に自動操舵される自動運転車両にも適用でき自動操舵が不能となり側壁に接触したときのフェールセーフ機構としても有効に機能する。
【0018】
図1は、実施例に係る車両ガード装置GDを適用した車両1の構成を模式的に示した平面図である。この車両1は一般的な四輪車であり、図1で上側が車両1の前側FRであり、下側が後側REである。この車両1には、側壁に接触するような事態が発生したときに、これに適切に対処して損傷防止を図る車両ガード装置GDが搭載されている。
【0019】
車両ガード装置GDは、左右前輪2L、2Rの前方側に配備したフロントガード輪機構FG、及び左右後輪3L、3Rの後方側に配備したリアガード輪機構RGの2種類のガード輪機構を含んで構成されている。
【0020】
先ず、フロントガード輪機構FGについて説明する。フロントガード輪機構FGは2種類のフロントガード輪機構を含んでいる。第1のフロントガード輪機構FG−1は車両1の前後方向での前方側に配備され、第2のフロントガード輪機構FG−2はこれより後方側で左右前輪2L、2Rの直ぐ前に配備されている。
【0021】
第1のフロントガード輪機構FG−1は、矢印RLで示す左右方向と平行に配置した直線状の第1のビーム部材10を備えている。この第1のビーム部材10は、不図示の構造により左右方向への移動が自在に支持されている。第1のビーム部材10の両側それぞれにはガード輪11R、11Lが配設されている。なお、このようなガード輪としては、例えば車両に垂直(図1で紙面に垂直)に配備した支軸を回転する衝撃吸収機能を備えた車輪(タイヤ)を採用することができる。
【0022】
上記ガード輪11R、11Lは、第1のビーム部材10の両側それぞれに配備した拡幅変更装置4R、4Lを介して、ビーム部材10の両端に配備してある。拡幅変更装置は、車両1の速度に対応してガード輪11R、11Lの左右方向での位置を可変とする車速感応出没手段として機能する。拡幅変更装置4R、4Lは、例えば車両1の速度が遅いときにはガード輪11R、11Lが車両内部に収納される状態或いは僅かに車両から突出する状態を形成する。そして、車両1の速度が速くなるとガード輪11R、11Lが車両から突出する状態を形成する。このような拡幅変更装置4R、4Lを備えていると、車両が市街道などの一般公道を低速走行しているときにはガード輪11R、11Lを収納に近い状態として、歩行者などの保護を優先できる。その一方で、車両が高速道路を走行しているときにはガード輪11R、11Lを車両の側部より突出する状態とし、高速道路の側壁などに接触する状態となったときにはより早期に対処できる。拡幅変更装置4R、4Lの構成については後述する。
【0023】
さらに、第1のビーム部材10の中間部には、更に補助ブレーキ装置5が配備してある。図1ではブレーキに係る油圧系の図示を省略しているが、補助ブレーキ装置5はキャリパ6を含む通常のサービスブレーキシステム(車両制動装置)に接続されている。補助ブレーキ装置5はガード輪11R、11Lが側壁などに接触して所定以上の押込み力を受けたときに、サービスブレーキシステムを作動させることができる。このような補助ブレーキ装置5を備えていると、車両が高速で走行して側壁などに接触する状態となったときなどに、より早期にブレーキを起動させて車両を減速、停止させことができるので被害拡大を防止できる。補助ブレーキ装置5の詳細構成も後述する。なお、補助ブレーキ装置5は、第1のフロントガード輪機構FG−1のガード輪11R、11Lに作用する横変位力を制動手段の油圧に変更して車両の停止補助をする第1の停止補助手段となる。
【0024】
第1のフロントガード輪機構FG−1に適用されている他の構成について更に説明する。第1のビーム部材10の中央部は接続リンク8を介して、車両1の前後方向へ延在するように配備された連動リンク7に接続されている。接続リンク8は固定ピン8aを中心に回動する。例えば、第1のビーム部材10が右へ移動すると、接続リンク8は反時計方向(左回り)へ回動する。この接続リンク8の動作に伴って、連動リンク7は前方へ移動する。連動リンク7の所定位置にはラックギア7RAが形成されている。このラックギア7RAは、ピニオンギア18PNと噛合している。このピニオンギア18PNはハンドル(ステアリングホイール)操作によって回転する操舵軸18に固定されている。
【0025】
更に上記ピニオンギア18PNは左右前輪2L、2Rの向きを変更するタイロッド20のラックギア部とも噛合している。以上のように複数のリンク(部材)で接続する構成で横変位力をステアリング力として伝達する構造が実現されている。ガード輪11R、11Lが側壁と接触して横変位力(荷重)を受けると、第1のビーム部材10、接続リンク8、連動リンク7、タイロッド20などが伝達手段を構成して左または右方向へのステアリング力を発生させる。すなわち、車両が側壁と接触する事態となったときに、機械的に衝突を軽減する向きに前輪2L、2Rを機械的に自動操舵して車両の損傷を抑制、或いは防止する。
【0026】
続いて、第2のフロントガード輪機構FG−2について説明する。タイロッド20の左右それぞれには前輪2L、2Rを支持するアーム21L、21Rが接続されている。これらアーム21L、21Rはキングピン22L、22Rを中心に回動する。この構成は従来の一般的な車両の操舵構造と同様である。しかし、アーム21L、21Rの前端側に新規な構造が付加されている点が異なっている。この部分が第2のフロントガード輪機構FG−2となる。
【0027】
アーム21L、21Rの前端側は前方へ引出され、更にその先端部分は外側に向けて左右へ突出している。この両端部にガード輪輪23L、23Rが配備してある。これらガード輪23L、23Rについても、前側第1のフロントガード輪機構FG−1のガード輪11L、11Rと同様に拡幅変更装置24R、24Lを設けておくのが好ましい。第2のフロントガード輪機構FG−2のガード輪23L、23Rが側壁に接触すると、アーム21L、21Rがキングピン22L、22Rを中心に回転するので接触を軽減して車両の損傷を抑制する方向へ前輪2L、2Rが機械的に自動操舵される。
【0028】
以上の説明から理解されるように、第1のフロントガード輪機構FG−1に属するガード輪11R、11Lが側壁に接触した場合、第2のフロントガード輪機構FG−2に属するガード輪23R、23Lが側壁に接触した場合、いずれであっても接触を軽減して車両の損傷を抑制する方向へ前輪2L、2Rが機械的な構成で自動操舵される構造が実現されている。ただし、前側のガード輪11R、11L(第1フロントガード輪)の間隔と、後側のガード輪23R、23L(第2フロントガード輪)の間隔とが異なるように設定してある。すなわち、ガード輪11R、11Lが車両1の左右方向での中心側に位置するようにスパン(設置間隔長さ)が短くしてある。このように前側ガード輪11R、11Lと後側ガード輪23R、23Lとの関係を設計すると、車両1が側壁に平行に近い角度で衝突するとき、すなわち接触角度が小さいときには後のガード輪23R、23Lが接触することとなり、接触角度が大きくなると前のガード輪11R、11Lが接触することとなる。この実施例のガード装置は衝突形態の相違に配慮して、ガード輪11R、11Lと後側のガード輪23R、23Lの間隔を設計してある。この点についても後述することとする。
【0029】
更に、車両1の後ろ(RE)側に設けた第3のガード輪構造について説明する。この構造は、後輪3L、3Rの周辺に配備したリアガード輪構造RGである。また、更に操舵軸18には急なハンドル操作、急操舵を防止する急操舵抑制機構(急操舵抑制手段)SCMが組付けられている。これらの構成についても後述する。
【0030】
