説明

車両ブレーキシステム用リザーバタンク

【課題】簡素かつ安価にして、フィルタ14を正しい位置にしか嵌め込めないようにする。
【解決手段】タンク本体11内に、隔壁12を適宜に設けてそのタンク本体11内を区画して作動液aの妾動を抑制するとともに、タンク本体11に作動液aが流出入する区画室に、平面視、矩形状のフィルタ14をその平面視方向から嵌め込んだ車両ブレーキシステム用リザーバタンク10である。フィルタ14は、その一側壁に作動液aの流入用スリット14dが形成されたものであって、そのスリットを有する側壁に対向する側壁の一角部14cを、他の角部とその平面視形状を異ならせる。また、そのフィルタが嵌る区画室は、その各側壁を成す隔壁12の一角部が他の区画室の側壁が連続していないものであって、その一角部に前記フィルタの前記角部14cが嵌る。このように、フィルタの平面視を非対称として、嵌め込み間違いが生じる恐れをなくす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用ブレーキシステム内のマスタシリンダ又は液圧ブースタ等に設けられるリザーバタンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のリザーバタンクは、例えば、図6(b)に示すように、下殻1aと上殻1bからなるタンク本体1内に、隔壁2を適宜に設けて区画して作動液aの妾動を抑制するとともに液面検出室3を隔離して形成し、タンク本体1に作動液aが流出入する区画室にフィルタ4a、4bを設け、前記液面検出室3内に、フロート5及び液面センサ6を設けるとともに、その液面検出室3からの作動液aの流出入を規制する仕切り板7を設け、前記上殻1bには注液栓8を設けた構成である(特許文献1参照)。
【0003】
そのタンク本体1は、同図(a)に示すように、上下殻1b、1a間に熱板Hを介在させてその突き合わせ面を溶融させた後、同図(b)に示すように、下殻1aに上殻1bを被せて突き合わせ、その溶融面を固化接合させて一体化する(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−20660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のリザーバタンクにおいて、フィルタ4bは、図7に示すように、平面視、矩形状をした対称の箱状のものであって、そのフィルタ4bが嵌る区画室も、同様に、平面視、矩形状をしている。
この平面視、対称の矩形状は、方向性がないため、その位置決めが難しく、区画室にフィルタ4bをその方向を間違えて嵌める恐れがある。特に、同図鎖線で示すように、長方体状であると、正面視も対称形のため、間違う恐れはさらに増す。このとき、他の区画室からの作動液aの流入用スリットがある場合(図3の符号14d参照)、その嵌め間違いは、不良品のリザーバタンクとなる。スリットの位置で、位置決めをすることもできるが、その位置決めは、スリットの方向を常に確認する必要があって、煩わしい。
【0005】
このフィルタ4bの嵌め間違いを防止する手段として、位置決め用突起を設けたものがある(特許文献2 符号30a参照)。
しかし、この位置決め用突起は、折れる恐れがあって、折れれば、フィルタを嵌め込み難くなるとともに、嵌め込んでも、正確に嵌らない恐れがある。また、位置決め用突起を有することによる金型の複雑化及び材料費が嵩むことによるコストアップにつながる。
【特許文献2】実公平6−1500号公報
【0006】
この発明は、コストの上昇を招くことなく、フィルタを正しい位置にしか嵌め込めないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は、フィルタの平面視を非対称としたのである。非対称であれば、正しい平面視の状態でしか嵌め込むことができず、嵌め込み間違いが生じる恐れは無い。また、この平面視の非対称化は、突起の形成に比べれば、金型の複雑化を招かず、また、材料費も嵩まない。
【0008】
具体的には、タンク本体内に、隔壁を適宜に設けてそのタンク本体内を区画して作動液の妾動を抑制するとともに、タンク本体に作動液が流出入する区画室に、平面視、矩形状のフィルタをその平面視方向から嵌め込んだ車両ブレーキシステム用リザーバタンクにおいて、前記フィルタは、その一側壁に作動液の流入用スリットが形成されたものであって、そのスリットを有する側壁に対向する側壁の一角部を、他の角部とその平面視形状を異ならせた構成を採用する。
【0009】
通常、スリットの形成された側壁の角部を他の角部とその平面視形状を異ならせると、そのスリットの両端角部の形状相違により、フィルタ成形時の樹脂の偏収縮や作動液からの熱ストレス等によってスリットの幅がいびつに縮まる等の変形をして、作動液の流入量が設計通りになされない恐れがあるが、そのスリットを有する側壁に対向する側壁の一角部であれば、その恐れは無い。
【0010】
他の具体的な態様としては、タンク本体内に、隔壁を適宜に設けてそのタンク本体内を区画して作動液の妾動を抑制するとともに、タンク本体に作動液が流出入する区画室に、平面視、矩形状のフィルタをその平面視方向から嵌め込んだ車両ブレーキシステム用リザーバタンクにおいて、前記フィルタの嵌め込まれた区画室は、その各側壁を成す前記隔壁の一角部が他の区画室の側壁が連続していないものであって、その一角部に嵌るフィルタの側壁角部を、他の角部とその平面視形状を異ならせた構成とし得る。
【0011】
通常、他の区画室の側壁が連続する角部は、直角にその各側壁が連続してその連結点に均等な力がかかることが、強度上及び樹脂成形上好ましい。しかし、その角部を直角以外の平面視形状とすれば、その連結点に均等な力がかかり難くなって、強度上及び樹脂成形上において問題が生じる。
これに対し、各側壁を成す前記隔壁の一角部が他の区画室の側壁が連続していない一角部であれば、その恐れは少ない。このため、その一角部に嵌るフィルタの側壁角部を、他の角部とその平面視形状を異ならせれば良い。
【0012】
この各側壁を成す前記隔壁の一角部に他の区画室の側壁が連続していないその一角部に嵌るフィルタの側壁角部を、他の角部とその平面視形状を異ならせた構成は、その角部を、上記スリットを有する側壁に対向する側壁の一角部とすることにより、その両者の効果を発揮するものとなる。
【0013】
平面視形状を異ならせる手段としては、側壁嵌合面(外面)に凹凸部を形成する等の種々のものが考え得るが、例えば、フィルタの全ての四角部を、平面視、アール形状として、その一の角部を、他の角部に対しそのアール形状の曲率を大きくしてその平面視形状を異ならせる手段を採用できる。アール形状は、成形性の点で優れているからである。このとき、成形性の点から、そのアール形状はできるだけ、大きくすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、以上のように構成して、フィルタの平面視を非対称としたので、安価にして嵌め込み間違いが生じる恐れを無くすことができて、リザーバタンクの不良品の発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1乃至図5に一実施形態を示し、この実施形態は、車両のブレーキ液圧を制御する車両ブレーキシステム用リザーバタンク10に係わる。このリザーバタンク10は、下殻11aと上殻11bからなる合成樹脂製リザーバタンク本体11をマスタシリンダ30に取り付け、その内に隔壁12を適宜に設けて(図において、隔壁12は適宜に省略 以下の図、同じ)、そのタンク本体11内を区画して作動液aの妾動を抑制するとともに液面検出室13を隔離して形成している。
【0016】
上殻11b上面に作動液aを補給する注液栓18が一体成形で設けられ、下殻11aには、マスタシリンダ30とリザーバタンク10の間に作動液aを流出入させるポート19a及びマスタシリンダ30、ポンプ等の液圧作動機器又はその両者に作動液aを供給する流出入ポート19b等がそれぞれ設けられている。このため、マスタシリンダ30からの作動液aは、流出入ポート19a、19bからタンク本体11内に送り込まれ、フィルタ14、24によりゴム片などの細紛がろ過されつつ、各液圧作動機器に送り込まれる。
図中、31はブレーキペダルである。また、注液栓18には、図示省略のキャップが着脱自在に取付けられ、そのキャップを外すことにより、作動液aをタンク本体11内に補充する。
【0017】
下殻11a内の液面検出室13内には液面センサ16が設けられ、その液面センサ16の軸部16aにフロート15がその軸方向に移動自在に嵌っており、このフロート15の作動液面の変化に応じた移動を液面センサ16が検知してその作動液面を検出する。例えば、液面センサ16には近接スイッチを採用する。
【0018】
また、その液面検出室13の上面開口には、その液面検出室13からの作動液aの流出入を規制する仕切り板17が設けられ、その中央の孔17a及び液面検出室13下部の孔29から作動液aを抵抗をもって適宜に流出入させて、車両の振動により、液面検出室13内の液面が大きく変化しないようになっている。これにより、リザーバタンク10内の作動液aの増減が液面センサ16により正確に検出される。仕切り板17は、液面検出室13を成す隔壁12の段部12aに係止し、その位置で固定されることにより、フロート15が当接して、その液面センサ16の軸部16aからの抜け出しを防止するとともに、フロート15の移動距離を規制する。
【0019】
流出入ポート19bを有する区画室に嵌められたフィルタ14は、図3に示すように、下部にフィルタ部14aを有し、その上が作動液aの溜まり部14bとなっている。その溜まり部14bは、平面視、長方形の四角部をアール状とし(アールカットして)さらにその一角部14cを大きなアール状とした筒状体であって、その大きなアール状角部14cの対向壁に他の区画室からの作動液aの流入用スリット14dが形成されている。この大きなアール角部14cにより、このフィルタ14は、平面視、非対称となる。なお、この各角部は、アール状に限らず、チャンファ状等と任意である。
このフィルタ14の嵌る区画室の周壁は、図2に示すように、上記アール角部14cに対応する部分(角部)は、他の区画室の周壁12が連続されていない。スリット14dに対応する隔壁12にはスリットが形成されて、その両スリットを介して他の区画室からフィルタ14内に作動液が流入可能となっている。
【0020】
流出入ポート19aを有する区画室に嵌められたフィルタ24は、図4に示すように、四角箱状体の底面が濾過部分24aとなって、その底面の一部に流出入ポート19aからの筒状部が嵌り、その上面に規制板24bが位置している。このため、その筒状部から吐出する作動液aは、その規制板24bにより横方向に変更されて注液栓(口)18に至らない。このことは、各種ブレーキ部品の交換等によるエア抜き作業時等において、注液栓18を開けた状態のリザーバタンク10に作動液aが急激に戻っても、その作動液aが注液栓(口)18から飛び出すことを防止する。
【0021】
このリザーバタンク10は以上の構成部品から成り、その組み立てには、まず、下殻11aに、フィルタ14、液面センサ16、そのフロート15、仕切り板17を設ける(嵌める)。このとき、フィルタ14は、平面視、長方形の一角部14cをアール状とした筒状体であって、平面視、非対称であるため、正しい平面視の状態でしか嵌め込むことができず、このため、嵌め込み間違いが生じる恐れは無い。
【0022】
つぎに、そのフィルタ14等の組み込み後、図5(a)に示すように、上下殻11b、11a間に熱板Hを介在させてその突き合わせ面を溶融させ、その溶融後、同図(b)に示すように、下殻11aに上殻11bを被せて突き合わせ、その溶融面を固化接合させて一体化する。このとき、仕切り板17の下殻11aへの嵌合により、その仕切り板17が液面センサ16の軸部16a頂部に臨んでそこからフロート15が抜け出ることを防止する。
【0023】
また、その下殻11aに上殻11bを被せて突き合わせ面を接合することにより、前記フィルタ14及び仕切り板17の上端面が上殻11bの隔壁12下端面に圧接溶着され、そのフィルタ14及び仕切り板17が上下の殻11a、11bに挟持されて上記タンク本体11内に固定取付けされる。上下殻11b、11aの一体化は、熱溶着以外に、接着剤などによる周知の手段を採用できる。
【0024】
この実施形態において、流出入ポート19aを有する区画室に嵌められたフィルタ24(図4)も、図3のフィルタ14と同様に、平面視、長方形の一角部を大きなアール状として、その大きなアール角部により、平面視、非対称なものとして、嵌め込み間違いが生じる恐れを無くすことができる。
なお、この実施形態は、マスタシリンダ30に設けた場合であるが、車両用ブレーキシステム内の液圧ブースタ等の従来からリザーバタンクを設けている各種の機器のそのリザーバタンクにこの発明を採用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施形態の一部切欠正面図
【図2】同実施形態の上殻を除去した平面図
【図3】同実施形態の一フィルタを示し、(a)は斜視図、(b)は切断正面図
【図4】同他のフィルタの一部切欠き斜視図
【図5】同実施形態の組み立て作用図
【図6】従来例の組み立て作用図
【図7】従来のフィルタの斜視図
【符号の説明】
【0026】
10 リザーバタンク
1、11 リザーバタンク本体
1a、11a リザーバタンク本体の下殻
1b、11b リザーバタンク本体の上殻
2、12 隔壁
3、13 液面検出室
4a、4b、14 フィルタ
14c フィルタの大きいアール角部
14d フィルタ側壁のスリット
15 フロート
16 液面センサ
17 仕切り板
a 作動液
H 熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク本体11内に、隔壁12を適宜に設けてそのタンク本体11内を区画して作動液aの妾動を抑制するとともに、タンク本体11に作動液aが流出入する区画室に、平面視、矩形状のフィルタ14をその平面視方向から嵌め込んだ車両ブレーキシステム用リザーバタンク10において、
上記フィルタ14は、その一側壁に作動液aの流入用スリット14dが形成されたものであって、そのスリット14dを有する側壁に対向する側壁の一角部14cを、他の角部とその平面視形状を異ならせたことを特徴とする車両ブレーキシステム用リザーバタンク。
【請求項2】
タンク本体11内に、隔壁12を適宜に設けてそのタンク本体11内を区画して作動液aの妾動を抑制するとともに、タンク本体11に作動液aが流出入する区画室に、平面視、矩形状のフィルタ14をその平面視方向から嵌め込んだ車両ブレーキシステム用リザーバタンク10において、
上記フィルタ14の嵌め込まれた区画室は、その各側壁を成す上記隔壁12の一角部が他の区画室の側壁12が連続していないものであって、その一角部に嵌るフィルタ14の側壁角部14cを、他の角部とその平面視形状を異ならせたことを特徴とする車両ブレーキシステム用リザーバタンク。
【請求項3】
請求項1に記載のリザーバタンク10において、上記フィルタ14の嵌め込まれた区画室は、その各側壁を成す上記隔壁12の一角部が他の区画室の側壁12が連続していないものであって、その一角部に嵌るフィルタ14の側壁角部14cを、上記の他の角部とその平面視形状を異ならせたものとしたことを特徴とする車両ブレーキシステム用リザーバタンク。
【請求項4】
上記フィルタ14の全ての四角部は、平面視、アール形状とされて、その一の角部を、他の角部に対しそのアール形状の曲率を大きくしてその平面視形状を異ならせたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の車両ブレーキシステム用リザーバタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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