説明

車両用中継部材

【課題】車両用中継部材を、車両とパワートレーンとの連結部分に実装する際に取り扱い易くしながら、製造コストを低減可能とする。
【解決手段】緩衝シート40は、パワートレーン側の支持部材に備える一対の平行な壁部のうちの一方の壁部とそれに対向するインシュレータ30の軸方向一端面との間に、それらの直接接触を回避させる状態で介装される。緩衝シート40には、ブラケット20にインシュレータ30を組み付ける前段階において弾性体33の軸方向一端面側の所定位置に軸方向内側に凹むよう設けられる凹み34a内に入れられて挟まれることで非分離とされる第1係止部42と、ブラケット20の筒部25の外周に引っ掛けられることで非分離とされる第2係止部43とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両とパワートレーンとの連結に用いられる車両用中継部材に関する。前記パワートレーンとは、この明細書において、エンジン単体、あるいはエンジンにトランスアクスルを組み付けた構造体などのことを意味する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両とパワートレーンとの連結に用いられる車両用中継部材として、例えば特許文献1,2に示すような防振装置が知られている。
【0003】
この特許文献1,2に示す防振装置は、金属製のブラケットにゴムなどの弾性体を組み付けた構成とされ、パワートレーンの振動や、車両の走行(加減速時や旋回時など)に伴うパワートレーンの揺れを、吸収して車両への伝達を抑制または防止するようにしている。
【0004】
このような防振装置と呼ばれる車両用中継部材として、本願出願人は、例えば図13に示すような構成を考えている。この車両用中継部材100は、金属製のブラケット200に設けられているインシュレータ保持用筒部201の一方開口からインシュレータ300を例えば圧入により嵌め込んだ構成になっている。
【0005】
ブラケット200は、車両のサイドメンバ(図示省略)にボルトなどで取り付けられ、また、インシュレータ300は、例えば図14に示すようにパワートレーン(例えばトランスアクスル600)側に設置される金属製の支持部材500に取り付けられる。この支持部材500は、対向する2つの壁部501,502の各一辺側を連接壁部503で連接することによって上面視ほぼコ字形形状に形成されており、その連接壁部503がトランスアクスル600にボルト601で取り付けられるようになっている。
【0006】
インシュレータ300は、筒状に形成されており、金属製の外筒301と金属製の軸体302との間の環状空間にゴムなどの弾性体303を介在させた構成である。弾性体303としてのゴムは、外筒301と軸体302とに加硫接着される。
【0007】
外筒301の軸方向一端面(車両前方Fr側の面)には、径方向内向きの鍔304が設けられている。この鍔304は、弾性体303が弾性変形して外筒301の外側へはみ出すことを防止するためのものである。軸体302は、前記支持部材500における前壁部501と後壁部502との間に、例えばボルト602およびナット603を用いて架け渡される状態で取り付けられる。
【0008】
ところで、例えば車両の走行に伴いパワートレーンが揺れたときに、インシュレータ300の外筒301とパワートレーン側の支持部材500とが直接的に接触するおそれがある。この接触は金属同士の衝突になるので、衝突音が発生するとともに、当該衝突が繰り返される場合には外筒301と支持部材500とを損傷するおそれがある。
【0009】
そこで、本願発明者は、インシュレータ300の外筒301とパワートレーン側の支持部材500とを直接的に接触させないようにするために、次のような構成を採用している。
【0010】
まず、インシュレータ300の軸方向一端面(車両前方Fr側の面)とパワートレーン側の支持部材500の前壁部501との間に、ストッパゴムと呼ばれる緩衝シート400を介装している。
【0011】
また、インシュレータ300の弾性体303において軸方向他端面(車両後方Rr側の面)に軸方向外側に張り出す凸部305を設け、この凸部305をインシュレータ300の軸方向他端面とパワートレーン側の支持部材500の後壁部502との間に介在させるようにしている。
【0012】
このように、緩衝シート400と弾性体303の凸部305とで、インシュレータ300とパワートレーン側の支持部材500とを直接的に接触させないように工夫している。
【0013】
この緩衝シート400は、平板部401の下辺にほぼ直角に屈曲された屈曲片402を設けた構成である。この緩衝シート400の平板部401はインシュレータ300の軸方向一端面に接着剤で接着され、この緩衝シート400の屈曲片402がブラケット200のインシュレータ保持用筒部201の外周面下側に接着剤で接着されるようになっている。さらに、この緩衝シート400の外表面にふっ素系潤滑剤(図示省略)がコーティングされるようになっている。
【0014】
このように接着剤を用いる理由としては、車両用中継部材100を車両とパワートレーンとの連結部分に実装する際に、インシュレータ300と緩衝シート400とを非分離にして取り扱い易くするためである。また、前記ふっ素系潤滑剤を用いる理由としては、車両用中継部材100をパワートレーン側支持部材500に取り付ける際に、緩衝シート400がパワートレーン側支持部材500に干渉したとしても緩衝シート400を滑りやすくして捲れにくくするためである。
【0015】
なお、車両用中継部材100を車両とパワートレーンとの連結部分に実装した状態では、インシュレータ300の鍔304とパワートレーン側の支持部材500との間に緩衝シート400が介在することになるので、仮に、時間経過に伴い緩衝シート400がインシュレータ300の接着部分から剥がれたとしても支障はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−216629号公報
【特許文献2】特開2008−223850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記従来例では、緩衝シート400をインシュレータ300の軸方向一端面とインシュレータ保持用筒部201の外周面とに接着剤で接着する作業と、緩衝シート400の外表面にふっ素系潤滑剤をコーティングする作業とが必要になっており、その点で車両用中継部材100のコストアップを余儀なくされている。
【0018】
このような事情に鑑み、本発明は、車両用中継部材を、車両とパワートレーンとの連結部分に実装する際に取り扱い易くしながら、製造コストを低減可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、車両とパワートレーンとの連結に用いられる車両用中継部材であって、前記車両に取り付けられるブラケットと、このブラケットに組み付けられかつ前記パワートレーン側の支持部材に取り付けられるインシュレータと、このインシュレータと前記支持部材との直接接触を回避させるための緩衝シートとを備え、前記インシュレータは、前記ブラケットに設けられる筒部に嵌め込まれる外筒と、この外筒の内周に環状空間を作る状態で挿通されかつ前記支持部材に備える2つの対向する壁部の間に架け渡される状態で取り付けられる軸体と、前記外筒と前記軸体との間の前記環状空間を埋めるように設けられる弾性体とを含んだ構成とされ、前記緩衝シートは、前記支持部材における一方の壁部とそれに対向する前記インシュレータの軸方向一端面との間にそれらの直接接触を回避させる状態で介装され、この緩衝シートには、前記ブラケットに前記インシュレータを組み付ける前段階において前記弾性体の軸方向一端面側の所定位置に軸方向内側に凹むよう設けられる凹み内に入れられて挟まれることで非分離とされる第1係止部と、前記ブラケットの筒部の外周に引っ掛けられることで非分離とされる第2係止部とが設けられている、ことを特徴としている。
【0020】
この構成では、車両用中継部材のインシュレータが、パワートレーンの振動を吸収するとともに、車両の加減速時や旋回時におけるパワートレーンの揺れを吸収することにより、車両に伝達しにくくするような働きをする。
【0021】
そして、車両走行時などにパワートレーンが揺れたときに、その揺れを許容するインシュレータの動きによって、当該インシュレータの外筒がパワートレーン側の支持部材の一方の壁部に当接することがありうる。その際に、前記外筒と前記一方の壁部とが直接接触すると、衝突音が発生するとともに、当該衝突が繰り返されるような場合には前記外筒と前記一方の壁部とを損傷するおそれがある。
【0022】
これに対して、緩衝シートを前記外筒と前記一方の壁部との間に介装しているので、この緩衝シートによって前記インシュレータの外筒と前記一方の壁部とが直接接触することを回避できるようになる。このように、前記インシュレータの外筒と前記一方の壁部とが緩衝シートを介して衝突するようになるので、衝突音が発生せずに済むとともに、当該衝突が繰り返されるような場合でも前記外筒や前記一方の壁部が損傷することが避けられるようになる。
【0023】
そして、本発明では、ブラケットに組み付ける前段階のインシュレータに緩衝シートを係止させるような形態で非分離に取り付けられているので、緩衝シートとインシュレータとを一体に取り扱えるようになって、インシュレータをブラケットに組み付けて車両用中継部材を完成させる際の作業が行いやすくなる。
【0024】
また、緩衝シートの第2係止部をブラケットのインシュレータ保持用筒部の外周に引っ掛けるようにしているから、車両用中継部材を車両とパワートレーンとの連結に用いる場合において、車両用中継部材のインシュレータをパワートレーン側の支持部材に組み付ける際に、緩衝シートの特に第2係止部が前記支持部材の一方の壁部に干渉したとしても緩衝シートが捲れるようなことが起きなくなる。
【0025】
しかも、前記のような緩衝シートの第1係止部をインシュレータの弾性体に、また、緩衝シートの第2係止部をブラケットのインシュレータ保持用筒部にそれぞれ係止させるような形態で非分離にしているから、従来例で説明したように接着剤で接着したり、ふっ素系潤滑剤をコーティングしたりする場合に比べて、車両用中継部材の製造コストを低減することが可能になる。
【0026】
好ましくは、前記インシュレータは、その軸体が横向き姿勢となる状態で前記ブラケットに組み付けられるものであり、前記ブラケットに前記インシュレータを組み付ける前段階では前記軸体の中心が前記外筒の中心よりも鉛直方向上側に偏心させられている。
【0027】
この構成では、車両用中継部材を車両とパワートレーンとの連結に用いたときに、パワートレーンの荷重がインシュレータの軸体を介して弾性体に作用するようになる。その状態において、前記軸体の中心が前記外筒の中心付近に下がって停止するように設計することが可能であるとともに、そのように下がった状態においてインシュレータの耐荷重能力を特定するように設計することが可能になる。
【0028】
好ましくは、前記弾性体には、前記支持部材における他方の壁部とそれに対向する前記インシュレータの軸方向他端面との直接接触を回避させるための凸部が設けられている。
【0029】
ここでは、前記インシュレータの前記弾性体に、前記インシュレータの前記外筒の軸方向他端面と前記他方の壁部との直接接触を回避するための緩衝部としての凸部を設けるようにしている。この場合、前記インシュレータの前記外筒と前記他方の壁部とが前記凸部を介して衝突するようになるので、衝突音が発生せずに済むとともに、当該衝突が繰り返されるような場合でも前記外筒や前記他方の壁部が損傷することが避けられるようになる。
【0030】
好ましくは、前記緩衝シートは、その平板部の所定領域に前記軸体の軸方向一端側に外嵌させられる貫通孔が設けられ、前記第1係止部は、前記平板部の一端側から径方向外向きに延出する突片とされ、前記第2係止部は、前記平板部の他端側から前記ブラケットの筒部の外周に重ね合わされるように屈曲する屈曲片とされる。
【0031】
ここでは、緩衝シートの細部を特定することにより、緩衝シートの形状を明確にしているとともに、当該緩衝シートがインシュレータの外筒と前記一方の壁部との間に介装される形態を明確にしている。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る車両用中継部材は、車両とパワートレーンとの連結部分に実装する際に取り扱い易くしながら、製造コストを低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る車両用中継部材の一実施形態を分解して示す斜視図である。
【図2】図1の車両用中継部材を組み立てた状態を示す斜視図である。
【図3】図1の車両用中継部材のブラケットにインシュレータを組み付ける前の状態をパワートレーン側から見た図である。
【図4】図3を車両後方側から見た図である。
【図5】図1から図4のインシュレータを示しており、図6の(5)−(5)線断面の矢視図である。
【図6】図5の矢印(6)方向から見た図(インシュレータの正面図)である。
【図7】図5の矢印(7)方向から見た図(インシュレータの背面図)である。
【図8】図1から図7のインシュレータの製造過程を説明するための図であり、一部を簡略化して示している。
【図9】図8のインシュレータをブラケットのインシュレータ保持用筒部に嵌め込んだ状態を示す図である。
【図10】図9のインシュレータに係止してある緩衝シートをブラケットのインシュレータ保持用筒部に引っ掛ける手順を説明するための図である。
【図11】図1から図10の車両用中継部材の使用形態を示す図であり、車両を上から見下ろした図である。
【図12】図11の車両用中継部材の使用形態を示す図であり、車両用中継部材のインシュレータとパワートレーン側の支持部材との取り付け部分を詳しく示した図である。
【図13】従来例に係る車両用中継部材のブラケットにインシュレータを組み付ける前の状態をパワートレーン側から見た図である。
【図14】図13の車両用中継部材の使用形態を示す図であり、車両用中継部材のインシュレータとパワートレーン側の支持部材との取り付け部分を詳しく示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0035】
図1から図12に、本発明の一実施形態を示している。まず、本発明に係る車両用中継部材10の使用形態を説明する。
【0036】
図11および図12において、1はFF(フロントエンジン、フロントドライブ)形式の車両である。これらの図において、Frは車両1の前方を、Rrは車両1の後方を示している。
【0037】
車両1の前方に設けられるエンジンコンパートメント2内には、エンジン3およびトランスアクスル4を含むパワートレーンが搭載されている。このパワートレーンは、車両1の左右のフロントサイドメンバ5L,5Rに支持される。
【0038】
ここで、左側のフロントサイドメンバ5Lにパワートレーンの一部であるトランスアクスル4を連結するために、本発明に係る車両用中継部材10が用いられる。
【0039】
この車両用中継部材10は、図1に示すように、金属製のブラケット20にインシュレータ30を組み付けて構成される。
【0040】
ブラケット20は、車両1の左側のフロントサイドメンバ5Lにボルト(図示省略)などで取り付けられるとともに、図12に示すように、インシュレータ30を介してトランスアクスル4側に設置される金属製の支持部材6に取り付けられる。この支持部材6は、対向する2つの壁部61,62の各一辺側を連接壁部63で連接することによって上面視ほぼコ字形形状に形成されており、その連接壁部63がトランスアクスル4にボルト7で取り付けられるようになっている。
【0041】
このブラケット20は、ブラケット本体21に3つの取付片22〜24およびインシュレータ保持用筒部25を取り付けた構成である。
【0042】
3つの取付片22〜24には、それぞれボルト挿通孔(符号省略)が設けられており、図2に示すように、3つの取付片22〜24が左側のフロントサイドメンバ5Lなどにボルト(図示省略)などで取り付けられるようになっている。
【0043】
図1および図3に示すように、インシュレータ保持用筒部25は、その内孔の径方向の断面形状が例えば小判形状に形成されており、この内孔にインシュレータ30の下記外筒31が嵌め込まれる。
【0044】
インシュレータ30は、図5から図7に示すように、筒状に形成されており、金属製の外筒31と金属製の軸体32との間の環状空間にゴムなどの弾性体33を介在させた構成である。このインシュレータ30は、左側のフロントサイドメンバ5Lとパワートレーンの一部であるトランスアクスル4との間での振動伝達を抑制または防止するものである。
【0045】
外筒31は、その外周形状および内周形状がほぼ楕円形に形成されており、ブラケット20のインシュレータ保持用筒部25に嵌め込まれる。この外筒31の軸方向一端(嵌め込み方向先端)には、径方向内向きに延出する鍔31aが設けられている。この鍔31aは、弾性体33が弾性変形して外筒31からはみ出すことを防止するのに役立つ。
【0046】
軸体32は、中空とされていて、その外周形状および内周形状が円形に形成されている。この軸体32は、外筒31の内周に環状空間を作る状態で挿通され、その軸方向長さが外筒31の軸方向両端の開口から外側に突出するように設定される。
【0047】
この軸体32は、パワートレーン側の支持部材6における前壁部61と後壁部62との間に、例えばボルト8およびナット9を用いて架け渡される状態で取り付けられる。
【0048】
弾性体33としてのゴムは、外筒31と軸体32とに加硫接着されている。この弾性体33の周方向数箇所(この実施形態では3箇所)には、軸方向に沿って貫通するような中空部34a,34b,34cが設けられている。
【0049】
このような構成のインシュレータ30は、ブラケット20に設けられているインシュレータ保持用筒部25の一方開口から例えば圧入により嵌め込まれる。
【0050】
詳しくは、インシュレータ30は、その軸体32が横向き姿勢となる状態でブラケット20に組み付けられるようになっており、車両用中継部材10を車両1とパワートレーンとの連結に用いる前段階では軸体32の中心が外筒31の中心よりも鉛直方向上側に偏心させられている。
【0051】
そして、車両用中継部材10を車両1とパワートレーンとの連結に用いたときに、パワートレーンの荷重がインシュレータ30の軸体32を介して弾性体33に作用するようになって、軸体32の中心が外筒31の中心付近にまで下がって停止するように設計される。その状態でのインシュレータ30の耐荷重能力が適宜に設計される。
【0052】
さらに、インシュレータ30は、図12に示すように、パワートレーン側の支持部材6に取り付けられる。詳しくは、支持部材6の2つの壁部61,62と軸体32の中心孔とに跨ってボルト8が挿通され、このボルト8の先端ねじ部にナット9が螺合されることにより、インシュレータ30が支持部材6に取り付けられる。
【0053】
この取り付け状態では、支持部材6の2つの壁部61,62とインシュレータ30との各軸方向対向部分に所定の隙間が設けられている。
【0054】
ところで、例えば車両1の走行に伴いパワートレーンが揺れたときに、インシュレータ30の外筒31とパワートレーン側の支持部材6とが直接的に接触することがある。この接触は金属同士の衝突になるので、衝突音が発生したり、当該衝突が繰り返される場合には損傷するおそれがある。
【0055】
まず、インシュレータ30の軸方向一端面(車両前方Fr側の面、ブラケット20に対するインシュレータ30の嵌め込み方向先端側の面)とパワートレーン側の支持部材6の前壁部61との間に、図12に示すように、ストッパゴムと呼ばれる緩衝シート40が介装される。これにより、インシュレータ30の外筒31の鍔31aと支持部材6の前壁部61とが緩衝シート40を介して衝突するようになる。そのため、金属同士の直接的な接触を回避できるので、衝突音が発生せずに済むとともに、当該衝突が繰り返されるような場合でも外筒31や前壁部61が損傷せずに済むようになる。
【0056】
また、インシュレータ30の弾性体33において軸方向他端面(車両後方Rr側の面、ブラケット20に対するインシュレータ30の嵌め込み方向後端側の面)に、軸方向外側に張り出す凸部35が設けられている。この凸部35は、図12に示すように、インシュレータ30の軸方向他端面とパワートレーン側の支持部材6の後壁部62との間に介在させられる。これにより、インシュレータ30の外筒31の軸方向他端面と支持部材6の後壁部62とが凸部35を介して衝突するようになる。そのため、金属同士の直接的な接触を回避できるので、衝突音が発生せずに済むとともに、当該衝突が繰り返されるような場合でも外筒31や後壁部62が損傷せずに済むようになる。
【0057】
このように、緩衝シート40と弾性体33の凸部35とで、インシュレータ30とパワートレーン側の支持部材6とを直接的に接触させないように工夫している。
【0058】
ところで、緩衝シート40をインシュレータ30に非分離に取り付けるようにしている。その理由は、ブラケット20にインシュレータ30を組み付ける製造ラインにインシュレータ30を搬送する際、あるいはインシュレータ30をブラケット20のインシュレータ保持用筒部25に嵌め込む際に、インシュレータ30と緩衝シート40とを一体に取り扱えるようにするためである。
【0059】
そして、この実施形態では、緩衝シート40をインシュレータ30に非分離にするための形態として、従来例のように接着剤で接着させる形態にせずに、単純に係止させる形態にしている。
【0060】
具体的に、緩衝シート40は、正面視でほぼ長方形の平板部41に、第1係止部42と第2係止部43とを設けた構成になっている。この平板部41の上端寄りには、厚み方向に貫通する貫通孔44が設けられている。この貫通孔44は軸体32の軸方向一端側に外嵌させられる。
【0061】
さらに、第1係止部42は、平板部41の上側に設けられており、また、第2係止部43は、平板部41の下側に設けられている。