以上、図1を参照して、車両1に適用した車両ガード装置の構成及びこれに基づく動作の概略したが、更に図をして車両ガード装置が備える特徴的な各構成をより詳細に説明する。
【0031】
図2、図3はガード輪11R、11L及びガード輪23R、23Lの左右方向での位置をそれぞれ変更可能とする前述した拡幅変更装置4R、4L及び拡幅変更装置24R、24Lの構成を示した図である。図2は各拡幅変更装置を駆動させるための油圧系の構成を示した図、図3(A)〜(C)は図2で示している構成の一部を拡大して示している図である。
【0032】
図2で、拡幅変更装置4R、4L及び24R、24Lは、ガード輪11R、11L及び23R、23Lの左右方向での位置を変更する油圧シリンダ装置として形成してある。拡幅変更装置4R、4L及び24R、24Lへ供給する油圧は、車両1のトランスミッション30からの油圧経路31により供給されている。トランスミッション30から油圧経路31の接続部にはギアポンプ32が配備してある。図3(B)は、ギアポンプ32の構成例を示した図である。油圧経路31の途中には分配器33、リザーバタンク34などが配備されている。図3(C)は、この分配器33の構成例を示した図である。
【0033】
図3(A)はガード輪11Lの位置を変更する拡幅変更装置4Lを拡大して示した図である。拡幅変更装置4Lは、内部にビーム部材10を所定位置に維持するように付勢するコイルスプリングSP及び油の流れを調整するチェックバルブVなどを含んでいる。他の拡幅変更装置4R、及び24R、24Lも同じ構造である。
【0034】
車両1に搭載した車両ガード装置は、上記のような拡幅変更機構を備えている。よって、車両1が高速走行してトランスミッション30内の油圧が相対的に高くなると、拡幅変更装置4R、4L及び24R、24L内の油圧もこれに応じて上昇するので図3(A)の上段で示すように突出する状態となる。その一方で、車両1が低・中速走行しているようなときはトランスミッション30内の油圧が低くなるので、拡幅変更装置4R、4L及び24R、24L内の油圧も低くなる。よって、図3(A)の下段で示すように没した状態となる。
【0035】
図2、3で説明した車速感応型の出没手段となる拡幅変更装置を備えると、前述したように車両が市街道などのように相対的に法定速度の低い公道を走行しているときにはガード輪11R、11L、23R、23Lを収納に近い状態として歩行者などの保護を優先できる。その一方で、車両が高速道路を走行しているときにはガード輪11R、11L、23R、23Lを車両の側部より突出する状態とし、高速道路の側壁などに接触する状態となったときより早期に対処できる。しかも、前述した構成は、トランスミッション30の油圧系を利用し、配管と機械的な構成でガード輪11R、11L、23R、23Lを自動的に拡幅変更する。よって、車両1が自動運転車両であって、電気系に故障が発生したときにも確実なフェールセーフを実行できる。
【0036】
次に、フロントガード輪機構FGが、前方側の第1のフロントガード輪機構FG−1と後方側の第2のフロントガード輪機構FG−2との2系統を備えており、前側のガード輪11R、11Lが後側のガード輪23R、23Lより車両1の左右方向における中心側に配設されている構成とされている点について説明する。
【0037】
図4は、車両1が側壁SWに衝突する(接触する)ときの様子を模式的に示した図であり、(A)は直線路の側壁SWへ接触角度α1が小さい状態で車両が衝突する場合、(B)は曲線路の側壁SWに接触角度α2が大きい状態で車両が衝突する場合を衝突形態例として示している。
【0038】
図4(A)で示すように、車両1が接触角度α1(例えば角度0<α1<10)で側壁SWに衝突した場合、接触角度が小さいので側壁に貼り付くようになる場合が多い。このように車両が側壁SWに貼り付く状態となる場合には、速度を減速させて停止させることができる。なお、図4(A)は第2のフロントガード輪機構FG−2は、より好ましい構造として、前輪2L、2Rの後ろ側にもガード輪26L、26Rを配備している構造例を示している。アーム21L、21Rの後端側が後方へ引出され、更にその先端部分が外側に向けて左右それぞれへ突出している。この両端部にガード輪26L、26Rが配備してある。よって、前輪2L、2Rを間にして、ガード輪23Lと26L、またガード輪23Rと26Rは前輪の側面に略平行に配備された形態となる。
【0039】
この構造の場合には、第1のフロントガード輪機構FG−1のガード輪11L、11Rが第1フロントガード輪となる。そして、第2のフロントガード輪機構FG−2のガード輪23L、23Rがキングピンに対し車両前方側に設置された第2フロントガード輪、更にガード輪26L、26Rがキングピンに対し車両後方側に設置された第3フロントガード輪となる。図4(A)で示すように側壁に貼り付く状態となったときには、第3フロントガード輪となるガード輪26L、26Rを更に備えることで、さらに側壁SWに貼り付く状態となり易いので、より確実に減速させて車両を停止できる。よって、車両が側壁に衝突したことによる跳ね返りも確実に防止できる。
【0040】
一方、図4(B)で示すように、車両1が接触角度α2(例えば角度10<α2)で側壁SWに衝突する場合、接触角度が大きいので側壁へ向かって行くような衝突形態となる。このように接触角度が大きい場合には、第1のフロントガード輪機構FG−1のガード輪11L、11Rが側壁SWと接触することになる。
【0041】
ここで先に説明したように、車両1に搭載した車両ガード装置はフロントガード輪機構FGが前方側の第1のフロントガード輪機構FG−1及び後方側の第2のフロントガード輪機構FG−2との2系統を備え、前側のガード輪11R、11Lが後側のガード輪23R、23Lより車両1の中心側に設定してある。この設定によって、車両1が側壁SWと衝突するときの接触角度に応じて適切な対処が実行されることになる。すなわち、前側のガード輪11R、11L及び後側のガード輪23R、23Lを同じスパン(車輪間隔)で配置した場合と比較して、衝突形態に応じて車両の衝突に適切に対処できる。
【0042】
接触角度が大きい衝突の形態(図4(B))は、側壁に貼り付く衝突の形態(図4(A))と比較して衝突した際の衝撃が大きい。よって、衝撃により車両が跳ね返され、隣の車線に押し出されてしまう場合がある。このような事態になると道路を走行する他の車両との2次衝突の危険が増大する。そこで、本実施例の車両ガード装置には、前側のガード輪11L、11Rが側壁に衝突する場合(すなわち、接触角度が大きく、衝突の衝撃が大きい場合)、ガード輪11R、11Lに作用した横変位力に基づいて大きなステアリング力を発生させ、タイヤの切れ角を大きくする機構を組み込んである。この機構によって衝突により発生する衝撃を速やか軽減できる。
【0043】
前側のガード輪11L、11Rの衝突に基づいてステアリング力を発生させる系(第1伝達手段)は、後側のガード輪23R、23Lの衝突に基づいてステアリング力を発生させる系(第2伝達手段)と比較してより大きなステアリング力を発生させる。すなわち、この車両ガード装置GDは衝突するガード輪が前か後ろによって、横変位力によって発生させるステアリング力に差を出す機構として形成してある。図5は、ステアリング力に差を発生せる機構例を円CR内に拡大して示してある。
【0044】
