説明

車両用ブレーキシステム

【課題】パワープラント収納室内に、スペース効率よく配置できる車両用ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】操作者のブレーキ操作が入力される入力装置14と、シリンダ本体82に収納される液圧制御ピストンを少なくとも前記ブレーキ操作に応じて電動モータ72で駆動してブレーキ液圧を発生させるモータシリンダ装置16と、を別体で備える車両用ブレーキシステムとする。そして、モータシリンダ装置16の少なくとも一部が、パワープラント収納室2aとキャビン3を仕切るダッシュボード3aよりもキャビン3側に配設されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作部が操作されたときに、電動モータの回転駆動力でブレーキ液圧を発生する電動ブレーキアクチュエータを備える車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキペダルが踏み込まれたときの踏力を倍力するための倍力装置を備える車両用ブレーキシステムは広く知られ、例えば、特許文献1には、倍力源に電動モータを利用した電動ブレーキアクチュエータ(電動倍力装置)が開示されている。
特許文献1に開示される電動ブレーキアクチュエータは、ブレーキペダルの操作で進退移動する軸部材を主ピストン、その軸部材(主ピストン)に外装される筒状部材をブースタピストンとし、軸部材(主ピストン)にブレーキペダルから入力される推力と、筒状部材(ブースタピストン)に電動モータで付与される推力と、でブレーキ液圧を発生して踏力を倍力するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−23594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示される電動ブレーキアクチュエータは、主ピストン及びブースタピストンを収納するシリンダ本体(ハウジング)内に電動モータが組み込まれた一体型を呈しているためにシリンダ本体が大型化する。したがって、パワープラントを収納するためのパワープラント収納室に車両用ブレーキシステムを収納する場合、電動ブレーキアクチュエータを配置する大きなスペースが必要になって、スペース効率が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、車両動力装置の収納室内に、スペース効率よく配置できる車両用ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明は、操作者のブレーキ操作が入力される入力装置と、シリンダ本体に収納される液圧制御ピストンを少なくとも前記ブレーキ操作に応じて電動モータで駆動してブレーキ液圧を発生させる電動ブレーキアクチュエータと、を別体で備える車両用ブレーキシステムとする。そして、前記電動ブレーキアクチュエータの少なくとも一部が、車両動力装置の収納室と車室を仕切る隔壁よりも当該車室側に配設されることを特徴とする。
【0007】
この発明によると、車両用ブレーキシステムを構成する電動ブレーキアクチュエータの少なくとも一部を、車両動力装置の収納室と車室の間の隔壁より車室側に配設できる。
したがって、車両動力装置の収納室における電動ブレーキアクチュエータの占有領域を小さくすることができ、車両用ブレーキシステムを車両動力装置の収納室に配置するときの収納室におけるスペース効率を向上できる。
【0008】
また本発明は、前記電動モータと、前記電動モータの回転駆動力を伝達するギヤ機構及び前記ギヤ機構を介して伝達される回転駆動力を直線運動に変換するボールねじ構造体が収納されるアクチュエータハウジングと、が前記車室に配設され、前記シリンダ本体が前記収納室に配設されることを特徴とする。
【0009】
この発明によると、電動モータと、ギヤ機構とボールねじ構造体を収納するアクチュエータハウジングと、を車室に配設でき、車両動力装置の収納室における電動ブレーキアクチュエータの占有領域を小さくできる。
【0010】
また本発明は、前記アクチュエータハウジングと前記シリンダ本体とが、前記シリンダ本体の軸線と略直交する面を分割面として分割可能に構成され、前記アクチュエータハウジングと前記シリンダ本体が前記隔壁を挟んで連結されることを特徴とする。
【0011】
この発明によると、アクチュエータハウジングとシリンダ本体を、隔壁を挟んだ両側に配置して、アクチュエータハウジングを車室に配設できる。そして、例えばブラケット等の特別な取付部材を用いることなく、簡便にアクチュエータハウジング及びシリンダ本体を支持できる。
【0012】
また本発明は、前記電動モータと、前記アクチュエータハウジングと、を前記車室の側から覆うカバー部材が備わることを特徴とする。
【0013】
この発明によると、車室に配設される電動モータとアクチュエータハウジングをカバー部材で覆うことができる。そして、電動モータの駆動で発生する騒音や振動が車室に伝播されることを軽減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、車両動力装置の収納室内に、スペース効率よく配置できる車両用ブレーキシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る車両用ブレーキシステムの構成図である。
【図2】モータシリンダ装置の電動モータとアクチュエータハウジングがキャビンに配設される状態を示す斜視図である。
【図3】モータシリンダ装置の電動モータとアクチュエータハウジングがキャビンに配設される状態を示す平面図である。
【図4】モータシリンダ装置の分解斜視図である。
【図5】(a)はシリンダ本体とアクチュエータハウジングがダッシュボードを挟んだ状態を示す側面図、(b)は電動モータとアクチュエータハウジングを覆うカバー部材が取り付けられた状態を示す断面図である。
【図6】センタートンネルに配設されたモータシリンダ装置を示す一部破断図である。
【図7】フレーム部材に固定されたモータシリンダ装置を示す図である。
【図8】車両の後部に配設されるモータシリンダ装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【0017】
図1に示す車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0018】
このため、図1に示すように、車両用ブレーキシステム10は、基本的に、操作者によってブレーキペダル12等のブレーキ操作部が操作されたときにその操作を入力する入力装置14と、ブレーキ液圧を制御(発生)する電動ブレーキアクチュエータ(モータシリンダ装置16)と、車両挙動の安定化を支援する車両挙動安定化装置18(以下、VSA(ビークルスタビリティアシスト)装置18という、VSA;登録商標)とを別体として備えて構成されている。
【0019】
これらの入力装置14、モータシリンダ装置16、及び、VSA装置18は、例えば、ホースやチューブ等の管材で形成された液圧路によって接続されていると共に、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスで電気的に接続されている。
【0020】
このうち、液圧路について説明すると、図1中(中央やや下)の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
【0021】
図1中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
【0022】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホィールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホィールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホィールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホィールシリンダ32FLと接続される。
【0023】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0024】
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能である。
また、車両用ブレーキシステム10は、前輪駆動、後輪駆動、4輪駆動など、駆動形式を限定することなく、全ての駆動形式の車両に搭載可能である。
【0025】
入力装置14は、操作者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する2つのピストン40a、40bが摺動自在に配設される。一方のピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、他方のピストン40bは、一方のピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0026】
この一方及び他方のピストン40a、40bの外周面には、環状段部を介して一対のピストンパッキン44a、44bがそれぞれ装着される。一対のピストンパッキン44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、一方及び他方のピストン40a、40bとの間には、ばね部材50aが配設され、他方のピストン40bとシリンダチューブ38の側端部と間には、他のばね部材50bが配設される。
なお、ピストンパッキン44a、44bが、シリンダチューブ38の内壁に取り付けられる構成であってもよい。
【0027】
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0028】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、操作者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第1圧力室56a及び第2圧力室56bが設けられる。第1圧力室56aは、第1液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第2圧力室56bは、第2液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
【0029】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第1液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第1液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第1液圧路58a上において、第1遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側である上流側の液圧を検知するものである。
【0030】
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第2液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60bが設けられると共に、第2液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第2液圧路58b上において、第2遮断弁60bよりもホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側である下流側の液圧を検知するものである。
【0031】
この第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1において、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bは、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した閉弁状態をそれぞれ示している。
【0032】
マスタシリンダ34と第2遮断弁60bとの間の第2液圧路58bには、前記第2液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1において、第3遮断弁62は、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した開弁状態を示している。
【0033】
このストロークシミュレータ64は、バイ・ワイヤ制御時に、ブレーキペダル12の操作に対して、ストロークと反力を与えて、あたかも踏力により、制動力が発生しているかのように操作者に思わせる装置であり、第2液圧路58b上であって、第2遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第2圧力室56bから導出されるブレーキ液(ブレーキフルード)が吸収可能に設けられる。
【0034】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングが、既存のマスタシリンダ34を踏み込み操作したときのペダルフィーリングと同等になるように設けられている。
【0035】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第1圧力室56aと複数のホィールシリンダ32FR、32RLとを接続する第1液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第2圧力室56bと複数のホィールシリンダ32RR、32FLとを接続する第2液圧系統70bとから構成される。
【0036】
第1液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第1液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホィールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0037】
第2液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第2液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホィールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0038】
モータシリンダ装置16は、電動モータ72を含むアクチュエータ機構74と、前記アクチュエータ機構74によって付勢されるシリンダ機構76とを有する。
【0039】
アクチュエータ機構74は、電動モータ72の出力軸72b側に設けられ、複数のギヤが噛合して電動モータ72の回転駆動力を伝達するギヤ機構(減速機構)78と、前記ギヤ機構78を介して前記回転駆動力が伝達されることにより軸方向に沿って進退動作するボールねじ軸80a及びボール80bを含むボールねじ構造体80とを有する。
本実施形態においてボールねじ構造体80は、電動モータ72の回転駆動力を直線運動(進退動作)に変換するための機構であり、ギヤ機構78とともにアクチュエータハウジング172に収納される。
【0040】
シリンダ機構76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。なお、配管チューブ86に、ブレーキ液を貯留するタンクが備わっていてもよい。
【0041】
シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第1スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの一端部に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第2スレーブピストン88bは、第1スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
なお、本実施形態においては、第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bが、特許請求の範囲に記載の液圧制御ピストンを構成する。
【0042】
また、本実施形態における電動モータ72は、シリンダ本体82と別体に形成されるモータケーシング72aで覆われて構成され、出力軸72bが第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bの摺動方向(軸方向)と略平行になるように配置される。つまり、出力軸72bの軸方向が液圧制御ピストンの軸方向と略平行になるように、電動モータ72が配置される。
そして、出力軸72bの回転駆動がギヤ機構78を介してボールねじ構造体80に伝達されるように構成される。
【0043】
