説明

車両スライドドア用ステップ構造体

【課題】高い軽量化効果が得られるとともに、スチール製の場合と同等の剛性および必要な強度を有することが可能な車両スライドドア用ステップ構造体を提供する。
【解決手段】車両のスライドドアのドア開口部におけるステップ側パネルを構成するステップ構造体において、ステップ構造体が炭素繊維強化プラスチックから構成されており、該ステップ構造体は、略C形断面形状の外枠部と、該外枠部の内側に接続され車両内側から車両外側に向かって延びるように配置された略C形断面形状の梁部とを有し、かつ、少なくともスライドドアを開閉方向に案内するためのガイドレールがステップ構造体に一体成形されていることを特徴とする車両スライドドア用ステップ構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のスライドドア用のステップ構造体に関し、とくに、必要な剛性・強度を確保しつつ軽量化をはかった車両スライドドア用ステップ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドドアを有する車両においては、スライドドア開口部におけるステップ側パネル(スライドドア開口部の下部側に設けられ、乗降する際に踏台となるパネル)を構成するステップ構造体が設けられ、このステップ構造体の下面側に、スライドドアのドアスライド機構が配置され、ドア開閉のための駆動機構が連結されることが多い(例えば、特許文献1)。
【0003】
従来のステップ構造体は、スチールで構成されており、重量が大きく、また、部品点数も多い。したがって、ステップ構造体の軽量化、部品点数の削減が要求されることが多いが、現行のスチール製のままでは、現状以上の軽量化、部品点数の削減が難しいのが実情である。
【0004】
ステップ構造体の軽量化、部品点数の削減を達成するために、ステップ構造体を樹脂化し、一体成形により作製することも考えられるが、ステップ構造体においては、ステップ側パネルとしての部位に加え、とくにスライドドアを案内するするためのガイドレールの設置部やその近傍部位には、相当高い剛性や強度が求められることから、単に樹脂化するだけではこれらの要求に応えることが困難である。
【0005】
また、単なる樹脂ではなく、複合材料、例えばガラス繊維を用いた射出材やGMT(Glass-Mat reinforced Thermoplastics)でステップ構造体を構成することも考えられるが、このように強化繊維としてガラス繊維を用いた材料では、高い軽量化率と高い剛性・強度を両立させることは、一般的に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−132141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、高い軽量化効果が得られるとともに、スチール製の場合と同等の剛性および必要な強度を有することが可能な車両スライドドア用ステップ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両スライドドア用ステップ構造体は、車両のスライドドアのドアスライド機構の一部を構成するとともに、スライドドア開口部におけるステップ側パネルを構成するステップ構造体において、該ステップ構造体が炭素繊維強化プラスチックから構成されており、該ステップ構造体は、その平面形状の外形に沿って少なくとも部分的に延びる略C形断面形状の外枠部と、ステップ構造体内において前記外枠部の内側に接続され車両内側から車両外側に向かって延びるように配置された略C形断面形状の梁部とを有し、かつ、少なくともスライドドアを開閉方向に案内するためのガイドレールがステップ構造体に一体成形されていることを特徴とするものからなる。
【0009】
このような本発明に係るステップ構造体においては、ステップ構造体が炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)と呼ぶこともある。)から構成されているので、ガラス繊維強化プラスチックなどから構成される場合に比べ、軽量化を達成しつつ、CFRP自体の特性により、より高い剛性、強度の発現が可能となる。このCFRPから構成されるステップ構造体は、略C形断面形状の外枠部と、その外枠部に接続され車両内側から車両外側に向かって延びる略C形断面形状の梁部とを有するが、これら略C形断面形状部位では、とくに厚肉部を設けずに、したがって、軽量化を促進しつつ、構造的に高い剛性・強度を確保できる。そして、ステップ構造体は、これら略C形断面形状を有する外枠部と梁部との接続構造を有する一体成形品に構成されるので、ステップ構造体全体として軽量化を促進しつつ、構造的に、スチール比同等の剛性を保持しながら、必要な強度の発現が可能となる。また、ステップ構造体には、スライドドアを開閉方向に案内するためのガイドレールの設置が求められるが、従来基本的に別部品としてステップ構造体本体に取り付けられていたガイドレール(通常、一対のガイドレール)が、本発明では、CFRP製ステップ構造体に一体成形されているので、ガイドレール付きのCFRP製ステップ構造体が成形されることになる。その結果、少なくともガイドレールが別部品として製作されていた場合に比べ、部品点数が削減される。
【0010】
