説明

車両用ディスクブレーキ

【課題】制動解除時の摩擦パッドをパッド戻しスプリングにより良好に引き戻すことができる車両用ディスクブレーキを提供する。
【解決手段】ディスクロータ2の両側部に配置された一対の摩擦パッド6のディスク半径方向外側に、制動解除時に摩擦パッド6を反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリング7を懸架する。パッド戻しスプリング7は、一対の摩擦パッド6のディスク半径方向外側にそれぞれ開口する係合孔6dに係合する一対の摩擦パッド係合部7cと、一対の摩擦パッド係合部7cを連結するとともに、一対の摩擦パッド6をディスクロータの両側部に配置した状態で両摩擦パッド係合部7cを離間させる方向の弾発力を備えたスプリング部7bとを有する。係合孔6dは、摩擦パッド6のディスク半径方向中間部までの深さを有し、摩擦パッド係合部7cは、係合孔6dの開口側から底部側まで延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自動二・三輪車等の走行車両に搭載される車両用ディスクブレーキに関し、詳しくは、制動解除時に摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを備えた車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ディスクブレーキでは、ディスクロータの両側部に配置された一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に、制動解除時に前記一対の摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを懸架したものがある。パッド戻しスプリングとしては、線ばねを略V字状に折り返して形成した折返し部と、該折返し部から互いに離間する方向に延出する一対のスプリング部と、該スプリング部の先端から摩擦パッド側に突出する摩擦パッド係合部とを備え、該摩擦パッド係合部を、前記一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に開口する係合孔にそれぞれ装着し、前記折返し部を前記一対の摩擦パッド間のディスクロータ外周側に配置したものがあった(例えば、特許文献1又は2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−145089号公報
【特許文献2】実開平5−50175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1,2のものでは、制動解除時に、パッド戻しスプリングの摩擦パッド係合部が、摩擦パッドのディスク半径方向外側の係合孔に係合しているので、摩擦パッドのディスク半径方向外側は、ディスクロータから引き戻されるものの、摩擦パッド係合部から離れている摩擦パッドのディスク半径方向内側はディスクロータから充分に引き戻されず、摩擦パッドのディスク半径方向内側がディスクロータに引き摺られる虞があった。
【0005】
そこで本発明は、制動解除時の摩擦パッドをパッド戻しスプリングにより良好に引き戻すことができる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキは、ディスクロータの両側部に配置された一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に、制動解除時に前記一対の摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを懸架した車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッド戻しスプリングは、前記一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側にそれぞれ開口する係合孔に係合する一対の摩擦パッド係合部と、該一対の摩擦パッド係合部を連結するとともに、前記一対の摩擦パッドをディスクロータの両側部に配置した状態で両摩擦パッド係合部を離間させる方向の弾発力を備えたスプリング部とを有し、前記係合孔は、前記摩擦パッドのディスク半径方向中間部までの深さを有し、前記摩擦パッド係合部は、前記係合孔の開口側から底部側まで延びていることを特徴としている。
【0007】
また、前記係合孔は、前記摩擦パッドの重心位置に対応する深さを有するものでも良い。さらに、前記係合孔は、前記開口側に前記摩擦パッド係合部の外形状より大きな内径を有する大径部を、前記底部側に前記摩擦パッド係合部の先端部が係合する小径部を備えた段付き形状に形成されていると好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用ディスクブレーキによれば、摩擦パッドは、該摩擦パッドのディスク半径方向中間部まで、パッド戻しスプリングの摩擦パッド係合部を挿入したことにより、制動解除時に、パッド戻しスプリングによって、摩擦パッドがディスクロータの側面と平行な状態を極力保ちながら、反ディスクロータ側に引き戻されることから、摩擦パッドがディスクロータに引き摺られることを防止できる。
【0009】
また、係合孔は、摩擦パッドのディスク半径方向中間部にある重心位置に対応する深さとすることにより、制動解除時に摩擦パッドをディスクロータから引き戻す際に、摩擦パッド全体をより良好に引き戻すことができる。
【0010】
さらに、係合孔は、開口側に大径部、底部側に小径部をそれぞれ備え、摩擦パッド係合部の先端側が小径部に係止され、摩擦パッド係合部の基端側と大径部との間には隙間が形成されることにより、摩擦パッドを引き戻す際に、大径部の開口部に摩擦パッド係合部が当接することがなく、スプリング部の戻し力を摩擦パッドのディスク半径方向中間部に確実に伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの要部拡大断面図である。
【図2】同じく車両用ディスクブレーキの一部切欠き平面図である。
【図3】図5のIII-III断面図である。
【図4】同じく車両用ディスクブレーキの一部断面背面図である。
【図5】同じく車両用ディスクブレーキの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図5は本発明の車両用ディスクブレーキの一形態例を示す図で、矢印Aは車両前進時に前輪と一体に回転するディスクロータの回転方向であり、以下で述べるディスク回出側及びディスク回入側とは車両前進時におけるものとする。
【0013】
この車両用ディスクブレーキ1は、車輪と一体に回転するディスクロータ2と該ディスクロータ2の一側部で車体に固設されるキャリパブラケット3と、該キャリパブラケット3のキャリパ支持腕3a,3aに、一対のスライドピン4,4を介してディスク軸方向へ移動可能に支持されるキャリパボディ5と、該キャリパボディ5の作用部5aと反作用部5bとの内側で、ディスクロータ2を挟んで対向配置される一対の摩擦パッド6,6とからなっており、摩擦パッド6,6には、制動解除時に摩擦パッド6,6を反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリング7が懸架されている。
【0014】
キャリパボディ5は、ディスクロータ2の両側に配設される上述の作用部5a及び反作用部5bと、これらをディスクロータ2の外縁を跨いで連結するブリッジ部5cとからなっていて、作用部5aには、ディスクロータ2側を開口したシリンダ孔8が設けられている。シリンダ孔8には、有底円筒状のピストン9が収容され、ピストン9は、シリンダ孔底部の液圧室10に供給される圧液によって、シリンダ孔8をディスクロータ方向へ移動するようになっている。また、作用部5aの側部には、スライドピン取付け腕5d,5dが突設されており、各スライドピン取付け腕5dの先端には、それぞれ上述のスライドピン4が、取付けボルトにて突設されている。
【0015】
シリンダ孔8の内周面には、軸方向中間部に環状のピストンシール装着溝8aが周設されるとともに、該ピストンシール装着溝8aよりもシリンダ孔開口側に環状のダストシール装着溝8bが周設されている。ピストンシール装着溝8aには、ピストン9の外周面に液密かつ移動可能に摺接するとともに、その復元力でピストンをロールバックさせるピストンシール11が嵌着されており、ダストシール装着溝8bには、ピストン9の外周面に移動可能に摺接してシリンダ孔内への塵埃の侵入を防止するダストシール12が嵌着されている。
【0016】
キャリパ支持腕3a,3aは、キャリパブラケット3の両側部から、ブリッジ部5cの両側を挟みながらディスクロータ2の外縁をディスク軸方向に跨ぎ、さらにディスクロータ2の他側部で、反作用部5bの側壁に沿ってディスク中心方向へ延びる形状となっている。キャリパ支持腕3a,3aの先端部は、タイロッド3bにて連結されていて、制動トルクのかかる両支持腕3a,3aの剛性力を高めている。
【0017】
各キャリパ支持腕3aには、上述のスライドピン4を収容するガイド孔3cが穿設され、また双方のキャリパ支持腕3a,3aには、ディスクロータ2のそれぞれの側部で互いに向き合う4つのパッドガイド部3dが設けられている。ディスクロータ2の側面で互いに向き合う一対のパッドガイド部3dには、互いに対向するトルク受け面3eを備えた断面コ字状に形成されている。また、パッドガイド部3dのディスク半径方向外側には、パッドリテーナ13を取り付けるパッドリテーナ取付部3fが設けられている。
【0018】
各摩擦パッド6は、裏板6aの両側部に耳片6b,6bが突設され、また、裏板6aの一側面にはライニング6cが貼着され、耳片6b,6bがディスク回入側と回出側のパッドガイド部3d,3dに、それぞれパッドリテーナ13を介して支承される。裏板6aは、ディスク半径方向外側のディスク周方向の幅寸法が、ディスク半径方向内側のディスク周方向の幅寸法よりも短い略扇型に形成されており、裏板6aのディスク回入側のディスク半径方向外側には、ディスク半径方向外側に開口するパッド戻しスプリング7の係合孔6dが形成されている。
【0019】
パッド戻しスプリング7は、線ばねを折曲して形成され、該線ばねの中央部を円弧状に折り返した折返し部7aと、該折返し部7aの両端部から互いに離間し、ディスクロータ2の外周に沿って延出する一対のスプリング部7b,7bと、各スプリング部7bの先端から、ディスクロータ2の中心側に突出する摩擦パッド係合部7cとを備えた略V字状に形成されている。摩擦パッド係合部7cは、スプリング部7bに対して略直角に折曲され、係合孔6dの開口側から底部側まで延びている。パッド戻しスプリング7は、摩擦パッド係合部7c,7cが、摩擦パッド6,6の係合孔6d,6dに挿入され、折返し部7aが、摩擦パッド6,6間のディスクロータ外周側とブリッジ部5cとの間に配置される。
【0020】
係合孔6dは、開口側に摩擦パッド係合部7cの外形状より大きな内径を有する大径部6eを、底部側に摩擦パッド係合部7cの先端部が係合する小径部6fを備えた段付き形状に形成されると共に、摩擦パッド6の重心G1に対応する深さを有し、開口側から底部側に向けて、ディスクロータ2の中心方向に向かって傾けて形成されている。さらに、このように形成された係合孔6dは、ディスク回入側の耳片6bの近傍に配置されると共に、耳片6bのディスク半径方向略2/3の深さに到達する深さを有している。また、パッドリテーナ13は、前記パッドリテーナ取付部3fに取り付けられる取付部13aと、パッドガイド部3dに配置されるリテーナ部13bとを備えている。
【0021】
上述のように形成された車両用ディスクブレーキ1は、運転者の制動操作によって、昇圧した作動液が液圧室10に供給されると、ピストン9がシリンダ孔8を前進して、作用部5a側の摩擦パッド6を、矢印A方向に回転するディスクロータ2側に押圧する。作用部側の摩擦パッド6は、各耳片6b,6bがパッドリテーナ13,13に案内されながら、パッドガイド溝3d,3dをディスクロータ2側に移動し、ライニング6cをディスクロータ2の一側面に摺接させる。次にこの反力によって、キャリパボディ5がスライドピン4,4に案内されながら、作用部5a方向へ移動し、反作用部5b側に設けられた反力爪5eが反作用部5b側の摩擦パッド6を、ディスクロータ2の他側面側へ押圧する。反作用部側の摩擦パッド6は、各耳片6b,6bがパッドリテーナ13,13に案内されながら、パッドガイド溝3d,3dをディスクロータ2側に移動し、ライニング6cをディスクロータ2の他側面に摺接させる。このとき、パッド戻しスプリング7は、摩擦パッド6,6のディスクロータ2側への移動に伴って、折返し部7aとスプリング部7b,7bとが弾性変形し、スプリング部7b,7bが互いに近付いた状態となる。
【0022】
一方、上述の制動操作を解除して、ピストン9がピストンシール11の復元力でロールバックし、ピストン9と反力爪5eとが制動開始前の位置へ後退すると、パッド戻しスプリング7の復元力により、スプリング部7b,7bが折返し部7aを中心に、互いに離間した初期状態に復帰し、これに伴って、摩擦パッド係合部7c,7cが、係合孔6d,6dの小径部6f,6fを介して、双方の摩擦パッド6,6の重心G1に対応する位置を反ディスクロータ2側へ押圧する。摩擦パッド6,6は、各耳片6b,6bがパッドリテーナ13,13に案内されながら、パッドガイド溝3d,3dを反ディスクロータ2側に移動して引き戻され、ライニング6c,6cがディスクロータ2の側面から離間する。このとき、摩擦パッド係合部7c,7cは、摩擦パッド6,6のディスク半径方向中間部で、摩擦パッド6,6の重心G1に対応する深さの小径部6f,6fに摩擦パッド係合部7c,7cが係合していることから、摩擦パッド6,6を、ディスクロータ2の側面と平行な状態に極力保ちながら、反ディスクロータ側に引き戻すことができる。これにより、摩擦パッド6,6のライニング6c,6cは、良好な状態でディスクロータ2から離間することができ、摩擦パッド6,6の引き摺りを抑制することができる。さらに、摩擦パッド係合部7cの基端側と係合孔6dの大径部6eとの間には隙間が形成されていることから、摩擦パッド6を引き戻す際に、大径部6eの開口側に摩擦パッド係合部7cが当接することがなく、スプリング部7bの戻し力を摩擦パッド6の重心G1に対応する深さ位置に確実に伝えることができる。また、摩擦パッド係合部7cは、ディスク回入側の耳片6bの近傍に配置されると共に、耳片6bのディスク半径方向略2/3の深さに到達する深さに位置していることから、制動解除時に、スライドする耳片6bの近傍を反ディスクロータ側に押圧することができ、摩擦パッド6を反ディスクロータ側に安定した状態でスライドさせることができる。
【0023】
尚、本発明は上述の形態例に限るものではなく、摩擦パッドに形成する係合孔は、ディスク半径方向中間部までの深さを備えていれば良く、摩擦パッドの重心位置に対応する深さでなくても良い。また、摩擦パッドのディスク回出側にも係合孔を形成し、ディスク回出側にもパッド戻しスプリングを配置するようにしても良く、ディスク回出側にのみパッド戻しスプリングを配置するものでも良い。さらに、ピストンは複数あっても良く、ピストン対向型のディスクブレーキにも適用でき、さらに摩擦パッドをハンガーピンで吊り下げるタイプのディスクブレーキにも適用できる。摩擦パッドに形成する係合孔は、ディスクブレーキのタイプや摩擦パッドの形状に応じ、摩擦パッドを傾くことなく引き戻せる位置に適宜形成すれば良く、折返し片が係合片よりも、摩擦パッドのディスク回転方向外側に配置されるものでも良い。また、係合孔の大径部は、円筒状でなくても、パッド戻しスプリングが接触しない形状であれば、どのような形状でも良い。さらに、パッド戻しスプリングは、U字状に形成されたものでも良い。
【符号の説明】
【0024】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパブラケット、3a…キャリパ支持腕、3b…タイロッド、3c…ガイド孔、3d…パッドガイド部、3e…トルク受け面、3f…パッドリテーナ取付部、4…スライドピン、5…キャリパボディ、5a…作用部、5b…反作用部、5c…ブリッジ部、5d…スライドピン取付け腕、5e…反力爪、6…摩擦パッド、6a…裏板、6b…耳片、6c…ライニング、6d…係合孔、6e…大径部、6f…小径部、7…パッド戻しスプリング、7a…折返し部、7b…スプリング部、7c…摩擦パッド係合部、8…シリンダ孔、8a…ピストンシール装着溝、8b…ダストシール装着溝、9…ピストン、10…液圧室、11…ピストンシール、12…ダストシール、13…パッドリテーナ、13a…取付部、13b…リテーナ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの両側部に配置された一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に、制動解除時に前記一対の摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを懸架した車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッド戻しスプリングは、前記一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側にそれぞれ開口する係合孔に係合する一対の摩擦パッド係合部と、該一対の摩擦パッド係合部を連結するとともに、前記一対の摩擦パッドをディスクロータの両側部に配置した状態で両摩擦パッド係合部を離間させる方向の弾発力を備えたスプリング部とを有し、前記係合孔は、前記摩擦パッドのディスク半径方向中間部までの深さを有し、前記摩擦パッド係合部は、前記係合孔の開口側から底部側まで延びていることを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記係合孔は、前記摩擦パッドの重心位置に対応する深さを有することを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記係合孔は、前記開口側に前記摩擦パッド係合部の外形状より大きな内径を有する大径部を、前記底部側に前記摩擦パッド係合部の先端部が係合する小径部を備えた段付き形状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202494(P2012−202494A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68166(P2011−68166)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】