説明

車両用シート

【課題】乗員の体格によらず乗員に快適な座り心地を提供することができると共に、シートバックフレームの構造を簡素化することができる。
【解決手段】車両用シート10では、図示しないシートバックフレームが上下方向中間部で屈曲されると、このシートバックフレームを覆うパッド42の一般部44が、その上下方向中間部に設けられた脆弱部54で屈曲する。ここで、この車両用シート10では、図示しない移動手段が一般部44をシートバックフレームに対して相対移動させることで、脆弱部54(一般部44の屈曲部)がシートバックフレームに対して上下方向に相対移動する。したがって、乗員の体格によらず乗員に快適な座り心地を提供することができる。しかも、この車両用シート10では、シートバック14の屈曲位置を変更するための構造をシートバックフレームに設ける必要がないため、シートバックフレームの構造を簡素化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シートバックの屈曲位置を可変調節可能とし、乗員の体格差や好みに応じてシートバックを最適な形状に屈曲調節するようにした自動車のリヤシート構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−236914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のリヤシート構造では、シートバックの上部フレーム及び下部フレームのそれぞれに設けられたピストンとシリンダによって、上部フレーム及び下部フレームの長さを変更することで、シートバックの屈曲位置を可変調節する構成になっている。このため、上部フレーム及び下部フレーム(シートバックフレーム)の構造が複雑になっている。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、乗員の体格によらず乗員に快適な座り心地を提供することができると共に、シートバックフレームの構造を簡素化することができる車両用シートを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明に係る車両用シートは、シートバックの骨格を構成すると共に、上下方向中間部で前記シートバックの幅方向に沿った軸線周りに屈曲可能とされたシートバックフレームと、少なくとも前記シートバックフレームの前方側を覆い、前記シートバックフレームに凭れる乗員の背部を支持すると共に、上下方向中間部に前記シートバックの幅方向に延びる脆弱部が設けられ、前記脆弱部が前記シートバックフレームに対して上下方向に相対移動するように前記シートバックフレームに対して相対移動可能とされた前方被覆部材と、前記前方被覆部材を前記シートバックフレームに対して前記相対移動させる移動手段と、を有することを特徴としている。
【0006】
請求項1に記載の車両用シートでは、シートバックフレームが上下方向中間部でシートバックの幅方向に沿った軸線周りに屈曲されると、このシートバックフレームの少なくとも前方側を覆う前方被覆部材が、その上下方向中間部に設けられた脆弱部で屈曲する。ここで、シートバックフレームに凭れる乗員の座り心地は、当該乗員の背中を支持する前方被覆部材の屈曲部(脆弱部)の位置に影響されるが、前方被覆部材の屈曲部は、移動手段が前方被覆部材をシートバックフレームに対して相対移動させることで、シートバックフレームに対して上下方向に相対移動する。したがって、乗員の体格差に応じて前方被覆部材の脆弱部(屈曲部)の位置を変更(調節)することができるので、乗員の体格によらず乗員に快適な座り心地を提供することができる。しかも、この車両用シートでは、シートバックの屈曲位置を変更するための構造をシートバックフレームに設ける必要がないため、シートバックフレームの構造を簡素化することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1に記載の車両用シートにおいて、前記脆弱部は、前記シートバックの幅方向に延びる溝が前記前方被覆部材に形成されることで前記前方被覆部材に設けられた薄肉部とされていることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の車両用シートでは、前方被覆部材の上下方向中間部にシートバックの幅方向に延びる溝を形成して前方被覆部材に薄肉部を設けることで、前方被覆部材の屈曲位置を決定することができる。