上記本発明に係る車両スライドドア用ステップ構造体においては、ステップ構造体を構成する炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなることが好ましい。マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を使用することも可能ではあるが、ステップ構造体は通常かなり複雑な形状を有しているので、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を使用することにより、複雑形状の場合にあっても大きな困難性を伴うことなく成形することが可能になる。
【0011】
また、本発明に係る車両スライドドア用ステップ構造体においては、ステップ構造体を構成する炭素繊維強化プラスチックの強化繊維に炭素繊維の短繊維が使用されていることが好ましい。ただし本発明において、短繊維とは、長さ30mm以下の繊維のことをいう。このような短繊維はマトリックス樹脂と複合された場合に、マトリックス樹脂とともに流動する性能が高く、高い流動性によって、より均質なCFRPの成形が可能になるとともに、複雑形状への一体成形が行いやすくなる。
【0012】
また、本発明に係る車両スライドドア用ステップ構造体においては、ステップ構造体が、さらに、車体への取付け用ボス部を有し、該取付け用ボス部もステップ構造体に一体成形されている構造を採用することができる。ステップ構造体を車体に取り付けるには、通常、何らかのボス状取付け用部材が必要となるが、この車体への取付け用ボス部もステップ構造体に一体成形しておくことにより、取り付け作業が簡素化されるとともに、取り付け部も含めた全体としての部品点数がより削減される。
【0013】
さらに、本発明に係る車両スライドドア用ステップ構造体においては、ステップ構造体が、さらに、上記ドアスライド機構に設けられスライドドアを開閉方向に駆動する索状体を案内するための案内板を有し、該周回ベルトの案内板もステップ構造体に一体成形されている構造を採用することもできる。このように、ガイドレールに加え、その他の周辺部品までステップ構造体に一体成形することで、より一層部品点数を削減することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両スライドドア用ステップ構造体によれば、ステップ構造体をCFRPから構成し、略C形断面形状の外枠部と梁部とを設けるとともにそれらを接続し、しかも、少なくともガイドレールまでステップ構造体に一体成形するようにしたので、ステップ構造体に求められる必要最小限の機能を満足させつつ、ガイドレールまで含めたステップ構造体全体の望ましい軽量化と、スチール比同等の剛性を保持しながら必要な強度を確保することができ、さらに一体成形により部品点数の大幅な削減が可能になる。例えば、スチール比同等の剛性・強度を確保しつつ、スチール比50%もの軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ステップ構造体の車両搭載位置を例示した車両の部分斜視図である。
【図2】(A)はステップ構造体を上面側から見た斜視図、(B)はステップ構造体を下面側から見た斜視図である。
【図3】ステップ構造体を上面側から見た平面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図3のB−B断面図である。
【図6】図3のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
まず図1に、本発明による車両スライドドア用ステップ構造体の車両搭載位置を例示する。図1に示す車両1においては、その側部に、矢印で示す車両前方側、車両後方側に向けてのスライドにより開閉されるスライドドア2が設けられている。スライドドア開口部3には、スライドドア2のドアスライド機構4の一部を構成するとともに、スライドドア開口部3において下側のステップ側パネルを構成するステップ構造体5が配置、固定されている。
【0017】
このステップ構造体5は、例えば、図2〜図6に示すように構成されている。図2(A)は、ステップ構造体5を上面側(ステップ面側)から見た斜視図、図2(B)は、ステップ構造体5を下面側から見た斜視図、図3はステップ構造体5を上面側から見た平面図を、それぞれ示している。
【0018】
ステップ構造体5は、図2〜図6に示されている部分の全体が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の一体成形品として構成されている。この一体成形は、例えば、いわゆるシート抄造法と同様の方法で行うことができる。例えば、炭素繊維の短繊維と熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂とを複合したシート状基材原料を、所定の温度に加熱した状態にて、金型からなる下型の所定形状に形成されたキャビティ内に配置し、上型を閉じてプレス圧を加え、キャビティ内で複合材料を流動させる。自然放冷または強制冷却を行って樹脂を硬化させた後、成形品を脱型する。また上述したようなプレス成形に限らず、射出成形などの方法によっても成形することが可能である。なお、炭素繊維とマトリックス樹脂との複合材料においては、成形すべきステップ構造体5の全体に対して炭素繊維の短繊維を用いてもよく、意図的に、一部の成形箇所に対しては長繊維(前述した短繊維よりも長い繊維)または連続繊維からなる炭素繊維を使用し、残りの成形箇所に対して炭素繊維の短繊維を用いるようにすることも可能である。長繊維または連続繊維からなる炭素繊維は、より剛性・強度を向上したい部位に配置すればよい。
【0019】
