説明

車両ドア操作中継装置、車両ドア操作中継セット及びスライドドアの製造方法

【課題】ベルクランクと車両ドア操作中継装置とを近接配置した場合に、車外ドアハンドルの操作フィーリングが悪化することを防止することが可能な車両ドア操作中継装置、車両ドア操作中継セット及びスライドドアの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の車両ドア操作中継セット80は、ベルクランク51の回動中心と車外ハンドル連結レバー150の回動中心とが平行に配置された状態でリモコン装置100の固定ベース101がスライドドア90のインナーパネル90P2に固定され、車外ハンドル連結レバー150の端部には、その車外ハンドル連結レバー150の回動中心と平行な方向でベルクランク51の出力端53Tのピン係合孔55に凹凸係合して車外ハンドル連結レバー150とベルクランク51とを連結する連結ピン154が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のスライドドアに組み付けられる車両ドア操作中継装置、車両ドア操作中継セット及びスライドドアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の車両ドア操作中継セットとしては、例えば、図24に示すように、車外ドアハンドル1とドアラッチ装置2,2,2との間を、ベルクランク3及び車両ドア操作中継装置4によって連結したものが知られている。この車両ドア操作中継セットでは、ベルクランク3と車両ドア操作中継装置4との間が動力伝達ケーブル5によって連結されていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−97122号公報(第16図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来の車両ドア操作中継セットでは、車外ドアハンドル1を操作した場合に、動力伝達ケーブル5における中空のアウターチューブとその内側に通されたインナーケーブルとが擦れ合う。特に、配置スペースの制約等によりベルクランク3と車両ドア操作中継装置4とを接近させて配置せざるを得ない場合には、動力伝達ケーブル5の中間部の曲げ半径が小さくなってインナーケーブルとアウターチューブとの間の摩擦抵抗が増加し、車外ドアハンドル1の操作フィーリングが悪化するという問題が生じ得た。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ベルクランクと車両ドア操作中継装置とを近接配置した場合に、車外ドアハンドルの操作フィーリングが悪化することを防止することが可能な車両ドア操作中継装置、車両ドア操作中継セット及びスライドドアの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る車両ドア操作中継装置は、固定ベースに第1入力レバーと第1出力レバーとを含む複数のレバーを回動可能に支持して備え、車両のスライドドアの内壁に固定ベースが固定され、そのスライドドアの車外ドアハンドルと連動して回動するベルクランクに第1入力レバーが連結される一方、スライドドアを閉止状態でラッチする閉止ドアラッチ装置に第1出力レバーが連係され、スライドドアのラッチを解除するためのラッチ解除操作力を、第1入力レバーから第1出力レバーへと伝達可能なロック解除状態と伝達不能なロック状態とに切替可能な車両ドア操作中継装置において、固定ベースは、ベルクランクの回動中心と第1入力レバーの回動中心とが平行に配置された状態でスライドドアの内壁に固定され、第1入力レバーの端部には、その第1入力レバーの回動中心と平行な方向でベルクランクの出力端に凹凸係合して第1入力レバーをベルクランクに連結する凹凸係合部が設けられたところに特徴を有する。なお、「ベルクランクの回動中心と第1入力レバーの回動中心とが平行に配置された状態」とは、「ベルクランクの回動中心と第1入力レバーの回動中心とが同軸上に並ぶように配置された状態」を含む意味である。
【0007】
請求項2の発明に係る車両ドア操作中継セットは、請求項1に記載の車両ドア操作中継装置とベルクランクとを有したところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の車両ドア操作中継セットにおいて、車両のスライドドアの内壁に固定されるベルクランク支持ベースにベルクランクを回動可能に支持してなる中継補助具を備えたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載の車両ドア操作中継セットにおいて、ベルクランクの回動中心と第1入力レバーの回動中心とを同軸上に並ぶように配置したところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載の車両ドア操作中継セットにおいて、第1入力レバーの端部に備えた凹凸係合部と、その凹凸係合部と対応してベルクランクの出力端に設けられた被凹凸係合部との何れか一方を連結ピンとすると共に、他方を連結ピンと凹凸係合するピン係合孔とし、ピン係合孔の開口縁から突出して先方に向かうに従って拡開したピン挿入ガイドを備えたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の車両ドア操作中継セットにおいて、ピン係合孔を長孔として、その長手方向で連結ピンを移動可能としたところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項5又は6に記載の車両ドア操作中継セットにおいて、第1入力レバーから連結ピンを突出させたところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項3乃至7の何れか1の請求項に記載の車両ドア操作中継セットにおいて、ベルクランクは、回動中心に沿って延びかつベルクランク支持ベースを貫通した中心軸体の一端部に入力回動片を備える一方、他端部に出力回動片を備え、入力回動片と出力回動片とがベルクランク支持ベースの表裏に分けて配置されると共に、車外ドアハンドルと連動して往復動するロッドが、入力回動片の先端部に連結され、それらロッドと入力回動片との連結部分を視認可能とする覗き窓を、ベルクランク支持ベースに貫通形成したところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明に係るスライドドアの製造方法は、車両のスライドドアの車外ドアハンドルと連動して回動するベルクランクと、スライドドアを閉止状態でラッチする閉止ドアラッチ装置との間の力の伝達経路の途中に車両ドア操作中継装置を備え、その車両ドア操作中継装置がスライドドアのラッチを解除するためのラッチ解除操作力を、ベルクランクから閉止ドアラッチ装置へと伝達可能なロック解除状態と伝達不能なロック状態とに切替可能なスライドドアの製造方法において、車両ドア操作中継装置の動力入力部に備えた回動部品と、ベルクランクの出力端とに、ベルクランクの回動中心と平行な方向で互いに凹凸係合する凹凸係合部と被凹凸係合部とを設けておき、スライドドアにベルクランクを予め組み付けておき、車両ドア操作中継装置をベルクランクの回動軸の軸方向からスライドドアに接近させて、凹凸係合部と被凹凸係合部とを凹凸係合させながらスライドドアに宛って固定するところに特徴を有する。
【0015】
請求項10の発明は、請求項9に記載のスライドドアの製造方法において、スライドドアに宛がって固定されるベルクランク支持ベースにベルクランクを回動可能に支持して、ベルクランク支持ベースの表裏にベルクランクの入力端と出力端とを分けて配置すると共に、ベルクランクの入力端と車外ドアハンドルに連動して往復動するロッドとの連結部分を視認可能とする覗き窓をベルクランク支持ベースに貫通形成しておき、スライドドアにベルクランク支持ベースを固定した状態で、ベルクランクの入力端とロッドとの連結作業を、覗き窓から視認しながら行うところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0016】
[請求項1,2及び3の発明]
請求項1の発明に係る車両ドア操作中継装置及び請求項2の発明に係る車両ドア操作中継セットによれば、車外ドアハンドルの操作によってベルクランク及び第1入力レバーが連動回転し、車両ドア操作中継装置がロック解除状態である場合には、第1入力レバーから第1出力レバーにラッチ解除操作力が伝達されて、閉止ドアラッチ装置によるスライドドアのラッチが解除される。また、ロック状態である場合には、第1入力レバーと第1出力レバーとの間でラッチ解除操作力の伝達が遮断され、閉止ドアラッチ装置によるラッチが維持される。
【0017】
そして、請求項1及び請求項2の発明によれば、ベルクランクの回動中心と第1入力レバーの回動中心とを平行に配置した状態で、車両ドア操作中継装置をスライドドアの内壁に固定すると、第1入力レバーの端部に設けられた凹凸係合部が、その第1入力レバーの回動中心と平行な方向でベルクランクの出力端に凹凸係合して、第1入力レバーとベルクランクとが連動回転可能に連結される。これにより、ベルクランクと車両ドア操作中継装置とを近接配置した場合に、車外ドアハンドルの操作フィーリングが悪化することを防ぐことができる。
【0018】
ここで、ベルクランクは、スライドドアの内壁に直接、回動可能に支持されていてもよいし、スライドドアの内壁に固定されるベルクランク支持ベースに回動可能に支持されていてもよい(請求項3の発明)。
【0019】
[請求項4の発明]
請求項4の発明によれば、ベルクランクの回動中心と第1入力レバーの回動中心とを同軸上に並ぶように配置したことで、これらを非同軸上に配置した場合に比べて、車両ドア操作中継セットのコンパクト化を図ることができる。
【0020】
[請求項5の発明]
請求項5の発明によれば、第1入力レバーの端部とベルクランクの出力端との間の凹凸係合を、連結ピンとピン係合孔とによる凹凸係合にしたから、凹凸係合の信頼性が向上する。また、連結ピンがピン係合孔に挿入される前に、連結ピンとピン係合孔の位置が多少ずれていても、ピン挿入ガイドによって連結ピンをピン係合孔へと案内することができるので、ピン係合孔への連結ピンの挿入作業を容易に行うことができる。
【0021】
[請求項6の発明]
請求項6の発明によれば、ピン係合孔を長孔としたから、例えば、組み付け誤差等によって生じた連結ピンとピン係合孔との位置のばらつきを、ピン係合孔によって吸収することができる。また、第1入力レバーとベルクランクの回動中心を非同軸上に配置した場合には、ベルクランクの回動に伴うベルクランクの出力端と第1入力レバーの端部との接近及び離間を、ピン係合孔によって吸収することができる。
【0022】
[請求項7の発明]
請求項7の発明によれば、連結ピンを第1入力レバーから突出させたので、例えば、ベルクランクがスライドドアの内壁に支持されかつ、車両ドア操作中継装置がスライドドアの内壁に組み付けられていないときに、スライドドアの内壁から組み付け作業者の側に連結ピンが突出した状態になることを回避することができる。
【0023】
[請求項8の発明]
請求項8の構成によれば、ベルクランク支持ベースをスライドドアの内壁に固定した状態で、ベルクランクの入力回動片は、組み付け作業者から見てベルクランク支持ベースの裏側に配置され、その裏側でベルクランクの入力回動片の先端部と、車外ドアハンドルと連動して往復動するロッドとの連結作業を行う必要がある。これに対し、本発明によれば、ベルクランク支持ベースを貫通した覗き窓から入力回動片の先端部とロッドとの連結部分を確認しながら連結作業を行うことができるから、連結作業を容易かつ確実に行うことができる。
