説明

車両用シート構造

【課題】通常使用状態のバックレストの厚さを増大させることなく居住性や荷物搭載性を確保する一方、車両後方から衝突された際の乗員の頸部にかかる負荷が軽減できる車両用シート構造を提供する。
【解決手段】バックレスト本体10の背面を覆う背面ボード15を備えバックレストの上部に配設されるヘッドレストが配設された車両用シートであって、背面ボード15を背面ボード支持部によりバックレストフレーム構造体に回転自在に支持し、背面ボード保持部41によって背面ボード15がバックレスト本体10の背面を覆う通常使用位置に固定し、かつバックレスト本体10の背面側から背面ボード15に入力される所定以上の押圧荷重により背面ボード保持部による背面ボード15の通常使用位置への固定を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート構造に関し、特にバックレスト本体の背面に背面ボードが取り付けられたバックレスト及びヘッドレストを備えた車両用シート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートは、通常バックレストの上部にヘッドレストが設けられており、乗員が着座した状態では、乗員の頭部とヘッドレストとの間に所定の隙間があり、車両後方から衝突された場合、着座者の身体がバックレストに押されて前方に移動するのに対し、慣性により頭部が後方に残ることで頸部が急激に屈曲作用して頸部に過大な負荷がかかりむち打ち症になることがある。
【0003】
そこで、頭部とヘッドレストの間の隙間を小さくして衝突後瞬時に頭部をヘッドレストにより支持することにより頸部の負荷を軽減することが可能であるが、通常使用状態でヘッドレストに頭部が常に触れたり、或いは頭部を少し動かすことでヘッドレストと干渉して不快に感じることが懸念される。
【0004】
この対策として、通常使用状態ではヘッドレストと頭部との間に隙間を確保し、車両後方から衝突された場合に頭部とヘッドレストとの隙間を小さくして頸部にかかる負荷を軽減する車両用シートが種々提案されている。
【0005】
この種の車両用シートの一例を、図13を参照して説明する。この車両用シート101は、シートクッション102とバックレスト103を有し、バックレスト103の上部にヘッドレスト110が配設される。
【0006】
バックレスト103は、バックレストフレーム構造体104及びバックレストフレーム構造体104を覆うバックレスト本体106と、バックレスト本体106の背面を覆う背面ボード107を備えている。
【0007】
バックレストフレーム構造体104は、バックレスト103の外形に沿って延在する略U字状の骨格部材で、その両基端がそれぞれシートクッション102の骨格部材であるシートクッションフレーム構造体の後端にヒンジ機構を介して支持される。
【0008】
バックレストフレーム構造体104を覆う柔軟材料製、例えばウレタン製のバックレスト本体106の背面に略矩形の凹部106aが形成されている。この凹部106aの上部に対応して両端がバックレストフレーム構造体104に支持された車幅方向に延在する係止部材105aが配設され、凹部106aの下部に対応してバックレストフレーム構造体104の下部に取付ブラケット105bが取り付けられる。
【0009】
一方、背面ボード107は、バックレスト本体106の凹部106aを閉蓋する略矩形板状であって、その上部に係止部105aに係合可能なフック108が設けられる。この背面ボード107は、上部に配置されたフック108を係止部105aに係止すると共に下部が取付ブラケット105bにビス109によって固設される。
【0010】
このように構成されたシート101に着座した乗員は、通常使用状態において頭部とヘッドレスト110との間に予め設定された隙間が確保される。一方、車両後方から衝突をされた場合には、着座した乗員の慣性による相対的な後方移動により乗員の身体がバックレスト本体106に潜り込むように後方移動して頭部がヘッドレスト110に衝突後瞬時に支持され、身体に対する頭部の後方移動を抑制して頸部の負荷が軽減できる。
【0011】
なお、同様にバックレスト本体の背面に凹部を形成し、凹部を背面ボードで閉蓋することによって、バックレスト本体の背面と背面ボードとの間に空間を形成することは、例えば特許文献1においても知られている。
【0012】
また、特許文献2に示すように、バックレストの背面を覆うように表皮で被覆されたウレタン等のエネルギ吸収材からなる背面ボードを取り付け、後席乗員の頭部及び膝部等を保護する車両用フロントシートも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−106989号公報
【特許文献2】実開平7−21427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記図13に示す車両用シート101によると、車両後方から衝突をされた場合に、バックレスト本体106の変形を伴って乗員の身体がバックレスト本体106に潜り込むように後方移動してヘッドレスト110によって頭部を瞬時に支持することによって頸部にかかる負荷を軽減させることができる。
【0015】
しかし、衝突の際に着座した乗員の身体をバックレスト本体106に潜り込むようにして後方移動させるためには、バックレスト本体106の十分な変形量を確保する必要があり、バックレスト本体106の変形に影響する背面ボード107をバックレスト本体106に対して十分に後方に配置しなければならず、バックレスト103の厚さが増大する。
【0016】
このバックレスト103の厚さの増大に伴って、このシート101の後方に配置される後席居住スペースが制限され、特に後席着座者の膝回りの空間確保に影響を及ぼして居住性の低下が懸念される。また、このシート101の後方に荷室載置スペースが配置される車両にあっては荷物搭載性に影響を与える。
【0017】
一方、バックレスト103の厚さを少なくすると、後席居住スペースや荷室載置スペースが確保できるもののバックレスト本体106の変形が背面ボード107によって制限されて、車両後方から衝突をされた場合に着座した乗員の身体後方移動が制限されて瞬時にヘッドレストによって頭部を支持することができず、頸部にかかる負荷の十分な軽減が達成できないことが懸念される。同様なことが特許文献1や特許文献2の車両用シートにおいても懸念される。