したがって、前方被覆部材の製造を容易なものにすることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1又は請求項2に記載の車両用シートにおいて、前記脆弱部は、前記前方被覆部材の上下方向に並んで複数設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の車両用シートでは、前方被覆部材の上下方向中間部には、シートバックの幅方向に延びる脆弱部が、前方被覆部材の上下方向に並んで複数設けられており、前方被覆部材は、これらの脆弱部のそれぞれで屈曲される。したがって、前方被覆部材を滑らかに屈曲(湾曲)させることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、前記前方被覆部材に対して前記シートバックの幅方向両側に設けられ、前記シートバックフレームの側部を覆うと共に、前記前方被覆部材よりも前記シートバックの前方側へ突出した側方被覆部材を有することを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の車両用シートでは、前方被覆部材に対してシートバックの幅方向両側に、シートバックフレームの側部を覆う側方被覆部材が設けられており、これらの側方被覆部材は、前方被覆部材よりもシートバックの前方側へ突出している。このため、前方被覆部材によって背部を支持された乗員は、左右の側方被覆部材に干渉することで左右方向の位置ズレを抑制される。したがって、乗員のサポート性を向上させることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、前記移動手段は、前記前方被覆部材の上下両端部のうちの一方を自らを介して前記シートバックフレームに連結した弾性部材と、前記前方被覆部材の上下両端部のうちの他方に連結され、前記弾性部材が伸びる方向へ前記前方被覆部材を駆動する駆動装置とを有することを特徴としている。
【0014】
請求項5に記載の車両用シートでは、前方被覆部材が駆動装置によって駆動されると、弾性部材が伸ばされて前方被覆部材がシートバックフレームに対して相対移動する。これにより、前方被覆部材の脆弱部がシートバックフレームに対して上方及び下方の何れか一方へ相対移動する。また、駆動装置が前方被覆部材の駆動を解除すると、弾性部材の弾性力によって、前方被覆部材がシートバックフレームに対して相対移動する。これにより、前方被覆部材の脆弱部がシートバックフレームに対して上方及び下方の何れか他方へ相対移動する。したがって、簡単な構成で前方被覆部材の脆弱部をシートバックフレームに対して上下方向に相対移動させることができる。
【0015】
請求項6に記載の発明に係る車両用シートは、請求項5に記載の車両用シートにおいて、前記駆動装置は、前記シートバックフレームに対して回動可能に支持されると共に、前記前方被覆部材の上下両端部のうちの他方に連結された回動部材と、前記回動部材を前記シートバックフレームに対して回動させる駆動源とを有することを特徴としている。
【0016】
請求項6に記載の車両用シートでは、駆動源が回動部材をシートバックフレームに対して回動させると、この回動部材に連結された前方被覆部材が駆動されてシートバックフレームに対し相対移動する。このように、回動式の駆動装置によって前方被覆部材を駆動するので、前方被覆部材を駆動するためのスペースも含めた駆動装置の設置スペースを小さくすることができる。
【0017】
請求項7に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、前記前方被覆部材の表面を覆う表皮を有すると共に、前記表皮は、前記脆弱部に対向する部分が局所的に変形することを特徴としている。
【0018】
請求項7に記載の車両用シートでは、前方被覆部材を覆う表皮は、脆弱部に対向する部分が局所的に変形する(例えば、表皮の一部にシワが生じる)。このため、この局所的な変形によって脆弱部の存在(位置)をシートバックの外側から確認することができるので、シートバックの屈曲位置を変更する際の操作性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、請求項1に記載の発明に係る車両用シートでは、乗員の体格によらず乗員に快適な座り心地を提供することができると共に、シートバックフレームの構造を簡素化することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明に係る車両用シートでは、前方被覆部材の製造を容易なものにすることができる。
【0021】
請求項3に記載を発明に係る車両用シートでは、前方被覆部材を滑らかに屈曲させることができる。
【0022】
請求項4に記載の発明に係る車両用シートでは、乗員のサポート性を向上させることができる。
【0023】
