説明

車両用シート制御装置

【課題】道路状況や運転状況等の変化に対応しつつ、運転者の意思も反映された適切なシート姿勢へと変更可能な車両用シート制御装置を提供する。
【解決手段】車両用シート制御装置1は、運転者40の音声を入力するマイク11(入力手段)、マイク11に入力された運転者40の音声を認識する音声認識部12(音声認識手段)、シート30に設けられた複数のシート駆動用アクチュエータ31を駆動するシート制御部20(制御手段)、及びシート30に設けられた複数の距離センサ32(着座位置検出手段)を含んで構成される。シート制御部20は、音声認識部12により認識された運転者40の音声がシート動作に対応して予め設定されている音声コマンドであり、かつ、着座位置が基準着座位置と一致していないことを条件として、シート駆動用アクチュエータ31を駆動しシート30の姿勢を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート制御装置に関し、特に車両の走行中にシートの姿勢を変更制御可能な車両用シート制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用シート制御装置として、ナビゲーションシステムにより取得された坂道、カーブなどの道路情報に応じて、さらにその道路情報に加え、車両に設けられた加速度センサ、操舵角センサ、ヨーレートセンサ及び車速センサのうち少なくともいずれかから得られる車両の走行情報を加味して、シートの姿勢(シート角度、前後、上下、旋回、張り出し量)を調整するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
なお、カーシェアリングシステムのように1台の車を特定範囲内の複数の運転者が利用する場合において、各運転者に対応して予め運転者毎にシートの座席データが記憶されるようにし、話者の音声により運転者を認識し、その認識された運転者に対応する座席データに基づいてシートを動作させる車載装置(例えば、特許文献2参照)、車両の搭乗者のシートにおける圧力分布を検出し、その圧力分布に応じて搭乗者の会話の盛り上がり状態を判定し、その判定結果に応じて適宜娯楽を提供する車載装置(例えば、特許文献3参照)、さらに運転者の頭部とヘッドレスト間の距離、又は運転者の肩部とシートバック間の距離を検出して、運転者の視線の方向を判定する車載装置(例えば、特許文献4参照)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−119559号公報
【特許文献2】特開2010−163100号公報
【特許文献3】特開2007−045400号公報
【特許文献4】特開2007−280352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載された車載装置は、道路状況を予測し、予測した道路状況が反映されるようにシートの姿勢を画一的に自動調整するものに過ぎず、嗜好や都合など運転者側の事情については何ら考慮されていなかった。また、調整しようとするシートの姿勢も、坂道やカーブなど制御システムが想定する範囲内に限られ、運転者の疲労時のように道路状況に関係しない場合や、人混みの道路のようにナビゲーションシステムでは情報として入手できない状況下にある道路を走行する場合には、運転者自身がシートの姿勢を手動で調整する必要があった。このため、シート姿勢の調整のために視線を前方から外すことも多く、周辺監視の注意が疎かになり易いという問題があった。すなわち、シートの姿勢を調整するためには、複数のスイッチを操作する必要があり、複数のパラメータが相互に関連して座り心地、運転の快適性、視野の向上性などに影響を及ぼすものであるため、調整するのに手間がかかり、特に、運転中では調整に時間を割くことができないため、運転に適したシート姿勢に必ずしも調整できるとは限らなかった。
なお、上記特許文献2に記載された車載装置は、音声でシートの姿勢を変更するものであるが、運転時の最初に音声により特定された運転者に対応する設定データに基づいてシートの姿勢を動作させるに過ぎず、その動作には道路状況が反映されていないため、道路状況が変化した場合には、運転者が調整し直すという手間が必要であった。
また、上記特許文献3、4に記載された車載装置は、運転者のシート上での座席位置を検出しているが、その検出結果を利用してシートの姿勢を積極的に調整するものではない。
【0005】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、運転状況あるいは運転状況の変化に対応しつつ、運転者の意思も反映された適切なシート姿勢へと変更可能な車両用シート制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、車両の走行中に運転者が着座しているシートの姿勢を変更制御可能な車両用シート制御装置であって、
運転者の音声を入力する入力手段と、
入力手段に入力された運転者の音声を認識する音声認識手段と、
運転者のシートに対する着座位置を検出する着座位置検出手段と、
運転者により予め設定されたシート基準姿勢、及び該シート基準姿勢における運転者のシートに対する着座位置である基準着座位置を記憶する記憶手段と、
シートに設けられたシート駆動用アクチュエータを駆動することにより、シートの姿勢を変更する制御手段と、を備え、
制御手段は、音声認識手段により認識された運転者の音声がシート動作に対応して予め設定されている音声コマンドであり、かつ、着座位置が基準着座位置と一致していないことを条件として、シート駆動用アクチュエータを駆動しシートの姿勢を変更することを特徴とする。この場合、シートの姿勢は、例えば、前後位置、上下位置、シートバックの前後回転位置、及びシートクッションの左右回転位置の少なくともいずれかとされていると好適である。
【0007】
本発明の車両用シート制御装置では、道路状況、運転状況の変化に応じて運転者のシートに対する姿勢が変化し、運転者の着座位置が基準着座位置と一致しなくなった場合に、ユーザ指向でシート姿勢を自動的に変更することが可能である。すなわち、運転者の音声に応じて運転者の姿勢に適合するようにシート姿勢を変更することが可能である。このため、道路状況等が変化した場合に、複数のスイッチを用いて手動で調整を繰り返さなくても、シート姿勢を容易に変更できるので、運転に集中しなければならない状況下において周辺監視の注意を的確に行うことができる。
【0008】
着座位置検出手段は、運転者の頭部とヘッドレストとの距離、及び運転者の肩部とシートバックとの距離の少なくとも一方を検出する距離センサを含んで構成されており、制御手段は、距離センサにより着座位置に対応して検出された測定距離と、基準着座位置に対応して検出された基準距離との差が所定範囲に収まるようにシートの姿勢を変更する構成であるよい。また、着座位置検出手段は、運転者の着座状態におけるシートクッションでの重心位置、及びシートバックでの重心位置の少なくとも一方を算出するための複数の圧力センサを含んで構成されており、制御手段は、圧力センサにより検出された圧力に基づき着座位置に対応して計算された重心位置と、基準着座位置に対応して計算された基準重心位置との差が所定範囲に収まるようにシートの姿勢を変更する構成であってもよい。
【0009】
上記距離センサ又は圧力センサを用いて運転者のシートに対する着座位置を計測し、運転者の音声に応じて運転者が通常保っている基準着座位置での位置関係又は押圧関係となるようにシート姿勢を変更することで、制御システムが予測あるいは所定の方式で規定したパラメータではなく、運転者自身が自然に選好した姿勢に合わせてシート姿勢が変更するようになる、このため、快適性及び視野が確保されるようになって安全運転を効果的に実現することができる。
【0010】
また、制御手段は、シートの姿勢を変更した後に音声認識手段により認識された運転者の音声がシート復帰動作に対応した特定の音声コマンドである場合は、シートの姿勢を変更する前の変更前シート姿勢に戻すように構成することができる。
【0011】
これによれば、道路状況等が改善することで、現状のシート姿勢が運転者にとって快適でなくなった場合には、特定の音声コマンドを発することにより、変更前シート姿勢、すなわち余裕のあるシート姿勢へと容易に復帰させることが可能である。
【0012】
この場合、記憶手段は、シート基準姿勢に加えて、シートの姿勢が変更された場合に変更後のシート変更姿勢を順次記憶するように構成されており、制御手段は、音声認識手段により認識された運転者の音声が特定の音声コマンドである場合は、変更前シート姿勢として記憶手段に記憶されている一つ前のシート変更姿勢に戻し、特定の音声コマンドが連呼される場合は、記憶手段に記憶されているシート変更姿勢の古いものへと順に戻すように構成するとよい。
【0013】
これによれば、特定の音声コマンドを連呼することで、以前の道路状況等において運転者に快適であったシート姿勢へと容易に復帰させることが可能である。
【0014】
また、記憶手段は、シートの姿勢が変更された場合に変更後のシート変更姿勢を車両の傾斜角度と対応付けて記憶するように構成されており、制御手段は、音声認識手段により認識された運転者の音声が特定の音声コマンドである場合は、変更前シート姿勢として現在の車両の傾斜角度と同じ程度の傾斜姿勢時に記憶されたシート変更姿勢に戻す構成とすることもできる。この場合、制御手段は、例えば、車両に設けられた傾斜センサ又はナビゲーション装置を通じて車両の傾斜角度を取得すると好適である。
【0015】
これによれば、車両の傾斜角度と対応付けて記憶されたシート変更姿勢を参照し、現在の車両の傾斜角度と同じ程度(同じ又は最も近い)の傾斜姿勢時に記憶されたシート変更姿勢に戻されるので、特定の音声コマンドを連呼しなくて済み、より簡便にシート姿勢を復帰させることが可能である。
【0016】
また、運転者に発声を促す音声案内を出力する出力手段を備え、制御手段は、音声認識手段により認識された音声コマンドに従ってシート変更姿勢へ変更するとした場合、該シート変更姿勢における運転者の着座位置が基準着座位置に対して遠ざかる位置関係となる場合は、音声コマンドを無効化し、かつ、出力手段を通して運転者に発声を促す音声案内を出力するように構成することもできる。
【0017】
例えば、運転者が前のめりになって、シートと運転者との間に空隙ができ、あるいは重心位置がシートの前部側へ移動したにもかかわらず、運転者の音声コマンドが「シートを後ろに」である場合には、運転者の音声コマンドがその状況に対して適切でないことが明らかである。したがって、この場合には、その音声コマンドを無効化し、さらに運転者に発声を促す音声案内をすることで、安全性をより良好に確保した状態でシート姿勢を変更することができる。
【0018】
また、着座位置検出手段として、上記距離センサと圧力センサとが用いられ、制御手段は、距離センサにより検出された測定距離と、圧力センサにより検出された測定圧力に基づく重心位置とが対応関係にない場合は、音声認識手段により認識された運転者の音声コマンドに従い、運転者の着座位置が基準着座位置に対して近づく位置関係となる測定距離及び重心位置のいずれか一方に基づいてシート姿勢を変更し、かつ、出力手段を通して距離センサ及び圧力センサのいずれかが故障している旨の音声案内を出力するように構成することもできる。
【0019】
これによれば、シート姿勢の変更を優先しつつ、センサ故障後の修理対応を迅速に進めることができる。なお、距離センサ及び圧力センサのいずれか一方のみを用いて運転者の着座位置を検出する場合は、センサ側の誤計測か音声入力時の誤認識かが決定できない。したがって、この場合には、出力手段を通して再度発声を促す音声案内を行い、さらに音声認識結果を確認する音声案内を行った後、運転者の確認音声を受けたことを条件として、シート姿勢を変更するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の車両用シート制御装置のシステム構成図。
【図2】本発明の実施例1に係り、シートにおける距離センサの配置、及びシート駆動用アクチュエータによるシート動作の概要を示す説明図。
【図3】(a),(b)は運転者が基準着座位置にあるとき、(c)は運転者が前のめりの姿勢となった着座位置にあるときの距離センサによる運転者の測定例を示す説明図。
【図4】(a)は運転者が横向きの姿勢となった着座位置にあるときの距離センサによる運転者の測定例を示す説明図。(b)は運転者が(a)の着座位置にある状態でシート姿勢が変更された場合の説明図。
【図5】本発明の実施例1に係り、図1のシート制御部によって実行されるシート姿勢変更プログラムを示すフローチャート。
【図6】下り坂でのシート姿勢を変更する場合の一例を示す説明図。
【図7】本発明の実施例2に係り、シートにおける圧力センサの配置を示す説明図。
【図8】(a)は運転者が基準着座位置にあるとき、(b)は運転者が前側に乗り出した着座位置にあるとき、(c)は運転者が片側に寄りかかった着座位置にあるときの圧力センサによる圧力分布を示す説明図。
【図9】本発明の実施例2に係り、図1のシート制御部によって実行されるシート姿勢変更プログラムを示すフローチャート。
【図10】本発明の実施例3に係り、図1のシート制御部によって実行されるシート姿勢変更プログラムを示すフローチャート。
【図11】本発明の実施例4に係り、図1のシート制御部によって実行されるシート姿勢変更プログラムを示すフローチャート。
【図12】本発明の実施例5に係り、図1のシート制御部によって実行されるシート姿勢変更プログラムを示すフローチャート。
【図13】本発明の実施例6に係り、図1のシート制御部によって実行されるシート姿勢変更プログラムを示すフローチャート。
【図14】本発明の実施例7に係り、図1のシート制御部によって実行されるシート姿勢変更プログラムを示すフローチャート。
【図15】本発明の実施例8に係り、図1のシート制御部によって実行されるシート姿勢変更プログラムを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の車両用シート制御装置1のシステム構成を示したものである。車両用シート制御装置1は、運転者40(図3参照)の音声を入力するマイク11(入力手段)、マイク11に入力された運転者40の音声を認識する音声認識部12(音声認識手段)、シート30(図2参照)に設けられた複数のシート駆動用アクチュエータ31(例えば、電動モータ、流体圧シリンダ等)をそれぞれ駆動することにより、シート30の姿勢を変更するシート制御部20(制御手段)、及びシート30に設けられた複数の距離センサ32(着座位置検出手段)を含んで構成されている。
【0023】
マイク11は、運転者40の音声(空気の振動)を電気信号に変換する集音装置であり、例えば車両のハンドル部分に設けられ、運転者40の入力音声を電気信号に変換してこれを音声認識部12に入力する。
【0024】
音声認識部12は、運転者40の音声を表す電気信号を周知の音声認識技術により音声認識処理して、その結果に応じた制御信号に変換する。具体的には、音声認識部12は、入力された音声の信号パターンと認識辞書に格納されている音声の信号パターンとを、例えば隠れマルコフモデル等を用いて照合・認識し、その認識結果を車内LAN50を介してシート制御部20に向けて送信する。この実施例1では、運転者40の音声を認識可能な音声コマンドとして、例えば「シート向き変更」、「シート戻(して)」、「シート前(に)」、「シート後ろ(に)」、「シート上(に)」、「シート下(に)」、「シート左(に)」、「シート右(に)」、「シート起(して)」、「シート倒(して)」等が予め設定されている。
【0025】
シート制御部20は、音声認識部12をはじめとするそれぞれ特有の機能を発揮する各制御部と車内LAN50を介して相互に多重通信可能に接続されており、距離センサ32からのセンサ情報及び音声認識部12からの認識結果を受け、必要に応じてシート30の姿勢が運転者40に適切となるようにシート駆動用アクチュエータ31を駆動する。シート制御部20については、後述する。
【0026】
シート30は、図2に示すように、車両の床部とほぼ平行に配置されたシートクッション30aと、シートクッション30aの後方上端部にて左右方向(車幅方向)に延びる軸線O2周りに前後方向に回転可能とされたシートバック30bと、シートバック30bの上方端部に配置されたヘッドレスト30cとを備えている。
【0027】
シート30は、各シート駆動用アクチュエータ31の駆動によって、前後位置、上下位置、軸線O2周りのシートバック30bの前後回転位置、及びシートクッション30aの上下方向に延びる軸線O1周りの該シートクッション30aの左右回転位置にそれぞれ独立して移動可能とされている。なお、上記各位置への移動に加えて、例えばシートクッション30aの内部に収容されたクッション部材を支持するための圧縮コイルばね部材を、対応するシート駆動用アクチュエータ31の駆動によって上下方向に移動させ、圧縮コイルばね部材のばね定数を変更することでシート30の硬さを変更することもできる。
【0028】
距離センサ32は、例えば超音波センサであり、超音波の発信部と受信部とを備え、発信部から発射された超音波が運転者40に反射して受信部で受信されるまでの時間に基づいて運転者40までの距離を検出する。距離センサ32は、シートバック30b及びヘッドレスト30cにて左右方向に並設されている。なお、距離センサ32は、イグニッションスイッチのオンにより、あるいは運転者40がシート30に着座することにより距離検出処理を行うようになっている。
【0029】
図3(a)及び3(b)に示すように、距離センサ32のうちシートバック30bに設けられた各距離センサ32aは、運転者40の肩部までの距離を検出し、ヘッドレスト30cに設けられた各距離センサ32bは、運転者40の頭部までの距離を検出するように機能する。なお、距離センサ32a,32bの配置態様、配置数等は適宜変更可能である。
【0030】
ここで、図3(a)及び3(b)は、シート30の姿勢が運転者40により予め設定されたシート基準姿勢にある状態を示すとともに、運転者40がシート30に自然に着座した基準着座位置(通常着座位置)にある状態を示している。この基準着座位置は、各距離センサ32aにより検出された基準測定値としての基準距離L1(例えば平均値)、又は距離センサ32bにより検出された基準測定値としての基準距離L2(例えば平均値)により特定することができる。
【0031】
例えば、図3(c)に示すように、道路状況あるいは運転状況の変化に伴い、運転者40が車両の前側へ乗り出したような着座位置へ変位すると、各距離センサ32aにより検出される測定距離L1’(例えば平均値)が基準距離L1よりも大きくなり、各距離センサ32bにより検出される測定距離L2’(例えば平均値)が基準距離L2よりも大きくなる。
