説明

車両用シートの衝撃吸収機構

【課題】車両の走行中あるいは停止中の追突の際に車両用シートの特にシートバックの急激なリバウンド現象を緩和することが可能な車両用シートの衝撃吸収機構を提供すること。
【解決手段】シートクッション2を支持するクッションフレーム5の後端にシートバック3を支持するバックフレーム6が立設された車両用シート1が、車両フロアF上に設けられるスライド機構8を介して配設される車両用シートの衝撃吸収機構において、スライド機構8は、車両フロア8上に固定されたロアレール8bにクッションフレーム5に固定されたアッパレール8bがスライド可能に装着され、ロアレール8bの前端寄り部位と中間部との間、および該ロアレール8bの中間部と後端寄り部位との間には、それぞれ車両が追突された際の該ロアレール8bの弾性変形に伴う弾性復元力を減衰させる第1の衝撃吸収部材30Aおよび第2の衝撃吸収部材30Bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設置される車両用シートの衝撃吸収機構に関し、更に詳しくは、車両の走行中あるいは停止中に後続車に追突された際の衝撃を効果的に緩和することができる車両用シートの衝撃吸収機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両に設置される車両用シートは、一般に、図9に示されるように、乗員が着座するシートクッション2がクッションフレーム5に支持されると共に、そのシートクッション2の後端部に立設される乗員の背凭れとしてのシートバック3がバックフレーム6に支持され、そのシートバック3の上端には乗員の頭部を受けるヘッドレスト4を備えた構成とされている。このような構成の車両用シート100は、アッパレール8aと、このアッパレール8aがスライド可能に装着されるロアレール8bとからなるシートスライド機構8によって車両フロアF上に取付固定されている。この場合、シートスライド機構8のロアレール8bは、車両フロアFに、その前後端がレッグ9,9によって固定されている。
【0003】
このような構成の車両用シート100において、走行中または停止中に後続車に追突されたり、あるいはバック走行時に後続車に衝突したりするなど、車両が追突した場合においては、車両用シート100そのものが後方から衝撃を受ける。そして、このような場合には、乗員および車両用シート100の重さが慣性力によってロアレール8bに加わり、図10(a)に実線で示されるようにロアレール8bの前方が浮き上がって後方が沈み込むように、すなわちロアレール8bが後方に向かって下傾するように弾性変形し、これによってバックフレーム6(シートバック3)の後方に傾く角度が、同図中実線で示されるように大きくなる。
【0004】
しかして、ロアレール8bは弾性変形の後、図10(b)に仮想線から実線で示されるように元の形状に戻るように弾性的に復帰変形(弾性復元)するが、このロアレール8bの復帰変形の際の復帰力によってシートバック3およびヘッドレスト4が急激に前方へと元の傾き角度へと戻る現象(リバウンド現象:以下同じ)が発生し、このリバウンド現象によって乗員の頸椎等に衝撃が加わってしまい、いわゆる追突時の鞭打ち傷害が生じてしまう。
【0005】
下記特許文献1には、車両の追突時または追突予測時にシートを後方へ移動許容すべく成した車両用シート構造が開示されている。この車両用シート構造は、シートを後方移動に抵抗荷重を付与するダンパーの一端を車両フロア側に取り付け、他端をシート側に取り付けると共に、追突時または追突予測時にはシートスライドのロックをアクチュエータによって解除してダンパーを作動させることによって乗員の頸椎に発生する負担を未然に防止するようになっている。
【0006】
一方、下記特許文献2には、車両用シートのバックフレームの途中部位に、蛇行した補強リブ部を形成して、この補強リブ部での座屈変形を伴うシートバックの後傾によって、追突された時における衝撃の吸収を可能にした構成の車両用シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−25499号公報
【特許文献2】特開平7−132767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の車両用シート構造では、追突された時または追突されることの予測時にシートを後方に移動許容するように構成されているため、車両の追突時にロアレール自体が弾性変形により撓んだ後に発生する上述したシートバックのリバウンド現象による乗員への衝撃を吸収する構成にはなっておらず、また、特許文献2の車両用シートのバックフレームに形成された補強リブ部は、車両の追突時の衝撃荷重に基づいて設定された耐荷重値以上の荷重が入力されることによって座屈変形させるように設計(調整)する必要があるため、その設計(調整)が難しいという問題がある。
