説明

車両用ロックアップクラッチの制御装置

【課題】係合状態を定める油圧の学習ばらつきを抑制する車両用ロックアップクラッチの制御装置を提供する。
【解決手段】ロックアップクラッチ26の係合制御中に無段変速機18の変速制御が行われる場合であって、その無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度NINとの偏差ΔNINが規定の範囲内である場合には、油圧学習制御を実行するものであることから、無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度NINとの偏差ΔNINが規定の範囲内であり、その無段変速機18のオーバーシュートが発生していないと判定される場合に油圧学習制御を実行することで、学習ばらつきが発生し難い好適な学習制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ロックアップクラッチの制御装置に関し、特に、その係合状態を定める油圧の学習ばらつきを抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと変速機との間に設けられたトルクコンバータと、係合によりそのトルクコンバータにおける入力回転部材と出力回転部材とを直結するロックアップクラッチとを、備えた車両が知られている。斯かるロックアップクラッチに関して、その係合状態を定める油圧(ロックアップクラッチ差圧)の学習制御を行う車両用ロックアップクラッチの制御装置が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたロックアップ制御装置がそれである。この技術によれば、指示電流とロックアップ差圧との関係を示すIP特性を初期設定しておき、ロックアップクラッチの切替制御の開始から終了までに要する切替時間を測定し、その切替時間に応じてIP特性を学習制御することで、個体ばらつきによるロックアップクラッチの締結タイミングのばらつきを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−232160号公報
【特許文献2】特開2010−133451号公報
【特許文献3】特開2006−144977号公報
【特許文献4】特開2010−209942号公報
【特許文献5】特開2004−245290号公報
【特許文献6】特開平08−054055号公報
【特許文献7】特開2005−291345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベルト式無段変速機(CVT)をはじめとする無段変速機を備えた車両では、その無段変速機の変速時に目標入力回転速度に対する実際の入力回転速度のオーバーシュートが発生するおそれがある。このため、無段変速機の変速時に斯かるオーバーシュートを抑制する制御が行われる。しかし、前記従来の技術では、前記ロックアップクラッチの係合制御中に必ずしも前記無段変速機における変速時のオーバーシュートを抑制する制御が実行されるとは限らなかった。前記無段変速機のオーバーシュートが発生している状態で前記ロックアップクラッチの係合制御中における油圧学習制御が行われると正しい学習が行われず、学習ばらつきにより前記ロックアップクラッチの係合ショックや燃費悪化等の要因となるおそれがあった。このような課題は、ロックアップクラッチの係合制御における学習ばらつきの抑制を意図して本発明者等が鋭意研究を続ける過程において新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、係合状態を定める油圧の学習ばらつきを抑制する車両用ロックアップクラッチの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、エンジンと無段変速機との間に設けられたトルクコンバータと、係合によりそのトルクコンバータにおける入力回転部材と出力回転部材とを直結するロックアップクラッチとを、備えた車両において、そのロックアップクラッチの係合制御中における油圧学習制御を行う車両用ロックアップクラッチの制御装置であって、前記ロックアップクラッチの係合制御中に前記無段変速機の変速制御が行われる場合であって、その無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が規定の範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、前記ロックアップクラッチの係合制御中に前記無段変速機の変速制御が行われる場合であって、その無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が規定の範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行するものであることから、前記無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が規定の範囲内であり、その無段変速機のオーバーシュートが発生していないと判定される場合に前記油圧学習制御を実行することで、学習ばらつきが発生し難い好適な学習制御を行うことができる。すなわち、係合状態を定める油圧の学習ばらつきを抑制する車両用ロックアップクラッチの制御装置を提供することができる。
【0008】
前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記無段変速機における変速時のオーバーシュートを抑制する制御が実行されておらず、且つ、その無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が前記範囲外である場合には、前記油圧学習制御を禁止するものである。このようにすれば、前記無段変速機のオーバーシュートが発生しているおそれが高い場合に前記学習制御を禁止することで、誤った学習が行われるのを好適に抑制することができる。
【0009】
前記第1発明乃至第2発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、前記無段変速機における変速時のオーバーシュートを抑制する制御が実行されていない場合であっても、その無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が前記範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行するものである。このようにすれば、前記無段変速機のオーバーシュートが発生していないと判定される場合に前記油圧学習制御を実行することで、学習ばらつきが発生し難い好適な学習制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が好適に適用される車両におけるエンジンから駆動輪までの動力伝達経路の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1の車両におけるロックアップクラッチ等を制御するために設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】図1の車両に備えられた油圧制御回路のうち無段変速機のベルト挟圧力制御及び変速比制御等に関する要部を示す油圧回路図である。
【図4】図1の車両に備えられた油圧制御回路のうちロックアップクラッチの作動制御等に関する要部を示す油圧回路図である。
【図5】図1の車両に備えられた無段変速機の変速制御において目標入力回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図6】図1の車両に備えられた無段変速機の挟圧力制御において変速比等に応じて必要油圧を求める必要油圧マップの一例を示す図である。
【図7】図1の車両におけるスロットル弁開度をパラメータとしてエンジン回転速度とエンジントルクとの予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図8】図1の車両に備えられたトルクコンバータの所定の作動特性として予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図9】図1の車両に備えられた電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図10】図1の車両において、ロックアップクラッチの油圧学習制御が正しく行われず、燃費が悪化する場合を示している。
【図11】図1の車両において、ロックアップクラッチの油圧学習制御が正しく行われず、係合ショックが発生する場合を示している。
【図12】図2の電子制御装置による本実施例のロックアップ学習制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記無段変速機は、好適には、有効径が可変である駆動側プーリ(入力側可変プーリ)及び従動側プーリ(出力側可変プーリ)と、それら駆動側プーリ及び従動側プーリの間に巻き掛けられた伝動ベルトとを、有するベルト式無段変速機である。前記ロックアップクラッチは、好適には、前記トルクコンバータの係合側油室及び解放側油室それぞれに供給される油圧の差圧に応じて係合状態が制御される油圧式摩擦係合装置である。すなわち、前記油圧学習制御は、好適には、前記ロックアップクラッチの係合制御中における前記差圧に係る学習制御である。
【0012】
前記油圧学習制御は、好適には、前記ロックアップクラッチが解放された状態から係合された状態(ロックアップ状態)への移行に係る係合油圧制御において、その油圧制御の開始から前記ロックアップクラッチの係合が実際に開始されるまでの時間の学習制御を行う。このロックアップクラッチの係合開始は、好適には、前記差圧の制御開始時点から規定時間が経過した時点における前記ロックアップクラッチの入出力回転速度差を基準回転速度差として、その基準回転速度差から入出力回転速度差が規定の閾値だけ低下した時点をもってロックアップクラッチの係合開始タイミングと判定する。
【0013】
前記オーバーシュート抑制制御は、好適には、前記無段変速機の変速時において、その無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が規定の範囲内となるように前記駆動側油圧シリンダに対する作動油の供給を制御するものである。好適には、車両発進時に所定車速までは最大変速比にて走行し、その後、最大変速比から高車速側への変速を実行する場合(車両発進後のアップシフト時)に、その変速制御の実行(変速開始)が判定された時点で前記駆動側油圧シリンダに所定量の作動油を供給するクイックアプライ制御を実行する。好適には、目標入力回転速度に対する実入力回転速度の追従性向上のために、それら目標入力回転速度と実入力回転速度の差に対するフィードバック制御量を求めるためのフィードバック制御ゲインを大きくする等、前記無段変速機の変速時におけるフィードバック制御乃至フィードフォワード制御のゲインを適宜変更する制御を行う。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明が好適に適用される車両10におけるエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の構成を概略的に示す図である。この図1に示す車両10において、上記エンジン12により発生させられた動力は、流体伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、無段変速機18、減速歯車装置20、及び差動歯車装置22等を経て、左右の駆動輪24へ伝達されるように構成されている。
【0016】
上記トルクコンバータ14は、上記エンジン12のクランク軸13に連結されたポンプ翼車14p、上記トルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して上記前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14t、及び一方向クラッチによって一方向の回転が阻止されているステータ翼車14sとを備えており、上記ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。すなわち、本実施例のトルクコンバータ14においては、上記ポンプ翼車14pが入力回転部材に、上記タービン翼車14tが出力回転部材にそれぞれ対応し、流体を介して上記エンジン12の動力が上記無段変速機18側へ伝達される。上記ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間には、それらの間すなわち上記トルクコンバータ14の入出力回転部材間を直結可能なロックアップクラッチ26が設けられている。上記ポンプ翼車14pには、上記無段変速機18を変速制御したり、その無段変速機18のベルト挟圧を発生させたり、上記ロックアップクラッチ26の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための元圧となる作動油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0017】
上記ロックアップクラッチ26は、良く知られているように、後述する油圧制御回路100によって係合側油室14on内の油圧PONと解放側油室14off内の油圧POFFとの差圧ΔP(=PON−POFF)が制御されることによりフロントカバー14cに摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである(図4参照)。前記トルクコンバータ14の作動状態としては、例えば差圧ΔPが負とされて上記ロックアップクラッチ26が解放される所謂ロックアップ解放状態(トルコン状態、ロックアップオフ)、差圧ΔPが零以上とされて上記ロックアップクラッチ26が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(半係合状態、スリップ状態)、及び差圧ΔPが最大値とされて上記ロックアップクラッチ26が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態、ロックアップオン)の3状態に大別される。
【0018】
上記ロックアップ状態においては、前記ロックアップクラッチ26が完全係合させられることにより、前記ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tが一体回転させられて前記エンジン12の動力が前記無段変速機18側へ直接的に伝達される。上記ロックアップスリップ状態においては、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPが制御されることにより、例えば入出力回転速度差(すなわちスリップ回転速度(スリップ量)=エンジン回転速度NE−タービン回転速度NT)NSがフィードバック制御されることにより、前記車両10の駆動(パワーオン)時には所定のスリップ量で前記タービン軸30をクランク軸13に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には所定のスリップ量で前記クランク軸13をタービン軸30に対して追従回転させられる。
【0019】
前記前後進切換装置16は、発進クラッチとしての前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されている。ここで、前記トルクコンバータ14のタービン軸30は、上記遊星歯車装置16pのサンギヤ16sに一体的に連結されている。前記無段変速機18の入力軸32は、上記遊星歯車装置16pのキャリア16cに一体的に連結されている。上記遊星歯車装置16pのキャリア16cとサンギヤ16sとは上記前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは上記後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。上記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、係合により前記エンジン12の動力を前記駆動輪24側へ伝達する所定の摩擦係合装置としての断続装置に相当するもので、好適には、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0020】
上記前進用クラッチC1が係合させられると共に上記後進用ブレーキB1が解放されると、前記前後進切換装置16は一体回転状態とされることにより前記タービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。上記後進用ブレーキB1が係合させられると共に上記前進用クラッチC1が解放されると、前記前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、上記入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が前記無段変速機18側へ伝達される。前記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前記前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
【0021】
前記エンジン12の吸気配管36には、スロットルアクチュエータ38を用いてエンジン12の吸入空気量QAIRを電気的に制御するための電子スロットル弁40が備えられている。上記スロットルアクチュエータ38は、後述する電子制御装置50からの指令に従って上記電子スロットル弁40の開度θTHを制御することにより前記エンジン12の出力すなわちエンジン出力トルクを制御する。
【0022】
前記無段変速機18は、前記入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の駆動側プーリ(入力側可変プーリ、プライマリプーリ、プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の従動側プーリ(出力側可変プーリ、セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46と、それら両可変プーリ42、46相互間に巻き掛けられた伝動ベルト48とを、備えており、両可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われるベルト式無段変速機(CVT)である。
【0023】
上記両可変プーリ42及び46は、前記入力軸32及び出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42a及び46aと、前記入力軸32及び出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42b及び46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての駆動側油圧シリンダ(プライマリプーリ側油圧シリンダ)42c及び従動側油圧シリンダ(セカンダリプーリ側油圧シリンダ)46cとを、備えて構成されている。そして、上記駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が後述する油圧制御回路100によって制御されることにより、上記両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して上記伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=変速機入力回転速度NIN/変速機出力回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。上記従動側油圧シリンダ46cの油圧であるセカンダリプーリ圧(以下、ベルト挟圧という)Pdが後述する油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、上記伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、上記駆動側油圧シリンダ42cの油圧であるプライマリプーリ圧(以下、変速制御圧という)Pinが生じるのである。
【0024】
図2は、前記エンジン12、前後進切換装置16、及び無段変速機18等の作動を制御するために本実施例の車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。この図2に示すように、前記車両10には、例えば、前記無段変速機18の変速制御及びベルト挟圧力制御や前記ロックアップクラッチ26の解放乃至係合状態を制御する車両用ロックアップクラッチの制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。この電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記車両10の各種制御を実行する。すなわち、前記エンジン12の出力制御、前記無段変速機18の変速制御及びベルト挟圧力制御、及び前記ロックアップクラッチ26の係合油圧制御(トルク容量制御)、その係合油圧制御における本実施例の油圧学習制御等を実行するようになっており、必要に応じて前記エンジン12の制御用のエンジン制御装置、前記無段変速機18の変速制御用の油圧制御装置、及び前記ロックアップクラッチ26の油圧制御用の油圧制御装置等に分けて構成される。すなわち、本実施例においては、上記電子制御装置50が前記ロックアップクラッチ26の制御装置に相当する。
【0025】
上記電子制御装置50には、例えばクランク軸回転速度センサ52により検出された前記クランク軸13の回転角度(位置)ACR及びそのクランク軸13の回転速度(すなわちエンジン12の回転速度)であるエンジン回転速度NEを表す信号、タービン回転速度センサ54により検出された前記タービン軸30の回転速度であるタービン回転速度NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された入力軸32の回転速度(すなわち無段変速機18の入力回転速度)である変速機入力回転速度NINを表す信号、出力軸回転速度センサ58により検出された車速Vに対応する前記出力軸44の回転速度(すなわち無段変速機18の出力回転速度)である変速機出力回転速度NOUTを表す信号、スロットルセンサ60により検出された前記電子スロットル弁40の開度であるスロットル弁開度θTHを表す信号、冷却水温センサ62により検出された前記エンジン12の冷却水温THWを表す信号、CVT油温センサ64により検出された油圧制御回路100内の作動油の温度である作動油温THCVTを表す信号、アクセル開度センサ66により検出された運転者による前記車両10に対する加速要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、吸入空気量センサ70により検出された前記エンジン12の吸入空気量QAIRを表す信号、フットブレーキスイッチ72により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダルが操作されたブレーキオンBONを表す信号、及びレバーポジションセンサ74により検出されたシフトレバー76のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号等がそれぞれ供給されるようになっている。
【0026】
前記電子制御装置50からは、前記車両10における各部の作動を制御するための制御指令が出力される。例えば、前記エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号SEとして、前記電子スロットル弁40の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ38への駆動信号、燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号、及び点火装置80による前記エンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号等が出力される。
【0027】
前記電子制御装置50からは、前記無段変速機18の変速比γを変化させるための変速制御指令信号STとして、例えば前記駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2を駆動するための油圧指令信号、前記伝動ベルト48の挟圧力を調整させるための挟圧力制御指令信号SBとして、例えばベルト挟圧Pdを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための油圧指令信号が出力される。
【0028】
前記電子制御装置50からは、前記ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量NSを制御するためのロックアップ制御指令信号SLとして、例えば油圧制御回路100内のロックアップリレーバルブ124の弁位置を切り換える切換用ソレノイド弁SLを駆動するための油圧指令信号や前記ロックアップクラッチ26のトルク容量TCを調節するスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUを駆動するための油圧指令信号等が出力される。その他、ライン油圧PLを調圧するリニアソレノイド弁を駆動するための油圧指令信号等が後述する油圧制御回路100へ出力される。
【0029】
前記シフトレバー76は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、及び「L」のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは前記車両10の動力伝達経路を解放しすなわちその車両10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に前記出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)である。「R」ポジションは前記出力軸44の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)である。「N」ポジションは前記車両10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)である。「D」ポジションは前記無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させるための前進走行ポジション(位置)である。「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させるためのエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジション及び「N」ポジションは動力伝達経路をニュートラル状態とし車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジション、及び「L」ポジションは動力伝達経路を動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態とし車両10を走行させるときに選択される走行ポジションである。
【0030】
図3は、前記車両10に備えられた油圧制御回路100のうち前記無段変速機18のベルト挟圧力制御及び変速比制御等に関する要部を示す油圧回路図である。図4は、上記油圧制御回路100のうち前記ロックアップクラッチ26の作動制御等に関する要部を示す油圧回路図である。図3に示すように、前記油圧制御回路100は、変速比γが連続的に変化させられるように前記駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速制御弁として機能する変速比コントロールバルブUP116及び変速比コントロールバルブDN118、前記伝動ベルト48が滑りを生じないように前記従動側油圧シリンダ46cの油圧であるベルト挟圧Pdを調圧する挟圧力コントロールバルブ120、及び前記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるように前記シフトレバー76の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ122等を備えている。
【0031】
ここで、前記油圧制御回路100内の第1ライン油圧PL1は、例えば前記エンジン12により回転駆動される機械式の前記オイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1ライン油圧調圧弁)110によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて前記無段変速機18への入力トルクTIN等に応じた値に調圧されるようになっている。前記油圧制御回路100内の第2ライン油圧PL2は、例えば上記プライマリレギュレータバルブ110による第1ライン油圧PL1の調圧のためにそのプライマリレギュレータバルブ110から排出される油圧を元圧として、例えばリリーフ型のセカンダリレギュレータバルブ(第2ライン油圧調圧弁)112によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて調圧されるようになっている。前記油圧制御回路100内のモジュレータ油圧PMは、例えば第1ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータバルブ114によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて一定油圧に調圧されるようになっている。
【0032】
前記変速比コントロールバルブUP116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116t及び入出力ポート116iを開閉するスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを上記入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つ上記スプール弁子116aに入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向の推力を付与するために前記電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PS2を受け入れる油室116cと、上記スプール弁子116aに入出力ポート116iを閉弁する方向の推力を付与するために前記電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PS1を受け入れる油室116dとを、備えている。前記変速比コントロールバルブDN118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート118tを開閉するスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つ上記スプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与するために制御油圧PS1を受け入れる油室118cと、上記スプール弁子118aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PS2を受け入れる油室118dとを、備えている。
【0033】
上記ソレノイド弁DS1は、前記駆動側油圧シリンダ42cへ作動油を供給してその油圧を高め前記駆動側プーリ42のV溝幅を小さくして変速比γを小さくする側すなわちアップシフト側へ制御するために制御油圧PS1を出力する。上記ソレノイド弁DS2は、前記駆動側油圧シリンダ42cの作動油を排出してその油圧を低め前記駆動側プーリ42のV溝幅を大きくして変速比γを大きくする側すなわちダウンシフト側へ制御するために制御油圧PS2を出力する。具体的には、制御油圧PS1が出力されると前記変速比コントロールバルブUP116の供給ポート116sに入力された第1ライン油圧PL1が入出力ポート116tを経て前記駆動側油圧シリンダ42cへ供給され、結果的に変速制御圧Pinが連続的に制御される。制御油圧PS2が出力されると前記駆動側油圧シリンダ42cの作動油が前記入出力ポート116t、入出力ポート116i、更に入出力ポート118tを経て排出ポート118xから排出され、結果的に変速制御圧Pinが連続的に制御される。例えば、図5に示すような運転者の加速要求量に対応するアクセル操作量ACCをパラメータとして予め実験的に求められて記憶された車速Vと目標変速機入力回転速度NIN*との関係(変速マップ)に従って算出された目標変速機入力回転速度NIN*に実際の変速機入力回転速度NINが一致するように、それ等の回転偏差ΔNIN(=NIN*−NIN)に応じて前記無段変速機18が変速制御され、すなわち前記駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給、排出によって変速制御圧Pinが制御され、変速比γが連続的に変化させられる。図5の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度ACCが大きい程大きな変速比γになる目標変速機入力回転速度NIN*が設定されるようになっている。車速Vは変速機出力回転速度NOUTに対応するため、変速機入力回転速度NINの目標値である目標変速機入力回転速度NIN*は目標変速比に対応し、前記無段変速機18の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内で定められている。
【0034】
前記挟圧力コントロールバルブ120は、例えば軸方向へ移動可能に設けられることにより出力ポート120tを開閉するスプール弁子120aと、そのスプール弁子120aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング120bと、そのスプリング120bを収容し、上記スプール弁子120aに開弁方向の推力を付与するために前記電子制御装置50によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSを受け入れる油室120cと、上記スプール弁子120aに閉弁方向の推力を付与するために出力したベルト挟圧Pdを受け入れるフィードバック油室120dとを、備えている。そして、前記挟圧力コントロールバルブ120は、リニアソレノイド弁SLSからの制御油圧PSLSをパイロット圧として第1ライン油圧PL1を連続的に調圧制御して伝達トルクに対応する前記無段変速機18への入力トルクTIN等に応じたベルト挟圧Pdを出力するようになっている。例えば、図6に示すような前記無段変速機18の入力トルクTINをパラメータとしてベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された変速比γと必要油圧(目標ベルト挟圧に相当)Pd*との関係(ベルト挟圧マップ)に従って前記従動側油圧シリンダ46cへのベルト挟圧Pdが調圧され、このベルト挟圧Pdに応じてベルト挟圧力すなわち前記両可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増減させられる。この挟圧力コントロールバルブ120の出力油圧である前記従動側油圧シリンダ46c内のベルト挟圧Pdは、例えば油圧センサ120sにより検出されるようになっている。
【0035】
ベルト挟圧Pdを調圧する際に用いる前記無段変速機18の入力トルクTINは、例えばエンジントルクTEに前記トルクコンバータ14のトルク比t(=トルクコンバータ14の出力トルク(以下タービントルクTTという)/トルクコンバータ14の入力トルク(以下ポンプトルクTPという))を乗じたトルク(=TE×t)として前記電子制御装置50により算出される。このエンジントルクTEは、例えば前記エンジン12に対する要求負荷としての吸入空気量QAIR(或いはそれに相当するスロットル弁開度θTH等)をパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの予め実験的に求められて記憶された図7に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)から吸入空気量QAIR及びエンジン回転速度NEに基づいて推定エンジントルクTEesとして前記電子制御装置50により算出される。或いは、エンジントルクTEは、例えばトルクセンサ等により検出される前記エンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)TE等が用いられても良い。前記トルクコンバータ14のトルク比tは、そのトルクコンバータ14の速度比e(=トルクコンバータ14の出力回転速度(以下タービン回転速度NTという)/トルクコンバータ14の入力回転速度(以下ポンプ回転速度NP(エンジン回転速度NE)という))の関数であり、例えば速度比eとトルク比t、効率η、及び容量係数Cとのそれぞれの予め実験的に求められて記憶された図8に示すような関係(マップ、トルクコンバータ14の所定の作動特性図)から実際の速度比eに基づいて前記電子制御装置50により算出される。推定エンジントルクTEesは、実エンジントルクTEそのものを表すように算出されるものであり、特に実エンジントルクTEと区別する場合を除き、推定エンジントルクTEesを実エンジントルクTEとしての取り扱うものとする。従って、推定エンジントルクTEesには実エンジントルクTEも含むものとする。
【0036】
前記マニュアルバルブ122において、入力ポート122aには例えば前記モジュレータバルブ114により一定油圧に調圧されたモジュレータ油圧PMが供給される。そして、前記シフトレバー76が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PMが前進走行用出力圧として前進用出力ポート122fを経て前記前進用クラッチC1に供給され且つ前記後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート122rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるように前記マニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、前記前進用クラッチC1が係合させられると共に前記後進用ブレーキB1が解放させられる。
【0037】
前記シフトレバー76が「R」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PMが後進走行用出力圧として上記後進用出力ポート122rを経て前記後進用ブレーキB1に供給され且つ前記前進用クラッチC1内の作動油が上記前進用出力ポート122fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるように前記マニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、前記後進用ブレーキB1が係合させられると共に前記前進用クラッチC1が解放させられる。
【0038】
前記シフトレバー76が「P」ポジション或いは「N」ポジションに操作されると、前記入力ポート122aから前記前進用出力ポート122fへの油路及び前記入力ポート122aから前記後進用出力ポート122rへの油路が何れも遮断され且つ前記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1内の作動油が何れも前記マニュアルバルブ122からドレーンされるようにそのマニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、前記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
【0039】
図4に示すように、前記油圧制御回路100は、例えば前記電子制御装置50から供給されるSL指示(SL指令)信号SSLに対応するオンオフ信号によってオンオフ作動させられて切換用信号圧PSLを発生させる切換用ソレノイド弁SLと、前記ロックアップクラッチ26の解放状態と係合或いはスリップ状態とを切り換えるためのロックアップリレーバルブ124と、前記電子制御装置50から供給されるロックアップクラッチ圧指令値(LUクラッチ圧指令値、SLU指示圧)SSLUに対応する駆動電流ISLUに応じた信号圧PSLUを出力するスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUと、前記ロックアップリレーバルブ124によりロックアップクラッチ26が係合或いはスリップ状態とされているときに信号圧PSLUに従って前記ロックアップクラッチ26のスリップ量NSを制御したり前記ロックアップクラッチ26を係合させるための(すなわちロックアップクラッチ26の作動状態をスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換えるための)ロックアップコントロールバルブ126と、作動油を冷却するためのオイルクーラ128とを、備えている。
【0040】
前記ロックアップリレーバルブ124は、接続状態を切り換えるためのスプール弁子130を備え、切換用信号圧PSLに応じて前記ロックアップクラッチ26を解放状態とする解放側位置(オフ側位置)とそのロックアップクラッチ26を係合或いはスリップ状態とする係合側位置(オン側位置)とに切り換えられる。図4においては、中心線より左側が前記ロックアップクラッチ26の解放状態であるオフ側位置(OFF)に上記スプール弁子130が位置された状態を示しており、中心線より右側が係合或いはスリップ状態であるオン側位置(ON)に上記スプール弁子130が位置された状態を示している。具体的には、前記ロックアップリレーバルブ124は、前記解放側油室14offと連通する解放側ポート132と、係合側油室14onと連通する係合側ポート134と、第2ライン油圧PL2が供給される入力ポート136と、前記ロックアップクラッチ26の解放時に前記係合側油室14on内の作動油が排出されると共にそのロックアップクラッチ26の係合時に前記セカンダリレギュレータバルブ112から流出させられた作動油(PREL)が排出される排出ポート138と、前記ロックアップクラッチ26の係合時に前記解放側油室14off内の作動油が排出される迂回ポート140と、前記セカンダリレギュレータバルブ112から流出させられた作動油(PREL)が供給されるリリーフポート142と、上記スプール弁子130をオフ側位置に向かって付勢するためのスプリング144と、上記スプール弁子130の端面に前記切換用ソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLを受け入れる油室146とを、備えている。
【0041】
前記ロックアップコントロールバルブ126は、スプール弁子148と、そのスプール弁子148をスリップ(SLIP)側位置に向かって付勢するためのスプリング150と、上記スプール弁子148をスリップ側に位置向かって付勢するために前記トルクコンバータ14の係合側油室14on内の油圧PONを受け入れる油室152と、上記スプール弁子148を完全係合(ON)側位置に向かって付勢するために前記トルクコンバータ14の解放側油室14off内の油圧POFFを受け入れる油室154と、前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUから出力される信号圧PSLUが供給される油室156と、第2ライン油圧PL2が供給される入力ポート158と、前記ロックアップリレーバルブ124の迂回ポート140から出力される油圧が供給される制御ポート160とを、備えている。図4においては、中心線より左側がスリップ(SLIP)側位置に上記スプール弁子148が位置された状態を示しており、中心線より右側が完全係合(ON)側位置に上記スプール弁子148が位置された状態を示している。
【0042】
前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUは、前記電子制御装置50からの指令に従って、前記ロックアップクラッチ26の係合乃至スリップ係合時におけるその係合圧を制御する信号圧PSLUを出力するものである。例えば、モジュレータ油圧PMを元圧とし、そのモジュレータ油圧PMを減圧して信号圧PSLUを出力する電磁制御弁であって、前記電子制御装置50から供給されるLUクラッチ圧指令値SSLUに対応する駆動電流(励磁電流)ISLUに比例した信号圧PSLUを発生させる。前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUのドレーンポート162は、チェックボール164に連通されているため、そのチェックボール164によって常時塞がれており、そのチェックボール164に所定以上の圧力がかかると開弁させられて作動油が排出されるように構成されている。
【0043】
前記切換用ソレノイド弁SLは、前記電子制御装置50からのSL指令信号(オンオフ信号)SSLに従って所定の切換用信号圧PSLを出力するものである。例えば、非励磁状態(オフ状態)では切換用信号圧PSLをドレン圧とするが、励磁状態(オン状態)では切換用信号圧PSLをモジュレータ油圧PMとして前記油室146に作用させることで、前記ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130を係合状態であるオン側位置(ON)に移動させるように構成されている。
【0044】
以上のように構成された前記油圧制御回路100により前記係合側油室14on及び解放側油室14offへの作動油圧の供給状態が切り換えられることで、前記ロックアップクラッチ26の作動状態が切り換えらる。先ず、前記ロックアップクラッチ26がスリップ状態乃至ロックアップオンとされた場合を説明する。前記ロックアップリレーバルブ124において、前記切換用ソレノイド弁SLによって切換用信号圧PSLが前記油室146へ供給されて前記スプール弁子130がオン側位置へ付勢されると、前記入力ポート136に供給された第2ライン油圧PL2が前記係合側ポート134から前記係合側油室14onへ供給される。この係合側油室14onへ供給される第2ライン油圧PL2が油圧PONとなる。同時に前記解放側油室14offは、前記解放側ポート132から迂回ポート140を経て前記ロックアップコントロールバルブ126の制御ポート160に連通させられる。そして、前記解放側油室14off内の油圧POFFが前記ロックアップコントロールバルブ126により調整されて(すなわちロックアップコントロールバルブ126により差圧ΔP(=PON−POFF)すなわち係合圧が調整されて)、そのロックアップクラッチ26の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換えられる。
【0045】
具体的には、前記ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130が係合(ON)側位置へ付勢されているときにすなわち前記ロックアップクラッチ26が係合乃至スリップ状態に切り換えられているときに、前記ロックアップコントロールバルブ126において前記スプール弁子148が完全係合(ON)側位置へ付勢されるための信号圧PSLUが前記油室156へ供給されず、前記スプリング150の推力によって前記スプール弁子148がスリップ(SLIP)側位置とされると、前記入力ポート158に供給された第2ライン油圧PL2が前記制御ポート160から迂回ポート140を経て前記解放側ポート132から前記解放側油室14offへ供給される。この制御ポート160から出力される作動油の流量は、前記油室156へ供給される信号圧PSLUによって制御される。すなわち、前記スプール弁子148がスリップ(SLIP)側位置とされた状態においては、差圧ΔPが前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUによって制御されて前記ロックアップクラッチ26のスリップ状態(締結力)が制御される。
【0046】
前記ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130がON側位置へ付勢されているときに、前記ロックアップコントロールバルブ126において前記スプール弁子148が完全係合(ON)側位置へ付勢されるための信号圧PSLUが油室156に供給されると、前記入力ポート158から前記解放側油室14offへは第2ライン油圧PL2が供給されず、その解放側油室14offからの作動油がドレーンポートEXから排出される。これにより、差圧ΔPが最大とされて前記ロックアップクラッチ26が完全係合状態となる。そのロックアップクラッチ26がスリップ状態もしくは完全係合状態において、前記ロックアップリレーバルブ124はオン側位置に位置させられるため、前記リリーフポート142と排出ポート138とが連通させられる。これにより、前記セカンダリレギュレータバルブ112から流出させられた作動油(PREL)が前記排出ポート138からオイルクーラ128に供給される。
【0047】
一方、前記ロックアップリレーバルブ124において、切換用信号圧PSLが前記油室146に供給されず、前記スプリング144の付勢力によって前記スプール弁子130がオフ側位置へ位置させられると、前記入力ポート136に供給された第2ライン油圧PL2が前記解放側ポート132から前記解放側油室14offへ供給される。そして、前記係合側油室14onを経て前記係合側ポート134に排出された作動油が前記排出ポート138から前記オイルクーラ128に供給されて冷却される。すなわち、前記ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130がオフ側位置へ位置させられている状態においては、前記ロックアップクラッチ26は解放状態とされ、前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLU乃至ロックアップコントロールバルブ126を介してのスリップ乃至係合制御は行われない。換言すれば、前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUから出力される信号圧PSLUが変化させられた場合であっても、前記ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130がオフ側位置へ位置させられている限りにおいてその変化はロックアップクラッチ26の係合状態(差圧ΔP)に反映されない。前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUによって制御される差圧ΔPは、前記ロックアップクラッチ26の係合乃至解放状態を表す油圧値としてのロックアップクラッチ圧PLUでもある。このロックアップクラッチ圧PLUは、スリップ量NSや前記ロックアップクラッチ26のトルク容量TCに対応する油圧値でもある。LUクラッチ圧指令値SSLUや前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUは、ロックアップクラッチ圧PLUの油圧指令値である。
【0048】
図9は、前記電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図9に示す変速制御部200は、前記無段変速機18の変速制御を行う。例えば、図5に示すような変速マップから実際の車速V及びアクセル開度ACCで示される車両状態に基づいて変速機入力回転速度NINの目標変速機入力回転速度NIN*を設定する。そして、実変速機入力回転速度NINがその目標変速機入力回転速度NIN*と一致するように、例えば実変速機入力回転速度NINと目標変速機入力回転速度NIN*との回転偏差ΔNIN(=NIN*−NIN)に基づいて前記無段変速機18の変速を例えばフィードバック制御により実行する。斯かる前記回転偏差ΔNINのフィードバック制御に加えフィードフォワード制御を併用するものであってもよい。すなわち、上記変速制御部100は、回転偏差ΔNINに基づいて前記駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量を制御することにより前記両可変プーリ42、46のV溝幅を変化させるための変速制御指令信号(油圧指令)STを決定し、その変速制御指令信号STを前記油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。前記油圧制御回路100においては、上記変速制御部200からの変速制御指令信号Sに従って前記無段変速機18の変速が実行されるように、前記ソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2が作動させられて前記駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出により変速制御圧Pinが調圧される。
【0049】
ベルト挟圧力制御部202は、例えば図6に示すようなベルト挟圧マップから前記無段変速機18の入力トルクTIN(=エンジントルクTE×トルク比t:TEは例えば推定エンジントルクTEes)及び実変速比γ(=NIN/NOUT)で示される車両状態に基づいて目標ベルト挟圧Pd*を設定する。そして、その目標ベルト挟圧Pd*が得られるように前記従動側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pdを調圧するための挟圧力制御指令信号SBを前記油圧制御回路100へ出力する。その油圧制御回路100においては、上記ベルト挟圧力制御部202からの挟圧力制御指令信号SBに従ってベルト挟圧Pdが増減されるように前記リニアソレノイド弁SLSが作動させられてベルト挟圧Pdが調圧される。このように、上記ベルト挟圧力制御部202は、前記無段変速機18の入力トルクTINに応じて前記リニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pdを制御することにより、ベルト滑りが発生しない範囲で燃費向上のため出来るだけ低い値になるようにベルト挟圧力を制御する。
【0050】
ロックアップクラッチ制御部204は、基本的には、スロットル弁開度θTH及び車速Vを変数としてロックアップ解放(ロックアップオフ)領域、スリップ制御領域(ロックアップスリップ制御作動領域)、ロックアップ制御作動領域(ロックアップオン)領域を有する予め記憶された不図示の関係(マップ、ロックアップ領域線図)から実際のスロットル弁開度θTH及び車速Vで示される車両状態に基づいて前記ロックアップクラッチ26の作動状態の切換えを制御する。例えば、上記ロックアップ領域線図から実際の車両状態に基づいて前記ロックアップクラッチ26のロックアップ解放領域、ロックアップスリップ制御作動領域、ロックアップ制御作動領域の何れかであるかを判断し、前記ロックアップクラッチ26のロックアップ解放への切換え或いはロックアップスリップ制御作動乃至ロックアップ制御作動への切換えのためのロックアップ制御指令信号SLを前記油圧制御回路100へ出力する。上記ロックアップクラッチ制御部202は、ロックアップスリップ制御作動領域であると判断すると、前記ロックアップクラッチ26の実際のスリップ量NSを逐次算出し、その実際のスリップ量NSが目標スリップ量NS*となるように差圧ΔPを制御するためのロックアップ制御指令信号SLを前記油圧制御回路100へ出力する。前記ロックアップクラッチ26の解放状態から係合状態への過渡期にも差圧ΔPの制御が行われる。この差圧ΔPの決定には、記憶装置210に記憶された後述するロックアップ学習制御部206による学習制御の結果が用いられる。この学習制御及びその結果については、ロックアップ学習制御部206による学習制御の説明と併せて後述する。
【0051】
前記油圧制御回路100においては、上記ロックアップクラッチ制御部204からのロックアップ制御指令信号SLに従って前記ロックアップクラッチ26の解放とスリップ状態乃至係合とが切り換えられるように前記切換用ソレノイド弁SLが作動させられて前記ロックアップリレーバルブ124の弁位置が解放側(OFF)位置と係合側(ON)位置との間で切り換えられる。上記ロックアップクラッチ制御部204からのロックアップ制御指令信号SLに従って前記ロックアップクラッチ26のスリップ状態乃至係合におけるトルク容量TCが前記ロックアップコントロールバルブ126を介して増減されるように前記スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUが作動させられて前記ロックアップクラッチ26が係合させられたりそのロックアップクラッチ26のスリップ量NSが制御される。例えば、比較的高車速領域においては、前記ロックアップクラッチ26がロックアップ(完全係合)されられて前記ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとが直結させられることで、前記トルクコンバータ14の滑り損失(内部損失)が低減されて燃費が向上させられる。比較的低中速領域においては、前記ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間に所定の微少な滑りが与えられて係合させるスリップ制御(ロックアップスリップ制御)が実行されることで、ロックアップ作動領域が拡大されて前記トルクコンバータ14の伝達効率が向上させられ、燃費が向上させられる。
【0052】
ロックアップ学習制御部206は、前記ロックアップクラッチ制御部204による前記ロックアップクラッチ26の係合制御中において、そのロックアップクラッチ26の係合状態を定める差圧ΔPに係る油圧学習制御を行う。例えば、前記ロックアップクラッチ26が解放された状態から係合された状態(ロックアップ状態)への移行に係る係合油圧制御において、その油圧制御の開始(差圧ΔPの制御開始)から前記ロックアップクラッチ26の係合開始までの時間TLUが設定された範囲内となるように初期指示圧を決定及び学習する。スロットル開度ACCが比較的低い状態での車両発進時には、前記ロックアップクラッチ26の係合制御時に前記無段変速機18のアップシフトが行われることがあり、上記ロックアップ学習制御部206は、好適には、斯かる車両発進時における前記無段変速機18の変速中における前記ロックアップクラッチ26の係合制御において上記油圧学習制御を行う。ここで、前記ロックアップクラッチ26の係合開始は、例えば、差圧ΔPの制御開始時点から規定時間tAが経過した時点における前記ロックアップクラッチ26の入出力回転速度差(すなわちスリップ回転速度(スリップ量)=エンジン回転速度NE−タービン回転速度NT)NSを基準回転速度差NAとして、その基準回転速度差NAから上記入出力回転速度差NSが規定の閾値dN低下した時点をもって前記ロックアップクラッチ26の係合開始タイミングと判定する。すなわち、上記ロックアップ学習制御部206は、好適には、前記ロックアップクラッチ26の係合制御において、前記差圧ΔPの制御開始時点から、上記入出力回転速度差NSが基準回転速度差NAから閾値dN低下した時点までに要した時間TLUの学習制御を行う。
【0053】
上記ロックアップ学習制御部206は、基本的には、前記ロックアップクラッチ制御部204により前記ロックアップクラッチ26が解放された状態から係合された状態への移行に係る係合油圧制御が行われる毎に、各係合油圧制御に対応して上記学習制御を行う。そして、斯かるロックアップ学習制御部206による学習制御の結果は、対応する差圧ΔP(初期指示圧、或いは経時的な推移)等と対応付けられて前記記憶装置210に記憶され、新たな学習制御が行われる毎に更新される。前記ロックアップクラッチ制御部204は、この記憶装置210に記憶された上記ロックアップ学習制御部206による学習制御の結果を用いて前記ロックアップクラッチ26の係合油圧制御を行う。例えば、前記ロックアップクラッチ26の係合ショックの発生を抑制できる限度において可及的に短い時間TLUにより前記ロックアップクラッチ26が解放された状態から係合された状態への移行に係る係合油圧制御が行われるように、その係合油圧制御における前記差圧ΔPの制御を行う。好適には、前記記憶装置210に記憶された上記ロックアップ学習制御部206による学習制御の結果を用いて前記係合油圧制御に係る初期指示圧を決定する。
【0054】
図9に示すように、前記変速制御部200は、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートを抑制するためのオーバーシュート抑制制御を行うオーバーシュート抑制制御部208を備えている。このオーバーシュート抑制制御部208は、前記無段変速機18の変速時(変速制御時)において、その無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度NINとの差である回転偏差ΔNIN(=NIN*−NIN)が規定の範囲内となるように前記プライマリプーリ圧Pinを制御するオーバーシュート抑制制御を行う。
【0055】
例えば、車両発進時に所定の車速Vまでは最大変速比(最低速変速比(最Lo))にて走行し、その後、最大変速比から高車速側への変速を実行する場合、上記回転偏差ΔNINが生じて主体的な変速が開始されることから、目標入力回転速度NIN*に対して実入力回転速度NINのオーバーシュートが発生する可能性がある。これに対して、上記オーバーシュート抑制制御部208は、上記オーバーシュート抑制制御として、例えば、その変速制御の実行(変速開始)が判定された時点で前記駆動側油圧シリンダ42cに所定量の作動油を供給するクイックアプライ制御を実行する。すなわち、実際の変速制御に先行して指示圧を上昇させることで、実現すべき目標回転速度として早めに変速が開始されるような目標入力回転速度NIN*を設定する。
【0056】
前記無段変速機18の変速制御において、前記回転偏差ΔNINのフィードバック制御に加えフィードフォワード制御を併用する場合に、フィードバック制御量(FB制御量)をフィードフォワード制御量(FF制御量)よりも十分に大きくすることによりフィードバック制御を主体として変速する場合には、上記回転偏差ΔNINが生じて主体的な変速が実行されることになる。これに対して、前記オーバーシュート抑制制御部208は、前記オーバーシュート抑制制御として、例えば、前記目標入力回転速度NIN*に対する実入力回転速度NINの追従性向上の為に、上記回転偏差ΔNINに対するフィードバック制御量を求めるためのフィードバック制御ゲイン(FB制御ゲイン)を大きくする等、上記回転偏差ΔNINのフィードバック制御乃至フィードフォワード制御のゲインを適宜変更する制御を行う。
【0057】
前記オーバーシュート抑制制御部208は、更に別の態様として、前記無段変速機18の変速制御時における回転偏差ΔNINのフィードバック制御に関して、前記駆動側油圧シリンダ42cに対して供給される作動油の最大流量に基づいて、前記目標入力回転速度NIN*の時間変化率dNIN*/dtを制限する(例えば、規定の閾値以下とする)等の制御を行うものであってもよい。すなわち、前記オーバーシュート抑制制御部208により実行される前記オーバーシュート抑制制御の態様としては、前記無段変速機18の変速時における前記回転偏差ΔNINの変動を抑制する種々の具体的な制御が考えられる。前記オーバーシュート抑制制御部208によるオーバーシュート抑制制御は、例えばベルト戻り不良時等には非実行(非作動)とされる。
【0058】
図10及び図11は、前記電子制御装置50によるロックアップ学習制御について説明する図であり、エンジン回転速度NEを実線で、前記無段変速機18の入力回転速度である変速機入力回転速度(実入力回転速度)NINを一点鎖線で、前記トルクコンバータ14の入出力回転速度差NSを二点鎖線でそれぞれ示している。更に、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生した場合における各回転速度を破線で示している。
【0059】
図10に示す例では、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生した場合における各回転速度(破線)に対応して、前記ロックアップクラッチ26の油圧学習制御が正しく行われず、燃費が悪化する場合を示している。先ず、時点t1において、前記無段変速機18の変速制御が開始され、プライマリ入力回転速度すなわち前記無段変速機18の入力回転速度NINの上昇が開始される。これに伴い、前記エンジン12の回転速度NEの上昇が併行して行われる。次に、時点t2において、例えば予め定められた関係(ロックアップ領域線図)から車速V及びアクセル開度ACC等に基づいて前記ロックアップクラッチ26の係合(開放状態から係合状態への切換)が判定され、そのロックアップクラッチ26の係合制御(ロックアップ制御)が開始される。この時点t2すなわちロックアップ制御開始タイミングから、予め定められた規定時間tAが経過した時点t3における前記トルクコンバータ14の入出力回転速度差NSが基準回転速度差NAとされ、その基準回転速度差NAから入出力回転速度差NSが閾値dN低下した時点が前記ロックアップクラッチ26の実際の係合開始と判定される。
【0060】
ここで、図10に示す例において、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生しない場合に対応する前記トルクコンバータ14の入出力回転速度差NS(二点鎖線)では、入出力回転速度差NSが基準回転速度差NAから閾値dN低下した時点t5において前記ロックアップクラッチ26の実際の係合開始が判定され、時点t3から時点t5までの時間TLUrが前記ロックアップ学習制御部206による学習制御に用いられる。すなわち、前記ロックアップクラッチ26の油圧制御開始から係合開始までの時間をTLUrとして学習制御を行う。一方、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生した場合に対応する前記トルクコンバータ14の入出力回転速度差NS(破線)では、斯かるオーバーシュートに起因して入出力回転速度差NSが時点t4において既に基準回転速度差NAから閾値dN低下している。従って、時点t4において前記ロックアップクラッチ26の実際の係合開始が判定され、時点t3から時点t4までの時間TLUwが前記ロックアップ学習制御部206による学習制御に用いられる。すなわち、図10に示す例では、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生した場合に、前記ロックアップクラッチ26の油圧制御開始から係合開始までの時間TLUが通常の制御時における値よりも短く判定(TLUw<TLUr)されてしまい、誤って判定されたその時間TLUwに対応して学習制御が行われる。斯かる態様においては、前記ロックアップ学習制御部206による学習制御によりロックアップ初期油圧が不適切に低下させられ、結果として前記ロックアップクラッチ26の係合に要する時間が増加し、燃費の悪化につながるおそれがある。
【0061】
図11に示す例では、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生した場合における各回転速度に対応して、前記ロックアップクラッチ26の油圧学習制御が正しく行われず、そのロックアップクラッチ26の係合ショックが発生する場合を示している。先ず、時点t1において、前記無段変速機18の変速制御が開始され、プライマリ入力回転速度すなわち前記無段変速機18の入力回転速度NINの上昇が開始される。これに伴い、前記エンジン12の回転速度NEの上昇が併行して行われる。次に、時点t2′において、例えば予め定められた関係から車速V及びアクセル開度ACC等に基づいて前記ロックアップクラッチ26の係合が判定され、そのロックアップクラッチ26の係合制御が開始される。この時点t2′すなわちロックアップ制御開始タイミングから、予め定められた規定時間tAが経過した時点t3′における前記トルクコンバータ14の入出力回転速度差NSが基準回転速度差NA′(オーバーシュート発生時にはNB)とされ、その基準回転速度差NA′(NB)から入出力回転速度差NSが閾値dN′低下した時点が前記ロックアップクラッチ26の実際の係合開始と判定される。
【0062】
ここで、図11に示す例において、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生しない場合に対応する前記トルクコンバータ14の入出力回転速度差NS(二点鎖線)では、入出力回転速度差NSが基準回転速度差NA′から閾値dN′低下した時点t4′において前記ロックアップクラッチ26の実際の係合開始が判定され、時点t3′から時点t4′までの時間TLUr′が前記ロックアップ学習制御部206による学習制御に用いられる。すなわち、前記ロックアップクラッチ26の油圧制御開始から係合開始までの時間をTLUr′として学習制御を行う。一方、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生した場合に対応する前記トルクコンバータ14の入出力回転速度差NS(破線)では、斯かるオーバーシュートに起因して入出力回転速度差NSが時点t3′において上記基準回転速度差NA′よりも低いNBとなっており、その回転速度差を基準回転速度差NBとして学習制御が行われる。従って、時点t4′においても前記ロックアップクラッチ26の実際の係合開始が判定されず、時点t5′において前記ロックアップクラッチ26の実際の係合開始が判定され、時点t3′から時点t5′までの時間TLUw′が前記ロックアップ学習制御部206による学習制御に用いられる。すなわち、図11に示す例では、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートが発生した場合に、前記ロックアップクラッチ26の油圧制御開始から係合開始までの時間TLUが通常の制御時における値よりも長く判定(TLUw′>TLUr′)されてしまい、誤って判定されたその時間TLUw′に対応して学習制御が行われる。斯かる態様においては、前記ロックアップ学習制御部206による学習制御によりロックアップ初期油圧が不適切に上昇させられ、結果として前記ロックアップクラッチ26の係合ショックが発生するおそれがある。
【0063】
前記ロックアップ学習制御部206は、前記ロックアップクラッチ26の係合制御中に前記変速制御部200による前記無段変速機18の変速制御が行われる場合において、その無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度(入力軸回転速度センサ56により検出される実際の入力回転速度)NINとの差である回転偏差ΔNINに基づいて、前述した油圧学習制御の実行乃至非実行を判定する。すなわち、前記回転偏差ΔNINが規定の範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行するが、その回転偏差ΔNINが規定の範囲外である場合には、前記油圧学習制御を禁止する(非実行とする)。例えば、前記回転偏差ΔNINの絶対値が予め定められた閾値Nbo未満である場合には、前記油圧学習制御を実行するが、その閾値Nbo以上である場合には、前記油圧学習制御を禁止する。
【0064】
前記ロックアップ学習制御部206は、好適には、前記ロックアップクラッチ26の係合制御中に前記変速制御部200による前記無段変速機18の変速制御が行われる場合において、その変速制御に係る前記オーバーシュート抑制制御部208による前記オーバーシュート抑制制御の有無に応じて前述した油圧学習制御の実行乃至非実行を判定する。すなわち、前記オーバーシュート抑制制御部208による前記オーバーシュート抑制制御が実行されておらず、且つ、前記回転偏差ΔNINが前記範囲外である場合には、前記油圧学習制御を禁止する。前記オーバーシュート抑制制御部208による前記オーバーシュート抑制制御が実行されていない場合であっても、前記回転偏差ΔNINが前記範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行する。前記オーバーシュート抑制制御部208による前記オーバーシュート抑制制御が実行されている場合には、前記回転偏差ΔNINが前記範囲内となるため、前記油圧学習制御を実行する。
【0065】
図12は、前記電子制御装置50による本実施例のロックアップ学習制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0066】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記ロックアップクラッチ26の係合油圧制御実行中であるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、S5において、前記ロックアップクラッチ26の係合制御中における油圧学習制御が非実行(禁止)とされた後、本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートを抑制する制御(オーバーシュート抑制制御)が実行されているか否かが判断される。このS2の判断が肯定される場合には、S3において、前記ロックアップクラッチ26の係合制御中における油圧学習制御が実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が否定される場合には、S4において、前記無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度NINとの差である回転偏差ΔNINが規定の範囲内(設定値以内)であるか否かが判断される。このS4の判断が肯定される場合には、S3以下の処理が実行されるが、S4の判断が否定される場合には、S5以下の処理が実行される。以上の制御において、S1が前記ロックアップクラッチ制御部204の動作に、S2が前記オーバーシュート抑制制御部208の動作に、S3及びS5が前記ロックアップ学習制御部206の動作にそれぞれ対応する。
【0067】
このように、本実施例によれば、前記ロックアップクラッチ26の係合制御中に前記無段変速機18の変速制御が行われる場合であって、その無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度NINとの偏差ΔNINが規定の範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行するものであることから、前記無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度NINとの偏差ΔNINが規定の範囲内であり、その無段変速機18のオーバーシュートが発生していないと判定される場合に前記油圧学習制御を実行することで、学習ばらつきが発生し難い好適な学習制御を行うことができる。すなわち、係合状態を定める油圧の学習ばらつきを抑制する車両用ロックアップクラッチ26の電子制御装置50を提供することができる。
【0068】
本実施例によれば、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートを抑制する制御が実行されておらず、且つ、その無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度NINとの偏差ΔNINが前記範囲外である場合には、前記油圧学習制御を禁止するものであるため、前記無段変速機18のオーバーシュートが発生しているおそれが高い場合に前記学習制御を禁止することで、誤った学習が行われるのを好適に抑制することができる。
【0069】
本実施例によれば、前記無段変速機18における変速時のオーバーシュートを抑制する制御が実行されていない場合であっても、その無段変速機18における目標入力回転速度NIN*と実入力回転速度NINとの偏差ΔNINが前記範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行するものであるため、前記無段変速機18のオーバーシュートが発生していないと判定される場合に前記油圧学習制御を実行することで、学習ばらつきが発生し難い好適な学習制御を行うことができる。
【0070】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0071】
12:エンジン、14:トルクコンバータ、14p:ポンプ翼車(入力回転部材)、14t:タービン翼車(出力回転部材)、18:無段変速機、26:ロックアップクラッチ、50:電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと無段変速機との間に設けられたトルクコンバータと、係合により該トルクコンバータにおける入力回転部材と出力回転部材とを直結するロックアップクラッチとを、備えた車両において、該ロックアップクラッチの係合制御中における油圧学習制御を行う車両用ロックアップクラッチの制御装置であって、
前記ロックアップクラッチの係合制御中に前記無段変速機の変速制御が行われる場合であって、該無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が規定の範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行することを特徴とする車両用ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項2】
前記無段変速機における変速時のオーバーシュートを抑制する制御が実行されておらず、且つ、該無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が前記範囲外である場合には、前記油圧学習制御を禁止するものである請求項1に記載の車両用ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項3】
前記無段変速機における変速時のオーバーシュートを抑制する制御が実行されていない場合であっても、該無段変速機における目標入力回転速度と実入力回転速度との差が前記範囲内である場合には、前記油圧学習制御を実行するものである請求項1又は2に記載の車両用ロックアップクラッチの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−87883(P2013−87883A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229746(P2011−229746)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】