説明

車両用アームレスト構造およびアームレスト高さの設定方法

【課題】シートの幅方向両側に設けられるアームレストによって着座乗員の肘を適切にサポートする。
【解決手段】本発明の車両用アームレスト構造は、シート1に着座した着座乗員Mの一方の肘を支持するための第1アームレスト(25)と、着座乗員Mの他方の肘を支持するための第2アームレスト(12)とを備える。そして、シート1のシート中心線Cから、第1アームレスト(25)の肘サポート位置P1までの水平距離W1が、シート中心線Cから第2アームレスト(12)の肘サポート位置P2までの水平距離W2と比較して大きい値に設定され、かつ、第1アームレスト(25)の肘サポート位置P1の高さ寸法H1が、第2アームレスト(12)の肘サポート位置P2の高さ寸法H2よりも大きい値に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した着座乗員の一方の肘を支持するために上記シートの幅方向一方側に設けられた第1アームレストと、上記着座乗員の他方の肘を支持するために上記シートの幅方向他方側に設けられた第2アームレストとを備えた車両用アームレスト構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、車内に設けられたコンソールのボックスの上面を開閉するリッド(蓋)をアームレストとして使用するものにおいて、上記ボックスを昇降させるための昇降ばねと、上記ボックスを所定の高さ位置に保持するための位置決め機構とを設けることにより、上記ボックスの高さ(その上面のアームレスト高さ)を可変的に設定することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−221843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1によれば、電動式でない簡単な機構によりアームレストの高さを調整することができるとともに、シートに着座した着座乗員が上記アームレストを使用する際に、自らの体型や好みに応じてアームレストの高さを調整することにより、肘の適切なサポート感を得られるという利点がある。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、乗員が着座するシートとアームレストとの位置関係については何ら触れられていない。このため、たとえアームレストの高さが可変であったとしても、例えばアームレストの車幅方向の設置位置がシートに対し極端に近かったり遠かったりした場合には、適切な肘のサポート感が得られないおそれがある。
【0006】
特に、シートの左右(幅方向両側)にアームレストが設けられている場合には、シート中心線(シートの幅方向の中止を通る線)から各アームレストまでの水平距離が異なることがあり、このような場合にアームレストの高さを同じに設定してしまうと、左右のアームレストでのサポート感が異なり、乗員が違和感を覚えるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、シートの幅方向両側に設けられるアームレストの高さを、シート中心線からアームレストまでの水平距離に応じて適切に設定することにより、各アームレストによる肘のサポート感をともに良好に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、シートに着座した着座乗員の一方の肘を支持するために上記シートの幅方向一方側に設けられる第1アームレストと、上記着座乗員の他方の肘を支持するために上記シートの幅方向他方側に設けられる第2アームレストとを備えた車両用アームレスト構造であって、上記シートの幅方向の中心を通るシート中心線から、上記第1アームレストにより肘が支持される位置である肘サポート位置までの水平距離が、上記シート中心線から上記第2アームレストの肘サポート位置までの水平距離と比較して大きい値に設定され、かつ、上記第1アームレストの肘サポート位置の高さ寸法が、上記第2アームレストの肘サポート位置の高さ寸法よりも大きい値に設定されたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、シート中心線からの水平距離が長い第1アームレストの高さ寸法を、シート中心線からの水平距離が短い第2アームレストの高さ寸法よりも大きい値に設定したため、着座乗員がその上腕部を外側に開くほど肘の高さが高くなるのに合わせて、各アームレストの高さに適切な差をもたせることができ、各アームレストの水平距離の相違にかかわらず、着座乗員の肘を各アームレストによって適切に支持することができる。これにより、着座乗員は、自身の肘を第1、第2アームレストのいずれに載置したときにおいても、適正な肘のサポート感が得られ、より安楽な体勢をとることができるようになる。
【0010】
本発明において、好ましくは、上記着座乗員の両腕の上腕部をその肩位置を中心に車幅方向に回転させたときの各肘の回転軌跡に対応するように、上記第1アームレストおよび第2アームレストの各肘サポート位置の高さ寸法がそれぞれ設定される(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、着座乗員が自身の上腕部を外側に開くときの肘の回転軌跡に合わせて、上記各アームレストの高さ寸法を適正に設定することができ、各アームレストによる肘のサポート感をより良好に確保することができる。
【0012】
上記構成において、上記着座乗員のヒップポイントから上記第1アームレストの肘サポート位置までの高さ寸法をH1、上記着座乗員のヒップポイントから上記第2アームレストの肘サポート位置までの高さ寸法をH2とすると、両者の高さ寸法差H1−H2(mm)は、下式(1)を満足するように決定されることになる(請求項3)。
【0013】
【数1】

【0014】
ここに、L:着座乗員の上腕部の長さ(mm)、W0:シート中心線から着座乗員の肩位置までの水平距離(mm)、W1:シート中心線から第1アームレストの肘サポート位置までの水平距離(mm)、W2:シート中心線から第2アームレストの肘サポート位置までの水平距離(mm)である。
【0015】
上記式(1)に基づいて第1、第2アームレストの高さ寸法差を決定するようにすれば、各アームレストの水平距離の値や、着座乗員の体型として採用すべきモデルの相違にかかわらず、各アームレストの高さを適正に設定することができる。
【0016】
なお、上記第1、第2アームレストの高さ寸法を決定するために採用される着座乗員の体型モデルとしては、車種やその仕向け地に応じて適宜採用すべきものであるが、例えば、平均的な米国成人男性の体型モデルであるAM50を、上記着座乗員の体型モデルとして採用することが可能である(請求項4)。
【0017】
本発明において、好ましくは、上記シートの幅方向一方側の側面に、シート位置調整用の操作部が設けられており、当該操作部と同じ側に上記第1アームレストが設けられ、上記操作部とは反対側に上記第2アームレストが設けられている(請求項5)。
【0018】
この構成によれば、第1、第2アームレストによる肘のサポート感を良好に確保しつつ、シート位置調整用の操作部を着座乗員が手で操作するのに必要な操作スペースを充分に確保することができる。
【0019】
上記第1、第2アームレストは、乗員が着座するシートの幅方向両側に設けられるアームレストであれば特にその種類を問わないが、好適な例として、上記第1アームレストが、上記シートよりも車幅方向外側に位置するサイドドアのドアトリムに設けられたドアアームレストであり、上記第2アームレストが、上記シートよりも車幅方向内側に位置するセンターコンソールの上面に設けられたセンターアームレストである場合を挙げることができる(請求項6)。
【0020】
本発明において、上記第1アームレストおよび第2アームレストの少なくとも一方の高さ寸法が所定の調整範囲内で変更可能である場合、好ましくは、その調整範囲の上限高さにおけるアームレストの肘サポート位置が、上記着座乗員の肘の回転軌跡に対応する位置に設定される(請求項7)。
【0021】
このように、第1、第2アームレストの少なくとも一方に高さ調整機能をもたせた場合には、そのアームレストを着座乗員が使用する際に、その高さを上限位置まで上昇させることにより、肘を適切にサポートし得る位置まで上記アームレストの高さを容易に調整できるとともに、アームレストの不使用時には、その高さを下げることにより、アームレスト12が運転の邪魔になること等を防止することができる。
【0022】
また、本発明は、シートに着座した着座乗員の一方の肘を支持するためにシートの幅方向一方側に設けられた第1アームレストと、上記着座乗員の他方の肘を支持するためにシートの幅方向他方側に設けられた第2アームレストとを備えた車両を対象として、上記第1アームレストおよび第2アームレストにより肘が支持される位置である肘サポート位置の高さを設定する方法であって、上記着座乗員の両腕の上腕部をその肩位置を中心に車幅方向に回転させたときの各肘の回転軌跡に対応するように、上記第1アームレストおよび第2アームレストのそれぞれの肘サポート位置の高さを設定することを特徴とするものである(請求項8)。
【0023】
このような方法に基づき第1、第2アームレストの高さを設定すれば、上述したアームレスト構造の発明と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、シートの幅方向両側に設けられるアームレストの高さを、シート中心線からアームレストまでの水平距離に応じて適切に設定することにより、各アームレストによる肘のサポート感をともに良好に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態にかかるアームレスト構造が適用された車両の車室内を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】上記車室内を前方から見た正面図である。
【図3】シートに着座した着座乗員がアームレストに肘を載置したところを模式的に示す正面図である。
【図4】上記着座乗員の姿勢および体型をモデル化して示す正面図である。
【図5】上記着座乗員の姿勢および体型をモデル化して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1および図2は、本発明の一実施形態にかかるアームレスト構造が適用された車両の車室内の様子を示す図である。これら図1および図2に示すように、車両の車室フロアF上には、車両を運転する乗員(ドライバー)が着座する運転席シート1(以下、単にシート1と略称する)が配設されている。
【0027】
上記シート1は、左右一対のシートスライドレール2を介して車室フロアF上に前後スライド可能に支持されたシートクッション3と、シートクッション3の後端部から上方に立ち上がるように設けられたシートバック4とを備える。シートバック4は、図略のリクライニング機構を介してシートクッション3に回動可能に支持されており、上記リクライニング機構の操作に応じて上記シートバック4の後傾角度が所定範囲内で変更されるようになっている。
【0028】
上記シートクッション3における車両右側の側面(後述するサイドドア15側の側面)には、シート位置調整用の操作部7が設けられている。例えば、シート1が電動シートである場合、シートクッション3の前後位置(シートスライドレール2上でのスライド位置)やシートバック4の後傾角度を調整するための各種操作スイッチが、上記操作部7として設けられている。
【0029】
上記シート1よりも車幅方向内側に位置する車室内の中央部には、車室フロアFを部分的に上方に隆起させたフロアトンネルFTが前後方向に延びるように設けられており、このフロアトンネルFT上にはセンターコンソール10が配置されている。センターコンソール10は、物品等の収納空間を内部に備えた箱状のコンソール本体11と、コンソール本体11の上面を開閉可能に覆うリッド部12とを有している。
【0030】
上記シート1よりも車幅方向外側に位置する車両の一側面(右側側面)には、乗員(ドライバー)が乗り降りするための図略の乗降用開口部が設けられるとともに、この開口部を開閉可能に覆うサイドドア15が設けられている。
【0031】
上記サイドドア15は、車幅方向に重ね合わせ接合された金属製のパネル材(アウタパネルおよびインナパネル)等からなるドア本体16と、ドア本体16の車内側面を覆うように取り付けられた樹脂製のパネル材からなるドアトリム20と、ドア本体16に昇降可能に支持されたウィンドウガラス17とを有している。
【0032】
上記ドアトリム20は、その上方かつ後方寄りの所定範囲を車外側に凹入させた凹入部21と、この凹入部21よりも下側において相対的に車内側に突出するように設けられた膨出部22とを有している。これら膨出部22と凹入部21との間の段差部分には、略平坦状に前後方向に延びる棚部25が形成されている。また、この棚部25の前方には、斜め上方に延びる傾斜状突設部26が上記棚部25の前端部と連続するように設けられており、この傾斜状突設部26によって上記凹入部21の前辺部が区画されている。さらに、傾斜状突設部26の前方には、車外側に凹入した前側凹入部28が形成され、その下側には、上向きに開口した開口部を有するドアポケット29が設けられている。
【0033】
図3に示すように、上記ドアトリム20の棚部25の上面には、上記シート1に着座した着座乗員Mの一方の肘(右肘)33が載置されるようになっている。つまり、ドアトリム20に設けられた棚部25は、着座乗員Mが安楽な体勢をとるためにその肘を載置するアームレストとして利用される。このため、以下では、棚部25のことをドアアームレスト25と称する。なお、ドアアームレスト25は、本発明にかかる第1アームレストに相当するものである。
【0034】
一方、上記センターコンソール10のリッド部12の上面には、着座乗員Mの他方の肘(左肘)34を載置することが可能である。つまり、リッド部12は、コンソール本体11の上面を覆う蓋としてだけでなく、着座乗員Mの肘を支持するためのアームレストとしても兼用される。このため、以下では、リッド部12のことをセンターアームレスト12と称する。なお、センターアームレスト12は、本発明にかかる第2アームレストに相当するものである。
【0035】
次に、上記ドアアームレスト25(第1アームレスト)およびセンターアームレスト12(第2アームレスト)の寸法関係について詳しく説明する。図3において、シート1の幅方向の中心を通る線をシート中心線C、上記ドアアームレスト25により着座乗員Mの右肘33が支持される位置を肘サポート位置P1、上記センターアームレスト12により着座乗員Mの左肘34が支持される位置を肘サポート位置P2とすると、当実施形態では、シート中心線Cからセンターアームレスト12の肘サポート位置P2までの水平距離W2よりも、シート中心線Cからドアアームレスト25の肘サポート位置P1までの水平距離W1が大きくなるように、各アームレスト25,12の車幅方向位置が設定されている。なお、ドアアームレスト25の水平距離W1の方が大きいのは、当実施形態ではシート1のサイドドア15側の側面に操作部7が設けられることから、この操作部7を操作するためのスペースを充分に確保すべく、シート1とサイドドア15とをある程度離して配置する必要があるからである。
【0036】
なお、上記ドアアームレスト25の肘サポート位置P1は、ドアアームレスト25の幅寸法と乗員Mの肘33の大きさとを考慮して、ドアアームレスト25の上面における若干内側寄りの位置に設定されている。一方、上記センターアームレスト12の肘サポート位置P2は、センターアームレスト12の上面における車両右側の端部(図3上では左側の端部)から、センターアームレスト12の幅寸法の約1/4だけ中心側にオフセットした位置に設定されている。これは、センターアームレスト12の上面における上記肘サポート位置P2とは反対側の部位、つまりセンターアームレスト12の車両左側の端部から約1/4幅寸法だけオフセットした部位が、シート1に隣接する他のシート(助手席シート)に着座した乗員の肘をサポートとするために利用されるからである。
【0037】
一方、上記ドアアームレスト25およびセンターアームレスト12の高さ寸法H1,H2については、シート1に着座する着座乗員Mの体型を基準として決定される。当実施形態では、この高さ寸法H1,H2を決定するための着座乗員Mの体型として、平均的な米国成人男性の体型モデルとして規定されているAM50と呼ばれる体型モデルが採用されている。そして、このAM50の体型を有する着座乗員Mが、身体の中心をシート中心線Cに一致させるようにシート1に着座した状態で、上記ドアアームレスト25およびセンターアームレスト12に適正に肘を載置できるように、各アームレスト25,12の高さ寸法H1,H2が設定されている。なお、図示の例では、着座乗員Mのヒップポイント(臀部の中心)HPから肘サポート位置P1,P2までの高さ寸法が、アームレスト25,12の各高さ寸法H1,H2とされている。
【0038】
図3において、符号31は着座乗員M(AM50の体型モデル)の右腕の上腕部、32は左腕の上腕部を示している。また、SP1は、右腕の上腕部31を車幅方向に回動させるときの中心となる肩位置を示し、SP2は、左腕の上腕部32を車幅方向に回動させるときの中心となる肩位置を示している。
【0039】
図示のように、ドアアームレスト25またはセンターアームレスト12を使用する際に、着座乗員Mは、各アームレスト25,12の位置に合わせて、上腕部31,32を外側に開くようにして肘33,34を動かす。すなわち、着座乗員Mは、ドアアームレスト25を使用する際に、右腕の肩位置SP1を中心に上腕部31を車幅方向に回転させながら、ドアアームレスト25上に肘33を載置する。同様に、着座乗員Mがセンターアームレスト12を使用する際には、左腕の肩位置SP2を中心に上腕部32を車幅方向に回転させながら、ドアアームレスト25上に肘34を載置する。
【0040】
上記右腕の上腕部31を車幅方向に回転させたときに肘33が辿る回転軌跡をR1、左腕の上腕部32を車幅方向に回転させたときに肘34が辿る回転軌跡をR2とすると、上記各肘33,34をアームレスト25,12により適正に支持して着座乗員Mの体勢を安楽にさせるには、図示のように、各アームレスト25,12の高さ寸法H1,H2を、上記肘33,34の回転軌跡R1,R2に対応した高さに設定する必要がある。
【0041】
より具体的に、各肘33,34の中心(肘中心)をELP1,ELP2とすると、上記アームレスト25,12は、上記各肘中心ELP1,ELP2が辿る軌跡である回転軌跡R1,R2に対して、肘33,34の厚みtの分だけ低くした位置に肘サポート位置P1,P2がくるように、その高さ寸法H1,H2を設定する必要がある。このような基準に基づき上記各アームレスト25,12の肘サポート位置P1,P2の高さ寸法H1,H2を設定することにより、着座乗員Mは、自身の肘33,34をアームレスト25,12に載置したときに、適正なサポート感が得られ、より安楽な体勢をとることができるようになる。
【0042】
ただし、着座乗員Mの肘33,34がアームレスト25,12により適正に支持されている状態では、肘33,34からアームレスト25,12に加わる下向きの荷重の反力により、着座乗員Mの肩は若干(例えば40mm程度)上に上がることになる。このことを考慮して、上記肘33,34の回転軌跡R1,R2を規定する際の中心である上記肩位置SP1,SP2は、肘33,34をアームレスト25,12に載置していない初期状態よりも、上記肩の上昇分(40mm程度)だけ上方にオフセットした位置に設定される。そして、このように上方にオフセットした肩位置SP1,SP2を中心に規定された上記回転軌跡R1,R2に対応するように、上記各アームレスト25,12の肘サポート位置P1,P2の高さ寸法H1,H2が設定されている。
【0043】
ここで、上記ドアアームレスト25およびセンターアームレスト12は、上述したように、シート中心線Cからドアアームレスト25の肘サポート位置P1までの水平距離W1の方が、シート中心線Cからセンターアームレスト12の肘サポート位置P2までの水平距離W2よりも大きくなるように、その車幅方向位置が設定されている。そこで、このことに対応して、当実施形態では、ドアアームレスト25の肘サポート位置P1の方が、センターアームレスト12の肘サポート位置P2よりも高い位置に設定されている。すなわち、上記各アームレスト25,12の高さは、着座乗員Mの肘33,34の回転軌跡R1,R2に対応するように設定されるため、シート中心線Cからの水平距離が長いドアアームレスト25の肘サポート位置P1の高さ寸法H1の方が、シート中心線Cからの水平距離が短いセンターアームレスト12の肘サポート位置P2の高さ寸法H2よりも大きい値に設定される。
【0044】
以上説明したように、当実施形態の車両の車室内には、シート1に着座した着座乗員Mの一方の肘(右肘)を支持するためのドアアームレスト25と、着座乗員Mの他方の肘(左肘)を支持するためのセンターアームレスト12とが設けられている。そして、上記シート1のシート中心線Cから、ドアアームレスト25の肘サポート位置P1までの水平距離W1が、シート中心線Cからセンターアームレスト12の肘サポート位置P2までの水平距離W2と比較して大きい値に設定され、かつ、ドアアームレスト25の肘サポート位置P1の高さ寸法H1が、センターアームレスト12の肘サポート位置P2の高さ寸法H2よりも大きい値に設定されている。このような構成によれば、上記各アームレスト25,12による肘のサポート感をともに良好に確保することができる。
【0045】
すなわち、上記実施形態では、シート中心線Cからの水平距離が長いドアアームレスト25の高さ寸法H1を、シート中心線Cからの水平距離が短いセンターアームレスト12の高さ寸法H2よりも大きい値に設定したため、着座乗員Mがその上腕部31,32を外側に開くほど肘33,34の高さが高くなるのに合わせて、各アームレスト25,12の高さに適切な差をもたせることができ、各アームレスト25,12の水平距離の相違にかかわらず、着座乗員Mの肘33,34を各アームレスト25,12によって適切に支持することができる。これにより、着座乗員Mは、自身の肘33,34をドアアームレスト25およびセンターアームレスト12のいずれに載置したときにおいても、適正な肘のサポート感が得られ、より安楽な体勢をとることができるようになる。
【0046】
より具体的に、上記実施形態では、着座乗員Mの上腕部31,32をその肩位置SP1,SP2を中心に車幅方向に回転させたときの各肘33,34の回転軌跡R1,R2に対応するように、上記ドアアームレスト25およびセンターアームレスト12の各肘サポート位置P1,P2の高さ寸法H1,H2がそれぞれ設定されている。これにより、着座乗員Mが自身の上腕部31,32を外側に開くときの肘33,34の回転軌跡R1,R2に合わせて、上記各アームレスト25,12の高さ寸法H1,H2を適正に設定することができ、各アームレスト25,12による肘のサポート感をより良好に確保することができる。
【0047】
また、上記実施形態では、シート1の幅方向両側面のうち、ドアアームレスト25と同じ側である車幅方向外側(サイドドア15側)の側面に、シート位置調整用の操作部7が設けられている。このように、シート中心線Cからの水平距離が長いドアアームレスト25と同じ側に操作部7を設けた場合には、上記各アームレスト25,12による肘のサポート感を良好に確保しつつ、着座乗員Mが操作部7を手で操作するのに必要な操作スペースを充分に確保できるという利点がある。
【0048】
ここで、上記水平距離W1,W2の相違によって各アームレスト25,12の高さ寸法H1,H2の差がどの程度になるかという具体例について説明する。例えば、図3において、シート中心線Cからドアアームレスト25の肘サポート位置P1までの水平距離W1が350mm、シート中心線Cからセンターアームレスト12の肘サポート位置P2までの水平距離W2が320mmであるとする。このとき、AM50の体型を有する着座乗員Mの肘33,34の回転軌跡R1,R2に合わせて上記各アームレスト25,12の高さを設定すると、その高さ寸法差、つまり、ドアアームレスト25の肘サポート位置P1の高さ寸法H1からセンターアームレスト12の肘サポート位置P2の高さ寸法H2を差し引いた値(H1−H2)は、約20mmとなる。
【0049】
なお、上記の例は、W1=350mm、W2=320mmで、かつ着座乗員Mの体型がAM50である場合の例であるが、車種や仕向け地等により、W1,W2の寸法や、着座乗員Mの体型として採用すべきモデルは変わってくる。そこで、次に、上記寸法W1,W2や着座乗員Mの各部の寸法等を変数とした一般式によって、上記アームレスト25,12の高さ寸法差H1−H2を規定することを試みる。
【0050】
図4および図5は、シート1に着座しかつその左右の肘33,34をアームレスト25,12に載置した状態の着座乗員Mをモデル化して示した図である。本図において、Lは乗員Mの上腕部の長さ、W0はシート中心線C(乗員Mの身体の中心と同じ)から乗員Mの左右の肩位置SP1,SP2までの水平距離、Laは乗員Mの上半身の全長(ヒップポイントHPから肩位置SP1,SP2までの長さ)、θはトルソー角(上半身の後傾角度)である。なお、これ以外の寸法(H1,H2,W1,W2,t)は、図3を用いて既に説明したものと同じである。
【0051】
図4、図5によれば、ドアアームレスト25の肘サポート位置P1の高さ寸法H1は、下式(2)によって求めることができる。
【0052】
【数2】

【0053】
一方、センターアームレスト12の肘サポート位置P2の高さ寸法H2は、下式(3)のように表される。
【0054】
【数3】

【0055】
したがって、上記各アームレスト25,12の高さ寸法差H1−H2は、上記式(2)と(3)の差として求めることができる。ただし、製造誤差等を考慮して、上記[式(2)−(3)]に対し±5mm程度の誤差は許容する。この結果、高さ寸法差H1−H2は、下式(1)のように表すことができる。
【0056】
【数4】

【0057】
このような式(1)に基づいて上記各アームレスト25,12の高さ寸法H1,H2の差を決定することにより、上記各アームレスト25,12の水平距離W1,W2の値や、着座乗員Mの体型として採用すべきモデルの相違にかかわらず、各アームレスト25,12の高さを適正に設定することが可能になる。
【0058】
最後に、上述した実施形態以外の変形例についてまとめて説明する。
【0059】
上記実施形態では、シート1の左右に設けられたドアアームレスト25およびセンターアームレスト12のいずれにも、その高さを調整するための機構(高さ調整機構)を設けなかったが、少なくとも一方のアームレストについては高さ調整機構を設けてもよい。
【0060】
例えば、センターコンソール10の上面に設けられてリッド部としても兼用される上記センターアームレスト12に、その高さ寸法H2を所定の高さ範囲内で調整できるようにするための高さ調整機構を設けることが考えられる。この場合には、その調整範囲の上限におけるセンターアームレスト12の高さ寸法H2を、上記着座乗員Mの肘34の回転軌跡R2に対応するような高さに設定するとよい。このようにすれば、着座乗員Mがセンターアームレスト12を使用する際に、その高さを上限位置まで上昇させることにより、肘を適切にサポートし得る位置までセンターアームレスト12の高さを容易に調整できるとともに、センターアームレスト12の不使用時には、その高さを下げることにより、センターアームレスト12が運転の邪魔になること等を防止することができる。
【0061】
また、上記実施形態では、センターコンソール10の上面に設けられたセンターアームレスト12が、本発明にかかる第2アームレスト(つまりシート中心線Cからの水平距離が相対的に短いアームレスト)に該当するものとしたが、第2アームレストは、このようなセンターアームレスト12に限るものではなく、例えば、シート1のシートバック4の側面に取り付けられるアームレストであってもよい。この場合は、センターアームレスト12の場合よりもシート中心線Cからの水平距離がさらに短くなるので、アームレストの高さはさらに低い位置に設定する必要がある。
【0062】
同様に、上記実施形態では、ドアトリム20に設けられたドアアームレスト25が、本発明にかかる第1アームレスト(つまりシート中心線Cからの水平距離が相対的に長いアームレスト)に該当するものとしたが、この第1アームレストとして、ドアアームレスト25以外のアームレスト(例えばシートバック4の側面に取り付けられるアームレスト)を採用してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、乗員Mが着座するシート1が運転席シートである例に基づいて、その左右のアームレスト25,12の高さ寸法H1,H2がどのように設定されるのかを説明したが、上記実施形態と同様の構成は、左右両側にアームレストが設けられるシートであれば、そのシートの種類にかかわらず適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 シート
7 操作部
10 センターコンソール
12 センターアームレスト(第2アームレスト)
15 サイドドア
20 ドアトリム
25 ドアアームレスト(第1アームレスト)
31,32 上腕部
33,34 肘
M 着座乗員
C シート中心線
P1,P2 肘サポート位置
SP1,SP2 肩位置
R1,R2 (肘の)回転軌跡
HP ヒップポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座した着座乗員の一方の肘を支持するために上記シートの幅方向一方側に設けられる第1アームレストと、上記着座乗員の他方の肘を支持するために上記シートの幅方向他方側に設けられる第2アームレストとを備えた車両用アームレスト構造であって、
上記シートの幅方向の中心を通るシート中心線から、上記第1アームレストにより肘が支持される位置である肘サポート位置までの水平距離が、上記シート中心線から上記第2アームレストの肘サポート位置までの水平距離と比較して大きい値に設定され、かつ、上記第1アームレストの肘サポート位置の高さ寸法が、上記第2アームレストの肘サポート位置の高さ寸法よりも大きい値に設定されたことを特徴とする車両用アームレスト構造。
【請求項2】
請求項1記載の車両用アームレスト構造において、
上記着座乗員の両腕の上腕部をその肩位置を中心に車幅方向に回転させたときの各肘の回転軌跡に対応するように、上記第1アームレストおよび第2アームレストの各肘サポート位置の高さ寸法がそれぞれ設定されたことを特徴とする車両用アームレスト構造。
【請求項3】
請求項2記載の車両用アームレスト構造において、
上記着座乗員のヒップポイントから上記第1アームレストの肘サポート位置までの高さ寸法をH1、上記着座乗員のヒップポイントから上記第2アームレストの肘サポート位置までの高さ寸法をH2としたときに、両者の高さ寸法差H1−H2(mm)が、下式(1)を満足するように決定されることを特徴とする車両用アームレスト構造。
【数1】


ここに、
L:着座乗員の上腕部の長さ(mm)
W0:シート中心線から着座乗員の肩位置までの水平距離(mm)
W1:シート中心線から第1アームレストの肘サポート位置までの水平距離(mm)
W2:シート中心線から第2アームレストの肘サポート位置までの水平距離(mm)
【請求項4】
請求項2または3記載の車両用アームレスト構造において、
上記第1、第2アームレストの高さ寸法を決定するために採用される着座乗員の体型モデルが、平均的な米国成人男性の体型モデルAM50であることを特徴とする車両用アームレスト構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用アームレスト構造において、
上記シートの幅方向一方側の側面に、シート位置調整用の操作部が設けられており、当該操作部と同じ側に上記第1アームレストが設けられ、上記操作部とは反対側に上記第2アームレストが設けられていることを特徴とする車両用アームレスト構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用アームレスト構造において、
上記第1アームレストが、上記シートよりも車幅方向外側に位置するサイドドアのドアトリムに設けられたドアアームレストであり、上記第2アームレストが、上記シートよりも車幅方向内側に位置するセンターコンソールの上面に設けられたセンターアームレストであることを特徴とする車両用アームレスト構造。
【請求項7】
請求項2記載の車両用アームレスト構造において、
上記第1アームレストおよび第2アームレストの少なくとも一方の高さ寸法が所定の調整範囲内で変更可能であり、その調整範囲の上限高さにおけるアームレストの肘サポート位置が、上記着座乗員の肘の回転軌跡に対応する位置に設定されたことを特徴とする車両用アームレスト構造。
【請求項8】
シートに着座した着座乗員の一方の肘を支持するためにシートの幅方向一方側に設けられた第1アームレストと、上記着座乗員の他方の肘を支持するためにシートの幅方向他方側に設けられた第2アームレストとを備えた車両を対象として、上記第1アームレストおよび第2アームレストにより肘が支持される位置である肘サポート位置の高さを設定する方法であって、
上記着座乗員の両腕の上腕部をその肩位置を中心に車幅方向に回転させたときの各肘の回転軌跡に対応するように、上記第1アームレストおよび第2アームレストのそれぞれの肘サポート位置の高さを設定することを特徴とするアームレスト高さの設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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