ギヤ機構78は、例えば、電動モータ72の出力軸72bに取り付けられる第1ギヤ78aと、ボールねじ軸80aを軸方向に進退動作させるボール80bをボールねじ軸80aの軸線を中心に回転させる第3ギヤ78cと、第1ギヤ78aの回転を第3ギヤ78cに伝達する第2ギヤ78bと、の3つのギヤで構成され、第3ギヤ78cはボールねじ軸80aの軸線を中心に回転する。したがって、第3ギヤ78cの回転軸はボールねじ軸80aになり、液圧制御ピストン(第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88b)の摺動方向(軸方向)と略平行になる。
前記したように、電動モータ72の出力軸72bと液圧制御ピストンの軸方向は略平行であることから、電動モータ72の出力軸72bと第3ギヤ78cの回転軸は略平行になる。
そして、第2ギヤ78bの回転軸を、電動モータ72の出力軸72bと略平行に構成すると、電動モータ72の出力軸72bと、第2ギヤ78bの回転軸と、第3ギヤ78cの回転軸と、が略平行に配置される。
【0044】
そして、このような構成によると、電動モータ72は、第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bの軸線を中心として任意に回転した位置に配置可能になる。
【0045】
第1及び第2スレーブピストン88a、88bの外周面には、環状段部を介して一対のスレーブピストンパッキン90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブピストンパッキン90a、90bの間には、それぞれ、後記するリザーバポート92a、92bとそれぞれ連通する第1背室94a及び第2背室94bが形成される。また、第1及び第2スレーブピストン88a、88bとの間には、第1リターンスプリング96aが配設され、第2スレーブピストン88bとシリンダ本体82の側端部と間には、第2リターンスプリング96bが配設される。
【0046】
シリンダ機構76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0047】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホィールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第1液圧室98aと、他の出力ポート24bからホィールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第2液圧室98bが設けられる。
【0048】
なお、第1スレーブピストン88aと第2スレーブピストン88bとの間には、第1スレーブピストン88aと第2スレーブピストン88bの最大ストローク(最大変位距離)と最小ストローク(最小変位距離)とを規制する規制手段100が設けられる。さらに、第2スレーブピストン88bには、前記第2スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第1スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特にマスタシリンダ34で制動するバックアップ時において、1つの系統が失陥したときに、他の系統の失陥が防止される。
【0049】
VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホィールシリンダ32FR、ホィールシリンダ32RL)に接続された第1液圧系統70aを制御する第1ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホィールシリンダ32RR、ホィールシリンダ32FL)に接続された第2液圧系統70bを制御する第2ブレーキ系110bとを有する。なお、第1ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第2ブレーキ系110bは、右側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第1ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第2ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0050】
この第1ブレーキ系110a及び第2ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第1ブレーキ系110aと第2ブレーキ系110bで対応するものには同一の参照符号を付していると共に、第1ブレーキ系110aの説明を中心にして、第2ブレーキ系110bの説明を括弧書きで付記する。
【0051】
第1ブレーキ系110a(第2ブレーキ系110b)は、ホィールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0052】
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されるサクションバルブ142とを備える。
【0053】
なお、第1ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第1液圧室98aで制御されたブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。また、VSA装置18では、VSA制御のほか、ABS(アンチロックブレーキシステム)も制御可能である。
さらに、VSA装置18に代えて、ABS機能のみを搭載するABS装置が接続される構成であってもよい。
本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0054】
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bが励磁されて弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁されて弁開状態となる。従って、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bによって第1液圧系統70a及び第2液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0055】
このとき、マスタシリンダ34の第2圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がばね部材66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、操作者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
【0056】
このようなシステム状態において、図示しない制御手段は、操作者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16の電動モータ72を駆動させてアクチュエータ機構74を付勢し、第1リターンスプリング96a及び第2リターンスプリング96bのばね力に抗して第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bを図1中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bの変位によって第1液圧室98a及び第2液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0057】
具体的に、図示しない制御手段は、圧力センサPmの検出値に応じてブレーキペダル12の踏み込み操作量を算出し、この踏み込み操作量に応じたブレーキ液圧をモータシリンダ装置16に発生させる。
そして、モータシリンダ装置16で発生したブレーキ液圧が導入ポート26a、26bからVSA装置18に供給される。つまり、モータシリンダ装置16は、ブレーキペダル12が操作されたときに電気信号で回転駆動する電動モータ72の回転駆動力で第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bを駆動し、ブレーキペダル12の操作量に応じてブレーキ液圧を発生させてVSA装置18に供給する装置である。
また、本実施形態における電気信号は、例えば、電動モータ72を駆動する電力や電動モータ72を制御するための制御信号である。
【0058】
なお、図示しない制御手段が圧力センサPmの検出値からブレーキペダル12の踏み込み量を算出する手段は限定するものではなく、例えば、圧力センサPmの検出値とブレーキペダル12の踏み込み操作量の関係を示すマップを参照して、圧力センサPmの検出値に応じたブレーキペダル12の踏み込み操作量を算出する構成とすればよい。このようなマップは、設計時の実験計測等によって予め設定しておくことが好ましい。
【0059】
また、ブレーキペダル12の踏み込み操作量を検出する操作量検出手段は圧力センサPmに限定されるものではなく、例えば、ブレーキペダル12のストローク量を検出するセンサ(ストロークセンサ等)であってもよい。
【0060】
このモータシリンダ装置16における第1液圧室98a及び第2液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0061】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、動力液圧源として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しない制御手段等が作動可能な正常時において、操作者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両に好適に適用することができる。
【0062】
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bをそれぞれ弁開状態、第3遮断弁62を弁閉状態としマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0063】
例えば、走行用電動機(走行モータ)を備えるハイブリッド自動車や電気自動車には、走行用電動機で回生発電して制動力を発生する回生ブレーキを備えることができる。そして、ブレーキペダル12が操作されたときに、ディスクブレーキ機構30a〜30dで発生する制動力に加えて回生ブレーキで制動力を発生する構成の場合、マスタシリンダ34の第1圧力室56a及び第2圧力室56bで発生するブレーキ液圧でホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLを作動させると、回生ブレーキで発生する制動力が過剰な制動力となり、操作者が発生させたい制動力より大きな制動力が発生する。
【0064】
このような状態を避けるため、図示しない制御手段は、ディスクブレーキ機構30a〜30dで発生する制動力と回生ブレーキで発生する制動力とを合わせて好適な制動力が発生するように、モータシリンダ装置16でブレーキ液圧を発生させることが好ましい。そして、このように制御手段で制御される車両用ブレーキシステム10を、ハイブリッド自動車や電気自動車に備えることで好適な制動力を発生できる。
【0065】
以上のように構成される車両用ブレーキシステム10が車両に搭載される場合、例えば、図2、3に示すように、入力装置14、モータシリンダ装置16及びVSA装置18が別体に構成され、車両1のパワープラント2が収納されるパワープラント収納室2aに適宜分散した状態で収納されて、それぞれ取り付けられる。パワープラント2は、車両1を走行させる動力を発生する車両動力装置であり、内燃機関のほか、電気自動車に備わる走行用電動機、ハイブリッド自動車に備わる内燃機関と走行用電動機の一体型ユニット等である。
【0066】
パワープラント収納室2aは、例えば車両1の前方に、操作者やその他の乗員が居住する車室(キャビン3)と隔壁で仕切られて形成され、パワープラント2、車両用ブレーキシステム10(入力装置14、モータシリンダ装置16、VSA装置18)の他、図示しない補機類が収納される。
パワープラント収納室2aとキャビン3を仕切る隔壁は、ダッシュボードの一部として設けられる構成とすることができ、本実施形態においては、当該隔壁をダッシュボード3aとして記載する。
また、符号7は、車両1の左右両側において前後方向に延設されるフロントサイドメンバである。
【0067】
なお、前後上下左右の各方向はいずれも車両1における前後上下左右を示すものとする。例えば、上下方向(車両上下方向)は水平面上の車両1における鉛直方向とし、左右方向は、車両1の後方から前方を見たときの左右方向とする。
【0068】
パワープラント2は、例えば、パワープラント収納室2a内で左右のフロントサイドメンバ7の間に配置され、図示しないサブフレームに固定された防振支持装置8で支持されて備わる。
【0069】
そして、本実施形態では、別体に構成される入力装置14、モータシリンダ装置16及びVSA装置18が、それぞれパワープラント収納室2aに収納され、モータシリンダ装置16の少なくとも一部がキャビン3に配置される構成とする。
【0070】
本実施形態に係るモータシリンダ装置16は、図4に示すように、ギヤ機構78(図1参照)およびボールねじ構造体80(図1参照)を収納するアクチュエータハウジング172とシリンダ本体82が、シリンダ本体82の軸線と略直交する面を分割面として分割可能に構成される。そして、モータシリンダ装置16は、アクチュエータハウジング172にシリンダ本体82が連結され、さらに、電動モータ72が取り付けられて構成される。
【0071】
本実施形態に係るシリンダ本体82は、図4に示すように、アクチュエータハウジング172の前方に連結される。具体的に、アクチュエータハウジング172には、ボールねじ軸80aが前方に向かって突出する開口部172aが前方に開口し、シリンダ本体82は、第1スレーブピストン88a(図1参照)及び第2スレーブピストン88b(図1参照)が摺動する空洞部(図示せず)が開口部172aと連通するように、アクチュエータハウジング172の前方に連結される。
【0072】
例えば、アクチュエータハウジング172は、開口部172aの周囲が左右方向に広がってフランジ部175が形成され、このフランジ部175に、例えば2つのネジ孔176が開口した構成とする。
一方、シリンダ本体82の、アクチュエータハウジング172側の端部も左右方向に広がってフランジ部82aが形成され、このフランジ部82aに、アクチュエータハウジング172のネジ孔176に対応する位置にシリンダ取付孔82bが開口した構成とする。
そして、シリンダ本体82のフランジ部82aとアクチュエータハウジング172のフランジ部175が対峙するように配置され、ボルトなどの締結部材202が、シリンダ本体82側からシリンダ取付孔82bを介してネジ孔176にねじ込まれて、シリンダ本体82がアクチュエータハウジング172に締結固定される。
【0073】
このようにアクチュエータハウジング172にシリンダ本体82が前方から連結され、開口部172aから突出するボールねじ軸80aが、シリンダ本体82内部で第1スレーブピストン88a(図1参照)に当接する。
【0074】
また、電動モータ72は、シリンダ本体82の上方で、出力軸72bの軸方向が、第1スレーブピストン88a(図1参照)及び第2スレーブピストン88b(図1参照)の軸方向、つまり、シリンダ本体82の軸方向と平行になるように、アクチュエータハウジング172に取り付けられる。
【0075】
例えば、第2ギヤ78b(図1参照)が第3ギヤ78c(図1参照)の上方に配置され、アクチュエータハウジング172は、第3ギヤ78c、第2ギヤ78bを収納するように上方に延設される。さらに、アクチュエータハウジング172は、第2ギヤ78bと噛合可能に第1ギヤ78aが収納される第1ギヤ室(図示せず)を、後方が開放した状態で第2ギヤ78bより上方に有する。
そして、出力軸72bに取り付けられた第1ギヤ78a(図1参照)が図示しない第1ギヤ室に収納されて第2ギヤ78bと噛合するように、電動モータ72が後方からアクチュエータハウジング172に取り付けられる。
【0076】
電動モータ72がアクチュエータハウジング172に取り付けられる構造は限定するものではない。
例えば、モータケーシング72aは、アクチュエータハウジング172側の端部が周囲に広がってフランジ部161が形成され、このフランジ部161に、ボルトなどの締結部材201が貫通するモータ取付孔162が開口した構成とする。
また、アクチュエータハウジング172には、モータ取付孔162に対応する位置にネジ孔174が開口した構成とする。
【0077】
そして、電動モータ72は、第1ギヤ78a(図1参照)が取り付けられている出力軸72bがシリンダ本体82の軸方向と略平行になり、かつ、第1ギヤ78aが図示しない第1ギヤ室に収納されて第2ギヤ78b(図1参照)と噛合するように、後方(シリンダ本体82が連結されている側と反対側)からアクチュエータハウジング172に取り付けられる。さらに、締結部材201が、電動モータ72側からモータ取付孔162を介してネジ孔174にねじ込まれ、モータケーシング72aがアクチュエータハウジング172に締結固定される。
【0078】
この構成によって、シリンダ本体82と電動モータ72はアクチュエータハウジング172を挟んで互いに反対側に配置される。つまり、シリンダ本体82がアクチュエータハウジング172の前方に配置され、電動モータ72がアクチュエータハウジング172の後方に配置される。
【0079】
そして、本実施形態においては、図2、図3に示すように、シリンダ本体82がパワープラント収納室2aに配置され、電動モータ72及びアクチュエータハウジング172がキャビン3に配置される。つまり、モータシリンダ装置16の一部(電動モータ72及びアクチュエータハウジング172)がダッシュボード3aのキャビン3側(ダッシュボード3aの後方)に配設される。
【0080】
モータシリンダ装置16が車両1(図2参照)に取り付けられる構造は限定されるものではない。例えば、図5の(a)に示すように、シリンダ本体82がパワープラント収納室2a(ダッシュボード3aの前方)に配置されるとともに電動モータ72が取り付けられたアクチュエータハウジング172がキャビン3(ダッシュボード3aの後方)に配置される。
さらに、シリンダ本体82のフランジ部82aとアクチュエータハウジング172のフランジ部175がダッシュボード3aを挟んで対峙するように配置され、締結部材202がフランジ部82aのシリンダ取付孔82b(図4参照)及びダッシュボード3aを貫通して、フランジ部175のネジ孔176(図4参照)にねじ込まれる構成とする。
なお、ダッシュボード3aには、締結部材202の貫通孔(図示せず)及び、ボールねじ軸80a(図4参照)の貫通孔(図示せず)が形成されている構成が好ましい。
この構成によると、ダッシュボード3aでシリンダ本体82、アクチュエータハウジング172、及び電動モータ72を支持することができ、車両1(図2参照)にモータシリンダ装置16を取り付けることができる。
【0081】
なお、モータシリンダ装置16が安定して取り付けられる構造にするため、モータシリンダ装置16が取り付けられる部分が補強されるダッシュボード3aであってもよい。
例えば、ダッシュボード3aが鉄板で構成される場合は、当該部分が厚肉に形成される等の補強が考えられる。また、ダッシュボード3aが樹脂で構成される場合は、例えば当該部分に鉄板を張り合わせる等の補強が考えられる。
【0082】
また、シリンダ本体82に充填されるブレーキ液が、シリンダ本体82とダッシュボード3aの接続部から漏出しないように、シリンダ本体82とダッシュボード3aの接続部がシール部材82a1で密封される構成が好ましい。
同様に、アクチュエータハウジング172とダッシュボード3aの接続部からブレーキ液が漏出しないように、アクチュエータハウジング172とダッシュボード3aの接続部がシール部材173で密封される構成が好ましい。
さらに、シール部材82a1、173が、ゴム等の密封性を備える柔軟な部材で、かつ、好適な厚みで形成されることによって、電動モータ72の駆動で発生する騒音及び振動を吸収可能な緩衝部材としての機能を、シール部材82a1、173に持たせることができる。このことによって、キャビン3に居住する乗員が感じる、電動モータ72の駆動で発生する騒音及び振動を軽減できる。
【0083】
また、図5の(b)に示すように、電動モータ72及びアクチュエータハウジング172を覆うカバー部材3bがキャビン3の側から取り付けられる構成としてもよい。このようなカバー部材3bは、例えば、電動モータ72及びアクチュエータハウジング172を収納可能な箱型の部材が、溶接や締結等の固定手段でキャビン3の側からダッシュボード3aに固定される構成とすればよい。
このように、カバー部材3bで電動モータ72及びアクチュエータハウジング172を覆うことで、キャビン3の乗員が感じる騒音や振動をより効果的に軽減できる。
【0084】
以上のように、モータシリンダ装置16のシリンダ本体82(図5の(a)参照)がパワープラント収納室2a(図5の(a)参照)に配置され、電動モータ72(図5の(a)参照)及びアクチュエータハウジング172(図5の(a)参照)がキャビン3に配置される構成によって、パワープラント収納室2aにはシリンダ本体82を配置するスペースのみが必要となる。このことによって、パワープラント収納室2aにおけるモータシリンダ装置16の占有領域が小さくなり、パワープラント収納室2aに車両用ブレーキシステム10(図1参照)が配設されるときのスペース効率が向上する。
【0085】
なお、本実施形態においては、図5の(a)に示すように、シリンダ本体82がパワープラント収納室2aに配置され、電動モータ72及びアクチュエータハウジング172がキャビン3に配置される構成としたが、本発明は、この配置に限定することなく適宜設計変更が可能である。
【0086】
例えば、モータシリンダ装置16(図2参照)の全てがダッシュボード3a(図2参照)よりキャビン3(図2参照)の側に配設される構成であってもよい。
この場合、モータシリンダ装置16は、例えば図6に示すように、キャビン3の後部に備わるリアシート300近傍で左右方向の略中央に尾根状に盛り上がって前後方向に延びるセンタートンネル301の内部に配設可能である。
【0087】
モータシリンダ装置16がセンタートンネル301の内部に取り付けられる構造は限定されるものではない。
例えば、図6、図7に示すように、センタートンネル301の下方において左右方向に延設されるフレーム部材302に、前方から見て上方が開口した略コ字状のブラケット2a1が溶接等で固定され、そのブラケット2a1がシリンダ本体82を左右から挟むように保持する。
そして、シリンダ本体82に形成される図示しないネジ孔に、ブラケット2a1を介してボルト等の締結部材2a2がねじ込まれてブラケット2a1にシリンダ本体82が締結固定される構造であればよい。
【0088】
また、第2、第5配管チューブ22b、22eがパワープラント収納室2a(図2参照)からセンタートンネル301内を通って、それぞれ出力ポート24a、24bに接続され、さらに、配管チューブ86がパワープラント収納室2aからセンタートンネル301内を通って、第2リザーバ84に接続される構造であればよい。
このような構造によって、モータシリンダ装置16がセンタートンネル301の内部に配設される構成が可能になる。
【0089】
また、例えば、図8に示すように、キャビン3(図2参照)よりさらに後方のトランクルーム303にモータシリンダ装置16が配設される構成であってもよい。
【0090】
モータシリンダ装置16がトランクルーム303に取り付けられる構造は限定されるものではなく、例えば、トランクルーム303の底部に、後方から見て上方が開口した略コ字状のブラケット2a1が溶接等で固定され、そのブラケット2a1がシリンダ本体82を左右から挟むように保持する。
そして、シリンダ本体82に形成される図示しないネジ孔に、ブラケット2a1を介してボルト等の締結部材2a2がねじ込まれてブラケット2a1にシリンダ本体82が締結固定される構造であればよい。
【0091】
また、第2、第5配管チューブ22b、22e(図1参照)がパワープラント収納室2a(図2参照)から、例えば車両1の下部を通ってトランクルーム303まで配管されて、それぞれ出力ポート24a、24b(図1参照)に接続され、さらに、配管チューブ86(図1参照)が車両1の下部を通ってトランクルーム303まで配管されて、第2リザーバ84に接続される構造であればよい。
このような構造によって、モータシリンダ装置16がトランクルーム303に配設される構成が可能になる。
【0092】
その他、図示はしないが、モータシリンダ装置16(図2参照)の全てがキャビン3(図2参照)の内部に配設される構成であってもよい。
【0093】
以上のように、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10(図1参照)は、入力装置14(図1参照)と別体に構成されるモータシリンダ装置16(図1参照)の少なくとも一部が、ダッシュボード3a(図2参照)より、キャビン3(図2参照)の側に配置される。この構成によって、モータシリンダ装置16がパワープラント収納室2a(図2参照)で占有する領域が小さくなり、車両用ブレーキシステム10がパワープラント収納室2aに配設されるときのスペース効率が向上する。
【0094】
また、図5の(a)に示すように、シリンダ本体82とアクチュエータハウジング172がダッシュボード3aに取り付けられる構造とすることで、ダッシュボード3aでモータシリンダ装置16(図2参照)を支持することができ、特別の取付部材を用いることなくモータシリンダ装置16を車両1(図2参照)に取り付けることができる。
【0095】
また、図6に示すようにセンタートンネル301の内部や、図8に示すようにトランクルーム303にモータシリンダ装置16が配設されることによって、パワープラント収納室2a(図2参照)及びキャビン3(図2参照)にモータシリンダ装置16を配設するためのスペースが不要になり、車両用ブレーキシステム10(図1参照)がパワープラント収納室2aに配設されるときのスペース効率が向上する。
【符号の説明】
【0096】
1 車両
2 パワープラント(車両動力装置)
2a パワープラント収納室(収納室)
3 キャビン(車室)
3a ダッシュボード(隔壁)
3b カバー部材
10 車両用ブレーキシステム
12 ブレーキペダル(ブレーキ操作部)
14 入力装置
16 モータシリンダ装置(電動ブレーキアクチュエータ)
72 電動モータ
78 ギヤ機構
80 ボールねじ構造体
82 シリンダ本体
88a 第1スレーブピストン(液圧制御ピストン)
88b 第2スレーブピストン(液圧制御ピストン)
172 アクチュエータハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者のブレーキ操作が入力される入力装置と、
シリンダ本体に収納される液圧制御ピストンを少なくとも前記ブレーキ操作に応じて電動モータで駆動してブレーキ液圧を発生させる電動ブレーキアクチュエータと、を別体で備える車両用ブレーキシステムであって、
前記電動ブレーキアクチュエータの少なくとも一部が、車両動力装置の収納室と車室を仕切る隔壁よりも当該車室側に配設されることを特徴とする車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
前記電動モータと、
前記電動モータの回転駆動力を伝達するギヤ機構及び前記ギヤ機構を介して伝達される回転駆動力を直線運動に変換するボールねじ構造体が収納されるアクチュエータハウジングと、が前記車室に配設され、
前記シリンダ本体が前記収納室に配設されることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項3】
前記アクチュエータハウジングと前記シリンダ本体とが、前記シリンダ本体の軸線と略直交する面を分割面として分割可能に構成され、
前記アクチュエータハウジングと前記シリンダ本体が前記隔壁を挟んで連結されることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項4】
前記電動モータと、
前記アクチュエータハウジングと、を前記車室の側から覆うカバー部材が備わることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車両用ブレーキシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate