説明

車両用ドライブシャフト

【課題】自在継手のブーツの外周面に滲出したグリスがそのブーツの周囲に飛散することを抑制することができる車両用ドライブシャフトを提供する。
【解決手段】差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24と、駆動輪22側に設けられるツェッパ型固定式等速自在継手26とを両端部に備える車両用ドライブシャフト10であって、自在継手24の第1ブーツ34および自在継手26の第2ブーツ36のうちの、設置箇所の環境温度Tが高い側の第1ブーツ34は、潤滑剤含有率が相対的に低くされていることから、その第1ブーツ34を透過してその第1ブーツ34の外周面に出てくる油の量が相対的に少なくされるので、第1ブーツ34の外周面に滲出した潤滑剤やグリスがその第1ブーツ34の周囲に飛散することを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドライブシャフトに係り、特に、その車両用ドライブシャフトが備える自在継手のブーツに関するものである。
【背景技術】
【0002】
差動歯車装置側に設けられる第1自在継手と、駆動輪側に設けられる第2自在継手とを両端部に備える車両用ドライブシャフトが知られている。従来一般に、第2自在継手には、例えば特許文献1および2に示すように耐屈曲疲労性に優れる例えば熱可塑性エラストマ樹脂等の樹脂材料から成るブーツが使用され、第1自在継手には、例えばクロロプレンゴム等の安価なゴム材料から成るブーツが使用されている。上記樹脂材料は潤滑剤が配合されたものが用いられる。このようにすることで、その潤滑剤がブーツ内部からブーツ外周面に少しずつ滲出してそのブーツ外周面に潤滑層を形成するため、ブーツの蛇腹部のうちの互いに隣接する山部同士が擦れ合うことで発生する異音を抑制することができる。なお、上記ブーツ外周面には、上記潤滑剤のみならず、ブーツ内側のグリスもブーツを透過して滲出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−013546号公報
【特許文献2】特開2002−031155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、エンジン周辺の雰囲気温度が上昇していることもあり、耐熱性に優れる樹脂材料から成るブーツを第2自在継手と同様に第1自在継手にも使用することが検討されている。そうすると、生産性向上の観点からは、第1自在継手のブーツおよび第2自在継手のブーツの材料を共通化するのがよい。しかし、潤滑剤が配合された潤滑剤含有樹脂から成るブーツを第1自在継手と同様に第2自在継手にも使用するとなると、第1自在継手の設置箇所の環境温度は第2自在継手と比べて高いため、そのような高温の雰囲気下ではブーツ外周面に滲出する潤滑剤やグリスが相対的に多くなり、その滲出した潤滑剤やグリスがブーツの周囲に飛散するという問題が考えられる。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、自在継手のブーツの外周面に滲出した潤滑剤やグリスがそのブーツの周囲に飛散することを抑制することができる車両用ドライブシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a)差動歯車装置側に設けられる第1自在継手と、駆動輪側に設けられる第2自在継手とを両端部に備える車両用ドライブシャフトであって、(b)前記第1自在継手のブーツおよび前記第2自在継手のブーツのうちの設置箇所の環境温度が高い側のブーツは、潤滑剤含有率が相対的に低くされていることにある。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、上記設置箇所の環境温度が高い側のブーツは、設置箇所の環境温度が低い側のブーツと比べて、ブーツ内部に分散して存在する潤滑剤を収容する細孔の数が少ない分だけブーツ中の細孔の占める割合が相対的に低くされ、ブーツ内部の潤滑剤やブーツ内側のグリスが細孔すなわちブーツ外周面まで通じた連通気孔を通じてそのブーツ外周面に滲出する量が、相対的に少なくされるので、ブーツの外周面に滲出した潤滑剤やグリスがそのブーツの周囲に飛散することを抑制することができる。
【0008】
ここで、好適には、前記設置箇所の環境温度が高い側のブーツは、前記設置箇所の環境温度が低い側のブーツと同系の樹脂であって潤滑剤が混入されていない潤滑剤非含有樹脂から成る。このようにすれば、上記設置箇所の環境温度が高い側のブーツは、設置箇所の環境温度が低い側のブーツと比べて、ブーツ中に分散して存在する潤滑剤を収容する細孔が形成されない分だけブーツ内周面から外周面まで通じた連通気孔が相対的に少なくされ、ブーツ内側のグリスがその連通気孔を通じてブーツ外周面に滲出する量が相対的に少なくされるので、ブーツの外周面に滲出した潤滑剤やグリスがそのブーツの周囲に飛散することを抑制することができる。
【0009】
また、好適には、前記設置箇所の環境温度が高い側のブーツは、前記差動歯車装置側に設けられる第1自在継手のブーツである。このようにすれば、差動歯車装置側に設けられる第1自在継手のブーツの外周面に滲出したグリスがそのブーツの周囲に飛散することを抑制することができる。
【0010】
また、好適には、ブーツの成形材料には耐グリス性、耐屈曲疲労性、および柔軟性を有する樹脂がベースとして使用される。その樹脂としては、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPA)、ポリオレフィン系(TPO)、およびポリエステル系(TEE)の熱可塑性エラストマ樹脂、熱可塑性エラストマ加硫物(TPV)、および可塑性ポリエーテルエステルエラストマ(TEEE)等が挙げられる。
【0011】
また、好適には、上記樹脂をベースとしたブーツの成形材料に配合される潤滑剤には固形潤滑剤が使用される。上記固形潤滑剤としては、脂肪酸アミド、脂肪酸と高級1価アルコールとのエステルである蝋(wax)、脂肪酸とグリセリンとのエステルである油脂(脂肪)、ポリエーテル、二硫化モリブデン、および炭素粒子等の粉末が挙げられる。上記固形潤滑剤は上記例示したものならば特に限定されないが、例えば、下記式(1)で表される脂肪酸アミドで融点が20〜60℃の低融点のもの、または下記式(2)で表される脂肪酸アミドで融点が80〜150℃の高融点のものが用いられる。式(1)で表される脂肪酸アミドで融点が20〜60℃の低融点のものが用いられる場合には、前記熱可塑性エラストマ樹脂100重量部に対しその脂肪酸アミドが例えば0.2〜1.5重量部配合される。また、式(2)で表される脂肪酸アミドで融点が80〜150℃の高融点のものが用いられる場合には、前記熱可塑性エラストマ樹脂100重量部に対しその脂肪酸アミドが例えば0.03〜0.15重量部配合される。なお、式(1)および(2)において、RおよびRは、それぞれ脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、および不飽和炭化水素基のいずれか1であって、炭素数が6以上のものである。また、式(2)において、Rは、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、および不飽和炭化水素基のいずれか1であって、炭素数が2以上のものである。
−CONH−R・・・(1)
−CONH−RCONH−R・・・(2)
【0012】
また、好適には、ブーツの成形材料に前記潤滑剤が配合される場合には、チップ状の樹脂および潤滑剤の一方または両方を加温して状態で互いに混合した後に、その混合物に例えば酸化防止剤や顔料等の他の添加剤が必要に応じて添加される。このようにすれば、潤滑剤がチップ状の樹脂表面に均一に付着し、樹脂中に潤滑剤が均一に分散したブーツが得られる。
【0013】
上記樹脂および潤滑剤の加温温度は、60℃以上、より好ましくは70〜100℃である。60℃より低い温度では潤滑剤の粘度の高さに起因して樹脂中にその潤滑剤が均一に分散しないことがあり、また、100℃より高い温度では加温時間が長くかかってしまうためである。
【0014】
上記樹脂の加温方法としては、一般的なミキサーやタンブラー等でチップ状の樹脂を攪拌する際の摩擦熱を利用する方法や、一般的な例えば温風式の乾燥器を用いる方法がある。また、樹脂と潤滑剤との攪拌には、一般的なミキサーやタンブラー等を用いればよい。また、樹脂等の混合物を混練して押し出すことで成形材料を得るための押出機としては、一般的な単軸式押出機を使用できるが、樹脂中に潤滑剤等を均一に分散したブーツが得られるという観点からは二軸押出機を使用することがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用された車両用ドライブシャフトの車両への設置状態を示す図である。
【図2】図1のドライブシャフトの縦断面図を示す図である。
【図3】潤滑剤が所定の含有率で含有された潤滑剤含有樹脂から成るブーツにおいて、所定時間内にそのブーツの外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量と、そのブーツの設置箇所の環境温度との関係を示すグラフである。
【図4】駆動輪側のブーツの外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量と、そのブーツの使用開始からの経過時間との関係を示すグラフである。
【図5】ブーツの外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量を調査するための試験器具を示す断面図である。
【図6】差動歯車装置側のブーツの外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量と、そのブーツの使用開始からの経過時間との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施例の車両用ドライブシャフトの差動歯車装置側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手のブーツの潤滑剤含有率を、そのブーツの設置箇所の環境温度に基づいて決定するための関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明が適用された車両用ドライブシャフト10および12の車両14への設置状態を示す図である。車両14は、FF式車両であり、エンジン16およびトランスアクスル18を横置きの状態で備えている。それらエンジン16およびトランスアクスル18は、便宜上、2点差線で示されている。ドライブシャフト10および12は、上記トランスアクスル18が備える良く知られた差動歯車装置20と左右一対の駆動輪22との間にそれぞれ設けられる動力伝達部材である。なお、ドライブシャフト10および12は、全長が異なるのみで構造は同じである。以下においては、それらを代表してドライブシャフト10に関して詳しく説明する。
【0018】
図2は、図1のドライブシャフト10の縦断面図を示す図である。図2に示すように、ドライブシャフト10は、前記差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24と、駆動輪22側に設けられるツェッパ型固定式等速自在継手26とを両端部に備えている。トリポード型摺動式等速自在継手24は本発明における第1自在継手に相当し、また、ツェッパ型固定式等速自在継手26は本発明における第2自在継手に相当する。
【0019】
上記トリポード型摺動式等速自在継手24は、前記差動歯車装置20の出力部材に連結される第1軸部28と、その第1軸部28の前記駆動輪22側に位置する中間軸部30との間に設けられ、それら第1軸部28と中間軸部30との間でそれぞれの回転軸心の交差角度に拘わらず等速で回転を伝達する。また、上記ツェッパ型固定式等速自在継手26は、上記中間軸部30と、その中間軸部30の前記駆動輪22側に位置してその駆動輪22に連結される第2軸部32との間に設けられ、それら中間軸部30と第2軸部32との間でそれぞれの回転軸心の交差角度に拘わらず等速で回転を伝達する。なお、図1では、第1軸部28、中間軸部30、および第2軸部32がそれぞれ共通の軸心上にある状態で示されている。
【0020】
以上のように構成されたドライブシャフト10は、前記駆動輪22から伝達される上下の動きや操舵による左右の動きなどに対応して各軸部が相互の交差角度を変化させつつ、車両14の駆動力源である前記エンジン16から前記差動歯車装置20を介して入力された駆動力を前記駆動輪22に出力する。
【0021】
ここで、トリポード型摺動式等速自在継手24は、樹脂製の第1ブーツ34を有し、また、ツェッパ型固定式等速自在継手26は、樹脂製の第2ブーツ36を有している。以下においては、これら第1ブーツ34および第2ブーツ36に関して詳しく説明する。
【0022】
第1ブーツ34は、トリポード型摺動式等速自在継手24の外輪24a内の潤滑のために収容されたグリスの漏れを防止すると共にその外輪24a内への異物の浸入を防止するためのものである。この第1ブーツ34は、外輪24aの外周面に例えば金属製のバンド38により固定された円環状の大径部34aと、トリポート部材12bが固設された中間軸部30の一端部の外周面に例えば金属製のバンド40により固定された円環状の小径部34bと、それら大径部34aと小径部34bとの間を連結する円筒状の蛇腹部34cとから成る。
【0023】
上記第1ブーツ34は、例えば次のようにして作られる。先ず、加温されたチップ状の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂に例えば酸化防止剤や顔料等の添加剤が添加されて混合される。次いで、その混合物が二軸押出機により混練され押し出されて成形材料とされる。次いで、その成形材料が射出成形機によりブーツの形に成形される。本実施例の第1ブーツ34は、次に詳述する第2ブーツ36とは異なり、潤滑剤を含有しない潤滑剤非含有樹脂から成る潤滑剤非含有タイプのブーツである。
【0024】
第2ブーツ36は、ツェッパ型固定式等速自在継手26の外輪26a内に収容されたグリスの漏れを防止すると共にその外輪26a内への異物の浸入を防止するためのものである。この第2ブーツ36は、外輪26aの外周面に例えば金属製のバンド42により固定された円環状の大径部36aと、内輪26bが固設された中間軸部30の他端部の外周面に例えば金属製のバンド44により固定された円環状の小径部36bと、それら大径部36aと小径部36bとの間を連結する円筒状の蛇腹部36cとから成る。
【0025】
上記第2ブーツ36は、例えば次のようにして作られる。先ず、加温されたチップ状の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂に、潤滑剤としての前記式(2)で表される脂肪酸アミドが配合され、その混合物に例えば酸化防止剤や顔料等の添加剤が添加されて再び混合される。次いで、その混合物が二軸押出機により混練され押し出されて成形材料とされる。次いで、その成形材料が射出成形機によりブーツの形に成形される。本実施例の第2ブーツ36は、潤滑剤を含有する潤滑剤含有樹脂から成る潤滑剤含有タイプのブーツである。
【0026】
第1ブーツ34および第2ブーツ36のうちの少なくとも第2ブーツ36は、多数の細孔を有する多孔質部材である。上記細孔は、ブーツ内部に形成された小さな孔であり、ブーツ内部またはブーツ内周面からブーツ外周面まで通じた連通気孔を構成する。潤滑剤含有樹脂から成る第2ブーツ36は潤滑剤非含有樹脂から成る第1ブーツ34と比べて多くの細孔を有し、また、第2ブーツ36は潤滑剤(脂肪酸アミド)をそれら細孔内に収容し且つブーツ内部に均一に分散した状態で備えている。
【0027】
例えば複数の細孔が互いに接続されることで第2ブーツ36の内部からブーツ外周面まで通じた連通気孔内にある潤滑剤は、例えば第2ブーツ36に作用する遠心力等の影響を受けて時間が経つごとに少しずつブーツ外周面へ滲み出る。また、例えば複数の細孔が互いに接続されることで第1ブーツ34および第2ブーツ36の内周面から外周面まで通じた細孔からは、ブーツ内側に封入されたグリスが、例えば各ブーツにそれぞれ作用する遠心力等の影響を受けて時間が経つごとに少しずつブーツ外周面へ滲み出る。これらブーツ外周面に滲出する潤滑剤やグリスは、そのブーツ外周面において潤滑層を形成し、各ブーツの蛇腹部34cおよび36cのうちの隣接する山部同士が擦れ合うことで発生する異音を抑制する。
【0028】
図3は、潤滑剤が所定の含有率で含有された潤滑剤含有樹脂から成るブーツにおいて、所定時間内にそのブーツの外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量と、そのブーツの設置箇所の環境温度Tとの関係を示すグラフである。図3に示すように、上記ブーツ外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量は、そのブーツの設置箇所の環境温度Tが大きくなるほど大きくなる。本実施例の第1ブーツ34は、第2ブーツ36と比べて前記差動歯車装置20側すなわち前記エンジン16に近い側に設けられるブーツであり、また、設置箇所の環境温度Tが高い側のブーツである。そのため、仮に前記差動歯車装置20側に設けられる第1ブーツ34と前記駆動輪22側に設けられる第2ブーツ36とが潤滑剤含有率が同じ樹脂材料から成形される場合には、その差動歯車装置20側に設けられる第1ブーツ34の外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量が第2ブーツ36と比べて多くなり、滲出した油のうちの余分な油がその第1ブーツ34の周囲に飛散することが考えられる。それ故に、第1ブーツ34および第2ブーツ36のうちの設置箇所の環境温度Tが高い側のブーツである第1ブーツ34は、潤滑剤を含有させない潤滑剤非含有樹脂から成形されることで、第2ブーツ36と比べて潤滑剤含有率が相対的に低くされ、上記余分な油を発生させないようになっている。
【0029】
図4は、図3において駆動輪側の第2ブーツ36の使用領域を示す点線の枠のうちの中間温度である80℃下に置かれた第2ブーツ36の外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量と、その第2ブーツ36の使用開始からの経過時間tとの関係を、例えば図5に示すような試験器具46を用いて調査した結果を示すグラフである。また、図6は、図3において差動歯車装置側の第1ブーツ34の使用領域を示す点線の枠のうちの中間温度である120℃下に置かれた第1ブーツ34の外周面に滲出する潤滑剤およびグリスの単位面積あたりの量と、その第1ブーツ34の使用開始からの経過時間tとの関係を、例えば図5に示すような試験器具46を用いて調査した結果を示すグラフである。図5の試験器具46は、内側にグリスが収容された有底円筒状のグリス収容部材48と、そのグリス収容部材48の開口部を完全に塞ぐように設けられたブーツ片50をその開口部との間で挟むように設けられ、例えばボルトおよびナット等から成る固定具52によりグリス収容部材48と固定された円環状の押さえ部材54とを有して構成されている。上記各関係の調査は、第2ブーツ36および第1ブーツ34の一片(ブーツ片50)をセットした状態の試験器具46を、図5に示すようにグリス収容部材48に対して押さえ部材54が下側となるように置き、ブーツ片50の押さえ部材54側の表面に滲み出た潤滑剤およびグリスを紙で拭き取って、その紙の拭き取り前後の重量を量ることにより行われる。
【0030】
図4および図6に示すように、第2ブーツ36および第1ブーツ34の外周面にそれぞれ滲出する潤滑剤およびブーツ中の油分の単位体積あたりの量の変化傾向は、所定時間t1まで増加してその後減少していき一定量に落ち着くという点で同じである。さらには、第2ブーツ36および第1ブーツ34の外周面にそれぞれ滲出する潤滑剤およびブーツ中の油分の単位体積あたりの量は、経過時間tが同じであれば略同じとなる。
【0031】
因みに、仮に第1ブーツ34が第2ブーツ36と同じ潤滑剤含有率の樹脂材料から成形される場合には、図6に点線で示すように、実線で示される潤滑剤非含有樹脂から成る本実施例のものと比べてブーツ外周面に滲出する潤滑剤およびブーツ中の油分の単位あたりの量が多くなるため、滲出した油のうちの余分な油がその第1ブーツ34の周囲に飛散することが考えられる。
【0032】
本実施例の車両用ドライブシャフト10および12によれば、差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24と、駆動輪22側に設けられるツェッパ型固定式等速自在継手26とを両端部に備える車両用ドライブシャフト10および12であって、そのトリポード型摺動式等速自在継手24の第1ブーツ34およびツェッパ型固定式等速自在継手26の第2ブーツ36のうちの設置箇所の環境温度Tが高い側の第1ブーツ34は、潤滑剤含有率が相対的に低くされている。このようにすれば、設置箇所の環境温度Tが高い第1ブーツ34は、設置箇所の環境温度が相対的に低い第2ブーツ36と比べて、ブーツ内部に分散して存在する潤滑剤(脂肪酸アミド)を収容する細孔の数が少ない分だけ第1ブーツ34中の細孔の占める割合が低くされ、第1ブーツ34内部の潤滑剤や第1ブーツ34内側のグリスが細孔すなわち第1ブーツ34の外周面まで通じた連通気孔を通じてその第1ブーツ34の外周面に滲出する量が相対的に少なくされるので、第1ブーツ34の外周面に滲出した潤滑剤やグリスがその第1ブーツ34の周囲に飛散することを抑制することができる。
【0033】
また、本実施例の車両用ドライブシャフト10および12によれば、前記設置箇所の環境温度Tが高い側の第1ブーツ34は、潤滑剤非含有樹脂から成る。このようにすれば、設置箇所の環境温度Tが相対的に高い第1ブーツ34は、設置箇所の環境温度が相対的に低い第2ブーツ36と比べて、第1ブーツ34中に分散して存在する潤滑剤を収容する細孔が形成されない分だけ第1ブーツ34の内周面から外周面まで通じた連通気孔が相対的に少なくされ、第1ブーツ34内側のグリスがその連通気孔を通じて第1ブーツ34の外周面に滲出する量が相対的に少なくされるので、第1ブーツ34の外周面に滲出した潤滑剤やグリスがその第1ブーツ34の周囲に飛散することを抑制することができる。
【0034】
また、本実施例の車両用ドライブシャフト10および12によれば、前記設置箇所の環境温度Tが高い側の第1ブーツ34は、差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24のブーツである。このようにすれば、差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24の第1ブーツ34の外周面に滲出したグリスがその第1ブーツ34の周囲に飛散することを抑制することができる。
【実施例2】
【0035】
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、実施例相互に共通する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0036】
図1および図2に示すように、本実施例の車両用ドライブシャフト60および62は、差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24の第1ブーツ64の材料が前述の実施例1の第1ブーツ34とは異なる点以外は、同様の構成である。本実施例の第1ブーツ64の成形材料の潤滑剤含有率RLUB1[%]は、例えば図7に示すように定められた関係から、その第1ブーツ64の設置箇所の環境温度T(=120℃)に基づいて決定されている。上記関係は、設置箇所の環境温度Tが高いほどブーツの成形材料の潤滑剤含有率RLUB[%]が高くなるように定められている。なお、駆動輪22側に設けられるツェッパ型固定式等速自在継手26の第2ブーツ36の成形材料の潤滑剤含有率RLUB2[%]は、前述の実施例1と同じ値であるが、図7に示すように定められた関係からその第2ブーツ36の設置箇所の環境温度T(=80℃)に基づいて決定されている。第2ブーツ36の成形材料の潤滑剤含有率RLUB1は、第2ブーツ36の成形材料の潤滑剤含有率RLUB2と比べて相対的に低くされている。なお、上記第1ブーツ64の設置箇所の環境温度T(=120℃)は、その第1ブーツ64の設置箇所の環境温度幅のうちの中間値が用いられる。また、上記第2ブーツ36の設置箇所の環境温度T(=80℃)は、その第2ブーツ36の設置箇所の環境温度幅のうちの中間値が用いられる。
【0037】
本実施例の車両用ドライブシャフト60および62によれば、差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24と、駆動輪22側に設けられるツェッパ型固定式等速自在継手26とを両端部に備える車両用ドライブシャフト60および62であって、そのトリポード型摺動式等速自在継手24の第1ブーツ64およびツェッパ型固定式等速自在継手26の第2ブーツ36のうちの設置箇所の環境温度Tが高い側の第1ブーツ64は、潤滑剤含有率RLUB1が相対的に低くされている。このようにすれば、設置箇所の環境温度Tが高い第1ブーツ64は、第2ブーツ36と比べて、ブーツ内部に分散して存在する潤滑剤(脂肪酸アミド)を収容するための細孔の数が少ない分だけブーツ中の細孔の占める割合が低くされ、ブーツ外周面まで通じた細孔を通してそのブーツ外周面に染み出す油の量が相対的に少なくされるので、第1ブーツ64の外周面に滲出した潤滑剤やグリスがその第1ブーツ64の周囲に飛散することを抑制することができる。
【0038】
また、本実施例の車両用ドライブシャフト60および62によれば、前記設置箇所の環境温度Tが高い側の第1ブーツ64は、差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24のブーツである。このようにすれば、差動歯車装置20側に設けられるトリポード型摺動式等速自在継手24の第1ブーツ64の外周面に滲出したグリスがその第1ブーツ64の周囲に飛散することを抑制することができる。
【0039】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0040】
たとえば、前述の実施例において、車両用ドライブシャフト10の差動歯車装置20側および駆動輪22側には、トリポード型摺動式等速自在継手24およびツェッパ型固定式等速自在継手26が設けられていたが、これらの形式の自在継手に限らず、その他の公知の自在継手が設けられ得る。
【0041】
また、前述の実施例1においては、ブーツ外周面に染み出す油の量と、時間経過に伴うその油の量の変化傾向とが、それぞれ第1ブーツ34と第2ブーツ36とで略同じになるようになっていたが、必ずしもブーツ外周面に染み出す油の量が第1ブーツ34と第2ブーツ36とで略同じとされなくてもよいし、時間経過に伴うその油の量の変化傾向が第1ブーツ34と第2ブーツ36とで略同じとされなくてもよい。
【0042】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
10,12,60,62:車両用ドライブシャフト
24:トリポード型摺動式等速自在継手(第1自在継手)
26:ツェッパ型固定式等速自在継手(第2自在継手)
34,64:第1ブーツ(第1自在継手のブーツ、設置箇所の環境温度が高い側のブーツ)
36:第1ブーツ(第2自在継手のブーツ)
LUB:潤滑剤含有率
T:環境温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動歯車装置側に設けられる第1自在継手と、駆動輪側に設けられる第2自在継手とを両端部に備える車両用ドライブシャフトであって、
前記第1自在継手のブーツおよび前記第2自在継手のブーツのうちの設置箇所の環境温度が高い側のブーツは、潤滑剤含有率が相対的に低くされていることを特徴とする車両用ドライブシャフト。
【請求項2】
前記設置箇所の環境温度が高い側のブーツは、潤滑剤非含有樹脂から成ることを特徴とする請求項1の車両用ドライブシャフト。
【請求項3】
前記設置箇所の環境温度が高い側のブーツは、前記差動歯車装置側に設けられる第1自在継手のブーツであることを特徴とする請求項2の車両用ドライブシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−145169(P2012−145169A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4298(P2011−4298)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】