【0032】
また、例えば図4(a)に示すように、運転者40が姿勢を右横向きとしたような着座位置へ変位すると、各距離センサ32a,32bの左側に位置するものほど測定距離L2’’,L1’’が基準距離L2,L1よりも大きくなる。
【0033】
図1に戻って、シート制御部20は、CPU21,ROM22,RAM23,メモリ24(記憶手段)などからなるマイクロコンピュータを主要構成部品としており、ROM22等に記憶されているシート姿勢変更プログラム(図5参照)を繰り返し実行し、そのシート姿勢変更プログラムの実行に応じてシート駆動用アクチュエータ31を駆動しシート30の姿勢を変更する。
【0034】
メモリ24は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリで構成され、運転者40により予め設定されたシート30のシート基準姿勢や、基準着座位置に対応して検出された基準距離L1,L2を記憶するとともに、シート駆動用アクチュエータ31の駆動によってシート30の姿勢が変更された場合には変更後のシート変更姿勢を順次記憶する。
【0035】
次に、上記のように構成された実施例1の作動について説明する。シート制御部20は、イグニッションスイッチのオンにより、あるいは運転者40がシート30に着座することにより、図5のシート姿勢変更プログラムの実行を開始する。
【0036】
人混み、カーブ、坂道などの道路状況や運転状況の変化に伴い、運転者40が基準着座位置とは異なる着座位置に移動し、現在の着座位置に適合するようにシート30の姿勢を変更させるための音声を発すると、音声認識部12がマイク11を通して運転者40の音声を認識する(S1)。
【0037】
シート制御部20は、音声認識部12により認識された運転者40の音声がシート動作(制御)に対応して予め設定されている音声コマンドである場合は(S2:YES)、その音声コマンドがシート復帰動作に対応した特定の音声コマンド(例えば「シートを戻して」)でないことを条件として(S3:NO)、距離センサ32a,32bにより検出された測定距離を入力する(S4)。なお、運転者40の音声がシート動作に対応して予め設定されている音声コマンドでない場合は(S2:NO)、S1の処理に戻る。
【0038】
シート制御部20は、距離センサ32a,32bにより現在の着座位置に対応して検出された各測定距離が規定値、すなわち基準着座位置に対応して検出された各基準距離L1,L2以上である場合は(S5:YES)、距離センサ32aにより検出された測定距離とそれに対応する基準距離L1との差、距離センサ32bにより検出された測定距離とそれに対応する基準距離L2との差の少なくとも一方が所定範囲に収まるようにシート30の姿勢を変更する(S6)。
【0039】
ここで、所定範囲は、運転者40にとってシート30に自然に着座していると感じられる程度の範囲に設定されている。なお、各測定距離が各基準距離L1,L2以上でない場合は(S5:NO)、S1の処理に戻る。
【0040】
具体的には、図3(c)に示したように、運転者40が車両の前側へ乗り出したような着座位置に変位した場合に、例えば「シート向き変更」という音声コマンドを発すると、測定距離L1’と基準距離L1との差、測定距離L2’と基準距離L2との差の少なくとも一方が所定範囲に収まるようにシートクッション30aが前方へ移動するとともに、シートバック30bが前方へ回転(起きる)するようになる(S6)。これにより、運転者40のシート30に対する位置関係が、図3(a)に示した基準となる自然な位置関係に近づくため、現状の運転者40の姿勢に最も適合したシート姿勢とすることができる。
【0041】
また、図4(a)に示したように、運転者40が姿勢を右横向きとしたような着座位置へ変位した場合に、例えば「シート向き変更」という音声コマンドを発すると、図4(b)に示すように、測定距離L1’’(例えば平均値)と基準距離L1との差、測定距離L2’’(例えば平均値)と基準距離L2との差の少なくとも一方が所定範囲に収まるようにシート30が平面視にて右回りに回転するようになる(S6)。これにより、運転者40のシート30に対する位置関係が、図3(b)に示した基準となる自然な位置関係に近づくため、現状の運転者40の姿勢に最も適合したシート姿勢とすることができる。
【0042】
図6(a)は、例えば下り坂でシート30の姿勢を変更する場合の一例を示す。図6において、下り坂に進入する前の状態では、図6(b)のC1に示すように、シート30がシート基準姿勢(図3(a)参照)に保たれている。
【0043】
下り坂に進入する初期段階では、下りの傾斜が緩いので運転者40の前傾度合いも小さいが、距離センサ32a,32bにより現在の着座位置に対応して検出された各測定距離が各基準距離L1,L2以上であれば(S5:YES)運転者40にとって現在の着座位置がけっして快適とはいえない。したがって、運転者40が例えば「シート起して」いう音声コマンドを発すると、図6(b)のC2に示すように、測定距離L1’と基準距離L1との差、測定距離L2’と基準距離L2との差の少なくとも一方が所定範囲に収まるようシートクッション30aが前方へ移動するとともに、シートバック30bが前方へ回転(起きる)するようになる(S6)。この場合、シート制御部20は、変更後のシート変更姿勢をメモリ24に記憶する。
【0044】
下り坂に進入すると、下りの傾斜が急になるので運転者40の前傾度合いも大きくなって、運転者40にとって現在の着座位置が快適でなくなる。したがって、運転者40がさらに「シート起して」いう音声コマンドを発すると、図6(b)のC3に示すように、シートクッション30aが前回のシート変更姿勢よりもさらに前方へ移動し、シートバック30bが前回のシート変更姿勢よりもさらに前方へ回転(起きる)するようになる(S6)。この場合、シート制御部20は、前回のシート変更姿勢に加えて、さらに変更後のシート変更姿勢をメモリ24に記憶する。
【0045】