【0062】
第1係止部42は、緩衝シート40の上端側から径方向斜め上向きに延出する突片とされている。この第1係止部42は、ブラケット20にインシュレータ30を組み付ける前段階において、弾性体33の横長中空部34a内に入れられて挟まれることで非分離とされる。なお、この横長中空部34aが、請求項に記載されている「弾性体33の軸方向一端面側の所定位置に軸方向内側に凹むよう設けられる凹み」に相当している。
【0063】
第2係止部43は、平板部41の下端部からほぼ直角に屈曲する屈曲片とされる。この第2係止部43は、ブラケット20のインシュレータ保持用筒部25の外周に重ね合わされて非分離とされる。この非分離の方法としては、インシュレータ保持用筒部25の円周所定領域に設けられている切り起こし片25aに、緩衝シート40の第2係止部43に設けられている係合孔43aを引っ掛けることにより行うようにしている(図10参照)。
【0064】
次に、図8から図10を参照して、インシュレータ30に緩衝シート40を取り付ける形態について説明する。
【0065】
第1係止部42を弾性体33に係止する作業は、インシュレータ30を製作する過程で行うようにしている。一般に、インシュレータ30は、加硫成形法により製作される。例えば、図示していない金型内に外筒31と軸体32とをセットし、この外筒31と軸体32と前記金型とで作られるキャビィティ空間内に溶融したゴムを注入し、その後、所定時間冷却する。この冷却後に加硫成形品を取り出すと、公知のように成形ひけが発生するので、図8の左側に示すように、ゴムからなる弾性体33が軸方向内向きに収縮することになる。そこで、図8の右側に示すように、外筒31を圧縮成形することにより、外筒31の外径寸法を小さくするとともに、弾性体33を軸方向外向きに膨出させるようにして、外筒31の軸方向両端と弾性体33の両端面とをほぼ面一とするような補正処理を行う。
【0066】
この外筒31の圧縮成形時に、図8に示しているように、緩衝シート40の第1係止部42を弾性体33に設ける横長中空部34a内に入れておけば、前記圧縮成形後には、緩衝シート40の第1係止部42が弾性体33の横長中空部34a内に挟まれることになり、非分離とされる。
【0067】
このようにして、インシュレータ30に緩衝シート40を非分離に仮留めすれば、それらを一体にして取り扱うことが可能になるので、インシュレータ30をブラケット20に組み付けて車両用中継部材10を完成させる際の作業が行いやすくなる。
【0068】
つまり、緩衝シート40を仮留めしたインシュレータ30をブラケット20のインシュレータ保持用筒部25に嵌め込むのであるが、その際には、緩衝シート40の平板部41がインシュレータ30の軸方向に対して若干斜め上向きに延出するような姿勢になっているので、まず、この緩衝シート40をブラケット20のインシュレータ保持用筒部25に差し入れ、その後、図9に示すように、インシュレータ30の外筒31をインシュレータ保持用筒部25に例えば圧入により嵌め込むようにする。このように、緩衝シート40をインシュレータ30に仮留めして一体化しているから、インシュレータ30をブラケット20のインシュレータ保持用筒部25に嵌め込む作業が行いやすくなる。
【0069】
この後、緩衝シート40の第2係止部43をブラケット20のインシュレータ保持用筒部25の外周面下側に引っ掛ける作業を行う。つまり、図9の矢印で示すように、緩衝シート40を矢印方向に弾性的に屈曲させることにより、緩衝シート40でインシュレータ30の軸方向一端面を覆うようにする。さらに、図10に示すように、緩衝シート40の第2係止部43を外筒31の外周面の下側領域に重ね合わせるような状態にしてから、インシュレータ保持用筒部25の切り起こし片25aに緩衝シート40の第2係止部43の係合孔43aを嵌め入れ、この切り起こし片25aの突出端側を図10の矢印方向に屈曲させて塑性変形させることにより、この突出端側屈曲部25bを係合孔43aの周縁所定位置に引っ掛けるようにする。
【0070】
このように、ブラケット20にインシュレータ30を組み付けて車両用中継部材10を完成させた状態では、ブラケット20とインシュレータ30とに緩衝シート40が非分離に取り付けられているから、この車両用中継部材10を車両1とパワートレーンとの連結に用いる場合において、車両用中継部材10のインシュレータ30をパワートレーン側の支持部材6に組み付ける際に、緩衝シート40の特に第2係止部43が支持部材6に干渉したとしても緩衝シート40が捲れるようなことが起きなくなる。
【0071】
ところで、この実施形態では、緩衝シート40が仮留めされたインシュレータ30をブラケット20に組み付けて完成させた車両用中継部材10を、車両1とパワートレーンとの連結に用いた後で、緩衝シート40の第1係止部42をインシュレータ30の弾性体33の横長中空部34aから離脱させるようにしている。
【0072】
この状態では、パワートレーンの荷重がインシュレータ30の軸体32に作用するので、この軸体32が弾性体33を弾性変形させることによって鉛直方向下側に下がることになる。これにより、弾性体33の横長中空部34aが径方向に大きく広がることになるとともに、下側の2つの中空部34b,34cが径方向で小さくなる。そのため、弾性体33の横長中空部34a内から緩衝シート40の第1係止部42が抜け出ることになる。
【0073】
この第1係止部42は、そもそも、自然状態において径方向斜め外向きの姿勢となるように形成されているが、横長中空部34a内に保持された状態で、かつ第2係止部43がブラケット20のインシュレータ保持用筒部25の切り起こし片25aに引っ掛けられた状態になっているときには、第1係止部42が弾性変形されて折り曲げられた状態になっている。その関係より、前記のように横長中空部34aが大きく広がったときに、第1係止部42が弾性復元力によって自然に横長中空部34aから抜け出るようになるのである。
【0074】
このように第1係止部42が横長中空部34aから抜け出た状態であっても、インシュレータ30の外筒31の鍔31aとパワートレーン側の支持部材6の前壁部61との間に緩衝シート40が介在されたままになっているので、緩衝シート40の本来の働きが阻害または消失されることはない。
【0075】
ここで、前記したように緩衝シート40の第1係止部42を横長中空部34aから離脱させるようにしている理由について説明する。つまり、インシュレータ30の弾性体33に緩衝シート40の第1係止部42が係止されたままになっていると、インシュレータ30の弾性体33による耐荷重特性が変化するおそれがあるので、このインシュレータ30の耐荷重特性が変化することを避けるためである。
【0076】
以上説明したように、本発明の特徴を適用した実施形態の車両用中継部材10は、当該車両用中継部材10を車両1とパワートレーンとの連結部分に実装する前において、緩衝シート40の第1係止部42をインシュレータ30に非分離に仮留めしている。これにより、ブラケット20にインシュレータ30を組み付ける製造ラインにインシュレータ30を搬送する際、あるいはインシュレータ30をブラケット20のインシュレータ保持用筒部25に嵌め込む際に、緩衝シート40をインシュレータ30と一体に取り扱えるようになるので、それらの作業を行いやすくなる。
【0077】
しかも、車両用中継部材10の完成後は、緩衝シート40の第1係止部42をインシュレータ30に非分離に仮留めしていて、緩衝シート40の第2係止部43をブラケット20のインシュレータ保持用筒部25に非分離に取り付けているので、車両用中継部材10を車両1とパワートレーンとの連結部分に実装する際に、車両用中継部材10に非分離に取り付けている緩衝シート40が、パワートレーン側の支持部材6に干渉したとしても当該緩衝シート40が捲れるようなことが起きずに済むようになる。
【0078】
そして、この実施形態では、緩衝シート40をインシュレータ30に非分離に仮留めするための形態として、従来例のように接着剤で接着させる形態にせずに、単純に係止させる形態にしている。そのため、従来例のように接着剤で接着したり、ふっ素系潤滑剤をコーティングしたりする必要がなくなるので、車両用中継部材10の製造コストを従来例に比べて低減することが可能になる。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0080】
例えば上記実施形態では、本発明に係る車両用中継部材10として、FF形式の車両1にパワートレーンを搭載するときに用いられる構成を例に挙げているが、図示していないが、本発明に係る車両用中継部材10はFR(フロントエンジン、リアドライブ)形式の車両、ミッドシップ形式の車両などにパワートレーンを搭載するときに用いられる構成とすることが可能である。
【0081】
その場合、車両用中継部材10のブラケット20の形状などを一部変更する場合があると考えられるが、インシュレータ30と緩衝シート40との関係は上記実施形態と同様にできる。ちなみに、前記FR形式の車両の場合には、車両のフロントサイドメンバとエンジンとを連結する部分に、本発明に係る車両用中継部材10が用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、車両とパワートレーンとの連結に用いられる車両用中継部材に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 車両
2 エンジンコンパートメント
3 エンジン
4 トランスアクスル
5L 左側のフロントサイドメンバ
6 パワートレーン側の支持部材
61 支持部材の前壁部
62 支持部材の後壁部
10 車両用中継部材
20 ブラケット
21 ブラケット本体
25 ブラケット本体のインシュレータ保持用筒部
25a インシュレータ保持用筒部の切り起こし片
25b 切り起こし片の突出端側屈曲部
30 インシュレータ
31 インシュレータの外筒
31a 外筒の鍔
32 インシュレータの軸体
33 インシュレータの弾性体
34a 弾性体の横長中空部
40 緩衝シート
41 緩衝シートの平板部
42 第1係止部
43 第2係止部
43a 第2係止部の係合孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両とパワートレーンとの連結に用いられる車両用中継部材であって、
前記車両に取り付けられるブラケットと、このブラケットに組み付けられかつ前記パワートレーン側の支持部材に取り付けられるインシュレータと、このインシュレータと前記支持部材との直接接触を回避させるための緩衝シートとを備え、
前記インシュレータは、前記ブラケットに設けられる筒部に嵌め込まれる外筒と、この外筒の内周に環状空間を作る状態で挿通されかつ前記支持部材に備える2つの対向する壁部の間に架け渡される状態で取り付けられる軸体と、前記外筒と前記軸体との間の前記環状空間を埋めるように設けられる弾性体とを含んだ構成とされ、
前記緩衝シートは、前記支持部材における一方の壁部とそれに対向する前記インシュレータの軸方向一端面との間にそれらの直接接触を回避させる状態で介装され、
この緩衝シートには、前記ブラケットに前記インシュレータを組み付ける前段階において前記弾性体の軸方向一端面側の所定位置に軸方向内側に凹むよう設けられる凹み内に入れられて挟まれることで非分離とされる第1係止部と、前記ブラケットの筒部の外周に引っ掛けられることで非分離とされる第2係止部とが設けられている、ことを特徴とする車両用中継部材。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用中継部材において、
前記インシュレータは、その軸体が横向き姿勢となる状態で前記ブラケットに組み付けられるものであり、前記ブラケットに前記インシュレータを組み付ける前段階では前記軸体の中心が前記外筒の中心よりも鉛直方向上側に偏心させられている、ことを特徴とする車両用中継部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用中継部材において、
前記弾性体には、前記支持部材における他方の壁部とそれに対向する前記インシュレータの軸方向他端面との直接接触を回避させるための凸部が設けられている、ことを特徴とする車両用中継部材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用中継部材において、
前記緩衝シートは、その平板部の所定領域に前記軸体の軸方向一端側に外嵌させられる貫通孔が設けられ、
前記第1係止部は、前記平板部の一端側から径方向外向きに延出する突片とされ、
前記第2係止部は、前記平板部の他端側から前記ブラケットの筒部の外周に重ね合わされるように屈曲する屈曲片とされる、ことを特徴とする車両用中継部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−52813(P2013−52813A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193221(P2011−193221)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】