説明

車両用乗員保護システム

【課題】早期に衝突が発生する条件や可能性を把握し、過度な予備作動を抑制しつつ、衝突発生の際には迅速に機能して乗員を保護することが可能な車両用乗員保護システムを実現する。
【解決手段】自車両が目的地へ向かうルート情報を含む自車情報を取得する自車情報取得部11と、他車両と自車両との間の車車間通信により受信され、他車両の位置情報を含む他車情報を取得する他車情報取得部12と、自車情報と他車情報とに基づいて、自車両と他車両との衝突条件を演算する衝突条件演算部13と、衝突条件に応じて、自車両の衝突に際して乗員の衝突被害を軽減する衝突被害軽減システム40の内、衝突条件に対応する衝突被害を軽減可能なシステムの作動を準備させる作動準備部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突に際して乗員を保護する車両用乗員保護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用乗員保護システムとして、車両の衝突に際して衝突の発生直後にエアバッグを膨張させるなど、乗員を保護するシステムが提案され、実用化されている。また、車両周辺の状況や車両の挙動などに基づいて衝突が避けられない状況であることを衝突前に判定して、保護装置を早期に作動させるプリクラッシュシステムも提案され、一部実用化されている。例えば、特表2007−500650号公報(特許文献1)には、センサ信号に依存して制御されるアダプティブなシートを有するプリクラッシュシステム(車両用乗員保護システム)の例が開示されている。このシステムは、衝突の際に乗員の体がシートベルトの下に潜り込むサブマリン現象を回避するために、シート前方を上昇させたり、シート後部に凹部を設けたり、ベルトテンショナーによりシートベルトの拘束力を強めたりする。また、シートサイドサポート部材が立ち上げられて乗員の横滑りが回避されたり、クッション入りの装置がヘッドレストからカラーのように展開されて乗員の頭部の揺動が回避されたりする。
【0003】
プリクラッシュシステムにおいては、シートやシートベルトなどをアクチュエータにより駆動する必要があり、できるだけ迅速且つ確実に衝突を検出する必要がある。例えば、自車両が前方及び側方に対して衝突する可能性をいち早く判定するために、ミリ波レーダを複数設けることも提案されている。特開2009−74803号公報(特許文献2)には、物体検知器として、車両の前方を検知するレーダと、車両の左右それぞれの斜め前方を検知するレーダとの3つのレーダを有する例が記載されている。
【0004】
また、プリクラッシュシステムにおいてシートやシートベルトなどを駆動するアクチュエータは起動時間を要し、また駆動対象も機械的な作動時間を要するが、これらはできるだけ短縮されることが好ましい。1つの方法として、衝突を検知するのではなく、衝突を予知してプリクラッシュシステムを起動することが考えられる。特開2007−314015号公報(特許文献3)には、さらに衝突発生を予知して衝突形態に応じて乗員の着座姿勢を適正状態に修正可能な乗員保護装置の技術が開示されている。例えば、左側突用カメラ、右側突用カメラ、後突用カメラの複数のカメラが備えられ、カメラからの画像信号が解析処理されて衝突発生が予知される。また、具体的な衝突予知方法については言及されていないが、車車間通信を利用して、他車両から得られる時々刻々の位置情報と車速情報を用いて、他車両との車間距離と衝突形態とを演算して、衝突発生を予知することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−500650号公報(第18〜21段落等)
【特許文献2】特開2009−74803号公報(第14〜17段落、図1等)
【特許文献3】特開2007−314015号公報(第39〜60段落等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
衝突を予知して、プリクラッシュシステムを作動させた場合、結果として衝突が発生しなければ、シートやシートベルトなどが無駄に動くこととなる。例えば、頻繁にシートベルトの締め付けが繰り返されたり、運転中にシートの姿勢が変更されたりした場合には、乗員は煩わしさを覚えることになる。また、衝突を予知して警報などを発する場合にも、衝突の可能性を正確に予知し、適切な時期に警報を発しなければ煩わしいものとなる。例えば、早期に警報を発すると、ドライバーが通常の運転により充分に衝突を回避できるようなケースで頻繁に警報が繰り返されることになり、ドライバーは煩わしさを覚える他、警報を信用しなくなる可能性もある。従って、衝突予知の判定は、適正な時期に高い精度でなされることが好ましい。また、プリクラッシュシステムは、衝突の予知の後に高い反応性を有して構成されたり、制御されたりすることが好ましい。しかし、衝突予知の精度の向上やプリクラッシュシステムの反応速度の向上に際しては、アクチュエータや駆動対象の機械的構造を複雑化したり、コストアップしたりする可能性がある。
【0007】
上記課題に鑑みて、早期に衝突が発生する条件や可能性を把握し、過度な予備作動を抑制しつつ、衝突発生の際には迅速に機能して乗員を保護することが可能な車両用乗員保護システムの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みた本発明に係る車両用乗員保護システムの特徴構成は、
自車両が目的地へ向かうルート情報を含む自車情報を取得する自車情報取得部と、
他車両と前記自車両との間の車車間通信により受信され、前記他車両の位置情報を含む他車情報を取得する他車情報取得部と、
前記自車情報と前記他車情報とに基づいて、前記自車両と前記他車両との衝突条件を演算する衝突条件演算部と、
前記衝突条件に応じて、前記自車両の衝突に際して乗員の衝突被害を軽減する衝突被害軽減システムの内、前記衝突条件に対応する衝突被害を軽減可能なシステムの作動を準備させる作動準備部と、を備える点にある。
【0009】
この特徴構成によれば、自車両の衝突に際して乗員の衝突被害を軽減する衝突被害軽減システムを、より早期から衝突に備えさせることが可能となる。自車両と他車両との衝突条件を演算することにより、衝突の事前検知の精度も向上する。衝突条件の演算に際しては、自車両が目的地に向かうルート情報と、車車間通信によって得られた他車両の位置情報とが用いられる。従って、自車両がこれから通る経路に関係する他車両に絞って衝突条件を演算することができる。また、自車両の経路に対する他車両の関わり方も事前に把握できるので、衝突条件は高い精度で演算される。このため、過度な警戒により無駄に衝突被害軽減システムを作動させることもない。従って、本構成によれば、早期に衝突が発生する条件や可能性を把握し、過度な予備作動を抑制しつつ、衝突発生の際には迅速に機能して乗員を保護することが可能な車両用乗員保護システムが実現できる。
【0010】
また、本発明に係る車両用乗員保護システムにおける前記衝突条件は、前記衝突条件が成立する可能性及び衝突形態を含むと好適である。
【0011】
衝突被害軽減システムは、単一の装置(システム)ではなく、前面衝突、側面衝突、後面衝突、オフセット衝突などの衝突形態に応じてそれぞれ適切なものが準備されていることが多い。従って、衝突条件が衝突形態を含んで演算されると、衝突被害軽減システムの内、当該衝突形態に対応する衝突被害を軽減可能なシステムの作動が適切に準備される。また、同時に複数の衝突形態が想定される場合があるので、衝突条件が成立する可能性に応じて優先順位が設定されると、確率の高い衝突形態に対応する衝突被害を軽減可能なシステムの作動が適切に準備される。
【0012】
また、本発明に係る車両用乗員保護システムの前記衝突被害軽減システムは、前記他車両を検出して衝突の可能性を判定するプリクラッシュ制御システムと、実際の衝突に際して前記乗員の身体を保護する保護システムとを有し、前記作動準備部は、前記プリクラッシュ制御システムに対して、前記他車両を検出する感度を調整させると好適である。
【0013】
衝突の可能性を判定するプリクラッシュ制御システムが他車両を検出する感度が調整されると、衝突の可能性の判定精度が向上し、判定時期が早くなる可能性が高くなる。その結果、保護システム等を作動させて乗員の衝突被害を軽減するための準備時間に余裕が生まれ、乗員保護効果が向上する。
【0014】
また、本発明に係る車両用乗員保護システムの前記衝突被害軽減システムが、前記他車両を検出して衝突の可能性を判定するプリクラッシュ制御システムと、実際の衝突に際して前記乗員の身体を保護する保護システムとを有する場合、前記作動準備部は、前記保護システムに対して、衝突に際して最速で所定の作動を完了可能な状態まで準備させると好適である。
【0015】
保護システムが、衝突に際して最速で所定の作動を完了可能な状態まで準備されていると、衝突が発生した際に迅速に保護システムが機能(作動)するので乗員の衝突被害が良好に軽減される。
【0016】
また、本発明に係る車両用乗員保護システムの前記衝突被害軽減システムは、衝突発生後に作動する最終作動システムと、衝突発生前であって衝突が不可避であると判定される衝突前第1時刻で作動する第1システムと、前記衝突前第1時刻より前であって衝突の可能性が高いと判定される衝突前第2時刻で作動する第2システムと、前記衝突前第2時刻より前であって衝突の可能性が有ると判定される衝突前第3時刻で作動する第3システムとを有し、第4システムとして機能する前記作動準備部は、前記衝突前第3時刻よりも前に、前記衝突被害軽減システムの作動を準備させると好適である。
【0017】
本構成によれば、衝突の可能性が有ると判定される衝突前第3時刻よりも前に、衝突条件が演算され、その衝突条件に応じて作動準備部が衝突被害軽減システムの作動を準備させる。従って、衝突前第3時刻における衝突の可能性の判定自体の精度も向上させることができ、当該判定の時期も早めることが可能となる。また、衝突の可能性が有ると判定された後に作動したり、作動の準備がなされたりするシステムについても衝突前第3時刻よりも前から準備することが可能となるので、乗員の衝突被害が良好に軽減される。つまり、本構成によれば、早期に衝突が発生する条件や可能性を把握し、過度な予備作動を抑制しつつ、衝突発生の際には迅速に機能して乗員を保護することが可能な車両用乗員保護システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両のシステム構成の一例を模式的に示すブロック図
【図2】乗員保護システムの構成の一例を模式的に示すブロック図
【図3】プリクラッシュシートバックの一例を示す図
【図4】プリクラッシュヘッドレストの一例を示す図
【図5】自車両周辺の他車両や物体の検知範囲の一例を示す図
【図6】プリクラッシュ制御準備処理の一例を示す図
【図7】プリクラッシュ制御準備処理の一例を示す図
【図8】プリクラッシュ制御準備処理の一例を示す図
【図9】プリクラッシュ制御準備処理の一例を示す図
【図10】プリクラッシュ制御の一連の流れの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の車両用乗員保護システムは、衝突などが生じた際にその被害を軽減する衝突安全システム(パッシブセーフティシステム)と、事前に衝突などを予測して被害を軽減するという予防安全システム(アクティブセーフティシステム)とが融合された総合的な安全システムである。ここでは、このように、衝突(クラッシュ)の発生前から衝突発生後までを広く手当てする総合的な安全システムをプリクラッシュセーフティシステムと称する。パッシブセーフティシステムの一例としては、SRS(supplemental restraint system)エアバッグがある。また、アクティブセーフティシステムとしては、衝突に際してシートベルトを引き込んで張力を増強するシートベルトテンショナや、シートの姿勢を変更するアクティブシート(プリクラッシュシート)などがある。
【0020】
図1は、車両(自車両)80のシステム構成の一例を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態において車両用乗員保護システム(以下、適否「乗員保護システム」と略称する。)は、プリクラッシュ制御準備システム10と、プリクラッシュ制御システム20と、保護システム30とを有して構成される。厳密に区別されるものではないが、プリクラッシュ制御システム20は、予防安全システム(アクティブセーフティシステム)に相当し、保護システム30は、衝突安全システム(パッシブセーフティシステム)に相当する。また、車両用乗員保護システムは、総合的な安全システム(プリクラッシュセーフティシステム)に相当する。また、プリクラッシュ制御システム20及び保護システム30は、衝突被害軽減システム40に相当する。上述したように、衝突被害軽減システム40は、衝突の発生前から発生後までを広く手当てし、自車両の衝突に際して乗員の衝突被害を軽減するシステムである。車両用乗員保護システムは、衝突被害軽減システム40としてのプリクラッシュ制御システム20及び保護システム30に加え、さらにプリクラッシュ制御準備システム10を備えて構成される。プリクラッシュ制御準備システム10は、衝突被害軽減システム40の有する機能の作動を準備させるシステムである。
【0021】
図2に示すように、プリクラッシュ制御準備システム10は、自車情報取得部11と、他車情報取得部12と、衝突条件演算部13と、作動準備部14との各機能部を有して構成される。自車情報取得部11は、自車両80が目的地へ向かうルート情報を含む自車情報を取得する機能部である。具体的には、自車両80に搭載されるナビゲーションシステム8からルート情報を含むナビゲーション情報を取得する。他車情報取得部12は、他車両と自車両80との間の車車間通信により受信され、当該他車両の位置情報を含む他車情報を取得する機能部である。他車両は、当該他車両が搭載するナビゲーションシステムやGPS(global positioning system)装置などから位置情報を取得する。他車情報取得部12は、自車両80に搭載されるアンテナ6及び車車間通信システム7を介して、この他車両の位置情報を含む他車情報を取得する。
【0022】
衝突条件演算部13は、自車情報と他車情報とに基づいて、自車両80と他車両との衝突条件を演算する機能部である。この衝突条件は、自車両80を基準とした、前面衝突(前突)、側面衝突(側突)、後面衝突(追突)などの衝突形態を含むと好適である。また、衝突条件は、当該衝突条件が成立する(衝突が発生する)可能性を含むと好適である。さらに、衝突発生時の自車両80の姿勢や速度なども含むと好適である。ここで、姿勢とは、前進走行中、後退中、右左折やカーブなどの旋回中、停車中などである。作動準備部14は、演算された衝突条件に応じて、衝突被害軽減システム40の有する複数のシステムの内、当該衝突条件に対応する衝突被害を軽減可能なシステムの作動を準備させる。つまり、衝突被害軽減システム40は、自車両80の衝突に際して乗員の衝突被害を軽減する種々の機能を有しているが、その内、当該衝突条件に対応した機能の作動が準備される。
【0023】
以下、乗員保護システムの構成や制御例について詳述するが、それに先だって自車両90の全体的なシステム構成について説明する。図1に示すように、乗員保護システム(10、20、30、40)は、車内ネットワークであるCAN(controller area network)50を介して、その他の種々のシステムやセンサ類に接続されている。乗員保護システムは、これら多くのシステムやセンサ類と協働して、乗員保護機能を発揮する。
【0024】
車車間通信システム7は、車両同士が直接情報をやりとりする車車間通信を制御するシステムである。つまり、自車両80と自車両以外の他車両との間で直接、通信を実施し、情報の授受を行うシステムである。車車間通信システム7は、道路脇に設けられた中継器(路側器)を介した車路車間通信を行う機能も有して構成されていてもよい。車車間通信は、例えば、700MHz帯(715M〜725MHz程度)の周波数帯の電波が利用され、この帯域に対応したアンテナ6が車両に搭載される。見通しのよい場所であれば、約270〜300m程度、電波を遮る建物の多い市街地であれば90m程度の範囲内の他車両との間で通信が可能である。尚、道路脇に設けられた路側器と車両との間の通信である路車間通信に利用される5.8GHz帯の電波を用いて車車間通信や車路車間通信を行うことを妨げるものではない。車車間通信システム7は、自車両80と他車両との間で、車両の位置や、速度、進行方向、車両情報(識別情報(ID情報)・サイズ・カテゴリー・年式等)等の情報のやりとりを行う。車両がナビゲーションシステムを搭載しているような場合には、目的地や経路の情報をやりとりしてもよい。
【0025】
ナビゲーションシステム8は、道順案内などを行ないドライバーの運転を支援するシステムである。不図示のGPS装置や、不図示のジャイロなどの自律航法装置などにより、現在位置を特定し、システムに記憶された地図と照らし合わせることでドライバーの運転を支援する。本実施形態においてモニタ装置9は、ナビゲーションシステム8のGUI(graphic user interface)として機能する表示部9aやタッチパネル9bを備えている。上述したように、ナビゲーションシステム8は、プリクラッシュ制御準備システム10と連携する。
【0026】
ブレーキシステム51は、ドライバーにより操作されるブレーキペダルの操作量をブレーキセンサ63により検出して、不図示のアクチュエータを介して車両に制動力を付加してブレーキ力を増強させるブレーキアシストなどを有した電動ブレーキシステムである。例えば、ブレーキのロックを抑制するABS(anti lock braking system)や、コーナリング時の車両の横滑りを抑制する横滑り防止装置(ESC : electronic stability control)、BBW(brake-by-wire)システムも含まれる。ブレーキシステム51は、衝突被害軽減システム40として機能することも可能である。例えば、ドライバーにより操作されるブレーキペダルの操作量に拘わらずブレーキの油圧を高めるブレーキアシストや、自動的にブレーキを掛ける緊急ブレーキとして機能させることもできる。
【0027】
パワーステアリングシステム52は、例えば、ドライバーにより操作されるステアリングホイールの操作量を蛇角センサ66やトルクセンサ67により検出して不図示のアクチュエータによりアシストトルクを付加する電動パワーステアリング(EPS : electric power steering)システムである。駐車支援機能を含む運転支援システム55を備える場合には、ステアリングホイールや操舵輪を不図示のアクチュエータにより駆動することによって自動操舵を行わせることも可能である。
【0028】
エンジン制御システム53は、スロットルセンサ68やアクセルセンサ69などと連携し、燃料噴射量や点火タイミングなどのエンジンの運転制御を行うシステムである。トランスミッション制御システム54は、シフトポジションセンサ61や車輪速センサ62などの各種センサや、エンジン制御システム53などと連携して、最適なトランスミッションの選択と切り換えなどの制御を行うシステムである。その他、カメラ23と連携したモニタシステムや駐車支援システムを含む運転支援システム55、空気圧センサ64やクリアランスソナー65と連携した安全制御システム(不図示)などのシステムも構築される。
【0029】
図1に示す各種センサ61〜69は、単一のシステムと連携するものではなく、適宜複数のシステムと連携する。また、各種センサ61〜69は、直接CAN50に接続される場合もあれば、各種システム51〜55などを介して接続される場合もある。例えば、車両の車輪の回転量や単位時間当たりの回転数を検出する車輪速センサ62は、ブレーキシステム51に備えられている場合もある。ブレーキシステム51が、ABSや、横滑り防止装置である場合、CAN50を介すことなく直接、車輪速センサ62の検出結果を受け取れば、迅速に各種制御が実行される。つまり、図1に示すシステムやセンサ、及びこれらの接続形態は一例であり、図示の形態に限定されるものではない。
【0030】
保護システム30には、SRSエアバッグを制御するエアバッグ制御システム31や、シートベルトテンショナを制御するシートベルト制御システム32や、アクティブシートを制御するシート制御システム33などが含まれる。シート制御システム33は、通常時には、乗員がシートの姿勢を調整するためのアクティブシートシステムとして機能する。保護システム30として機能する際には、プリクラッシュシートシステムとして機能する。エアバッグ制御システム31は、エアバッグを展開させるアクチュエータ36などを駆動制御する。シートベルト制御システム32は、シートベルトを引き込むアクチュエータ37などを駆動制御する。シート制御システム33は、シートを動かすアクチュエータ38を駆動制御する。それぞれのシステムが駆動制御するアクチュエータは単一に限らず、複数のアクチュエータが制御されてもよい。また、上記は一例であり、保護システム30として、他の機構が備えられていてもよい。
【0031】
エアバッグ制御システム31は、運転席や助手席に設けられたSRSエアバッグを制御するものに限定されるものではない。側突時に対応するためにドアから展開されてドアへの衝突を抑制するサイドエアバッグや、ドアに沿って天井から展開されて窓やピラーへの衝突を抑制するカーテンエアバッグ、膝への衝撃を抑制するためステアリングやグローブボックスの下から展開されるニーエアバッグ、後部座席の乗員同士の衝突を抑制するために天井から後部座席の中央の乗員間の空間に向かって展開される後席センターエアバッグなどを制御するシステムを有していてもよい。
【0032】
アクティブシート(プリクラッシュシート)の一例としては、図3に示すように、所定角度以上に寝た状態となっているシートバック92を引き起こして、シートベルトによる乗員保護効果が最大限に得られる状態とするものがある。ここでは、プリクラッシュシートバックと称する。つまり、シートバック92を正しい位置へ戻すことで、シートベルトによる乗員の拘束力を高め、衝突時の乗員への衝撃を緩和する。保護システム30として機能するプリクラッシュシートでは、一般的なアクティブシートよりも高速な作動が求められる。例えば、1秒当たり10°でシートバック92が引き起こされる。
【0033】
また、アクティブシートの一例として、特に自車両への追突に際して乗員の頭部及び頸部への衝撃を緩和し、むち打ち傷害を軽減するために、図4に示すようにヘッドレスト91の位置を移動させ、乗員の頭部とヘッドレスト91との隙間を詰めるものもある。ここでは、プリクラッシュヘッドレストと称する。ヘッドレスト91の内部に不図示のセンサを内蔵し、このセンサで頭部位置を検出して適切な位置までヘッドレスト91を移動させると好適である。この他、衝突時に乗員が慣性力によってシートベルトの下に潜り込むサブマリン現象を抑制するためにシートクッション93の前方を上昇させてもよい(プリクラッシュシートクッション)。シートクッション93の上昇は、シートクッション93の下にエアバッグを内蔵し、このエアバッグを展開することによって行ってもよい(シートクッションエアバッグ)。また、シートベルトやエアバッグの効果を最大限に引き出すために、シート90の全体を前後にスライドさせてもよい(プリクラッシュシート)。
【0034】
但し、シート90上に乗員が着座していなければアクティブシートの作動は無駄であり、また、乗員の体格などに応じて最適なシート90の姿勢も異なることから、シート制御システム33は、乗員検知センサ41の検出結果を利用すると好適である。乗員検知センサ41は、トーションバー式のものや、圧電センサ式のものが公知である。シートベルト制御システム32やエアバッグ制御システム31も乗員検知センサ41の検出結果を利用して制御を行う。特に、チャイルドシートを用いて子供が乗車している際には、エアバッグを作動させない方が好ましく、乗員検知センサ41の検出結果を利用して乗員判別などが実施されると好適である。また、シートベルト制御システム32は、シートベルトのバックルに設けられた不図示のバックルスイッチの出力に基づいて乗員の有無やシートベルトの使用状態を判定すると好適である。
【0035】
エアバッグ制御システム31をはじめとして、保護システム30の種々のシステムは、その他、バンパ圧力センサ42や、加速度センサ43などの検出結果に基づいて制御を行う。衝突や急制動などによる自車両の急な減速に伴う大きな加速度や、他車両や物体と自車両との衝突によりパンパに加わる圧力などに基づいて衝突などの事象の発生を検出して、その事象に応じた制御を実施する。バンパ圧力センサ42や、加速度センサ43などは、当然ながら、複数搭載されていてもよい。例えば、加速度センサ43は、ドアやピラー、車両中央などに複数配置されていると好適である。複数の加速度センサ43の検出結果は、単独で用いられても良いし、複数の結果を加味して用いられても良いし、他のセンサやレーダなどの検出結果と共に用いられてもよい。
【0036】
プリクラッシュ制御システム20は、実際に衝突などの事象が発生する前に、事象が発生する可能性を予測し、保護システム30やその他のシステムを作動させる。プリクラッシュ制御システム20は、ミリ波レーダ21などにより検出された自車両の近傍の他車両や物体などの情報に基づいて、実際に衝突が発生するよりも前に衝突などの可能性を予測する。そして、その予測に基づいて、保護システム30を作動させる。また、プリクラッシュ制御システム20は、その予測に基づいて、モニタ装置9のスピーカ9cや不図示のブザーなどを介して警報メッセージや警報音によりドライバーに報知してもよい。さらにパワーステアリングシステム52やシート制御システム33と連携して、ステアリングホイールを振動させたり、シート90を振動させたりしてドライバーに報知してもよい。
【0037】
本実施形態においては、ミリ波レーダ21は、車両(自車両)80に複数搭載されている。例えば、車両80の前部には、図5に示すように、直進方向E1及び左右の斜め前方E2,E3を検出範囲Eとする3つのミリ波レーダ21が搭載される。これによって、正面衝突の対象となる他の車両101(他車両100)の他、側突の対象となる他の車両102やオフセット衝突の対象となる他の車両103についても良好に検出することができる。また、車両80の後部には、後方E4を検出範囲Eとするミリ波レーダ21(後方レーダ)も搭載される。これにより、自車両80に対して追突の可能性のある後続の車両104も良好に検出することができる。一例として、ミリ波レーダ21の検知距離は30〜50m、検知角度は30〜40°である。
【0038】
プリクラッシュ制御システム20は、例えば、前方に衝突の可能性があると予測した場合には、ブレーキシステム51を介してブレーキ力を増強させるブレーキアシストを実行する。これにより、前方の他車両や物体に近づく速度が抑制され、衝突の回避や衝突までの時間の確保ができる。また、プリクラッシュ制御システム20は、エンジン制御システム53を介してエンジン回転数を下げたり、トランスミッション制御システム54を介してシフトダウンによりエンジンブレーキを付加させたりしてもよい。
【0039】
また、衝突の可能性が非常に高く、衝突が不可避と判定されるような場合には、シート制御システム33やシートベルト制御システム32に対して駆動指令を発して、シート90を動かしたり、シートベルトテンショナを作動させたりして衝突に備えてもよい。あるいは、プリクラッシュ制御システム20は、衝突が不可避と判定した場合には、ブレーキシステム51を介して緊急ブレーキを作動させてもよい。また、側突などの際には、衝突発生の直前に、サイドエアバッグや、カーテンエアバッグ、後席センターエアバッグなどを作動させ始めてもよい。車両の中央に配置される加速度センサ43は、ドアやピラーなどに配置される加速度センサ43よりも検知時間が長い。ミリ波レーダ21により、衝突前に衝突が不可避なことが検知されるとエアバッグを早いタイミングで展開させることが可能となる。
【0040】
また、プリクラッシュ制御システム20は、例えば、後方から追突の可能性があると予測した場合には、シート制御システム33に対して、ヘッドレスト91の位置調整やシートバック92の引き起こしの準備を開始させる。もちろん、追突の可能性の高さに応じて、ヘッドレスト91の位置調整やシートバック92の引き起こしを実行させる駆動指令を発してもよい。尚、前方及び後方の何れの場合であっても、衝突(追突)の可能性があると判定された際には、モニタ装置9のスピーカ9cやその他の不図示の音響発生装置を介して、警報を発してもよい。ドライバーによる自主的な減速や車線変更などにより、衝突や追突を回避できる場合がある。
【0041】
プリクラッシュ制御準備システム10とプリクラッシュ制御システム20とは、同一のハードウェアを利用して構成され、プログラムなどによって、機能により区分されてもよい。図2に示すように、プリクラッシュ制御準備システム10とプリクラッシュ制御システム20とは、プリクラッシュECU(electronic control unit)1として構成される。プリクラッシュECU1は、CPU(central processing unit)2を中核として、プログラムメモリ3やワークメモリ4、レーダIF(レーダ・インターフェース)回路5、その他不図示の周辺回路などを有して構成される。CPU2は、プログラムメモリ3に格納されたプログラムやパラメータを利用して各種演算処理を実行する。また、CPU2は、必要に応じてワークメモリ4に一時的にデータなどを格納して演算を実行する。ここでは、プログラムメモリ3やワークメモリ4が、CPU2とは別のメモリである例を示しているが、CPU2と同一のパッケージ内に集積されていてもよい。また、本例では、CPU2を中核としたが、DSP(digital signal processor)など、他の論理演算プロセッサや論理回路を中核としてプリクラッシュECU1が構成されてもよい。レーダIF回路5は、ミリ波レーダ21の感度や指向性などを調整したり、ミリ波レーダ21の検出結果を受け取ったりするインターフェース回路である。
【0042】
以下、具体的な例を用いて乗員保護の制御形態について説明する。まず、プリクラッシュ制御準備システム10による制御例について説明する。プリクラッシュ制御準備システム10による処理は、CPU2を中核とするプリクラッシュECU1において実行される。図6は、自車情報と他車情報とに基づいて生成された、ある時刻における自車両80と他車両100との地図上での位置関係を示している。
【0043】
プリクラッシュECU1(自車情報取得部11)は、ナビゲーションシステム8から地図情報及び自車位置情報を取得する。図6において、自車両80は矢頭状に示されており、矢の方向が進行方向である。ナビゲーションシステム8には、乗員によって目的地が設定される。ナビゲーションシステム8は、データベース上に記憶された一般道路や高速道路などの道路種別や車線数などの道路属性情報、光ビーコンやFMラジオ放送などから取得した渋滞や工事などの道路状況、ユーザにより設定された時間や通行料金などに応じた演算条件などに基づいて、設定された目的地までの経路を演算する。この経路は、ルート情報Rとしてナビゲーションシステム8からプリクラッシュ制御準備システム10に伝達される。図6において、自車両80から道路に沿って描かれた破線Rは、ナビゲーションシステム8によって設定されたルート情報を示している。
【0044】
図6において黒点105〜112は他車両100を示し、矢印は各他車両100の進行方向を示している。つまり、図6に示された他車両105〜112は、自車両80との車車間通信が成立した他車両100である。車車間通信システム7は、他車両100と車車間通信を行い、少なくとも他車両100の位置情報や識別情報(ID情報)を含む他車情報を受け取る。連続して通信が成立すれば、位置情報の変化から進行方向や速度を演算することも可能であるが、車車間通信でこれらの情報も得ることができると好適である。プリクラッシュECU1(他車情報取得部12)は、車車間通信システム7より、このような他車情報を取得する。尚、他車両100がナビゲーションシステムを搭載している場合には、他車情報としてさらに他車両100の目的地やルート情報などのナビゲーション情報を取得してもよい。
【0045】
上述したようにして、地図情報、自車位置情報、ルート情報、他車位置情報などを取得することによって、図6に示すような自車両80と他車両100との相関関係が地図上に定義される。これは、必ずしもイメージデータとして形成される必要はなく、例えばワークメモリ4上などにおいて、データとして存在すれば充分である。図6を参照すれば、自車両80のルートR上に交差点A,B,C,D,Eが存在する。例えば、先に自車両80が到達する交差点の順に、交差点における衝突条件が演算される。ここで、衝突条件とは、自車両80と他車両100とによる衝突が発生する可能性や、時期、衝突の形態などである。尚、本実施形態では、説明を容易にするために、便宜的に交差点における衝突を例として説明するが、後続車による追突や、対向車線からのはみ出しなど、交差点外における衝突条件も演算されることを妨げるものではない。
【0046】
図7は、交差点Aにおける衝突の可能性を演算した結果を模式的に示す図である。例えば、側道から本線へ合流しようとしている他車両106が減速することなく本線へ流入するとする。図7に示すように、本線上を直進する自車両80と他車両106とは、概ね同時刻にルートR上の概ね同一地点に存在する可能性があると演算される。他車両106と自車両80とがほぼ同時刻に交差点Aに到達した場合には、自車両80に対して側突される可能性がある(パターンa)。また、若干、他車両106が交差点Aに早く到達した場合には、自車両80が他車両106に追突する可能性がある(パターンb)。逆に、若干、自車両80が交差点Aに早く到達した場合には、他車両106が自車両80に追突する可能性がある(パターンc)。
【0047】
このように(a)〜(c)の衝突条件が考えられる。このような衝突条件に対応し、これを回避するためには、実際の他車両106の動向を早期に検知することが望ましい。そこで、プリクラッシュ制御準備システム10の作動準備部14は、プリクラッシュ制御システム20に対して、左前方の監視の強化を指示する。これを受けたプリクラッシュ制御システム20は、左前方の範囲E2を検知範囲とするミリ波レーダ21の感度を上げたり、検知情報を取得する間隔を短くしたりするべく、レーダ感度調整指令#1を発する(図2参照)。具体的には、「左・正面・右・左・・・」の順にミリ波レーダ21の検知情報を取得していたとすれば、「左・正面・左・右・左・・・」と、左前方の検知情報を得る回数を増やすような処理も含まれる。つまり、指向性の調整を含め、ミリ波レーダ21による他車両100の検知能力の調整(向上)が指示される。
【0048】
また、作動準備部14は、ドライバーが回避行動を取り易くするためにブレーキシステム51に対してブレーキアシストの準備指令を発してもよい。この指令は、プリクラッシュ制御システム20を介してブレーキシステム51に伝達してもよい。本実施形態のように、同一のCPU2を中核としてプリクラッシュ制御準備システム10とプリクラッシュ制御システム20とが構築されている場合には、何れであっても問題ないことは明らかである。尚、この例のように、複数のパターンが考えられる場合には、それぞれの発生する可能性(確率)を演算し、その可能性に応じた順に作動準備の指令が発せられると好適である。
【0049】
さらに、万が一、衝突が発生してしまった場合に備えて、エアバッグやシートベルトテンショナ、シートバック92を作動させるための準備指令#32、#34、#36が発せられる。これらの準備指令により、例えば、アクチュエータの電源を投入して、作動指令を受けた後に遅滞なく作動可能としたり、機械的なクリアランスを詰めておいて作動指令を受けた後に最短で目標位置へ到達させたりする準備が実行される。
【0050】
図8は、交差点Bにおける衝突の可能性を演算した結果を模式的に示す図である。他車両108が通常の速度で走行していれば、自車両80が交差点Bに到達するまでに他車両108は交差点Bを通過することになる。但し、他車両108が減速した場合には、交差点Bにおいて自車両80と衝突する可能性がある。例えば、交差点Bが信号の無い交差点であり、他車両108が減速して通過するような場合に、自車両80が他車両108に衝突する可能性がある。そこで、作動準備部14は、プリクラッシュ制御システム20に対して、左前方及び正面の監視の強化を指示する。これを受けたプリクラッシュ制御システム20は、正面の範囲E1及び左側方の範囲E2を検知範囲とするミリ波レーダ21の感度を上げたり、検知情報を取得する間隔を短くしたりするべく、レーダ感度調整指令#1を発する。
【0051】
図9は、交差点Cにおける衝突の可能性を演算した結果を模式的に示す図である。自車両80は、交差点Cにおいて右折することになる。従って、減速すると共に、対向車が存在した場合には一時停車する可能性がある。図6を参照すれば、自車両80の後方に他車両105が存在する。交差点Cにおいて、自車両80に追いついた他車両105は、自車両80に追突する可能性がある。そこで、作動準備部14は、プリクラッシュ制御システム20に対して、後方の監視の強化を指示する。これを受けたプリクラッシュ制御システム20は、後方E4を検知範囲とするミリ波レーダ21の感度を上げたり、検知情報を取得する間隔を短くしたりするべく、レーダ感度調整指令#1を発する。また、追突される場合に備えて、ヘッドレスト91を作動させるための準備指令#38が発せされる。この準備指令により、例えば、アクチュエータの電源を投入して、作動指令を受けた後に遅滞なく作動可能としたり、機械的なクリアランスを詰めておいて作動指令を受けた後に最短で目標位置へ到達させたりする準備が実行される。
【0052】
本例では、一時停車した場合に追突されるという衝突条件を例示したが、後続車が自車両80よりも非常に高速で接近する場合や、渋滞等で自車両80が減速した場合に後続車との車間距離が縮まる場合もあり得る。追突に限らず、上述した種々の衝突形態を含む衝突条件は、本実施形態において例示した範囲に限定されるものではない。また、衝突条件の演算に際しては、他車両100が接近する方向、速度なども加味される。さらに、エアバッグの展開速度や、シート90の各部の位置や姿勢に応じた変更時間なども加味されると好適である。
【0053】
このように、作動準備部14により、衝突に備えた準備が整えられる。図10を利用して、乗員保護システムの一連の制御フローについて整理しておく。図10において、横軸は、衝突予測時間TTC(time to collision)を示している。つまり、衝突発生時刻をゼロ(t0)として、衝突前の時間を定義している。例えば、衝突発生の直前の時刻t10は、「衝突の可能性が非常に高い時点」であり、「衝突不可避な時点」である。例えば、衝突発生の0.5〜1秒前である。時刻t10よりも前の時刻t20は、「衝突の可能性が高い時点」であり、衝突が回避できる可能性もある時刻である。例えば、衝突発生の1〜1.5秒前である。時刻t20よりもさらに前の時刻t30は、「衝突の可能性がある時点」であり、ドライバーの運転操作により衝突の回避も可能な時刻である。例えば、衝突発生の2〜3秒前である。時刻t30よりもさらに前の時刻t40は、「衝突対象となる車両が存在すると判定された時点」であり、換言すれば、「衝突条件が成立すると判定された時点」である。例えば、衝突発生の3〜5秒前であると好適である。
【0054】
ここで、衝突発生時刻t0の他、時刻t10を衝突前第1時刻、時刻t20を衝突前第2時刻、時刻t30を衝突前第3時刻、時刻t40を衝突前第4時刻と定義する。乗員保護システムには、プリクラッシュ制御準備システム10、プリクラッシュ制御システム20、保護システム30が含まれ、これらの中にさらに複数のシステムが含まれる。これら複数のシステムには、上記それぞれの時刻において中核となるシステムがある。衝突発生時刻t0、衝突前第1時刻t10、衝突前第2時刻t20、衝突前第3時刻t30、衝突前第4時刻t40に対応して、それぞれ、最終作動システム、第1システム、第2システム、第3システム、第4システムと定義する。衝突軽減システム40としてのプリクラッシュ制御システム20及び保護システム30には、この内、最終作動システム、第1システム、第2システム、第3システムが含まれる。
【0055】
最終作動システムは、衝突発生時刻t0の後、即ち衝突発生後に作動するシステムである。例えば、運転席や助手席に設置されるSRSエアバッグを制御するエアバッグシステム31が最終作動システムに相当する。図10では、最終作動システムの作動例として、「エアバッグ展開」を例示している。
【0056】
第1システムは、衝突発生前であって衝突が不可避であると判定される衝突前第1時刻t10で作動するシステムである。例えば、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグ、後席センターエアバッグなどを制御するエアバッグシステム31が第1システムに相当する。また、シートベルトテンショナを制御するシートベルト制御システム32や、シート90の各部(例えばヘッドレスト91)を制御するシート制御システム33、緊急ブレーキとして機能するブレーキシステム51も第1システムに相当する。尚、第1システムには、最終作動システムとして作動するエアバッグの展開の準備を行うエアバッグシステム31も含まれる。また、ミリ波レーダ21の検知結果に応じて、図2に示すように、運転席や助手席のエアバッグ準備指令#32や、サイドエアバッグなどのエアバッグ展開指令#31、シートベルトテンショナ作動指令#33、ヘッドレスト姿勢変更指令#37を発するプリクラッシュ制御システム20も第1システムに含まれる。図10では、第1システムの作動例として、「シートベルトテンショナの作動」と「エアバッグ展開準備」とを例示している。
【0057】
第2システムは、衝突前第1時刻t10より前であって衝突の可能性が高いと判定される衝突前第2時刻t20で作動するシステムである。例えば、ブレーキの油圧を高めるブレーキアシストを実行するブレーキシステム51や、シート90の各部(例えばシートバック92)を制御するシート制御システム33などが第2システムに相当する。尚、第2システムには、最終作動システムや第1システムとして作動する種々のエアバッグの展開の準備を行うエアバッグシステム31や、シート90の各部(例えばヘッドレスト91)の作動の準備を行うシート制御システム33、油圧を上げるためのポンプを駆動するなど緊急ブレーキの準備を行うブレーキシステム51も含まれる。また、ミリ波レーダ21の検知結果に応じて、図2に示すように、エアバッグ準備指令#32やシートベルトテンショナ準備指令#34、ヘッドレスト姿勢変更準備指令#38、シートバック指令変更指令#35などを発するプリクラッシュ制御システム20も第2システムに相当する。図10では、第2システムの作動例として、「ブレーキアシスト」を例示している。
【0058】
第3システムは、衝突前第2時刻t20より前であって衝突の可能性が有ると判定される衝突前第3時刻t30で作動するシステムである。例えば、モニタ装置9のスピーカ9cやその他の不図示の音響発生装置を介して、警報を発するプリクラッシュ制御システム20や、ステアリングホイールを振動させたりシート90を振動させたりしてドライバーに報知するパワーステアリングシステム52やシート制御システム33が第3システムに相当する。また、ミリ波レーダ21の検知結果に応じて、図2に示すように、シートバック姿勢変更準備指令#36を発するプリクラッシュ制御システム20も第3システムに含めてよい。図10では、第3システムの作動例として、「衝突警報」を例示している。
【0059】
第4システムは、衝突前第3時刻t30よりも前(例えば衝突前第4時刻t40)に、衝突被害軽減システム40の作動を準備させるシステムである。つまり、プリクラッシュ制御準備システム10、特に作動準備部14が第4システムに相当する。プリクラッシュ制御準備システム10は、図2に示すように、例えばプリクラッシュ制御システム20を介してミリ波レーダ21の感度を調整するためのレーダ感度調整指令#1や、加速度センサ43などの各種センサの感度を調整するためにセンサ感度調整指令#2を発する。また、プリクラッシュ制御システム20を介して、エアバッグ準備指令#32や、シートベルトテンショナ準備指令#34、シートバック姿勢変更準備指令#36、ヘッドレスト姿勢変更準備指令#38を発してもよい。図10では、第4システムの作動例として、「シートベルトテンショナ準備指令」、「エアバッグ準備指令」、「レーダ感度調整指令」を例示している。
【0060】
以上説明したように、プリクラッシュ制御準備システム10を有する本発明によれば、プリクラッシュ制御システム20と保護システム30とを有して衝突の発生前から衝突時の広い期間に亘って実現されるプリクラッシュセーフティシステムをさらに早期からの対応に拡張することが可能である。本発明によれば、衝突の発生する条件(可能性を含む)を早期に且つ詳細に検証することによって、衝突の事前検知の精度も向上する。ここで、自車情報と他車情報とにより演算された衝突条件を利用すれば、衝突前第3時刻t30よりも前であっても、衝突軽減システム40を作動させて、警報を行ったり、シート90の一部を動かしたりすることが可能である。但し、衝突前第3時刻t30よりも前では、ドライバーが通常の運転操作で自然と衝突条件を解消してしまうことも多いと考えられる。このため、シート90やシートベルト、警報装置などの衝突軽減システム40が無駄に作動して、ドライバーをはじめとする乗員に煩わしさを覚えさせる可能性がある。
【0061】
例えば、警報の場合であっても、車車間通信や、路車間通信、車路車間通信などで得られた他車情報に基づいて演算された衝突条件にのみ従うとすれば、レーダやカメラの視野の範囲外の車両との衝突が報知されることになる。上述したように、市街地における車車間通信の範囲が約90m、ミリ波レーダ21の検知範囲が30〜50mであるから、このようなケースも発生し得る。当然ながら、この際に衝突の対象となる他車両100は、ドライバーの視野にも入らないので、ドライバーがその警報を信用しないことも考えられる。しかし、本発明によれば、自車情報と他車情報とにより演算された衝突条件に基づいて、衝突軽減システム40の作動が準備されるものの、衝突軽減システム40は作動しないので上述したような煩わしさなどを与えることはない。また、単に他車情報と自車両80の位置情報とだけによって衝突条件が演算されるのではなく、ルート情報Rを用いて自車両80が走行する経路も加味して衝突条件が演算される。従って、衝突条件の演算精度も高くなり、無駄に衝突軽減システム40が準備されることもない。
【0062】
このように、本発明によれば、早期に衝突が発生する条件や可能性を把握し、過度な予備作動を抑制しつつ、衝突発生の際には迅速に機能して乗員を保護することが可能な車両用乗員保護システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
R:ルート情報
11:自車情報取得部
12:他車情報取得部
13:衝突条件演算部
14:作動準備部
20:プリクラッシュ制御システム(衝突被害軽減システム)
30:保護システム(衝突被害軽減システム)
40:衝突被害軽減システム
80:自車両
100:他車両
t0:衝突発生時刻
t10:衝突前第1時刻
t20:衝突前第2時刻
t30:衝突前第3時刻
t40:衝突前第4時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が目的地へ向かうルート情報を含む自車情報を取得する自車情報取得部と、
他車両と前記自車両との間の車車間通信により受信され、前記他車両の位置情報を含む他車情報を取得する他車情報取得部と、
前記自車情報と前記他車情報とに基づいて、前記自車両と前記他車両との衝突条件を演算する衝突条件演算部と、
前記衝突条件に応じて、前記自車両の衝突に際して乗員の衝突被害を軽減する衝突被害軽減システムの内、前記衝突条件に対応する衝突被害を軽減可能なシステムの作動を準備させる作動準備部と、
を備える車両用乗員保護システム。
【請求項2】
前記衝突条件は、前記衝突条件が成立する可能性及び衝突形態を含む請求項1に記載の車両用乗員保護システム。
【請求項3】
前記衝突被害軽減システムは、前記他車両を検出して衝突の可能性を判定するプリクラッシュ制御システムと、実際の衝突に際して前記乗員の身体を保護する保護システムとを有し、
前記作動準備部は、前記プリクラッシュ制御システムに対して、前記他車両を検出する感度を調整させる請求項1又は2に記載の車両用乗員保護システム。
【請求項4】
前記衝突被害軽減システムは、前記他車両を検出して衝突の可能性を判定するプリクラッシュ制御システムと、実際の衝突に際して前記乗員の身体を保護する保護システムとを有し、
前記作動準備部は、前記保護システムに対して、衝突に際して最速で所定の作動を完了可能な状態まで準備させる請求項1〜3の何れか一項に記載の車両用乗員保護システム。
【請求項5】
前記衝突被害軽減システムは、衝突発生後に作動する最終作動システムと、衝突発生前であって衝突が不可避であると判定される衝突前第1時刻で作動する第1システムと、前記衝突前第1時刻より前であって衝突の可能性が高いと判定される衝突前第2時刻で作動する第2システムと、前記衝突前第2時刻より前であって衝突の可能性が有ると判定される衝突前第3時刻で作動する第3システムとを有し、
第4システムとして機能する前記作動準備部は、前記衝突前第3時刻よりも前に、前記衝突被害軽減システムの作動を準備させる請求項1〜4の何れか一項に記載の車両用乗員保護システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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