請求項5に記載の発明に係る車両用シートでは、簡単な構成で前方被覆部材の脆弱部をシートバックフレームに対して上下方向に相対移動させることができる。
【0024】
請求項6に記載を発明に係る車両用シートでは、前方被覆部材を駆動するためのスペースも含めた駆動装置の設置スペースを小さくすることができる。
【0025】
請求項7に記載の発明に係る車両用シートでは、シートバックの屈曲位置を変更する際の操作性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1及び図2には、本発明の実施形態に係る車両用シート10が概略的な斜視図にて示されている。また、図3及び図4には、この車両用シート10が概略的な側面図にて示されている。なお、図3及び図4では、説明の都合上、後述するパッド42の土手部46の図示を省略してある。また、各図中矢印FRは車両用シート10の前方向を示し、矢印UPは車両用シート10の上方向を示し、矢印Wは車両用シート10の幅方向を示している。
【0027】
これらの図に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、乗員着座用のシートクッション12と、このシートクッション12に着座した乗員の背部を支持するシートバック14とを備えている。
【0028】
シートバック14は、図5に示されるシートバックフレーム16を備えている。シートバックフレーム16は、シートバック14の骨格を構成するものであり、上部バックフレームとしてのアッパアーム18と、下部バックフレームとしてのロアアーム20とを有している。ロアアーム20は、左右一対のサイド部20Aと、これらのサイド部20Aの各下端部を連結する下部連結部20Bとを備えており、全体としてコ字状に形成されている(なお、図5では、右側のサイド部20Aの図示を省略してある)。
【0029】
各サイド部20Aは、板金によって形成された長尺な部材であり、長手方向がシートバック14の上下方向(矢印UP方向)に沿う状態で配置されると共に、板厚方向がシートバック14の幅方向(矢印W方向)に沿う状態で配置されている。また、下部連結部20Bは、板金によって形成された長尺な部材であり、長手方向がシートバック14の幅方向に沿う状態で配置され、長手方向両端部が各サイド部20Aの下端部に結合されている。この下部連結部20Bは、シートバック14の幅方向に沿った軸線周りに湾曲した形状に形成されており、後述するパッド42の一般部44を巻き掛けるためのガイドとしての機能を有している。
【0030】
上記構成のロアアーム20は、各サイド部20Aの下端部が、図示しないリクライニング機構を介してシートクッション12のシートクッションフレーム(図示省略)の後端部に連結されている。
【0031】
一方、アッパアーム18は、アッパアーム本体22とスプリング係止部24とを有している。アッパアーム本体22は、金属製のパイプ材がコ字状に屈曲されることで形成されたものであり、シートバック14の上下方向に沿って配置された左右一対のサイド部22Aと、これらのサイド部22Aの各上端部を連結する上部連結部22Bとを備えている(図5では、右側のサイド部22Aの図示を省略してある)。なお、上部連結部22Bは、後述するパッド42の一般部44を巻き掛けるためのガイドとしての機能を有している。
【0032】
また、スプリング係止部24は、板金によって形成された長尺な部材であり、シートバック14の幅方向に沿って延在している。このスプリング係止部24の長手方向中間部には、左右一対のスプリング係止孔25が形成されており、スプリング係止部24の長手方向両端部には、シートバック14の前方側へ向けて突出する左右一対のヒンジ部24Aが設けられている。これらのヒンジ部24Aには、アッパアーム本体22の各サイド部22Aの下端部が結合されており、アッパアーム18は、全体として枠状に形成されている。
【0033】
また、スプリング係止部24の各ヒンジ部24Aは、それぞれ支軸26を介してロアアーム20の一対のサイド部20Aの上端部に連結されている。これらの支軸26は、軸線方向がシートバック14の幅方向に沿って配置されており、アッパアーム18は、ロアアーム20に対して支軸26周り(シートバック14の幅方向に沿った軸線周り)に回動(傾動)可能とされている。
【0034】
このため、シートバックフレーム16は、上下方向中間部でシートバック14の幅方向に沿った軸線周りに屈曲可能とされており、図示しないモータの駆動力によって屈曲角度を調節可能とされている。なお、上述のモータには、本車両用シート10の所定位置(例えば、シートクッション12の側部)に取り付けられた図示しないスイッチが電気的に接続されており、乗員はこのスイッチを操作することで上記モータを作動させられるようになっている。
【0035】
一方、ロアアーム20の下端側で一対のサイド部20Aの間には、駆動装置28を構成する回動部材としてのリンク固定プレート30が設けられている。このリンク固定プレート30は、板金によって形成された長尺な部材であり、長手方向がシートバック14の幅方向に沿う状態で配置されている。このリンク固定プレート30の長手方向中間部には、後述するパッド42の一般部44を連結するための左右一対のパッド固定孔32が形成されている。
【0036】
リンク固定プレート30の長手方向両端部には、それぞれシートクッション12の前方側へ突出する板状のリンク34が取り付けられている(なお、図5では右側のリンク34の図示を省略してある)。これらのリンク34は、板厚方向がシートバック14の幅方向に沿う状態で配置されており、各リンク34の先端側は、それぞれ支軸36を介して一対のサイド部20Aに連結されている。これらの支軸36は、軸線方向がシートバック14の幅方向に沿う状態で配置されており、リンク固定プレート30は、ロアアーム20に対して支軸36周り(シートバック14の幅方向に沿った軸線周り)に回動可能とされている。
【0037】
また、一方のリンク34の先端側には、外歯のギヤ部34Aが設けられており、このギヤ部34Aには、別のギヤ38が噛合されている。このギヤ38は、駆動装置28を構成する駆動源としてのモータ40の出力軸に固定されており、このモータ40は、一方のサイド部20Aに固定されている。このモータ40が作動されると、モータ40の回転力がギヤ38及びギヤ部34Aを介してリンク34に伝達され、リンク34がリンク固定プレート30と一体でロアアーム20に対して回動されるようになっている。
【0038】
この場合、モータ40が正転されると、リンク固定プレート30が図5の矢印A方向へ回動され、モータ40が逆転されると、リンク固定プレート30が図5の矢印B方向へ回動されるようになっている。なお、モータ40には、本車両用シート10の所定位置(例えば、シートクッション12の側部)に取り付けられた図示しないスイッチが電気的に接続されており、乗員はこのスイッチを操作することでモータ40を正転又は逆転させられるようになっている。
【0039】
一方、上述のシートバックフレーム16は、図6及び図7に示されるパッド42によって覆われている。このパッド42は、シートバックフレーム16の前方側を覆う一般部44(前方被覆部材)と、この一般部44の左右両側でシートバックフレーム16の側部を覆う左右一対の土手部46(側方被覆部材)とに3分割されている。一般部44及び左右一対の土手部46は、発泡材によって形成されたクッション材であり、シートバック14に凭れる乗員の背部を弾性的に支持するためのものである。左右一対の土手部46は、シートバックフレーム16に対して相対移動不能に取り付けられており、一般部44よりもシートバック14の前方側へ突出している。このため、一般部44に凭れる乗員は、上体の側部が左右の土手部46に対向する。
【0040】
また、一般部44は、長尺な板状に形成されており、長手方向一端側(上端側)がアッパアーム本体22の上部連結部22Bに巻き掛けられている。一般部44の長手方向一端部には、左右一対のスプリング係止孔45が形成されており、これらのスプリング係止孔45には、それぞれスプリング48(弾性部材)の一端部が形成されている。これらのスプリング48の他端部は、アッパアーム18のスプリング係止部24に形成されたスプリング係止孔25に係止されており、これにより、一般部44の長手方向一端部が左右一対のスプリング48(弾性部材)を介してスプリング係止部24に連結されている。
【0041】
一般部44の長手方向他端側(下端側)は、ロアアーム20の下部連結部20Bに巻き掛けられている。一般部44の長手方向他端部には、前述したリンク固定プレート30の一対のパッド固定孔32に対応して一対のリンク固定孔50が形成されており、これらのパッド固定孔32及びリンク固定孔50を貫通する係止部材51(図8参照)によって、一般部44の長手方向他端部がリンク固定プレート30に固定(連結)されている。
【0042】
このため、リンク固定プレート30がシートバックフレーム16に対して図8の矢印A方向へ回動すると、一般部44の長手方向他端部がリンク固定プレート30によって図5の矢印C方向へ駆動される(引っ張られる)。これにより、一般部44がシートバックフレーム16に対し図8の矢印C方向へ移動され、一般部44の長手方向一端部によってスプリング48が伸ばされるようになっている。
【0043】
また、リンク固定プレート30がシートバックフレーム16に対して図8の矢印B方向へ回動すると、一般部44の長手方向他端部がリンク固定プレート30によって図8の矢印B方向へ駆動される。この場合、一般部44は、スプリング48の付勢力によってシートバックフレーム16に対し図8の矢印D方向へ移動されるようになっている。
【0044】
一般部44の上下方向中間部には、シートバック14の幅方向に延びる溝52が形成されている。このため、一般部44には、この溝52が形成された部分に、車幅方向に延びる薄肉部54(脆弱部)が設けられている。この薄肉部54は、一般部44がシートバックフレーム16に対して図8の矢印D方向へ相対移動すると支軸26の上側に配置されるようになっている。この状態では、図3に示されるように、シートバック14の上端部から薄肉部54(溝52)までの距離L1よりも、シートバック14の下端部から薄肉部54までの距離L2の方が長くなるようになっている。
【0045】
また、薄肉部54は、一般部44がシートバックフレーム16に対して図8の矢印C方向へ相対移動すると支軸26の下側に配置されるようになっている。この状態では、シートバック14の上端部から薄肉部54までの距離L3よりも、シートバック14の下端部から薄肉部54までの距離L4の方が短くなるようになっている。
【0046】
さらに、左右の土手部46には、それぞれ一般部44の溝52に対応して溝56が形成されている。これらの溝56は、土手部46の前面側と側面側に形成されており、土手部46は、溝56が形成された部分が薄肉部58とされている。これらの薄肉部58は、本実施形態では支軸26と略同じ高さに配置されている。
【0047】
なお、パッド42の一般部44の上部には、ヘッドレスト62の脚部(図示省略)が挿通される左右一対の長孔64が形成されている。これらの長孔64に挿通されたヘッドレスト62の脚部は、アッパアーム18の上部連結部22Bに設けられた係止部(図示省略)に係止されるようになっている。また、これらの長孔64は、シートバックフレーム16に対する一般部44の移動方向に沿って形成されており、ヘッドレスト62の脚部によって一般部44の上記移動が阻害されないようになっている。
【0048】
また、上記構成のパッド42は、その全体が表皮60によって覆われており、本車両用シート10の外側からは見えないようになっている。但し、この表皮60は、薄肉部54、58(溝52、56)に対向する部分が溝52、56内に入り込んで局所的に変形しており(シワが生じており)、溝52、56の存在が車両用シート10の外側から確認できるようになっている。
【0049】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0050】
上記構成の車両用シート10では、シートバックフレーム16が支軸26周りに屈曲されると、このシートバックフレーム16を覆うパッド42が、その上下方向中間部に設けられた薄肉部54、58(脆弱部)において屈曲する。ここで、シートバックフレーム16に凭れる乗員の座り心地は、当該乗員の背部を支持する一般部44の屈曲部(薄肉部54)の位置に大きく影響されるが、一般部44の薄肉部54は、一般部44が駆動装置28によってシートバックフレーム16に対し相対移動されることで、シートバックフレーム16に対して上下方向に相対移動する。したがって、乗員の体格差に応じて薄肉部54(一般部44の屈曲部)の位置を変更(調節)することができるので、乗員の体格によらず乗員に快適な座り心地を提供することができる。
【0051】
しかも、この車両用シート10では、シートバック14の屈曲位置を変更するための構造をシートバックフレーム16に設ける必要がないため、シートバックフレーム16の構造を簡素化することができ、シートバックフレーム16の汎用性を確保することができる。したがって、シートバックフレーム16の製造コストを全体として低減させることができる。
【0052】
また、この車両用シート10では、背景技術の欄で説明した従来のリヤシート構造のように、シートバックフレーム16にピストンとシリンダを設ける必要がないので、これらの設置スペースによってシートバック14が大型化したり、シートバック14の設計の自由度が低下したりすることがない。また、ピストンとシリンダの構造によってシートバックフレーム16の強度が低下することもないため、シートバックフレーム16の強度を容易に確保することができる。
【0053】
さらに、この車両用シート10では、一般部44及び土手部46の上下方向中間部にシートバック14の幅方向に延びる溝52、56が形成されて一般部44及び土手部46に薄肉部54、58が設けられることで、パッド42の屈曲位置が決定されている。このため、簡単な構成でパッド42の屈曲位置を決定することができるので、パッド42の製造を容易なものにすることができる。
【0054】
またさらに、この車両用シート10では、パッド42が、一般部44と左右の土手部46とに3分割されており、左右の土手部46が一般部44よりもシートバック14の前方側に突出している。このため、一般部44によって背部を支持された乗員は、左右の土手部46に干渉することで左右方向の位置ズレを抑制される。したがって、乗員のサポート性を向上させることができる。
【0055】
しかも、乗員の座り心地に与える影響が比較的少ない左右の土手部46は、シートバックフレーム16に対して相対移動不能に取り付けられており、乗員の座り心地に大きな影響を与える一般部44だけがシートバックフレーム16に対して相対移動されて屈曲位置を変更される。このため、簡単な構成で乗員の座り心地を向上させることができる。
【0056】
また、この車両用シート10では、パッド42の一般部44をシートバックフレーム16に対して一方(図8の矢印C方向)へ移動させる際にはモータ40の駆動力を利用するが、一般部44をシートバックフレーム16に対して他方(図8の矢印D方向)へ移動させる際には、一般部44の上記一方への移動により伸ばされたスプリング48の付勢力を利用する。したがって、単一のモータ40で一般部44の往復移動を成立させることができるので、簡単な構成で一般部44の薄肉部54をシートバックフレーム16に対して上下方向に相対移動させることができる。
【0057】
さらに、この車両用シート10では、一般部44は、下端側がロアアーム20の下部連結部20Bに巻き掛けられると共にリンク固定プレート30に連結されており、このリンク固定プレート30がモータ40によって回動されることで駆動される。このように、回動式の駆動装置28によって一般部44が駆動されるので、パッド42を駆動するためのスペースも含めた駆動装置28の設置スペースを小さくすることができる。
【0058】
また、この車両用シート10では、シートバック14の表皮60は、薄肉部54、58(溝52、56)に対向する部分が溝52、56内に入り込んで局所的にシワが生じており、車両用シート10の外側から溝52、56の存在(位置)を確認することができる。したがって、一般部44の屈曲位置を変更する際の操作性を向上させることができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、パッド42の一般部44にシートバック14の幅方向に延びる溝52が形成されることで、一般部44に脆弱部としての薄肉部54、58が設けられた構成にしたが、本発明はこれに限らず、例えば、一般部44の一部の硬さを他の部分の硬さよりも柔らかく構成したり、或いは一般部44の一部を他の部分よりも柔らかい材料で構成したりすることでも、一般部44(前方側被覆部材)に脆弱部を設けることができる。
【0060】
また、上記実施形態では、一般部44の上下方向中間部に、シートバック14の幅方向に延びる薄肉部54(脆弱部)が1つだけ設けられた構成にしたが、本発明はこれに限らず、一般部44の上下方向中間部に、シートバック14の幅方向に延びる脆弱部が、シートバック14の上下方向に並んで複数設けられた構成にしてもよい。この場合、一般部44は、上記複数の脆弱部のそれぞれで屈曲されるので、一般部44を滑らかに屈曲(湾曲)させることができる。
【0061】
さらに、上記実施形態では、パッド42が一般部44と左右の土手部46とに3分割された構成にしたが、本発明はこれに限らず、左右の土手部46が省略された構成にしてもよい。
【0062】
またさらに、上記実施形態では、リンク34及びリンク固定プレート30がモータ40によって回動される回動式の駆動装置28によって、一般部44が駆動される構成にしたが、本発明はこれに限らず、一般部44が駆動装置によって直線的に駆動される構成にしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、一般部44の上端側がスプリング48(弾性部材)を介してシートバックフレーム16に連結され、一般部44の下端側が駆動装置28によって駆動される構成にしたが、本発明はこれに限らず、一般部44の下端側が弾性部材を介してシートバックフレーム16に連結され、一般部44の上端側が駆動装置28によって駆動される構成にしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、一般部44を移動させる移動手段がスプリング48と駆動装置28とを備えた構成にしたが、本発明はこれに限らず、移動手段の構成は適宜変更することができるものであり、移動手段が手動式にされた構成にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用シートの概略的な構成を示し、シートバックの屈曲位置が上方側へ移動された状態の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用シートの概略的な構成を示し、シートバックの屈曲位置が下方側へ移動された状態の斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用シートの概略的な構成を示し、シートバックの屈曲位置が上方側へ移動された状態の側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両用シートの概略的な構成を示し、シートバックの屈曲位置が下方側へ移動された状態の側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る車両用シートのシートバックを構成するシートバックフレームの部分的な構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態に係る車両用シートのシートバックを構成するパッドの分解斜視図である。
【図7】本発明の実施形態に係る車両用シートのシートバックを構成するパッドの斜視図である。
【図8】図7の8−8線断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10 車両用シート
14 シートバック
16 シートバックフレーム
28 駆動装置
30 リンク固定プレート(回動部材)
32 リンク(回動部材)
40 モータ(駆動源)
42 パッド
44 一般部(前方被覆部材)
46 土手部(側方被覆部材)
48 スプリング(弾性部材)
52 溝
54 薄肉部
60 表皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックの骨格を構成すると共に、上下方向中間部で前記シートバックの幅方向に沿った軸線周りに屈曲可能とされたシートバックフレームと、
少なくとも前記シートバックフレームの前方側を覆い、前記シートバックフレームに凭れる乗員の背部を支持すると共に、上下方向中間部に前記シートバックの幅方向に延びる脆弱部が設けられ、前記脆弱部が前記シートバックフレームに対して上下方向に相対移動するように前記シートバックフレームに対して相対移動可能とされた前方被覆部材と、
前記前方被覆部材を前記シートバックフレームに対して前記相対移動させる移動手段と、
を有する車両用シート。
【請求項2】
前記脆弱部は、前記シートバックの幅方向に延びる溝が前記前方被覆部材に形成されることで前記前方被覆部材に設けられた薄肉部とされていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記脆弱部は、前記前方被覆部材の上下方向に並んで複数設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記前方被覆部材に対して前記シートバックの幅方向両側に設けられ、前記シートバックフレームの側部を覆うと共に、前記前方被覆部材よりも前記シートバックの前方側へ突出した側方被覆部材を有することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記移動手段は、前記前方被覆部材の上下両端部のうちの一方を自らを介して前記シートバックフレームに連結した弾性部材と、前記前方被覆部材の上下両端部のうちの他方に連結され、前記弾性部材が伸びる方向へ前記前方被覆部材を駆動する駆動装置とを有することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記駆動装置は、前記シートバックフレームに対して回動可能に支持されると共に、前記前方被覆部材の上下両端部のうちの他方に連結された回動部材と、前記回動部材を前記シートバックフレームに対して回動させる駆動源とを有することを特徴とする請求項5に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記前方被覆部材の表面を覆う表皮を有すると共に、前記表皮は、前記脆弱部に対向する部分が局所的に変形することを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−195419(P2009−195419A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39313(P2008−39313)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】