説明

車両用インストルメントパネル前端部組付け構造

【課題】簡素な構造でありながら組付け性に優れ、かつ支持強度および制振性にも優れた車両用インストルメントパネル前端部組付け構造を提供する。
【解決手段】車両のフロントウインドウ下端に沿って延在する車体パネル13へのインストルメントパネル前端部21の組付け構造であって、車体パネルに車幅方向に離間して配設され、先端部が車両後方に向けて突設された複数の係止部材3と、各係止部材に対応してインストルメントパネル前端部に配設された被係止部4とを備えたものにおいて、各被係止部が、インストルメントパネル前端部に一体化して成形され、車両前方に向けて開口したソケット形状部41で構成されており、各ソケット形状部の奥部が、軟性樹脂32を介して各係止部材に嵌着され係止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用インストルメントパネルの前端部を車体パネルに組み付ける構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントウインドウ下端に沿って延在する車体パネル(カウルトップパネル)にインストルメントパネルの前端部を組付ける構造として、特許文献1には、インストルメントパネルの補強部材にグロメットを装着しておき、該グロメットを、カウルトップパネルに突設したピンに嵌着する構造が開示されている。
【0003】
しかし、上記特許文献1の組付け構造は、インストルメントパネルの補強部材に穿設した係合孔に、ゴムなどの弾性体からなるグロメットを装着する作業に手間を要するうえ、インストルメントパネルの下側に隠れた位置で、グロメットの小さい孔をピンに嵌着するようにしているため、ライン工程での組付け作業性が悪かった。
【0004】
一方、本出願人による特許文献2には、カウルトップパネルに穿設した取付け孔にラッパ形状のブッシュを装着しておき、該ブッシュに、インストルメントパネルの前端部に突設したピンを差し込んで係止する組付け構造が開示されている。しかし、この構造では、特殊形状のブッシュを準備する必要があるとともに、該ブッシュに形成した係止爪を取付け孔に圧入して係合させる装着作業が煩雑であることに加えて、樹脂材からなるブッシュが、取付け孔の開口縁部のパネル板厚分で支持される構造であるため、ピンを差し込む際にブッシュが傾動し易い問題があった。
【0005】
【特許文献1】実開平3−128524号公報
【特許文献2】特開平11−254999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術のこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡素な構造でありながら組付け性に優れ、かつ支持強度および制振性にも優れた車両用インストルメントパネル前端部組付け構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の有する課題を解決するため、本発明は、
車両のフロントウインドウ下端に沿って延在する車体パネルへのインストルメントパネル前端部の組付け構造であって、前記車体パネルに車幅方向に離間して配設され、先端部が車両後方に向けて突設された複数の係止部材と、前記各係止部材に対応して前記インストルメントパネル前端部に配設された被係止部とを備えたものにおいて、
前記各被係止部が、前記インストルメントパネル前端部に一体化して成形され車両前方に向けて開口したソケット形状部で構成されており、
前記各ソケット形状部は、車両の上下方向に対して車幅方向が広く形成され、その奥部が、前記各係止部材の直径に略等しい上下方向の開口幅を有するとともに上下当接面が前記各係止部材の軸方向と略平行であり、かつ、その導入部が下方に拡開され、前記導入部の下縁から奥部下当接面に至る傾斜した案内面が形成され、かつ、
前記各ソケット形状部は、前記インストルメントパネルの前端部下面から延設された連結リブを介して前記前端部下面から下方に離隔して配設され、前記連結リブは、車幅方向の少なくとも2箇所に延設されており、
前記各ソケット形状部の奥部が、軟性樹脂を介して前記各係止部材に嵌着され係止されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記の通り構成されているので、以下に記載されるような効果を有する。
(1)車幅方向が広く形成されたソケット形状部により、組付け性を損なわずに車幅方向の位置の誤差を吸収可能となり、温度変化に伴う熱膨張や熱収縮を吸収可能である。
(2)ソケット形状部がインストルメントパネルに一体成形されている構成により、車体パネルの係止部材に、インストルメントパネルの被係止部を1対1で組み付ける構成となり、組付け性が向上することに加えて、双方の位置精度を確保するうえで有利である。
(3)インストルメントパネル前端部の上面(意匠面)に成形時のヒケ等を生じずに強固なソケット形状部を一体成形可能であるとともに、連結リブの前端縁によって、組付け時にインストルメントパネル前端部とソケット形状部との間の間隙に係止部材が入り込むのを防止できる。
(4)組付け状態で、ソケット形状部との間に軟性樹脂が介在することにより、部材相互の振動が抑制され、異音の発生や各部材間の損傷を防止できる。また、軟性樹脂によりソケット形状部との接触面積が増え、ソケット形状部に負担を掛けずに大きな係止力を得ることができる利点もある。
【0009】
本発明において、前記各ソケット形状部の少なくとも1つの奥部が、前記各係止部材の直径に略等しい車幅方向の開口幅まで狭窄している態様では、前記少なくとも1つのソケット形状部を基準としてインストルメントパネル前端部を位置決めして組み付けることで、ソケット形状部の組付け性を損なわずに車幅方向の位置の誤差を吸収可能となり、温度変化に伴う熱膨張や熱収縮を吸収可能である。
【0010】
本発明において、前記少なくとも1つのソケット形状部の狭窄部が、該ソケット形状部の両内側面から内方に突設された一対のリブによって画成されている態様では、一対のリブが係止部材に両側から当接することにより、無理なく車幅方向の位置規制を行えるとともに、一対のリブがソケット形状側壁部の補強構造となり、他に比べて負荷の大きいソケット形状部の強度を確保するうえで有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明実施形態に係わるインストルメントパネル2の車体1への組付け状況を示す分解斜視図である。図において、インストルメントパネル2が組付けられる車体1部分には、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル11が配設され、該ダッシュパネル11の両側部は、車体側壁の一部を構成するカウルサイドパネル12、12に接合されている。
【0012】
カウルサイドパネル12、12は、前方側の縁部が前車輪のホイールアーチの一部を画成する一方、後方側の縁部がドア開口の一部を画成しており、上端には、図示しないAピラーの接合部12aが設けられている。フロントウインドウ(図示せず)の下端に沿って延在するカウルトップパネル13は、ダッシュパネル11の上端縁と左右のカウルサイドパネル12、12の内側面とに接合されており、このカウルトップパネル13に、インストルメントパネル2の前端部21が組付けられる。
【0013】
カウルトップパネル13には、車幅方向に離間して5箇所の係止部材3が配設される一方、インストルメントパネル2の前端部21には、各係止部材3に対応して5箇所の被係止部4が形成されている。インストルメントパネル2は、その内部に車幅方向に延在するステアリングサポートメンバー14に予め組み付けられており、このような組立体をなすインストルメントパネル2の各被係止部4を、カウルトップパネル13の各係止部材3に係止して前端部21の位置決めおよび保持を行い、その後、ステアリングサポートメンバー14の両端部(ブラケット)をカウルサイドパネル12、12にボルト15、15で螺結することにより、最終的な固定がなされるようになっている。
【0014】
図2は、本発明実施形態の係止部材3が突設されたカウルトップパネル13を車両左斜後方から見た斜視図であり、図において、係止部材3は、カウルトップパネル13の段部13aに、先端ネジ部を車両後方に向けて突設されたボルト31と、該ボルト31の先端ネジ部に被着されたキャップ32とで構成されている。
【0015】
ボルト31は、図4に示されるように、ネジが切られたボルト軸部の一端に扁平なボルト頭部を有するウエルドボルトであり、カウルトップパネル13に穿設した取付け孔に、該パネルの裏側からボルト軸部を挿通させ、カウルトップパネル13の裏面に当接したボルト頭部の周囲を溶接し固定してなるものである。カウルトップパネル13の段部13aは、平面視において円弧状に湾曲した基本形状をなしているが、各ボルト31の取付け孔が穿設された取付け座面は、ボルト31の軸方向に直交する平坦面にプレス加工されている。なお、ボルト頭部の座面に突起が設けられている場合もある。
【0016】
キャップ32は、軟性樹脂成形品で構成され、適度な弾性や可撓性、緩衝性を有しながらも、容易に破断しない強度および耐衝撃性を有している。このため、キャップ32は、ボルト31のネジ加工した軸部に沿って拡張され、ボルト軸部に容易に被着できる一方、ボルト軸部に被着された状態では、該ボルト軸部のネジにキャップ32の内面がめり込むことにより、容易に抜脱しない構成になっている。
【0017】
次に、図3は、インストルメントパネル2の前端部21に配設された5箇所の被係止部4のうち、車幅方向中央部に配置された1つの被係止部4(A)を示す斜視図、図4は、被係止部4の係止状態を示す側断面図である。図において、被係止部4は、インストルメントパネル2の前端部21の下面側に一体成形されたソケット形状部41で構成されている。
【0018】
ソケット形状部41は、係止部材3に対向して配置され、車両前方に向けて開口した箱形の基本形状をなし、底部がブラケット43を介してインストルメントパネル2の下面に一体に連結され、かつ、上壁部が2つの連結リブ44を介してインストルメントパネル2の下面に一体に連結されている。したがって、ソケット形状部41自体は、ブラケット43および連結リブ44を介してインストルメントパネル前端部21の下面から下方に離隔して配設されている。
【0019】
上記各ソケット形状部41の開口端部すなわち導入部は、図3〜図5に示すように、下方に拡開されており、導入部の下端縁から奥側下面に至る傾斜した案内面41aが形成されている。この構成により、インストルメントパネル前端部21の組付け時に、インストルメントパネル2の下面に隠れたソケット形状部41であっても、案内面41aが係止部材3の先端を容易に捉え、円滑にソケット形状部41の嵌着位置まで誘導できる。仮に、いずれかのソケット形状部41の案内面41aが係止部材3を捉え損ねた場合には、案内面41aが係止部材3の上側に乗り上げることで、当該部分のインストルメントパネル前端部21が極端に浮き上がるため、組付け不良であることを目視で容易に判別できる。
【0020】
また、上記2つの連結リブ44の前端縁は、図4に示すように、ソケット形状部41の導入部の上縁から上前方に向けて斜めに延在している。この構成により、インストルメントパネル前端部21の組付け時に、インストルメントパネル2の下面とソケット形状部41の上壁部との間に係止部材3が入り込むことを防止でき、ソケット形状部41の嵌着位置に確実に誘導できる。
【0021】
ソケット形状部41は、先述した係止部材3の直径(キャップ32の直径に締まり嵌めの公差を考慮した直径)に略等しい上下方向の開口幅に対して、車幅方向の開口幅が広く形成されたやや扁平な矩形の基本断面形状をなしている。さらに、5つのソケット形状部41のうち、車幅方向中央に配設された被係止部4(A)のソケット形状部41は、図5(a)に示されるように、ソケット形状部41の両内側面から内方に突設された一対のリブ42、42を有し、これらリブ42、42によって、係止部材3の直径に略等しい狭窄部が画成されている。
【0022】
上記各ソケット形状部41の構成により、ソケット形状部41が係止部材3に嵌着され係止された状態では、各ソケット形状部41の上下方向の位置が係止部材3によって規制されるとともに、車幅方向中央に配設された被係止部4(A)のソケット形状部41の幅方向の位置が、リブ42、42と係止部材3とで規制される一方、他の4つの被係止部4(B)のソケット形状部41は、開口幅の分だけ係止部材3に対して車幅方向に移動可能となっている。
【0023】
これにより、インストルメントパネル2の組付け性を損なわずに、車幅方向中央のソケット形状部41を基準に車幅方向の位置規制が行え、位置精度を確保できるとともに、その両側に配設された他のソケット形状部41によって、温度変化に伴うインストルメントパネル2の熱膨張や熱収縮、寸法誤差を吸収可能となり、周辺部品との合わせ品質を向上できる。
【0024】
以上のような係止部材3および被係止部4の構成では、車体1側の係止部材3に、比較的安価な汎用部品のボルト31(ウエルドボルト)を用いたことにより、部品コストおよび型費を削減できる。また、ボルト31の長さの変更も容易に行えるので、様々な機種への展開が可能である。さらに、ボルト31による係止部材3は、従来の方式に比べて僅かなスペースで充分な支持強度を得ることができ、レイアウトの自由度が向上し、様々なボディ形状・レイアウトに対応可能である。
【0025】
また、図4に示すように、ダッシュパネル11に装着されるサイレンサーパッド5(ダッシュインシュレータ)に対して、係止部材3を避ける切欠部の面積を最小限に抑えることが可能となり、車両室内の静粛性を確保するうえでも有利である。さらに、インストルメントパネル2側のソケット形状部41と車体1側のボルト31との間に、軟性樹脂製のキャップ32が介在する構成により、車体1側の振動がキャップ32により絶縁され、インストルメントパネル2側での異音の発生や、ソケット形状部41との当接面での樹脂の損傷を防止できる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0027】
例えば、上記実施形態においては、車幅方向に離間して5箇所の係止部材3および被係止部4が配設される場合を示したが、係止部材3および被係止部4の設置数および間隔は任意に設定可能である。また、上記実施形態においては、連結リブ44が各ソケット形状部41に2つ形成される場合を示したが、連結リブ44は、1つまたは3つ以上形成されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明実施形態に係わるインストルメントパネルの車体への組付け状況を示す分解斜視図である。
【図2】本発明実施形態の係止部材が突設されたカウルトップパネルを車両左斜後方から見た斜視図である。
【図3】本発明実施形態の被係止部を示す要部斜視図である。
【図4】本発明実施形態の被係止部を車体側の係止部材に嵌着した状態を示す側断面図である。
【図5】(a)は車幅方向中央部に配設された被係止部を示す正面図、(b)は他の被係止部を示す正面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 車体
2 インストルメントパネル
3 係止部材
4 被係止部
11 ダッシュパネル
13 カウルトップパネル(車体パネル)
14 ステアリングメンバー
21 前端部
31 ボルト
32 キャップ
41 ソケット形状部
41a 案内面
42 リブ
43 ブラケット
44 連結リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントウインドウ下端に沿って延在する車体パネルへのインストルメントパネル前端部の組付け構造であって、前記車体パネルに車幅方向に離間して配設され、先端部が車両後方に向けて突設された複数の係止部材と、前記各係止部材に対応して前記インストルメントパネル前端部に配設された被係止部とを備えたものにおいて、
前記各被係止部が、前記インストルメントパネル前端部に一体化して成形され車両前方に向けて開口したソケット形状部で構成されており、
前記各ソケット形状部は、車両の上下方向に対して車幅方向が広く形成され、その奥部が、前記各係止部材の直径に略等しい上下方向の開口幅を有するとともに上下当接面が前記各係止部材の軸方向と略平行であり、かつ、その導入部が下方に拡開され、前記導入部の下縁から奥部下当接面に至る傾斜した案内面が形成され、かつ、
前記各ソケット形状部は、前記インストルメントパネルの前端部下面から延設された連結リブを介して前記前端部下面から下方に離隔して配設され、前記連結リブは、車幅方向の少なくとも2箇所に延設されており、
前記各ソケット形状部の奥部が、軟性樹脂を介して前記各係止部材に嵌着され係止されていることを特徴とする車両用インストルメントパネル前端部組付け構造。
【請求項2】
前記車体パネルに装着されるサイレンサーパッドは、前記各係止部材を避ける切欠き部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用インストルメントパネル前端部組付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−254795(P2012−254795A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−185179(P2012−185179)
【出願日】平成24年8月24日(2012.8.24)
【分割の表示】特願2008−123050(P2008−123050)の分割
【原出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】