連動リンク7に形成したラックギア7RA、このラックギア7RAと噛み合うピニオンギア18PN、このピニオンギア18PNと噛み合うタイロッド20側のラックギア20RAで上記ステアリング力に差を発生せる機構が形成されている。より詳細には、ピニオンギア18PNは、大小2個のギアPN1、PN2を操舵軸18に同軸に固定した構造である。小さいギアPN1に連動リンク7のラックギア7RAが噛合し、大きいギアPN2にタイロッド20側のラックギア20RAが噛合している。よって、連動リンク7側の小さい動きL1を、タイロッド20側の大きな動きL2に変換し、これに接続してあるタイヤの切れ角を大きくしている。これにより、前側の第1ガード輪11L、11Rの接触時には、大きなステアリング力を発生させてタイヤの向きを大きく変化させ、衝突した側壁から遠ざけることができるので衝撃を速やかに軽減できる。
【0045】
図6は、後輪3L、3Rの周辺に配備したリアガード輪構造RGの動作を説明するために示した図である。上記連動リンク7は車両1の後輪3L、3Rがある後方位置まで延在している。この後方位置に前述したリアガード輪機構RGが配備されている。連動リンク7の後端は、前側の第1のビーム部材10と同様に、左右方向RLに配置した第2のビーム部材15に接続リンク9を介して接続されている。第2のビーム部材15の両端部にはガード輪16R、16Lが配備してある。接続リンク9は固定ピン9aを中心に回動するように構成されている。例えば、ガード輪11Lが側壁に接触して第1のビーム部材10が右へ移動すると、接続リンク8は反時計方向へ回動する。この接続リンク8の動作に伴って、連動リンク7は前方へ移動する。これにより接続リンク9が反時計方向へ回動することになる(図6中での丸数字1〜5を参照)。
【0046】
以上のようにリアガード輪機構RGのガード輪16Lは、リンクの機械的動作により、接触したガード輪11Lとは逆方向の横変位力が作用して外側へと突出することになる。このようにリアガード輪機構RGは前側のフロントガード輪機構FGの構造に連動しており、前側のガード輪の接触があると後側のガード輪を出すように設計されている。リアガード輪機構RGは前側の接触に基づいて、機械的に後側の接触に備えるものとなっている。よって、車両1の前方が側壁と衝突したときに、これに続いて後方側が更に衝突する可能性があっても車両の損傷を抑制できる。そして、前側のガード輪11L、11Rが衝突したときに逆向き横変位力によりガード輪16R、16Lを突出させることで車両の跳ね返りを抑止することができる。
【0047】
図7は、上述した前側のガード輪11L、11Rが衝突したときに大きなステアリング力を発生せる前述した機構が機能し、更に後方のリアガード輪機構RGが機能したときの様子を示した図である。図7で示すように、車両1が側壁SWに大きな接触角で衝突したときにはガード輪11L、11Rが側壁に衝突して、大きなステアリング力を発生させてタイヤの切れ角を大きくして衝撃を軽減する。そして、仮に車両がヨー方向へ回転して後方が側壁に衝突してしまう場合でもリアガード輪機構RGが機能するので、遅れて発生する可能性がある後方側の衝突にも対処して車両損傷を抑制できる。
【0048】
図8、図9は、車両1に搭載した車両ガード装置GDに適用されている前述の補助ブレーキ装置5の構成の一例を示した図である。図8に示すように、補助ブレーキ装置5は車両1に配設されているキャリパ6を含むサービスブレーキシステム60の油圧系の一部に接続されている。図9は、補助ブレーキ装置5をサービスブレーキシステム60に接続する構成例をより詳細に示した図である。補助ブレーキ装置5は、ガード輪11R、11Lを繋ぐビーム部材10の中央部にブレーキシリンダ室52とリザーバタンク51とを備えた構造である。シリンダ室は仕切壁53を介して左右独立に52L、52Rが形成されている。各シリンダ室52L、52Rはブレーキマスタシリンダとブレーキアクチュエータとの間の配管に結合されている。左右配管も独立に設定してある。右側シリンダ室52Rはフロント側のブレーキに結合され、左側シリンダ室52Lはリア側のブレーキに結合されている。ガード輪11L、11Rのいずれかが側壁に接触した場合、シリンダ室52L、52Rのいずれか一方が押されて油圧が大となりサービスブレーキシステム60を作動させる。
【0049】
よって、車両1に積極的に補助的な制動力を発生させて減速、停止させることができる。図8、9に基づいて説明した車両の停止補助システムは衝突したときにガード輪が受ける横変位力(荷重)を機械的な構造と油圧系で実現するものであって電気的な構成を含んでいない。これにより、衝突によって車両1の電装系が故障したような場合であっても確実なフェールセーフを実現できる。
【0050】
更に、前述したように図1で示した車両1の操舵軸18には急操舵抑制機構SCMが配設されている。図10は、車両ガード装置GDに適用されている急操舵抑制機構(急操舵抑制手段)SCMの構成例を示した図である。急操舵抑制機構SCMは操舵軸18に発生する回転力を受けるビスカスカップリング70と、このビスカスカップリング70の回転をサービスブレーキシステムBKS(車両制動装置)を作動させる油圧に変換するギアポンプ71(第2の停止補助手段)とを含んで形成してある。
【0051】
操舵軸18にはウォームギア72が噛合しており、このウォームギア72と同軸に前記ビスカスカップリング70が接続されている。また、車両1が自動運転車両である場合には操舵軸18を駆動するためのモータ73が配備されている。前述したように操舵軸18にはピニオンギア18PNが固定されており、ガード輪11L、11Rや23L、23Rが側壁に衝突したときにステアリング力で回転する。このようなときは、例えば車両が側壁に衝突して跳ね返るときであり、操舵軸18が急転舵する。また、自動運転車両でモータ73に故障が発生して暴走したときにも操舵軸18が急転舵される場合がある。更に、車両1がマニュアル運転されているときに運転者(ドライバ)が急ハンドルを切ったときも急転舵されることになる。
【0052】
上記で説明したように急転舵には複数の原因があるが、安全確保の観点から急転舵を確認してときには車両に好ましくない事態が発生したといえる。これについて、急操舵抑制機構SCMは操舵軸18にビスカスカップリング70が接続してある。ビスカスカップリング70は高粘度のシリコンオイルを利用して回転力(トルク)を伝達する液体継ぎ手型の装置で、所定以上の回転力を受けたときに接続されているギアポンプ71を回転させてサービスブレーキシステム(BKS)を作動させる。図11(A)は急操舵抑制機構SCMの通常時、(B)は急操舵抑制機構SCMの急転舵時を模式的に示した図である。モータ73が暴走した場合、操舵軸18が急転舵された場合にギアポンプ71から油圧が供給されてサービスブレーキシステム(BKS)が起動される。これにより車両1を積極的に補助的な制動力を発生させて減速、停止させることができる。操舵装置に急激な回転力が作用したときに、これを抑制しつつ積極的に車両の速度を減速、さらに停止へと誘導して、フェールセーフを実行できる。この場合も機械、油圧系で車両を減速、停止させるので確実な保護が可能である。
【0053】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例に係る車両ガード装置を適用した車両の構成を模式的に示した平面図である。
【図2】拡幅変更装置を駆動させるための油圧系の構成を示した図である。
【図3】(A)〜(C)は図2で示している構成の一部を拡大して示している図である。
【図4】車両が側壁に衝突するときの様子を模式的に示した図であり、(A)は直線路の側壁へ接触角度が小さい状態で車両が衝突する場合(B)は曲線路の側壁に接触角度が大きい状態で車両が衝突する場合、の衝突形態例を示した図である。
【図5】ステアリング力に差を発生せる機構例を円CR内に拡大して示した図である。
【図6】後輪の周辺に配備したリアガード輪構造の動作を説明するために示した図である。
【図7】前側のガード輪が衝突したときに大きなステアリング力を発生せる機構が機能し、更に後方のリアガード輪機構が機能したときの様子を示した図である。
【図8】車両に搭載した車両ガード装置に適用されている補助ブレーキ装置の構成の一例を示した図である。
【図9】補助ブレーキ装置をサービスブレーキシステムに接続する構成例をより詳細に示した図である。
【図10】車両ガード装置に適用されている急操舵抑制機構の構成例を示した図である。
【図11】(A)は急操舵抑制機構の通常時、(B)は急操舵抑制機構の急転舵時を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2L,2R 前輪
3L,3R 後輪
4L,4R 拡幅変更装置
5 補助ブレーキ装置
7 連動リンク
7RA ラックギア
8 接続リンク
10 第1のビーム部材
11L,11R 第1フロントガード輪
16L,16R リアガード輪
18 操舵軸
18PN ピニオンギア
20 タイロッド
22L、22R キングピン
23L,23R 第2フロントガード輪
26L,26R 第3フロントガード輪
70 ビスカスカップリング
FG フロントガード輪機構
FG−1 第1のフロントガード輪機構
FG−2 第2のフロントガード輪機構
RG リアガード輪機構
GD 車両ガード装置
SCM 急操舵抑制機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や乗員の保護のため車両に搭載されるガード装置に関する。より詳細には、車両が走行中に道路側壁などに接触したときに、適切に対処して車両の損傷を抑制あるいは防止する車両ガード装置に関する。また、電気的な装備を備えて自動操舵される車両(以下、自動運転車両)にも好適である車両ガード装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行中に側壁などと接触する状況となったときに、これに適切に対処するための車両ガード装置が従来から種々検討され、或いは提案されている。また、近年、博覧会などで自動運転車両システムが提供できる環境が整い多数の観客によって利用される状況になっている。
【0003】
特許文献1は、自動運転車両システムで使用される自動運転車両について開示している。この自動運転車両は、車幅より少し広めに設定した専用のガイドウエイ(専用道路)内を自動走行するもので、車両は前後には左右一対の案内輪を備えている。そして、自動運転車両は案内輪が対向するガイド壁に当接したときに応答情報を出力する応答手段と、この応答手段が応答情報を出力したときに案内輪がガイド壁から離れるように操舵機構を制御する制御手段とを備えている。このような自動運転車両は、安全性が十分に確保されて乗り心地のよい車両として今後の提供が期待される。
【0004】
【特許文献1】特開2000−264196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来の自動運転車両の技術には、側壁に当接(接触)したときに操舵機構を制御してガイドウエイを安全に案内するものがある。この技術は、車両が走行中に側壁などに接触したときの保護装置となる車両ガード装置にも応用が可能なようにも思われる。
【0006】
しかしながら、特許文献1の自動運転車両はそもそも専用のガイドウエイをスムーズに案内走行することを目的とするもので、案内輪をガイドウエイに当接させながら走行させることを前提している。よって、特許文献1で開示の技術を、一般公道を走行する車両の車両ガード装置に、そのまま適用することは困難である。例えば、側壁への車両の衝突角が大きい場合や、高速で走行する車両が側壁に接触した場合には衝突(接触)によるダメージが大きくなる。車両ガード装置はこのような状況に応じて車両を保護することが求められる。しかし、特許文献1ではこのような点については考慮していないので、開示の技術は結果としてガイドウエイを走行する車両に限定されてしまう。
【0007】
したがって、本発明の目的は、一般的な車両や自動運転車両に広く適用が可能な車両ガード装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、前輪より前方に配備される第1フロントガード輪と、
前記第1フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第1伝達手段と、前記第1フロントガード輪より車両前後方向における後方側で、前輪より前方側に配備される第2フロントガード輪と、前記第2フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第2伝達手段とを備える車両ガード装置であって、前記第1フロントガード輪が、前記第2フロントガード輪よりも車両左右方向における中心側に設置してある、ことを特徴とする車両ガード装置により達成できる。
【0009】
本発明の車両ガード装置は、タイプが異なる2系統のフロントガード輪を備えることにより異なる衝突形態に広範囲に対処できるので、接触角度が大きな衝突などにも対処して確実なフェールセーフを実行できる。
【0010】
そして、前記第1伝達手段が伝達するステアリング力が、前記第2伝達手段が伝達するステアリング力よりも大きく設定してあるのが望ましい。このように設定しておくと、接触角度が大きくなる衝撃の強い衝突時に、タイヤの切れ角を大きくして車両を側壁から速やかに遠ざける操舵を行って衝突ダメージを軽減できる。
【0011】
また、前記第2フロントガード輪に対して、キングピンを間にして、車両後方側に配備される第3フロントガード輪を更に備え、前記第3フロントガード輪の横変位力もステアリング力として前記第2伝達手段に伝達されると共に、前記第2フロントガード輪と前記第3フロントガード輪とは前輪の側面と略平行に設置されている構造を採用してもよい。この場合、接触角度が小さい衝突形態のときには車輪の前後にガード輪を備えることで、張り付き状態を形成して跳ね返りを防止できる。
【0012】
また、後輪の近傍に配備したリアガード輪を更に備え、前記第1フロントガード輪の横変位力または前記第2フロントガード輪の横変位力を、逆向き横変位力として前記リアガード輪に伝達する第3伝達手段を更に備える構造を採用するのがより好ましい。この場合、車両の後輪に更にリアガード輪を備え、前側のガード輪が衝突したときに逆向き横変位力により突出させることで車両の跳ね返りを抑止できる。
【0013】
また、前記第1フロントガード輪の横変位力を車両制動装置を作動させる油圧に変換する第1の停止補助手段を更に備えた構造としてもよい。この場合、衝突発生時に、積極的に車両の速度を減速、さらに停止へと誘導して、フェールセーフを確実に行える。機械、油圧系で車両を減速、停止させるので、電気系統が故障しても確実にフェールセーフを実行できる。
【0014】
また、急激な操舵を抑制する急操舵抑制手段を更に備え、前記急操舵抑制手段は操舵軸に発生する回転力を受けるビスカスカップリングと、前記ビスカスカップリングの回転を車両制動装置を作動させる油圧に変換する第2の停止補助手段とを含む構造としてもよい。この場合、操舵装置に急激な回転力が作用したときには、これを抑制しつつ積極的に車両の速度を減速、さらに停止へと誘導して、フェールセーフを確実に行える。この場合も機械、油圧系で車両を減速、停止させるので電気系統が故障しても確実にフェールセーフを実行できる。
【0015】
また、前記フロントガード輪を車両速度に基づいて出没させる車速感応出没手段を更に備えていることが望ましい。一般公道などを車両が低速で走行するときには、フロントガード輪を収納状態にできるので、歩行者の保護も図るより好ましい装置として提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、一般的な車両や自動運転車両に広く適用が可能な車両ガード装置を提供することができる、
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る車両ガード装置について説明する。この車両ガード装置は、車両が道路を走行して側壁やガードレールなど(以下、単に、側壁という)に接触したときに、乗員の保護、車両の破損防止、隣のレーンへの跳び出しの防止などのため車両に搭載されるものである。そして、より好ましい形態の車両ガード装置は、車両が高速走行しているときに側壁へ衝突した場合、減速あるいは停止させて乗員の保護を図るものである。このような車両ガード装置は、一般的な車両だけでなく、電気的に自動操舵される自動運転車両にも適用でき自動操舵が不能となり側壁に接触したときのフェールセーフ機構としても有効に機能する。
【0018】
図1は、実施例に係る車両ガード装置GDを適用した車両1の構成を模式的に示した平面図である。この車両1は一般的な四輪車であり、図1で上側が車両1の前側FRであり、下側が後側REである。この車両1には、側壁に接触するような事態が発生したときに、これに適切に対処して損傷防止を図る車両ガード装置GDが搭載されている。
【0019】
車両ガード装置GDは、左右前輪2L、2Rの前方側に配備したフロントガード輪機構FG、及び左右後輪3L、3Rの後方側に配備したリアガード輪機構RGの2種類のガード輪機構を含んで構成されている。
【0020】
先ず、フロントガード輪機構FGについて説明する。フロントガード輪機構FGは2種類のフロントガード輪機構を含んでいる。第1のフロントガード輪機構FG−1は車両1の前後方向での前方側に配備され、第2のフロントガード輪機構FG−2はこれより後方側で左右前輪2L、2Rの直ぐ前に配備されている。
【0021】
第1のフロントガード輪機構FG−1は、矢印RLで示す左右方向と平行に配置した直線状の第1のビーム部材10を備えている。この第1のビーム部材10は、不図示の構造により左右方向への移動が自在に支持されている。第1のビーム部材10の両側それぞれにはガード輪11R、11Lが配設されている。なお、このようなガード輪としては、例えば車両に垂直(図1で紙面に垂直)に配備した支軸を回転する衝撃吸収機能を備えた車輪(タイヤ)を採用することができる。
【0022】
上記ガード輪11R、11Lは、第1のビーム部材10の両側それぞれに配備した拡幅変更装置4R、4Lを介して、ビーム部材10の両端に配備してある。拡幅変更装置は、車両1の速度に対応してガード輪11R、11Lの左右方向での位置を可変とする車速感応出没手段として機能する。拡幅変更装置4R、4Lは、例えば車両1の速度が遅いときにはガード輪11R、11Lが車両内部に収納される状態或いは僅かに車両から突出する状態を形成する。そして、車両1の速度が速くなるとガード輪11R、11Lが車両から突出する状態を形成する。このような拡幅変更装置4R、4Lを備えていると、車両が市街道などの一般公道を低速走行しているときにはガード輪11R、11Lを収納に近い状態として、歩行者などの保護を優先できる。その一方で、車両が高速道路を走行しているときにはガード輪11R、11Lを車両の側部より突出する状態とし、高速道路の側壁などに接触する状態となったときにはより早期に対処できる。拡幅変更装置4R、4Lの構成については後述する。
【0023】
さらに、第1のビーム部材10の中間部には、更に補助ブレーキ装置5が配備してある。図1ではブレーキに係る油圧系の図示を省略しているが、補助ブレーキ装置5はキャリパ6を含む通常のサービスブレーキシステム(車両制動装置)に接続されている。補助ブレーキ装置5はガード輪11R、11Lが側壁などに接触して所定以上の押込み力を受けたときに、サービスブレーキシステムを作動させることができる。このような補助ブレーキ装置5を備えていると、車両が高速で走行して側壁などに接触する状態となったときなどに、より早期にブレーキを起動させて車両を減速、停止させことができるので被害拡大を防止できる。補助ブレーキ装置5の詳細構成も後述する。なお、補助ブレーキ装置5は、第1のフロントガード輪機構FG−1のガード輪11R、11Lに作用する横変位力を制動手段の油圧に変更して車両の停止補助をする第1の停止補助手段となる。
【0024】
第1のフロントガード輪機構FG−1に適用されている他の構成について更に説明する。第1のビーム部材10の中央部は接続リンク8を介して、車両1の前後方向へ延在するように配備された連動リンク7に接続されている。接続リンク8は固定ピン8aを中心に回動する。例えば、第1のビーム部材10が右へ移動すると、接続リンク8は反時計方向(左回り)へ回動する。この接続リンク8の動作に伴って、連動リンク7は前方へ移動する。連動リンク7の所定位置にはラックギア7RAが形成されている。このラックギア7RAは、ピニオンギア18PNと噛合している。このピニオンギア18PNはハンドル(ステアリングホイール)操作によって回転する操舵軸18に固定されている。
【0025】
更に上記ピニオンギア18PNは左右前輪2L、2Rの向きを変更するタイロッド20のラックギア部とも噛合している。以上のように複数のリンク(部材)で接続する構成で横変位力をステアリング力として伝達する構造が実現されている。ガード輪11R、11Lが側壁と接触して横変位力(荷重)を受けると、第1のビーム部材10、接続リンク8、連動リンク7、タイロッド20などが伝達手段を構成して左または右方向へのステアリング力を発生させる。すなわち、車両が側壁と接触する事態となったときに、機械的に衝突を軽減する向きに前輪2L、2Rを機械的に自動操舵して車両の損傷を抑制、或いは防止する。
【0026】
続いて、第2のフロントガード輪機構FG−2について説明する。タイロッド20の左右それぞれには前輪2L、2Rを支持するアーム21L、21Rが接続されている。これらアーム21L、21Rはキングピン22L、22Rを中心に回動する。この構成は従来の一般的な車両の操舵構造と同様である。しかし、アーム21L、21Rの前端側に新規な構造が付加されている点が異なっている。この部分が第2のフロントガード輪機構FG−2となる。
【0027】
アーム21L、21Rの前端側は前方へ引出され、更にその先端部分は外側に向けて左右へ突出している。この両端部にガード輪輪23L、23Rが配備してある。これらガード輪23L、23Rについても、前側第1のフロントガード輪機構FG−1のガード輪11L、11Rと同様に拡幅変更装置24R、24Lを設けておくのが好ましい。第2のフロントガード輪機構FG−2のガード輪23L、23Rが側壁に接触すると、アーム21L、21Rがキングピン22L、22Rを中心に回転するので接触を軽減して車両の損傷を抑制する方向へ前輪2L、2Rが機械的に自動操舵される。
【0028】
以上の説明から理解されるように、第1のフロントガード輪機構FG−1に属するガード輪11R、11Lが側壁に接触した場合、第2のフロントガード輪機構FG−2に属するガード輪23R、23Lが側壁に接触した場合、いずれであっても接触を軽減して車両の損傷を抑制する方向へ前輪2L、2Rが機械的な構成で自動操舵される構造が実現されている。ただし、前側のガード輪11R、11L(第1フロントガード輪)の間隔と、後側のガード輪23R、23L(第2フロントガード輪)の間隔とが異なるように設定してある。すなわち、ガード輪11R、11Lが車両1の左右方向での中心側に位置するようにスパン(設置間隔長さ)が短くしてある。このように前側ガード輪11R、11Lと後側ガード輪23R、23Lとの関係を設計すると、車両1が側壁に平行に近い角度で衝突するとき、すなわち接触角度が小さいときには後のガード輪23R、23Lが接触することとなり、接触角度が大きくなると前のガード輪11R、11Lが接触することとなる。この実施例のガード装置は衝突形態の相違に配慮して、ガード輪11R、11Lと後側のガード輪23R、23Lの間隔を設計してある。この点についても後述することとする。