【0018】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、バックレストの厚さを増大せることなく居住性や荷物搭載性を確保する一方、車両後方から衝突された際の乗員の頸部にかかる負荷が軽減できる車両用シート構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成する請求項1に記載の車両用シート構造の発明は、バックレストフレーム構造体、該バックレストフレーム構造体を覆うと共に前面によって乗員の身体を保持する柔軟部材製のバックレスト本体、及びバックレスト本体の背面を覆う背面ボードを有するバックレストと、該バックレストの上部に配設されるヘッドレストとを備えた車両用シート構造において、上記背面ボードは、通常使用状態において該背面ボードをバックレスト本体の背面を覆う通常使用位置に固定し、かつ上記バックレスト本体の前方から背面ボードに入力される所定以上の押圧荷重により上記背面ボードの通常使用位置への固定を解除する背面ボード保持部を介してバックレストフレーム構造体に支持され、上記背面ボード保持部は、基端部がバックレストフレーム構造体に揺動自在に軸支される第1リンク及び基端部が背面ボードに揺動自在に軸支され先端部が上記第1リンクの先端部に揺動自在に軸支される第2リンクを備えたリンク機構と、該リンク機構の上記第1リンクの基端部と第2リンクの基端部が互いに接近する方向に付勢する付勢手段とを備え、該付勢手段の付勢によりリンク機構を介して背面ボードを通常使用位置に固定し、かつバックレスト本体の前方から背面ボードに入力される所定以上の押圧荷重により付勢手段の付勢に抗して第1リンクの基端部と第2リンクの基端が離反して背面ボードの通常使用位置への固定が解除されることを特徴とする。
【0020】
この発明によると、車両後方から衝突された際、着座した乗員の慣性によりバックレスト本体が撓み変形して乗員の身体がバックレスト本体に潜り込むように後方移動した際、背面ボード保持部による背面ボードの通常使用位置の固定が解除されて背面ボードに拘束されることなくバックレスト本体の十分な撓み変形が可能になり、乗員の身体がバックレスト本体に潜り込むように迅速に後方移動して、頭部が衝突後瞬時にヘッドレストに支持されて、頸部に作用する負荷が軽減される。
【0021】
また、背面ボード保持部が基端部がバックレストフレーム構造体に揺動自在に軸支された第1リンク及び基端部が背面ボードに揺動自在に軸支され先端部が第1リンクの先端部に揺動自在に軸支された第2リンクを備えたリンク機構と、付勢手段による簡単な構成で形成される。
【0022】
一方、通常使用状態において衝突の際の乗員の沈み込みを考慮することなくバックレスト本体に対する背面ボードの位置を設定することが可能になり、バックレストを比較的薄く形成することができる。これによりシートの後方に配置される後席居住スペースの確保が容易になり居住性の向上が得られる。また、このシートの後方に荷物載置スペースが配置される車両にあっては、荷物載置スペースの確保が容易になり荷物搭載性が向上する。
【0023】
請求項2に記載の発明は、バックレストフレーム構造体、該バックレストフレーム構造体を覆うと共に前面によって乗員の身体を保持する柔軟部材製のバックレスト本体、及びバックレスト本体の背面を覆う背面ボードを有するバックレストと、該バックレストの上部に配設されるヘッドレストとを備えた車両用シート構造において、上記背面ボードは、通常使用状態において該背面ボードをバックレスト本体の背面を覆う通常使用位置に固定し、かつ上記バックレスト本体の前方から背面ボードに入力される所定以上の押圧荷重により上記背面ボードの通常使用位置への固定を解除する背面ボード保持部を介してバックレストフレーム構造体に支持され、上記背面ボード保持部は、バックレストフレーム構造体と背面ボードにそれぞれ各端部が係止されて架設され、各端部が接近する方向に付勢付与されたバネを備え、該バネの付勢付与により背面ボードを通常使用位置に固定し、バックレスト本体の前方から背面ボードに入力される所定以上の押圧荷重によりバネの付勢に抗して各端部が離反して背面ボードの通常使用位置への固定が解除されることを特徴とする。
【0024】
この発明によると、車両後方から衝突された際、着座した乗員の慣性によりバックレスト本体が撓み変形して乗員の身体がバックレスト本体に潜り込むように後方移動した際、背面ボード保持部による背面ボードの通常使用位置の固定が解除されて背面ボードに拘束されることなくバックレスト本体の十分な撓み変形が可能になり、乗員の身体がバックレスト本体に潜り込むように迅速に後方移動して、頭部が衝突後瞬時にヘッドレストに支持されて、頸部に作用する負荷が軽減される。
【0025】
また、背面ボード保持部がバックレストフレーム構造体と背面ボードにそれぞれ各端部が係止されて架設され、各端部が接近する方向に付勢付与されたバネによって構成できる。
【0026】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2の車両用シート構造において、上記背面ボードは、下部が背面ボード支持部を介してバックレストフレーム構造体に回転自在に支持され、上部が上記背面ボード保持部を介してバックレストフレーム構造体に支持されたことを特徴とする。
【0027】
この発明によると、車両後方から衝突された際、着座した乗員の慣性によりバックレスト本体が撓み変形して乗員の身体がバックレスト本体に潜り込むように後方移動した際、背面ボード保持部による背面ボードの通常使用位置への固定が解除され、背面ボード支持部を介して支持された下部を支点として背面ボードが後方に揺動してバックレスト本体が背面ボードに拘束されることなく撓み変形が可能になる。
【発明の効果】
【0028】
この発明によると、車両後方から衝突された際、着座した乗員の慣性によりバックレスト本体が撓み変形して乗員の身体がバックレスト本体に潜り込むように後方移動した際、背面ボード保持部による背面ボードの固定が解除されて背面ボードに拘束されることなくバックレスト本体の撓み変形が可能になり、乗員の身体がバックレスト本体に潜り込むように迅速に後方移動して、頭部が衝突後瞬時にヘッドレストに支持されて頸部に作用する負荷が軽減される。
【0029】
一方、衝突の際の乗員の沈み込みを考慮することなくバックレスト本体に対する背面ボードの位置を設定することが可能になり、バックレストを比較的薄く形成することができる。これによりシートの後方に配置される後席居住スペースの確保が容易になり、居住性の向上が得られる。また、このシートの後方に荷物載置スペースが配置される車両にあっては、荷物載置スペースの確保が容易になり荷物搭載性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1参考例の概要を示す車両用シートの側面図である。
【図2】背面ボード保持部を示す図1のA部拡大図である。
【図3】図2のI−I線断面図である。
【図4】背面ボード保持部の要部分解斜視図である。
【図5】作動説明図である。
【図6】図5のB部拡大図である。
【図7】本発明の第1実施の形態の概要を示す車両用シートの要部側面図である。
【図8】作動説明図である。
【図9】本発明の第2参考例の概要を示す車両用シートの要部側面図である。
【図10】本発明の第2実施の形態の概要を示す車両用シートの要部側面図である。
【図11】作動説明図である。
【図12】本発明の第3実施の形態の概要を示す車両用シートの要部側面図である。
【図13】従来の車両用シートの要部側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明による車両用シート構造の参考例及び実施の形態を説明する。
