説明

車両用ドアラッチ装置及び該ドアラッチ装置を備えている車両用ドア

【課題】電気駆動源の駆動による切替作動がエマージェンシー操作部材に伝達されないようにして、ロックレバーを円滑にロック位置及びアンロック位置に作動させる。
【解決手段】エマージェンシー操作部材23は、第2ケーシング9の開口部91に合致する位置に車内外方向を向く軸線回りに回動可能に支持されロックレバー19をアンロック位置からロック位置へ移動させるようにロックレバー19へ回転力を伝達可能で、かつロックレバー19のロック位置からアンロック位置及びその逆への移動が伝達されないように、ロックレバー19に連結される。そして、エマージェンシー操作部材23には、開口部91から露呈し所定のツールが回転方向へ係合可能な係合部232が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気系統の故障等によって電気駆動源によりロック状態にすることができなくなった場合、所定のツールを用いてロック状態に操作することができるようにした車両用ドアラッチ装置及び該ドアラッチ装置を備えている車両用ドアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ドアラッチ装置においては、電気駆動源の駆動によりロックレバーをロック位置に移動させてドアのオープン操作を可能な状態とするアンロック状態及びロックレバーをアンロック位置に移動させてドアのオープン操作を不能な状態とするロック状態に切り替えることができる。
【0003】
一方、ロックレバーに機械的に連結されるキーシリンダ及びロックノブが設けられていない助手席側のドアにおいては、バッテリー上がり等の電気系統の故障によって電気駆動源の駆動が不能になると、ロックレバーをロック位置に移動させる手立てがなくなる。そのため、運転者が車両から離れたとき、他人がドアを自由に開けて車内に侵入することができ、防盗性の観点から好ましくない。
【0004】
上述の問題解消を図ったものとしては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがある。この特許文献1に記載された発明は、電気駆動源によってロックレバーのロック位置への切替操作が不能になった場合、ドアを開けた状態で、キープレートやドライバー等のツールを用いて、ドアラッチ装置のハウジングに設けた開口部から露呈するエマージェンシー操作部材を回転させることで、ロックレバーのアンロック位置からロック位置への切替操作を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−57320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の特許文献1に記載された車両用ドアラッチ装置においては、電気駆動源の駆動によりロックレバーをロック位置及びアンロック位置へ作動させる際、その電気駆動源による切替操作には何ら関係のないエマージェンシー操作部材も連動して回動してしまうため、作動音が大きくなると共に、ロックレバーをロック位置及びアンロック位置に円滑に作動させるための阻害要因となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、電気駆動源の駆動による切替作動がエマージェンシー操作部材に伝達されないようにして、ロックレバーを円滑にロック位置及びアンロック位置に作動させることができるようにした車両用ドアラッチ装置及び該ドアラッチ装置を備えている車両用ドアを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題を解決するために第1の発明における技術的手段は、第1のドアのアウタパネルの内面に対向する第1ケーシングと、前記第1ケーシングに取り付けられると共に、前記第1のドアのインナパネルの内面に対向する部位に所定のツールが挿入可能な円形の開口部を有する第2ケーシングと、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングの間の収容空間に設けられる電気駆動源と、前記収容空間に設けられ、前記電気駆動源の駆動により車体側のストライカと係脱可能な噛合ユニットの係合状態を解除可能とするアンロック位置及び解除不能とするロック位置に移動可能なロックレバーと、前記収容空間における前記開口部に合致する位置に車内外方向を向く軸線回りに回動可能に支持され前記ロックレバーをアンロック位置からロック位置へ移動させるように前記ロックレバーへ回転力を伝達可能で、かつ前記ロックレバーのロック位置からアンロック位置及びその逆への移動が伝達されないように、前記ロックレバーに連結されると共に、前記開口部から露呈する回転面に前記所定のツールが回転方向へ係合可能な係合部を有するエマージェンシー操作部材とを備えるものとする。
【0009】
さらに第2の発明は、前記係合部を、前記所定のツールの先端が係合可能な溝とする。
【0010】
さらに第3の発明は、前記収容空間には、さらに他の第2のドアのアウタパネルに設けられるロック、アンロック操作用のキーシリンダに連結可能なキーレバーが車内外方向の軸線回りに回動可能に支持され、前記エマージェンシー操作部材は、その軸線と前記キーレバーの軸線とが所定の角度に交わるように、前記キーレバーの回転軸に連結されるものとする。
【0011】
さらに第4の発明は、第1〜3の発明のいずれか1つに記載の車両用ドアラッチ装置を備え、前記第1ドアのインナパネルは、前記第2ケーシングの開口部と重合するエマージェンシー用操作孔を有するものとする。
【0012】
さらに第5の発明は、第4の発明において、前記第1のドアが閉鎖状態にあるとき、前記エマージェンシー用操作孔は、前記第1のドアと車体との間に隠蔽されるものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、所定のツールをもってエマージェンシー操作部材を回動させることにより、ロックレバーをアンロック位置からロック位置へ簡単に作動させることができる。
さらには、電気駆動源の駆動によりロックレバーをロック位置及びアンロック位置に作動させる際、エマージェンシー操作部材がロックレバーの作動に連動しないため、電気駆動源の駆動によりロックレバーをロック位置及びアンロック位置に円滑に作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係わるドアの車内側側面図である。
【図2】図1における矢示A部の拡大図である。
【図3】図2におけるIII−III線拡大縦断面図である。
【図4】図2におけるIV−IV線拡大横断面図である。
【図5】本発明に係わるドアラッチ装置の斜視図である。
【図6】同じくドアラッチ装置の正面図である。
【図7】同じくドアラッチ装置の車内側側面図である。
【図8】同じくドアラッチ装置の分解斜視図である。
【図9】ロック状態における操作ユニットの車内側側面図である。
【図10】アンロック状態における操作ユニットの車内側側面図である。
【図11】エマージェンシー操作時における操作ユニットの車内側側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、図1における左方を「前方」とし、右方を「後方」とし、図面奥側を「車外側」とし、図面手前側を「車内側」とする。
【0016】
図1〜図4に示すように、車体に開閉自在に支持されるドアDは、車外側を形成するアウタパネルD1と車内側を形成するインナパネルD2から構成され、アウタパネルD1には、車外からドアDを開けるときに操作されるアウトサイドハンドル10が設けられ、インナパネルD2には、車内からドアDを開けるときに操作されるインサイドハンドル12が設けられる。ドアラッチ装置1は、ドアD内におけるインナパネルD1の後端面に取り付けられる。
【0017】
本実施形態に係わるドアラッチ装置1が取り付けられるドアDは、助手席側のドア(本発明に係わる第1のドア)であって、アウタパネルD1には、車外からドアラッチ装置1をロック、アンロック状態にするときに操作されるキーシリンダは設けられていない。また、ドアDの車内側には、ロック、アンロック操作用のロックノブも設けられていない。
【0018】
なお、ドアラッチ装置1を運転席側のドア(本発明に係わる第2のドア)のようにアウタパネルにキーシリンダが設けられているドアに採用する場合には、ドアラッチ装置1における後述のキーレバー24は、例えば図3、4に2点鎖線で示すように、車内外方向の操作軸111を介してキーシリンダ11に連結される。
【0019】
ドアDにおけるインナパネルD2の後部車内側面には、図3に示すように、所定のツール、例えば、運転席側のドアのキーシリンダ11を操作するためのキープレート14またはドライバーが水平方向から挿入可能な円形のエマージェンシー用操作孔D21が設けられる。このエマージェンシー用操作孔D21は、キープレート14が挿入し得る程度の小さな孔であって、ドアDが閉状態にあるときには隠蔽され、ドアDが開状態にあるときのみ露出し、好ましくはインナパネルD2の車内側面に取り付けられるドアトリムが無いところに設けられる。
【0020】
主に図5〜図8に示すように、ドアラッチ装置1は、ドアDを閉鎖状態に拘束するための噛合ユニット2と、噛合ユニット2に取り付けられる操作ユニット3とを備える。
【0021】
噛合ユニット2は、複数のボルト4によりドアD内におけるインナパネルD2の後端面に固定されるボディ5と、ボディ5内に前後方向を向く軸61により枢着され車体側に固着されたストライカ(図示略)と係脱可能なラッチ6と、ボディ5内に前後方向を向く軸151により枢着されラッチ6に係脱可能なラチェット15と、ボディ5の前面にラチェット15と一体的に回動するように支持されるオープンレバー7とを有し、ドアDが閉じられると、車体側のストライカがボディ5内に進入してラッチ6に係合すると共に、ラチェット15がラッチ6に対してその開き方向への回動を阻止する方向に係合することによって、ドアDを閉鎖状態に拘束する。
【0022】
操作ユニット3は、ボディ5の前面に取り付けられアウタパネルD1の内面に対向する合成樹脂製の第1ケーシング8と、第1ケーシング8の車内側を向く開口を閉塞するように取り付けられインナパネルD2に対向する合成樹脂製の第2ケーシング9とを備え、第1ケーシング8と第2ケーシング9間の収容空間には、主な構成部品として、電気駆動源をなすモータ17、ウォームホイール18、ロックレバー19、第1、2リフトレバー20、21、インサイドレバー22、キーレバー24、サブキーレバー25、サブロックレバー26、アウトサイドレバー27及び緊急時に操作されるエマージェンシー操作部材23が設けられる。
【0023】
第1ケーシング8の最上部には、車内外方向を向く略円筒状の支持部81が形成される。第2ケーシング9には、支持部81に対向する車内外方向を向く円筒状の支持部92が設けられる。支持部92の車内側には、図3、4に示すように、インナパネルD2のエマージェンシ用操作孔D21に重合する円形の開口部91が設けられる。なお、本実施形態のドアラッチ装置1を運転席側のドアに採用する場合には、第1ケーシング8の支持部81は、図4に示すように、キーシリンダ11に対向するように配置される。
【0024】
図3、4に示すように、ドアラッチ装置1をドアD内に取り付けた状態において、第2ケーシング9における開口部91の周囲とインナパネルD2の内面におけるエマージェンシ用操作孔D21の周囲との間には、開口部91及びエマージェンシ用操作孔D21への雨水浸入を阻止するための環状のシール部材13が設けられる。
【0025】
ウォームホイール18は、第1ケーシング8に設けられた車内外方向を向く支軸84により枢支されるとともに、モータ17の回転軸に止着されたウォーム171に噛合することにより、モータ17の駆動により正逆転する。
【0026】
ウォームホイール18の一方の回転面には、第1係合突部181、182が設けられ、また、同じく反対側の他方の回転面には、第2係合突部183、184が設けられる。第1係合突部181、182及び第2係合突部183、184は、互いに同一形状で、かつウォームホイール18の両側面の対称位置に設けられる。
【0027】
ロックレバー19は、第1ケーシング8に設けられた車内外方向を向く支軸83により枢支され、モータ17の駆動及びエマージェンシー操作部材23の操作に基づいて、図9、11に示すロック位置と、ロック位置から時計方向へ所定角度回動した図10に示すアンロック位置とに回動可能であって、第1ケーシング8に支持されたばね28の付勢力によってロック位置及びアンロック位置に弾性保持される。
【0028】
ロックレバー19には、支軸83から遠心方向へ延出する第1、2係合アーム191、192が設けられる。第1係合アーム191は、ウォームホイール18の回転によって第1係合突部181、182に対して当接可能であり、また、第2係合アーム192は、第2係合突部183、184に対して当接可能である。
【0029】
サブロックレバー26は、第1ケーシング8に設けられた支軸82に回動可能に支持され、下部に設けられた長孔262にロックレバー19の上端部に設けられた突部(図示略)が係合されることにより、ロックレバー19の回動に同期して、図9、11に示すロック位置及び図10に示すアンロック位置に移動する。
【0030】
