説明

車両用ドアラッチ装置

【課題】部品数を増加させることなく、パニック状態を回避する。
【解決手段】スプリング26は、ロックレバー17の突起部177に当接可能な山形状の脚部263を有し、突起部177が脚部263に当接することで、ロックレバー17に対してアンロック方向及びロック方向への付勢力を付与する。パニック状態の発生時には、ロックレバー17がデッドポイント位置を通過した後で、かつアンロック位置に到達する前に、オープンリンク18がオープンレバー11に回動不能な方向から当接する。この状態から操作力入力レバー23が初期位置へ移動すると、オープンリンク18がオープンレバー11から外れて、突起部177がスプリング26の脚部263に当接していることによって、ロックレバー17及びオープンリンク17がスプリング26の付勢力によりアンロック位置に移動可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パニック状態を回避可能な車両用ドアラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ドアラッチ装置において、ロック状態のとき、開操作とほぼ同時または開操作の直後にアンロック操作が行われたときに発生するパニック状態を回避可能としたものとして、例えば特許文献1〜3に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1に開示された車両用ドアラッチ装置は、アンロック位置とロック位置とに移動可能なロックレバーを、施解錠部材側に連結されるメインレバーと、当該メインレバーと同軸上で軸支されメインレバーに対して相対移動可能なサブレバーとに分割することによって、ロック状態のとき、開操作の直後にアンロック操作が行われて、オープンリンク(特許文献1においては、オープン部材)がオープンレバー(同じく、リフトレバー)を作動不可能な他方向に係合したパニック状態が発生した場合、メインレバーとサブレバー間に作用するスプリングの付勢力に抗して、メインレバーをアンロック位置に移動可能にするとともに、サブレバーをスプリングの付勢力によりメインレバーとの相対移動前の初期位置方向へ付勢するように構成される。
【0004】
特許文献2に開示された車両用ドアラッチ装置は、アンロック位置とロック位置とに移動可能なロックレバー(特許文献2においては、アクティブレバー)に、オープンリンクに設けられたガイドピンが遊動可能に嵌入しオープンリンクをロック位置の方向にのみ駆動可能なガイド孔を設けるとともに、オープンリンクをアンロック位置の方向へ押圧する押圧手段を設けることによって、パニック状態が発生した場合でも、ロックレバーのアンロック位置への移動を可能にしている。
【0005】
特許文献3に開示された車両用ドアラッチ装置は、パニック状態の発生時、ロックレバー(特許文献3においては、ノブレバー)が弾性部材(同じく、オーバーセンタースプリング)によってアンロック方向及びロック方向へのいずれにも付勢されないデッドポイント位置(同じく、死点)を通過した位置において、オープンリンク(同じく、サブレバー)がオープンレバーに当該オープンレバーを回動不能な方向から当接するようにすることによって、パニック状態を回避可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4196617号公報
【特許文献2】特開2009−127278号公報
【特許文献3】実公平5−3650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に開示された車両用ドアラッチ装置においては、ロックレバーを2分割する構成に加えて、2分割のレバー間に付勢力を作用させるスプリングを設ける構成であり、また、上記特許文献2に開示された車両用ドアラッチ装置は、オープンリンクをアンロック位置の方向へ押圧する押圧手段を設ける構成であるため、いずれも部品点数が多く装置が複雑化するとともに製造コストがアップする問題点を有している。また、特許文献3に開示された車両用ドアラッチ装置においては、特許文献1、2に比較して部品点数が少ない利点を有するが、弾性部材を、一端がロックレバーまた他端がベースプレートにそれぞれ掛止され、ロックレバーがデッドポイントを通過する際、コイル部分がロックレバーの回動方向に沿って大きく移動するタイプのオーバーセンタースプリングとしているため、ドアラッチ装置の大型化を招く問題を有する。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、部品数を増加させることなくパニック状態を回避可能にした車両用ドアラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の車両用ドアラッチ装置は、ストライカと係脱可能な噛合部と、前記噛合部と前記ストライカとの係合を解除可能なオープン方向へ回動可能なオープンレバーと、ドアに設けられる操作ハンドルの開操作に基づいてオープン方向へ回動可能な操作力入力レバーと、前記操作力入力レバーに連結され、前記操作力入力レバーの回動に基づいてオープン方向へ移動することにより前記オープンレバーをオープン方向へ回動可能なアンロック位置及び回動不能なロック位置に移動可能なオープンリンクと、前記オープンリンクが連結され、施解錠部材により前記オープンリンクをアンロック位置とするアンロック位置及び前記オープンリンクをロック位置とするロック位置に回動可能なロックレバーと、前記ロックレバーのロック位置とアンロック位置間に設定されたデッドポイント位置を境にして、前記ロックレバーに設けた突起部と当接することによって、前記ロックレバーがデッドポイント位置よりもロック位置寄りに位置するときには前記ロックレバーをロック位置に付勢し、また前記ロックレバーがデッドポイント位置よりもアンロック位置寄りに位置するときには前記ロックレバーをアンロック位置に付勢可能なスプリングとを備え、前記スプリングは、前記ロックレバーの前記突起部が当接可能な山形状の脚部を有し、前記オープンリンクが前記操作力入力レバーのオープン方向への回動に従動してロック位置からオープン方向へ移動した状態から、前記ロックレバーのアンロック方向への回動に伴って、前記オープンリンクがアンロック方向へ移動する際、前記ロックレバーが前記デッドポイント位置を通過した後で、かつアンロック位置に到達する前に、前記オープンリンクの当接部が、前記オープンレバーの被当接部に対して前記オープンレバーを回動不能な方向から当接することにより前記ロックレバー及び前記オープンリンクのアンロック方向への移動が阻止され、この状態から前記操作力入力レバーのオープン方向移動前の初期位置へ向かう移動に伴って前記オープンリンクが移動することによって、前記オープンリンクが前記オープンレバーから外れ、前記突起部が前記スプリングの前記脚部に当接していることによって、前記ロックレバー及び前記オープンリンクが前記スプリングの付勢力によりアンロック位置に移動可能とする。
【0010】
さらに、好適には、前記突起部を、前記ロックレバーの回転中心と前記施解錠部材に連結される操作力伝達部材が連結される連結部との間に配置する。
【0011】
さらに、好適には、前記スプリングを、コイル部と、当該コイル部から延出する前記脚部とを有するトーションスプリングとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、パニック状態の発生時、ロックレバーがデッドポイント位置を通過した後で、かつアンロック位置に到達する前に、オープンリンクの当接部が、オープンレバーの被当接部に対してオープンレバーを回動不能な方向から当接可能とすると共に、ロックレバーに付勢力を付与するためのスプリングを、ロックレバーの突起部が当接可能な山形状の脚部を有するものとしたことによって、部品数を増加させることなく、パニック状態を円滑に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わるドアラッチ装置の斜視図である。
【図2】同じくドアラッチ装置の分解斜視図である。
【図3】アンロック状態における操作ユニット及び噛合ユニットの車内側側面図である。
【図4】ロック状態における操作ユニット及び噛合ユニットの車内側側面図である。
【図5】空振り状態における操作ユニットの要部の車内側面図である。
【図6】パニック状態発生直前における操作ユニットの要部の車内側面図である。
【図7】パニック状態発生時における操作ユニットの要部の車内側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1、2に示すように、ドアラッチ装置1は、自動車のフロントドア(以下、ドアと記す)内の後端部に取り付けられると共に、ドアを閉鎖状態に保持するための噛合ユニット2と、噛合ユニット2に組み付けられる操作ユニット3とを備える。
【0015】
噛合ユニット2は、ドア内にボルト(図示略)により固定される合成樹脂製のボディ4と、ボディ4の後側(図1、2において右側)の開口を閉塞する金属製のカバープレート5と、ボディ4とカバープレート5間に前後方向を向くラッチ軸6により枢支されドアの閉鎖時に車体側に固着されたストライカ(図示略)と係合可能な噛合部をなすラッチ7と、ボディ4とカバープレート5間に前後方向を向くラチェット軸8により枢支されラッチ7に係脱可能な噛合部をなすラチェット9と、ボディ4の前面側に固定される金属製のバックプレート10と、ボディ4とバックプレート10間にラチェット9と同軸上に枢支されラチェット9と一体的に回動可能なオープンレバー11とを含む。