【0029】
更に、車両1の後ろ(RE)側に設けた第3のガード輪構造について説明する。この構造は、後輪3L、3Rの周辺に配備したリアガード輪構造RGである。また、更に操舵軸18には急なハンドル操作、急操舵を防止する急操舵抑制機構(急操舵抑制手段)SCMが組付けられている。これらの構成についても後述する。
【0030】
以上、図1を参照して、車両1に適用した車両ガード装置の構成及びこれに基づく動作の概略したが、更に図をして車両ガード装置が備える特徴的な各構成をより詳細に説明する。
【0031】
図2、図3はガード輪11R、11L及びガード輪23R、23Lの左右方向での位置をそれぞれ変更可能とする前述した拡幅変更装置4R、4L及び拡幅変更装置24R、24Lの構成を示した図である。図2は各拡幅変更装置を駆動させるための油圧系の構成を示した図、図3(A)〜(C)は図2で示している構成の一部を拡大して示している図である。
【0032】
図2で、拡幅変更装置4R、4L及び24R、24Lは、ガード輪11R、11L及び23R、23Lの左右方向での位置を変更する油圧シリンダ装置として形成してある。拡幅変更装置4R、4L及び24R、24Lへ供給する油圧は、車両1のトランスミッション30からの油圧経路31により供給されている。トランスミッション30から油圧経路31の接続部にはギアポンプ32が配備してある。図3(B)は、ギアポンプ32の構成例を示した図である。油圧経路31の途中には分配器33、リザーバタンク34などが配備されている。図3(C)は、この分配器33の構成例を示した図である。
【0033】
図3(A)はガード輪11Lの位置を変更する拡幅変更装置4Lを拡大して示した図である。拡幅変更装置4Lは、内部にビーム部材10を所定位置に維持するように付勢するコイルスプリングSP及び油の流れを調整するチェックバルブVなどを含んでいる。他の拡幅変更装置4R、及び24R、24Lも同じ構造である。
【0034】
車両1に搭載した車両ガード装置は、上記のような拡幅変更機構を備えている。よって、車両1が高速走行してトランスミッション30内の油圧が相対的に高くなると、拡幅変更装置4R、4L及び24R、24L内の油圧もこれに応じて上昇するので図3(A)の上段で示すように突出する状態となる。その一方で、車両1が低・中速走行しているようなときはトランスミッション30内の油圧が低くなるので、拡幅変更装置4R、4L及び24R、24L内の油圧も低くなる。よって、図3(A)の下段で示すように没した状態となる。
【0035】
図2、3で説明した車速感応型の出没手段となる拡幅変更装置を備えると、前述したように車両が市街道などのように相対的に法定速度の低い公道を走行しているときにはガード輪11R、11L、23R、23Lを収納に近い状態として歩行者などの保護を優先できる。その一方で、車両が高速道路を走行しているときにはガード輪11R、11L、23R、23Lを車両の側部より突出する状態とし、高速道路の側壁などに接触する状態となったときより早期に対処できる。しかも、前述した構成は、トランスミッション30の油圧系を利用し、配管と機械的な構成でガード輪11R、11L、23R、23Lを自動的に拡幅変更する。よって、車両1が自動運転車両であって、電気系に故障が発生したときにも確実なフェールセーフを実行できる。
【0036】
次に、フロントガード輪機構FGが、前方側の第1のフロントガード輪機構FG−1と後方側の第2のフロントガード輪機構FG−2との2系統を備えており、前側のガード輪11R、11Lが後側のガード輪23R、23Lより車両1の左右方向における中心側に配設されている構成とされている点について説明する。
【0037】
図4は、車両1が側壁SWに衝突する(接触する)ときの様子を模式的に示した図であり、(A)は直線路の側壁SWへ接触角度α1が小さい状態で車両が衝突する場合、(B)は曲線路の側壁SWに接触角度α2が大きい状態で車両が衝突する場合を衝突形態例として示している。
【0038】
図4(A)で示すように、車両1が接触角度α1(例えば角度0<α1<10)で側壁SWに衝突した場合、接触角度が小さいので側壁に貼り付くようになる場合が多い。このように車両が側壁SWに貼り付く状態となる場合には、速度を減速させて停止させることができる。なお、図4(A)は第2のフロントガード輪機構FG−2は、より好ましい構造として、前輪2L、2Rの後ろ側にもガード輪26L、26Rを配備している構造例を示している。アーム21L、21Rの後端側が後方へ引出され、更にその先端部分が外側に向けて左右それぞれへ突出している。この両端部にガード輪26L、26Rが配備してある。よって、前輪2L、2Rを間にして、ガード輪23Lと26L、またガード輪23Rと26Rは前輪の側面に略平行に配備された形態となる。
【0039】
この構造の場合には、第1のフロントガード輪機構FG−1のガード輪11L、11Rが第1フロントガード輪となる。そして、第2のフロントガード輪機構FG−2のガード輪23L、23Rがキングピンに対し車両前方側に設置された第2フロントガード輪、更にガード輪26L、26Rがキングピンに対し車両後方側に設置された第3フロントガード輪となる。図4(A)で示すように側壁に貼り付く状態となったときには、第3フロントガード輪となるガード輪26L、26Rを更に備えることで、さらに側壁SWに貼り付く状態となり易いので、より確実に減速させて車両を停止できる。よって、車両が側壁に衝突したことによる跳ね返りも確実に防止できる。
【0040】
一方、図4(B)で示すように、車両1が接触角度α2(例えば角度10<α2)で側壁SWに衝突する場合、接触角度が大きいので側壁へ向かって行くような衝突形態となる。このように接触角度が大きい場合には、第1のフロントガード輪機構FG−1のガード輪11L、11Rが側壁SWと接触することになる。
【0041】
ここで先に説明したように、車両1に搭載した車両ガード装置はフロントガード輪機構FGが前方側の第1のフロントガード輪機構FG−1及び後方側の第2のフロントガード輪機構FG−2との2系統を備え、前側のガード輪11R、11Lが後側のガード輪23R、23Lより車両1の中心側に設定してある。この設定によって、車両1が側壁SWと衝突するときの接触角度に応じて適切な対処が実行されることになる。すなわち、前側のガード輪11R、11L及び後側のガード輪23R、23Lを同じスパン(車輪間隔)で配置した場合と比較して、衝突形態に応じて車両の衝突に適切に対処できる。
【0042】
接触角度が大きい衝突の形態(図4(B))は、側壁に貼り付く衝突の形態(図4(A))と比較して衝突した際の衝撃が大きい。よって、衝撃により車両が跳ね返され、隣の車線に押し出されてしまう場合がある。このような事態になると道路を走行する他の車両との2次衝突の危険が増大する。そこで、本実施例の車両ガード装置には、前側のガード輪11L、11Rが側壁に衝突する場合(すなわち、接触角度が大きく、衝突の衝撃が大きい場合)、ガード輪11R、11Lに作用した横変位力に基づいて大きなステアリング力を発生させ、タイヤの切れ角を大きくする機構を組み込んである。この機構によって衝突により発生する衝撃を速やか軽減できる。
【0043】
前側のガード輪11L、11Rの衝突に基づいてステアリング力を発生させる系(第1伝達手段)は、後側のガード輪23R、23Lの衝突に基づいてステアリング力を発生させる系(第2伝達手段)と比較してより大きなステアリング力を発生させる。すなわち、この車両ガード装置GDは衝突するガード輪が前か後ろによって、横変位力によって発生させるステアリング力に差を出す機構として形成してある。図5は、ステアリング力に差を発生せる機構例を円CR内に拡大して示してある。
【0044】
連動リンク7に形成したラックギア7RA、このラックギア7RAと噛み合うピニオンギア18PN、このピニオンギア18PNと噛み合うタイロッド20側のラックギア20RAで上記ステアリング力に差を発生せる機構が形成されている。より詳細には、ピニオンギア18PNは、大小2個のギアPN1、PN2を操舵軸18に同軸に固定した構造である。小さいギアPN1に連動リンク7のラックギア7RAが噛合し、大きいギアPN2にタイロッド20側のラックギア20RAが噛合している。よって、連動リンク7側の小さい動きL1を、タイロッド20側の大きな動きL2に変換し、これに接続してあるタイヤの切れ角を大きくしている。これにより、前側の第1ガード輪11L、11Rの接触時には、大きなステアリング力を発生させてタイヤの向きを大きく変化させ、衝突した側壁から遠ざけることができるので衝撃を速やかに軽減できる。
【0045】
図6は、後輪3L、3Rの周辺に配備したリアガード輪構造RGの動作を説明するために示した図である。上記連動リンク7は車両1の後輪3L、3Rがある後方位置まで延在している。この後方位置に前述したリアガード輪機構RGが配備されている。連動リンク7の後端は、前側の第1のビーム部材10と同様に、左右方向RLに配置した第2のビーム部材15に接続リンク9を介して接続されている。第2のビーム部材15の両端部にはガード輪16R、16Lが配備してある。接続リンク9は固定ピン9aを中心に回動するように構成されている。例えば、ガード輪11Lが側壁に接触して第1のビーム部材10が右へ移動すると、接続リンク8は反時計方向へ回動する。この接続リンク8の動作に伴って、連動リンク7は前方へ移動する。これにより接続リンク9が反時計方向へ回動することになる(図6中での丸数字1〜5を参照)。
【0046】
以上のようにリアガード輪機構RGのガード輪16Lは、リンクの機械的動作により、接触したガード輪11Lとは逆方向の横変位力が作用して外側へと突出することになる。このようにリアガード輪機構RGは前側のフロントガード輪機構FGの構造に連動しており、前側のガード輪の接触があると後側のガード輪を出すように設計されている。リアガード輪機構RGは前側の接触に基づいて、機械的に後側の接触に備えるものとなっている。よって、車両1の前方が側壁と衝突したときに、これに続いて後方側が更に衝突する可能性があっても車両の損傷を抑制できる。そして、前側のガード輪11L、11Rが衝突したときに逆向き横変位力によりガード輪16R、16Lを突出させることで車両の跳ね返りを抑止することができる。
【0047】
図7は、上述した前側のガード輪11L、11Rが衝突したときに大きなステアリング力を発生せる前述した機構が機能し、更に後方のリアガード輪機構RGが機能したときの様子を示した図である。図7で示すように、車両1が側壁SWに大きな接触角で衝突したときにはガード輪11L、11Rが側壁に衝突して、大きなステアリング力を発生させてタイヤの切れ角を大きくして衝撃を軽減する。そして、仮に車両がヨー方向へ回転して後方が側壁に衝突してしまう場合でもリアガード輪機構RGが機能するので、遅れて発生する可能性がある後方側の衝突にも対処して車両損傷を抑制できる。
【0048】
図8、図9は、車両1に搭載した車両ガード装置GDに適用されている前述の補助ブレーキ装置5の構成の一例を示した図である。図8に示すように、補助ブレーキ装置5は車両1に配設されているキャリパ6を含むサービスブレーキシステム60の油圧系の一部に接続されている。図9は、補助ブレーキ装置5をサービスブレーキシステム60に接続する構成例をより詳細に示した図である。補助ブレーキ装置5は、ガード輪11R、11Lを繋ぐビーム部材10の中央部にブレーキシリンダ室52とリザーバタンク51とを備えた構造である。シリンダ室は仕切壁53を介して左右独立に52L、52Rが形成されている。各シリンダ室52L、52Rはブレーキマスタシリンダとブレーキアクチュエータとの間の配管に結合されている。左右配管も独立に設定してある。右側シリンダ室52Rはフロント側のブレーキに結合され、左側シリンダ室52Lはリア側のブレーキに結合されている。ガード輪11L、11Rのいずれかが側壁に接触した場合、シリンダ室52L、52Rのいずれか一方が押されて油圧が大となりサービスブレーキシステム60を作動させる。
【0049】
よって、車両1に積極的に補助的な制動力を発生させて減速、停止させることができる。図8、9に基づいて説明した車両の停止補助システムは衝突したときにガード輪が受ける横変位力(荷重)を機械的な構造と油圧系で実現するものであって電気的な構成を含んでいない。これにより、衝突によって車両1の電装系が故障したような場合であっても確実なフェールセーフを実現できる。
【0050】
更に、前述したように図1で示した車両1の操舵軸18には急操舵抑制機構SCMが配設されている。図10は、車両ガード装置GDに適用されている急操舵抑制機構(急操舵抑制手段)SCMの構成例を示した図である。急操舵抑制機構SCMは操舵軸18に発生する回転力を受けるビスカスカップリング70と、このビスカスカップリング70の回転をサービスブレーキシステムBKS(車両制動装置)を作動させる油圧に変換するギアポンプ71(第2の停止補助手段)とを含んで形成してある。
【0051】
操舵軸18にはウォームギア72が噛合しており、このウォームギア72と同軸に前記ビスカスカップリング70が接続されている。また、車両1が自動運転車両である場合には操舵軸18を駆動するためのモータ73が配備されている。前述したように操舵軸18にはピニオンギア18PNが固定されており、ガード輪11L、11Rや23L、23Rが側壁に衝突したときにステアリング力で回転する。このようなときは、例えば車両が側壁に衝突して跳ね返るときであり、操舵軸18が急転舵する。また、自動運転車両でモータ73に故障が発生して暴走したときにも操舵軸18が急転舵される場合がある。更に、車両1がマニュアル運転されているときに運転者(ドライバ)が急ハンドルを切ったときも急転舵されることになる。
【0052】
上記で説明したように急転舵には複数の原因があるが、安全確保の観点から急転舵を確認してときには車両に好ましくない事態が発生したといえる。これについて、急操舵抑制機構SCMは操舵軸18にビスカスカップリング70が接続してある。ビスカスカップリング70は高粘度のシリコンオイルを利用して回転力(トルク)を伝達する液体継ぎ手型の装置で、所定以上の回転力を受けたときに接続されているギアポンプ71を回転させてサービスブレーキシステム(BKS)を作動させる。図11(A)は急操舵抑制機構SCMの通常時、(B)は急操舵抑制機構SCMの急転舵時を模式的に示した図である。モータ73が暴走した場合、操舵軸18が急転舵された場合にギアポンプ71から油圧が供給されてサービスブレーキシステム(BKS)が起動される。これにより車両1を積極的に補助的な制動力を発生させて減速、停止させることができる。操舵装置に急激な回転力が作用したときに、これを抑制しつつ積極的に車両の速度を減速、さらに停止へと誘導して、フェールセーフを実行できる。この場合も機械、油圧系で車両を減速、停止させるので確実な保護が可能である。
【0053】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例に係る車両ガード装置を適用した車両の構成を模式的に示した平面図である。
【図2】拡幅変更装置を駆動させるための油圧系の構成を示した図である。
【図3】(A)〜(C)は図2で示している構成の一部を拡大して示している図である。
【図4】車両が側壁に衝突するときの様子を模式的に示した図であり、(A)は直線路の側壁へ接触角度が小さい状態で車両が衝突する場合(B)は曲線路の側壁に接触角度が大きい状態で車両が衝突する場合、の衝突形態例を示した図である。
【図5】ステアリング力に差を発生せる機構例を円CR内に拡大して示した図である。
【図6】後輪の周辺に配備したリアガード輪構造の動作を説明するために示した図である。
【図7】前側のガード輪が衝突したときに大きなステアリング力を発生せる機構が機能し、更に後方のリアガード輪機構が機能したときの様子を示した図である。
【図8】車両に搭載した車両ガード装置に適用されている補助ブレーキ装置の構成の一例を示した図である。
【図9】補助ブレーキ装置をサービスブレーキシステムに接続する構成例をより詳細に示した図である。
【図10】車両ガード装置に適用されている急操舵抑制機構の構成例を示した図である。
【図11】(A)は急操舵抑制機構の通常時、(B)は急操舵抑制機構の急転舵時を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2L,2R 前輪
3L,3R 後輪
4L,4R 拡幅変更装置
5 補助ブレーキ装置
7 連動リンク
7RA ラックギア
8 接続リンク
10 第1のビーム部材
11L,11R 第1フロントガード輪
16L,16R リアガード輪
18 操舵軸
18PN ピニオンギア
20 タイロッド
22L、22R キングピン
23L,23R 第2フロントガード輪
26L,26R 第3フロントガード輪
70 ビスカスカップリング
FG フロントガード輪機構
FG−1 第1のフロントガード輪機構
FG−2 第2のフロントガード輪機構
RG リアガード輪機構
GD 車両ガード装置
SCM 急操舵抑制機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪より前方に配備される第1フロントガード輪と、
前記第1フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第1伝達手段と、
前記第1フロントガード輪より車両前後方向における後方側で、前輪より前方側に配備される第2フロントガード輪と、
前記第2フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第2伝達手段とを備える車両ガード装置であって、
前記第1フロントガード輪が、前記第2フロントガード輪よりも車両左右方向における中心側に設置してある、ことを特徴とする車両ガード装置。
【請求項2】
前記第1伝達手段が伝達するステアリング力が、前記第2伝達手段が伝達するステアリング力よりも大きく設定してある、ことを特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項3】
前記第2フロントガード輪に対して、キングピンを間にして、車両後方側に配備される第3フロントガード輪を更に備え、
前記第3フロントガード輪の横変位力もステアリング力として前記第2伝達手段に伝達されると共に、前記第2フロントガード輪と前記第3フロントガード輪とは前輪の側面と略平行に設置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項4】
後輪の近傍に配備したリアガード輪を更に備え、
前記第1フロントガード輪の横変位力または前記第2フロントガード輪の横変位力を、逆向き横変位力として前記リアガード輪に伝達する第3伝達手段を更に備えること、を特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項5】
前記第1フロントガード輪の横変位力を車両制動装置を作動させる油圧に変換する第1の停止補助手段を更に備える、を特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項6】
急激な操舵を抑制する急操舵抑制手段を更に備え、
前記急操舵抑制手段は操舵軸に発生する回転力を受けるビスカスカップリングと、前記ビスカスカップリングの回転を車両制動装置を作動させる油圧に変換する第2の停止補助手段とを含む、を特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項7】
前記フロントガード輪を車両速度に基づいて出没させる車速感応出没手段を更に備えていること、を特徴とする請求項1から6のいずれに記載の車両ガード装置。
【請求項1】
前輪より前方に配備される第1フロントガード輪と、
前記第1フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第1伝達手段と、
前記第1フロントガード輪より車両前後方向における後方側で、前輪より前方側に配備される第2フロントガード輪と、
前記第2フロントガード輪の横変位力をステアリング力として伝達する第2伝達手段とを備える車両ガード装置であって、
前記第1フロントガード輪が、前記第2フロントガード輪よりも車両左右方向における中心側に設置してある、ことを特徴とする車両ガード装置。
【請求項2】
前記第1伝達手段が伝達するステアリング力が、前記第2伝達手段が伝達するステアリング力よりも大きく設定してある、ことを特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項3】
前記第2フロントガード輪に対して、キングピンを間にして、車両後方側に配備される第3フロントガード輪を更に備え、
前記第3フロントガード輪の横変位力もステアリング力として前記第2伝達手段に伝達されると共に、前記第2フロントガード輪と前記第3フロントガード輪とは前輪の側面と略平行に設置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項4】
後輪の近傍に配備したリアガード輪を更に備え、
前記第1フロントガード輪の横変位力または前記第2フロントガード輪の横変位力を、逆向き横変位力として前記リアガード輪に伝達する第3伝達手段を更に備えること、を特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項5】
前記第1フロントガード輪の横変位力を車両制動装置を作動させる油圧に変換する第1の停止補助手段を更に備える、を特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項6】
急激な操舵を抑制する急操舵抑制手段を更に備え、
前記急操舵抑制手段は操舵軸に発生する回転力を受けるビスカスカップリングと、前記ビスカスカップリングの回転を車両制動装置を作動させる油圧に変換する第2の停止補助手段とを含む、を特徴とする請求項1に記載の車両ガード装置。
【請求項7】
前記フロントガード輪を車両速度に基づいて出没させる車速感応出没手段を更に備えていること、を特徴とする請求項1から6のいずれに記載の車両ガード装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−279799(P2008−279799A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123416(P2007−123416)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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