【0024】
[請求項9の発明]
請求項9の発明に係るスライドドアの製造方法によれば、スライドドアに車両ドア操作中継装置を固定する際には、スライドドアにベルクランクを予め組み付けておき、車両ドア操作中継装置をベルクランクの回動軸の軸方向からスライドドアに接近させていく。そして、車両ドア操作中継装置の動力入力部に備えた回動部品とベルクランクの出力端とに備えた凹凸係合部及び被凹凸係合部をベルクランクの回動中心と平行な方向で凹凸係合させながら、車両ドア操作中継装置をスライドドアに宛がって固定する。
【0025】
このように、本発明によれば、スライドドアに車両ドア操作中継装置を固定する作業の過程で、車両ドア操作中継装置の動力入力部に備えた回動部品とベルクランクの出力端との凹凸係合を同時進行で行うことができる。よって、ベルクランクと車両ドア操作中継装置とをスライドドアに組み付けた後で、それらベルクランクと車両ドア操作中継装置とを動力伝達ケーブルによって別途連結する必要がある従来の製造方法に比べて、製造効率が向上する。そして、車両ドア操作中継装置の動力入力部に備えた回動部品とベルクランクの出力端とを、ベルクランクの回動中心と平行な方向で凹凸係合させたから、ベルクランクと車両ドア操作中継装置とを近接配置した場合に、車外ドアハンドルの操作フィーリングが悪化することを防ぐことができる。
【0026】
[請求項10の発明]
請求項10の発明に係るスライドドアの製造方法によれば、ベルクランク支持ベースをスライドドアに宛がって固定した状態で、ベルクランクの入力端は、組み付け作業者から見てベルクランク支持ベースの裏側に配置され、その裏側でベルクランクの入力端と、車外ドアハンドルと連動して往復動するロッドとの連結作業を行う必要がある。これに対し、本発明によれば、ベルクランク支持ベースを貫通した覗き窓からベルクランクの入力端とロッドとの連結部分を視認しながら連結作業を行うことができるから、連結作業を容易かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両ドア操作中継セットを備えた車両の概念図
【図2】アウターパネル側から見たスライドドアの概念図
【図3】インナーパネル側から見たスライドドアの概念図
【図4】ベルクランクアッシをインナーパネルに組み付けた状態のスライドドアの概念図
【図5】ラッチとストライカが噛み合う前の閉止ドアラッチ装置の側面図
【図6】ラッチとストライカが噛み合った状態の閉止ドアラッチ装置の側面図
【図7】リモコン装置の斜視図
【図8】リモコン装置に備えたレバー機構の正面図
【図9】レバー機構を構成する各レバーの正面図
【図10】(A)当接状態における動力中継ピンと回動干渉部の正面図、(B)動力中継ピンの側面図、(C)X−X線切断面における断面図
【図11】車内ドアハンドルを閉操作したときのレバー機構の正面図
【図12】車内ドアハンドルを開操作したときのレバー機構の正面図
【図13】車外ドアハンドルを操作したときのレバー機構の正面図
【図14】非操作状態におけるレバー機構の正面図
【図15】リリースモータによりドアラッチ装置がラッチ解除状態に維持されているときのレバー機構の正面図
【図16】モータ動力伝達レバー等の異常停止に対してエマージェンシー操作を行ったときのレバー機構の正面図
【図17】エマージェンシー操作によってラッチ可能な状態に復帰したレバー機構の正面図
【図18】エマージェンシー操作後に解錠操作を行ったときのレバー機構の正面図
【図19】解錠操作後に車外ドアハンドルの操作を行ったときのレバー機構の正面図
【図20】車両ドア操作中継セットの分解斜視図
【図21】インナーパネルに対する固定面側から見たベルクランクアッシの斜視図
【図22】リモコン装置との対向面側から見たベルクランクアッシの斜視図
【図23】ベルクランクの出力端と車外ハンドル連結レバーとの連結構造を示す断面図
【図24】従来の車両ドア操作中継セットを備えたスライドドアの概念図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図23に基づいて説明する。図1に示した車両300は、運転席側がヒンジ式のドアであるのに対し、助手席側が、本発明を適用したスライドドア90となっている。スライドドア90は、車両本体99の乗降口99Wを閉止した状態から斜め後方に後退しかつ、途中から真っ直ぐ後退して全開状態になる。スライドドア90を開閉操作するために、スライドドア90の室外面(アウターパネル90P1)には車外ドアハンドル17(図2参照)が配置され、室内面(図示しないドアトリム)には車内ドアハンドル18(図3参照)が配置されている。
【0029】
車外ドアハンドル17及び車内ドアハンドル18は、それぞれスライドドア90の前端寄り位置に配設されている。車外ドアハンドル17は、例えば、横方向に延びたアーチ状のグリップ式ハンドルであり、手前に引いて操作することが可能となっている。一方、車内ドアハンドル18は、上下方向に延びた回転軸に軸支されており、スライドドア90の前後方向に回動操作することが可能となっている。また、スライドドア90の室内面には、車外ドアハンドル17及び車内ドアハンドル18の操作によってスライドドア90が開かないように施錠するためのドアロック操作部16が備えられている(図3参照)。
【0030】
スライドドア90の内部空間には、スライドドア90を閉止状態にラッチするためのドアラッチ装置10A,10B(以下、適宜「閉止ドアラッチ装置10A,10B」という)と、全開状態にラッチするためのドアラッチ装置10C(以下、適宜「全開ドアラッチ装置10C」という)が備えられている。また、スライドドア90の内部空間には、車外ドアハンドル17及び車内ドアハンドル18に対する操作力(ラッチ解除操作力)をドアラッチ装置10A,10B,10Cに伝達するために、車両ドア操作中継セット80が備えられている(図3参照)。車両ドア操作中継セット80は、後述するベルクランクアッシ50(本発明の「中継補助具」に相当する)とリモートコントロール装置100(本発明の「車両ドア操作中継装置」に相当する)とから構成されている(図3参照)。なお、以下の説明では、リモートコントロール装置100を「リモコン装置100」という。
【0031】
ドアラッチ装置10A,10B,10Cは、スライドドア90における所定の各所に配置されており、これらに対応して、乗降口99Wの内側面における三箇所にはストライカ40が設けられている。なお、図1及び図2には、二箇所のストライカ40,40のみが示されている。
【0032】
閉止ドアラッチ装置10A,10Bは、スライドドア90の後端部と前端部とに配置されている。閉止ドアラッチ装置10A,10Bは、図5に示すように、ベース盤11に、ラッチ20、ラチェット30、ストライカ受容溝12等を有するラッチ・ラチェット機構20Kを設けた構成となっている。以下、スライドドア90の後端部に配置された閉止ドアラッチ装置10Aを例に挙げて説明する。
【0033】
ストライカ受容溝12は水平方向に延びかつ、その一端部が車内側に向かって開放しており、他端部は閉じている。スライドドア90を閉じるとストライカ受容溝12の一端部からストライカ受容溝12内にストライカ40が進入する。
【0034】
ベース盤11のうちストライカ受容溝12より下方には、ラチェット30が回動可能に軸支されている。ラチェット30は、回動軸30Jからラッチ20に向かって突出している。ラチェット30とベース盤11との間にはトーションコイルばね30Sが備えられ、このトーションコイルばね30Sによってラチェット30が図5における反時計回り方向に付勢されている。また、ラチェット30は、ベース盤11を隔てて反対側にラチェット駆動レバー30Rを一体に備えており、そのラチェット駆動レバー30Rとリモコン装置100とがオープンケーブル91W(図3参照)によって連結されている。オープンケーブル91Wは、トーションコイルばね30Sによってラチェット30側に引っ張られており、トーションコイルばね30Sの付勢力に抗してオープンケーブル91Wがリモコン装置100側に引っ張られると、ラチェット30が図6における時計回り方向に回動する。
【0035】
ベース盤11のうちストライカ受容溝12より上方にはラッチ20が回動可能に軸支されている。ラッチ20には、1対の係止爪21,22が備えられ、それら係止爪21,22の間がストライカ受容部23になっている。また、ラッチ20は、ベース盤11との間に設けたトーションコイルばね20Sによりラッチ解除方向(図5における時計回り方向)に付勢されている。そして、スライドドア90を開けた状態では、図5に示すように、ラッチ20がラッチ解除方向の一端に位置決めされる。
【0036】
この状態でスライドドア90を閉止方向にスライドさせると、ストライカ受容溝12に進入したストライカ40が図5に示すように、ラッチ20のストライカ受容部23内に受容されると共に、ストライカ40が後側の係止爪22を押してラッチ20がラッチ解除方向とは逆のラッチ方向(図5における反時計回り方向)に回動する。これにより、図6に示すようにラッチ20がストライカ40と噛み合った状態になる。
【0037】
このとき、ラチェット30とラッチ20の前側の係止爪21とが当接して、ラッチ20のラッチ解除方向(図6における時計回り方向)への回動が禁止される。即ち、ラッチ20とストライカ40とが噛み合った状態に保持される。
【0038】
また、ラッチ20とストライカ40が噛み合った(スライドドア90が閉止状態でラッチされた)状態で車外ドアハンドル17を操作又は車内ドアハンドル18を開操作すると、オープンケーブル91Wがリモコン装置100側に引っ張られる。すると、図6において二点鎖線で示したように、ラチェット30が図6における時計回り方向に回動して、ラッチ20の回動領域の外側に退避し、ラチェット30によるラッチ20の回動規制が解除され、ラッチ20のラッチ解除方向への回動が許容される。
【0039】
以上がスライドドア90の後端部に配置された閉止ドアラッチ装置10Aの説明であるが、これと同様に動作するラッチ・ラチェット機構(図示せず)が、スライドドア90の前端部に配置された閉止ドアラッチ装置10Bにも備えられている。閉止ドアラッチ装置10Bのラチェットとリモコン装置100との間はオープンケーブル92W(図3参照)によって連結されており、車外ドアハンドル17を操作又は車内ドアハンドル18を開操作すると、オープケーブル92Wがリモコン装置100側に引っ張られて、閉止ドアラッチ装置10Bにおいてもラチェットによるラッチの回動規制が解除される。
【0040】
そして、閉止ドアラッチ装置10A,10Bの両方のラッチ・ラチェット機構20Kにおいて、ラッチ20がストライカ40と噛み合った状態(図6に示す状態)に保持されたとき、スライドドア90が閉止状態にラッチされる。また、閉止ドアラッチ装置10A,10Bの両方のラッチ・ラチェット機構20Kにおいて、ラチェット30によるラッチ20の回動規制が解除されると、閉止状態のラッチが解除されて、スライドドア90を開ける(開放方向にスライドさせる)ことが可能になる。
【0041】
ここで、車両300には、スライドドア90を電動スライドさせる図示しないパワースライド装置が備えられている。パワースライド装置がオンしている場合には、閉止ドアラッチ装置10A,10Bにおけるラッチ解除に伴ってパワースライド装置が作動し、スライドドア90が電動で開かれる。
