説明

車両用シートリフター装置のクラッチ装置

【課題】操作力軽減機能をそなえ、かつ安定して動作するクラッチ装置を備えたシートリフター装置を提供する。
【解決手段】操作レバー12の回転を出力軸20に伝達する摩擦ブレーキ部28と、出力軸20に設けられる出力ギヤ13と、出力軸20に設けられ、出力軸20の回転を助勢する付勢力が供給される付勢力享受部とを備えた車両用シートリフター装置のクラッチ装置において、出力ギヤ13及び付勢力享受部の両側で、出力軸20を回転可能に支持する第一及び第二の軸受部17,19を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用シートのシートクッションの高さを調整するシートリフター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートには、シートクッションの高さを調整する車両用シートリフター装置が設けられたものがある。このようなシートリフター装置では、乗員がシート上に乗車した状態で、操作レバーの操作によりシートクッションの高さを調整可能となっている。そして、その操作力を軽減するために、スプリングの反発力を利用した操作力軽減装置が備えられている。
【0003】
特許文献1には、平行リンク式のシートリフター装置において、トーションバーを使用した操作力軽減装置が開示されている。
特許文献2には、平行リンク式のシートリフター装置において、操作部に設けられた摩擦ブレーキ機構と同軸にスパイラルスプリングを配設した操作力軽減装置が開示されている。
【特許文献1】特開平4−116233号公報
【特許文献2】特開昭62−77247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたシートリフター装置では、操作レバーの操作速度を減速することにより操作トルクを増大させてリフター機構に伝達する減速装置が備えられ、トーションバーの付勢力は、減速装置の出力側でリフター機構に付勢力を付与するように配設されている。
【0005】
従って、シート上に着座した乗員の重量に対応し得るような付勢力を備えた大型のトーションバーを必要とし、そのトーションバーを収容するためのスペースが増大するとともに、コストも上昇するという問題点がある。
【0006】
特許文献2に記載された操作力軽減装置では、入力軸に操作ハンドルが接続され、出力軸に減速装置が接続される摩擦ブレーキ機構にスパイラルスプリングが配設されるため、スパイラルスプリングの付勢力を減速装置の入力側に作用させることができる。従って、付勢力の小さなスパイラルスプリングを使用しても十分な操作力軽減機能を確保することはできる。
【0007】
しかし、操作レバーで回転駆動される従動部材は、その中間部でのみケースに回転可能に支持され、一端側で操作レバーに接続され、他端側にトーションスプリングが配設され、さらに他端に減速装置が接続される。
【0008】
このため、従動部材の回転軸心にぶれが生じやすく、このぶれが操作レバーの操作性を悪化させ、あるいはブレーキ性能の低下を招くという問題点がある。
また、組み立てに際しては、スパイラルスプリングの両端部をケースと従動部材に係合させて蓄勢した状態に保持しながら、トーションスプリング及び駆動部材をケース内に収容する必要があるため、その組み立て作業が煩雑となる。
【0009】
この発明の目的は、操作力軽減機能をそなえ、かつ安定して動作するクラッチ装置を備えたシートリフター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、操作レバーの回転を出力軸に伝達する摩擦ブレーキ部と、前記出力軸に設けられる出力ギヤと、前記出力軸に設けられ、前記出力軸の回転を助勢する付勢力が供給される付勢力享受部とを備えた車両用シートリフター装置のクラッチ装置において、前記出力ギヤ及び付勢力享受部の両側で、前記出力軸を回転可能に支持する第一及び第二の軸受部を設けた車両用シートリフター装置のクラッチ装置により達成される。
【0011】
上記手段により、出力軸は出力ギヤ及び付勢力享受部の両側で、第一及び第二の軸受部により回転可能に支持される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、操作力軽減機能をそなえ、かつ安定して動作するクラッチ装置を備えたシートリフター装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び図2に示す車両用シート1は、シートクッション1aとシートクッション1aの後端上面から斜め上側に延びるシートバック1bとを備え、車両のフロアに固定されるロアレール2a,2b上に移動可能に支持される。シートクッション1aの下側には、シートクッション1aの座面の高さを調整するシートリフター装置3が設けられている。
【0014】
前記ロアレール2a,2bにはそれぞれアッパレール4a,4bが摺動可能に装着されている。アッパレール4a,4bには、前記シートクッション1aのベースフレーム5a,5bが昇降可能に支持されている。
【0015】
すなわち、前記アッパレール4aの前後端部にリフタリンク6a,7aの下端部が回動可能に支持され、そのリフタリンク6a,7aの上端部が前記ベースフレーム5aの前後端部に回動可能に連結されている。
【0016】
同様に、前記アッパレール4bの前後端部にリフタリンク6b,7bの下端部が回動可能に支持され、そのリフタリンク6b,7bの上端部が前記ベースフレーム5bの前後端部に回動可能に連結されている。
【0017】
また、リフタリンク7a,7bとベースフレーム5a,5bの連結部は筒状のトルクロッド9で連結されている。従って、ベースフレーム5a,5bは連動して昇降可能である。
【0018】
前記ベースフレーム5bにはクラッチ装置11が取着され、そのクラッチ装置11に操作レバー12が取着され、出力軸にはピニオンギヤ13が設けられている。そして、操作レバー12の操作によりピニオンギヤ13が回転される。
【0019】
前記クラッチ装置11の後方において、前記ベースフレーム5bにはセクタギヤ14の基端側下部が回動可能に支持され、そのセクタギヤ14の先端部には前記ピニオンギヤ13に噛み合う歯部14aが形成されている。そして、ピニオンギヤ13の回転にともなってセクタギヤ14が回動するようになっている。
【0020】
前記セクタギヤ14の基端側上部と、前記リフタリンク7bの上端部は駆動リンク15で連結されている。駆動リンク15は、セクタギヤ14及びリフタリンク7bに対しそれぞれ回動可能に連結されている。
【0021】
従って、セクタギヤ14が回動されると、駆動リンク15を介してリフタリンク7bが回動され、トルクロッド9を介してリフタリンク7aが回動され、ベースフレーム5a,5bが連動して昇降される。
【0022】
次に、前記クラッチ装置11の具体的構成を説明する。図3に示すように、ベースフレーム5bはクラッチ装置11を支持する位置に補助フレーム16が取着される。この補助フレーム16はその基端部がベースフレーム5bに例えばボルト等で固定され、先端部はベースフレーム5bに対し所定間隔を隔てて平行となるように延設されている。
【0023】
前記補助フレーム16の先端部には貫通孔が形成されて第一の軸受部17が形成され、ベースフレーム5bには第一の軸受部17と中心線が重なるように貫通孔が形成され、その貫通孔に軸受部材18が嵌着されて、第二の軸受部19が形成されている。第二の軸受部19の径は、第一の軸受部17の径より大きい径で形成されている。
【0024】
前記クラッチ装置11は、図5に示すように、出力軸20の中間部に前記ピニオンギヤ(出力ギヤ)13が形成され、そのピニオンギヤ13の一部に第一のブッシュ21が相対回転不能に嵌合される。また、出力軸20の先端部は、前記第一の軸受部17に挿通可能とする径に形成されている。
【0025】
そして、出力軸20はその中間部が第一のブッシュ21を介して第二の軸受部19に回転可能に支持され、先端部が第一の軸受部17に回転可能に支持されている。また、補助フレーム16とベースフレーム5bとの間で、ピニオンギヤ13に前記セクタギヤ14の歯部14aが噛み合わされている。
【0026】
前記ピニオンギヤ13の側方において、前記出力軸20の先端部にはスプライン22が刻設され、そのスプライン22に第二のブッシュ23が相対回転不能に嵌合されている。第二のブッシュ23の外周面には係止溝24が形成されている。
【0027】
第二のブッシュ23の周囲にスパイラルスプリング25が配設され、図4に示すように、そのスパイラルスプリング25の内周側端部26aが前記係止溝24に支持され、外周側端部26bが前記補助フレーム16とベースフレーム5bとの間に支持される掛止軸27に支持されている。従って、スパイラルスプリング25の付勢力はベースフレーム5bを支点として出力軸20に所要の回転トルクを付与し、そのトルクはベースフレーム5a,5bを上昇させる方向に作用する。
【0028】
前記出力軸20の基端側は、ベースフレーム5bの側方へ突出され、その周囲にはベースフレーム5bに固定された摩擦ブレーキ部28が配設されている。そして、出力軸20の基端に回転可能に支持されたプレート29に前記操作レバー12が係合する。そして、摩擦ブレーキ部28は操作レバー12の操作によるプレート29の回転を前記出力軸20に伝達し、セクタギヤ14及びスパイラルスプリング25から出力軸20に作用する回転トルクによる同出力軸20の回転を阻止する公知の作用をなす。
【0029】
上記のようなクラッチ装置11を組み立てるには、まず出力軸20を嵌挿した摩擦ブレーキ部28をベースフレーム5bに固定し、第二の軸受部19に出力軸20が支持される状態とする。
【0030】
次いで、出力軸20の先端部に第二のブッシュ23及びスパイラルスプリング25を取付け、さらに補助フレーム16の第一の軸受部17に出力軸の先端を挿通した状態で、補助フレーム16の基端部をベースフレーム5bに固定する。そして、スパイラルスプリング25の外周側端部26bを掛止軸27に掛止めし、プレート29を回転させて、スパイラルスプリングの初期トルクを調整する。
【0031】
次に、上記のようなクラッチ装置11を備えたシートリフター装置の動作を説明する。操作レバー12をシート上昇方向に回動させると、摩擦ブレーキ部28を介して出力軸20が回転され、セクタギヤ14が回転される。
【0032】
セクタギヤ14の回動に基づいて、駆動リンク15を介してリフタリンク7a,7bが回動され、ベースフレーム5a,5bが上昇する。従って、シートクッション1aが上昇する。
【0033】
このとき、スパイラルスプリング25の付勢力が出力軸20の回転を助勢する方向に作用するため、操作レバー12の操作力が軽減される。
一方、操作レバー12をシート下降方向に回動させると、摩擦ブレーキ部28を介して出力軸20が回転され、セクタギヤ14が回転される。
【0034】
セクタギヤ14の回動に基づいて、駆動リンク15を介してリフタリンク7a,7bが回動され、ベースフレーム5a,5bが下降する。従って、シートクッション1aが下降する。
【0035】
このとき、出力軸20の回転に基づいてスパイラルスプリング25が蓄勢されるため、シートクッション1aが急激に下降することはない。
上記のように構成されたクラッチ装置11では、次に示す作用効果を得ることができる。
(1)出力軸20を第一及び第二の軸受部17,19の二箇所で支持し、両軸受部間で出力軸20のピニオンギヤ13にセクタギヤ14を噛み合わせ、かつスパイラルスプリング25の付勢力を作用させた。そして、第一及び第二の軸受部17,19はピニオンギヤ13とセクタギヤ14の噛み合い部分及びスパイラルスプリング25からの付勢力享受部に対し、出力軸20の軸方向両側に位置する。従って、セクタギヤ14から出力軸20に作用する応力及びスパイラルスプリング25から出力軸20に作用する応力による出力軸20の軸心のぶれの発生を防止することができる。
(2)出力軸20の軸心のぶれを抑制することができるので、摩擦ブレーキ部28の動作を安定させることができる。
(3)摩擦ブレーキ部28をベースフレーム5bに固定した後に、出力軸20にスパイラルスプリング25を取着し、次いで補助フレーム16をベースフレーム5bに取着することができる。従って、スパイラルスプリング25を容易に取り付けることができる。
【0036】
上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・スパイラルスプリング25の内周側端部を出力軸20に直接係止してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】車両用シートリフター装置が設けられた車両用シートの斜視図。
【図2】車両用シートリフター装置の斜視図。
【図3】クラッチ装置の断面図。
【図4】スパイラルスプリングの正面図。
【図5】クラッチ装置の主要部の分解斜視図。
【符号の説明】
【0038】
3…シートリフター装置、5a,5b…ベースフレーム、11…クラッチ装置、12…操作レバー、13…出力ギヤ(ピニオンギヤ)、16…補助フレーム、17…第一の軸受部、19…第二の軸受部、20…出力軸、24…付勢力享受部(係止溝)、25…スパイラルスプリング、28…摩擦ブレーキ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作レバーの回転を出力軸に伝達する摩擦ブレーキ部と、
前記出力軸に設けられる出力ギヤと、
前記出力軸に設けられ、前記出力軸の回転を助勢する付勢力が供給される付勢力享受部と
を備えた車両用シートリフター装置のクラッチ装置において、
前記出力ギヤ及び付勢力享受部の両側で、前記出力軸を回転可能に支持する第一及び第二の軸受部を設けたことを特徴とする車両用シートリフター装置のクラッチ装置。
【請求項2】
前記出力軸を回転可能に支持するベースフレームに補助フレームを取付け可能とし、前記補助フレームとベースフレームに前記第一及び第二の軸受部を設け、前記第一及び第二の軸受部の間に、前記出力ギヤと前記付勢力享受部に付勢力を供給するスパイラルスプリングを配設したことを特徴とする請求項1記載の車両用シートリフター装置のクラッチ装置。
【請求項3】
前記付勢力享受部は、前記出力軸に相対回転不能に嵌合し、前記スパイラルスプリングの端部を係合可能とした係止溝を備えたブッシュで構成したことを特徴とする請求項2記載の車両用シートリフター装置のクラッチ装置。
【請求項4】
前記補助フレームとベースフレームとの間に、前記スパイラルスプリングが発生する付勢力の支点となる掛止軸を設けたことを特徴とする請求項2記載の車両用シートリフター装置のクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−137245(P2007−137245A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333257(P2005−333257)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】