説明

車両用アース構造

【課題】車両の非導電性成型品を金属製構造体に取り付けるためのボルト締結の工程を行うだけで、ワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を介して金属製構造体にアースを落とすことができ、而もアース用端子が回転しないようにできる。
【解決手段】インストルメントパネル52に形成されているブラケット部52bとインパネリンフォースメント51との間にアース用端子1を挟み込んで、フランジボルト55によりブラケット部52bと共にアース用端子1をインパネリンフォースメント51にアースを落とすために、アース用端子1は、突起部12が前方側部分1aの幅方向に対向するように2ヶ所に設けられ、ブラケット部52bは、2つの突設部12を挿入してフランジボルト55のフランジ部55aに導通可能に接触させるための突起部用貫通孔52cが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製構造体を備えた車両内に配索されたワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を、締結部材にて金属製構造体に固定することで、金属製構造体にアースを落とすことができる車両用アース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のインストルメントパネルは図4に示すように、左右のフロントピラー(図示せず。)間に架け渡され、鋼管等の鋼材から形成されるインパネリンフォースメント51に取り付けられている。このインストルメントパネル52には、メーター類、操作装置、空調装置、デフロスター、オーディオ装置等の各種電装品が搭載され、これらの電装品に給電するためのワイヤーハーネス53(以下、インパネハーネス53という。)がインパネリンフォースメント51の長手方向に沿って配索されている(例えば、特許文献1参照。)。これら電装品に給電するために複数の電線が結束されているインパネハーネス53は、インパネリンフォースメント51に直に結束テープを巻回して固定したり、インパネハーネス53の外周を結束バンドで巻回して固定したりしている。
【0003】
なお、インパネハーネス53は結束テープや結束バンドを使用してインパネリンフォースメント51の外周に固定することから、インパネハーネス53がインパネリンフォースメント51の突出した部位と干渉することにより損傷する虞があるので、コルゲートチューブやビニールチューブ等の保護部材でインパネハーネス53を巻装後、結束テープや結束バンドを使用してインパネリンフォースメント51の外周に固定されていることが多い。ここで、「巻装」とは外側を巻いた状態に装うことを意味する。
【0004】
また、インパネハーネス53は図5に示すように、アース用電線53aが組み込まれ、このアース用電線53aの末端にはアース用端子54が圧着接続され、このアース用端子54をインパネリンフォースメント51の予め定められた位置に設けられているアースポイントであるアース用ボルト孔(雌ねじ)51aにフランジボルト55で固定することで、アースを落とすようになっている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
このようなアース用端子54は、例えば図5、図6に示すように、一方は中心にボルト挿通孔54aが貫通した円板状で形成され、他方はアース用電線53aを圧着接続する圧着部54bで形成されている(例えば、特許文献3参照。)。さらに、アース端子54の回り止め部として、圧着部54bとは反対側である先端から前方へ突出すると共に、下方へ折り曲げ形成した爪部54cを有する引掛け片54dを一体突設している。ここで、「突設」とは、突き出した状態に設けることを意味する。また、インパネリンフォースメント51のアース用ボルト孔51aの近傍には、アース用端子54の引掛け片54dが挿入されるアース用係止孔51bが設けられている。
【0006】
このようなインストルメントパネル52及びインパネハーネス53を、インパネリンフォースメント51に取り付けるには、まず、インパネハーネス53を上述した結束テープや結束バンドによりインパネリンフォースメント51の予め定められた種々の位置で固定して、当該インパネリンフォースメント51の長手方向に沿って配索する。そして、アース用端子54を図5に示すように、インパネリンフォースメント51にフランジボルト55で固定する。この際、アース用端子54の引掛け片54dの爪部54cをインパネリンフォースメント51のアース用係止孔51bに挿入し、インパネリンフォースメント51のアース用ボルト孔51aにアース用端子54のボルト挿通孔54aを合致させてから、アース用端子54をフランジボルト55でインパネリンフォースメント51のアース用ボルト孔51aに締め付けることになるので、アース用端子54は先端の引掛け片54dとインパネリンフォースメント51のアース用係止孔51bとの間で生じる回り止め作用により、ボルト締めによって回ってしまうことを防ぐことができる。
【0007】
次に、インストルメントパネル52をインパネリンフォースメント51に取り付けるために、インストルメントパネル52の予め定められた複数の位置に形成されているブラケット部52a(図4においては、9箇所)それぞれに貫通した取付用ボルト挿通孔52bを、インパネリンフォースメント51の複数の取付用ボルト挿通孔52bに対応するそれぞれの位置に設けられている雌ねじの取付用ボルト孔(図示せず。)を合致させてから、フランジボルト55をインストルメントパネル52の各ブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bに挿入して、インパネリンフォースメント51の取付用ボルト孔に締め付ける。
【0008】
このような車両用アース構造によれば、インパネハーネス53のアース用電線53aを流れてくる電流は図6に示す実線の矢印ラインAL1のように、アース用端子54→フランジボルト55のフランジ部55a→フランジボルト55のねじ部55b→インパネリンフォースメント51へと流れていくので、インパネハーネス53のアース用電線53aを流れてくる電流をインパネリンフォースメント51に流すことができる。即ち、インパネリンフォースメント51にアースを落とすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−220011号公報
【特許文献2】特開2006−86068号公報
【特許文献3】特開2000−168469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、背景技術に記載した車両用アース構造では、アース用端子54をインパネリンフォースメント51に固定するためのボルト締結と、インストルメントパネル52をインパネリンフォースメント51に取り付けるためのボルト締結とを、別々に行わなければならないので、以下のような難点があった。
【0011】
(1)ボルトやボルト締結工数がそれぞれの工程で必要となっていた。
【0012】
(2)インストルメントパネル52をインパネリンフォースメント51に取り付ける工程の前に、アース用端子54をインパネリンフォースメント51に固定するための工程が必ず必要になっていた。
【0013】
(3)フランジボルト55のフランジ部55aのアース用端子54の表面に接する当接面は、全面が平らな平面によって形成されているので、異物噛み込みによる導通不良が発生する虞があった。
【0014】
(4)インパネハーネス53を結束テープや結束バンドで固定するためのインパネリンフォースメント51は鋼管等の鋼材から形成されているので、損傷を防ぐためにインパネハーネス53には保護部材を巻装しなければならなかった。
【0015】
(5)インストルメントパネル52の裏面側方向に、当該インストルメントパネル52に搭載される各種電装品に給電するためのインパネハーネス53を配索するためには、インパネリンフォースメント51に結束テープや結束バンドで固定しなければならなかった。
【0016】
本発明は、このような従来の難点を解消するためになされたもので、車両の非導電性成型品を金属製構造体に取り付けるためのボルト締結の工程を行うだけで、ワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を介して金属製構造体にアースを落とすことができ、而もアース用端子が回転することのない車両用アース構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成する本発明の第1の態様である車両用アース構造は、非導電性成型品が被覆される金属製構造体に、非導電性成型品の裏面側方向に配索されたワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を、締結部材にて固定することで、金属製構造体にアースを落とすことができる車両用アース構造において、非導電性成型品に形成されているブラケット部と金属製構造体との間にアース用端子を挟み込んで、金属製の締結部材によりブラケット部と共にアース用端子を金属製構造体に共締めして当該金属製構造体にアースを落とすために、アース用端子は、金属製の締結部材を挿入するための締結部材貫通孔が貫通する前方側部分に、ブラケット部を貫通して金属製の締結部材に導通可能に接触する突起部が形成されると共に、当該アース用端子が締結部材貫通孔に挿入された金属製の締結部材を中心にして回転しないようにブラケット部で係止される回り止め手段を備えているものである。ここで、「係止」とは、かかわり合って止めることを意味する。
【0018】
このような第1の態様である車両用アース構造によれば、金属製の締結部材により非導電性成型品に形成されているブラケット部と共にアース用端子を金属製構造体に共締めしても、アース用端子には金属製の締結部材を挿入するための締結部材貫通孔が貫通する前方側部分に、ブラケット部を貫通して金属製の締結部材に導通可能に接触する突起部が形成されると共に、当該アース用端子が締結部材貫通孔に挿入された金属製の締結部材を中心にして回転しないようにブラケット部で係止される回り止め手段を備えているので、インストルメントパネルをインパネリンフォースメントに取り付けるための締結部材を締結する工程を行うだけで、アース用端子が回転することを防ぐことができると共に、ワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を介して金属製構造体にアースを落とすことができる。
【0019】
本発明の第2の態様は第1の態様である車両用アース構造において、アース用端子は、突起部が前方側部分の側面に形成されると共に回り止め手段とするために複数設けられているものである。
このような第2の態様である車両用アース構造によれば、ブラケット部に複数の突起部を挿通させることができるので、締結部材を締結する工程においてアース用端子が回ってしまうことを防ぐことができる。
【0020】
本発明の第3の態様は第2の態様である車両用アース構造において、ブラケット部は、アース用端子の突起部を挿入するための突起部用貫通孔に当該突起部を嵌め込むことで当該突起部を上から係止するために、矢尻形の先端部の係止段部が突起部の方向に向かって延びるように形成される可撓性の鉤片が突起部用貫通孔に沿って突設されているものである。
このような第3の態様である車両用アース構造によれば、アース用端子の突起部をブラケット部の突起部用貫通孔に挿入していくと、可撓性の鉤片は突起部によって矢尻形の先端部が押圧され撓むことになるので、当該突起部を当該突起部用貫通孔に嵌め込むことができ、而も突起部が金属製の締結部材に導通可能に接触する突起部用貫通孔の所定位置まで嵌め込まれると、鉤片の矢尻形の先端部が突起部の先端から外れるので、この先端部の係止段部は突起部を上から係止することができる。したがって、締結部材を締結する工程においてアース用端子がインストルメントパネルから外れてしまうことを防ぐことができる。
【0021】
本発明の第4の態様は第2の態様又は第3の態様である車両用アース構造において、アース用端子は、突起部が前方側部分の幅方向で対向するように2ヶ所に設けられているものである。
このような第4の態様である車両用アース構造によれば、少ない数の突起部で、締結部材を締結する工程において、アース用端子が回ってしまうことを防ぐことができる。
【0022】
本発明の第5の態様は第1の態様である車両用アース構造において、アース用端子は、突起部が締結部材貫通孔の周囲に形成され、ブラケット部の金属製の締結部材を挿入するための締結部材挿通孔は、アース用端子の締結部材貫通孔の周囲に形成された突起部が挿入可能な大きさに形成され、回り止め手段は、ブラケット部の締結部材挿通孔にアース用端子の締結部材貫通孔の周囲に形成された突起部を嵌め込むことで、アース用端子の前方側部分を上から係止するために、矢尻形の先端部の係止段部が突起部の方向に向かって延びるように形成される可撓性の鉤片が、ブラケット部の締結部材挿通孔を中心にして対向するように当該ブラケット部の2ヶ所に突設されているものである。
【0023】
このような第5の態様である車両用アース構造によれば、アース用端子の締結部材貫通孔の周囲に形成された突起部をブラケット部の締結部材挿通孔に挿入していくと、可撓性の鉤片は突起部によって矢尻形の先端部が押圧され撓むことになるので、当該突起部をブラケット部の締結部材挿通孔に嵌め込むことができ、而も突起部が金属製の締結部材に導通可能に接触するブラケット部の締結部材挿通孔の所定位置まで嵌め込まれると、鉤片の矢尻形の先端部が突起部の先端から外れるので、この先端部の係止段部は突起部を上から係止することができる。したがって、締結部材を締結する工程において、アース用端子が回ってしまうことを防ぐことができ、而も締結部材を締結する工程においてアース用端子がインストルメントパネルから外れてしまうことを防ぐことができる。
【0024】
本発明の第6の態様は第1の態様乃至第5の態様のうち何れか1つの態様である車両用アース構造において、金属製構造体は、自動車の左右のフロントピラー間に架け渡され、鋼管等の鋼材から形成されるインパネリンフォースメントで、非導電性成型品は、インパネリンフォースメントに組み付けるインストルメントパネルである。
このような第6の態様である車両用アース構造によれば、自動車のインストルメントパネルに搭載されている各種電装品のアースをインパネリンフォースメントに落とすことができる。
【0025】
本発明の第7の態様は第6の態様である車両用アース構造において、インストルメントパネルの裏面には、ワイヤーハーネスを挟み込むことで固定するクリップが設けられているものである。
【0026】
このような第7の態様である車両用アース構造によれば、インストルメントパネルの裏面にワイヤーハーネスを固定して配索できるので、結束テープや結束バンドを削減できると共に、インストルメントパネルが樹脂素材の場合にはワイヤーハーネスを傷付ける虞がないので、ワイヤーハーネスに巻装する保護部材も削減できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の車両用アース構造によれば、インストルメントパネルをインパネリンフォースメントに取り付けるためのボルト締結の工程を行うだけで、アース用端子が回転することを防ぐことができると共に、ワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を介して金属製構造体にアースを落とすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の車両用アース構造における好ましい実施の形態例を示す図で、(A)は部品構成の斜視図、(B)はアース用端子の斜視図、(C)は(A)に示すインストルメントパネルのフランジ部を裏から見た斜視図である。
【図2】本発明の車両用アース構造における他の好ましい実施の形態例を示す図で、(A)は部品構成の斜視図、(B)はアース用端子の斜視図、(C)は(A)に示すインストルメントパネルのフランジ部を裏から見た斜視図である。
【図3】本発明の車両用アース構造におけるアース端子からインパネリンフォースメントにアースを落とす状態を示す説明図で、(A)は図1の車両用アース構造における電流の流れを示す図、(B)は図2の車両用アース構造における電流の流れを示す図である。
【図4】インパネリンフォースメント、インストルメントパネル、インパネハーネス及びフランジボルトとの関係を示す斜視図である。
【図5】インパネハーネス及びインパネリンフォースメントと、従来のアース用端子との関係を示す斜視図である。
【図6】従来の車両用アース構造におけるアース用端子からインパネリンフォースメントまでの電流の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の車両用アース構造を実施するための形態例について、図面を参照して説明する。この本発明の車両用アース構造は、図4に示すインパネリンフォースメント、インストルメントパネル、インパネハーネス及びフランジボルトを適用させるので、それぞれの部品については図4に付された符号を用いて説明する。
【0030】
本発明の車両用アース構造は、非導電性成型品が被覆される金属製構造体に、非導電性成型品の裏面側方向に配索されたワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を、締結部材にて固定することで、金属製構造体にアースを落とすためのものである。
【0031】
具体的には図1(A)、(B)に示すように、樹脂素材からなるインストルメントパネル(非導電性成型品)52に形成されているブラケット部52aと、インパネリンフォースメント(金属製構造体)51との間にアース用端子1を挟み込んで、フランジボルト(金属製の締結部材)55によりブラケット部52aと共にアース用端子1をインパネリンフォースメント52に共締めして当該インパネリンフォースメント52にアースを落とすために、アース用端子1は、フランジボルト55のねじ部55bを挿入するためのボルト貫通孔(締結部材貫通孔)11が貫通する前方側部分1aに、ブラケット部52aを貫通してフランジボルト55のフランジ部55aに導通可能に接触する突起部12が形成されると共に、当該アース用端子1がボルト貫通孔11に挿入されたフランジボルト55のねじ部55bを中心にして回転しないようにブラケット部52aで係止される回り止め手段を備えている。
【0032】
なお、アース用端子1は、導電性材料からなり、後方側部分は、アース用電線53aを圧着固定するための圧着部1bが設けられている。また、フランジボルト55は、フランジ部55a、ねじ部55b及び六角頭部55cで構成され、六角頭部55cのねじ部側に大径のフランジ部55aを備え、フランジ部55aのインストルメントパネル52のブラケット部52aに接する当接面は、全面が平らな平面によって形成されている。
【0033】
このような本発明の車両用アース構造は、フランジボルト55によりインストルメントパネル52に形成されているブラケット部52aと共にアース用端子1をインパネリンフォースメント51に共締めしても、アース用端子1にはフランジボルト55のねじ部55bを挿入するためのボルト貫通孔11が貫通する前方側部分1aに、ブラケット部52aを貫通してフランジボルト55のフランジ部55aに導通可能に接触する突起部12が形成されると共に、当該アース用端子1がボルト貫通孔11に挿入されたフランジボルト55のねじ部55bを中心にして回転しないようにブラケット部52aで係止される回り止め手段を備えているので、インストルメントパネル52をインパネリンフォースメント51に取り付けるためのフランジボルト55を締結する工程を行うだけで、アース用端子1が回転することを防ぐことができると共に、インパネハーネス53に組み込まれているアース用電線53aの末端に接続されたアース用端子1を介してインパネリンフォースメント51にアースを落とすことができる。
【0034】
また、金属製構造体がインパネリンフォースメント51で、非導電性成形品がインストルメントパネル52なので、自動車のインストルメントパネル52に搭載されている各種電装品のアースをインパネリンフォースメント51に落とすことができる。
【0035】
なお、アース用端子1は、突起部12が前方側部分1aの側面に形成されると共に回り止め手段とするために複数設けられているとよい。特に、図1(B)に示すように、突起部12が前方側部分1aの幅方向で対向するように2ヶ所に設けられているとよい。
【0036】
このように、アース端子1は、突起部12を前方側部分1aの側面に形成すると共に回り止め手段とするために複数設けることで、ブラケット部52aに複数の突起部12を挿通させることができるので、フランジボルト55を締結する工程においてアース用端子1が回ってしまうことを防ぐことができる。また、突起部12を前方側部分1aの幅方向で対向するように2ヶ所に設けることで、少ない数の突起部12で、フランジボルト55を締結する工程において、アース用端子54が回ってしまうことを防ぐことができる。
【0037】
また、インストルメントパネル52のブラケット部52aは、アース用端子1の突起部12を挿入するための突起部用貫通孔52cに当該突起部12を嵌め込むことで当該突起部12を上から係止するために、矢尻形の先端部21の係止段部22が突起部12の方向に向かって延びるように形成される可撓性の鉤片2が突起部用貫通孔52cに沿って突設されている。
【0038】
この可撓性の鉤片2の先端部21は、先端から係止段部22に向かって突起部12に近づくように傾斜している。したがって、アース用端子1の突起部12をブラケット部52aの突起部用貫通孔52cに挿入していくと、可撓性の鉤片2は突起部12によって矢尻形の先端部21が押圧され撓むことになるので、当該突起部12を当該突起部用貫通孔52cに嵌め込むことができ、而も突起部12がフランジボルト55のフランジ部55aに導通可能に接触する突起部用貫通孔52cの所定位置まで嵌め込まれると、可撓性の鉤片2の矢尻形の先端部21が突起部12の先端から外れるので、この矢尻形の先端部21の係止段部22は突起部12を上から係止することができる。このことから、フランジボルト55を締結する工程においてアース用端子1がインストルメントパネル52から外れてしまうことを防ぐことができる。
【0039】
さらに、インストルメントパネル52及びアース用端子1をインパネリンフォースメント51に共締めすることができるので、インストルメントパネル52の裏面には、インパネハーネス53を挟み込むことで固定するクリップ(図示せず。)を設けるとよい。このクリップはインストルメントパネル52が樹脂素材なので射出成形機用の金型で一体成型することができ、このインストルメントパネル52と一体成型が可能なクリップとしては、クリップ部分の近傍に肉厚が薄くなったヒンジが形成されるように構成され、成形時の形状から組み付け時の形状へ折り曲げ変形させてインパネハーネス53を挟み込むことができるインテグラルヒンジロック方式や、クリップが係止爪及び係止枠から構成され、係止爪を係止枠に挿入することでインパネハーネス53を挟み込むことができる嵌め込みロック式等が挙げられる。
【0040】
このように、インストルメントパネル52の裏面にクリップを設けることにより、インストルメントパネル52の裏面にインパネハーネス53を固定して配索できるので、結束テープや結束バンドを削減できると共に、樹脂素材からなるインストルメントパネル52はインパネハーネス53を傷付ける虞がないので、インパネハーネス53に巻装する保護部材も削減できる。
【0041】
このような本発明の車両用アース構造において、インストルメントパネル52及びインパネハーネス53をインパネリンフォースメント51に取り付けるには、まず、インパネハーネス53をインストルメントパネル52の予め定められた種々の位置に設けられたクリップで固定して、当該インストルメントパネル52の長手方向に沿って配索する。
【0042】
そして、このインパネハーネス53に組み込まれたアース用電線53aの末端に圧着接続されたアース用端子54を、インストルメントパネル52のブラケット部52aに仮止めする。具体的には、アース用端子1の突起部12をブラケット部52aの突起部用貫通孔52cに挿入していく。アース用端子1の突起部12がブラケット部52aの突起部用貫通孔52cに挿入していくにしたがって、可撓性の鉤片2は突起部12によって矢尻形の先端部21が押圧され撓むことになるので、当該突起部12を当該突起部用貫通孔52cに嵌め込むことができ、而も突起部12がフランジボルト55のフランジ部55aに導通可能に接触する突起部用貫通孔52cの所定位置まで嵌め込まれると、可撓性の鉤片2の矢尻形の先端部21が突起部12の先端から外れるので、この先端部21の係止段部22は突起部12を上から係止することができる。したがって、アース用端子1は、インストルメントパネル52のブラケット部52aに仮止めされることになる。
【0043】
このようにインストルメントパネル52はアース用端子1が仮止めされているので、後はインストルメントパネル52をインパネリンフォースメント51にフランジボルト55で固定するだけでよい。具体的には、インストルメントパネル52をインパネリンフォースメント51に取り付けるために、インストルメントパネル52の予め定められた複数の位置に形成されているブラケット部52a(図4においては、9箇所)それぞれに貫通した取付用ボルト挿通孔52bを、インパネリンフォースメント51の複数の取付用ボルト挿通孔52bに対応するそれぞれの位置に設けられている雌ねじの取付用ボルト孔を合致させてから、フランジボルト55をインストルメントパネル52の各ブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bに挿入して、インパネリンフォースメント51の取付用ボルト孔に締め付ける。
【0044】
この際、アース用端子1が仮止めされているブラケット部52aにおいては上述したようなアース構造なので、ブラケット部52a及びアース用端子54がインパネリンフォースメント51に、アース用端子1が回転することを防ぐことができると共にアース用端子1を介してインパネリンフォースメント51にアースを落とすことができるように共締めすることができる。
【0045】
このような本発明の車両用アース構造によれば、インパネハーネス53のアース用電線53aを介してアース用端子54の圧着部54bを流れてくる電流は、図3(A)に示す実線の矢印AL2のように、アース用端子1の前方側部分1a→アース用端子1の突起部12→フランジボルト55のフランジ部55a→フランジボルト55のねじ部55b→インパネリンフォースメント51へと流れていくので、インパネハーネス53のアース用電線53aを流れてくる電流をインパネリンフォースメント51に流すことができる。
【0046】
この際、図3(A)においては、突起部12のフランジボルト55のフランジ部55aに当接する部位が、電流の流れを阻害せず、而もフランジボルト55のフランジ部55aに対して安定した状態で当接状態を維持できる最小限の面積で形成され、且つこの突起部が前方側部分1aの幅方向で対向するように2ヶ所に設けられているので、異物噛み込みによる導通不良の発生を、従来のアース構造より低減させることができる。
【0047】
なお、本発明の車両用アース構造に適用されるアース用端子は、上述のような図1に示す構成のものに限らず、インストルメントパネル52及びアース用端子をインパネリンフォースメント51に共締めすることができれば図2に示すようなアース用端子3でもよい。
【0048】
このアース用端子3は図2(A)、(B)に示すように、導電性材料からなり、前方側部分3aは、フランジボルト55のねじ部55bを挿入するためのボルト貫通孔31が形成され、後方側部分は、アース用電線53aを圧着固定するための圧着部3bが設けられ、ボルト貫通孔31の周囲に突起部32が形成されている。また、インストルメントパネル52のブラケット部52aのフランジボルト55のねじ部55bを挿入するための取付用ボルト挿通孔52bは、アース用端子3のボルト貫通孔31の周囲に形成された突起部32が挿入可能な大きさに形成されている。さらに、回り止め手段は、インストルメントパネル52のブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bにアース用端子3のボルト貫通孔31の周囲に形成された突起部32を嵌め込むことで、アース用端子3の前方側部分3aを上から係止するために、矢尻形の先端部41の係止段部42がアース用端子3の突起部32の方向に向かって延びるように形成される可撓性の鉤片4が、ブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bを中心にして対向するように当該ブラケット部52aの2ヶ所に突設されている。
【0049】
なお、フランジボルト55は上述した実施例のフランジボルト55と同一構造のものである。また、可撓性の鉤片4の構造も上述した実施例の可撓性の鉤片2と同一構造のものである。
【0050】
このようなアース用端子3のボルト貫通孔31の周囲に形成された突起部32をブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bに挿入していくと、可撓性の鉤片4は突起部32によって矢尻形の先端部41が押圧され撓むことになるので、当該突起部32をブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bに嵌め込むことができ、而も突起部32がフランジボルト55のフランジ部55aに導通可能に接触するブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bの所定位置まで嵌め込まれると、可撓性の鉤片4の矢尻形の先端部41が突起部32の先端から外れるので、この矢尻形の先端部41の係止段部42は突起部32を上から係止することができる。したがって、フランジボルト55を締結する工程において、アース用端子3が回ってしまうことを防ぐことができ、而もフランジボルト55を締結する工程においてアース用端子3がインストルメントパネル52から外れてしまうことを防ぐことができる。
【0051】
このような本発明の車両用アース構造において、インストルメントパネル52及びインパネハーネス53を、インパネリンフォースメント51に取り付けるには、まず、インパネハーネス53をインストルメントパネル52の予め定められた種々の位置に設けられたクリップで固定して、当該インストルメントパネル52の長手方向に沿って配索する。
【0052】
そして、このインパネハーネス53に組み込まれたアース用電線53aの末端に圧着接続されたアース用端子3を、インストルメントパネル52のブラケット部52aに仮止めする。具体的には、アース用端子3の突起部32をブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bに挿入していく。アース用端子3の突起部32がブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bに挿入していくにしたがって、可撓性の鉤片4は突起部32によって矢尻形の先端部41が押圧され撓むことになるので、当該突起部32を当該取付用ボルト挿通孔52bに嵌め込むことができ、而も突起部32がフランジボルト55のフランジ部55aに導通可能に接触する取付用ボルト挿通孔52bの所定位置まで嵌め込まれると、可撓性の鉤片4の矢尻形の先端部41が突起部32の先端から外れるので、この矢尻形の先端部41の係止段部42は突起部32を上から係止することができる。したがって、アース用端子3は、インストルメントパネル52のブラケット部52aに仮止めされることになる。
【0053】
このようにインストルメントパネル52はアース用端子3が仮止めされているので、後はインストルメントパネル52をインパネリンフォースメント51にフランジボルト55で固定するだけでよい。具体的には、インストルメントパネル52をインパネリンフォースメント51に取り付けるために、インストルメントパネル52の予め定められた複数の位置に形成されているブラケット部52a(図4においては、9箇所)それぞれに貫通した取付用ボルト挿通孔52bを、インパネリンフォースメント51の複数の取付用ボルト挿通孔52bに対応するそれぞれの位置に設けられている取付用ボルト孔(図示せず。)を合致させてから、フランジボルト55をインストルメントパネル52の各ブラケット部52aの取付用ボルト挿通孔52bに挿入して、インパネリンフォースメント51の雌ねじの取付用ボルト孔に締め付ける。
【0054】
この際、アース用端子3が仮止めされているブラケット部52aにおいては上述したようなアース構造なので、ブラケット部52a及びアース用端子3がインパネリンフォースメント51に、アース用端子3が回転することを防ぐことができると共にアース用端子3を介してインパネリンフォースメント51にアースを落とすことができるように共締めすることができる。
【0055】
このような本発明の車両用アース構造によれば、インパネハーネス53のアース用電線53aを介してアース用端子3の圧着部3bを流れてくる電流は、図3(B)に示す実線の矢印AL3のように、アース用端子3の前方側部分3a→アース用端子3の突起部32→フランジボルト55のフランジ部55a→フランジボルト55のねじ部55b→インパネリンフォースメント51へと流れていくので、インパネハーネス53のアース用電線53aを流れてくる電流をインパネリンフォースメント51に流すことができる。
【0056】
この際、図3(B)においては、アース用端子3の突起部32のフランジボルト55のフランジ部55aに当接する部位が、電流の流れを阻害せず、而もフランジボルト55のフランジ部55aに対して安定した状態で当接状態を維持できる最小限の面積で形成されているので、異物噛み込みによる導通不良の発生を、従来のアース構造より低減させることができる。
【0057】
なお、締結部材としてフランジボルトが使用されていたが、これに限らず、一般的な六角ボルトでもよく、この場合、緩み止めとして平座金が使用される。
【0058】
また、上述した実施例においては、インストルメントパネルの裏側に配索されているインパネハーネスのアース用端子と、当該インストルメントパネルとに、本発明の車両用アース構造が適用されていたが、これに限らず、非導電性成型品が被覆される金属製構造体に、非導電性成型品の裏面側方向に配索されたワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を、非導電性成型品と共に金属製の締結部材で共締めすることで、金属製構造体にアースを落とすことができれば、自動車のどの部位においても適用することができる。また、このような基本構造ならば、自動車に限らず、どのような車両でも適用することができる。
【0059】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0060】
1……アース用端子
1a……前方側部分
11……ボルト貫通孔(締結部材貫通孔)
12……突起部
2……可撓性の鉤片
21……矢尻形の先端部
22……係止段部

3……アース用端子
32……突起部
4……可撓性の鉤片
41……矢尻形の先端部
42……係止段部

51……インパネリンフォースメント(金属製構造体)
52……インストルメントパネル(非導電性成形品)
52a……ブラケット部
52b……取付用ボルト挿通孔(締結部材挿通孔)
52c……突起用貫通孔
53……インパネハーネス(ワイヤーハーネス)
53a……アース用電線
55……フランジボルト(締結部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性成型品が被覆される金属製構造体に、前記非導電性成型品の裏面側方向に配索されたワイヤーハーネスに組み込まれているアース用電線の末端に接続されたアース用端子を、締結部材にて固定することで、前記金属製構造体にアースを落とすことができる車両用アース構造において、
前記非導電性成型品に形成されているブラケット部と前記金属製構造体との間に前記アース用端子を挟み込んで、金属製の前記締結部材により前記ブラケット部と共に前記アース用端子を前記金属製構造体に共締めして当該金属製構造体にアースを落とすために、
前記アース用端子は、前記金属製の締結部材を挿入するための締結部材貫通孔が貫通する前方側部分に、前記ブラケット部を貫通して前記金属製の締結部材に導通可能に接触する突起部が形成されると共に、当該アース用端子が前記締結部材貫通孔に挿入された前記金属製の締結部材を中心にして回転しないように前記ブラケット部で係止される回り止め手段を備えていることを特徴とする車両用アース構造。
【請求項2】
前記アース用端子は、前記突起部が前記前方側部分の側面に形成されると共に前記回り止め手段とするために複数設けられていることを特徴とする請求項1記載の車両用アース構造。
【請求項3】
前記ブラケット部は、前記アース用端子の前記突起部を挿入するための突起部用貫通孔に前記突起部を嵌め込むことで前記突起部を上から係止するために、矢尻形の先端部の係止段部が前記突起部の方向に向かって延びるように形成される可撓性の鉤片が前記突起部用貫通孔に沿って突設されていることを特徴とする請求項2記載の車両用アース構造。
【請求項4】
前記アース用端子は、前記突起部が前記前方側部分の幅方向で対向するように2ヶ所に設けられていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の車両用アース構造。
【請求項5】
前記アース用端子は、前記突起部が前記締結部材貫通孔の周囲に形成され、
前記ブラケット部の前記金属製の締結部材を挿入するための締結部材挿通孔は、前記アース用端子の前記締結部材貫通孔の周囲に形成された前記突起部が挿入可能な大きさに形成され、
前記回り止め手段は、前記ブラケット部の前記締結部材挿通孔に前記アース用端子の前記締結部材貫通孔の周囲に形成された前記突起部を嵌め込むことで、前記アース用端子の前記前方側部分を上から係止するために、矢尻形の先端部の係止段部が前記突起部の方向に向かって延びるように形成される可撓性の鉤片が、前記ブラケット部の前記締結部材挿通孔を中心にして対向するように当該ブラケット部の2ヶ所に突設されていることを特徴とする請求項1記載の車両用アース構造。
【請求項6】
前記金属製構造体は、自動車の左右のフロントピラー間に架け渡され、鋼管等の鋼材から形成されるインパネリンフォースメントで、前記非導電性成型品は、前記インパネリンフォースメントに組み付けるインストルメントパネルであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうち何れか1項に記載の車両用アース構造。
【請求項7】
前記インストルメントパネルの裏面には、前記ワイヤーハーネスを挟み込むことで固定するクリップが設けられていることを特徴とする請求項6記載の車両用アース構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−93108(P2013−93108A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232683(P2011−232683)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】