【0009】
本発明が解決する課題は、車両の走行中あるいは停止中などにおいて車両が追突された際の車両用シートのシートバックの急激なリバウンド現象を緩和することが可能な車両用シートの衝撃吸収機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明は、シートクッションを支持するクッションフレームの後端にシートバックを支持するバックフレームが立設された車両用シートが、車両フロア上に設けられるスライド機構を介して車両の前後方向にスライド可能に配設される車両用シートの衝撃吸収機構において、前記スライド機構は、車両フロア上に取り付けられるロアレールに前記車両用シートのクッションフレームに取り付けられるアッパレールがスライド可能に装着されるものであって、前記ロアレールの前端寄り部位と中間部との間、および該ロアレールの中間部と後端寄り部位との間には、それぞれ前記車両が追突された際の該ロアレールの弾性変形に伴う弾性復元力を減衰させる第1の衝撃吸収部材および第2の衝撃吸収部材が設けられていることを要旨とするものである。
【0011】
このような構成の車両用シートの衝撃吸収機構によれば、車両の走行中あるいは停止中に後続車から追突されたような場合に、車両用シートは大きな衝撃を受け、ロアレールは主にその中間部が山なりに撓むように弾性変形するが、そのときにロアレールの前端寄り部位と中間部の間に設けられる第1の衝撃吸収部材と、その中間部と後端寄り部位の間に設けられる第2の衝撃吸収部材が、それぞれロアレールの弾性変形並びに元の状態への弾性復元力を減衰させるようになっており、これにより追突された際の車両用シートのシートバックの急激なリバウンド現象が緩和され、運転者あるいは乗員に加わる衝撃を大幅に減少させることができ、安全な運転状態が確保される。
【0012】
この場合、更に、前記バックフレームの上端寄り部位と中間部との間、および該バックフレームの中間部と下端寄り部位との間には、それぞれ前記車両が追突された際の該バックフレームの弾性変形に伴う弾性復元力を減衰させる第3の衝撃吸収部材および第4の衝撃吸収部材が設けられている構成にすると良い。
【0013】
このような構成によれば、車両の走行中あるいは停止中に後続車から追突されたような場合に、車両用シートは大きな衝撃を受け、バックフレームは上端が後方へ反るように弾性変形するが、そのときにバックフレームの上端寄り部位と中間部の間に設けられる第3の衝撃吸収部材と、その中間部と下端寄り部位の間に設けられる第4の衝撃吸収部材が、それぞれバックフレームの弾性変形並びに元の状態への弾性復元力を減衰させるようになっており、これにより追突された際の車両用シートのシートバックの急激なリバウンド現象が緩和され、運転者あるいは乗員に加わる衝撃を大幅に減少させることができ、安全な運転状態が確保される。
【0014】
また、前記衝撃吸収部材は軸方向の変形に対して減衰力を発生するものであって、該衝撃吸収部材の前記弾性復元に対しての減衰力が前記弾性変形に対しての減衰力よりも大きく構成されていると良い。このような構成によれば、例えば、ロアレールやバックフレームの弾性変形に対して衝撃吸収部材が軸方向に引っ張られる場合にはその引張側の減衰力よりも、ロアレールやバックフレームの弾性変形後の弾性復元(復帰変形)に対して衝撃吸収部材が軸方向に圧縮される場合の圧縮側の減衰力を大きくなるように設定することで、ロアレールやバックフレームの弾性変形の際のスピードをそれほど落とすことなくそれらロアレールやバックフレームの弾性変形に対して衝撃吸収部材の軸方向への変形を追従させると共に、ロアレールやバックフレームの弾性復元(復帰変形)の際のスピードを急速に落とすようにそれらロアレールやバックフレームの弾性復元(復帰変形)に対して衝撃吸収部材の軸方向への変形を追従させることができる。