説明

車両用交流発電機の駆動方法

【課題】コストの増大や組付作業性の悪化を防止することができる車両用交流発電機の駆動方法を提供すること。
【解決手段】原動機から駆動力が伝達される駆動軸11に取り付けられた原動機側連結部材としてのカプラ110と、車両用交流発電機1のシャフト20に取り付けられた発電機側連結部材としてのヨークプーリ9とを備え、カプラ110とヨークプーリ9とを連結することにより、原動機からの駆動力を駆動軸11を介して車両用交流発電機1に伝達する。カプラ110とヨークプーリ9をそれぞれの中心軸の偏倚量が常に0にならないように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載された車両用交流発電機の駆動方法に関し、特に原動機とヨークプーリ等のカップリングで軸結合して駆動する車両用交流発電機の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用交流発電機(オルタネータ)は、原動機から動力を得て発電を行い、バッテリへの充電を行うとともに、原動機の点火、車内外照明、車内空調、音響機器、その他の各種電装品へ電源供給を行うものである。近年、自動車の快適性向上のためのデバイスや、排出ガス規制に代表される各種法規制へ対応するためのデバイスのエンジンへの装着・エンジンルーム内への配置が増加傾向にある。一方、衝突安全性を確保する手段としてエンジンルーム内には、衝撃を吸収するために、ある一定の空間を確保するよう設計される傾向がある。その結果、エンジンルーム内の機器は、集積度を高めて配置・装着することになる。エンジンへ装着される補機も例外ではなく、とりわけオルタネータは他の補機に対して比較的小さいこと、エンジン・ボディとの接続配線はフレキシブルなワイヤ類であることから、他の補機類に対して比較的配置の自由度は高いと考えられる。従って、エンジンルームの奥まった隙間へオルタネータを装着して、軸駆動で使用する場合がある。しかしながら、この駆動方式において、エンジン側駆動軸とオルタネータ軸とは一般的には同軸になるように配設されるため、オルタネータのロータを回転自在に支承しているベアリングのラジアル荷重が極端に小さくなる。その結果、オルタネータ使用中に、ベアリングの転動体滑りに伴う転走面の油膜切れからベアリング焼き付き故障に至る場合や、ハウジング側ベアリング保持部とベアリング外輪との間でクリープが発生し、ベアリング保持部が磨耗するなどの弊害が起きる。転動体滑り対策としては、ベアリングの外輪を局部的にわずかに変形させて、外輪または内輪が1回転する間に複数個の隙間狭小部を設け、ボールがその隙間狭小部を通過する際に転動体自身の自転を喚起する構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、ベアリング保持部のクリープ磨耗対策としては、ベアリングの外輪に設けた溝へ、樹脂やバネといった弾性体を具備し、ベアリング外輪と保持部間で弾性体の突っ張りによる係止作用で、ベアリング外輪の回転を抑止して、クリープ磨耗を防止する構造が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2001―27246号公報(第2−5頁、図1−8)
【特許文献2】特開平11―294469号公報(第2−3頁、図1−6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された構造では、ベアリングの焼き付き防止のためにベアリングの内輪または外輪の変形度合、即ち狭小隙間を適切な値に保持するために、各部品の出来栄えを相当精度よく管理する必要があり、その加工の難しさも相まってベアリングのコストが大幅に増大するという問題があった。また、狭小隙間は当然ながらベアリング温度変化によって遷移するので、外部要因(使用温度や発電量、回転数など)によって時々刻々温度が変化するオルタネータでは十分な効果が期待できないことになる。
【0005】
また、特許文献2に開示された構造では、ベアリングのクリープ防止のためにベアリングの構造が複雑になり、ベアリング自体が高価なうえ、製品組立の際には外輪に装着した弾性体が障害となって、保持部へのベアリング挿入の作業性が大幅に悪化し、組立工数増加を招き、ひいてはコスト上昇の要因となるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、ベアリングの焼き付きやクリープ発生を防止するとともにコストの増大や組付作業性の悪化を防止することができる車両用交流発電機の駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の車両用交流発電機の駆動方法は、原動機から駆動力が伝達される駆動軸に取り付けられた原動機側連結部材と、車両用交流発電機の回転軸に取り付けられた発電機側連結部材とを備え、原動機側連結部材と発電機側連結部材とを連結することにより、原動機からの駆動力を駆動軸を介して車両用交流発電機に伝達するものであり、原動機側連結部材と発電機側連結部材をそれぞれの中心軸の偏倚量が常に0にならないように配置している。具体的には、上述した原動機側連結部材および発電機側連結部材の少なくとも一方には、それぞれの中心軸の偏倚に伴って変形する弾性体が含まれており、弾性体の変形によって生じるラジアル荷重が発電機側連結部材を介して回転軸を回転可能に保持するベアリングに印加されることが望ましい。これにより、車両用交流発電機の回転軸を回転可能に保持するベアリングに一方向のラジアル荷重を印加することが可能になり、回転時にベアリングに印加される荷重が0になることを防止することができ、ベアリングの焼き付きやクリープの発生を防止することが可能になる。また、ベアリングの加工精度を特に向上させる必要がなく、外輪に弾性体を装着する必要もないため、製造コストの増大や組付作業性が悪化することもない。
【0008】
また、上述した原動機側連結部材と発電機側連結部材のそれぞれの中心軸の偏倚量は、ベアリングに変動荷重が印加されたときに、この変動荷重とラジアル荷重を合成した荷重が一方向からベアリングに印加される値に設定されることが望ましい。使用する弾性体の特性等を考慮して偏倚量をこのように設定することにより、ベアリングに印加される荷重が常に0にならないようにすることができ、ベアリングの焼き付き、クリープ発生、製造コスト増大および組付作業性悪化を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を適用した一実施形態の車両用交流発電機(以後「オルタネータ」と称す)について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1は、一実施形態のオルタネータの全体構造を示す部分断面図であり、一例として冷却ファンを内蔵するオルタネータの構造が示されている。図1に示すオルタネータ1は、ロータ2、ステータ3、ブラシ装置4、整流装置5、ICレギュレータ6、ドライブフレーム7、リアフレーム8、ヨークプーリ9、リアカバー10等を含んで構成される。ロータ2のシャフト(回転軸)21は、両端近傍に配置されたベアリング22、23によって回転可能に支持されている。
【0011】
図2は、駆動軸11とオルタネータ1側のヨークプーリ9との結合状態を示す断面図である。ヨークプーリ9は、ロータ2のシャフト21にナット20を用いて締め付け固定される第1の筒部90と、駆動軸11の先端に設けられたカプラ110の内周側に嵌合する第2の筒部92と、第1および第2の筒部90、92の間を連結するラバー等で形成された環状の弾性体91とによって構成されている。ヨークプーリ9が発電機側連結部材に、カプラ110が原動機側連結部材にそれぞれ対応する。
【0012】
本実施形態では、カプラ110の回転中心(駆動軸11)とヨークプーリ9の回転中心(シャフト21の中心軸)は、所定量δ(δ>0)だけ偏倚して組み立てられている。このため、ヨークプーリ9に具備された弾性体91は、図2に示すa部では圧縮、b部では引張状態となり、弾性体91の特性によって得られる反発力fがヨークプーリ9へ印加されている。
【0013】
図3は、弾性体を含まない従来構造のヨークプーリを用いた駆動軸11とヨークプーリ9’との結合状態を示す断面図である。図3に示すように、従来の軸駆動方式においては、駆動軸11側のカプラ110とヨークプーリ9’の先端フランジ98との偏倚量δが0になるように組み付けられており、当然ながら、ヨークプーリ9’へはラジアル方向の外力fは印加されていない。
【0014】
図4は、従来の一般的なオルタネータの駆動方式であるベルトを用いた駆動状態を示す図である。ベルトを用いた従来の駆動方式は、ベルト12が所定のベルトテンションTを保った状態で、図示しないクランクプーリやアイドラー、その他の機器等と連動するようにVプーリ13へ掛けられている。このベルト12によってVプーリ13へは荷重fが図示のように加わり、この荷重fによって発生する一方向の荷重が、シャフト21を介して第一ベアリング22、第二ベアリング23へ伝達、印加されている。
【0015】
図5は、オルタネータに備わった2つのベアリング22、23に印加される荷重を模式的に示す図であり、ヨークプーリ9を用いた本実施形態の軸駆動方式と図3に示した偏倚量δを0にした従来の軸駆動方式や図4に示した従来のベルト駆動方式との違いが示されている。図5の上段には各ベアリングに印加される静荷重Psが、中段には変動荷重Pfが、下段には静荷重Psと変動荷重Pfとを合成した総動荷重Poがそれぞれ示されている。
【0016】
各ベアリング22、23に印加される静荷重Psは、ヨークプーリ等に加わる外力fに依存し、ベルト駆動方式と軸駆動方式とでは図5の上段に示すような傾向を示す。すなわち、ベルト駆動方式は最も高い静荷重を示し、従来の軸駆動方式では偏倚量δが0であるから静荷重Psは0となり、本実施形態による軸駆動方式(δ>0)における静荷重はそれぞれの中間値に設定してある。また、ロータ2によって生じる変動荷重Pfは、ロータ2の質量(m)に加わる振動(g)で決まるP1と、ロータ2の回転アンバランス量によって回転数に依存して増減する荷重P2とで決まり、例えば図5の中段に示すように変動する。
【0017】
ベアリング22、23に加わる総動荷重Poは、静荷重Psと変動荷重Pfとの合成となり、図5の下段のように表される。すなわち、ベルト駆動方式では、常に一定方向の総動荷重Poが確保できるのに対して、従来の軸駆動方式では変動荷重Pfの影響を受け、ある瞬間tでは、ベアリング荷重が0になったり、荷重の向きが逆転したりすることになる。したがって、第一ベアリング22、第二ベアリング23ともに適正なラジアル荷重が保持されず、第一ベアリング22内の転動体滑りに伴うグリース切れによる焼き付き発生や、第二ベアリング23の荷重方向が回転変化することに伴うリア側ベアリング保持部81のクリープ磨耗が懸念される。
【0018】
しかし、本実施形態の軸駆動方式であれば、変動荷重Pfを打ち消す以上の静荷重Psを付与しているので、総動荷重Poは、ベルト駆動方式と同様に常に一定方向の値を維持することができ、前述の懸念点であるボール滑りに伴うグリース切れに起因する早期の焼き付きや、ベアリング保持部81のクリープ磨耗といった現象を防止することができる。
【0019】
図6は、ダンパー用ラバーの反発力特性を示す図である。この特性に従い、このダンパー用ラバーを用いたヨークプーリ9を、図6に示す偏倚量δ設定範囲で使用することにより、弾性体91の反発力fは、ヨークプーリ9、シャフト21を介して、第一ベアリング22および第二ベアリング23へ伝達、印加されて、第一ベアリング22と第二ベアリング23に対して常に0にならない適正なラジアル荷重を付与することが可能となる。
【0020】
このように、本実施形態のオルタネータ1の駆動方法では、オルタネータ1のシャフト21を回転可能に保持するベアリング22、23に一方向のラジアル荷重を印加することが可能になり、回転時にベアリング22、23に印加される荷重(総動荷重)が0になることを防止することができ、ベアリング22、23の焼き付きやベアリング保持部81のクリープの発生を防止することが可能になる。また、ベアリング22、23の加工精度を特に向上させる必要がなく、外輪に弾性体を装着する必要もないため、製造コストの増大や組付作業性が悪化することもない。
【0021】
また、偏倚量δを、ベアリング22、23に変動荷重が印加されたときに、この変動荷重と偏倚量δにともなって生じるラジアル荷重とを合成した総動荷重が一方向から常にベアリング22、23に印加される値に設定している。使用する弾性体91の特性等を考慮して偏倚量δをこのように設定することにより、ベアリング22、23に印加される総動荷重が常に0にならないようにすることができ、ベアリング22、23の焼き付き、クリープ発生、製造コスト増大および組付作業性悪化を確実に防止することができる。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態では、ヨークプーリ9側に弾性体91を含ませたが、駆動軸11側のカプラ110に同じような弾性体を含ませるようにしてもよい。あるいは、ヨークプーリ9とカプラ110の両方に弾性体を含ませるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一実施形態のオルタネータの全体構造を示す断面図である。
【図2】本実施形態における駆動軸とオルタネータ側のヨークプーリとの結合状態を示す断面図である。
【図3】弾性体を含まない従来構造のヨークプーリを用いた駆動軸とヨークプーリとの結合状態を示す断面図である。
【図4】従来の一般的なオルタネータの駆動方式であるベルトを用いた駆動状態を示す図である。
【図5】オルタネータに備わった2つのベアリングに印加される荷重を模式的に示す図である。
【図6】ダンパー用ラバーの反発力特性を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 オルタネータ(車両用交流発電機)
2 ロータ
20 ナット
21 シャフト
22 第一ベアリング
23 第二ベアリング
24 転動体
3 ステータ
4 ブラシ装置
5 整流装置
6 ICレギュレータ
7 ドライブフレーム
8 リアフレーム
81 ベアリング保持部
9 ヨークプーリ
90 第1の筒部
91 弾性体
92 第2の筒部
98 先端フランジ
10 リアカバー
11 駆動軸
110 カプラ
12 ベルト
13 Vプーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機から駆動力が伝達される駆動軸に取り付けられた原動機側連結部材と、車両用交流発電機の回転軸に取り付けられた発電機側連結部材とを備え、前記原動機側連結部材と前記発電機側連結部材とを連結することにより、前記原動機からの駆動力を前記駆動軸を介して前記車両用交流発電機に伝達する車両用交流発電機の駆動方法において、
前記原動機側連結部材と前記発電機側連結部材をそれぞれの中心軸の偏倚量が常に0にならないように配置することを特徴とする車両用交流発電機の駆動方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記原動機側連結部材および前記発電機側連結部材の少なくとも一方には、それぞれの中心軸の偏倚に伴って変形する弾性体が含まれており、前記弾性体の変形によって生じるラジアル荷重が前記発電機側連結部材を介して前記回転軸を回転可能に保持するベアリングに印加されることを特徴とする車両用交流発電機の駆動方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記原動機側連結部材と前記発電機側連結部材のそれぞれの中心軸の偏倚量は、前記ベアリングに変動荷重が印加されたときに、この変動荷重と前記ラジアル荷重を合成した荷重が一方向から前記ベアリングに印加される値に設定されることを特徴とする車両用交流発電機の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−228689(P2007−228689A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45364(P2006−45364)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】