一方、下り坂が終わりに近づくと、下りの傾斜が緩くなるので、シート30の姿勢が図6(b)のC3のままでは運転者40にとって快適でなくなる。このとき、シート制御部20は、運転者40が例えば「シート戻して」いう音声コマンドを発すると(S1、S2:YES、S3:YES)、メモリ24に記憶されている一つ前のシート変更位置、すなわちシート30が図6(b)のC2に示した変更位置に戻るように(C4=C2)シートクッション30aが後方へ移動し、シートバック30bが後方へ回転(倒れる)する(S7)。
【0046】
下り坂の出口では、下りの傾斜がさらに緩くなり、やがて平地となるので、運転者40にとって現在の着座位置が快適でなくなる。したがって、運転者40がさらに「シート戻して」いう音声コマンドを発すると、メモリ24に記憶されているさらに一つ前のシート変更位置、すなわちシート30が図6(b)のC1に示した基準位置に戻るように(C5=C1)シートクッション30aが後方へ移動し、シートバック30bが後方へ回転(倒れる)する(S7)。
【0047】
以上の説明からも明らかなように、上記実施例1では、道路状況あるいは運転状況の変化に応じて運転者40のシート30に対する姿勢が変化し、運転者40の着座位置が基準着座位置と一致しなくなった場合に、距離センサ32により検出されるシート30と運転者40間の距離、及びシート30の姿勢を変更しようという意思表示としての運転者40の音声を利用することで、運転者40が通常保っている基準着座位置での位置関係となるようにシート姿勢が変更される。
【0048】
つまり、制御システム主導でシート30の姿勢を変更し運転者40が変更後のシート姿勢に合わせるのではなく、道路状況等に合わせて運転者自身が自然に選好した姿勢に合わせるようにシート30の姿勢を変更することができる。これにより、運転者40自身の着座姿勢が変化しても快適性を維持することができる。また、シート姿勢の変更に際して、手動でシート調整を行わなくて済むので、視野を確保することができ、安全運転を効果的に実現することができる。
【0049】
また、上記実施例1では、シート制御部20による図5のS3,S7の処理の実行によって、音声認識部12により認識された運転者40の音声がシート復帰動作に対応した特定の音声コマンドである場合は、シート30の姿勢が変更前のシート姿勢に戻される。
【0050】
これにより、道路状況等が改善することで、現状のシート姿勢が運転者40にとって快適でなくなった場合には、特定の音声コマンド(例えば「シート戻して」)を発することで、変更前シート姿勢、すなわち余裕のあるシート姿勢へと容易に復帰させることができる。特に、特定の音声コマンドが連呼される場合はメモリ24に記憶されているシート変更姿勢の古いものへと順に戻されるように構成されているので、以前の道路状況等において運転者に快適であったシート姿勢へ復帰させることも容易である。
【0051】
なお、上記実施例1では、運転者40がシート復帰動作に対応した特定の音声コマンド(例えば「シート戻して」)を発することにより(S3:YES)、メモリ24に記憶されている一つ前のシート変更姿勢に戻すように構成されていたが、これに限らず、運転者40がシート復帰動作に対応した特定の音声コマンドを発した場合は一旦シート基準姿勢(図3(a)参照)に戻し、その後の運転者40の音声コマンドに従って再度シート姿勢を変更する(S6)ように構成してもよい。
【0052】
また、上記実施例1では、着座位置検出手段としての距離センサ32が、運転者の肩部とシートバック30bとの距離を検出する距離センサ32a、及び運転者の40の頭部とヘッドレスト30cとの距離を検出する距離センサ32bを備えるものとしたが、距離センサ32a,32bの一方は省略してもよい。
【実施例2】
【0053】
上記実施例1では、着座位置検出手段として距離センサ32を用いたが、距離センサ32に代えて、例えば図7に示すように、圧力センサ33を用いることができる。そして、圧力センサ33を用いた以下の実施例2では、シート制御部20が図5のシート姿勢変更プログラムに代えて、例えば図9に示すシート姿勢変更プログラムを実行するように構成されている。その他のシステム構成は上記実施例1と同じである(図1参照)。なお、図9のシート姿勢変更プログラムにおいて、図5のシート姿勢変更プログラムと同じステップ処理には同一の符号を付し、詳細な説明は省略することとする。
【0054】
圧力センサ33は、シートクッション30aにてマトリックス状に配置された複数の圧力センサ33aと、シートバック30bにてマトリックス状に配置された複数の圧力センサ33bとで構成されている。各圧力センサ33aにより検出された圧力に基づいて、運転者40の着座状態におけるシートクッション30aでの圧力分布が得られ、各圧力センサ33bにより検出された圧力に基づいて、運転者40の着座状態におけるシートバック30bでの圧力分布が得られる。
【0055】
具体的には、例えば図8(a)に示すように、運転者40がシート30に自然に着座した基準着座位置(通常着座位置)にある状態では、シートクッション30a及びシートバック30bのほぼ中央で圧力が最も高くなるような圧力分布が得られる。図中において、P1,P2,P3は等圧線を示し、この順に圧力が高くなっている。
【0056】
この状態から、道路状況あるいは運転状況の変化に伴い、運転者40が車両の前側へ乗り出したような着座位置へ変位すると、例えば図8(b)に示すように、圧力分布の変化に応じて重心位置がシートクッション30aの前側へ移動するとともに、シートバック30bにおける圧力が低下する。
【0057】
また、運転者40が姿勢を右横向きとしたような着座位置へ変位すると、例えば図8(c)に示すように、圧力分布の変化に応じて重心位置がシートクッション30及びシートバック30bの右側へ移動する。シート制御部20は、各圧力センサ33aにより検出された圧力に基づいてシートクッション30aでの重心位置を計算し、各圧力センサ33bにより検出された圧力に基づいてシートバック30bでの重心位置を計算する。
【0058】
次に、上記のように構成された実施例2の作動について説明する。シート制御部20は、イグニッションスイッチのオン等により、図9のシート制御プログラムの実行を開始する。シート制御部20は、音声認識部12により認識された運転者40の音声がシート動作(制御)に対応して予め設定されている音声コマンドである場合は(S2:YES)、その音声コマンドがシート復帰動作に対応した特定の音声コマンドでないことを条件として(S3:NO)、圧力センサ33a,33bにより検出された測定圧力を入力し、シートクッション30a及びシートバック30bでの重心位置をそれぞれ計算する(S14)。
【0059】
シート制御部20は、計算したシートクッション30a及びシートバック30bでの各重心位置と、基準着座位置に対応して予め計算されメモリ24に記憶されているシートクッション30a及びシートバック30bでの各基準重心位置との差異が共に規定値以上である場合は(S15:YES)、シートクッション30aでの重心位置の差異、シートバック30bでの重心位置の差異の少なくとも一方が所定範囲に収まるようにシート30の姿勢を変更する(S6)。
【0060】
この実施例2によっても、上記実施例1と同様、快適性を維持し、視野を確保することができる。なお、上記実施例2では、着座位置検出手段としての圧力センサ33が、シートクッション30aでの重心位置を計算するための圧力センサ33a、及びシートバック30bでの重心位置を計算するための圧力センサ33bを備えるものとしたが、圧力センサ33a,33bの一方は省略してもよい。
【実施例3】
【0061】
実施例1と実施例2とを統合し、着座位置検出手段として距離センサ32及び圧力センサ33の両センサを用いるようにしてもよい。そして、両センサ32,33を用いた以下の実施例3では、シート制御部20が図5又は図9のシート姿勢変更プログラムに代えて、例えば図10に示すシート姿勢変更プログラムを実行するように構成されている。その他のシステム構成は上記実施例1と同じである(図1参照)。なお、図10のシート姿勢変更プログラムにおいて、図5又は図9のシート姿勢変更プログラムと同じステップ処理には同一の符号を付し、詳細な説明は省略することとする。
【0062】
図10のシート姿勢変更プログラムでは、図5のS4,S5の処理と、図9のS14,S15の処理とが直列的に実行され、距離センサ32により検出された測定距離が規定値以上、かつ、圧力センサ33により検出された測定圧力に基づく重心位置差異が規定値以上の場合に、シート姿勢が変更されるようになっている(S6)。
【0063】
具体的には、シート制御部20は、距離センサ32aにより検出された測定距離とそれに対応する基準距離との差、距離センサ32bにより検出された測定距離とそれに対応する基準距離との差、圧力センサ33aにより検出された測定圧力に基づいて計算された重心位置とそれに対応する基準重心位置との差、圧力センサ33bにより検出された測定圧力に基づいて計算された重心位置とそれに対応する基準重心位置との差のうちのいずれかが所定範囲に収まるようにシート30の姿勢を変更する。
【0064】
なお、この実施例3においても、距離センサ32a,32bの一方を省略することができ、圧力センサ33a,33bの一方を省略することができる。
【実施例4】
【0065】
上記実施例1〜3では、音声認識部12により認識された運転者40の音声がシート復帰動作に対応した特定の音声コマンド(例えば「シート戻して」)である場合に、シート制御部20が、シート30の姿勢をメモリ24に記憶されている一つ前のシート変更姿勢に戻すように構成されていたが(S7)、このS7の処理に代えて、例えば図11に示すようなS8の処理を実行するように構成してもよい。その他のシステム構成は上記実施例1と同じである(図1参照)。なお、図11のシート姿勢変更プログラムにおいて、図10のシート姿勢変更プログラムと同じステップ処理には同一の符号を付し、詳細な説明は省略することとする。
【0066】
この実施例4では、図1にて破線で示すように、車両に傾斜センサ13又はナビゲーションシステム部14(ナビゲーション装置)が設けられている。傾斜センサ13は、例えば坂道での車両の傾斜角度を検出することができ、ナビゲーションシステム部14は、地図情報等に基づいて車両の傾斜角度を推定するように構成されており、車内LAN50を介してシート制御部20にそれぞれ車両の傾斜角度を表す情報を送信する。
【0067】
シート制御部20は、シート変更姿勢をメモリ24に記憶する場合、傾斜センサ13又はナビゲーションシステム部14から取得した車両の傾斜角度を表す情報と対応付けて記憶する。そして、シート制御部20は、図11のシート制御プログラムの実行時に、音声認識部12により認識された運転者40の音声がシート復帰動作に対応した特定の音声コマンド(例えば「シート戻して」)である場合は(S3:YES)、傾斜センサ13又はナビゲーションシステム部14からの現在の車両の傾斜角度を参照して、メモリ24に記憶されているシート変更姿勢のなかから現在の車両の傾斜角度と同じ程度の傾斜姿勢時に記憶されたシート変更姿勢を読み出し、シート30の姿勢をその読み出したシート変更姿勢に戻す(S8)。
【0068】
この実施例4によれば、シート30を復帰させる場合、現在の車両の傾斜角度と同じ程度(同じ又は最も近い)の傾斜姿勢時のシート変更姿勢に戻されるので、より簡便にシート姿勢を復帰させることができる。
【実施例5】
【0069】
上記実施例1〜4では、音声コマンドが比較的単純なこともあって、運転者40が誤発声する可能性が低いと考えられることから、音声認識部12により認識された運転者40からの音声コマンドが現在の運転者40の着座状況に対して適切かどうかを考慮に入れたものではなかったが、例えば図12のS21,S22に示すように、この点を考慮に入れた構成としてもよい。このように構成された実施例5では、図1にて破線で示すように、シート制御部20がスピーカ15を通して運転者40に音声案内を出力するように構成されている。その他の構成は上記実施例3等と同じである(図1参照)。なお、図12のシート姿勢変更プログラムは、上記実施例3の図10のシート姿勢変更プログラムを基にしたものであり、図10のシート姿勢変更プログラムと同じステップ処理には同一の符号を付し、詳細な説明は省略することとするが、上記実施例4の図11のシート姿勢変更プログラムを基にしてもよい。
【0070】
図12のシート制御プログラムの実行において、シート制御部20は、距離センサ32(上述したように距離センサ32a,32bの一方のみでもよい)により検出された測定距離が規定値以上(S5:YES)、かつ、圧力センサ33(上述したように圧力センサ33a,33bの一方のみでもよい)により検出された測定圧力に基づく重心位置差異が規定値以上(S15:YES)の場合に、音声認識部12により認識された音声コマンドに従ってシート姿勢を変更すると、上記測定距離及び重心位置差異が変更前に比べて小さくなるか否かを判断する(S21)。
【0071】
例えば、測定距離及び重心位置差異から運転者40がシート30の前側に位置していると判断される場合において、運転者40が特定の音声コマンド(例えば「シート後ろに」を発した場合のように、その音声コマンドに従ってシート姿勢を変更すると、測定距離及び重心位置差異が変更前に比べて大きくなるような場合には、その音声コマンドが誤りであることが明らかであるので、その音声コマンドを無効として扱い、運転者40に再度の発生を促すようスピーカ15を通して音声案内を出力する(S21:NO、S22)。
【0072】
この実施例5によれば、安全性をより良好に確保した状態でシート姿勢を変更することができる。
【実施例6】
【0073】
また、測定距離及び重心位置差異に基づいて、例えば図13のS23,S24に示すように、距離センサ32、圧力センサ33が故障している場合を考慮に入れてもよい。その他のシステム構成は上記実施例5と同じである(図1参照)。なお、図13のシート姿勢変更プログラムにおいて、図12のシート姿勢変更プログラムと同じステップ処理には同一の符号を付し、詳細な説明は省略することとする。
【0074】
図13のシート制御プログラムの実行において、シート制御部20は、距離センサ32(上述したように距離センサ32a,32bの一方のみでもよい)により検出された測定距離(S4)と、圧力センサ33(上述したように圧力センサ33a,33bの一方のみでもよい)により検出された測定圧力に基づく重心位置(S14)とが対応関係にない場合には(S23:NO)、運転者40の音声コマンドを優先し、測定距離が基準距離に近づくか、あるいは重心位置が基準重心位置に近づくようにシート姿勢を変更する。また、距離センサ32及び圧力センサ33のいずれかが故障している旨をスピーカ15を通して出力する(S24)。
【0075】
例えば、測定距離からは運転者40がシート30の前側に位置していると判断されるが、重心位置からは運転者40がシート30の後側に位置していると判断される場合のように、測定距離と重心位置とが矛盾する場合において、運転者40が特定の音声コマンド(例えば「シート前に」)を発した場合には、シート制御部20は、音声コマンドに従ってシート姿勢を変更することで基準値に近づく方、すなわち測定距離と基準距離との差が所定範囲となるようにシート姿勢を変更する。
【0076】
これとは逆に、上記のように判断される場合において、運転者40が特定の音声コマンド(例えば「シート後ろに」)を発した場合には、重心位置差異が所定範囲となるようにシート姿勢を変更する。
【0077】
一方、シート制御部20は、距離センサ32により検出された測定距離と、圧力センサ33により検出された測定圧力に基づく重心位置とが対応関係にあり(S23:YES)、測定距離が規定値以上で(S5:YES)、しかも測定圧力に基づく重心位置差異が規定値以上(S15:YES)である場合には、上記実施例5と同様、S21以降の処理を実行する。
【0078】
この実施例6によれば、シート姿勢の変更を優先しつつ、センサ故障後の修理対応を迅速に進めることができる。
【実施例7】
【0079】
上記実施例6のように、着座位置検出手段として距離センサ32や圧力センサ33などの二種以上のセンサを用いる場合には、運転者40からの音声コマンドを参照することで、センサ32,33による誤計測や、音声認識手段12による誤認識があったことを推定することができる。しかし、着座位置検出手段が一種類のセンサで構成されている場合には、誤計測か、誤認識かを推定することが困難である。このため、以下に説明する実施例7の例えば図14のS31〜S34に示すように、運転者40に対して音声認識結果の確認をするための音声案内を行うようにしてもよい。その他の構成は上記実施例1とほぼ同じである(図1参照)。なお、図14のシート姿勢変更プログラムにおいて、図5のシート姿勢変更プログラムと同じステップ処理には同一の符号を付し、詳細な説明は省略することとする。
【0080】
この実施例7は、着座位置検出手段として距離センサ32(上述したように距離センサ32a,32bの一方のみでもよい)を用いたものである。図14のシート姿勢変更プログラムの実行において、シート制御部20は、距離センサ32により検出された測定距離が規定値以上である場合には(S5:YES)、運転者40に再度の発声を促す音声案内をスピーカ15を通して出力する(S31)。これは、運転者40に対して先の発声が誤発声かどうかを確認させる機会を付与したものである。
【0081】
シート制御部20は、運転者40からの再度の音声に関しての音声認識部12による認識結果を確認する音声案内をスピーカ15を通して出力する(S32、S33)。その音声案内に対し運転者40からの確認が得られた場合には(S34:YES)、シート姿勢を変更する(S6)。なお、運転者40からの確認が得られない場合には(S34:NO)、S1の処理に戻る。
【0082】
距離センサ32による誤計測や音声認識手段12による誤認識に基づく認識結果に対して、運転者40が確認の音声を発することはない。つまり、運転者40からの確認が得られた場合には、誤計測や誤認識がなかったものと推定する一方で、運転者40からの確認が得られない場合には、誤計測や誤認識があったものと推定することで、誤計測や誤認識があった場合において有効に対処することができる。
【実施例8】
【0083】
上記実施例7では、着座位置検出手段として距離センサ32を用いたが、距離センサ32に代えて、圧力センサ33(上述したように圧力センサ33a,33bの一方のみでもよい)を用いるようにしてもよい。その他の構成は上記実施例2とほぼ同じである(図1参照)。なお、図15のシート姿勢変更プログラムにおいて、図9及び図14のシート姿勢変更プログラムと同じステップ処理には同一の符号を付し、詳細な説明は省略することとする。
【0084】
この実施例8においても、上記実施例7と同様、誤計測や誤認識があったことを推定でき、有効に対処することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 車両用シート制御装置
11 マイク(入力手段)
12 音声認識部(音声認識手段)
13 傾斜センサ
14 ナビゲーションシステム部(ナビゲーション装置)
15 スピーカ(出力手段)
20 シート制御部(制御手段)
24 メモリ(記憶手段)
30 シート
30a シートクッション
30b シートバック
30c ヘッドレスト
31 シート駆動用アクチュエータ
32(32a,32b) 距離センサ(着座位置検出手段)
33(33a,33b) 圧力センサ(着座位置検出手段)
40 運転者
50 車内LAN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行中に運転者が着座しているシートの姿勢を変更制御可能な車両用シート制御装置であって、
運転者の音声を入力する入力手段と、
前記入力手段に入力された運転者の音声を認識する音声認識手段と、
運転者のシートに対する着座位置を検出する着座位置検出手段と、
運転者により予め設定されたシート基準姿勢、及び該シート基準姿勢における運転者のシートに対する着座位置である基準着座位置を記憶する記憶手段と、
シートに設けられたシート駆動用アクチュエータを駆動することにより、シートの姿勢を変更する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記音声認識手段により認識された運転者の音声がシート動作に対応して予め設定されている音声コマンドであり、かつ、前記着座位置が前記基準着座位置と一致していないことを条件として、前記シート駆動用アクチュエータを駆動しシートの姿勢を変更することを特徴とする車両用シート制御装置。
【請求項2】
前記着座位置検出手段は、運転者の頭部とヘッドレストとの距離、及び運転者の肩部とシートバックとの距離の少なくとも一方を検出する距離センサを含んで構成されており、前記制御手段は、前記距離センサにより前記着座位置に対応して検出された測定距離と、前記基準着座位置に対応して検出された基準距離との差が所定範囲に収まるようにシートの姿勢を変更する請求項1に記載の車両用シート制御装置。
【請求項3】
前記着座位置検出手段は、運転者の着座状態におけるシートクッションでの重心位置、及びシートバックでの重心位置の少なくとも一方を算出するための複数の圧力センサを含んで構成されており、前記制御手段は、前記圧力センサにより検出された圧力に基づき前記着座位置に対応して計算された重心位置と、前記基準着座位置に対応して計算された基準重心位置との差が所定範囲に収まるようにシートの姿勢を変更する請求項1又は2に記載の車両用シート制御装置。
【請求項4】
前記シートの姿勢は、前後位置、上下位置、シートバックの前後回転位置、及びシートクッションの左右回転位置の少なくともいずれかとされている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用シート制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、シートの姿勢を変更した後に前記音声認識手段により認識された運転者の音声がシート復帰動作に対応した特定の音声コマンドである場合は、シートの姿勢を変更する前の変更前シート姿勢に戻す請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用シート制御装置。
【請求項6】
前記記憶手段は、前記シート基準姿勢に加えて、シートの姿勢が変更された場合に変更後のシート変更姿勢を順次記憶するように構成されており、前記制御手段は、前記音声認識手段により認識された運転者の音声が前記特定の音声コマンドである場合は、前記変更前シート姿勢として前記記憶手段に記憶されている一つ前のシート変更姿勢に戻し、前記特定の音声コマンドが連呼される場合は、前記記憶手段に記憶されている前記シート変更姿勢の古いものへと順に戻す請求項5に記載の車両用シート制御装置。
【請求項7】
前記記憶手段は、シートの姿勢が変更された場合に変更後のシート変更姿勢を車両の傾斜角度と対応付けて記憶するように構成されており、前記制御手段は、前記音声認識手段により認識された運転者の音声が前記特定の音声コマンドである場合は、前記変更前シート姿勢として現在の車両の傾斜角度と同じ程度の傾斜姿勢時に記憶された前記シート変更姿勢に戻す請求項5に記載の車両用シート制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、車両に設けられた傾斜センサ又はナビゲーション装置を通じて前記車両の傾斜角度を取得する請求項7に記載の車両用シート制御装置。
【請求項9】
運転者に発声を促す音声案内を出力する出力手段を備え、
前記制御手段は、前記音声認識手段により認識された音声コマンドに従って前記シート変更姿勢へ変更するとした場合、該シート変更姿勢における運転者の前記着座位置が前記基準着座位置に対して遠ざかる位置関係となる場合は、前記音声コマンドを無効化し、かつ、前記出力手段を通して運転者に発声を促す音声案内を出力する請求項1ないし8のいずれか1項に記載の車両用シート制御装置。
【請求項10】
前記着座位置検出手段として、請求項2に記載の前記距離センサと請求項3に記載の前記圧力センサとが用いられ、
前記制御手段は、前記距離センサにより検出された測定距離と、前記圧力センサにより検出された測定圧力に基づく重心位置とが対応関係にない場合は、前記音声認識手段により認識された運転者の音声コマンドに従い、運転者の前記着座位置が前記基準着座位置に対して近づく位置関係となる前記測定距離及び前記重心位置のいずれか一方に基づいてシート姿勢を変更し、かつ、前記出力手段を通して前記距離センサ及び前記圧力センサのいずれかが故障している旨の音声案内を出力する請求項3ないし9のいずれか1項に記載の車両用シート制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図6】
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