説明

車両前部構造

【課題】フードに対しその最前端側から衝突体が衝突した場合に、衝突体への反力を抑えながらフードの前端部の変形ストロークを大きくすることができる車両前部構造を得る。
【解決手段】ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bには長孔40が貫通形成されて車両前後方向に沿って延びている。ラジエータサポートアッパ32とラジエータサポートアッパサイド34とは、長孔40の後端側に設けられたボルト50及びウエルドナットによって締結されている。長孔40が設けられることによって、ラジエータサポートアッパ32に車両後方側への所定値以上の荷重が入力された状態では、当該荷重の入力によりラジエータサポートアッパ32がラジエータサポートアッパサイド34に対し車両後方側に相対変位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フードロック用のストライカと係合するロック機構が前部骨格部材に取り付けられた車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部においては、フード前端部に衝突物が衝突した場合に当該衝突物が受ける荷重を低減するために、フード前端部を変形させ易くしたフード構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−269447公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来構造では、閉止状態のフードに対しその最前端側から衝突物が衝突した場合、フードはロック用のストライカ及びロック機構を介して車体側に反力をとるので、衝突物への反力を抑えながらフードの前端部の変形ストローク(変形可能なストローク)を大きくする点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、フードに対しその最前端側から衝突体が衝突した場合に、衝突体への反力を抑えながらフードの前端部の変形ストロークを大きくすることができる車両前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明の車両前部構造は、車体前部を開閉可能に覆い、前端部の裏面側にストライカが取り付けられたフードと、前記フードの閉止状態で前記ストライカと係合するロック機構が取り付けられ、車両幅方向に沿って配置される前部骨格部材と、前記前部骨格部材の車両幅方向外側の端部と結合される側部骨格部材と、前記前部骨格部材と前記側部骨格部材との結合部に設けられ、前記前部骨格部材に車両後方側への所定値以上の荷重が入力された状態では前記荷重の入力により前記前部骨格部材が前記側部骨格部材に対し車両後方側に相対変位することを許容する変位許容手段と、を有する。
【0007】
請求項1に記載する本発明の車両前部構造によれば、車体前部を開閉可能に覆うフードには、その前端部の裏面側にストライカが取り付けられており、車両幅方向に沿って配置される前部骨格部材には、フードの閉止状態でストライカと係合するロック機構が取り付けられている。このため、閉止状態のフードに対しその最前端側から衝突体が衝突し、フードの前端部にフード後方斜め下方側への荷重が入力された場合、フードの前端部側からストライカ及びロック機構を介して前部骨格部材に車両後方側への荷重が作用する。
【0008】
ここで、前部骨格部材の車両幅方向外側の端部と側部骨格部材とが結合されると共に、前部骨格部材と側部骨格部材との結合部には変位許容手段が設けられており、前部骨格部材に車両後方側への所定値以上の荷重が入力された状態では、当該荷重の入力により前部骨格部材が側部骨格部材に対し車両後方側に相対変位することが変位許容手段によって許容される。これにより、フードに対しその最前端側から衝突体が衝突し、フードの前端部側からストライカ及びロック機構を介して前部骨格部材に車両後方側への所定値以上の荷重が作用した場合には、ストライカ及びロック機構が前部骨格部材と共に車両後方側に変位する。よって、フード側から衝突体への反力が抑えられながらフードの前端部の変形ストロークが大きくなる。
【0009】
請求項2に記載する本発明の車両前部構造は、請求項1記載の構成において、前記変位許容手段は、前記前部骨格部材の車両幅方向外側の端部に貫通形成されて車両前後方向に沿って延びる貫通部を備え、前記結合部には、前記貫通部の後端側に前記前部骨格部材と前記側部骨格部材とを締結する締結具が設けられている。
【0010】