つまり、ロアレールやバックフレームの弾性変形を許容しつつ、ロアレールやバックフレームの弾性復元(復帰変形)を規制することで、効果的にロアレールやバックフレームの復帰変形に伴う急激なリバウンド現象を緩和して、乗員に加わる衝撃を減少させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車両用シートの衝撃吸収機構によれば、車両の走行中あるいは停止中などにおいて車両が追突された際に、車両用シートのシートバックが後側に大きく移動しても車両用シートのスライド機構を構成するロアレールに設けられる第1および第2の衝撃吸収部材により、ロアレールそのものの衝撃による撓みが吸収されるされることにより、そのシートバックの急激なリバウンド現象を緩和され、乗員に加わる衝撃を減少させることができ、安全な運転状態を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用シートの衝撃吸収機構の概略構成を示した外観斜視図である。
【図2】図1に示す車両用シートの衝撃吸収機構を側面から視た図である。
【図3】(a)はロアレールに第1および第2のダンパーが設けられた状態を前方から視た断面図、(b)はバックフレーム(サイドフレーム)に第3および第4のダンパーが設けられた状態を下方から視た断面図である。
【図4】第1〜第4のダンパーの概略構成を示した断面図である。
【図5】(a)は第1および第2のダンパーが設けられたロアレールの弾性変形時の状態を示した模式図、(b)は第1および第2のダンパーが設けられたロアレールの復帰変形時の状態を示した模式図である。
【図6】(a)は第3および第4のダンパーが設けられたバックフレーム(サイドフレーム)の弾性変形時の状態を示した模式図、(b)は第3および第4のダンパーが設けられたバックフレーム(サイドフレーム)の復帰変形時の状態を示した模式図である。
【図7】(a)は図5(a)および図6(a)を組み合わせたロアレールおよびバックフレーム(サイドフレーム)の弾性変形時の状態を示した模式図、(b)は図5(b)および図6(b)を組み合わせたロアレールおよびバックフレーム(サイドフレーム)の復帰変形時の状態を示した模式図である。
【図8】本発明の別の実施形態を示したもので、(a)はロアレールの両側それぞれに第1および第2のダンパーが設けられた状態を前方から視た断面図、(b)はバックフレーム(サイドフレーム)の両側それぞれに第3および第4のダンパーが設けられた状態を下方から視た断面図である。
【図9】従来用いられてきた車両用シートの取付構造の概略構成を示した図である。
【図10】図9に示した構造において、(a)はロアレールの弾性変形時の状態を示した模式図、(b)はロアレールの復帰変形時の状態を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る車両用シートの衝撃吸収機構の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、その車両用シートの衝撃吸収機構の概略構成を示した外観斜視図、図2はその側面図を示したものである。
【0018】
図2に示されるように、車両用シート1は、乗員の着座部となるシートクッション2と、乗員の背凭れ部でありシートクッション2に対して傾動可能なシートバック3と、このシートバック3の頂部に組み付けられて乗員の後頭部を受けるヘッドレスト4などを備えている。図1は、シートクッション2の内部骨格を成すクッションフレーム5と、シートバック3の内部骨格を成すバックフレーム6とが、それぞれ示されている。
【0019】
図示されるように、クッションフレーム5は、シートクッション2内の左右両側において対向するように配される左右一対のサイドフレーム5a,5aと、両サイドフレーム5a,5aの前端部の間に架設される棒状のフロントフレーム5bと、両サイドフレーム5a,5aの後端部の間に架設される棒状のリアフレーム5cを有している。
【0020】
バックフレーム6は、シートバック3内の左右両側において対向するように配される左右一対のサイドフレーム6a,6aと、両サイドフレーム6a,6aの上端間に一体に架設されるアッパフレーム6bを有している。アッパフレーム6bには、筒形状を有した一対のホルダ6c,6cが固定されており、このホルダ6c,6cに、ヘッドレスト4の下部から下方へ延びる一対のステー4a,4aを挿し込むことにより、シートバック3の上端にヘッドレスト4が装着されるようになっている。
【0021】
この場合、バックフレーム6を構成するサイドフレーム6a,6aの下端部は、クッションフレーム5のサイドフレーム5a,5aの後端部上方において、リクライニング機構7,7を介して連結されている。リクライニング機構7,7は、これらリクライニング機構7,7間に架設されたロッド7aによって連結されており、バックフレーム6は、このロッド7aを支点として車両前後方向に傾動自在になっている。