【0016】
オープンレバー11は、ラチェット9と同軸上でかつラチェット9と一体的に回動可能であって、回動端部には、車外側へ折曲された被解除部111が設けられている。
【0017】
ドアが閉じられると、ストライカは、ボディ4及びカバープレート5に設けられたストライカ進入溝41及び51内に車内側から進入してラッチ7に係合する。ラッチ7は、ラッチ軸6に巻装されたスプリング71の付勢力に抗してラッチ軸6を中心に回動するとともに、ラチェット9は、ラチェット9の下方に支持されたスプリング12の付勢力によりラッチ7に係合し、ラッチ7の回動を阻止してドアを閉鎖状態に保持する。
【0018】
ドアが閉鎖状態に保持されている場合には、ドアの車外側に設けられる操作ハンドルをなすアウトサイドハンドル(図示略)またはドアの車内側に設けられる操作ハンドルをなすインサイドハンドル(図示略)が開操作され、後述のようにオープンレバー11がオープン方向へ回動するとラチェット9がラッチ7から離脱してドアの開放を可能にする。
【0019】
図2〜4に示すように、操作ユニット3は、ボディ4の前面に固定される平面視ほぼL字状の合成樹脂製のケーシング13と、ケーシング13の車内側(図3において図面手前側)を向く開口を閉塞する合成樹脂製のカバー14と、ケーシング13とカバー14間に配置されるモータ15、ウォームホイール16、ロックレバー17、オープンリンク18、インサイドレバー19、内部キーレバー21及びプリント基板22と、ケーシング13とバックプレート10間に配置されるアウトサイドレバー23と、ケーシング13外に配置される外部キーレバー24とを備える。なお、図3、4は、噛合ユニット2及び操作ユニット3の内部構造を明示するため、ボディ4及びカバー14を省略している。
【0020】
なお、アウトサイドレバー23は、本発明における操作力入力レバーをなす。
【0021】
アウトサイドレバー23は、ケーシング13の下部に後方へ突出する軸部133に枢支されるとともに、車外側端部に設けられる車外連結部231に上下方向を向く操作力伝達部材(図示略)を介してアウトサイドハンドルに連結されるとともに、車内側端部232にオープンリンク18の下部が連結されることによって、アウトサイドハンドルの開操作に基づいて、軸部133の周りに配設されたスプリング27の付勢力に抗して、初期位置(車内側端部232が図3、4に示す位置にあるときの位置)からオープン方向(車内側端部232が上方へ移動する方向)へ所定角度回動する。さらに、アウトサイドレバー23における車内側端部232の下方には、インサイドレバー19に設けられる後述のオープン作用部191が当接可能な被オープン作用部233が設けられる。
【0022】
インサイドレバー19は、ケーシング13とカバー14間に車内外方向を向く軸部134に枢支され、下部の連結部192には、インサイドハンドルの操作力を伝達可能なケーブル等の操作力伝達部材28が連結され、インサイドハンドルの開操作に基づいて、初期位置(図3、4参照)からオープン方向(図3、4において時計方向)へ所定角度回動する。
【0023】
インサイドレバー19には、アウトサイドレバー23の被オープン作用部233に当接可能なオープン作用部191が設けられる。これにより、インサイドレバー19が初期位置からオープン方向へ回動すると、オープン作用部191が被オープン作用部233に下側から当接し、アウトサイドレバー23は初期位置からオープン方向へ回動する。
【0024】
外部キーレバー24は、車内外方向を向く軸部241がケーシング13の最下部に設けられた円筒部131に枢支されるとともに、レバー部242がドアの車外側に設けられるキーシリンダ(図示略)に上下方向のロッド(図示略)を介して連結されることにより、キーシリンダのロック操作に基づいて、中立位置(図示略)からロック方向(図3、4において時計方向へ)へ所定角度回動し、また同じくアンロック操作に基づいて、中立位置からアンロック方向(図3、4において反時計方向)へ所定角度回動する。
【0025】
内部キーレバー21は、車外側を向く軸部211がケーシング13の円筒部131で外部キーレバー24の軸部241に連結されることによって外部キーレバー24と一体回動する。内部キーレバー21には、軸部211を中心とする円弧状の長孔212が穿設される。
【0026】
ロックレバー17は、ケーシング13とカバー14間に車内外方向を向く軸部132により枢支され、キーシリンダの操作、ドアの車内側に設けられる施解錠部材をなすロックノブ(図示略)の操作及びモータ15の動力に基づいて、アンロック位置(図3参照)とアンロック位置から反時計方向へ所定角度回動したロック位置(図4参照)間を回動可能であって、ケーシング13に支持された弾性部材をなすスプリング26の付勢力によってアンロック位置及びロック位置に弾性保持される。なお、ケーシング13には、ロックレバー17をアンロック位置及びロック位置にそれぞれ停止させるためのストッパ(図示略)が設けられる。
【0027】
ロックレバー17の前方斜め下方へ延出する部分に設けられた連結部171には、ロックノブの操作力を入力するため、ロックノブに連結されたケーブル等により形成される操作力伝達部材25の端部が連結され、後方斜め下方に延出する部分の先端に設けられた突部172は、内部キーレバー21の長孔212に摺動可能に係合される。
【0028】
ロックレバー17には、上方へ延出する作動アーム部173と、当該作動アーム173の側面にあって、オープンリンク18の車外側を向く面に設けられた上下方向のガイド溝181に上下方向へ摺動可能に係合する係合突部174と、ロックレバー17の回転中心から遠心方向へ延出する第1、2係合アーム部175、176が設けられる。
【0029】
図3に示すように、ロックレバー17がアンロック位置にあるとき、キーシリンダがロック操作され内部キーレバー21が外部キーレバー24とともに中立位置からロック方向(図3において時計方向)へ回動すると、内部キーレバー21の長孔212の下端がロックレバー17の突部172の下面に当接することによって、ロックレバー17は、スプリング26の付勢力に抗してロック位置に移動する。また、図4に示すように、ロックレバー17がロック位置にあるとき、キーシリンダがロック操作されて内部キーレバー21が外部キーレバー24とともに中立位置からアンロック方向(図4において反時計方向)へ回動すると、長孔212の上端が突部172の上面に当接することによって、ロックレバー17は、スプリング26の付勢力に抗してアンロック位置に移動する。
【0030】
スプリング26は、トーションスプリングであって、ケーシング13の突起部136に支持されるコイル部261と、コイル部261から外方へ延出しケーシング13に係止される直線状の第1脚部262と、コイル部261から外方へ延出しロックレバー17の回転面に設けられた突起部177に当接可能なほぼへ字状(山形状)の第2脚部263とを有する。なお、ロックレバー17の突起部177は、図3〜7から理解できるように、オープンリンク18に連結される部分である作動アーム部173が延出する方向に対して反対方向(オープンリンク18が存在しない方向)へ延出するアーム部にあって、ロックレバー17の回転中心(軸部132)と連結部171(操作力伝達部材25の端部が連結される部分)とを結んだ線上、すなわち前記回転中心と連結部171との間に配置される。
【0031】
図3に示すようにロックレバー17がアンロック位置にあるときには、ロックレバー17の突起部177が第2脚部263における頂部263aよりもコイル部161寄り側の部分に当接することによって、第2脚部263は、ロックレバー17に対してアンロック方向(図3において時計方向)への付勢力を付与し、また、図4に示すようにロックレバー17がロック位置にあるときには、ロックレバー17の突起部177が第2脚部263における頂部263aよりも先端側の部分に当接することによって、第2脚部263は、ロックレバー17に対してロック方向(図4において反時計方向)への付勢力を付与する。さらに、ロックレバー17がアンロック位置からロック位置またはその逆へ移動する際、ロックレバー17がロック位置とアンロック位置間に設定されたデッドポイント位置(突起部177が第2脚部263の頂部263aに当接する位置)に達し突起部177が第2脚部263の頂部263aを乗り越えることによって、ロックレバー17に作用する付勢方向が、デッドポイント位置を境にロック方向からアンロック方向またはその逆方向へ転換する。なお、本実施形態においては、デッドポイント位置は、ロックレバー17のロック位置とアンロック位置間の中間位置よりもロック位置寄り側に設定される。
【0032】
ウォームホイール16は、ケーシング13とカバー14間に車内外方向を向く軸部135により枢支されるとともに、モータ15の回転軸に止着されたウォーム151に噛合することにより、モータ15の動力により正逆転する。
【0033】
ウォームホイール16の一方の回転面(カバー14に対向する面)には、ロックレバー17の第1係合アーム部175に当接可能な1対の第1係合突部161、161が設けられ、また、同じく一方の面と反対側の他方の回転面(ケーシング13に対向する面)には、第2係合アーム部176に当接可能な1対の第2係合突部(図示略)が設けられる。なお、第1係合突部161と2係合突部は、互いに同一形状で、かつ対称位置に設けられる。
【0034】
図3に示すように、ロックレバー17がアンロック位置にあるとき、車内に設けられた操作スイッチまたは携帯用の操作スイッチがロック操作されると、モータ15の回転によって、ウォームホイール16がロック方向(図3において時計方向)へ回動し、上側に位置している第1係合突部161が第1係合アーム部175に対してその回動方向に当接する。これにより、ロックレバー17は、ロック方向(図3において反時計方向)へ回動しロック位置に移動する。そして、第1係合突部161が第1係合アーム部175から外れ、第2係合突部が第2係合アーム部176の先端、すなわち第2係合アーム部176の回動方向ではない方向に当接し、ウォームホイール16は回転を停止する。
【0035】
また、図4に示すように、ロックレバー17がロック位置にあるとき、操作スイッチがアンロック操作されると、モータ15の回転によって、ウォームホイール16がアンロック方向(図4において反時計方向)へ回動し、下側に位置している第2係合突部が第2係合アーム部176に対してその回動方向に当接する。これにより、ロックレバー17は、アンロック方向(図4において時計方向)へ回動しアンロック位置に移動する。そして、第2係合突部が第2係合アーム部176から外れ、第1係合突部161が第1係合アーム部175の先端、すなわち第1係合アーム部175の回動方向ではない方向に当接し、ウォームホイール16は回転を停止する。
【0036】
プリント基板22は、ケーシング13におけるモータ15の上方に固定されるとともに、その後端部には、ロックレバー17の作動アーム部173の先端が接触したり離れたりすることによって、ロックレバー17のアンロック位置及びロック位置を検知可能な検出スイッチ221が設けられる。
【0037】
オープンリンク18は、下部に設けた鼓状の支持孔182がアウトサイドレバー23の車内側端部232に前後方向へ揺動可能に係合連結されるとともに、ガイド溝181にロックレバー17の係合突部174が摺動可能に係合されることにより、ロックレバー17のアンロック位置及びロック位置への移動に従動し車内側端部232を中心にアンロック位置(図3参照)及びロック位置(図4参照)に移動するとともに、アウトサイドレバー23のオープン方向への回動に基づいてオープン方向(上方)へ移動する。
【0038】
オープンリンク18の上下方向のほぼ中央後部には、オープンリンク18がアンロック位置からオープン方向へ移動した場合、オープンレバー11の被解除部111に下方(オープンレバー11の回動方向)から当接可能な解除部183が設けられる。
【0039】
オープンリンク18の解除部183は、オープンリンク18がアンロック位置にあるときには、図3に示すように被解除部111の真下に位置にし、また、ロック位置にあるときには、図4に示すように被解除部111の前方斜め下方に位置する。
【0040】
図3に示すように、ロックレバー17及びオープンリンク18がアンロック位置にあり、かつアウトサイドレバー23が初期位置にある状態において、アウトサイドレバー23がオープン方向へ回動しオープンリンク18がアンロック位置からオープン方向へ移動すると、解除部183がオープンレバー11の被解除部111に下方から当接する。これにより、オープンレバー11は、オープン方向へ回動し、ラチェット9がラッチ7から離脱してドアの開きを可能にする。
【0041】
また、図4に示すように、ロックレバー17及びオープンリンク18がロック位置にある状態においては、アウトサイドレバー23のオープン方向への回動に基づいて、オープンリンク18がロック位置からオープン方向へ移動しても、図5に示すように、解除部183は、オープンレバー11の被解除部111の前方を横切るように移動して被解除部111に対して空振りし、オープンレバー11をオープン方向へ回動させることができず、ドアを開けることはできない。
【0042】
次に、本発明に係わる実施形態におけるパニック状態時の動作を、図3〜図7に基づいて説明する。なお、以下の説明において、アンロック状態は、ロックレバー17及びオープンリンク18が共にアンロック位置にある状態とし、ロック状態は、ロックレバー17及びオープンリンク18が共にロック位置にある状態とする。
【0043】
図4に示すロック状態において、アウトサイドハンドルまたはインサイドハンドルの開操作に基づいて、アウトサイドレバー23が初期位置からオープン方向へ回動し車内側端部232が上方へ移動すると、図5に示すように、オープンリンク18は、ロック位置からオープン方向へ移動し、解除部183がオープンレバー11の被解除部111に当接することなく空振り状態のまま被解除部111の前方を移動する。この空振り状態においては、オープンリンク18における解除部183の後縁の当接部184とオープンレバー11における被解除部111の前端である被当接部112間には、若干の隙間gが生じる。
【0044】
なお、オープンリンク18の当接部184は、後方を向く平面により形成され、かつ特に図7から理解できるように、パニック状態において、平面が後斜め上方を向くように、オープンレバー11の回転軸線(図7において左右方向)に対して傾斜した状態で被当接部112に当接する。
【0045】
図5に示す空振り状態のとき、操作スイッチまたはロックノブがアンロック操作され、モータ15の動力により回動するウォームホイール16またはロックノブのアンロック操作により作動する操作力伝達部材25からロックレバー17にアンロック操作力が入力されると、ロックレバー17は、スプリング26の付勢力に抗してロック位置からアンロック方向へ回動する。
【0046】
そして、ロックレバー17がアンロック方向へ所定角度回動し、ロックレバー17の突起部177がスプリング26における第2脚部263の頂部263aに丁度当接する位置のデッドポイント位置(図6参照)を通過し、ロックレバー17に作用するスプリング26の付勢方向がロック方向からアンロック方向へ転換した直後、図7に示すように、オープンリンク18は、ロック位置から前記隙間gに相当する角度だけアンロック方向へ回動した位置で、かつアンロック位置に達する前に、当接部184がオープンレバー11の被当接部112に対してオープンレバー11を回動不能な方向から当接してオープンリンク18及びロックレバー17のアンロック方向への移動が阻止されるパニック状態が発生する。この場合、オープンリンク18の当接部184は、平面が後斜め上方を向くように傾斜した状態で、スプリング26に付勢力をもって、被当接部112の前面に当接するため、当接部184には下方への分力が作用する。この結果、オープンリンク18には、アウトサイドレバー23を初期位置へ戻す方向への力が作用する。
【0047】
図7に示すように、パニック状態が発生した場合には、ロックレバー17がロック位置からデッドポイント位置を通過した位置に停止し、スプリング26は、ロックレバー17の突起部177が第2脚部263における頂部263aよりもコイル部261寄り側の部分に当接していることによって、ロックレバー17を介してオープンリンク18に対してアンロック方向への付勢力を付与する。従って、アウトサイドハンドル(またはインサイドハンドル)の開操作を中断し、図3に示すように、アウトサイドレバー23を初期位置に戻しオープンリンク18の当接部184がオープンレバー11の被当接部112から外れると、オープンリンク18は、スプリング26のアンロック方向への付勢力により、停止位置からロックレバー17とともにアンロック位置へ移動する。
【0048】
また、パニック状態時には、スプリング26のアンロック方向への付勢力をもって、オープンリンク18の当接部184には、下方への分力が作用しているため、アウトサイドレバー23が初期位置に戻るときには、当接部184は被当接部112を円滑に摺動して下方へ移動する。この結果、オープンリンク18は、円滑かつ確実に下方へ移動して確実にアンロック位置に移動することができる。
【0049】
そして、アンロック状態に変位した後、再び、アウトサイドハンドル(またはインサイドハンドル)を開操作することによってドアを開けることができる。
【0050】
上述により、パニック状態が発生しても、アウトサイドハンドル(またはインサイドハンドル)の開操作を中断して、アウトサイドレバー23を初期位置に戻すことによって、スプリング26の付勢力をもって、ロックレバー17及びオープンリンク18をアンロック位置に移動させ、円滑かつ確実にアンロック状態とすることができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、本実施形態に対して、次のような種々の変形や変更を施すことが可能である。
【0052】
(a)施解錠部材をモータ15に代えて電磁式のソレノイドとする。この場合は、ソレノイドをロックレバー17に直接または間接的に連結することで、ウォームホイール16を省略することができる。
【0053】
(b)オープンリンク18の当接部184がオープンレバー11の被当接部112に当接した際、当接部184に対して下方への分力を作用させる構成において、前記実施形態に代えてまたは加えて、オープンレバー11の被当接部112に前方斜め下方に傾斜する平面を形成する。
【符号の説明】
【0054】
1 ドアラッチ装置
2 噛合ユニット
3 操作ユニット
4 ボディ
5 カバープレート
6 ラッチ軸
7 ラッチ(噛合部)
8 ラチェット軸
9 ラチェット(噛合部)
10 バックプレート
11 オープンレバー
12 スプリング
13 ケーシング
14 カバー
15 モータ(施解錠部材)
16 ウォームホイール
17 ロックレバー
18 オープンリンク
19 インサイドレバー
21 内部キーレバー
22 プリント基板
23 アウトサイドレバー(操作力入力レバー)
24 外部キーレバー
25 操作力伝達部材
26 スプリング(弾性部材)
27 スプリング
28 操作力伝達部材
41 ストライカ進入溝
51 ストライカ進入溝
71 スプリング
111 被解除部
112 被当接部
131 円筒部
132 軸部
133 軸部
134 軸部
135 軸部
136 突起部
151 ウォーム
161 第1係合突部
171 連結部
172 突部
173 作動アーム部
174 係合突部
175 第1係合アーム部
176 第2係合アーム部
177 突起部
181 ガイド溝
182 支持孔
183 解除部
184 当接部
191 オープン作用部
192 連結部
211 軸部
212 長孔
221 検出スイッチ
231 車外連結部
232 車内側端部
233 被オープン作用部
241 軸部
242 レバー部
261 コイル部
262 第1脚部
263 第2脚部
263a 頂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライカと係脱可能な噛合部と、
前記噛合部と前記ストライカとの係合を解除可能なオープン方向へ回動可能なオープンレバーと、
ドアに設けられる操作ハンドルの開操作に基づいてオープン方向へ回動可能な操作力入力レバーと、
前記操作力入力レバーに連結され、前記操作力入力レバーの回動に基づいてオープン方向へ移動することにより前記オープンレバーをオープン方向へ回動可能なアンロック位置及び回動不能なロック位置に移動可能なオープンリンクと、
前記オープンリンクが連結され、施解錠部材により前記オープンリンクをアンロック位置とするアンロック位置及び前記オープンリンクをロック位置とするロック位置に回動可能なロックレバーと、
前記ロックレバーのロック位置とアンロック位置間に設定されたデッドポイント位置を境にして、前記ロックレバーに設けた突起部と当接することによって、前記ロックレバーがデッドポイント位置よりもロック位置寄りに位置するときには前記ロックレバーをロック位置に付勢し、また前記ロックレバーがデッドポイント位置よりもアンロック位置寄りに位置するときには前記ロックレバーをアンロック位置に付勢可能なスプリングとを備え、
前記スプリングは、前記ロックレバーの前記突起部が当接可能な山形状の脚部を有し、
前記オープンリンクが前記操作力入力レバーのオープン方向への回動に従動してロック位置からオープン方向へ移動した状態から、前記ロックレバーのアンロック方向への回動に伴って、前記オープンリンクがアンロック方向へ移動する際、前記ロックレバーが前記デッドポイント位置を通過した後で、かつアンロック位置に到達する前に、前記オープンリンクの当接部が、前記オープンレバーの被当接部に対して前記オープンレバーを回動不能な方向から当接することにより前記ロックレバー及び前記オープンリンクのアンロック方向への移動が阻止され、この状態から前記操作力入力レバーのオープン方向移動前の初期位置へ向かう移動に伴って前記オープンリンクが移動することによって、前記オープンリンクが前記オープンレバーから外れ、前記突起部が前記スプリングの前記脚部に当接していることによって、前記ロックレバー及び前記オープンリンクが前記スプリングの付勢力によりアンロック位置に移動可能とした特徴とする車両用ドアラッチ装置。
【請求項2】
前記突起部を、前記ロックレバーの回転中心と前記施解錠部材に連結される操作力伝達部材が連結される連結部との間に配置したことを特徴とする請求項1記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項3】
前記スプリングは、コイル部と、当該コイル部から延出する前記脚部とを有するトーションスプリングであることを特徴とする請求項1または2記載の車両用ドアラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−100718(P2013−100718A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−32742(P2013−32742)
【出願日】平成25年2月22日(2013.2.22)
【分割の表示】特願2010−184926(P2010−184926)の分割
【原出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000148896)三井金属アクト株式会社 (127)
【Fターム(参考)】