請求項2に記載する本発明の車両前部構造によれば、前部骨格部材の車両幅方向外側の端部には、車両前後方向に沿って延びる変位許容手段としての貫通部が貫通形成されており、前部骨格部材と側部骨格部材との結合部では、貫通部の後端側に設けられた締結具によって、前部骨格部材と側部骨格部材とが締結されている。このため、所定値以上の車両後方側への荷重が前部骨格部材に作用することにより、締結具による締結点が貫通部の後端側から前端側へ相対的に変位するように、前部骨格部材が側部骨格部材に対し車両後方側に安定的に相対変位する。
【0011】
請求項3に記載する本発明の車両前部構造は、請求項1又は請求項2に記載の構成において、前記前部骨格部材は、車両幅方向外側の端部の前端位置が車両幅方向中間部の前端位置よりも車両前方側に設定され、前記車両幅方向外側の端部と前記フードの前端縁部との間隔が前記車両幅方向中間部と前記フードの前端縁部との間隔よりも狭く設定されている。
【0012】
請求項3に記載する本発明の車両前部構造によれば、前部骨格部材は、車両幅方向外側の端部の前端位置が車両幅方向中間部の前端位置よりも車両前方側に設定され、車両幅方向外側の端部とフードの前端縁部との間隔が車両幅方向中間部とフードの前端縁部との間隔よりも狭く設定されているので、衝突時のフードの初期変形において、フードが前部骨格部材の車両幅方向外側の端部に当接しやすい。フードが前部骨格部材の車両幅方向外側の端部に直接当接すると、荷重が変位許容手段側に直接的に作用するため、前部骨格部材が効率的に車両後方側に変位する。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両前部構造によれば、フードに対しその最前端側から衝突体が衝突した場合に、衝突体への反力を抑えながらフードの前端部の変形ストロークを大きくすることができるという優れた効果を有する。
【0014】
請求項2に記載の車両前部構造によれば、所定値以上の車両後方側への荷重が前部骨格部材に作用した場合に、前部骨格部材を側部骨格部材に対し車両後方側に安定的に相対変位させることができるという優れた効果を有する。
【0015】
請求項3に記載の車両前部構造によれば、フードに対しその最前端側から衝突体が衝突した場合に、前部骨格部材を効率的に車両後方側に変位させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両前部構造の全体構成を模式的に示す平面図である。
【図2】図1の2−2線に沿った拡大断面図である。
【図3】図1に示されるラジエータサポートの車両幅方向外側の上部結合部を示す斜視図である。
【図4】図3に示される構成部を分解状態で示す分解斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る車両前部構造の作用説明図である。図5(A)は、図1の5A−5A線に沿った拡大断面図であって衝突前(変形前)の状態を示す側断面図である。図5(B)は、図5(A)に示される構成において衝突後(変形後)の状態を示す側断面図である。
【図6】図2に示される構成において衝突後(変形後)の状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態の構成)
本発明の一実施形態に係る車両前部構造について図1〜図6を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。また、フードの閉止状態では、フード前方側は車両前方側と同じ方向、フード上方側は車両上方側と同じ方向、フード幅方向は車両幅方向と同じ方向とする。
【0018】
図1には、車両前部構造の全体構成が模式的な平面図で示されている。図1に示されるように、自動車(車両)10には、車体前部10Aのエンジンルーム12を開閉可能に覆うフード14(エンジンフード)が配設されている。フード14の車両前後方向における後端部には、ヒンジ(図示省略)が配設されており、これによって、フード14は、前記ヒンジにおける車両幅方向の軸回りに回転移動可能、すなわち開閉可能となっている。
【0019】
図2には、図1の2−2線に沿った拡大断面図が示されている。図2に示されるように、フード14は、その外板がフードアウタパネル16によって構成されている。フードアウタパネル16は、フード14の閉止状態では略車両前後方向に沿って延在している。このフードアウタパネル16に対してフード下方側にはフードインナパネル18が配置されている。フードインナパネル18は、フード14の内板を構成している。フードアウタパネル16及びフードインナパネル18は、いずれも金属板(例えば、鋼板、アルミニウム合金板等)をプレス成形することにより形成されている。また、フードアウタパネル16の外周縁部(前端縁部16Aを含む)とフードインナパネル18の外周縁部(前端縁部18Aを含む)とは、接着剤による接着及びヘミング加工で結合されている。
【0020】
フード14の前端部の裏面側(フードインナパネル18側)には、フード幅方向の中央部にストライカ24(「ロックストライカ」ともいう。)が取り付けられている。ストライカ24は、フードインナパネル18の底壁部18Bに貫通形成された貫通孔20に挿入され、ベースプレート22(「パッチ」ともいう。)を介してフードインナパネル18の底壁部18Bに支持されており、フード14(フードインナパネル18)よりもフード下方側に突出している。ストライカ24は、高強度の鉄鋼製で丸棒状とされ、ベンディングマシンで折り曲げられることで、車両側面視でフード上方側が開放された屈曲形状(略U字形状)とされている。
【0021】
ストライカ24は、フード14の閉止状態ではロック機構28(フードロック装置)のラッチ28B(広義には「ロック手段」として把握される要素である。)と係合するようになっている。すなわち、ストライカ24及びロック機構28は、フード14を閉止位置(図2に示される位置)で拘束するためのフードロック部26を構成している。ロック機構28は、ロックプレート28A(ベース)及びラッチ28Bを含んで構成されている。ロック機構28のロックプレート28Aは、前部骨格部材としてのラジエータサポートアッパ32における車両幅方向中間部32Aの後壁部332Aに取り付けられており、このロックプレート28Aにラッチ28Bが略車両前後方向の軸回りに回転移動可能に取り付けられている。
【0022】
一方、ロック機構28のロックプレート28Aが取り付けられるラジエータサポートアッパ32は、車両正面視(図示省略)で略矩形枠状に形成されたラジエータサポート30の上部を構成している。ラジエータサポートアッパ32は、エンジンルーム12内の前端側上部に配置され、車両下方側が開放された断面ハット形状に形成されている。
【0023】
図1に示されるように、ラジエータサポートアッパ32は、車両幅方向に沿って延在するように配置された長尺状の部材であり、本実施形態では車両幅方向外側の端部32Bが車両前方側に延出されている。これにより、ラジエータサポートアッパ32は、車両幅方向外側の端部32Bが車両幅方向中間部32A(一般部)よりも車両前後方向に長い断面を備え、車両幅方向外側の端部32Bの前端位置が車両幅方向中間部32Aの前端位置よりも車両前方側に設定されている。そして、ラジエータサポートアッパ32は、車両幅方向外側の端部32Bとフード14の前端縁部14Aとの間隔(隙間)が車両幅方向中間部32Aとフード14の前端縁部14Aとの間隔(隙間)よりも狭く設定されている。換言すれば、ラジエータサポートアッパ32における車両幅方向外側の端部32Bは、フード14の前端側見切り部との距離が近くなっている。
【0024】
図3には、ラジエータサポート30における車両幅方向外側の上部結合部が斜視図にて示され、図4には、図3に示される構成部が分解斜視図にて示されている。なお、これらの図には図示されていないが、ラジエータサポート30の下部には、ラジエータサポートアッパ32に対して平行に配置された長尺状のラジエータサポートロアが設けられている。
【0025】
図3に示されるように、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bは、側部骨格部材としてのラジエータサポートアッパサイド34を介してラジエータサポートサイド36に結合されている。ラジエータサポートサイド36は、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の両端部32Bと前記ラジエータサポートロア(図示省略)の車両幅方向外側の両端部とを車両上下方向に繋ぐ左右一対の長尺状の部材であり、車両後方側が開放された断面ハット形状に形成されている。
【0026】
ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bとラジエータサポートサイド36の上端部36Aとの両方に結合されるラジエータサポートアッパサイド34は、略車両後方側へ曲げられて車両平面視で斜めに延びている。図1に示されるように、ラジエータサポートアッパサイド34の後端部は、長尺状のエプロンアッパメンバ38の前端部に結合されている。なお、エプロンアッパメンバ38は、車体前部10Aの両サイドの上縁側に略車両前後方向に沿って配置されている。
【0027】
図3に示されるように、ラジエータサポートアッパサイド34は、車両下方側が開放された断面ハット形状に形成されており、ラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aにおける前壁部134Aは、ラジエータサポートサイド36の上端部36Aの前壁部136Aと重合されている。図4に示されるように、ラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aにおける前壁部134Aには、ボルト挿通孔44が貫通形成されている。このラジエータサポートアッパサイド34のボルト挿通孔44に対応して、ラジエータサポートサイド36の上端部36Aの前壁部136Aには、ボルト挿通孔46が貫通形成されている。また、ラジエータサポートサイド36の前壁部136Aの裏面(車両後方側に向けられた面)には、ボルト挿通孔46の外周部にウエルドナット56が予め固着されている。
【0028】
ラジエータサポートサイド36の上端部36Aにラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aが車両上方側から被嵌されて、ボルト54がボルト挿通孔44、46の順に挿通されてウエルドナット56に螺合されることにより、ラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aがラジエータサポートサイド36の上端部36Aに固定されている。
【0029】
図3に示されるように、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bにおける上壁部232Bは、ラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aにおける上壁部234Aに重合され、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bにおける後壁部332B(図1の5A−5A線に沿った拡大断面図である図5(A)参照)は、ラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aにおける後壁部334A(図5(A)参照)に重合されている。また、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bにおける前壁部132Bは、ラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aにおける前壁部134Aとの間に車両前後方向に間隔を置いて配置されている。
【0030】
図4に示されるように、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bにおける上壁部232Bには、変位許容手段としてのかつ貫通部としての長孔40が貫通形成されており、この長孔40は、車両前後方向に沿って延びている。ラジエータサポートアッパ32の長孔40の後端部(車両後方側の部位)に対応して、ラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aにおける上壁部234Aには、ボルト挿通孔42が貫通形成されている。ラジエータサポートアッパサイド34の上壁部234Aの裏面(車両下方側に向けられた面)には、ボルト挿通孔42の外周部に締結具としてのウエルドナット52が予め固着されている。
【0031】
ラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aにラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bが車両上方側から被せられて、締結具としてのボルト50が長孔40内の後端側、ボルト挿通孔42の順に挿通されてウエルドナット52に螺合されることにより、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bがラジエータサポートアッパサイド34の車両幅方向内側の端部34Aに固定されている。
【0032】
以上のように、図3に示されるラジエータサポートアッパ32とラジエータサポートアッパサイド34との結合部60には、ラジエータサポートアッパ32に長孔40が設けられると共に、この長孔40の後端側にラジエータサポートアッパ32とラジエータサポートアッパサイド34とを締結するボルト50及びウエルドナット52が設けられている。そして、このように長孔40が設けられることによって、ラジエータサポートアッパ32に車両後方側への所定値以上の荷重が入力された状態では前記荷重の入力によりラジエータサポートアッパ32がラジエータサポートアッパサイド34に対し車両後方側に相対変位することが許容される構造になっている。換言すれば、ラジエータサポートアッパ32には後退手段が設けられている。
【0033】
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0034】
図2に示されるように、車体前部10Aを開閉可能に覆うフード14には、その前端部の裏面側にストライカ24が取り付けられており、車両幅方向に沿って配置されるラジエータサポートアッパ32には、フード14の閉止状態でストライカ24と係合するロック機構28が取り付けられている。このため、図6に示されるように、閉止状態のフード14に対しその最前端側から衝突体62が衝突し、フード14の前端部にフード後方斜め下方側への衝撃荷重Fが入力された場合、フード14側からストライカ24及びロック機構28を介してラジエータサポートアッパ32に車両後方側への荷重が作用する。なお、図中の衝突体62は歩行者の大腿部を模擬した大腿部インパクタとされ、図中の矢印fはインパクタ打撃方向(衝突体の衝突方向)を示し、図中の車両側における二点鎖線は衝突前の位置を示している。
【0035】
ここで、本実施形態では、図3に示されるように、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bには長孔40が貫通形成されて車両前後方向に沿って延びており、長孔40の後端側に設けられたボルト50及びウエルドナット52によってラジエータサポートアッパ32とラジエータサポートアッパサイド34とが締結されている。このため、ラジエータサポートアッパ32に対して前述したような荷重、すなわち、図6に示されるフード14側からの車両後方側への所定値以上の荷重が入力されると、この荷重入力により、図5(A)に示されるラジエータサポートアッパ32とラジエータサポートアッパサイド34との固定状態が解除され、図5(B)に示されるように、長孔40によってラジエータサポートアッパ32がラジエータサポートアッパサイド34に対し車両後方側に相対変位することが許容される。より具体的には、ボルト50及びウエルドナット52による締結点が長孔40の後端側から前端側へ相対的に変位するように、ラジエータサポートアッパ32がラジエータサポートアッパサイド34に対し車両後方側に安定的に相対変位(スライド)する。
【0036】
これにより、図6に示されるように、フード14に対しその最前端側から衝突体62が衝突し、フード14の前端部側からストライカ24及びロック機構28を介してラジエータサポートアッパ32に車両後方側への所定値以上の荷重が作用した場合には、ストライカ24及びロック機構28がラジエータサポートアッパ32と共に車両後方側に変位する。よって、フード14側から衝突体62への反力が抑えられながらフード14の前端部の変形ストローク(EAストローク)が大きくなる。
【0037】
また、本実施形態に係る車両前部構造では、図1に示されるように、ラジエータサポートアッパ32は、車両幅方向外側の端部32Bの前端位置が車両幅方向中間部32Aの前端位置よりも車両前方側に設定され、車両幅方向外側の端部32Bとフード14の前端縁部14Aとの間隔が車両幅方向中間部32Aとフード14の前端縁部14Aとの間隔よりも狭く設定されているので、衝突時のフード14の初期変形時において、ラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bにフード14が当接しやすい。フード14がラジエータサポートアッパ32の車両幅方向外側の端部32Bに直接当接すると、荷重が長孔40の形成部である当該端部32Bに直接的に作用するため、ラジエータサポートアッパ32を効率的に車両後方側に変位させることができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る車両前部構造によれば、図6に示されるフード14に対しその最前端側から衝突体62が衝突した場合に、衝突体62への反力を抑えながらフード14の前端部の変形ストロークを大きくすることができる。
【0039】
(実施形態の補足説明)
なお、上記実施形態では、前部骨格部材が図1等に示されるラジエータサポートアッパ32とされているが、前部骨格部材は、例えば、ラジエータがない車両(電気自動車(EV)等)やラジエータがダッシュパネル付近等のように車体前端部側にない車両では、ラジエータサポートアッパ32に代えてこの部分に配置される骨格部材とされる。
【0040】
また、上記実施形態では、側部骨格部材がラジエータサポートアッパサイド34とされているが、側部骨格部材は、例えば、ラジエータサポートアッパ(32)がラジエータサポートアッパサイド(34)を介さずにエプロンアッパメンバ(38)に直接結合される車両におけるエプロンアッパメンバ(38)等のように他の側部骨格部材であってもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、変位許容手段としての貫通部が長孔40とされているが、変位許容手段としての貫通部は、例えば、ラジエータサポートアッパ32(前部骨格部材)の車両幅方向外側の端部32Bに貫通形成されたものであって、ボルト50の軸部の車両前方側が当該軸部の直径よりも幅狭に設定されて車両前後方向に沿って延びるスリットや、車両前後方向に沿って延びる鍵穴状の孔、切欠等のような他の貫通部であってもよい。
【0042】
また、変位許容手段は、例えば、前部骨格部材の車両幅方向外側の端部に貫通形成されて車両前後方向に沿う貫通部と、前記前部骨格部材において前記貫通部の後端側に設けられると共に前記前部骨格部材と側部骨格部材とを締結する締結具よりも車両前方側に設けられかつ前記前部骨格部材に車両後方側への所定値以上の荷重が入力された状態では前記締結具の軸部によって破断して前記軸部を前記貫通部側に変位させる脆弱部(換言すれば締結具締結孔と貫通部との間に形成される薄肉部)と、を含んで構成された変位許容手段であってもよい。
【0043】
また、他の変形例として、例えば、側部骨格部材における前部骨格部材側の端部に、車両前後方向に沿って延びる変位許容手段としての貫通孔や切欠部が貫通形成されると共に、前記貫通孔等の前端側に前記前部骨格部材と前記側部骨格部材とを締結する締結具が設けられた構成としてもよい。その一例として、例えば、前記側部骨格部材に貫通形成された前記貫通孔の前端側に対応して、前記前部骨格部材の車両幅方向外側の端部にボルト挿通孔(締結孔)が貫通形成されると共に、ボルト(締結具)のボルト軸が前記ボルト挿通孔及び前記貫通孔内の前端側の順に挿通されてナット(締結具)に螺合された構成としてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、図3に示されるように、ラジエータサポートアッパ32とラジエータサポートアッパサイド34との締結面が水平に配置されているが、衝突時にラジエータサポートアッパ32をスライドさせやすくするために、前記締結面を車両後方へ向けて若干車両下方側に傾斜させてもよい。
【0045】
また、上記実施形態における結合部60において、ボルト50及びウエルドナット52に代えて、長孔40(貫通部)に差し込まれて軸端部が潰された(かしめられた)リベットを適用する構成としてもよい。
【0046】
さらに、上記実施形態では、図2等に示されるロック機構28がラジエータサポートアッパ32の車両幅方向中間部32Aの後壁部332Aに取り付けられているが、ロック機構(28)は、前部骨格部材としてのラジエータサポートアッパ(32)の車両幅方向中間部(32A)の前壁部(132A)に取り付けられてもよい。
【0047】
さらにまた、上記実施形態では、図1に示されるように、ラジエータサポートアッパ32は、車両幅方向外側の端部32Bとフード14の前端縁部14Aとの間隔が車両幅方向中間部32Aとフード14の前端縁部14Aとの間隔よりも狭く設定されており、フード14に対しその最前端側から衝突体62(図6参照)が衝突した場合にラジエータサポートアッパ32を効率的に後退させる観点からはこのような構成が好ましいが、例えば、前部骨格部材とフードの前端縁部との間隔が一定であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
10A 車体前部
14 フード
14A フードの前端縁部
24 ストライカ
28 ロック機構
32 ラジエータサポートアッパ(前部骨格部材)
32A 車両幅方向中間部
32B 車両幅方向外側の端部
34 ラジエータサポートアッパサイド(側部骨格部材)
40 長孔(貫通部(変位許容手段))
50 ボルト(締結具)
52 ウエルドナット(締結具)
60 結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部を開閉可能に覆い、前端部の裏面側にストライカが取り付けられたフードと、
前記フードの閉止状態で前記ストライカと係合するロック機構が取り付けられ、車両幅方向に沿って配置される前部骨格部材と、
前記前部骨格部材の車両幅方向外側の端部と結合される側部骨格部材と、
前記前部骨格部材と前記側部骨格部材との結合部に設けられ、前記前部骨格部材に車両後方側への所定値以上の荷重が入力された状態では前記荷重の入力により前記前部骨格部材が前記側部骨格部材に対し車両後方側に相対変位することを許容する変位許容手段と、
を有する車両前部構造。
【請求項2】
前記変位許容手段は、前記前部骨格部材の車両幅方向外側の端部に貫通形成されて車両前後方向に沿って延びる貫通部を備え、前記結合部には、前記貫通部の後端側に前記前部骨格部材と前記側部骨格部材とを締結する締結具が設けられている請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記前部骨格部材は、車両幅方向外側の端部の前端位置が車両幅方向中間部の前端位置よりも車両前方側に設定され、前記車両幅方向外側の端部と前記フードの前端縁部との間隔が前記車両幅方向中間部と前記フードの前端縁部との間隔よりも狭く設定されている請求項1又は請求項2に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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