【0042】
全開ドアラッチ装置10Cにも、閉止ドアラッチ装置10A,10Bと同様に動作するラッチ・ラチェット機構が備えられている。このラッチ・ラチェット機構は、スライドドア90を全開にしたときに、乗降口99Wの下辺部に備えたストライカ40(図2参照)にラッチが噛み合うと共に、そのラッチにラチェットが当接してラッチ解除方向への回動を規制する。つまり、スライドドア90を全開状態にラッチする。そして、全開ドアラッチ装置10Cのラチェットとリモコン装置100との間は、オープンケーブル93W(図3参照)によって連結されている。
【0043】
スライドドア90が全開状態にラッチされた状態で、車外ドアハンドル17を操作又は車内ドアハンドル18を閉操作すると、オープンケーブル93Wがリモコン装置100側に引っ張られる。すると、全開ドアラッチ装置10Cにおいてラチェットによるラッチの回動規制が解除され、全開状態のラッチが解除されて、スライドドア90を閉める(閉止方向にスライドさせる)ことが可能になる。なお、パワースライド装置がオンしている場合には、全開ドアラッチ装置10Cにおけるラッチ解除に伴ってパワースライド装置が作動し、スライドドア90が電動で閉められる。
【0044】
以上が、各ドアラッチ装置10A,10B,10Cに関する説明である。次に、本発明の「車両ドア操作中継装置」に相当するリモコン装置100について説明する。図3に示すように、リモコン装置100は、スライドドア90の前端寄り位置に組み付けられている。図7に示すようにリモコン装置100は、板金製の固定ベース101に、車内ドアハンドル18、ドアロック操作部16、レバー機構100K、ロッキングアクチュエータ185等の各種部品を組み付けてなる。
【0045】
固定ベース101は、縦長の略平板状をなしており、スライドドア90のインナーパネル90P2(本発明に係る「スライドドアの内壁」に相当する)に宛がって固定されている(図3参照)。固定ベース101の外縁寄り位置には、複数のボルト挿通孔101H,101Hが貫通形成されている。これらボルト挿通孔101H,101Hは、インナーパネル90P2の所定位置に予め形成された固定用孔(図示せず)と一致するように配設されており、それらボルト挿通孔101H,101Hと固定用孔とを貫通したボルト(図示せず)によってリモコン装置100がインナーパネル90P2に固定されている。
【0046】
固定ベース101のうちインナーパネル90P2に宛がわれる固定面には、レバー機構100Kが設けられており、そのレバー機構100Kが後述するベルクランクアッシ50と対向配置されている(図3参照)。固定ベース101のうちレバー機構100Kが設けられた面とは反対側の面には、車内ドアハンドル18及びドアロック操作部16が設けられ、これらは、前記したようにスライドドア90の室内面(ドアトリム)から露出している。
【0047】
車内ドアハンドル18及びドアロック操作部16は、固定ベース101のうちスライドドア90の前端側の側辺に配設されている。
【0048】
車内ドアハンドル18は、非操作時において、トーションコイルばね18A(図7参照)によって中立位置に保持されており、その中立位置からスライドドア90の前端側に傾ける「閉操作」と、中立位置からスライドドア90の後端側に傾ける「開操作」とを行うことが可能となっている。
【0049】
ドアロック操作部16は、車内ドアハンドル18の下方に配置されており、前後方向に移動操作することが可能となっている。具体的には、ドアロック操作部16を、図3に示した車内ドアハンドル18の真下位置からスライドドア90の後端側(図3における左側)に移動操作(ロック解除操作)すると、ドアロックがロック解除状態となり、ドアロック操作部16を前側(図3における右側)に移動操作(ロック操作)して図3に示した位置にすると、ドアロックがロック状態になる。
【0050】
固定ベース101のうち、車内ドアハンドル18の側方位置にはメイン軸体102が設けられている。メイン軸体102は、固定ベース101から車内ドアハンドル18とは反対側に(ベルクランクアッシ50に向かって)起立している。メイン軸体102には、複数の回動レバーが回動可能に支持されている。それら回動レバーとは、固定ベース101に近い側から順に、動力中継レバー120、ラチェット連動レバー130、車内ハンドル連結レバー140、車外ハンドル連結レバー150、モータ動力伝達レバー160及び全開ラッチ解除レバー170である(図8参照)。
【0051】
また、図8に示すように、固定ベース101は、上記6つの回動レバー120〜170とは別軸でロッキングレバー180を回動可能に支持している。メイン軸体102に軸支した各回動レバー120〜170が金属製であるのに対し、ロッキングレバー180は樹脂製となっている。また、ロッキングレバー180には、例えば、弾性リベットで構成されたサブ軸体103が一体形成されており、固定ベース101のうち、メイン軸体102の斜め下方にはリベット孔(図示せず)が貫通形成されている。そして、リベット孔に圧入係止されたサブ軸体103がメイン軸体102と平行となっており、サブ軸体103を中心にしてロッキングレバー180が回動可能となっている。
【0052】
以下、レバー機構100Kを構成する各レバー120〜180について詳説する。図9(A)に示すように、全開ラッチ解除レバー170は、その回動中心(メイン軸体102)から相反する方向に第1と第2のレバー突片171,172が突出している。第1のレバー突片171の先端部にはオープンケーブル93Wが連結されており(図8参照)、そのオープンケーブル93Wの先に全開ドアラッチ装置10Cのラチェットが連結されている。第2のレバー突片172には、メイン軸体102を中心とした円弧状の長孔175が貫通形成されている。図7に示すように、長孔175の内側には摺動駒175Bが摺動可能に係止されており、その摺動駒175Bから延びたロッド112の先に、車内ドアハンドル18が連結されている。車内ドアハンドル18を閉操作すると、図8から図11への変化に示すように、全開ラッチ解除レバー170がロッド112に押されて原点位置から第1回動方向RD1(図8における反時計回り方向)に回動し、オープンケーブル93Wがリモコン装置100側に引っ張られる。なお、車内ドアハンドル18を開操作したとき、ロッド112は車内ドアハンドル18側に引かれるが、摺動駒175Bが長孔175内を移動するので、全開ラッチ解除レバー170は原点位置に留まる(図12参照)。
【0053】
全開ラッチ解除レバー170の第1のレバー突片171と固定ベース101とには、引張コイルばね176(図7を参照)の両端が連結されており、その引張コイルばね176によって全開ラッチ解除レバー170が第1回動方向RD1とは逆向きの第2回動方向RD2(図8における時計回り方向)に付勢されている。
【0054】
また、全開ラッチ解除レバー170には、スイッチ押下突片174が備えられている。スイッチ押下突片174は、固定ベース101の後端部に固定されたスイッチ110(図8参照)に向かって突出しており、全開ラッチ解除レバー170が図8に示す原点位置から第1回動方向RD1に回動したときにスイッチ押下突片174がスイッチ110をオンする。さらに、第2のレバー突片172の回動半径方向の先端部には、連動当接片173が形成されている。連動当接片173は先端部が直角に折れ曲がって固定ベース101側に突出している。
【0055】
車内ハンドル連結レバー140は、全開ラッチ解除レバー170における第1のレバー突片171の裏側に重なっている。図9(D)に示すように、車内ハンドル連結レバー140のうち、回動半径方向の先端部には、メイン軸体102を中心とした円弧状の長孔144が貫通形成されている。長孔144には摺動駒144Bが摺動可能に係止されており、その摺動駒144Bから延びたロッド113の先に車内ドアハンドル18が連結されている(図7を参照)。また、車内ハンドル連結レバー140は、引張コイルばね145(図7を参照)によって第1回動方向RD1とは逆の第2回動方向RD2に付勢されている。車内ドアハンドル18を開操作すると、ロッド113が車内ドアハンドル18側に引かれる。すると、図8から図12への変化に示すように、車内ハンドル連結レバー140が原点位置から第1回動方向RD1(図8における反時計回り方向)に回動する。なお、車内ドアハンドル18を閉操作するとロッド113が車内ハンドル連結レバー140側に押されるが、摺動駒142Bが長孔142内を移動するので、車内ハンドル連結レバー140は原点位置に留まる(図11参照)。
【0056】
図9(D)に示すように、車内ハンドル連結レバー140にはスイッチ押下突片143が備えられている。スイッチ押下突片143は、固定ベース101の後端縁に固定されたスイッチ111(図8を参照)に向かって突出しており、車内ハンドル連結レバー140が原点位置から第1回動方向RD1に回動したときに、スイッチ押下突片143がスイッチ111をオンする。
【0057】
図9(F)に示すように、動力中継レバー120は第1と第2のレバー突片121,122を備えている。第2のレバー突片122は、後述するラチェット連動レバー130(図9(E)参照)の裏側に重なっている。第2のレバー突片122は、回動中心(メイン軸体102)から回動半径方向に突出しかつ途中で第2回動方向RD2に曲がったL形をなしており、そのL形に沿ってL型長孔123が貫通形成されている。L型長孔123は、回動半径方向に延びたL型第1辺長孔123Aと、L型第1辺長孔123Aのうち回動中心(メイン軸体102)から離れた端部から第2回動方向RD2に延びたL型第2辺長孔123Bとからなる。そして、L型長孔123内を後述する動力中継ピン200が貫通している。
【0058】
動力中継レバー120における第1のレバー突片121は、車内ハンドル連結レバー140に対して第1回動方向RD1に先行した位置に配置されている(図11参照)。また、第1のレバー突片121には、その回動半径方向の先端部を固定ベース101とは反対側に直角曲げした連動当接片127が形成されている。
【0059】
さらに、動力中継レバー120には、スイッチ押下突片128が備えられている。スイッチ押下突片128は固定ベース101に固定されたスイッチ111(図8参照)に向かって突出しており、動力中継レバー120が原点位置から第1回動方向RD1に回動したときに、スイッチ押下突片128がスイッチ111をオンする。
【0060】
動力中継レバー120は、メイン軸体102の外側に遊嵌されたトーションコイルばね129(図7参照)によって第2回動方向RD2に付勢されている。トーションコイルばね129の一端はメイン軸体102の先端に係止され、他端は動力中継レバー120における第1のレバー突片121に係止されている。
【0061】
図9(E)に示すように、ラチェット連動レバー130は、その回動中心(メイン軸体102)から相反する方向に第1と第2のレバー突片131,132が突出している。第1のレバー突片131は車内ハンドル連結レバー140の裏側に配置されている。第1のレバー突片131の先端部にはオープンケーブル91W,92Wが連結されており(図8参照)、それらオープンケーブル91W,92Wの先に閉止ドアラッチ装置10A,10Bの各ラチェット30が連結されている(図3参照)。
【0062】
また、第1のレバー突片131の先端部にはストッパ部135が設けられている。ストッパ部135は、固定ベース101に向かって(図8に紙面奥側に向かって)突出しており、固定ベース101に貫通形成された開口部105内に配置されている。なお、ラチェット連動レバー130は、本発明の「第1出力レバー」に相当する。
【0063】
ラチェット連動レバー130のうち第2のレバー突片132は、動力中継レバー120における第2のレバー突片122に重なっている。第2のレバー突片132には、回動半径方向に延びたI型長孔133が貫通形成されている。I型長孔133は、ラチェット連動レバー130及び動力中継レバー120が共に原点位置のときに、動力中継レバー120のL型第1辺長孔123Aと重ね合わせ可能となっており、それらI型長孔133とL型長孔123とを動力中継ピン200が貫通している。そして、動力中継ピン200が、I型長孔133に沿って回動半径方向に往復動可能となっている。なお、I型長孔133のうち、回動中心側の端部には、動力中継ピン200をI型長孔133内に組み付ける為の円孔が連続形成されている。
【0064】
図9(F)に示すように、動力中継レバー120の第2のレバー突片122のうち、第1回動方向RD1を向いた側縁部には、連動当接片126が設けられている。連動当接片126は固定ベース101とは反対側に直角に曲げ起こされており、その連動当接片126が、ラチェット連動レバー130における第2のレバー突片132の側面(詳細には、第1回動方向RD1に突出した側面突部134。図9(E)参照)に当接可能となっている。従って、ラチェット連動レバー130は、動力中継レバー120を介してトーションコイルばね129の付勢力を受けて第2回動方向RD2に付勢される。そして、常には、第1のレバー突片131に備えたストッパ部135が固定ベース101に形成された開口部105の開口縁に当接することで、ラチェット連動レバー130及び動力中継レバー120が共に図8に示す原点位置に位置決めされている。
【0065】
図7に示すように、固定ベース101のうち、車内ドアハンドル18及びドアロック操作部16の下方位置には、ロッキングアクチュエータ185が取り付けられている。ロッキングアクチュエータ185は、動力中継ピン200をラチェット連動レバー130のI型長孔133内で往復動させるために設けられている。
【0066】
ロッキングアクチュエータ185は、電動モータ186とモータ出力レバー187とを備えている。モータ出力レバー187は、固定ベース101と直交した(メイン軸体102と平行な)回転軸回りで回動可能に支持されている。モータ出力レバー187の回動軸から離れた先端部には、ロッキングレバー180に向かって突出した円柱突起部(図示せず)が備えられている。また、ドアロック操作部16の移動操作に応じてモータ出力レバー187を回動させるために、ドアロック操作部16とモータ出力レバー187との間が、ピン16Aと長孔187Aとで連結されている(図7参照)。
【0067】
モータ出力レバー187と動力中継ピン200との間はロッキングレバー180によって連結されている。図9(G)に示すように、ロッキングレバー180は、その回動中心(サブ軸体103)からモータ出力レバー187に向かって延びた入力側レバー突片181と、動力中継ピン200に向かって延びた出力側レバー突片182とを有している。入力側レバー突片181の先端部は、モータ出力レバー187の裏側に重なっている。また、入力側レバー突片181の先端部には、回動半径方向に延びた長孔183が貫通形成され、その長孔183に、モータ出力レバー187の先端部から突出した円柱突起部(図示せず)が直動可能に嵌合している。
【0068】
ロッキングレバー180の出力側レバー突片182は、動力中継レバー120における第2のレバー突片122及びラチェット連動レバー130における第2のレバー突片132の裏側に重なっている。また、出力側レバー突片182には、円弧状の長孔184が貫通形成されており、その円弧状長孔184とI型長孔133とL型長孔123とが重なり合っている。そして、I型長孔133及びL型長孔123を貫通した動力中継ピン200が、ロッキングレバー180の円弧状長孔184に移動可能に嵌合している。
【0069】
ここで、図10を参照しながら動力中継ピン200について説明する。図10(B)に示すように、動力中継ピン200は、その軸方向の一端側から順に、第1軸部210、非円形軸部203、第2軸部220を備えており、第1軸部210と非円形軸部203との境界部分及び、非円形軸部203と第2軸部220との境界部分から、側方に向かって円板形の鍔部201,201が張り出している。
【0070】
図10(C)に示すように、非円形軸部203の断面形状は、I型長孔133の幅と略同一の二面幅を有する小判形をなしている。詳細には、長手方向の両端の円弧面203A,203Aを互いに平行な1対の平坦面203B,203Bで繋いだ形状をなしており、1対の平坦面203B,203BがI型長孔133の幅方向の(長手方向に延びた)両内側面と対向して、動力中継ピン200をI型長孔133に対して回り止めしている。また、1対の鍔部201,201が、ラチェット連動レバー130のレバー突片131を板厚方向から挟むことで、動力中継ピン200の軸方向への移動が禁止されている。
【0071】
第1軸部210は、ラチェット連動レバー130の第1のレバー突片131から固定ベース101(図10(A)における紙面奥側)に向かって突出している。第1軸部210の基端部は断面矩形(詳細には、断面正方形)の角形部211となっている。角形部211は、動力中継レバー120に形成されたL型長孔123(図9(F)参照)内に移動可能に嵌合している。
【0072】
一方、第1軸部210の先端部は断面円形の円柱部212となっている。円柱部212は、ロッキングレバー180の出力側レバー突片182に形成された円弧状長孔184(図9(G)参照)内に移動可能に嵌合している。
【0073】
動力中継ピン200の第2軸部220は、ラチェット連動レバー130のレバー突片131から、第1軸部210とは逆側(図10(A)における紙面手前側)に向かって突出している。第2軸部220は、断面矩形(詳細には、回動半径方向に長い断面長方形)の角柱状をなしており、第2軸部220の側面は、動力中継ピン200の軸方向と平行な4つの平坦面から構成されている(図10(A)参照)。これら4つの平坦面のうち、第2軸部220を軸方向から見たときに長手方向で並んだ互いに平行な2つの平坦面は、メイン軸体102を中心とした回動半径方向(I型長孔133の長手方向)を向いており、残りの2つの平坦面、即ち、第2軸部220を軸方向から見たときに短手方向で並んだ互いに平行な2つの平坦面は、メイン軸体102を中心とした第1回動方向RD1及び第2回動方向RD2を向いている。
【0074】
ここで、非円形軸部203における平坦面203B,203Bと、第2軸部220の側面のうち第1回動方向RD1及び第2回動方向RD2を向いた2つの平坦面とは、互いに平行に配置されている。従って、非円形軸部203をI型長孔133内に配置して組み付けられた動力中継ピン200は、第2軸部220の側面を構成する4つの平坦面が、必ず、メイン軸体102を中心とした回動方向と回動半径方向とを向いた配置になるので、動力中継ピン200の誤組み付けを防止することができる。
【0075】
そして、第2軸部220の側面を構成する4つの平坦面のうち、第2回動方向RD2を向いた一平坦面221(以下、適宜、「当接平坦面221」という)が、後述するモータ動力伝達レバー160と当接可能となっている。
【0076】
なお、動力中継ピン200は、上記した構成に限定するものではない。例えば、動力中継ピン200の第2軸部220は、当接平坦面221を有する断面D形や断面多角形をなしていてもよいし、円柱状をなしていてもよい。
【0077】
ロッキングレバー180の説明に戻ると、ドアロック操作部16、リモコンキー又は集中ドアロック等が操作されると、モータ出力レバー187が回動する。すると、ロッキングレバー180がサブ軸体103回りで回動する。このとき動力中継ピン200は、I型長孔133のうちメイン軸体102側の中心側端部(図14の実線で示す位置、以下、「正常ロック解除位置」という)と、I型長孔133のうちL型第2辺長孔123B側の外側端部(図14の二点鎖線で示す位置、以下「ロック位置」という)との間で移動する。
【0078】
例えば、ドアロック操作部16をロック操作すると、ロッキングレバー180がサブ軸体103回りを図14における時計回り方向に回動し、動力中継ピン200は同図の実線で示した「正常ロック解除位置」から二点鎖線で示した「ロック位置」に向かって移動する。一方、ドアロック操作部16をロック解除操作すると、ロッキングレバー180がサブ軸体103回りを図14における反時計回り方向に回動し、動力中継ピン200は「ロック位置」から「正常ロック解除位置」に向かって移動する。
【0079】
正常ロック解除位置のとき、動力中継ピン200はI型長孔133とL型第1辺長孔123Aとを貫通した状態になるので、ラチェット連動レバー130と動力中継レバー120との相対回転が動力中継ピン200によって禁止される(一体回転可能に連結される)。即ち、動力中継レバー120からラチェット連動レバー130に動力を伝達することが可能になる。
【0080】
一方、ロック位置のとき、動力中継ピン200はI型長孔133とL型第2辺長孔123Bとを貫通した状態になるので、L型第2辺長孔123Bの範囲で動力中継レバー120とラチェット連動レバー130とが相対回転可能になる。従って、動力中継ピン200がロック位置のときに、動力中継レバー120が図14に示す原点位置から第1回動方向RD1に回動しても、ラチェット連動レバー130は原点位置に留まることになる。即ち、動力中継レバー120からラチェット連動レバー130への動力伝達が遮断される。
【0081】
図9(C)に示すように、車外ハンドル連結レバー150は、第1と第2のレバー突片151,152を備えている。第1のレバー突片151は車内ハンドル連結レバー140に重なっており、第1回動方向RD1の前方に位置する動力中継レバー120の第1のレバー突片121(連動当接片127)と当接可能となっている(図14参照)。
【0082】
車外ハンドル連結レバー150のうち第2のレバー突片152は、次述するモータ動力伝達レバー160の裏側に重なっている(図14参照)。第2のレバー突片152の先端部には連動当接片153が備えられている。連動当接片153は、第2回動方向RD2を向いた側縁部から固定ベース101とは反対側に直角に曲げ起こされている。
【0083】
さらに、第2のレバー突片152の先端寄り位置には、本発明に係る連結ピン154が備えられている。連結ピン154は、例えば、丸棒状をなしており、第2のレバー突片152から固定ベース101とは反対側(図14の紙面手前側)、即ち、ベルクランクアッシ50に向かってメイン軸体102と平行に起立している。この連結ピン154によって、リモコン装置100とベルクランクアッシ50とが連動可能に連結(換言すれば、ベルクランクアッシ50からリモコン装置100へと動力を伝達可能に連結)されている。なお、連結ピン154を含むリモコン装置100とベルクランクアッシ50との連結構造については、後に詳説する。ここで、車外ハンドル連結レバー150は、本発明の「第1入力レバー」、「動力入力部に備えた回動部品」に相当する。
【0084】
図示しないが、リモコン装置100の側方には、レバー機構100Kに動力を付与するリリースモータが備えられており、レバー機構100Kには、リリースモータの動力を受けて第1回動方向RD1に回動するモータ動力伝達レバー160が備えられている。
【0085】
リリースモータは、車内ドアハンドル18又は車外ドアハンドル17に対するラッチ解除操作力によってドアラッチ装置10A,10Cによるラッチが解除された場合に作動する。具体的には、例えば、スイッチ110,111の何れかがオンされかつ、閉止ドアラッチ装置10A又は全開ドアラッチ装置10Cによるラッチが解除されたことを第1の作動条件として作動し、モータ動力伝達レバー160を第1回動方向RD1に回転駆動する。そして、パワースライド装置によるスライドドア90の移動が開始するまで、全開ラッチ解除レバー170及びラチェット連動レバー130を第1回動方向RD1の回動終端位置に停止保持することで、各ドアラッチ装置10A,10B,10Cをラッチ解除の状態に保持する。
【0086】
また、リリースモータは、ドアロックがロック解除状態でかつ遠隔操作(リモコンキーや車内のドア開閉ボタンの操作)が行われたことを第2の作動条件として作動し、モータ動力伝達レバー160を第1回動方向RD1に回転駆動する。そして、全開ラッチ解除レバー170及びラチェット連動レバー130を第1回動方向RD1の回動終端位置まで回動させて停止保持し、パワースライド装置によるスライドドア90の移動が開始するまで、ドアラッチ装置10A,10B,10Cをラッチ解除の状態に保持する。なお、ドアロックがロック解除状態であるか否かは、ロッキングアクチュエータ185に内蔵した図示しないポジションスイッチによって検出する。
【0087】
図14に示すように、モータ動力伝達レバー160は、車外ハンドル連結レバー150における第2のレバー突片152と重なっている。図9(B)に示すように、モータ動力伝達レバー160は、回動中心(メイン軸体102)に近い側に中心側末広部161を備え、回動中心から離れた側に外側末広部162を備えている。外側末広部162には、第2回動方向RD2に開放した略U字形の湾部166が形成され、その湾部166よりも回動中心(メイン軸体102)から離れた先端部に長孔163が貫通形成されている。湾部166は、モータ動力伝達レバー160及び車外ハンドル連結レバー150が共に原点位置のときに、車外ハンドル連結レバー150から起立した連結ピン154を受容可能となっている(図14参照)。長孔163は、メイン軸体102を中心とした円弧状に延びている。長孔163には、摺動駒163Bが摺動可能に係止され、その摺動駒163Bにリリースモータから延びたモータ出力ケーブル94Wが連結されている(図8参照)。リリースモータの動力によりモータ出力ケーブル94Wがリリースモータ側に引っ張られることにより、モータ動力伝達レバー160がメイン軸体102回りを第1回動方向RD1に回動する。
【0088】
モータ動力伝達レバー160のうち第1回動方向RD1を向いた側縁部には、連動当接片164が形成されている。連動当接片164は固定ベース101とは反対側に直角に曲げ起こされており、全開ラッチ解除レバー170に形成された連動当接片173と当接可能となっている(図12参照)。
【0089】
連動当接片164と連動当接片173とが当接することで、モータ動力伝達レバー160は引張コイルばね176(図7を参照)から第2回動方向RD2の付勢力を受ける。また、モータ動力伝達レバー160の先端部と車外ハンドル連結レバー150の連動当接片153とが当接することで、車外ハンドル連結レバー150も引張コイルばね176から第2回動方向RD2の付勢力を受ける。つまり、全開ラッチ解除レバー170、モータ動力伝達レバー160及び車外ハンドル連結レバー150は、引張コイルばね176の付勢力を連鎖的に受けて第2回動方向RD2に付勢されている。
【0090】
そして、固定ベース101の開口部106から曲げ起こされたストッパ104と車外ハンドル連結レバー150の連動当接片153とが当接することにより、車外ハンドル連結レバー150、モータ動力伝達レバー160及び全開ラッチ解除レバー170が、図8及び図14に示す原点位置に位置決めされている。
【0091】
図9(B)に示すように、モータ動力伝達レバー160の中心側末広部161のうち、第1回動方向RD1の先端部は、動力中継ピン200と当接可能な回動干渉部165となっている。回動干渉部165は、メイン軸体102を中心とした略扇形状をなしており、I型長孔133の長手方向に延びた一内側面に沿って回動半径方向に張り出している(図14参照)。
【0092】
図9(B)に示すように、回動干渉部165のうち、回動半径方向の外側を向いた径方向側面165Aは、メイン軸体102を中心とした円弧面で構成されている。また、回動干渉部165のうち、第1回動方向RD1を向いた側面は、当接平坦面165Bとなっている。当接平坦面165Bは、I型長孔133及びL型第1辺長孔123Aの長手方向(メイン軸体102を中心とした回動半径方向)に延びた一内側面と平行な直線状に延びている。そして、図14の実線で示すように、動力中継ピン200が正常ロック解除位置に位置する場合に、動力中継ピン200の第2軸部220の側面のうち、第2回動方向RD2を向いた当接平坦面221と回動干渉部165の当接平坦面165Bとが面当接可能となっている(図15参照)。
【0093】
回動干渉部165は、その回動領域が、I型長孔133と重なるように構成されている。詳細には、図10(A)に示すように、回動干渉部165の径方向側面165Aは、L型第2辺長孔123Bにおける回動中心(メイン軸体102)側の側辺よりも回動中心に近い側に配置されている。そして、I型長孔133のうち回動中心に近い中心側端部が回動干渉部165の回動領域と重なり、I型長孔133の中間部及び外側端部は、回動干渉部165の回動領域の外側に配置されている。
【0094】
即ち、回動干渉部165は、動力中継ピン200がI型長孔133の中心側端部である「正常ロック解除位置」に位置する場合に、その動力中継ピン200(正確には、第2軸部220)に側方から面当接して第1回動方向RD1に押すことが可能であり、動力中継ピン200が回動干渉部165の回動領域の外側に外れている場合に、回動干渉部165と動力中継ピン200とがすれ違って当接不可能となる。
【0095】
ここまでの構成に基づいてリモコン装置100の動作について説明する。まずは、ドアロックが「ロック解除状態」(動力中継ピン200が図14の実線で示す正常ロック解除位置)である場合の動作説明である。
【0096】
車内ドアハンドル18を閉操作すると、図8から図11への変化に示すように、全開ラッチ解除レバー170がロッド112(図7参照)に押されて原点位置から第1回動方向RD1(図8における反時計回り方向)に回動し、全開ラッチ解除レバー170に連結されたオープンケーブル93Wがリモコン装置100側に引っ張られる。従って、車内ドアハンドル18の閉操作を、スライドドア90が開いた状態で行うと、全開ドアラッチ装置10Cによるスライドドア90のラッチが解除され、スライドドア90を閉めることが可能になる。
【0097】
車内ドアハンドル18を開操作すると、図8から図12への変化に示すように、車内ハンドル連結レバー140が原点位置から第1回動方向RD1に回動して動力中継レバー120を原点位置から第1回動方向RD1に押すと共に、動力中継ピン200によって連結されたラチェット連動レバー130が原点位置から第1回動方向RD1に回動する。そして、ラチェット連動レバー130に連結されたオープンケーブル91W,92Wがリモコン装置100側に引っ張られる。従って、車内ドアハンドル18の開操作を、スライドドア90が閉まった状態で行うと、閉止ドアラッチ装置10A,10Bによるスライドドア90のラッチが解除され、スライドドア90を開けることが可能になる。
【0098】
また、車外ドアハンドル17を操作すると、図8から図13への変化に示すように、車外ハンドル連結レバー150が原点位置から第1回動方向RD1に回動し、車外ハンドル連結レバー150の第1のレバー突片151と動力中継レバー120の連動当接片127との当接によって、動力中継レバー120が原点位置から第1回動方向RD1に回動する。すると、正常ロック解除位置に位置する動力中継ピン200によって動力中継レバー120と連結したラチェット連動レバー130が原点位置から第1回動方向RD1に回動し、車外ハンドル連結レバー150の連動当接片153とモータ動力伝達レバー160の先端部との当接によりモータ動力伝達レバー160が原点位置から第1回動方向RD1に回動し、さらに、モータ動力伝達レバー160の連動当接片164と、全開ラッチ解除レバー170の連動当接片173との当接によって、全開ラッチ解除レバー170が原点位置から第1回動方向RD1に回動する。つまり、車外ドアハンドル17を操作すると、そのラッチ解除操作力によって、ラチェット連動レバー130に連結されたオープンケーブル91W,92Wと、全開ラッチ解除レバー170に連結されたオープンケーブル93Wとがリモコン装置100側に引っ張られる。
【0099】
従って、スライドドア90が開いた状態で、車外ドアハンドル17を操作すると、全開ドアラッチ装置10Cによるスライドドア90のラッチが解除されて、スライドドア90を閉めることが可能になる。また、スライドドア90が閉まった状態で、車外ドアハンドル17を操作すると、閉止ドアラッチ装置10A,10Bによるスライドドア90のラッチが解除されて、スライドドア90を開けることが可能になる。
【0100】
車内ドアハンドル18又は車外ドアハンドル17の操作を行わずに、遠隔操作を行う(リモコンキー又は車内のドア開閉ボタンを操作する)と、第2の作動条件の成立によってリリースモータが作動し、車外ハンドル連結レバー150を原点位置に残したまま、モータ動力伝達レバー160が原点位置から第1回動方向RD1に回転駆動され、そのモータ動力伝達レバー160に押されて全開ラッチ解除レバー170が同方向(第1回動方向RD1)に回動する(図15参照)。また、モータ動力伝達レバー160の回動干渉部165に備えた当接平坦面165Bと、動力中継ピン200の側面に備えた当接平坦面221とが面当接することにより、動力中継レバー120及びラチェット連動レバー130が原点位置から第1回動方向RD1に回動する。つまり、リリースモータのモータ動力によって、ラチェット連動レバー130に連結されたオープンケーブル91W,92Wと、全開ラッチ解除レバー170に連結されたオープンケーブル93Wとがリモコン装置100側に引っ張られる。
【0101】
従って、スライドドア90が開いた状態で遠隔操作を行うと、全開ドアラッチ装置10Cによるスライドドア90のラッチが解除され、スライドドア90を閉めることが可能になる。また、スライドドア90が閉まった状態で遠隔操作を行うと、閉止ドアラッチ装置10A,10Bによるスライドドア90のラッチが解除され、スライドドア90を開けることが可能になる。
【0102】
ここで、リリースモータは、ドアロックをロック解除状態にして遠隔操作を行ったときだけではなく、車内ドアハンドル18や車外ドアハンドル17の操作によって前記した第1の作動条件が成立したときにも作動する。即ち、スイッチ110又はスイッチ111の何れかオンされかつ、閉止ドアラッチ装置10B又は全開ドアラッチ10Cによるラッチが解除される(図3を参照)と、前記したリリースモータの第1の作動条件が成立する。
【0103】
