説明

車両用ホイールの製造方法および車両用ホイール

【課題】1ピースホイールのハブ取付部の表裏方向位置を容易に調整することができ、かつ製造コストの増大を抑制し得る車両用ホイールの製造方法およびその車両用ホイールを提案する。
【解決手段】リム部2の表側壁部13aとディスク部3のディスク外周縁部20aとを重ねるように成形した後に、ディスク部3を表方へ押し出し加工することにより、ディスク外周縁部20と表側壁部13aとを少なくとも一部離間させて、ディスク部3を所定の表裏方向位置に位置決めするようにした製造方法である。かかる方法によれば、ディスク部3のハブ取付部15の表裏方向位置を比較的容易に調整することができると共に、当該調整によって生ずる製造コストの増加を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一枚の板状基材をプレス加工することにより成形される車両用ホイールの製造方法および車両用ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ホイールとして、板状基材をプレス加工により成形したホイールディスクと、別の板状基材をプレス加工により成形したホイールリムとを溶接により接合してなる、いわゆる2ピースホイールがよく知られている。一方、近年、一枚の板状基材をプレス加工することによりディスク部とリム部とを一体的に成形してなる、1ピースホイールが提案されている(例えば、特許文献1,2)。このような1ピースホイールは、一枚の板状基材から成形されるものであることから、リム部の表側リムフランジ部とディスク部のディスク外周縁部とが折り返されて、該リム部とディスク部とが連成されている構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−88928号公報
【特許文献2】特開2005−74489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両用ホイールには、同じリム径やリム幅のものであっても、取り付け対象の車種に応じてホイールディスクのハブ取付部の表裏方向位置が異なるものもある。従来の2ピースホイールでは、同じリム径や同じリム幅の車両用ホイールの場合、前記ハブ取付部の表裏方向位置に応じて複数種類のホイールディスクを成形しておく。そして、車種に応じたホイールディスクを選択してホイールリムと接合することによって、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる構成にも容易に対応可能であった。
【0005】
しかし、上記した1ピースホイールは一枚の板状基材から成形するため、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる構成の場合には、それぞれの構成に応じたディスク部を形成しなければならず、夫々の金型等を必要としている。これに伴って、製造コストが増大するという問題が生ずる。そのため、ハブ取付部の表裏方向位置を比較的容易に調整することができ、これに伴う製造コストの増大を抑制できる1ピースホイールの製造方法が希求されている。
【0006】
本発明は、1ピースホイールのハブ取付部の表裏方向位置を容易に調整することができ、かつ製造コストの増大を抑制し得る車両用ホイールの製造方法およびその車両用ホイールを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表側壁部を有するウエル部と表側リムフランジ部と表側ビードシート部とを備えたリム部と、前記表側リムフランジ部に連成されるディスク外周縁部を備えたディスク部とが、一枚の板状基材をプレス加工することにより一体成形されてなる車両用ホイールの製造方法において、リム部の表側リムフランジ部、表側ビードシート部、および表側壁部と、ディスク部のディスク外周縁部とを重ねるように成形した後に、ディスク部を表方へ押し出し加工することにより、ディスク外周縁部と表側壁部とを少なくとも一部離間させて、ディスク部を所定の表裏方向位置に位置決めする位置決め工程を実行することを特徴とする車両用ホイールの製造方法である。
【0008】
かかる製造方法によれば、位置決め工程によりディスク部の表裏方向位置を位置決めできることから、これに伴って該ディスク部のハブ取付部を所望の表裏方向位置に位置決めできる。すなわち、位置決め工程によって、ハブ取付部の表裏方向位置を比較的容易に調整できる。このように本発明は、ディスク外周縁部とウエル部の表側壁部とを重ねるように成形した後に、位置決め工程を行うようにした製造方法であることから、実質的に、従来の1ピースホイールの製造工程に位置決め工程を適宜追加することのみで、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる車両用ホイールを製造できる。したがって、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる車両用ホイールを、低コストで製造可能である。
【0009】
尚、位置決め工程では、ディスク部の表裏方向位置を調整することから、所望の表裏方向位置に応じて、押し出し加工によるディスク部の変位が決まる。そのため、位置決め工程により、ディスク外周縁部と表側壁部とが部分的に離間する場合または全体的に離間する場合のいずれもあり得る。
【0010】
上述した車両用ホイールの製造方法において、板状基材の中央領域に、ディスク部を確保するための凹部を表方へ突出するように成形する予備絞り工程と、前記凹部の中央領域からディスク部のハブ取付部を成形すると共に、該ハブ取付部から外側へ連成されて表方へ突出する外輪山状の中間加工部を成形するディスク内側成形工程と、前記中間加工部から連成する外側環状領域を裏方へ絞り加工することにより円筒部を成形する円筒部成形工程と、前記中間加工部と該中間加工部から連成する円筒部の表側端部とから、ディスク部のハット部とアウターリム素形部とを成形するディスク外側成形工程と、前記アウターリム素形部から、リム部の表側リムフランジ部、表側ビードシート部、および表側壁部と、ディスク部のディスク外周縁部とを重ねるように成形するアウターリム成形工程と、ディスク部を表方へ押し出し加工することにより、前記ディスク外周縁部と前記表側壁部とを少なくとも一部離間させて、ディスク部を所定の表裏方向位置に位置決めする位置決め工程と、円筒部の開口端部に、リム部の裏側リムフランジ部と裏側ビードシート部とを成形するインナーリム成形工程とを備えている製造方法が提案される。
【0011】
ここで、インナーリム成形工程は、円筒部成形工程の後に実行されれば良く、その実行順番を適宜設定可能である。さらに、インナーリム成形工程は、円筒部成形工程の後であれば、他の工程と共に実行されても、別に実行されても良い。
【0012】
かかる製造方法は、アウターリム成形工程によりディスク外周縁部とウエル部の表側壁部とを重ねるように成形した後に、位置決め工程によりディスク部を位置決めすることから、リム部の表側リムフランジ部、表側ビードシート部、および表側壁部の各形状が同じであり、かつハブ取付部の表裏方向位置が異なる車両用ホイールを容易に製造できる。
【0013】
上述した本発明にかかる車両用ホイールの製造方法において、ウエル部の表側壁部とディスク部のディスク外周縁部とに、該表側壁部を貫通してエアバルブを固定する固定孔と、該ディスク外周縁部を貫通してエアバルブを挿通可能な挿通孔とからなるバルブ孔を穿設する孔穿設工程を備えている製造方法が提案される。
【0014】
本発明の製造方法により製造される車両用ホイールは、上述したようにウエル部の表側壁部とディスク外周縁部との少なくとも一部が離間している。そのため、表側壁部とディスク外周縁部との両者を表裏方向に貫通するようにバルブ孔を形成する。そして、表側壁部に形成した固定孔でエアバルブを固定し、ディスク外周縁部に形成した挿通孔でエアバルブを固定しないようにする。これにより、エアバルブを表側壁部にのみ固定できる。ここで、車両用ホイールには、車両走行中に作用する負荷によって、ディスク部とリム部とが繰返し弾性変形する。1ピースホイールの場合には、ディスク部のディスク外周縁部と該ディスク外周縁部と連成するリム部の表側開口縁とが、相対的に表裏方向や内外方向に夫々に繰返し弾性変形する振れ(以下、繰返し振れ変形と言う)を生ずる。このような繰返し振れ変形が生じても、前記のようにエアバルブがリム部にのみ固定されていることから、エアバルブの固定状態を比較的長期に亘って良好に保ち得る。
【0015】
尚、孔穿設工程は、位置決め工程の後に実行することが好適である。これは、表側壁部とディスク外周縁部とが少なくも一部離間している状態で孔穿設工程を行うことにより、挿通孔を穿設するための加工具によって表側壁部の内周面が傷付き難いように、該加工具を作動制御し易いためである。
【0016】
一方、本発明は、表側壁部を有するウエル部と表側リムフランジ部と表側ビードシート部とを備えたリム部と、前記表側リムフランジ部に連成されるディスク外周縁部を備えたディスク部とが、一枚の板状基材をプレス加工することにより一体成形されてなる車両用ホイールにおいて、リム部の表側リムフランジ部、表側ビードシート部、および表側壁部と、ディスク部のディスク外周縁部とを重ねるように成形した後に、ディスク部を表方へ押し出し加工することにより、ディスク外周縁部と表側壁部とを少なくとも一部離間させて、ディスク部が所定の表裏方向位置に位置決めされていることを特徴とする車両用ホイールである。
【0017】
かかる構成の車両用ホイールは、上述した本発明の車両用ホイールの製造方法により好適に製造されるものであり、ハブ取付部の表裏方向位置を所望位置とした構成として安定的に製造され得る。さらに、本構成の車両用ホイールは、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる車両用ホイールとして、低コストで製造され得る。