【0022】
このようにシートバック3は、バックフレーム6とクッションフレーム5とを連結する左右一対のリクライニング機構7,7によって、シートクッション2に対して前後方向に傾動可能に支持されている。この場合、リクライニング機構7,7は、シートバック3の背凭れ角度を固定するロック状態と、このロック状態を解除して背凭れ角度を調整可能にする解除状態とに切り換えられるようになっている。
【0023】
このような車両用シート1は、クッションフレーム5と車両フロアFとの間に、左右一対で設けられたスライダ機構8,8によって、車両フロアFに対して前後方向に着座位置を調整できるようになっている。スライダ機構8,8は、車両用シート1側に固定されるアッパレール8a,8aと、車両フロアF側に固定されるロアレール8b,8bを備えている。具体的には、スライダ機構8,8は、クッションフレーム5を構成するサイドフレーム5a,5aの下側に連結板5d,5dを介して固定設置された二重板構造のアッパレール8a,8aが、ボール8cおよびローラ8dを介して、車両フロアF上に固定設置されたロアレール8b,8bに対して車両前後方向にスライド移動可能に嵌め込まれた構成となっている(図3(a)参照)。この場合、ロアレール8bは、その前後がレッグ9,9によって車両フロアFと締結されている。
【0024】
また、スライダ機構8,8は、常時は、アッパレール8a,8aとロアレール8b,8bとの間に設けられた図示しないロック機構により、アッパレール8a,8aの前後方向へのスライド移動を規制するロック状態に保持されている。この場合、シートクッション2を前後方向の着座位置を調整する場合には、同じく図示しない操作レバーの操作によって、スライダ機構8,8のロック機構によるロック状態が解除されるようになっている。
【0025】
図1および図2に示されるように、ロアレール8b,8bのそれぞれの外側面には、衝撃吸収部材として、第1のダンパー30A,30Aと第2のダンパー30B,30Bがロアレール8b,8bの長手方向に沿って対向するように配されている。この場合、第1のダンパー30Aはロアレール8bの前端部と中央部との間に配され、第2のダンパー30Bはロアレール8bの中央部と後端部との間に配されている。
【0026】
図3(a)にも示されるように、ロアレール8bの前端寄り部位の下面には、略L字形のブラケット21が前側のレッグ9と共に締結されており、このブラケット21の下方に向かって垂下した前端連結部21aには、第1のダンパー30Aの一端、つまりシリンダ31の基端部31aが軸支ピン21bによって回動自在に軸支されている。また、ロアレール8bの略中央の上面には、略L字形のブラケット22が溶接によって接合されており、このブラケット22の上方に向かって起立した中間連結部22aには、第1のダンパー30Aの他端、つまりロッド32の先端部32aが軸支ピン22bによって回動自在に軸支されている。
【0027】
更に、ロアレール8bの後端寄り部位の下面には、略L字形のブラケット23が後側のレッグ9と共に締結されており、このブラケット23の下方に向かって垂下した後端連結部23aには、第2のダンパー30Bの一端、つまりシリンダ31の基端部31aが軸支ピン23bによって回動自在に軸支されている。また、この第2のダンパー30Bの他端、つまりロッド32の先端部32aが、ブラケット22の中間連結部22aに、第1のダンパー30Aのロッド32の先端部32aと共に、軸支ピン22bによって回動自在に軸支されている。
【0028】
図1および図2に示されるように、バックフレーム6を構成するサイドフレーム6a,6aのそれぞれの外側面には、衝撃吸収部材として、第3のダンパー30C,30Cと第4のダンパー30D,30Dがサイドフレーム6a,6aの長手方向に沿って対向するように配されている。この場合、第3のダンパー30Cはサイドフレーム6aの上端部と略中央部との間に配され、第4のダンパー30Dはサイドフレーム6aの略中央部と下端部との間に配されている。
【0029】
図示されるように、サイドフレーム6aの上端寄り部位の後面には、略L字形のブラケット25が溶接により接合されており、このブラケット25の後方に向かって垂下した上端連結部25aには、第3のダンパー30Cの一端、つまりシリンダ31の基端部31aが軸支ピン25bによって回動自在に軸支されている。また、サイドフレーム6aの略中央の前面には、略L字形のブラケット26が溶接によって接合されており、このブラケット26の前方に向かって起立した中間連結部26aには、第3のダンパー30Cの他端、つまりロッド32の先端部32aが軸支ピン26bによって回動自在に軸支されている。
【0030】
更に、図3(b)にも示されるように、サイドフレーム6aの下端寄り部位の後面には、略L字形のブラケット27が溶接により接合されており、このブラケット27の後方に向かって垂下した下端連結部27aには、第4のダンパー30Dの一端、つまりシリンダ31の基端部31aが軸支ピン27bによって回動軸支に軸支されている。また、この第2のダンパー30Dの他端、つまりロッド32の先端部32aが、ブラケット26の中間連結部26aに、第3のダンパー30Cのロッド32の先端部32aと共に、軸支ピン26bによって回動自在に軸支されている。
【0031】
図4は、第1のダンパー30A、第2のダンパー30B,第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dの内部構造を示している。図示されるように、ダンパー30は、軸方向への変形に対して減衰力を発生する油圧式緩衝器(油圧式ショックアブソーバ)からなるもので、有底円筒状のシリンダ31の内部には、ピストン33が軸方向に摺動可能に配されている。ロッド32の一端は、ピストン33に固着され、他端は、シリンダ31の底部31bとは反対側の端部31cに液密に軸支されてシリンダ31の外部へ延出されている。
【0032】
シリンダ31内は、ピストン33によって底部31b側の油室31dとロッド32側の油室31eとに区画されており、各油室31d,31eには油液が封入されている。ピストン33には、油室31d,31e間を連通する小径の連通孔33aと、この連通孔33aよりも大径の連通孔33bが開口形成されている。この場合、大径の連通孔33bには逆止弁34が設けられている。この逆止弁34は、連通孔33bの途中部位に形成された弁室34aと、球状の弁体34bと、この弁体34bを油室31e側の連通孔33bに付勢する状態で配置されたコイルバネ34cとから構成される。
【0033】
弁体34bは、弁室34aが油室31e側の連通孔33bと繋がる部分の内周縁部に形成されたテーパ状の弁座部34dに当接して、連通孔33bを閉塞する状態と、コイルバネ34cの付勢に抗するように弁座部34dから離間して連通孔33bを開放する状態とを切り換える形態で、コイルバネ34cの付勢方向に摺動自在に配置されている。したがって、連通孔33bは、逆止弁34によって、油室31dから油室31eへと油液の流入を規制するように閉じられる一方、油室31eから油室31dへの油液の流入を許容するように開かれるようになっている。
【0034】
このような構成のダンパー30においては、ロッド32が引張側に伸びる場合には、油室31e内の油液は、ピストン33の小径の連通孔33aを通って油室31d側へと流入すると共に、その液圧で弁体34bを弁座部34dから離間させた開放状態の大径の連通孔33bを通って流入するようになっている。また、ダンパー30においては、ロッド32が圧縮側に縮む場合には、油室31d内の油液は、ピストン33の小径の連通孔33aを通って油室31e内へと流入するが、大径の連通孔33bは逆止弁34に閉じられているのでその連通孔33bを通って油室31e内へと流入しないようにされている。したがって、ダンパー30は、引張側に伸びるときに油室31eから油室30dに移動する油液の流量が、圧縮側に縮むときに油室31dから油室30dに移動する油液の流量よりも多くなるように設定されている。
【0035】
このようにダンパー30は、その軸方向への変形の際の減衰力を、引張側が小さく圧縮側が大きくなるように引張側と圧縮側で異ならせた構成になっている。したがって、図5(a)および図6(a)に示されるようなロアレール8bやシサイドフレーム6aの弾性変形に対しては、それら弾性変形にあまり抗せず追従する(許容する)ようにダンパーが軸方向に引っ張られる場合の引張側の減衰力を小さく設定することが可能である。また、一方、図5(b)および図6(b)に示されるようなロアレール8bやサイドフレーム6aの弾性変形後の復帰変形に対しては、それら復帰変形に抗するようにダンパー30が軸方向に圧縮される場合の圧縮側の減衰力を大きく設定することが可能である。
【0036】
つまり、ダンパー30は、ロアレール8aやサイドフレーム6aの弾性変形の際のスピードをそれほど落とすことなくそれらロアレール8aやサイドフレーム6aの弾性変形に対してダンパー30の軸方向への変形を追従させると共に、ロアレール8aやサイドフレーム6aの復帰変形の際のスピードを急速に落とすようにそれらロアレール8aやサイドフレーム6aの復帰変形に対してダンパー30の軸方向への変形を追従させることができる。したがって、このようなダンパー30によって、ロアレール8aやサイドフレーム6aの弾性変形を許容しつつ、ロアレール8aやサイドフレーム6aの復帰変形を規制することで、効果的にロアレール8aやサイドフレーム6aの復帰変形に伴う急激なリバウンド現象を緩和することが可能になっている。
【0037】
次に、図5を参照してロアレール8bに設けられた第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bによって、車両の追突時にロアレール8bが弾性変形した後、復帰変形する際の復帰力を減衰させる衝撃吸収機構の作用について説明する。
【0038】
車両用シート1が設置された車両が後方から追突されるなど、その車両用シート1が後方から衝撃を受けると、乗員および車両用シート1の重さが慣性力によってロアレール8bに加わり、図5(a)の実線で示されるようにロアレール8bは、その前方が浮き上がって後方が沈み込むように、すなわち後方に向かって下傾するように弾性変形する。
【0039】
このロアレール8bの弾性変形の際に、第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bは、それぞれ引張側に伸びる。このとき、第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bは、ロアレール8bの弾性変形にあまり抗せず追従する(許容する)ように伸びるため、サイドフレーム6aは急激に後方へと傾動する。
【0040】
このようなロアレール8bは弾性変形の後、図5(b)に仮想線から実線で示されるように、元の形状に戻るように復帰変形するが、このロアレール8bの復帰変形の際に、第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bは、それぞれ圧縮側に縮む。このとき、第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bは、ロアレール8bの復帰変形に抗するように縮むため、サイドフレーム6aはゆっくりと前方へ傾動することになる。
【0041】
このように車両の追突時にロアレール8bが後方に向かって下傾するように弾性変形した後、元の形状に復帰変形する際の復帰力を、第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bによって減衰させることで、一旦後方に傾動したサイドフレーム6aのロアレール8bの復帰変形に伴う急激なリバウンド現象が緩和されるようになっており、その結果、乗員に加わる衝撃を減少させることが可能になっている。
【0042】
次に、図6を参照してサイドフレーム6aに設けられた第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dによって、車両の追突時にサイドフレーム6aが弾性変形した後、復帰変形する際の復帰力を減衰させる衝撃吸収機構の作用について説明する。
【0043】
上述した車両用シート1が設置された車両が後方から追突されるなど、その車両用シート1が後方から衝撃を受けると、乗員および車両用シート1の重さが慣性力によってサイドフレーム6aに加わり、図6(a)に実線で示されるようにサイドフレーム6aが後方に向かって反るように弾性変形する。
【0044】
このサイドフレーム6aの弾性変形の際に、第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dは、それぞれ引張側に伸びる。このとき、第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dは、サイドフレーム6aの弾性変形にあまり抗せず追従する(許容する)ように伸びるため、サイドフレーム6aは急激に後方へと反るように傾動する。
【0045】
このようなサイドフレーム6aは弾性変形の後、図6(b)に仮想線から実線で示されるように元の形状に戻るように復帰変形するが、このサイドフレーム6aの復帰変形の際に、第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dは、それぞれ圧縮側に縮む。このとき、第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dは、サイドフレーム6aの復帰変形に抗するように縮むため、サイドフレーム6aはゆっくりと前方へ傾動するように復帰変形することになる。
【0046】
このように車両の追突時にサイドフレーム6aが後方に向かって反るように弾性変形した後、元の形状に復帰変形する際の復帰力を、第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dによって減衰させることで、一旦後方に反るように弾性変形したサイドフレーム6aの復帰変形に伴う急激なリバウンド現象が緩和されるようになっており、その結果、乗員に加わる衝撃を減少させることが可能になっている。
【0047】
図7は、図5に示されるロアレール8bに設けられた第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bによって、車両の追突時にロアレール8bが弾性変形した後、復帰変形する際の復帰力を減衰させる作用と、図6に示されるサイドフレーム6aに設けられた第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dによって、車両の追突時にサイドフレーム6aが弾性変形した後、復帰変形する際の復帰力を減衰させる作用とが組み合わさった状態を示した図である。
【0048】
図7(a)に示されるように、車両用シート1が設置された車両が後方から追突されて、その車両用シート1が後方から衝撃を受けると、乗員および車両用シート1の重さが慣性力によってロアレール8bおよびサイドフレーム6aに加わり、ロアレール8bが後方に向かって下傾するように弾性変形すると共に、サイドフレーム6aが後方に向かって反るように弾性変形する。
【0049】
このロアレール8bおよびサイドフレーム6aの弾性変形の際に、ダンパー30A,30Bおよびダンパー30C,30Dは、それぞれ引張側に伸びる。このとき、ダンパー30A,30Bは、ロアレール8bの弾性変形にあまり抗せず追従する(許容する)ように伸びると共に、ダンパー30C,30Dも、サイドフレーム6aの弾性変形にあまり抗せず追従する(許容する)ように伸びるため、サイドフレーム6aは急激に後方へと大きく反るように傾動する。
【0050】
このようなロアレール8bおよびサイドフレーム6aは弾性変形の後、図7(b)に示されるように、元の形状に戻るようにそれぞれ復帰変形するが、これらロアレール8bおよびサイドフレーム6aのそれぞれの復帰変形の際に、ダンパー30A,30Bおよびダンパー30C,30Dは、それぞれ圧縮側に縮む。このとき、ダンパー30A,30Bは、ロアレール8bの復帰変形に抗するように縮むと共に、ダンパー30C,30Dも、サイドフレーム6aの復帰変形に抗するように縮むため、サイドフレーム6aはゆっくりと前方へと傾動することになる。
【0051】
このように車両の追突時にロアレール8bが後方に向かって下傾するように弾性変形した後、元の形状に復帰変形する際の復帰力を、ダンパー30A,30Bによって減衰させると共に、サイドフレーム6aが後方に向かって反るように弾性変形した後、元の形状に復帰変形する際の復帰力を、ダンパー30C,30Dによって減衰させることで、ロアレール8bの復帰変形およびサイドフレーム6aの復帰変形に伴う急激なリバウンド現象が緩和されるようになっており、その結果、乗員に加わる衝撃を減少させることが可能になっている。
【0052】
以上説明した車両用シートの衝撃吸収機構によれば、ロアレール8bの前端寄り部位と中間部とを連結する第1のダンパー30Aと、後端寄り部位と中間部とを連結する第2のダンパー30Bを備えると共に、ロアレール8bにおける第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bの連結部22aが、ロアレール8bの前端寄り部位および後退寄り部位の連結部21a,23aに対して上下方向にずれて配置されているので、車両の追突時にロアレール8bが後方に向かって下傾するように弾性変形した後、元の形状に復帰変形する際の復帰力を、第1のダンパー30Aおよび第2のダンパー30Bによって減衰させることが可能になっている。これにより、車両追突の際のロアレール8bの復帰変形に伴うシートバック3の急激なリバウンド現象を緩和して、乗員に加わる衝撃を減少させることができる。
【0053】