例えば、図9に示すように、ロックレバー19及びサブロックレバー26がロック位置にあるロック状態においては、ロックレバー19の第1係合アーム191は、ウォームホイール18の第1係合突部181、182の回動軌跡内に位置し、第2係合アーム192は、ウォームホイール18の第2係合突部183、184の回動軌跡外に位置する。このロック状態において、車内に設けられた操作スイッチまたは携帯用の操作スイッチがアンロック操作されると、モータ17の駆動によりウォームホイール18は、図9に示す位置から反時計方向へ回動する。これにより、第2係合突部182は、第1係合アーム191に当接してロックレバー19をロック位置からアンロック位置へ回動させる。そして、ロックレバー19及びサブロックレバー26がアンロック位置に回動すると、ウォームホイール18の第1係合突部182がロックレバー19の第1係合アーム191から外れ、第2係合突部183が第2係合アーム192の先端部に当接することにより、ウォームホイール18は停止する。
【0031】
また、例えば、図10に示すように、ロックレバー19及びサブロックレバー26がアンロック位置にあるアンロック状態においては、ロックレバー19の第1係合アーム191は、ウォームホイール18の第1係合突部181、182の回動軌跡外に位置し、第2係合アーム192は、ウォームホイール18の第2係合突部183、184の回動軌跡内に位置する。このアンロック状態において、操作スイッチがロック操作されると、モータ17の駆動によりウォームホイール18は、図10に示す位置から時計方向へ回動することにより、第2係合突部183が第2係合アーム192に当接してロックレバー19をアンロック位置からロック位置へ回動させる。そして、ロックレバー19がロック位置に回動すると、第2係合突部183がロックレバー19の第2係合アーム192から外れ、第1係合突部182が第1係合アーム191の先端部に当接することにより、ウォームホイール18は停止する。
【0032】
図9及び図10に示すようにロック状態及びアンロック状態のときには、ウォームホイール18の第1、2係合突部181〜184は、ロックレバー19における各係合アーム191、192の移動軌跡外に位置している。従って、エマージェンシー操作部材23の操作によって、ロックレバー19をロック位置からアンロック位置及びその逆へ回動させる際、ロックレバー19の第1、2係合アーム191、192が各係合突部181〜184に対して当接することはないので、ウォームホイール18及びモータ17を逆転させる抵抗を受けることなくロックレバー19を各位置へ軽力で回動させることができる。
【0033】
アウトサイドレバー27は、第1ケーシング8の下部に設けられた後方へ突出する支軸85に枢支されると共に、車内側を向く端部に設けられた作動端部271には、第1、2リフトレバー20、21の下部が所定角度前後方向へ揺動可能に連結され、また、同じく車外側の端部に設けられた車外連結部272には、上下方向を向く操作力伝達部材(図示略)を介してアウトサイドハンドル10に連結される。これにより、アウトサイドハンドル10がオープン操作されると、アウトサイドレバー27は、支軸85を中心に待機位置(例えば図6参照)から作動端部271が上方へ移動するオープン方向(図6において時計方向)へ所定角度回動する。
【0034】
インサイドレバー22は、第1ケーシング8に設けられた車内外方向を向く支軸86に枢支されると共に、下端部に設けられた連結部221には、インサイドハンドル12の操作力を伝達可能なケーブル等の操作力伝達部材29が連結される。これにより、インサイドハンドル12がオープン操作されると、インサイドレバー22は、例えば図9〜図11に示す待機位置からオープン方向(時計方向)へ所定角度回動する。
【0035】
インサイドレバー22には、オープン方向へ回動した際、アウトサイドレバー27に設けられた被解除当接部273に下方から当接可能な解除当接部222が設けられる。これにより、インサイドレバー22がインサイドハンドル12のオープン操作に基づいて待機位置からオープン方向へ回動すると、解除当接部222が被解除当接部273に下側から当接し、アウトサイドレバー27を待機位置からオープン方向へ回動させることができる。
【0036】
第1リフトレバー20は、下部に設けた鼓状の軸受孔202にアウトサイドレバー27の作動端部271が遊嵌されることによって作動端部271を中心に前後方向へ所定角度回動可能に支持される。
【0037】
第1リフトレバー20の側面には、上下方向の長溝201が設けられる。長溝201には、ロックレバー19の上端に設けられた突部193が上下方向へ摺動可能に係合される。
【0038】
ロックレバー19がロック位置からアンロック位置、またはその逆へ回動すると、第1リフトレバー20は、アウトサイドレバー27の作動端部271を中心に揺動して、ロックレバー19と共に図9に示すロック位置から図10に示すアンロック位置、またはその逆へ移動する。また、アウトサイドレバー27が待機位置からオープン方向へ回動すると、第1リフトレバー20は、ロックレバー19がロック位置にあるときにはロック位置からオープン方向(上方)へ移動し、また、ロックレバー19がアンロック位置にあるときにはアンロック位置からオープン方向(上方)へ移動する。
【0039】
第2リフトレバー21は、アウトサイドレバー27の作動端部271、すなわち第1リフトレバー20と同軸上に、第1リフトレバー20と第2リフトレバー21との間に作用するばね30の付勢力の範囲内で第1リフトレバー20と一体的に図9に示すロック位置及び図10に示すアンロック位置に移動可能に支持される。また、アウトサイドレバー27が待機位置からオープン方向へ回動したときには、第1リフトレバー20と共に第2リフトレバー21もオープン方向(上方)へ移動する。
【0040】
第2リフトレバー21には、オープンレバー7の被解除部71に下方から当接可能な解除部211が設けられる。これにより、ロックレバー19がアンロック位置にあるアンロック状態において、アウトサイドハンドル10またはインサイドハンドル12がオープン操作されて、アンロック位置にある第2リフトレバー21が第1リフトレバー20と共にオープン方向へ移動すると、解除部211がオープンレバー7の被解除部71に下方から当接してオープンレバー7を待機位置からオープン方向へ回動させて、ラチェット15をラッチ6から離脱させてドアDを開けることができる。しかし、ロックレバー19がロック位置にあるロック状態において、ロック位置にある第2リフトレバー21が第1リフトレバー20と共にオープン方向へ移動した場合には、解除部211が被解除部71に対して空振りしてオープンレバー7をオープン方向へ回動させることができないため、ドアDを開けることはできない。
【0041】
キーレバー24は、車内外方向を向く回動軸部242が第1ケーシング8の支持部81内に回動可能に支持されると共に、図9、10に示すニュートラル位置からロック方向(図9、10において時計方向)及びアンロック方向(図9、10において反時計方向)へ所定角度回動可能である。
【0042】
キーレバー24における回動軸部242の車内側の端面には、エマージェンシー操作部材23が連結される十字状の連結凹部243が設けられる。
【0043】
なお、本実施形態のドアラッチ装置1を運転席側のドアに採用した場合には、図3、4に示すように、キーレバー24は、回動軸部242の車外側端部に操作軸111を介してキーシリンダ11が連結されることによって、キーシリンダ11のロック操作に基づいて、図9、10に示すニュートラル位置からロック方向(反時計方向)へ所定角度回動し、また同じくアンロック操作に基づいて、ニュートラル位置からアンロック方向(時計方向)へ所定角度回動する。
【0044】
エマージェンシー操作部材23は、回転軸線が車内外方向を向くように、第2ケーシング9の支持部92内に回動自在に支持されると共に、車外側を向く回転面、すなわちキーレバー24の連結凹部243に対向する端面には、連結凹部243に遊嵌する十字状の連結凸部231が設けられる。これにより、エマージェンシー操作部材23とキーレバー24とは、互いに一体的に回動するように連結される。
【0045】
また、キーレバー24の連結凹部243とエマージェンシー操作部材23の連結凸部231とを互いに遊嵌することによって、図3に示すように、キーレバー24の回転軸線とエマージェンシー操作部材23の回転軸線が互いにある角度に交わるような関係にあっても、エマージェンシー操作部材23の回転力をキーレバー24の回動軸部242に確実に伝達することができる。これにより、本実施形態のドアラッチ装置1を運転席側のドアに採用した場合にあっても、キーレバー14の回転軸線とキーシリンダ11の回転軸線とを一致させることができる。
【0046】
エマージェンシー操作部材23の車内側を向く回転面、すなわち第2ケーシング9の開口部91を通してインナパネルD2のエマージェンシー用操作孔D21から覗く端面には、キープレート24の先端部を回転方向へ係合可能な直線溝の係合部232が設けられる。
【0047】
サブキーレバー25は、サブロックレバー26と同軸上に回動可能に支持されると共に、上部に設けた上下方向の長孔251がキーレバー24の下端部に設けられた突部241に係合されることにより、キーレバー24を介してエマージェンシー操作部材23と共にニュートラル位置からロック方向及びアンロック方向へ回動することができる。
【0048】
サブキーレバー25には、回転方向へ互いに離間する当接部252、253が設けられる。また、ロックレバー19と一体的に回動するサブロックレバー26には、当接部252、253間にあって、ロックレバー19のロック位置とアンロック位置間の作動ストロークに相当する遊びを介して当接部252、253に当接可能な突部261が設けられる。
【0049】
上述により、サブキーレバー25がニュートラル位置に停止しているときには、モータ17の駆動によりロックレバー19がロック位置からアンロック位置及びその逆へ回動し、その回動に同期してサブロックレバー26が回動しても、突部261は当接部252、253に対して当接しないため、サブロックレバー26の回動は、サブキーレバー25へ伝達されない。よって、ロックレバー19がモータ17の駆動によりロック位置からアンロック位置及びその逆へ回動しても、その回動は、ニュートラル位置にあるエマージェンシー操作部材23に伝達されない。
【0050】
また、図11に示すように、サブキーレバー25がエマージェンシー操作部材23の回動に同期してニュートラル位置からロック方向へ回動した場合には、サブキーレバー25の当接部253がサブロックレバー26の突部261に当接することにより、サブロックレバー26をロック位置へ回動させてロックレバー19をロック位置へ移動させることができる。また、同じくニュートラル位置からアンロック方向へ回動した場合には、サブキーレバー25の当接部252がサブロックレバー26の突部261に当接することにより、サブロックレバー26をアンロック位置へ回動させてロックレバー19をアンロック位置に移動させることができる。
【0051】
上述により、例えば、バッテリー上がり等の電気系統の故障により、モータ17の駆動が不能になり、モータ17によりロックレバーをアンロック位置からロック位置へ作動させることが不能になった場合には、ドアDを開けた状態で、キープレート14をインナーパネルD1のエマージェンシー用操作孔D21及び第2ケーシング9の開口部91に挿入してエマージェンシー操作部材23の係合部232に係合して、エマージェンシ操作部材23を図10に示すニュートラル位置からロック方向へ回動させる。エマージェンシー操作部材23の回転力は、キーレバー23、サブキーレバー25、サブロックレバー26を介してロックレバー19に伝達され、ロックレバー19、第1、2リフトレバー20、21をアンロック位置からロック位置に移動させてロック状態とすることができる。そして、ロック状態にした後、エマージェンシー操作部材23をニュートラル位置に戻した状態でキープレート14を抜き、ロック状態を保ったままドアDを閉じる。これにより、運転者は、ドアラッチ装置1をロック状態にして車から離れることができる。
【0052】
なお、ドアDが閉鎖状態にあるときは、インナパネルD2のエマージェンシー用操作孔D21は、ドアDと車体との間に隠蔽されるため、エマージェンシー用操作孔D21に不正具を挿入することはできない。よって、許可されない人物は、運転者が車から離れている最中、車内に侵入することはできない。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、本実施形態に対して、次のような種々の変形や変更を施すことが可能である。
(a)エマージェンシー操作部材23をニュートラル位置からアンロック方向及びロック方向へ回動可能な構成に代えて、ロックレバー19をアンロック位置からロック位置へ移動させることができるように、エマージェンシー操作部材23をニュートラル位置からロック方向へのみ回動可能な構成とする。
(b)エマージェンシー操作部材23とキーレバー24とを一体的に形成する。
(c)サブキーレバー25及び/またはサブロックレバー26を省略する。サブキーレバー25及びサブロックレバー26を省略した場合には、エマージェンシー操作部材23は、キーレバー24を介してロックレバー19に連結される。さらに、サブキーレバー25及びサブロックレバー26を省略した場合に加えて、エマージェンシー操作部材23とキーレバー24とを一体的に形成した場合には、エマージェンシー操作部材23はロックレバー19に直接連結される。
(d)エマージェンシー操作部材23に、ニュートラル位置に付勢するばねを設ける。
(e)運転席側のドアに採用する場合、第2ケーシング9の開口部91を閉塞する。
(f)キーシリンダ11が設けられていない助手席側のドアに採用する場合、第1ケーシング8の支持部81を閉塞する。またはキーレバー24の回動軸部242の車外側面端部に、キーシリンダ11の操作軸111が連結される連結部を形成しない。
【符号の説明】
【0054】
1 ドアラッチ装置
2 噛合ユニット
3 操作ユニット
4 ボルト
5 ボディ
6 ラッチ
7 オープンレバー
8 第1ケーシング
9 第2ケーシング
10 アウトサイドハンドル
11 キーシリンダ
12 インサイドハンドル
13 シール部材
14 キープレート(所定のツール)
15 ラチェット
17 モータ(電気駆動源)
18 ウォームホイール
19 ロックレバー
20 第1リフトレバー
21 第2リフトレバー
22 インサイドレバー
23 エマージェンシー操作部材
24 キーレバー
25 サブキーレバー
26 サブロックレバー
27 アウトサイドレバー
28 ばね
29 操作力伝達部材
30 ばね
61 軸
71 被解除部
81 支持部
82 支軸
83 支軸
84 支軸
85 支軸
86 支軸
91 開口部
92 支持部
111 操作軸
151 軸
171 ウォーム
181、182 第1係合突部
183、184 第2係合突部
191 第1係合アーム
192 第2係合アーム
193 突部
201 長溝
202 軸受孔
211 解除部
221 連結部
222 解除当接部
231 連結凸部
232 係合部
241 突部
242 回動軸部
243 連結凹部
251 長孔
252、253 当接部
261 突部
262 長孔
271 作動端部
272 車外側連結部
273 被解除操作部
D ドア
D1 アウタパネル
D2 インナパネル
D21 エマージェンシー用操作孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のドアのアウタパネルの内面に対向する第1ケーシングと、
前記第1ケーシングに取り付けられると共に、前記第1のドアのインナパネルの内面に対向する部位に所定のツールが挿入可能な円形の開口部を有する第2ケーシングと、
前記第1ケーシングと前記第2ケーシングの間の収容空間に設けられる電気駆動源と、
前記収容空間に設けられ、前記電気駆動源の駆動により車体側のストライカと係脱可能な噛合ユニットの係合状態を解除可能とするアンロック位置及び解除不能とするロック位置に移動可能なロックレバーと、
前記収容空間における前記開口部に合致する位置に車内外方向を向く軸線回りに回動可能に支持され前記ロックレバーをアンロック位置からロック位置へ移動させるように前記ロックレバーへ回転力を伝達可能で、かつ前記ロックレバーのロック位置からアンロック位置及びその逆への移動が伝達されないように、前記ロックレバーに連結されると共に、前記開口部から露呈する回転面に前記所定のツールが回転方向へ係合可能な係合部を有するエマージェンシー操作部材とを備えたことを特徴とする車両用ドアラッチ装置。
【請求項2】
前記係合部を、前記所定のツールの先端が係合可能な溝とすることを特徴とする請求項1記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項3】
前記収容空間には、さらに他の第2のドアのアウタパネルに設けられるロック、アンロック操作用のキーシリンダに連結可能なキーレバーが車内外方向の軸線回りに回動可能に支持され、
前記エマージェンシー操作部材は、その軸線と前記キーレバーの軸線とが所定の角度に交わるように、前記キーレバーの回転軸に連結されることを特徴とする請求項1または2記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用ドアラッチ装置を備え、前記第1ドアのインナパネルは、前記第2ケーシングの開口部と重合するエマージェンシー用操作孔を有することを特徴とする車両用ドア。
【請求項5】
前記第1のドアが閉鎖状態にあるとき、前記エマージェンシー用操作孔は、前記第1のドアと車体との間に隠蔽されることを特徴とする請求項4記載の車両用ドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−112241(P2012−112241A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52829(P2012−52829)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2010−51328(P2010−51328)の分割
【原出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000148896)三井金属アクト株式会社 (127)
【Fターム(参考)】