【0032】
(第1参考例)
本発明による第1参考例を図1乃至図6を参照して説明する。図1は車両用シート1の概要を示す側面図であり、図12は背面ボード保持部を示す図1のA部拡大図、図3は図2のI−I線断面図、図4は背面ボード保持部の要部分解斜視図、図5は作動説明図、図6は図5のB部拡大図である。なお、各図において矢印Fは車体前方方向を示す。
【0033】
図1に示すように車両用シート1は、シートクッション2とバックレスト3を有し、バックレスト3の上部にヘッドレスト20が配設される。バックレスト3は、バックレスト骨格部材となるバックレストフレーム構造体4、バックレストフレーム構造体4を覆う柔軟部材製、例えばウレタン製のバックレスト本体10、及びバックレスト本体10の背面12を覆う背面ボード15を備える。
【0034】
バックレストフレーム構造体4は、着座した乗員の身体に直接的に干渉しないバックレスト3の両側部に沿って延在する左右の側部フレーム5と、バックレスト3の頂部に沿って車幅方向に延在して左右の側部フレーム5の頂端間を連結する頂部フレーム6とを有して延在する略U字状であって、各側部フレーム5の基端部がそれぞれシートクッション2の骨格部材である図示しないシートクッションフレーム構造体の後端にヒンジ機構、いわゆるリクライニング機構を介して支持される。
【0035】
バックレストフレーム構造体4を覆うバックレスト本体10は、前面11によって着座した乗員の身体を保持し、背面12に底面部13aが左右の側部フレーム5の間に達すると共に上端部13bが頂部フレーム6の近傍に位置し、かつ下端部13cがほぼバックレスト本体10の下端近傍に達する略矩形の凹部13が形成される。このバックレスト本体10の背面12に凹設された凹部13は、背面ボード支持部21及び背面ボード保持部31によってバックレストフレーム構造体4に支持される略矩形板状の背面ボード15によって閉蓋される。
【0036】
背面ボード支持部21は、両端がバックレストフレーム構造体4の上部に結合されてバックレスト本体10の凹部13内に突出して上端部13bに沿って車幅方向に延在する係止部22aを備えた棒状の係止部材22と、背面ボード15の上部両端近傍にそれぞれ形成されたフック状で係止部材22の係止部22aに係合可能な係合部23aが形成された一対の係合部23よって構成される。これにより、背面ボード15の上部は、背面ボード15の上部に設けられた係合部23が係合する係止部22aを支点として回動可能にバックレストフレーム構造体4の上部に支持される。
【0037】
一方、背面ボード保持部31は、バックレストフレーム構造体4の左右の側部フレーム5の各基端部と背面ボード15の下端左右端部との間にそれぞれ架設される。
【0038】
各背面ボード保持部31は、図2乃至図4に示すように側部フレーム5の下部側面に結合される第1ブラケット32と、背面ボード15の下端に延設された取付部16に結合される第2ブラケット35、及び第1ブラケット32と第2ブラケット35を結合する連結軸39を備えたスライド機構によって構成される。
【0039】
第1ブラケット32は、略矩形板状の頂面部33Aと、頂面部33Aの上縁及び下縁に沿って折曲形成された一対の側面部33B、33Cを備えた断面略コ字状で略車体前後方向に延在し、各側面部33B、33Cの端縁に沿って側部フレーム5の下部側面に結合するフランジ33D、33Eが折曲形成される。
【0040】
頂面部33Aに略車体前後方向、より詳細には係止部材22の係止部22aを中心とする円孔状で車体前後方向に延在するスリット状の長穴34が形成される。長穴34は、上縁及び下縁から互いに突出形成された一対の突起34a、34bによって局部的な狭部34Cが形成されて後述する連結軸39の軸部39Aが貫通する略円形の軸保持穴34Aと軸部39Aの前後移動を許容する軸誘導穴34Bが前後方向に連続形成される。各突起36a、36bによって形成される狭部34Cの幅Lは連結軸39の軸部39Aの径Dより小さく設定される。
【0041】
第2ブラケット35は、第1ブラケット32の頂面部33Aにスライド可能に重合する略矩形の頂面部36Aと、頂面部36Aの上縁に折曲形成されて上方から側面部33Bと対向するガイド部36B及び頂面部36Aの下縁に折曲形成されて下方から側面部33Cと対向するガイド部36Cを有し、頂面部36Aの後端に背面ボード15の下端に延設された取付部16にビス等の締結具38によって結合される結合フランジ36Dが折曲形成される。
【0042】
頂面部36Aには、第1ブラケット32の頂面部33Aに開口する長穴34の軸保持穴34Aに対向して軸支持穴37が穿設される。
【0043】
一方、連結軸39は第1ブラケット32の頂面部33Aに形成された長穴34の軸保持穴34A及び第2ブラケット35の軸支持穴37に嵌入可能な径Dを有する軸部39A及び軸支持穴37より大径の頭部39Bを有している。
【0044】
これら第1ブラケット32の頂面部33Aに第2ブラケット35の頂面部36Aを重合した状態で、軸支持穴37側から連結軸39の軸部39Aを挿入して長穴34の軸保持穴34Aを貫通し、軸保持穴34Aから突出する軸部39Aの頂端39Aaをカシメることによって、連結軸39が第2ブラケット35に固定されると共に第1ブラケット32と第2ブラケット35が車幅方向に延在する連結軸39によって連結される。
【0045】
このように構成された背面ボード保持部31は、通常使用状態では側部フレーム5の下端側部に結合された第1ブラケット32と、背面ボード15の下部に結合された第2ブラケット35が、第1ブラケット32に形成された長穴34の軸保持穴34A及び第2ブラケット35の軸支持穴37を貫通する連結軸39によって連結されて、背面ボード15を図1及び図2に実線で示すようにバックレスト本体10の凹部13を閉蓋する通常使用位置に固定する。
【0046】
一方、背面ボード15の前面15aにバックレスト本体10の背面12側、即ち前方から所定値以上の荷重が入力された際には、背面ボード15の後方移動に伴って後方移動する第2ブラケット35の軸支持穴37に固定された連結軸39の軸部39Aが、第1ブラケット31に形成された長穴34の突起34a、34bを押し広げて前側の軸保持穴34A側から後側の軸誘導穴34B側に移動し、バックレストフレーム構造体4に固設された第1ブラケット32に対して背面ボード15に固設された第2ブラケット25が後方に移動する。これにより背面ボード15の通常使用位置への固定が解除すると共に背面ボード15の後方移動が許容される。
【0047】
次に、このように構成された車両用シート1の作用を説明する。
【0048】
車両用シート1は、通常使用状態においては図1及び図2に示すように、背面ボード15が、バックレスト本体10の背面12に形成された凹部13を閉塞する通常使用位置に背面ボード支持部21及び背面ボード保持部31によって固定される。
【0049】
この通常使用状態において背面ボード15の上部は背面ボード支持部21によって係合部23が係合する係止部22aを支点として回転可能にバックレストフレーム構造体4の上部に支持される。一方、背面ボード保持部31は、側部フレーム5に結合された第1ブラケット32と、背面ボード15の下部に結合された第2ブラケット35が、第1ブラケット32に形成された長穴34の軸保持穴34Aと第2ブラケット35の軸支持穴37とを貫通する連結軸39によって連結されて背面ボード15をバックレスト本体10の凹部13を閉蓋する通常使用位置に固定する。
【0050】
この通常使用状態におけるシート1に着座した乗員は、身体がバックレスト3を形成するバックレスト本体10の前面11に保持され、頭部とヘッドレスト20との間に所定の隙間が確保されて頭部とヘッドレスト20との干渉が回避される。また、乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の前面11が若干撓み変形して乗員を安定した状態に保持する。このバックレスト本体10の若干の撓み変形はバックレスト本体10の背面12に凹設された凹部13と背面ボード15との間に形成される空間Sによって確保される。
【0051】
一方、車両後方から衝突された場合には、着座した乗員の慣性により、身体を保持するバックレスト本体10の前面11の中央部範囲に荷重Pが作用し、乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して身体がバックレスト本体10の前面11に潜り込むように後方移動する。
【0052】
このときバックレスト本体10の撓み変形に伴ってバックレスト本体10の背面12、特に凹部13の底面13aが背面ボード15の前面15aに当接して背面ボード15に前方から入力される所定以上の荷重により押圧されると、この押圧によって背面ボード15は、その上部を支持する背面ボード保持部21の係止部22aを支点として揺動して下部が後方に押しやられる。
【0053】
背面ボード15の下部の後方移動に伴って、背面ボード15の下端に支持され背面ボード保持部31の第2ブラケット35が側部フレーム5の下端に固設された第1ブラケット32に対して後方に移動する。第2ブラケット35の後方移動に伴って第2ブラケット35の軸支持穴37に保持された連結軸39の軸部39Aが、第1ブラケット32に形成された軸穴34の突起34a、34b、即ち狭部34Cを押し広げて軸保持穴34A側から軸誘導穴34B側に移動し、バックレストフレーム構造体4に固設された第1ブラケット32に対して固定が解除され、背面ボード15に固設された第2ブラケット35の後方移動が許容されて背面ボード15が後方移動する。
【0054】
背面ボード15の後方移動によって引き続き連続的に乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して乗員の身体がバックレスト本体10の前面11に十分に潜り込むように迅速に後方移動する。この身体の後方移動に伴って頭部がヘッドレスト20に接近移動し、衝突後瞬時に頭部がヘッドレスト20によって支持されて頸部に作用する負荷が軽減できる。
【0055】
一方、本参考例のシート1は、車両が後方から衝突を受けたとき乗員の慣性により背面ボード15を後方に揺動移動させてバックレスト本体10の撓み変形を容易にすることから、通常使用状態において衝突の際の乗員の沈み込みを考慮することなくバックレスト本体10に対する背面ボード15の位置を設定することが可能になり、バックレスト本体10の前面11と背面ボード15との間の寸法が比較的小さく設定でき、バックレスト3を比較的薄く形成するいわゆる薄型シートが可能になる。
【0056】
このバックレスト3を比較的薄く形成することにより、このシート1の後方に配置される後席居住スペースの確保が容易になり、特に後席着座者の膝回りの空間が確保されて居住性の向上が得られる。また、このシート1の後方に荷物載置スペースが配置される車両にあっては、荷物載置スペースの確保が容易になり荷物搭載性が向上する。更に、バックレスト3を薄くすることによってシート1の配置が容易になり車室内のレイアウトの自由度、いわゆる車室内の設計の自由度が拡大する。
【0057】
また、背面ボード保持部31が、側部フレーム5の下部側面に結合される第1ブラケット32と、背面ボード15の下端に延設された取付部16に結合される第2ブラケット35とを備え、第1ブラケット32の頂面部33Aに形成された長穴34と、第2ブラケット35の頂面部36Aに形成された軸支持穴37とを貫通する連結軸39により連結するスライド機構によって構成され、構成部品が少なく簡単な構成で形成される。
【0058】
また、上記参考例では、第1ブラケット32の頂面部33Aに狭部34Cを介して連続する軸保持穴34A及び軸誘導穴34Bを備えた長穴34を形成し、第2ブラケット35の頂面部36Aに形成された軸支持穴37を形成したが、第2ブラケット35の頂面部36Aに狭部34Cを介して連続する軸保持穴34A及び軸誘導穴34Bを備えた長穴34を形成し、第1ブラケット32の頂面部33Aに軸支持穴37を形成することもできる。
【0059】
この場合、長穴34は狭部34Cを介して軸保持穴34Aが後方側に軸誘導穴34Bが前方側に連続形成される。
【0060】
(第1実施の形態)
本発明による第1実施の形態を図7及び図8を参照して説明する。本実施の形態は、上記第1参考例とは背面ボード保持部が異なり他の構成は第1参考例と同様の構成であり、背面ボード保持部を主に説明し、他の構成は図7及び図8に上記図1乃至図6と対応する符号を付することで該部の詳細な説明を省略する。
【0061】
図7は背面ボード保持部41の概要を示す上記第1参考例における図2に対応する図である。
【0062】
背面ボード保持部41は、バックレストフレーム構造体4の側部フレーム5の下端後面に取り付けられた取付ブラケット42と背面ボード15の下端に折曲形成された取付部17との間に架設されたリンク機構43を備えている。
【0063】
リンク機構43は、取付ブラケット42に取り付けられたベース44に基端部45aが車幅方向に延在する第1軸47aによって揺動自在に軸支された第1リンク45と、第1軸47aより上方において背面ボード15に形成された取付部17に基端部46aが車幅方向に延在する第2軸47bによって揺動自在に軸支された第2リンク46とを有し、第1リンク45の先端部45bと第2リンク46の先端部46bが車幅方向に延在する第3軸47cによって揺動自在に連結されている。取付ブラケット42には、第1リンク45の先端部45bが当接して第1リンク45の揺動端を規制するストッパ42aが形成されている。
【0064】
第1軸47aに先端部45bがストッパ42aに当接する方向に第1リンク45を付勢するコイルバネ等の第1付勢手段である第1スプリング48aが配設される。第2軸47bに先端部46bが上方となる方向に付勢するコイルバネ等の第2付勢手段である第2スプリング48bが配設される。また、第3軸47cに第1リンク45の基端部45aと第2リンク46の基端部46aが互いに接近する方向、即ち第1リンク45と第2リンク46との挟角を減少させる方向に第1リンク45及び第2リンク46を付勢するコイルバネ等の第3付勢手段である第3スプリング48cが配設される。
【0065】
このように構成された背面ボード保持部41は、通常使用状態では図7に示すようにリンク機構43の第1リンク45が、第1スプリング48aの付勢力によって先端部45bがストッパ42aに押接して第1リンク45の揺動が規制されると共に、第3スプリング48cの付勢力によって第2リンク46の基端部46bが第1リンク45の基端部45bに接近する方向に付勢されて第1リンク45の基端部45aと第2リンク46の基端部46aが接近配置され、かつ第2スプリング48bによって取付部17を介して背面ボード15をシートバック本体10の凹部13を閉蓋する通常使用位置に固定される。
【0066】
一方、背面ボード15の前面15aに前方から所定値以上の荷重が入力された際には、背面ボード15の後方移動に伴って第2リンク46の基端部46aが後方に引き出されて第1スプリング48a、第2スプリング48b、第3スプリング48cの付勢力に抗して第1リンク45と第2リンク46の挟角が次第に大きくなりシートバック構造体4に設けられた取付ブラケット42に取り付けられたベース44に軸支された第1リンク45の基端部45と背面ボード15の下端に軸支された第2リンク46の基端部46aが離れ、背面ボード15の通常使用位置への固定が解除されると共に、図8に示すように背面ボード15の後方移動が許容される。
【0067】
次に、このように構成された車両用シート1の作用を説明する。
【0068】
車両用シート1は、通常使用状態において、下部背面ボード保持部41は図7に示すように、リンク機構43の第1リンク45が、第1スプリング48aの付勢力によって先端部45bがストッパ42aに押接されると共に、第3スプリング48cの付勢力によって第2リンク46の基端部46bが第1リンク45の基端部45bに接近する方向に付勢されて、第1リンク45の基端部45aと第2リンク46の基端部46aが接近配置し、かつ第2スプリング48bによって取付部17を介して背面ボード15をバックレスト本体10の凹部13を閉蓋する通常使用位置に固定される。
【0069】
この通常使用状態におけるシート1に着座した乗員は、身体がバックレスト3を形成するバックレスト本体10の前面11に保持されて、頭部とヘッドレスト20との間に所定の隙間が確保される。
【0070】
一方、車両後方から衝突された場合には、着座した乗員の慣性によりバックレスト本体10の前面11の中央部範囲に荷重Pが作用し、乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して身体がバックレスト本体10の前面11に潜り込むように後方移動する。
【0071】
このときバックレスト本体10の中央部範囲の撓み変形に伴ってバックレスト本体10の背面12、特に凹部13の底面13aが背面ボード15の前面15aに当接して背面ボード15に前方から入力される所定以上の荷重により押圧されると、この押圧によって背面ボード15は、その上部を支持する背面ボード保持部21の係止部22aを支点として揺動して下部が後方に押しやられる。
【0072】
背面ボード15の下部の後方移動に伴って、図8に示すように第2リンク46の基端部46aが後方に引き出されて第1スプリング48a、第2スプリング48b、第3スプリング48cの付勢力に抗して第1リンク45と第2リンク46の挟角が次第に大きくなりバックレストフレーム構造体4に設けられた取付ブラケット42に取り付けられたベース42に軸支された第1リンク45の基端部45aと背面ボード15の下端に軸支された第2リンク46の基端部46aが離れて後面ボード15の通常使用位置への固定が解除され、後面ボード15が後方に移動する。
【0073】
背面ボード15の後方移動に伴って引き続き連続的に乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して身体がバックレスト本体10の前面11に潜り込むように迅速に十分に後方移動し、頭部を迅速にヘッドレスト20に接近させてヘッドレスト20に支持させることによって頸部に作用する負荷が軽減できる。
【0074】
一方、通常使用状態において、衝突の際の乗員の沈み込みを考慮することなくバックレスト本体10に対する背面ボード15の位置を設定することが可能になり、バックレスト3を比較的薄く形成できる。
【0075】
また、背面ボード保持部31が、バックレストフレーム構造体4の側部フレーム5の下端後面に取り付けられた取付ブラケット42と背面ボード15の下端に折曲形成された取付部17との間に架設された第1リンク45と第2リンク46を備えたリンク機構43及び第1スプリング48a、第2スプリング48b、第3スプリング48cを備えた簡単な構成で形成できる。
【0076】
なお、上記実施の形態では第1軸47aに第1リンク45の先端部45bがストッパ42aに当接する方向に第1リンク45を回動付勢する第1スプリング48a、第2軸47bに第2リンク46の先端部46bが上方となる方向に回動付勢する第2スプリング48b、第3軸47cに第1リンク45の基端部45aと第2リンク46の基端部46aが互いに接近する方向に付勢する第3スプリング48cを配設したが、第1スプリング48a、第2スプリング48b、第3スプリング48cのいずれか1つ或いは2つを省略して構成の簡素化を図ることもできる。
【0077】
(第2参考例)
本発明による第2参考例を図9を参照して説明する。本参考例は、上記第1参考例とは背面ボード保持部が異なり他の構成は第1参考例と同様の構成であり、背面ボード保持部を主に説明し、他の構成は図9に上記図1乃至図6と対応する符号を付することで該部の詳細な説明を省略する。
【0078】
図9は背面ボード保持部51の概要を示す上記第1参考例における図2に対応する図である。
【0079】
背面ボード保持部51は、バックレストフレーム構造体4の側部フレーム5の下端後面に取り付けられた係止ブラケット52と、背面ボード15の下端に形成されたクリップ保持部54に取付支持されるクリップ56によって構成される。
【0080】
係止ブラケット52は、基端52aが側部フレーム5の下端に結合されると共に側部フレーム5の後面5aと所定隙間を有して対向するクリップ係止部53を有する板状で、クリップ係止部53に前後方向に貫通する係止穴53aが穿設されている。
【0081】
背面ボード15の下端に形成されるクリップ保持部54は、係止ブラケット52のクリップ係止部53と対向する板状のクリップ取付部55を有し、クリップ取付部55に取付穴55aが穿設される。
【0082】
クリップ56は、クリップ取付部55の取付穴55aを貫通する軸57a及びクリップ取付部55を両側から挟持する一対のフランジ57b、57cを有する基部57と、フック状の係合部58と、軸部59とが同軸上に一体形成される。
【0083】
このクリップ56は、基部57の軸57aが取付穴55aを貫通すると共にフランジ57b、57cによってクリップ取付部55を両側から挟持した状態でクリップ保持部54に取り付けられる。
【0084】
クリップ保持部54に取り付けられたクリップ56は、軸部59の先端59a側から係止ブラケット52のクリップ係止部53の係止穴53aに挿入されて係合部58がクリップ係止部53に係合すると共に軸部59の先端59aが側部フレーム5の後面5aに当接することで背面ボード15の通常使用位置に固定する。
【0085】
一方、背面ボード15の前面15aに前方から所定値以上の荷重が入力された際には、仮想線で示すように背面ボード15の後方移動に伴ってクリップ保持部54に保持されたクリップ56の係合部58が係止ブラケット52の係止穴53aから抜け出して背面ボード15の通常使用位置への固定が解除され、背面ボード15の後方移動が許容される。
【0086】
次に、このように構成された車両用シート1の作用を説明する。
【0087】
車両用シート1は、通常使用状態においては、第1参考例と同様に背面ボード15がバックレスト本体10の背面12に形成された凹部13を閉塞する通常使用位置に背面ボード支持部21及び背面ボード保持部51によってバックレストフレーム構造体4に保持される。
【0088】
この通常使用状態における背面ボード保持部51は、図9に実線で示すように、背面ボード15の下部に配設されたクリップ保持部54に取り付けられたクリップ56が、その軸部59の先端59aが側部フレーム5の後面5aに当接し、係合部58がクリップ係止部53に係合して背面ボード15を通常使用位置に固定する。この通常使用状態においてはバックレスト本体10の前面11と背面ボード15との間が比較的小さく、バックレスト3が比較的薄く形成される。
【0089】
この通常使用状態におけるシート1に着座した乗員は、身体がバックレスト3を形成するバックレスト本体10の前面11に保持され、頭部とヘッドレスト20との間に所定の隙間が確保される。
【0090】
一方、車両後方から衝突された場合には、着座した乗員の慣性により、身体を保持するバックレスト本体10の前面11の中央部範囲に荷重Pが作用すると、乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して乗員の身体がバックレスト本体10の前面11に潜り込むように後方移動する。
【0091】
このときバックレスト本体10の中央部範囲の撓み変形に伴ってバックレスト本体10の背面12、特に凹部13の底面13aが背面ボード15の前面15aに当接して背面ボード15に前方から入力される所定以上の荷重により押圧される。この押圧によって背面ボード15は、その上部を支持する背面ボード支持部21の係止部22aを支点として揺動して下部が後方に押しやられる。
【0092】
背面ボード15の下部の後方移動に伴って、図9に仮想線で示すようにクリップ保持部54に保持されたクリップ56の係合部58がクリップ係止部53の係止穴53aから抜け出して背面ボード11の通常使用位置への固定が解除されて背面ボード15の後方移動が許容される。
【0093】
背面ボード15の後方移動に伴って引き続き連続的に乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して身体がバックレスト本体10に潜り込むように迅速に十分に後方移動し、頭部を迅速にヘッドレスト20に接近させて支持することによって頸部に作用する負荷が軽減できる。
【0094】
一方、通常使用状態において衝突の際の乗員の沈み込みを考慮することなくバックレスト本体10と背面ボード15の相対位置を設定することが可能になり、バックレスト本体10の前面11と背面ボード15との間が比較的小さく、バックレスト3は比較的薄く形成できる。
【0095】
また、背面ボード保持部51が、バックレストフレーム構造体4の側部フレーム5の下端後面に取り付けられたクリップ係止部53を備えた係止ブラケット52と、背面ボード15の下端に形成されたクリップ保持部54に取付支持されるクリップ56による簡単なクリップ機構で構成される。
【0096】
なお、上記参考例では、バックレストフレーム構造体4に係止ブラケット52を設け、かつ背面ボード15の下端にクリップ56を取り付けるクリップ保持部54を設けたが、バックレストフレーム構造体4にクリップ56を取り付けるクリップ保持部54を設け、背面ボード15の下端に係止ブラケット52を設けることもできる。
【0097】
(第2実施の形態)
本発明による第2実施の形態を図10及び図11を参照して説明する。なお、説明の便宜上第1参考例の図1乃至図6と対応する部分に同一符号を付して該部の詳細な説明を省略する。
【0098】
本実施の形態における車両用シート1は、第1参考例と同様にシートクッションとバックレスト3を有し、バックレスト3の上部にヘッドレスト20が配設される。バックレスト3は、バックレスト骨格部材となる左右の側部フレーム5及び頂部フレーム6を備えたバックレストフレーム構造体4、バックレストフレーム構造体4を覆うバックレスト本体10、及びバックレスト本体10の背面を覆う背面ボード15を備えている。
【0099】
バックレストフレーム構造体4を覆うバックレスト本体10は前面11によって着座した乗員の身体を保持し、背面12の上部に車幅方向に延在する凹部13が形成されている。
【0100】
バックレスト本体10の背面12を覆う背面ボード15は略矩形板状であって、下部両端がそれぞれ図示しない背面ボード支持部によって左右の側部フレーム5の下端近傍に回転可能にバックレストフレーム構造体4の下部に支持され、上部が背面ボード保持部61によってバックレストフレーム構造体4の上部に支持される。
【0101】
背面ボード保持部61は、バックレストフレーム構造体4の左右の側部フレーム5の上部と背面ボード15の上端左右端部との間にそれぞれ架設される。
【0102】
背面ボード保持部61は、図10に示すようにバックレストフレーム構造体4の上端後面に取り付けられた取付ブラケット62と背面ボード15の上端に折曲形成された取付部63との間に架設されたリンク機構64を備えている。
【0103】
リンク機構64は、取付ブラケット62に基端部65aが車幅方向に延在する第1軸67aによって揺動自在に軸支された第1リンク65と、背面ボード15に形成された取付部63に基端部66aが車幅方向に延在する第2軸67bによって揺動自在に軸支された第2リンク66とを有し、第1リンク65の先端部65bと第2リンク66の先端部66bが車幅方向に延在する第3軸67cによって揺動自在に連結されている。
【0104】
第1軸67aに、先端部65bがバックレストフレーム構造体4に接近する下方方向に第1リンク65を付勢するコイルバネ等の第1付勢手段である第1スプリング68aが配設される。第2軸67bに先端部66bが背面ボード15の前面15aに接近する下方方向に第2リンク66を付勢するコイルバネ等の第2付勢手段である第2スプリング68bが配設される。第3軸67cに第1リンク65の基端部65aと第2リンク66の基端部66aが互いに接近する方向に第1リンク65及び第2リンク66を付勢するコイルバネ等の第3付勢手段である第3スプリング68cが配設される。
【0105】
このように構成された背面ボード保持部61は、通常使用状態では、図10に示すようにリンク機構63の第1リンク65が第1スプリング68aによってその先端部45bが下方となるように付勢され、第3スプリング68cの付勢力によって第2リンク66の基端部66bが第1リンク65の基端部65bに接近する方向に付勢されて第1リンク65の基端部65aと第2リンク66の基端部66aが接近配置されて、かつ第2スプリング68bによって背面ボード15をバックレスト本体10の背面12に押接して通常使用位置に固定する。
【0106】
一方、背面ボード15の前面15aに前方から所定値以上の荷重が入力された際には、背面ボード15の後方移動に伴って第2リンク66の基端部66aが後方に引き出されて第1スプリング68a、第2スプリング68b、第3スプリング68cの付勢力に抗して第1リンク65と第2リンク66の挟角が次第に大きくなり背面ボード15の通常使用位置への固定が解除され、図11に示すように背面ボード15の上部が後方移動する。
【0107】
次に、このように構成された車両用シート1の作用を説明する。
【0108】
車両用シート1は、通常使用状態においては、背面ボード保持部61は図10に示すように、リンク機構64の第1リンク65が第1スプリング68aの付勢力によって先端部65bが下方に付勢され、第3スプリング68cの付勢力によって第2リンク66がその基端部66bが第1リンク65の基端部65bに接近する方向に付勢されて第1リンク65の基端部65aと第2リンク66の基端部66aが接近配置され、かつ第2スプリング68bによって背面ボード15をシートバック本体10の背面12に当接する通常使用位置に固定する。
【0109】
この通常使用状態におけるシート1に着座した乗員は、身体がバックレスト3を形成するバックレスト本体10の前面11に保持され、頭部とヘッドレスト20との間に所定の隙間が確保されて頭部とヘッドレスト20との干渉が回避される。
【0110】
一方、車両後方から衝突された場合には、着座した乗員の慣性により、身体を保持するバックレスト本体10の前面11に荷重Pが作用し、乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して乗員の身体がバックレスト本体10の前面11に潜り込むようにして後方移動する。
【0111】
このときバックレスト本体10の中央部範囲の撓み変形に伴ってバックレスト本体10の背面12が背面ボード15に当接して背面ボード15に前方から入力される所定以上の荷重により押圧されると、この押圧によって背面ボード15は、その下部を支持する下部背面ボード保持部を支点として揺動して上部が後方に押しやられる。
【0112】
背面ボード15の上部の後方移動に伴って、図11に示すように第2リンク66の基端部66aが後方に引き出されて第1スプリング68a、第2スプリング68b、第3スプリング68cの付勢力に抗して第1リンク65と第2リンク66の挟角が次第に大きくなり、第1リンク45の基端部45と背面ボード15の上端に軸支された第2リンク46の基端部46aが離れ、背面ボード15の通常使用位置への固定が解除されて、後面ボード15が後方移動する。
【0113】
背面ボード15の後方移動に伴って引き続き連続的に乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して身体がバックレスト本体10の前面11に潜り込むようにして迅速に十分に後方移動し、頭部を迅速にヘッドレスト20に接近して支持され、頸部に作用する負荷が軽減できる。
【0114】
一方、通常使用状態においては、衝突の際の乗員の沈み込みを考慮することなくバックレスト本体10と背面ボード15の相対位置を設定することが可能になり、バックレスト本体10の前面11と背面ボード15との間が比較的小さく、バックレスト3は比較的薄く形成できる。
【0115】
また、上部背面ボード保持部61が、バックレストフレーム構造体4に取り付けられた取付ブラケット62と背面ボード15の形成された取付部63との間に架設された第1リンク65と第2リンク66を備えたリンク機構63及び第1スプリング68a、第2スプリング68b、第3スプリング68cを備えた簡単な構成で形成できる。
【0116】
なお、上記実施の形態では第1軸67aに第1リンク65を回転付勢する第1スプリング68a、第2軸67bに第2リンク66を回動付勢する第2スプリング68b、第3軸67cに第1リンク65の基端部65aと第2リンク66の基端部66aが互いに接近する方向に付勢する第3スプリング68cを配設したが、第1スプリング68a、第2スプリング68b、第3スプリング68cのいずれか1つ或いは2つを省略して構成の簡素化を図ることもできる。
【0117】
(第3実施の形態)
本発明による第3実施の形態を図12を参照して説明する。なお、説明の便宜上第1参考例の図1乃至図6と対応する部分に同一符号を付して該部の詳細な説明を省略する。
【0118】
本実施の形態における車両用シート1は、第1参考例と同様にシートクッションとバックレスト3を有し、バックレスト3の上部にヘッドレスト20が配設される。バックレスト3は、バックレスト骨格部材となる左右の側部フレーム5及び頂部フレーム6を備えたバックレストフレーム構造体4、バックレストフレーム構造体4を覆うバックレスト本体10、及びバックレスト本体10の背面12を覆う背面ボード15を備えている。
【0119】
バックレストフレーム構造体4を覆うバックレスト本体10は前面11によって着座した乗員の身体を保持し、背面12の上部に車幅方向に延在する凹部13が形成されている。
【0120】
バックレスト本体10の背面12を覆う背面ボード15は略矩形板状であって、下部両端がそれぞれ図示しない背面ボード支持部によって左右の側部フレーム5の下端近傍に回転可能にバックレストフレーム構造体4の下部に支持され、上部が背面ボード保持部71によってバックレストフレーム構造体4の上部に支持される。
【0121】
背面ボード保持部71は、バックレストフレーム構造体4の左右の側部フレーム5の上部と背面ボード15の上端左右端部との間にそれぞれ架設されるバネ機構によって構成される。
【0122】
背面ボード保持部71は、図12に示すようにバックレストフレーム構造体4の上端後面に取り付けられた取付ブラケット72と、背面ボード15の上端に折曲形成された取付部73と、取付ブラケット72と取付部73に各端部74a、74bが係止して取付ブラケット72と取付部73との間に架設されて取付部73を取付ブラケット72に接近する方向に付勢する背面ボード付勢手段となるコイルバネ等のバネ74を備えている。
【0123】
このようにバネ機構により構成された上部背面ボード保持部71は、通常使用状態では、図12に実線で示すようにバネ74の付勢力によってその各端部74a、74bが互いに接近する方向に付勢されて背面ボード15がバックレスト本体10の背面12に押接する通常使用位置に固定される。一方、背面ボード15の前面15aに前方から所定値以上の荷重が入力された際には、バネ74の各端部74aと74bが離反して背面ボード15の通常使用位置への固定が解除されて背面ボード15の後方移動に伴ってバネ74の付勢力に抗して背面ボード15の上部が仮想線で示すように後方移動する。
【0124】
次に、このように構成された車両用シート1の作用を説明する。
【0125】
車両用シート1は、通常使用状態において、背面ボード保持部71は図12に実線で示すように、バックレストフレーム構造体4に取り付けられた取付ブラケット72と背面ボード15に形成された取付部73との間に架設されたバネ74によって背面ボード15をバックレスト本体10の背面12に当接する通常使用位置に固定する。この通常使用状態においてシート1に着座した乗員は、身体がバックレスト3を形成するバックレスト本体10の前面11に保持され、頭部とヘッドレスト20との間に所定の隙間が確保される。
【0126】
一方、車両後方から衝突された場合には、着座した乗員の慣性により、身体を保持するバックレスト本体10の前面11の中央部範囲に荷重Pが作用し、乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して身体がバックレスト本体10の前面11に潜り込むように後方移動する。
【0127】
このときバックレスト本体10の中央部範囲の撓み変形に伴ってバックレスト本体10の背面12が背面ボード15に当接し、背面ボード15に前方から入力される所定以上の荷重により押圧されると、この押圧によって背面ボード15は、その下部を支持する背面ボード支持部を支点として揺動してバネ74の各端部74aと74bが付勢力に抗して離反して上部が後方に押しやられる。
【0128】
背面ボード15の後方移動に伴って引き続き連続的に乗員の身体に倣ってバックレスト本体10の中央部範囲が後方に撓み変形して乗員の身体がバックレスト本体10の前面11に潜り込むように迅速に十分に後方移動し、頭部を迅速にヘッドレスト20に接近させて支持することによって頸部に作用する負荷が軽減できる。
【0129】
一方、通常使用状態においては、衝突の際の乗員の沈み込みを考慮することなくバックレスト本体10と背面ボード15の相対位置を設定することが可能になり、バックレスト本体10の前面11と背面ボード15との間が比較的小さく、バックレスト3は比較的薄く形成できる。
【0130】
また、背面ボード保持部71が、バックレストフレーム構造体4に取り付けられた取付ブラケット72と背面ボード15の形成された取付部73との間に架設されたバネ74を備えたバネ機構による簡単な構成で形成される。
【0131】
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第1実施の形態及び第2実施の形態では背面ボードの上部を背面ボード支持部により揺動自在に支持し、下部を背面ボード保持部によって後方移動可能に支持する一方、第3実施の形態では背面ボードの下部を背面ボード支持部により揺動自在に支持し、上部を背面ボード保持部によって後方移動可能に保持したが、背面ボードの上部及び下部を共に背面保持部によって後方移動に保持することもできる。
【符号の説明】
【0132】
1 車両用シート
3 バックレスト
4 バックレストフレーム構造体
10 バックレスト本体
15 背面ボード
20 ヘッドレスト
41 背面ボード保持部
43 リンク機構
45 第1リンク
45a 基端部
45b 先端部
46 第2リンク
46a 基端部
46b 先端部
48a 第1スプリング(第1付勢手段)
48b 第2スプリング(第2付勢手段)
48c 第3スプリング(第2付勢手段)
71 背面ボード保持部
74 バネ
74a、74b 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックレストフレーム構造体、該バックレストフレーム構造体を覆うと共に前面によって乗員の身体を保持する柔軟部材製のバックレスト本体、及びバックレスト本体の背面を覆う背面ボードを有するバックレストと、該バックレストの上部に配設されるヘッドレストとを備えた車両用シート構造において、
上記背面ボードは、
通常使用状態において該背面ボードをバックレスト本体の背面を覆う通常使用位置に固定し、かつ上記バックレスト本体の前方から背面ボードに入力される所定以上の押圧荷重により上記背面ボードの通常使用位置への固定を解除する背面ボード保持部を介してバックレストフレーム構造体に支持され、
上記背面ボード保持部は、
基端部がバックレストフレーム構造体に揺動自在に軸支される第1リンク及び基端部が背面ボードに揺動自在に軸支され先端部が上記第1リンクの先端部に揺動自在に軸支される第2リンクを備えたリンク機構と、
該リンク機構の上記第1リンクの基端部と第2リンクの基端部が互いに接近する方向に付勢する付勢手段とを備え、
該付勢手段の付勢によりリンク機構を介して背面ボードを通常使用位置に固定し、かつバックレスト本体の前方から背面ボードに入力される所定以上の押圧荷重により付勢手段の付勢に抗して第1リンクの基端部と第2リンクの基端が離反して背面ボードの通常使用位置への固定が解除されることを特徴とする車両用シート構造。
【請求項2】
バックレストフレーム構造体、該バックレストフレーム構造体を覆うと共に前面によって乗員の身体を保持する柔軟部材製のバックレスト本体、及びバックレスト本体の背面を覆う背面ボードを有するバックレストと、該バックレストの上部に配設されるヘッドレストとを備えた車両用シート構造において、
上記背面ボードは、
通常使用状態において該背面ボードをバックレスト本体の背面を覆う通常使用位置に固定し、かつ上記バックレスト本体の前方から背面ボードに入力される所定以上の押圧荷重により上記背面ボードの通常使用位置への固定を解除する背面ボード保持部を介してバックレストフレーム構造体に支持され、
上記背面ボード保持部は、
バックレストフレーム構造体と背面ボードにそれぞれ各端部が係止されて架設され、各端部が接近する方向に付勢付与されたバネを備え、
該バネの付勢付与により背面ボードを通常使用位置に固定し、
バックレスト本体の前方から背面ボードに入力される所定以上の押圧荷重によりバネの付勢に抗して各端部が離反して背面ボードの通常使用位置への固定が解除されることを特徴とする車両用シート構造。
【請求項3】
上記背面ボードは、
下部が背面ボード支持部を介してバックレストフレーム構造体に回転自在に支持され、
上部が上記背面ボード保持部を介してバックレストフレーム構造体に支持されたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−82452(P2013−82452A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−6875(P2013−6875)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2007−258480(P2007−258480)の分割
【原出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】