【0018】
ここで、車両用ホイールには、上述したように、表側壁部に形成された固定孔とディスク外周縁部に形成された挿通孔とから構成されるバルブ孔を備えた構成が好適である。かかる構成によれば、上述したように、車両走行中に生ずる繰返し振れ変形によっても、エアバルブの固定状態を比較的長期に亘って良好に保ち得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用ホイールの製造方法は、1ピースホイールを構成するリム部のウエル部の表側壁部とディスク部のディスク外周縁部とを重ねるように成形した後に、ディスク部を表方へ押し出し加工することにより、ディスク外周縁部と表側壁部とを少なくとも一部離間させて、ディスク部を所定の表裏方向位置に位置決めするようにした方法であるから、ディスク部のハブ取付部の表裏方向位置を比較的容易に調整することができる。さらに、ディスク部を押し出し加工する位置決め工程を追加するのみで、ディスク部の表裏方向位置を調整できるため、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる車両用ホイールを、低コストで製造可能である。
【0020】
本発明の車両用ホイールは、1ピースホイールを構成するリム部のウエル部の表側壁部とディスク部のディスク外周縁部とを重ねるように成形した後に、ディスク部を表方へ押し出し加工することにより、ディスク外周縁部と表側壁部とを少なくとも一部離間させて、ディスク部が所定の表裏方向位置に位置決めされた構成であるから、ディスク部のハブ取付部の表裏方向位置を所定位置とした構成として安定して製造される。さらに、本発明の車両用ホイールは、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる車両用ホイールとして低コストで製造され得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかる自動車用ホイール1の縦断面図である。
【図2】自動車用ホイール1の製造過程を示す説明図である。
【図3】ディスク外側成形工程における第一プレス加工を示す説明図である。
【図4】同上のディスク外側成形工程における第二プレス加工を示す説明図である。
【図5】同上のディスク外側成形工程における第三プレス加工を示す説明図である。
【図6】同上のディスク外側成形工程における第四プレス加工を示す説明図である。
【図7】アウターリム成形工程における加工説明図である。
【図8】位置決め工程における加工説明図である。
【図9】バルブ孔21にエアバルブ101を装着する態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施例を添付図面を用いて詳述する。
本発明にかかる車両用ホイールの製造方法により製造したスチール製の自動車用ホイール1を、図1に示す。この自動車用ホイール1が、本発明にかかる車両用ホイールである。
【0023】
図1,2のように、自動車用ホイール1は、一枚の板状基材30(図2(A)参照)をプレス加工することによりリム部2とディスク部3とが一体成形されてなるものである。ここで、リム部2の表側開口縁に形成された表側リムフランジ部10aとディスク部3のディスク外周縁部20とが折り重ねられており、リム部2とディスク部3とが連成されている。
【0024】
本実施例にあって、ディスク部3の背面側から意匠面側へ向かう方向を表方とし、逆向きを裏方としている。また、自動車用ホイール1の中心軸線Lと直交するホイール径方向に沿って、該中心軸線Lへ向かう方向を内方とし、逆向きを外方としている。
【0025】
リム部2は、異形断面の円筒状を成し、その表裏両側の開口縁に図示しないタイヤのビードを支持する表裏のリムフランジ部10a,10bとビードシート部11a,11bとが形成されている。さらに、表裏のビードシート部11a,11bの間には、径方向内方へ窪むウエル部13が周成されている。そして、ウエル部13の表側壁部13aと表側ビードシート部11aとが連成され、かつウエル部13の裏側壁部13bと裏側ビードシート部11bとが連成されている。尚ここで、表側リムフランジ部10a、表側ビードシート部11a、およびウエル部13の表側壁部13aにより、いわゆるアウターリム部8を構成している。
【0026】
一方、ディスク部3は、略円盤状を成し、中央にハブ孔16が開口されたハブ取付部15が形成されており、該ハブ取付部15には、ハブ孔16の周囲にナット座を備えた複数のボルト孔17が同一円周上に等間隔で穿設されている。このハブ取付部15の外周縁から表方へ隆起する環状のハット部18が形成されている。このハット部18には、複数の飾り孔19が同一円周上に等間隔で開口形成されている。また、ハット部18の外周縁にディスク外周縁部20が連成されており、該ディスク外周縁部20が上記した表側リムフランジ部10aに連成されている。
【0027】
ここで、ディスク外周縁部20は、表側リムフランジ部10aと重なるフランジ対向部25と、表側ビードシート部11aと重なるビードシート対向部26と、ウエル部13の表側壁部13aに対向する表側壁部対向部27とから構成されている。本実施例の場合には、前記表側壁部対向部27が、ウエル部13の表側壁部13aと全体的に離間した構成としている。尚、ディスク外周縁部は本構成に限定されず、例えば、表側壁部対向部が、表側壁部13aと部分的に重なり且つ一部離間するように設けられた構成としても良い。
【0028】
また、上記したウエル部13の表側壁部13aとディスク外周縁部20の表側壁部対向部27とにバルブ孔21(図9参照)が形成されている。このバルブ孔21は、表側壁部13aに形成された固定孔21aと、表側壁部対向部27に形成された挿通孔21bとを備えている。ここで、挿通孔21bは、後述するエアバルブ101を挿通可能とするように、固定孔21aに比して大きい孔径により形成されている。また、バルブ孔21の挿通孔21bは、エアバルブ101を挿通する孔径に形成されていることから、表側壁部13aとディスク外周縁部20とを離間して形成された空隙に溜まり易い雨水等を排水できる水抜き孔としての作用効果も奏し得る。
【0029】
次に、本発明にかかる車両用ホイールの製造方法について説明する。この車両用ホイールの製造方法により、上記した自動車用ホイール1を製造できる。
この製造方法は、プレス装置と各種金型を用いた加工により行われる複数の工程からなる。この製造工程としては、予備絞り工程、ディスク内側成形工程、円筒部成形工程、インナーリム成形工程、ディスク外側成形工程、アウターリム成形工程、位置決め工程、飾り孔成形工程、孔穿設工程とを順次実行する。以下に、各工程について詳述する。
【0030】
予備絞り工程では、図2(A)のように、スチール製の平板から所定の円盤状に打抜き加工した板状基材30(二点鎖線により図示)を、皿状素形体31に成形する。予備絞り工程では三回の絞り加工を段階的に行い、比較的深い凹部32を備えた皿状素形体31を形成する。この皿状素形体31は、その凹部32が円形状の凹部底面部33とその周囲の周壁部34とから構成されており、該凹部32の周囲に円環板状の鍔部35を備えている。さらに、この予備絞り工程では、凹部32の中心位置に位置決め用の下孔(図示せず)を穿設し、該下孔に所定のロケーションピンを貫挿して加工を行うことにより、中心位置を正確に保っている。尚、鍔部35が、本発明にかかる外側環状領域である。
【0031】
このような予備絞り工程の後に、次のディスク内側成形工程を実行する。ディスク内側成形工程では、図2(B)のように、皿状素形体31の凹部底面部33の中央領域を絞り加工することにより、ハブ取付部15を形成すると共に、該凹部底面部33の外周縁部と周壁部34とを絞り加工することにより、上方に隆起した外輪山状の中間加工部36を形成する。ここで、ディスク内側成形工程では、凹部底面部33の下孔に所定のロケーションピンを貫挿して位置決めし、鍔部35を表裏両側から挟持した状態で、所定の金型により絞り加工する。
【0032】
さらに、ハブ取付部15と中間加工部36とを形成した後、図示しない穿設加工によって、上記下孔に中心を一致させ且つ該下孔より若干径大なハブ基孔(図示せず)を穿設する。
【0033】
このようなディスク内側成形工程の後に、次の円筒部成形工程を実行する。円筒部成形工程では、上記した中間加工部36の外側にある鍔部35を裏方へ絞り加工することにより、図2(C)のように、リム部2のウエル部13と同じ外径寸法の円筒部38を形成する。ここで、円筒部成形工程では、四段階の絞り加工を行うことによって、所望の外径寸法へ徐々に縮径していくようにして、円筒部38を形成する。これにより、円筒部38にシワや割れ等が生じることを抑制でき、該シワ等の生じていない円筒部38を形成できる。また、この円筒部成形工程では、上記ハブ基孔の孔縁を上方に曲成してハブ孔16を形成する。さらに、円筒部成形工程の絞り加工によって、円筒部38の裏側開口縁にインナーリム素形部40を周成する。
【0034】
このような円筒部成形工程の後に、図2(D)のように、上記したインナーリム素形部40から裏側リムフランジ部10bと裏側ビードシート部11bとを成形する工程を実行する。ここで、上記した円筒部成形工程によるインナーリム素形部40の形成から、裏側リムフランジ部10bと裏側ビードシート部11bとを成形するまでが、裏側リムフランジ部10bと裏側ビードシート部11bとを成形するインナーリム成形工程である。
【0035】
上述した予備絞り工程、ディスク内側成形工程、円筒部成形工程、インナーリム成形工程については、それぞれの工程における金型やその作動態様等の詳細を省略する。
【0036】
上記したインナーリム成形工程の後に、ディスク外側成形工程を実行する。ディスク外側成形工程では、図2(E)のように、ハット部18とアウターリム素形部42とを形成する。ここで、ディスク外側成形工程では、四段階のプレス加工に分けて実行する。これにより、シワや割れ等が発生することを抑制できる。そのため、この後に実行するアウターリム成形工程にあっても、シワや割れ等を生じ難くできる。
【0037】
このディスク外側成形工程による四段階のプレス加工について、図3〜6を用いて説明する。第一プレス加工は、図3(A)のように、フロートダイ81、内側支持金型82、環状押圧リング83、外面支持リング84、およびインナー支持リング85を用いて行う。ここで、フロートダイ81は、中間加工部36の内側周端部とハブ取付部15の外周縁部とをその上面から支持するためのものである。内側支持金型82は、ハブ取付部15の下面を支持し且つその外側にハット部18の頂上部分を成形するための湾曲凸部82aを備えたものである。環状押圧リング83は、下方に突出する押圧凸部83aが周成され、かつ該押圧凸部83aの外側に上方へ窪んだ押圧凹部83bが周成されたものである。外面支持リング84は、円筒部38の表側端部38bを除く中間筒部38aを、その外周面に当接して支持するためのものであり、裏側リムフランジ部10bと裏側ビードシート部11bとに当接しない形状となっている。インナー支持リング85は、裏側リムフランジ部10bと裏側ビードシート部11bとをその裏面から支持するためのものである。この第一プレス加工では、図3(A)のように、外面支持リング84により円筒部38の中間筒部38aを支持すると共に、インナー支持リング85により裏側リムフランジ部10bと裏側ビードシート部11bとを支持する。そして、フロートダイ81を中間加工部36とハブ取付部15の上面に当接して降下することにより、内側支持金型82と共に該中間加工部36の内側周端部およびハブ取付部15の外周縁部を挟持してホールドする。このフロートダイ81の降下と共に、環状押圧リング83を降下する。これにより、図3(B)のように、ハット部18の内側傾斜部分を形成すると共に、中間加工部36の中央部分を押圧して凹状として、前記内側傾斜部分の外周に上方へ突出する断面U字形の第一アウターリム素形部42aを形成する。
【0038】
次の第二プレス加工は、図4(A)のように、フロートダイ81、内側支持金型82、インナー支持リング85、環状押圧リング86、および外面支持リング87を用いて行う。ここで、フロートダイ81と内側支持金型82とインナー支持リング85とは、上記した第一プレス加工と同じ構成のものを用いる。尚、内側支持金型82は、上記した湾曲凸部82aの外側に、ハット部18の外側傾斜部分を加工するための下挟持部82bを備えている。一方、環状押圧リング86は、下方へ突出する押圧凸部86aが周成されたものである。外面支持リング87は、円筒部38の中間筒部38aおよび第一アウターリム素形部42aの外周面を支持するためのものである。この第二プレス加工では、図4(A)のように、フロートダイ81と内側支持金型82とによりハット部18の内側傾斜部分を挟持してホールドする。さらに、外面支持リング87により前記中間筒部38aの外周面と第一アウターリム素形部42aの外周面とを支持する。図4(B)のように、環状押圧リング86を降下することにより、該環状押圧リング86の押圧凸部86aの内側部分と内側支持金型82の下挟持部82bとの挟圧によってハット部18の外側傾斜部分を形成して該ハット部18を形成する。さらに、環状押圧リング86の降下により、該環状押圧リング86の押圧凸部86aの外側部分と外面支持リング87とによって第一アウターリム素形部42aを挟圧して、該第一アウターリム素形部42aに比して内外幅を狭くした断面U字形の第二アウターリム素形部42bを形成する。
【0039】
次の第三プレス加工は、図5(A)のように、内側支持金型82、インナー支持リング85、フロートダイ88、および外側押圧リング89を用いて行う。ここで、内側支持金型82とインナー支持リング85とは、上記した第一プレス加工と同じ構成のものを用いる。一方、フロートダイ88は、第二アウターリム素形部42bを内側から押圧する押圧部88aを備え、ハット部18の上面を支持するためのものである。外側押圧リング89は、第二アウターリム素形部42bを外側から押圧する押圧凸部89aを備えたものである。この第三プレス加工では、図5(A)のように、内側支持金型82によりハット部18とハブ取付部15とを下方から支持する。そして、図5(B)のように、フロートダイ88の押圧部88aと外側押圧リング89の押圧凸部89aとにより第二アウターリム素形部42bを挟圧する。これにより、第二アウターリム素形部42bの中間部分を内方へ凹ませた第三アウターリム素形部42cを形成する。
【0040】
次の第四プレス加工は、図6(A)のように、内側支持金型82、外面支持リング84、インナー支持リング85、フロートダイ90、および環状ダイス91を用いて行う。ここで、内側支持金型82と外面支持リング84とインナー支持リング85とは、上記した第一プレス加工と同じ構成のものを用いる。一方、フロートダイ90は、ハット部18をその上面から支持するためのものである。環状ダイス91は、上記した第三アウターリム素形部42cを外側に湾曲させる湾曲押圧部91aが周成されたものである。この第四プレス加工では、図6(A)のように、フロートダイ90と内側支持金型82とによりハット部18を支持する。そして、図6(B)のように、環状ダイス91を降下することにより、第三アウターリム素形部42cを外側に湾曲させて、アウターリム素形部42を形成する。
【0041】
このようなディスク外側成形工程の後に、アウターリム成形工程を実行する。アウターリム成形工程では、図2(F)のように、アウターリム部8を成形する。詳述すると、アウターリム成形工程は、図7(A)のように、内側支持金型82、インナー支持リング85、フロートダイ92、環状ダイス93、及び押圧リング金型94を用いて行う。ここで、内側支持金型82とインナー支持リング85とは、上記した第一プレス加工と同じ構成のものを用いる。一方、フロートダイ92は、ハット部18の内側傾斜部分とハブ取付部15の外周縁部とをその上面から支持するためのものである。環状ダイス93は、フロートダイ92の外側に配され、ハット部18の外側傾斜部分を整形するためのハット整形部93aと、アウターリム素形部42を上方から押圧加工する表側成形部93bとが周成されたものである。押圧リング金型94は、前記表側成形部93bと共にアウターリム素形部42を挟圧する外側成形部94aが周成され、該アウターリム素形部42をその外側から挟圧するためのものである。加えて、この押圧リング金型94により、該外側成形部94aの下側で上記中間筒部38aを支持する。
【0042】
このアウターリム成形工程では、図7(A)のように、フロートダイ92と内側支持金型82とによりハット部18の内側傾斜部分とハブ取付部15の外周縁部とを挟持してホールドする。さらに、押圧リング金型94により中間筒部38aを支持する。そして、図7(B)のように、環状ダイス93を降下することにより、該環状ダイス93の表側成形部93bと押圧リング金型94の外側成形部94aとによりアウターリム素形部42を挟圧する。これにより、上記した表側リムフランジ部10a、表側ビードシート部11a、ウエル部13の表側壁部13a、これらの形状に倣うようにして夫々に重なるフランジ対向部25、ビードシート対向部26、表側壁部対向部27aとを形成する。すなわち、アウターリム部8を形成すると共に、フランジ対向部25、ビードシート対向部26および表側壁部対向部27aからなるディスク外周縁部20aを形成する。さらに、環状ダイス93のハット整形部93aと内側支持金型82の下挟持部82bとによって、ハット部18の外側傾斜部分が整形される。さらにまた、表側ビードシート部11aと裏側ビードシート部11bとの間にウエル部13が形成される。
【0043】
このようなアウターリム成形工程の後に、位置決め工程を実行する。位置決め工程では、図2(G)のように、ディスク部3の表裏方向位置を位置決めする。詳述すると、位置決め工程は、図8(A)のように、フロートダイ95、裏支持金型96、および環状支持ダイス97を用いる。ここで、フロートダイ95は、ハット部18の上面全体を支持するためのものである。裏支持金型96は、ハット部18の下面全体およびハブ取付部15の下面を支持するためのものである。環状支持ダイス97は、フロートダイ95の外側に配され、上記したフランジ対向部25の上面とビードシート対向部26の表側寄りの内周面とに当接して支持する支持凸部97aを備えたものである。
【0044】
この位置決め工程は、図8(A)のように、フロートダイ95と裏支持金型96とにより、ディスク部3のハット部18を挟持すると共に、環状支持ダイス97により、フランジ対向部25およびビードシート対向部26を支持する。そして、図8(B)のように、フロートダイ95と裏支持金型96とを昇動することにより、ディスク部3をリム部2に対して上方(表方)へ押し出す。ここで、フロートダイ95と裏支持金型96とを昇動する変位を制御することにより、ディスク部3とリム部2との相対的な表裏方向位置を決めることができる。すなわち、ディスク部3の表裏方向位置を所望の位置に位置決めすることができ、これに伴ってハブ取付部15を所望の表裏方向位置に位置決めできる。
【0045】
尚、この位置決め工程により、上記したフロートダイ95と裏支持金型96との昇動に伴って、表側壁部対向部27aが、ウエル部13の表側壁部13aから離間していく。本実施例では、図2(G),8(B)のように、ウエル部13の表側壁部13aと全体的に離間した形態の表側壁部対向部27を形成している。このようにして、フランジ対向部25、ビードシート対向部26、表側壁部対向部27とから構成されるディスク外周縁部20が形成される。尚、これに限らず、位置決め工程でフロートダイ95と裏支持金型96とを昇動する変位を小さく設定することにより、表側壁部対向部と表側壁部13aとの一部が離間するディスク外周縁部を形成することもできる。