すると、リリースモータによってモータ動力伝達レバー160が原点位置から第1回動方向RD1に回転駆動され、回動干渉部165が動力中継ピン200を第1回動方向に押す。そして、全開ラッチ解除レバー170、モータ動力伝達レバー160、ラチェット連動レバー130及び動力中継レバー120を、原点位置から第1回動方向RD1に離れた回動終端位置に停止保持する。この結果、車内ドアハンドル18から手が離れて車内ハンドル連結レバー140が原点位置に戻されたり、車外ドアハンドル17から手が離れて車外ハンドル連結レバー150が原点位置に戻されたとしても、パワースライド装置によるスライドドア90の移動が開始するまでは、リリースモータの動力によって全開ラッチ解除レバー170及びラチェット連動レバー130を回動終端位置に停止保持して、各ドアラッチ装置10A,10B,10Cによるラッチの解除を維持することができる(図15参照)。
【0104】
次に、ドアロックが「ロック状態」のときの動作説明を行う。ドアロックが「ロック状態」(動力中継ピン200が図14の二点鎖線で示すロック位置)のときに車内ドアハンドル18を開操作すると、車内ハンドル連結レバー140及び動力中継レバー120が原点位置から第1回動方向RD1に回動する。ところがこのとき、動力中継ピン200はI型長孔133のロック位置に位置したまま、L型第2辺長孔123B内を移動するため、動力中継レバー120からラチェット連動レバー130への動力(ラッチ解除操作力)の伝達が遮断され、ラチェット連動レバー130は原点位置に留まる。よって、閉止ドアラッチ装置10A,10Bによるスライドドア90のラッチ状態が維持され、スライドドア90を開けることが不可能となる。
【0105】
ドアロックが「ロック状態」のときに車外ドアハンドル17を操作すると、車外ハンドル連結レバー150が原点位置から第1回動方向RD1に回動し、その車外ハンドル連結レバー150に押されて、動力中継レバー120が原点位置から第1回動方向RD1に一体回転する。ところがこのとき、動力中継ピン200はI型長孔133のロック位置に位置したまま、L型第2辺長孔123B内を移動するため、動力中継レバー120からラチェット連動レバー130への動力(ラッチ解除操作力)の伝達が遮断され、ラチェット連動レバー130は原点位置に留まる。よって、閉止ドアラッチ装置10A,10Bによるスライドドア90のラッチ状態が維持され、スライドドア90を開けることが不可能となる。
【0106】
さらに、ドアロックが「ロック状態」のときに上記したリモコンキー等の遠隔操作を行っても、第2の作動条件が成立しないのでリリースモータは作動せず、メイン軸体102に支持された全レバー120〜170は原点位置に留まる。よって、閉止ドアラッチ装置10A,10Bによるスライドドア90のラッチ状態が維持され、スライドドア90を開けることが不可能となる。
【0107】
さて、図15に示すようにモータ動力伝達レバー160及びラチェット連動レバー130が原点位置から第1回動方向RD1に離れた回動終端位置又はその近傍に達した状態で、例えば、リリースモータの失陥やモータ動力の伝達経路の異常等により、モータ動力伝達レバー160及びラチェット連動レバー130が異常停止すると、閉止ドアラッチ装置10A,10Bがラッチを解除した状態(即ち、ラチェット30が図4において二点鎖線で示す位置)から元に戻らなくなり、スライドドア90を閉止状態でラッチすることができなくなる。
【0108】
このような非常時には、エマージェンシー操作として、ドアロック操作部16のロック操作を行えばよい。ロック操作を行うと、図16に示すように、動力中継ピン200が「正常ロック解除位置」から「ロック位置」に向かって移動して回動干渉部165の回動領域の外側に配置されることで、モータ動力伝達レバー160が動力中継レバー120及びラチェット連動レバー130から切り離される(換言すれば、リリースモータが閉止ドアラッチ装置10A,10Bから切り離される)。すると、図17に示すように、トーションコイルばね129(図7参照)の付勢力によって動力中継レバー120及びラチェット連動レバー130が第2回動方向RD2に一体回転して原点位置に復帰する。これにより、オープンケーブル91W,92Wがドアラッチ装置10A,10B側に戻されて、スライドドア90を閉止状態でラッチすることが可能な状態に復帰させることができる。
【0109】
上述したエマージェンシー操作(ドアロック操作部16のロック操作)を行ってからスライドドア90を閉めると、正常時と同じように、スライドドア90が閉止状態にラッチされる。そして、閉止状態にラッチされたスライドドア90をもう一度開ける場合には、ドアロック操作部16のロック解除操作を行えばよい。詳細には、エマージェンシー操作が行われると、モータ動力伝達レバー160の回動干渉部165が、図17に示すようにI型長孔133の中心側端部(正常ロック解除位置)と重なった位置に配置されるので、動力中継ピン200を正常ロック解除位置に配置することが不可能になる。この状態でドアロック操作部16のロック解除操作を行うと、図17から図18への変化に示すように、動力中継ピン200が回動干渉部165の径方向側面165Aに当接して、I型長孔133における「ロック位置」と「正常ロック解除位置」との中間位置(以下、「非常ロック解除位置」という)に配置される。このとき、動力中継ピン200は、L型第2辺長孔123Bから抜けてL型第1辺長孔123Aへと進入しているので、動力中継レバー120からラチェット連動レバー130への動力伝達が可能な状態になる。その一方で、動力中継ピン200は回動干渉部165の回動領域の外側に配置されているので、動力中継レバー120及びラチェット連動レバー130からモータ動力伝達レバー160を切り離した状態(リリースモータを閉止ドアラッチ装置10A,10Bから切り離した状態)が維持される。
【0110】
そして、図18に示すように、動力中継ピン200を非常ロック解除位置に配置した状態で車内ドアハンドル18の開操作又は車外ドアハンドル17の操作を行うと、図19への変化に示すように、回動干渉部165の径方向側面165Aを動力中継ピン200が通過することで、異常停止したモータ動力伝達レバー160(リリースモータ)を閉止ドアラッチ装置10A,10Bから切り離したまま、車外ハンドル連結レバー150、動力中継レバー120及びラチェット連動レバー130が第1回動方向RD1に一体回転し、オープンケーブル91W,92Wがリモコン装置100側に引っ張られる。これにより、閉止ドアラッチ装置10A,10Bによるスライドドア90のラッチが解除され、エマージェンシー操作によって閉止状態したスライドドア90を、車内ドアハンドル18又は車外ドアハンドル17の操作によって開けることが可能になる。以上が、リモコン装置100の説明である。
【0111】
ところで、上述したリモコン装置100と車外ドアハンドル17との間の力の伝達経路の途中には、ベルクランクアッシ50が備えられており(図2〜図4参照)、車外ドアハンドル17から入力したラッチ解除操作力は、ベルクランクアッシ50を介してリモコン装置100(正確には、車外ハンドル連結レバー150)に入力するようになっている。以下、ベルクランクアッシ50について説明する。
【0112】
ベルクランクアッシ50は、リモコン装置100と同様にスライドドア90の前端寄り位置でインナーパネル90P2に宛がって固定されており(図3参照)、そのベルクランクアッシ50にリモコン装置100が覆い被さった状態で組み付けられている。
【0113】
ベルクランクアッシ50は、ベルクランク51をベルクランク支持ベース57によって回動可能に支持してなる。ベルクランク支持ベース57は、例えば、板金をプレス成形したものである。詳細には、板金の中央部を板厚方向の一方側(リモコン装置100から離れる側)に段付き状に膨出させたマウント部57Mを備え、マウント部57Mの周囲が平坦なフランジ部57Fとなっている(図21及び図22参照)。フランジ部57Fには、スライドドア90のインナーパネル90P2に予め形成された複数の固定用孔(図示せず)と整合するように、複数のボルト挿通孔57H,57Hが貫通形成されている。
【0114】
図4に示すように、インナーパネル90P2のうち、スライドドア90の前端寄り位置には、組み付け作業や点検作業等を行うためのサービスホール95が貫通形成されている。ベルクランクアッシ50は、このサービスホール95の一部を塞ぐようにしてインナーパネル90P2に固定されている。具体的には、ベルクランク支持ベース57におけるマウント部57Mがサービスホール95の内側に嵌め込まれ、フランジ部57Fがサービスホール95の開口縁に重ねられている。その状態で、フランジ部57Fに貫通形成されたボルト挿通孔57H,57Hと、インナーパネル90P2に予め形成された固定用孔とを貫通した複数のボルト(図示せず)によって、ベルクランクアッシ50がインナーパネル90P2の所定位置に固定されている。また、フランジ部57Fのうち、インナーパネル90P2に宛がわれた方の面には、サービスホール95の開口縁に沿って延びた帯状の弾性部材58が設けられており、その弾性部材58がベルクランク支持ベース57とインナーパネル90P2との間で挟まれている。
【0115】
ベルクランク51は、ベルクランク支持ベース57の略中央部を回動可能に貫通した中心軸体51J(図23参照)を備え、中心軸体51Jの一端に入力側アーム52を備える一方、他端に出力側アーム53を備えている(図20参照)。即ち、入力側アーム52と出力側アーム53とが、ベルクランク支持ベース57の表裏に分けて配置されている。
【0116】
入力側アーム52と出力側アーム53は、ベルクランク51の回動方向で所定の角度だけずらして配置されている。具体的には、ベルクランク支持ベース57のマウント部57Mが膨出した方から見て、出力側アーム53が入力側アーム52に対して反時計回り方向に先行するように配置されている(図20参照)。ここで、入力側アーム52は本発明の「入力回動片」に相当し、出力側アーム53は本発明の「出力回動片」に相当する。
【0117】
そして、ベルクランクアッシ50とリモコン装置100とをインナーパネル90P2に固定した状態で、ベルクランク51の回動中心である中心軸体51Jと、車外ハンドル連結レバー150の回動中心であるメイン軸体102とが、同軸上に並ぶように配置されている(図23参照)。
【0118】
図21に示すように、ベルクランク51の入力側アーム52は、ベルクランク支持ベース57のうちマウント部57Mが膨出した方の面(インナーパネル90P2に対する固定面)側に配置されている。ベルクランクアッシ50をインナーパネル90P2に宛がって固定すると、入力側アーム52が、ベルクランク支持ベース57の裏側に隠れた状態で配置され、その裏側、即ち、スライドドア90の内部空間で入力側アーム52が回動するようになっている。
【0119】
入力側アーム52のうち、中心軸体51Jから離れた入力端52Tにはロッドホルダ54が組み付けられている。ロッドホルダ54は、1対の把持片をヒンジによって連結してなり、スライドドア90の内部空間で上下方向に延びたロッド17Rの下端部を側方から挟んで保持している。ロッド17Rの上端部は車外ドアハンドル17と連結されており、車外ドアハンドル17の操作によるロッド17Rの上下動に連動して、ベルクランク51が回動するようになっている。ここで、ロッドホルダ54の把持内面又はロッド17Rの下端部外面には、滑り止め用の凹凸部が形成されており、ロッド17Rとロッドホルダ54との滑り止め及び抜け止めが図られている。なお、ロッドホルダ54は、入力端52Tに対して中心軸体51Jと平行な軸回りで回転可能となっている。
【0120】
図22に示すように、ベルクランク51の出力側アーム53は、マウント部57Mの裏面側に形成された陥没凹所57Cの内側に配置されている。出力側アーム53は、その長手方向の中間部に屈曲部を備え、その屈曲部より先端側が基端側よりもベルクランク支持ベース57から離して(リモコン装置100に近づけて)配置されている(図23参照)。
【0121】
出力側アーム53のうち中心軸体51Jから離れた出力端53Tには、本発明に係るピン係合孔55が貫通形成されている。ピン係合孔55の回動半径は、リモコン装置100のメイン軸体102を中心とした連結ピン154の回動半径と略同一となっている。そして、リモコン装置100及びベルクランクアッシ50をスライドドア90に組み付けた状態で、ピン係合孔55と連結ピン154とがメイン軸体102(中心軸体51J)と平行な方向で凹凸係合している(図23参照)。また、ピン係合孔55は、例えば、出力側アーム53の長手方向(回動半径方向)に長い長孔で構成されている。長孔にしたことで、例えば、スライドドア90に対する組み付け誤差等によって生じた連結ピン154とピン係合孔55との位置のばらつきを、ピン係合孔55によって吸収することが可能となっている。
【0122】
ベルクランク51の出力端53Tには、ピン係合孔55の開口縁から連結ピン154に向かって突出したピン挿入ガイド56が備えられている。ピン挿入ガイド56は、その先方に向かう(ピン係合孔55から離れる)に従って拡開した漏斗状をなしている(図22参照)。詳説すると、図23に示す通り、ピン挿入ガイド56は、ピン係合孔55側の一端部56Aから他端部56Bに向けて徐々に開口面積が大きくなるガイド孔56Cを有する。即ち、ガイド孔56Cの内周面56Dは、一端部56Aから他端部56Bに向けてガイド孔56Cが拡開するように傾斜している。なお、内周面56Dは、ガイド面として機能すればよいから、円錐面に限定するものではなく、例えば、一端部56Aから他端部56Bに向かう途中で内側に弓なりに反りつつ拡径した形状(ラッパ状)としてもよい。また、一端部56Aから他端部56Bに向かう途中で外側に弓なりに反りつつ拡径した形状としてもよい。
【0123】
また、ガイド孔56Cの一端部56A側の開口面積は、ピン係合孔55の開口面積よりも小さく設定されている。これにより、連結ピン154は、ガイド孔56Cの内周面56Dによりピン係合孔55に確実に案内されることになる。
【0124】
また、連結ピン154の先端部154Aは、先端ガイド部154Bを有している。詳説すると、先端ガイド部154Bは、先端部154Aを面取りして構成されており、ガイド孔56Cの内周面56Dに当接した際に、ピン係合孔55に向けて分力を発生させる形状である。これにより、連結ピン154は、ガイド孔56Cの内周面56Dによりピン係合孔55に確実に案内されることになる。
【0125】
そして、連結ピン154とピン係合孔55との凹凸係合により、ベルクランク51と車外ハンドル連結レバー150とが一体回転可能に連結されている。即ち、車外ドアハンドル17が操作されると、そのラッチ解除操作力によってロッド17Rが下方に直動する。すると、マウント部57M側から見て(図20参照)ベルクランク51が反時計回り方向に回動する。ベルクランク51の回動中心(中心軸体51J)と車外ハンドル連結レバー150の回動中心(メイン軸体102)とは同軸上に並んで配置されているので、ベルクランク51が回動すると、車外ハンドル連結レバー150はベルクランク51と同方向、即ち、メイン軸体102回りを原点位置から第1回動方向RD1に一体回転する。そして、ロック解除状態のときに、車外ハンドル連結レバー150が第1回動方向RD1に回動すると、上述したようにラチェット連動レバー130及び全開ラッチ解除レバー170が第1回動方向RD1に回動して、各ドアラッチ装置10A,10B,10Cによるスライドドア90のラッチが解除される。
【0126】
図22に示すように、ベルクランク支持ベース57の陥没凹所57Cには、出力側アーム53の側面と当接してベルクランク51を同図に示す回動始端位置に位置決めするストッパ59が設けられている。
【0127】
ベルクランク支持ベース57には、例えば、円形の覗き窓60が貫通形成されている。覗き窓60は、ベルクランク51が回動始端位置に位置するときの入力端52Tとの対向位置に設けられている。従って、ベルクランクアッシ50がインナーパネル90P2に固定され、入力側アーム52がベルクランク支持ベース57の裏側に隠れた状態(図4参照)となっていても、ベルクランク51の入力端52T、即ち、ベルクランク51とロッド17Rとの連結部分は、覗き窓60を通して視認することが可能となっている。
【0128】
以上が、車両ドア操作中継セット80(リモコン装置100及びベルクランクアッシ50)の説明である。次に、車両ドア操作中継セット80を備えたスライドドア90の製造方法について説明する。
【0129】
まずは、スライドドア90のインナーパネル90P2に貫通形成されたサービスホール95を介して、閉止ドアラッチ装置10A,10B及び全開ドアラッチ装置10Cをスライドドア90の所定位置に組み付ける。
【0130】
次に、車両ドア操作中継セット80のうち、ベルクランクアッシ50をインナーパネル90P2に組み付ける。具体的には、ベルクランク支持ベース57のマウント部57Mが膨出した方の面をインナーパネル90P2に向けた状態で、ベルクランクアッシ50をインナーパネル90P2に接近させ、インナーパネル90P2のサービスホール95の内側にマウント部57Mを嵌め込みかつ、サービスホール95の開口縁にフランジ部57Fを重ねる。そして、フランジ部57Fのボルト挿通孔57H,57Hを、インナーパネル90P2の固定用孔(図示せず)と整合させて、それらボルト挿通孔57H,57Hと固定用孔とに通したボルト(図示せず)によってベルクランクアッシ50をインナーパネル90P2に固定する。
【0131】
次に、ベルクランク51の入力端52Tと車外ドアハンドル17から延びたロッド17Rの下端部とを連結する。具体的には、サービスホール95のうち、ベルクランクアッシ50より下方の開放部分から、ベルクランクアッシ50の裏側(スライドドア90の内部空間)に手を差し込んで、ロッド17Rの下端部を、入力端52Tに備えたロッドホルダ54に連結する。このとき、ベルクランク支持ベース57に貫通形成された覗き窓60から、ベルクランク51の入力端52Tとロッド17Rとの連結部分を視認しながら連結作業を行うことができるから、連結作業を容易かつ確実に行うことができる。そして、ロッド17Rとベルクランク51とが連結されると、ベルクランク51は、図21及び図22に示すように回動始端位置に位置決めされる。これでベルクランクアッシ50の組み付けは完了である。
【0132】
次に、リモコン装置100をインナーパネル90P2に組み付ける。具体的には、リモコン装置100のレバー機構100Kをベルクランクアッシ50に対向させた状態で、中心軸体51Jの軸方向からリモコン装置100をインナーパネル90P2に接近させて、固定ベース101をインナーパネル90P2に重ねる。
【0133】
このとき、ベルクランク51は回動始端位置に位置決めされていて出力端53Tの位置が変化することがないから、固定ベース101に形成されたボルト挿通孔101H,101Hと、インナーパネル90P2に形成された固定用孔(図示せず)とが整合するように、中心軸体51Jの軸方向からリモコン装置100をインナーパネル90P2に接近させていく過程で、車外ハンドル連結レバー150から突出した連結ピン154が、ベルクランク51の出力端53Tに設けられたピン挿入ガイド56に挿入される。また、連結ピン154とピン係合孔55とが多少ずれていても、ピン挿入ガイド56の内周面56Dにより連結ピン154はピン係合孔55に案内される。
【0134】
そして、固定ベース101のボルト挿通孔101H,101Hとインナーパネル90P2の固定用孔とに通したボルト(図示せず)によってリモコン装置100をインナーパネル90P2に固定する。これにより、リモコン装置100のメイン軸体102と、ベルクランク51の中心軸体51Jとが同軸上に並ぶように配置されると共に、ベルクランク51と車外ハンドル連結レバー150とが、それらの回転中心と平行な方向で凹凸係合する。以上で、ベルクランクアッシ50とリモコン装置100(車両ドア操作中継セット80)の組み付けは完了である。
【0135】
なお、詳細な説明は省略するが、上記した各ドアラッチ装置10A,10B,10Cの及び車両ドア操作中継セット80の他にも、リリースモータ等の各種部品を組み付けて、これらをオープンケーブル91W,92W,93W及びモータ出力ケーブル94Wによってリモコン装置100と連結し、最後に、インナーパネル90P2に図示しないドアトリムを組み付ければ、スライドドア90は完成である。
【0136】
このように、本実施形態によれば、リモコン装置100(レバー機構100K)に備えた車外ハンドル連結レバー150から突出した連結ピン154と、ベルクランク51の出力端53Tに貫通形成されたピン係合孔55とが、車外ハンドル連結レバー150及びベルクランク51の回動中心(メイン軸体102及び中心軸体51J)と平行な方向で凹凸係合することで、ベルクランク51とリモコン装置100(レバー機構100K)とが連動可能に連結される。これにより、ベルクランク51とリモコン装置100とを近接配置した場合に、車外ドアハンドル17の操作フィーリングが(動力伝達ケーブルの摩擦抵抗の増加によって)悪化することを防ぐことができる。
【0137】
また、本実施形態のスライドドア90の製造方法によれば、スライドドア90にリモコン装置100を固定する作業の過程で、リモコン装置100の車外ハンドル連結レバー150に備えた連結ピン154と、ベルクランク51の出力端53Tに備えたピン係合孔55との凹凸係合を同時進行で行うことができるから、ベルクランクとリモコン装置とをスライドドアに組み付けた後で、それらベルクランクとリモコン装置とを動力伝達ケーブルによって別途連結する必要がある従来の製造方法に比べて、製造効率が向上する。
【0138】
また、ピン係合孔55を長孔にして、その長孔の範囲で連結ピン154が移動可能になっているから、例えば、組み付け誤差等によって生じた連結ピン154とピン係合孔55との位置のばらつきをピン係合孔55で吸収することができる。
【0139】
さらに、連結ピン154をピン係合孔55に案内することが可能なピン挿入ガイド56を設けたから、連結ピン154をピン係合孔55に挿入する前に、連結ピン154とピン係合孔55の位置が多少ずれていても、挿入過程で、ピン挿入ガイド56によって連結ピン154をピン係合孔55へと案内することができる。これにより、ピン係合孔55に対する連結ピン154の挿入作業を比較的に容易に行うことができる。
【0140】
しかも、ベルクランク支持ベース57に覗き窓60を貫通形成して、ベルクランク51の入力端52Tとロッド17Rとの連結部分を視認可能としたから、組み付け作業者から見て、ベルクランク支持ベース57の裏側で行う必要のあるベルクランク51とロッド17Rとの連結作業を、容易かつ確実に行うことができる。
【0141】
ここで、リモコン装置100とベルクランク51とを予め連結してモジュール化しておき、そのモジュールをスライドドア90に組み付けるようにした場合には、モジュールを組み付けた後で、ベルクランクの入力端と直動ロッドとの連結作業を行うことができるように、リモコン装置がベルクランクの入力端に被らないように配置しておく必要がある。そのため、リモコン装置及びリモコン装置に備えた車内ドアハンドルのスライドドアに対する配置が制約を受ける。
【0142】
これに対し、本実施形態によれば、リモコン装置100とベルクランクアッシ50とがインナーパネル90P2に対して別々に組み付け可能となっており、リモコン装置100を組み付ける前に、ベルクランクアッシ50を組み付けてベルクランク51の入力端52Tとロッド17Rとを予め連結しておくことができる。よって、ベルクランク51の入力端52Tとリモコン装置100とが重ならないように配置することは勿論、本実施形態のように、ベルクランク51の入力端52Tとリモコン装置100とが重なるように配置する(図3参照)ことも可能になる。つまり、モジュール化した場合に比べて、スライドドア90に対するリモコン装置100及び車内ドアハンドル18の配置の自由度を高めることができる。
【0143】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0144】
(1)上記実施形態では、車外ハンドル連結レバー150の回動中心(メイン軸体102)と、ベルクランク51の回動中心(中心軸体51J)とが同軸上に並ぶように配置していたが、これらの回動中心を非同軸上に配置してもよい。非同軸上に配置した車外ハンドル連結レバー150とベルクランク51とを連動させる場合には、ピン係合孔55を長孔にしておき、車外ハンドル連結レバー150に備えた連結ピン154とベルクランク51の出力端53Tとの接近及び離間を、ピン係合孔55によって吸収させるようにしておけばよい。
【0145】
但し、上記実施形態のように、車外ハンドル連結レバー150の回動中心と、ベルクランク51の回動中心とを同軸上に並ぶように配置すると、非同軸上に配置した場合に比べて、車両ドア操作中継セット80のコンパクト化を図ることができる。
【0146】
(2)上記実施形態では、車外ハンドル連結レバー150に連結ピン154を備え、ベルクランク51にピン係合孔55を備えていたが、車外ハンドル連結レバー150にピン係合孔を備え、ベルクランク51に連結ピンを備えていてもよい。但し、上記実施形態のように、車外ハンドル連結レバー150に連結ピン154を設けておけば、ベルクランク51がインナーパネル90P2に支持されかつ、リモコン装置100がインナーパネル90P2に組み付けられていないときに、インナーパネル90P2から組み付け作業者の側に、連結ピン154が突出した状態になることを回避することができる。
【0147】
(3)上記実施形態では、車外ハンドル連結レバー150とベルクランク51との間が、連結ピン154とピン係合孔55との凹凸係合によって連結されていたが、例えば、非軸状の凸部と貫通孔又は有底の凹部との凹凸係合であってもよい。但し、上記実施形態のように連結ピン154とピン係合孔55との凹凸係合にした方が、凹凸係合の信頼性が向上する。
【0148】
(4)リモコン装置100及びレバー機構100Kの構成は、車外ドアハンドル17に対するラッチ解除操作力をドアラッチ装置10A,10B,10Cに伝達可能な構成であれば、上記実施形態で例示した構成に限定するものではない。例えば、上記実施形態のリモコン装置100におけるモータ動力伝達レバー160と車外ハンドル連結レバー150とを1つの回動レバーで兼用した構成(具体的には、本願出願人が先に出願した特願2010−215658号の「車両ドア操作機構」)でもよいし、ドアロックの状態に拘わらず車内ドアハンドル18の開操作によるスライドドア90の開放を禁止するチャイルドプロテクタ機能を追加した構成(具体的には、本願出願人が先に出願した特願2010−197552号の「車両ドア操作機構」)でもよい。また、上記したエマージェンシー操作機能を備えていない構成でもよい。
【0149】
(5)上記実施形態では、スライドドア90の前端部と後端部にそれぞれ閉止ドアラッチ装置10A,10Bを備えていたが、前端部の閉止ドアラッチ装置10Bを省いて後端部の閉止ドアラッチ装置10Aだけを備えていてもよい。また、全開ドアラッチ装置10Cを省いた構成としてもよい。
【0150】
(6)上記実施形態では、ベルクランク51がベルクランク支持ベース57に回動可能に支持され、ベルクランク支持ベース57がスライドドア90のインナーパネル90P2に固定可能となっていたが、ベルクランク51をインナーパネル90P2に直接固定してもよい。
【0151】
(7)上記実施形態では、ベルクランク51の入力側アーム52と出力側アーム53とがベルクランク支持ベース57の表裏に分けて配置されていたが、入力側アーム52と出力側アーム53とを、ベルクランク支持ベース57の同じ側の面(例えば、リモコン装置100との対向面)に配置してもよい。
【0152】
(7)上記実施形態では、スライドドア90のインナーパネル90P2に形成されたサービスホール95から手を差し込んで、ベルクランク51とロッド17Rとの連結作業を行うようにしていたが、ベルクランク支持ベース57に貫通形成された覗き窓60を介して、ベルクランク51とロッド17Rとの連結作業が可能な構成としてもよい。
【0153】
(9)上記実施形態では、車両300の助手席側に備えたスライドドア90に本発明を適用していたが、運転席側や後席側に備えたスライドドアに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0154】
10A,10B 閉止ドアラッチ装置
17 車外ドアハンドル
17R 直動ロッド(ロッド)
50 ベルクランクアッシ(中継補助具)
51 ベルクランク
51J 中心軸体(ベルクランクの回動中心)
52 入力側アーム(入力回動片)
52T 入力端
53 出力側アーム(出力回動片)
53T 出力端
55 ピン係合孔
56 ピン挿入ガイド
57 ベルクランク支持ベース
60 覗き窓
80 車両ドア操作中継セット
90 スライドドア
90P2 インナーパネル(スライドドアの内壁)
100 リモートコントロール装置(車内ドア操作中継装置)
100K レバー機構
101 固定ベース
102 メイン軸体(第1入力レバーの回動中心)
130 ラチェット連動レバー(第1出力レバー)
150 車外ハンドル連結レバー(第1入力レバー、動力入力部に備えた回動部品)
154 連結ピン
300 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ベースに第1入力レバーと第1出力レバーとを含む複数のレバーを回動可能に支持して備え、車両のスライドドアの内壁に前記固定ベースが固定され、そのスライドドアの車外ドアハンドルと連動して回動するベルクランクに前記第1入力レバーが連結される一方、前記スライドドアを閉止状態でラッチする閉止ドアラッチ装置に前記第1出力レバーが連係され、前記スライドドアのラッチを解除するためのラッチ解除操作力を、前記第1入力レバーから前記第1出力レバーへと伝達可能なロック解除状態と伝達不能なロック状態とに切替可能な車両ドア操作中継装置において、
前記固定ベースは、前記ベルクランクの回動中心と前記第1入力レバーの回動中心とが平行に配置された状態で前記スライドドアの内壁に固定され、
前記第1入力レバーの端部には、その第1入力レバーの回動中心と平行な方向で前記ベルクランクの出力端に凹凸係合して前記第1入力レバーを前記ベルクランクに連結する凹凸係合部が設けられたことを特徴とする車両ドア操作中継装置。
【請求項2】
請求項1に記載の前記車両ドア操作中継装置と前記ベルクランクとを有したことを特徴とする車両ドア操作中継セット。
【請求項3】
前記車両のスライドドアの内壁に固定されるベルクランク支持ベースに前記ベルクランクを回動可能に支持してなる中継補助具を備えたことを特徴とする請求項2に記載の車両ドア操作中継セット。
【請求項4】
前記ベルクランクの回動中心と前記第1入力レバーの回動中心とを同軸上に並ぶように配置したことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両ドア操作中継セット。
【請求項5】
前記第1入力レバーの端部に備えた前記凹凸係合部と、その凹凸係合部と対応して前記ベルクランクの出力端に設けられた被凹凸係合部との何れか一方を連結ピンとすると共に、他方を前記連結ピンと凹凸係合するピン係合孔とし、
前記ピン係合孔の開口縁から突出して先方に向かうに従って拡開したピン挿入ガイドを備えたことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載の車両ドア操作中継セット。
【請求項6】
前記ピン係合孔を長孔として、その長手方向で前記連結ピンを移動可能としたことを特徴とする請求項5に記載の車両ドア操作中継セット。
【請求項7】
前記第1入力レバーから前記連結ピンを突出させたことを特徴とする請求項5又は6に記載の車両ドア操作中継セット。
【請求項8】
前記ベルクランクは、回動中心に沿って延びかつ前記ベルクランク支持ベースを貫通した中心軸体の一端部に入力回動片を備える一方、他端部に出力回動片を備え、
前記入力回動片と前記出力回動片とが前記ベルクランク支持ベースの表裏に分けて配置されると共に、前記車外ドアハンドルと連動して往復動するロッドが、前記入力回動片の先端部に連結され、
それらロッドと入力回動片との連結部分を視認可能とする覗き窓を、前記ベルクランク支持ベースに貫通形成したことを特徴とする請求項3乃至7の何れか1の請求項に記載の車両ドア操作中継セット。
【請求項9】
車両のスライドドアの車外ドアハンドルと連動して回動するベルクランクと、前記スライドドアを閉止状態でラッチする閉止ドアラッチ装置との間の力の伝達経路の途中に車両ドア操作中継装置を備え、その車両ドア操作中継装置が前記スライドドアのラッチを解除するためのラッチ解除操作力を、前記ベルクランクから前記閉止ドアラッチ装置へと伝達可能なロック解除状態と伝達不能なロック状態とに切替可能なスライドドアの製造方法において、
前記車両ドア操作中継装置の動力入力部に備えた回動部品と、前記ベルクランクの出力端とに、前記ベルクランクの回動中心と平行な方向で互いに凹凸係合する凹凸係合部と被凹凸係合部とを設けておき、
前記スライドドアに前記ベルクランクを予め組み付けておき、前記車両ドア操作中継装置を前記ベルクランクの回動軸の軸方向から前記スライドドアに接近させて、前記凹凸係合部と前記被凹凸係合部とを凹凸係合させながら前記スライドドアに宛って固定することを特徴とするスライドドアの製造方法。
【請求項10】
前記スライドドアに宛がって固定されるベルクランク支持ベースに前記ベルクランクを回動可能に支持して、前記ベルクランク支持ベースの表裏に前記ベルクランクの入力端と出力端とを分けて配置すると共に、前記ベルクランクの入力端と前記車外ドアハンドルに連動して往復動するロッドとの連結部分を視認可能とする覗き窓を前記ベルクランク支持ベースに貫通形成しておき、
前記スライドドアに前記ベルクランク支持ベースを固定した状態で、前記ベルクランクの入力端と前記ロッドとの連結作業を、前記覗き窓から視認しながら行うことを特徴とする請求項9に記載のスライドドアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−57170(P2013−57170A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194598(P2011−194598)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000100827)アイシン機工株式会社 (122)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】