このように全体として一体成形されたステップ構造体5は、図2、図3に示すように、ステップ構造体5の平面形状の外形に沿って少なくとも部分的に延びる略C形断面形状の外枠部11と、ステップ構造体5内において外枠部11の内側(部材内の内側)に接続され、矢印で示す車両内側から車両外側に向かって延びるように配置された略C形断面形状の梁部12とを有している。さらに、スライドドア2を開閉方向に案内するためのガイドレール13(一対のレール構造を有するガイドレール)が、このステップ構造体5に一体成形されている。
【0020】
また、本実施態様では、ステップ構造体5には、さらに、車体への取付け用ボス部14が、複数、一体成形されている。さらに、ステップ構造体5には、ドアスライド機構に設けられスライドドア2を開閉方向に駆動する周回ベルトやケーブル等からなる索状体(図示略)を案内するために使用される索状体用案内板15も、一体成形されている。
【0021】
上記の略C形断面形状の外枠部11、略C形断面形状の梁部12の形態をより明確に示すために、図3のA−A断面図、B−B断面図、C−C断面図を、図4、図5、図6に示す。略C形断面形状の外枠部11は、本実施態様に示すように、ステップ構造体5の平面形状の外形の全周に沿って延びているのではなく、ステップ構造体5の平面形状の外形に沿って部分的に延びており、図6に示すように、略C形断面形状の外枠部11ではなく、単なる一定厚みの外枠部16に形成されている箇所もある。
【0022】
このように構成されたステップ構造体5においては、CFRPから構成されることにより、ガラス繊維強化プラスチックなどから構成される場合に比べ、軽量化を達成しつつ、CFRP自体の物性により、より高い剛性、強度の発現が可能となる。つまり、望ましい状態にて、軽量化と高い剛性、強度の両立が可能となる。とくに、外枠部11の略C形断面形状によりステップ構造体5の外縁部が少なくとも部分的に強化され、梁部12を配置してその断面形状を略C形断面形状とすることにより、ステップ構造体5の部材内部の剛性・強度が向上され、これら略C形断面形状の外枠部11と車両内側から車両外側に向かって延びる略C形断面形状の梁部12とを接続した構造により、ステップ構造体5全体としての剛性・強度が大幅に向上される。しかも、このような略C形断面形状部位では、とくに厚肉部を形成することなく、比較的薄肉にて断面形状的に剛性・強度の向上を達成できるから、軽量化を促進しつつ、構造的に高い剛性・強度を確保できるようになる。その結果、従来のスチール製のステップ構造体に比べ、大幅な軽量化を達成しつつ、スチール比同等の剛性を確保でき、必要な強度を発現できる。
【0023】
また、ガイドレール13が、さらには車体への取り付け用ボス部14、周回ベルト用案内板15まで、ステップ構造体5に一体成形されているので、部品点数の大幅な削減が可能となり、組み付け作業性の向上も可能となる。
【0024】
さらに、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を使用することにより、複雑な形状を有するステップ構造体5を、とくに困難性を伴うことなく一体成形することが可能になる。また、前述したように、上型、下型からなる成形型のキャビティ内で一体成形とすることにより、射出成形等の場合に比べ、成形品質の向上、材料の歩留りの改善を狙うことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係る車両スライドドア用ステップ構造体は、スライドドアを備えたあらゆる車両に対して適用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 車両
2 スライドドア
3 スライドドア開口部
4 ドアスライド機構
5 ステップ構造体
11 略C形断面形状の外枠部
12 略C形断面形状の梁部
13 ガイドレール
14 車体への取付け用ボス部
15 索状体用案内板
16 一定厚みの外枠部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のスライドドアのドアスライド機構の一部を構成するとともに、スライドドア開口部におけるステップ側パネルを構成するステップ構造体において、該ステップ構造体が炭素繊維強化プラスチックから構成されており、該ステップ構造体は、その平面形状の外形に沿って少なくとも部分的に延びる略C形断面形状の外枠部と、ステップ構造体内において前記外枠部の内側に接続され車両内側から車両外側に向かって延びるように配置された略C形断面形状の梁部とを有し、かつ、少なくともスライドドアを開閉方向に案内するためのガイドレールがステップ構造体に一体成形されていることを特徴とする車両スライドドア用ステップ構造体。
【請求項2】
ステップ構造体を構成する炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂からなる、請求項1に記載の車両スライドドア用ステップ構造体。
【請求項3】
ステップ構造体を構成する炭素繊維強化プラスチックの強化繊維に炭素繊維の短繊維が使用されている、請求項1または2に記載の車両スライドドア用ステップ構造体。
【請求項4】
ステップ構造体が、さらに、車体への取付け用ボス部を有し、該取付け用ボス部もステップ構造体に一体成形されている、請求項1〜3のいずれかに記載の車両スライドドア用ステップ構造体。
【請求項5】
ステップ構造体が、さらに、前記ドアスライド機構に設けられスライドドアを開閉方向に駆動する索状体を案内するための案内板を有し、該周回ベルトの案内板もステップ構造体に一体成形されている、請求項1〜4のいずれかに記載の車両スライドドア用ステップ構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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