【0046】
このような位置決め工程の後に、図示しない飾り孔成形工程を実行する。この飾り孔成形工程では、プレス加工によりハット部18に複数の飾り孔19(図1参照)を形成する。ここで、飾り孔成形工程には、従来のプレス加工と同じ加工方法を適用できるため、その詳細については省略する。
【0047】
このような飾り孔成形工程の後に、図示しない孔穿設工程を実行する。この孔穿設工程では、上記したウエル部13の表側壁部13aと表側壁部対向部27とにバルブ孔21(図1,9参照)を形成する。ここで、バルブ孔21は、ディスク部3の表側から、固定孔用のエンドミルを表側壁部対向部27および表側壁部13aに穿つことにより、表側壁部13aに固定孔21aを形成しかつ表側壁部対向部27に下孔を形成する。その後、固定用のエンドミルよりも径大な挿通孔用のエンドミルを表側壁部対向部27の下孔部分に穿つことにより、表側壁部対向部27に挿通孔21bを形成する。固定孔21aは、後述するエアバルブ101を固定するためのものであり、該エアバルブ101を嵌入する所定孔径に設定される。挿通孔21bは、エアバルブ101を挿通するように、固定孔21aに比して大きい孔径に設定される。そして、リム部2の表側壁部13aとディスク部3の表側壁部対向部27とが離間していることから、挿通孔用のエンドミルによる加工の際に、当該エンドミルにより表側壁部13aの内周面を傷付け難いという作用効果を奏する。
【0048】
上述した各工程を順次実行する本実施例の製造方法では、アウターリム成形工程により、表側リムフランジ部10a、表側ビードシート部11aおよび表側壁部13aと、フランジ対向部25、ビードシート対向部26、および表側壁部対向部27aとをその板厚方向で重ね合うように形成する。その後、位置決め工程により、ディスク部3を表方へ押し出して、ディスク部3の表裏方向位置を位置決めする。これに伴って、前記表側壁部13aと離間した表側壁部対向部27が形成される。かかる本実施例の製造方法によれば、ディスク部3のハブ取付部15の表裏方向位置を、所望の位置に容易かつ安定して位置決めすることができる。このように、従来の1ピースホイール(自動車用ホイール)の製造工程に位置決め工程を追加するのみで、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる自動車用ホイール1を製造できる。そのため、ハブ取付部の表裏方向位置が異なる自動車用ホイール1を、低コストで製造できる。特に、アウターリム部の形状が同じであり且つハブ取付部の表裏方向位置が異なる自動車用ホイールを、一層容易かつ安定して製造できる。
【0049】
この自動車用ホイール1のバルブ孔21にエアバルブ101を装着する態様について説明する。図9のように、エアバルブ101は、金属製のクランプタイプのものであり、バルブ本体102、キャップ103、固定用ナット108、およびシール部材107,109を備えている。ここで、バルブ本体102は、先端にエア注入口(図示せず)を備え且つ末端に円板状の支持部104を備えると共に、エア注入口と支持部104との間の主胴部の外表面部にネジ部105が形成されている。キャップ103は、前記エア注入口を閉鎖するものであり、ネジ部105の先端部に螺合される。固定用ナット108は、バルブ本体102を固定するためのものであり、ネジ部105に螺合される。シール部材107は、円環状を成し、支持部104とウエル部13の表側壁部13aとの間に介装するためのものである。シール部材109は、円環状を成し、固定用ナット108と表側壁部13aの表側との間に介装するためのものである。このエアバルブ101を装着する際には、図9(A)のように、シール部材107を嵌めたバルブ本体102をウエル部13の外側から固定孔21aに嵌挿し、シール部材109を介して固定用ナット108をバルブ本体102に螺合することにより、バルブ孔21の固定孔21aに固定する。この固定状態では、前記シール部材107,109が固定孔21aの孔周縁に密着し、該固定孔21aからのエア漏れを防止できる。そして、バルブ本体102の主胴部および固定用ナット108が、固定孔21aよりも表側に突出し、挿通孔21bに挿通した状態となる。そして、キャップ103を取り付けることにより、図9(B)のように、当該エアバルブ101がバルブ孔21に装着される。ここで、エアバルブ101は、バルブ孔21の固定孔21aに固定されており、挿通孔21bには固定されていない。すなわち、エアバルブ101は、リム部2のウエル部13の表側壁部13aにのみ固定されている。
【0050】
エアバルブ101を装着した自動車用ホイール1には、車両の走行中に、タイヤや車軸などから負荷を受ける。当該自動車用ホイール1は、リム部2の表側リムフランジ部10aおよび表側ビードシート部11aと、ディスク部3のフランジ対向部25およびビードシート対向部26とが重なっていることから、アウターリム部8とディスク外周縁部20とが互いに面接触する方向と離間する方向とに繰返し振れ変形し易い。この繰返し振れ変形した場合にあっても、エアバルブ101は固定孔21aのみに固定されていることから、該エアバルブ101の固定状態を比較的長期に亘って良好に維持できる。そのため、前記繰返し振れ変形によってエア漏れ等が発生することを抑制できる。
【0051】
尚、このような作用効果は、図示しないゴム製のスナップインタイプのエアバルブを装着しても同様に発揮される。
【0052】
本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、実施例以外の構成についても本発明の趣旨の範囲内で適宜実施可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 自動車用ホイール(車両用ホイール)
2 リム部
3 ディスク部
10a 表側リムフランジ部
10b 裏側リムフランジ部
11a 表側ビードシート部
11b 裏側ビードシート部
13 ウエル部
13a 表側壁部
15 ハブ取付部
18 ハット部
20,20a ディスク外周縁部
21 バルブ孔
21a 固定孔
21b 挿通孔
30 板状基材
32 凹部
35 鍔部(外側環状領域)
36 中間加工部
38 円筒部
42 アウターリム素形部
101 エアバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側壁部を有するウエル部と表側リムフランジ部と表側ビードシート部とを備えたリム部と、前記表側リムフランジ部に連成されるディスク外周縁部を備えたディスク部とが、一枚の板状基材をプレス加工することにより一体成形されてなる車両用ホイールの製造方法において、
リム部の表側リムフランジ部、表側ビードシート部、および表側壁部と、ディスク部のディスク外周縁部とを重ねるように成形した後に、
ディスク部を表方へ押し出し加工することにより、ディスク外周縁部と表側壁部とを少なくとも一部離間させて、ディスク部を所定の表裏方向位置に位置決めする位置決め工程を実行することを特徴とする車両用ホイールの製造方法。
【請求項2】
板状基材の中央領域に、ディスク部を確保するための凹部を表方へ突出するように成形する予備絞り工程と、
前記凹部の中央領域からディスク部のハブ取付部を成形すると共に、該ハブ取付部から外側へ連成されて表方へ突出する外輪山状の中間加工部を成形するディスク内側成形工程と、
前記中間加工部から連成する外側環状領域を裏方へ絞り加工することにより円筒部を成形する円筒部成形工程と、
前記中間加工部と該中間加工部から連成する円筒部の表側端部とから、ディスク部のハット部とアウターリム素形部とを成形するディスク外側成形工程と、
前記アウターリム素形部から、リム部の表側リムフランジ部、表側ビードシート部、および表側壁部と、ディスク部のディスク外周縁部とを重ねるように成形するアウターリム成形工程と、
ディスク部を表方へ押し出し加工することにより、前記ディスク外周縁部と前記表側壁部とを少なくとも一部離間させて、ディスク部を所定の表裏方向位置に位置決めする位置決め工程と、
円筒部の開口端部に、リム部の裏側リムフランジ部と裏側ビードシート部とを成形するインナーリム成形工程と
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両用ホイールの製造方法。
【請求項3】
ウエル部の表側壁部とディスク部のディスク外周縁部とに、該表側壁部を貫通してエアバルブを固定する固定孔と、該ディスク外周縁部を貫通してエアバルブを挿通可能な挿通孔とからなるバルブ孔を穿設する孔穿設工程を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用ホイールの製造方法。
【請求項4】
表側壁部を有するウエル部と表側リムフランジ部と表側ビードシート部とを備えたリム部と、前記表側リムフランジ部に連成されるディスク外周縁部を備えたディスク部とが、一枚の板状基材をプレス加工することにより一体成形されてなる車両用ホイールにおいて、
リム部の表側リムフランジ部、表側ビードシート部、および表側壁部と、ディスク部のディスク外周縁部とを重ねるように成形した後に、ディスク部を表方へ押し出し加工することにより、ディスク外周縁部と表側壁部とを少なくとも一部離間させて、ディスク部が所定の表裏方向位置に位置決めされていることを特徴とする車両用ホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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