また、更にバックフレーム6(サイドフレーム6a)の上端寄り部位と中間部とを連結する第3のダンパー30Cと、下端寄り部位と中間部とを連結する第4のダンパー30Dを備えると共に、バックフレーム6(サイドフレーム6a)の中間部における第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dの連結部26aが、バックフレーム6(サイドフレーム6a)の上端寄り部位および後端寄り部位の連結部25a,27aに対して前後方向にずれて配置されているので、車両の追突時にバックフレーム6(サイドフレーム6a)が後方に反るように弾性変形した後、元の形状に復帰変形するときの復帰力を、第3のダンパー30Cおよび第4のダンパー30Dによって減衰させることが可能になっている。これにより、車両追突の際のバックフレーム6(サイドフレーム6a)の復帰変形に伴うシートバック3の急激なリバウンド現象を緩和して、乗員に加わる衝撃を減少させることができる。
【0054】
以上、本発明に係る車両用シートの衝撃吸収機構の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。
【0055】
例えば、ロアレール8bに対してダンパー30A,30Bを上下反対になるように配置すると共に、ダンパー30A,30Bのその軸方向への変形の際の減衰力を、圧縮側が小さく引張側が大きくなるように設定した構成にしても良い。また、同様に、サイドフレーム6aに対してダンパー30C,30Dを前後反対になるように配置すると共に、ダンパー30C,30Dのその軸方向への変形の際の減衰力を、圧縮側が小さく引張側が大きくなるように設定した構成にしても良い。
【0056】
また、図8(a)に示されるように、ダンパー30A,30Bをロアレール8bの左右両側に配するようにしても良く、また同様に、図8(b)に示されるようにダンパー30C、30Dをサイドフレーム6aの左右両側に配するようにしても良く、上述した実施の形態には限定されない。
【符号の説明】
【0057】
1:車両用シート 2:シートクッション 3:シートバック
4:ヘッドレスト 5:クッションフレーム 5a:サイドフレーム
6:バックフレーム 6a:サイドフレーム 6b:アッパフレーム
7:リクライニング機構 8:スライダ機構 8a:アッパレール
8b:ロアレール 21a:前端連結部 22a:中間連結部
23a:後端連結部 25a:上端連結部 26a:中間連結部
27a:下端連結部 30A:第1のダンパー 30B:第2のダンパー
30C:第3のダンパー 30D:第4のダンパー 31:シリンダ
31d,31e:油室 32:ロッド 33:ピストン
33a,33b:連通孔 34:逆止弁 F:車両フロア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションを支持するクッションフレームの後端にシートバックを支持するバックフレームが立設された車両用シートが、車両フロア上に設けられるスライド機構を介して車両の前後方向にスライド可能に配設される車両用シートの衝撃吸収機構において、
前記スライド機構は、車両フロア上に取り付けられるロアレールに前記車両用シートのクッションフレームに取り付けられるアッパレールがスライド可能に装着されるものであって、前記ロアレールの前端寄り部位と中間部との間、および該ロアレールの中間部と後端寄り部位との間には、それぞれ前記車両が追突された際の該ロアレールの弾性変形に伴う弾性復元力を減衰させる第1の衝撃吸収部材および第2の衝撃吸収部材が設けられていることを特徴とする車両用シートの衝撃吸収機構。
【請求項2】
更に、前記バックフレームの上端寄り部位と中間部との間、および該バックフレームの中間部と下端寄り部位との間には、それぞれ前記車両が追突された際の該バックフレームの弾性変形に伴う弾性復元力を減衰させる第3の衝撃吸収部材および第4の衝撃吸収部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シートの衝撃吸収機構。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材は軸方向の変形に対して減衰力を発生するものであって、該衝撃吸収部材の前記弾性復元に対しての減衰力が前記弾性変形に対しての減衰力よりも大きく構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シートの衝撃吸収機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate